目次
Koolen-De Vries症候群とは?
症状・原因・診断・遺伝を臨床遺伝専門医が解説
Q. Koolen-De Vries症候群とはどのような病気ですか?
A. 17番染色体(17q21.31)の微小欠失またはKANSL1遺伝子の変異によって生じる遺伝性疾患です。
特徴的な顔貌、筋緊張低下、知的障害に加え、「Amiable(人懐っこい)」と表現される友好的な性格が特徴です。てんかんや心疾患などの合併症を伴うことがあります。
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➤原因 → KANSL1遺伝子の機能喪失(17q21.31微小欠失が約95%)
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➤主要症状 → 全体的な発達遅滞(言語障害が顕著)、筋緊張低下、てんかん(約33-50%)
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➤行動特性 → 明るく友好的な性格、協調性が高い
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➤診断方法 → 染色体マイクロアレイ検査(CMA)が第一選択
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➤頻度 → 約1/16,000〜1/55,000(新生突然変異が大部分)
1. Koolen-De Vries症候群(KdVS)とは|基本情報
【結論】 Koolen-De Vries症候群(クーレン・デ・フリース症候群)は、17番染色体長腕(17q21.31)の微小欠失またはKANSL1遺伝子の機能喪失によって引き起こされる多系統疾患です。かつては「17q21.31微小欠失症候群」と呼ばれていましたが、現在は原因遺伝子にちなんだ名称も用いられます。
この症候群は、発達遅滞、筋緊張低下、特徴的な顔貌、そして友好的な性格を特徴とします。希少疾患ではありますが、遺伝子解析技術の進歩により診断されるケースが増えています。
図:17番染色体長腕(17q21.31)の位置
Koolen-De Vries症候群の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 疾患名 | Koolen-De Vries症候群(KdVS) (旧名:17q21.31微小欠失症候群) |
| OMIM番号 | #610443 |
| 原因 | 17q21.31微小欠失(約500-650kb) または KANSL1遺伝子変異 |
| 頻度 | 推定 1/16,000 〜 1/55,000 |
| 遺伝形式 | 常染色体優性(顕性)遺伝 ※ただし大部分は新生突然変異(de novo) |
2. Koolen-De Vries症候群の主な症状
【結論】 KdVSは多系統に影響を及ぼしますが、中核となるのは知的障害(100%)、言語発達遅滞(100%)、筋緊張低下(85%)です。これに加え、てんかんや心疾患、泌尿器系の異常が合併することがあります。
グラフ:KdVSの主要症状の有病率(言語発達遅滞と知的障害は全例に見られます)
神経発達・行動面の特徴
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知的障害(ID):軽度〜中等度(IQ 50-70程度)が大半ですが、個人差があります。
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言語障害:特に表出言語(話すこと)の遅れが顕著です。口腔運動失行(口の動かし方の不器用さ)を伴うことが多く、初語は平均2.5〜3.5歳です。
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筋緊張低下:乳児期の「フロッピーインファント」として気づかれることが多く、哺乳困難や運動発達の遅れ(独歩平均2〜3歳)につながります。
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性格特性:「Amiable(人に好かれる)」と記述される、明るく友好的で協調性が高い性格が特徴です。一方で、不安やADHD、ASD様の特性を併せ持つこともあります。
身体的特徴・顔貌
顔つきは年齢とともに変化しますが、特徴的な「ゲシュタルト(全体的な印象)」を形成します。
- ➤顔の形:面長(Long face)、広く高い前額部。
- ➤鼻:洋梨状の鼻(Pear-shaped nose)。鼻根部が高く、鼻先が球状で太いのが特徴です。
- ➤目:眼裂斜上(つり目)、眼瞼下垂。
- ➤耳:大きく突出した耳。
合併症
| 合併症 | 頻度 | 詳細 |
|---|---|---|
| てんかん | 33-50% | 焦点性発作が多い。乳児期〜学童期早期に発症。 |
| 心疾患 | 25-50% | 心房中隔欠損(ASD)、心室中隔欠損(VSD)、肺動脈弁狭窄など。 |
| 腎・泌尿器 | 25-50% | 水腎症など。停留精巣(男性の約71%)は高頻度。 |
| 骨格系 | – | 関節過伸展(幼少期)、側弯症(成人期に増加)。 |
3. 原因と遺伝子|KANSL1とハプロ不全
【結論】 KdVSの本質的な原因は、17番染色体にあるKANSL1遺伝子の機能が半分になること(ハプロ不全)です。この遺伝子は、体の広範な遺伝子制御に関わる重要な役割を持っています。
図:17q21.31欠失またはKANSL1変異がKdVSを引き起こすメカニズム
KANSL1遺伝子の役割
KANSL1遺伝子は、NSL複合体というタンパク質グループの一員です。この複合体は「ヒストンアセチル化」という作用を通じて、DNAのクロマチン構造を緩め、多くの遺伝子のスイッチをONにする(転写を活性化する)役割を持っています。
つまり、KANSL1が不足すると、神経発生や臓器形成に必要な他の多くの遺伝子がうまく働かなくなり、全身に症状が現れます。
💡 最新研究:繊毛機能不全(Ciliopathy)としての側面
近年の研究で、KANSL1は細胞の「繊毛(アンテナのような器官)」の機能にも関わっていることが分かってきました。心疾患や腎奇形などの合併症は、この繊毛機能の異常が関与している可能性が示唆されています。
ほとんどは「新生突然変異(de novo)」
KdVSの患者さんのほとんどは、両親から遺伝したのではなく、新生突然変異(de novo)によって発症します。つまり、受精卵ができる過程で偶然に17q21.31領域の欠失やKANSL1の変異が起きたものであり、ご両親のせいで起きたわけではありません。
4. 診断方法|確定診断へのアプローチ
【結論】 特徴的な顔貌や症状から疑われますが、確定診断には遺伝学的検査が必須です。通常の染色体検査(G分染法)では微小欠失を検出できないため、特殊な検査が必要です。
| 検査方法 | 特徴と役割 |
|---|---|
| 染色体マイクロアレイ(CMA) | 第一選択(ゴールドスタンダード)。 17q21.31領域の微小欠失(500-650kb)を高感度で検出できます。 |
| 遺伝子パネル・全エクソーム解析 | CMAで欠失が見つからないがKdVSが強く疑われる場合、KANSL1遺伝子の点変異を調べるために行います。 |
| 通常の染色体検査(G分染法) | この微小欠失は小さすぎるため、通常の方法では検出できません。 |
お子さんの発達や特徴的な症状が気になりますか?
正確な診断は、適切な療育と将来の見通しにつながります。
臨床遺伝専門医にご相談ください。
※オンライン診療も対応可能です
5. 治療と管理|ライフステージに応じた支援
【結論】 根本的な治療法はありませんが、症状に合わせた早期療育と対症療法が生活の質(QOL)を大きく向上させます。特に言語療法やてんかん管理が重要です。
てんかんの薬物療法に関する注意点
KdVSに関連するてんかんには、薬剤の「効きやすさ」に特徴があることが報告されています。
- ✓有効性が高い:バルプロ酸、トピラマート、ベンゾジアゼピン系
- ✓効果が限定的:レベチラセタム(一般的な第一選択薬ですが、KdVSでは抵抗性を示す報告があります)
包括的な管理計画
乳幼児期
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摂食指導:哺乳障害への対応
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早期療育:PT(運動)、ST(言語・サイン言語)
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合併症検査:心エコー、腎エコー、聴力、眼科
学童期〜成人期
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教育的支援:特別支援教育プラン(IEP)
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整形外科:側弯症のモニタリング
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体重管理:思春期以降は肥満傾向に注意
6. 遺伝カウンセリングと再発リスク
【結論】 KdVSと診断された場合、両親の遺伝学的検査が推奨されます。大多数は両親とも正常な「新生突然変異」であり、その場合、次子が同じ疾患を持つ確率は1%未満と一般よりわずかに高い程度です。
- ①
両親が正常(De Novo):最も多いケース。次子の再発リスクは非常に低いです。
- ②
生殖細胞系列モザイク:親の血液検査が正常でも、精子や卵子の一部にのみ変異がある稀なケースでは、リスクが上昇します。
- ③
親が保因者:非常に稀ですが、親が軽症やモザイクで変異を持つ場合、子への遺伝確率は50%となります。
🩺 院長コラム【のべ10万人以上のご家族と向き合って】
「遺伝性疾患」と聞くと、ご両親は「自分のせいではないか」と深く悩まれることが少なくありません。しかし、Koolen-De Vries症候群の多くは、誰にでも起こりうる偶発的な変化(新生突然変異)です。
遺伝カウンセリングでは、正確なリスク評価はもちろんですが、ご家族の不安や罪悪感を解きほぐし、前向きに療育に取り組めるようサポートすることを大切にしています。ご家族だけで抱え込まず、ぜひ私たち専門家を頼ってください。
7. 出生前診断とミネルバクリニックの対応
Koolen-De Vries症候群(17q21.31欠失)は、出生前診断で見つかる可能性があります。
NIPT(新型出生前診断)での検出について
一般的なNIPT(基本検査)はもちろん、全染色体検査や微小欠失検査を含むプランであっても、Koolen-De Vries症候群の原因となる17q21.31微小欠失(約500kb)は非常に微細であるため、NIPTで検出することは困難です。
当院のNIPTにおける微小欠失検査パネル(12種類)にも17q21.31は含まれていません。したがって、本疾患の診断を目的とする場合は、羊水検査と染色体マイクロアレイ(CMA)が必要です。
羊水検査による確定診断
NIPTで陽性または判定保留となった場合、あるいは超音波検査で何らかの所見があった場合、羊水検査と染色体マイクロアレイ(CMA)を行うことで確定診断が可能です。
💰 NIPT受検者全員に適用される「互助会制度」
ミネルバクリニックでは、NIPT受検者全員に互助会制度(互助会費8,000円)が自動適用されます。この制度により、NIPTで陽性となった場合の羊水検査費用(約15〜20万円)が全額補助されます。
これは「もしもの時」に経済的な理由で確定検査を諦めることがないよう、全員で支え合うための仕組みです。追加の費用負担を心配することなく、安心して検査を受けていただけます。
よくある質問(FAQ)
🏥 一人で悩まないでください
Koolen-De Vries症候群について心配なこと、検査を受けるかどうか迷っていること、
どんなことでもお気軽にご相談ください。
臨床遺伝専門医があなたとご家族に寄り添います。
参考文献
- [1] Koolen DA, et al. Koolen-de Vries Syndrome. 2010 Jan 26 [Updated 2019 Jun 13]. In: Adam MP, et al., editors. GeneReviews® [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993–2026. [GeneReviews]
- [2] Koolen DA, et al. The Koolen-de Vries syndrome: a phenotypic comparison of patients with a 17q21.31 microdeletion versus a KANSL1 sequence variant. Eur J Hum Genet. 2016 May;24(5):652-9. [PubMed]
- [3] Myers KA, et al. The epileptology of Koolen-de Vries syndrome: Electro-clinico-radiologic findings in 31 patients. Epilepsia. 2017 Jun;58(6):1085-1094. [PubMed]
- [4] OMIM #610443 KOOLEN-DE VRIES SYNDROME; KDVS. [OMIM]
- [5] Simons Searchlight. KANSL1-Related Syndrome. [Simons Searchlight]
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