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17p13.3重複症候群は、17番染色体の短腕末端にある「17p13.3」という領域が部分的に増えてしまう(重複する)ことで発症する、極めて稀少な染色体微小重複症候群です。発達遅滞・筋緊張低下・自閉症スペクトラム障害といった神経発達上の症状を中心に、「過成長型のクラスI」と「小頭症型のクラスII」という対照的な2つの病型に分かれることが、この疾患の最大の特徴です。
同じ17p13.3領域の「欠失」では重篤な脳形成異常を示すミラー・ディーカー症候群を引き起こしますが、本症候群はその「重複」によって発症する別の疾患です。染色体マイクロアレイ検査(CMA)の臨床導入に伴い、2009年に新しい疾患概念として確立されました。世界で報告されているのは約50例ですが、診断技術の進歩により今後さらに見出される可能性が高い疾患群です。
本記事では、最新の分子遺伝学的知見と臨床データをもとに、17p13.3重複症候群の原因・症状・診断・治療・遺伝・出生前診断、さらに2025年に新たに報告された成人期のカタトニアまで、臨床遺伝専門医の視点から網羅的に解説します。
1. 17p13.3重複症候群とは|疾患の基本情報
17p13.3重複症候群は、17番染色体短腕の末端付近にある「17p13.3」と呼ばれる領域が、通常は2コピー(父由来+母由来)であるところ、片方の染色体上で部分的に増えて3コピーに重複(マイクロデュプリケーション)することで発症する、稀少な隣接遺伝子症候群です。重複する範囲には複数の遺伝子(PAFAH1B1、YWHAE、CRK、BHLHA9など)が含まれ、それぞれの遺伝子が過剰に働くことで多臓器に症状が現れます。
17p13.3領域は、染色体上に「低コピー反復配列(LCR)」が密集しており、もともと染色体の組み換えが起こりやすい不安定な領域として知られています。減数分裂のときに反復配列同士がずれて組み換わることで、欠失や重複といったコピー数変異が発生します。
染色体上で隣り合って並んでいる複数の遺伝子が一度に重複したり欠失したりすることで起こる病気の総称です。それぞれの遺伝子が異なる役割を担っているため、脳・四肢・内臓など複数の臓器に同時に影響が出るのが特徴です。22q11.2欠失症候群やプラダー・ウィリ症候群と同じグループに分類されます。
1.1 疾患の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 疾患名 | 17p13.3重複症候群(17p13.3 microduplication syndrome) |
| 原因 | 17番染色体短腕末端(17p13.3領域)の微小重複 |
| 頻度 | 極めて稀少(世界での報告例は約50例) |
| 遺伝形式 | 常染色体顕性(優性)遺伝。多くは新生突然変異(de novo)だが、家族性の症例もあり |
| 主な責任遺伝子 | PAFAH1B1(LIS1)、YWHAE(14-3-3ε)、CRK、BHLHA9、ABRなど |
| 国際分類 | Orphanet:ORPHA 217385、初報告:2009年 |
| 主な臨床的特徴 | 発達遅滞、筋緊張低下、自閉症スペクトラム障害、特異な顔貌、四肢の形態異常など |
1.2 ミラー・ディーカー症候群との違い|「欠失」と「重複」は別の病気
同じ17p13.3領域に関わる疾患として、ミラー・ディーカー症候群(MDS)や孤立性滑脳症配列(ILS)がよく知られています。これらは17p13.3領域が「欠失(失われる)」ことで発症する病気で、PAFAH1B1(LIS1)遺伝子が片方失われることにより、大脳の表面に脳のシワができない「滑脳症」を引き起こします。
一方、17p13.3重複症候群は同じ領域が逆に「過剰になる」ことで発症する別の疾患で、重複する遺伝子の組み合わせによって全く異なる症状を示します。「欠失」と「重複」は、染色体組み換えの結果として表裏一体で生じうるものですが、臨床的にはまったく異なる経過をたどります。
1.3 疾患認識の歴史
17p13.3重複症候群が独立した疾患として医学文献に初めて記述されたのは2009年のことであり、染色体異常症としては比較的新しい概念です。それまでは原因不明の発達遅滞として診断されていた症例の中に、本症候群が一定数含まれていたと考えられています。
染色体マイクロアレイ検査(CMA)や全エクソームシーケンス(WES)といった高解像度のゲノム解析技術が臨床現場に普及したことで、それまで「特発性」として処理されていた発達障害の原因が次々と明らかになっています。17p13.3重複症候群は、その代表例といえる疾患です。
2. 17p13.3重複症候群の主な症状とクラス分類
本症候群は、中枢神経系・頭蓋顔面・骨格系・内分泌系・心血管系など多系統に影響します。とくに発達遅滞・筋緊張低下・自閉症スペクトラム障害は中核症状として高頻度にみられます。さらに、重複する遺伝子の組み合わせによって「クラスI」と「クラスII」という対照的な2つの病型に分かれるのが、この疾患の最大の特徴です。
2.1 主要症状の出現頻度(Simons Searchlightコホート)
📊 17p13.3重複症候群における主要症状の出現頻度
出典:Simons Searchlight研究コンソーシアムのコホートデータより
2.2 クラスIとクラスII|重複領域の違いで真逆の表現型に
本症候群を理解するうえで最も重要なのが、重複領域に「PAFAH1B1(LIS1)遺伝子」が含まれるかどうかでクラスIとクラスIIに分かれ、しかも両者は身体発育や脳形態において真逆の方向の表現型を示すという事実です。
クラスI vs クラスII|重複遺伝子の違いが生む対照的な表現型
2.3 中枢神経・神経発達への影響
本症候群における神経発達面の症状は、患者さんの生涯にわたる生活の質を決定づける中心的な要素です。出生直後から顕著な筋緊張低下(79%)がみられ、首のすわり・寝返り・歩行といった運動マイルストーンの遅れにつながります。知的障害の程度は軽度から重度まで個人差が大きいのも本症候群の特徴です。
- 筋緊張低下:79%にみられる中核症状。哺乳不良や発語の遅れの原因にも
- 発達遅滞:77%にみられ、運動・認知の双方に影響
- 知的障害:66%。軽度〜重度まで個人差が大きい
- 言語遅滞:36%。口腔機能の低下も背景に
- 自閉症スペクトラム障害:24%、とくにクラスI(YWHAE重複型)で高頻度
- てんかん:13%と相対的に低頻度(欠失型のMDSと対照的)
2.4 四肢・骨格系の特徴|SHFLDという特異的なサイン
17p13.3重複症候群のなかには、他の遺伝性疾患との鑑別上きわめて特徴的な所見として、「長管骨欠損を伴う裂手裂足奇形(SHFLD)」と呼ばれる四肢の形態異常を呈する例があります。手足の中心部が深く切れ込んだような形になる「裂手裂足」と、上肢・下肢の長い骨(脛骨や腓骨など)の低形成・短縮が同時にみられるのが特徴です。
・病態:胚発生の初期に手足の先端の成長を指揮するシグナルセンター(頂端外胚葉堤)の機能が阻害されることで生じる先天性の四肢奇形です。手足の中心の指が欠損し、V字型の深い裂溝(ロブスター・クロウ様変形)を形成します。
・本症候群との関連:17p13.3領域内のBHLHA9遺伝子の重複がSHFLDの主因として同定されています。ただしBHLHA9重複があっても全例に発症するわけではなく、不浸透の例や軽微な斜指症(指の曲がり)にとどまる例もあります。
そのほか、屈指症・斜指症、股関節形成不全、外反尖足、横手掌線(猿線)などの所見が報告されています。また一部には、高身長・くも状指・関節弛緩・進行性側弯症などマルファン症候群様の表現型を呈する例もありますが、対応するクリティカル遺伝子は同定されていません。
2.5 近年報告されている稀な合併症
2020年代以降、ゲノム解析技術の進歩により、本症候群の臨床スペクトラムは脳・四肢にとどまらず、全身の多臓器に及ぶことが次々と明らかになっています。
- 内分泌系:原発性甲状腺機能低下症(レバノンのクラスI症例で報告)
- 泌尿生殖器:両側性停留精巣、陰茎発育不全、尿道下裂
- 感覚器:片側性感音難聴(ギリシャの121kb微小重複例で報告)
- 心血管系:卵円孔開存、心内膜線維弾性症
- 腹壁:臍帯ヘルニア(中国の大規模解析でHIC1遺伝子重複との関連が示唆)
- 顔面正中部:口唇裂・口蓋裂(17%程度、ABR遺伝子との関連)
3. 原因と責任遺伝子|なぜ症状が起こるのか
17p13.3重複症候群の症状は、重複領域に含まれる複数の遺伝子が「3コピー」になり、本来より過剰に発現することで生じます。重複範囲は約1.2Mb〜6Mbと幅があり、含まれる遺伝子は24〜48個にもなることがあるため、症状の現れ方も多様になります。
私たちの遺伝子は通常、父と母から1コピーずつ計2コピー受け継ぎ、2倍量のタンパク質が作られるように精巧に調整されています。本症候群では染色体重複により特定領域の遺伝子が3コピーになり、タンパク質量が約1.5倍に増えることで、細胞の働きが乱されます。これを「遺伝子量効果」と呼びます。欠失(コピー数が1になる)と重複(3になる)はどちらも同じ仕組みを破綻させますが、結果として現れる症状は対照的になります。
3.1 主な責任遺伝子と役割
| 遺伝子 | 主な役割 | 関連症状(重複時) |
|---|---|---|
| PAFAH1B1 (LIS1) |
微小管とダイニンを制御し、胎児の脳での神経細胞の移動を司る | 小頭症、脳梁低形成、重度発達遅滞(クラスIIの中心遺伝子) |
| YWHAE (14-3-3ε) |
LIS1-NDEL1複合体を安定化し、神経細胞の移動を間接的に制御 | 自閉症スペクトラム障害、認知発達遅滞(クラスIの中心遺伝子) |
| CRK | 細胞増殖シグナルとリーリンシグナル経路を媒介 | 過成長(マクロソミア)、大脳皮質の積層化異常 |
| BHLHA9 | 四肢発生における頂端外胚葉堤(AER)の維持 | 裂手裂足奇形(SHFLD)、長管骨欠損 |
| ABR | Rho GTPase活性化タンパク質をコード | 口唇裂・口蓋裂との関連が示唆される |
| HIC1 | 細胞の増殖・分化制御に関わる転写因子 | 臍帯ヘルニアの発症リスクとの関連が報告 |
3.2 PAFAH1B1(LIS1)|脳の発生を司るマスター遺伝子
PAFAH1B1がコードするLIS1タンパク質は、細胞内の「微小管」という骨組みを動かして胎児の脳で新しく生まれた神経細胞を、本来あるべき大脳皮質の表面まで運ぶ役割を担っています。この遺伝子の欠失(コピーが1になる)は重篤な滑脳症(ミラー・ディーカー症候群)を起こしますが、近年の研究では、「過剰発現(コピーが3になる)」もまた神経細胞の移動を乱し、小頭症や脳梁低形成を引き起こすことがわかってきました。クラスIIで小頭症や脳形成異常がみられるのはこのためです。
3.3 YWHAE(14-3-3ε)|神経ネットワーク形成の調節因子
YWHAEがコードする14-3-3εは、前述のLIS1と相互作用するNDEL1というタンパク質に結合し、LIS1-NDEL1複合体全体の安定性を保つ役割を担っています。本症候群でYWHAEが3コピーになると、この複合体の量的なバランスが崩れ、神経細胞の正しい配置が妨げられます。臨床的には、自閉症スペクトラム障害や認知発達遅滞の主要な決定因子と考えられており、クラスIの神経行動学的特徴のほとんどはYWHAEの過剰発現で説明可能とされています。
3.4 CRK・BHLHA9・ABR・HIC1|全身の症状に関わる遺伝子
CRKは細胞増殖を促すアダプタータンパク質で、過剰発現により過成長(マクロソミア)に寄与すると考えられています。BHLHA9は四肢発生に必須の遺伝子で、その重複が裂手裂足奇形(SHFLD)の主因となります。ABRは口唇裂・口蓋裂と、HIC1は臍帯ヘルニアと関連が報告されています。さらに近年はRTN4RL1遺伝子の重複が大脳皮質下の白質変化に関与する可能性も示唆されており、本症候群は単一遺伝子の異常ではなく、多数の遺伝子が複合的に作用するシステム異常として再定義されつつあります。
4. 遺伝形式と再発リスク
17p13.3重複症候群は常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとります。重複したアレルを1つ持つだけで発症する可能性がありますが、実際には浸透率の不完全性と表現型の多様性が大きく、同じ重複を持つ家族でも症状の重さが大きく異なることが報告されています。
・常染色体顕性(優性):2022年に日本人類遺伝学会で「優性遺伝」が「顕性遺伝」に用語変更されました。常染色体上の片方のアレル(対立遺伝子)にだけ変異があれば発症しうる遺伝形式です。
・新生突然変異(de novo):両親には変異がなく、お子さんで新たに発生した突然変異のことを指します。本症候群の多くはこのde novoによります。
・不完全浸透:同じ変異を持っていても、症状の重さや種類が個人によって大きく異なる現象を指します。
4.1 同じ家系でも症状の重さが大きく異なる
ポルトガルの研究では、重度の発達遅滞・言語障害・行動上の問題を呈する7歳男児に同じ17p13.3重複が見つかった一方、変異を伝えた母親は軽度の学習障害と軽い顔貌の特徴のみで社会生活に大きな支障がなかったケースが報告されています。このような世代間・家族間の表現型の差は、本症候群の重複が「画一的な発症の決定打」ではなく、神経発達への強力な感受性因子として働いていることを示唆しています。
4.2 次のお子さんへの再発リスク
| 状況 | 次子への再発リスク |
|---|---|
| 両親とも重複なし(新生突然変異) | 原則として低い。ただし生殖細胞モザイクのため約1%のリスクは残る |
| 片親が重複を有する(家族性) | 理論的に50%。ただし不完全浸透のため症状の重さは予測困難 |
| 親が均衡型染色体転座 | 転座の種類により異なる。個別評価が必要 |
お子さんで17p13.3重複が見つかった場合、両親の血液で同じ重複の有無を確認することが極めて重要です。これにより新生突然変異か遺伝かを判定でき、ご家族の今後のライフプランに直結する情報が得られます。詳しくは遺伝カウンセリングでご相談ください。
5. 17p13.3重複症候群の診断方法
本症候群の確定診断は、染色体マイクロアレイ検査(CMA)がゴールドスタンダードです。一般的な重複サイズが1.2Mb〜6Mb程度、なかには121kbという極めて小さな重複まで報告されており、従来のGバンド染色体検査(解像度5Mb以上)ではほとんど検出できません。
5.1 検査方法ごとの違い
| 検査方法 | 特徴 | 17p13.3重複の検出 |
|---|---|---|
| 染色体マイクロアレイ(CMA) | 確定診断のゴールドスタンダード。重複の正確な範囲と含まれる遺伝子も同定可能 | ◎ 確実に検出 |
| Gバンド法(核型分析) | 解像度は約5〜10Mb | ✕ 検出困難 |
| FISH法 | 特定領域のプローブを用いて重複の有無を視覚的に確認 | △ 専用プローブで可能 |
| 全エクソームシーケンス(WES) | バイオインフォマティクス解析により重複の検出も可能 | ○ 解析設定によっては可能。併存疾患の同時検索が利点 |
CMA(chromosomal microarray analysis)は、数万から数百万のDNAプローブを用いてゲノム全体の微小な欠失・重複を高解像度で検出する検査です。本症候群においては、重複領域内にPAFAH1B1が含まれているかどうかを一度に判定できるため、クラスIかクラスIIかという予後評価に直結する重要な情報を得ることができます。
5.2 鑑別診断と「診断の見落とし」への注意
本症候群は症状が多彩なため、初期評価では他の遺伝性疾患と紛らわしいことがあります。マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群(EDS)に類似した結合組織の異常を伴う例も報告されており、海外では幼少期に17p13.3重複と診断された患者さんが、10年後に独立した別の遺伝子疾患(FKBP14遺伝子変異によるkEDS)を併発していたことが判明したケースもあります。「1つの診断ですべてを説明しようとして他の疾患を見逃す」という事態を避けるため、本症候群と診断されても進行性の側弯症や関節弛緩の悪化などがあれば、再評価を検討することが大切です。
6. 治療と長期管理|多職種チームによる包括的サポート
17p13.3重複症候群には根本的な治療法はまだ存在しません。治療は症状に応じた対症療法と早期療育、生涯にわたる継続的支援が中心となり、多職種チームによる包括的なアプローチが不可欠です。
6.1 ライフステージ別の管理
| ライフステージ | 主な対応 |
|---|---|
| 新生児期・乳児期 | 筋緊張低下への対応、哺乳支援、心エコー・脳MRIなど合併症の精査 |
| 幼児期(〜5歳) | 早期療育(PT・OT・ST)、口唇裂・口蓋裂手術、SHFLDへの整形外科介入 |
| 学童期 | 特別支援教育(IEP)、自閉症スペクトラム障害への行動療法、てんかんの継続管理 |
| 思春期・成人期 | 移行期医療、精神症状(うつ・カタトニア)への警戒、就労支援、結合組織異常のフォロー |
6.2 早期療育|PT・OT・STの3本柱
発達遅滞・知的障害・筋緊張低下に対しては、乳幼児期からの早期療育が長期的な発達と生活の質に大きく影響します。
- 理学療法(PT):筋緊張低下の改善、運動マイルストーン獲得の支援
- 作業療法(OT):微細運動や食事・着替えなどの日常生活動作(ADL)習得
- 言語聴覚療法(ST):言語遅滞・口腔機能低下への訓練、代替コミュニケーション手段(AAC)の導入
- 多職種チーム:臨床遺伝科・小児科・小児神経科・整形外科・心理職・ソーシャルワーカーが連携
6.3 成人期の精神医学的合併症|2025年に明らかになったカタトニアという新たな課題
本症候群の研究で2025年に大きく注目を集めた新知見が、成人期における重篤な精神症状の発症リスクです。長年にわたり反復性のうつ病を呈していた44歳の女性が、急激に幻覚・妄想を伴うカタトニア(緊張病)を発症し、精神科入院を要したケースが報告されました。彼女は強力なベンゾジアゼピン系薬剤であるロラゼパム(1日4mg)の集中投与で改善しましたが、3年間で4回もの再発を経験しています。
詳細な再評価により、彼女の精神症状の根本的な原因が17p13.3重複症候群にあることが判明しました。これは、本症候群の遺伝子過剰発現が胎児期の脳の構築だけでなく、生涯にわたる精神的安定性にも影響を及ぼし続けることを示す重要な所見です。
カタトニアは、自発的な運動、言語機能、外部刺激への反応が著しく低下または停止する重篤な精神運動症候群です。うつ病・統合失調症・自閉症など多様な背景に合併し、適切な治療(ロラゼパムや電気けいれん療法など)で劇的に改善することが知られています。ベースに遺伝的症候群が隠れている場合、これを正しく認識できないと再発予防が困難となるため、難治性の反復うつ病やカタトニアを呈する成人例では、染色体マイクロアレイなどによる遺伝学的評価が推奨されます。
6.4 移行期医療|小児科から成人診療科への橋渡し
小児期に確定診断されたお子さんが成人期に移行する際、遺伝学的情報と発達の経過を成人領域の医療チームに正確に引き継ぐことが極めて重要です。これにより、成人期に突発的に出現する精神症状(うつ・カタトニアなど)が「原因不明の精神疾患」ではなく「17p13.3重複症候群の合併症」として認識され、迅速な治療介入が可能となります。
7. 出生前診断とミネルバクリニックのサポート体制
17p13.3重複症候群は、NIPTのうち全染色体スクリーニング型のプラン(インペリアルプラン)でリスクを評価でき、羊水検査・絨毛検査でCMAを行うことで確定診断ができます。ただし、本症候群は表現型の幅が極めて広く、出生前に見つけることが常にご家族の利益になるとは限らないため、検査前後の遺伝カウンセリングが不可欠です。
7.1 出生前検査の種類と検出能力
| 検査 | 位置づけ | 17p13.3重複への対応 |
|---|---|---|
| 一般的なターゲット型NIPT | スクリーニング検査 | 対象外のことが多い(17p13.3はダイヤモンドプランの12微小欠失リストにも含まれません) |
| 全染色体スクリーニング型NIPT | スクリーニング検査 | ○ スクリーニング可能(インペリアルプランのWGS型で5Mb以上の全染色体欠失・重複を広くカバー) |
| 絨毛検査+CMA | 確定診断 | ◎ 妊娠初期に確定診断可能 |
| 羊水検査+CMA | 確定診断 | ◎ 微小重複も確定診断可能 |
7.2 ミネルバクリニックのNIPTプランと17p13.3重複症候群
ミネルバクリニックでは、ご家族のニーズに応じて複数のNIPTプランをご用意しています。ダイヤモンドプランはターゲット法による高精度検査で、特定12箇所の微小欠失を高い陽性的中率(>99.9%)で検出しますが、17p13.3重複はこの12箇所には含まれません。一方インペリアルプランはWGS法とターゲット法のハイブリッドで、5Mb以上の全染色体微小欠失・重複を広範囲にスクリーニングするため、17p13.3重複症候群も検出対象に含まれます。NIPTはスクリーニング検査ですので、陽性時は羊水検査・絨毛検査による確定診断が必要です。
なお、同じ領域でコピー数が減る「欠失」が見つかる場合もあり、その結果の意味づけは遺伝カウンセリングで詳しくご説明しています。
7.3 出生前診断で見つかった場合の対応
出生前に17p13.3重複が見つかった場合、本症候群は表現型の幅が非常に広く、胎児期の超音波所見だけでは将来の予後を正確に予測することが難しいことが少なくありません。詳細超音波で小頭症・脳梁の形態・四肢の異常・横隔膜・心臓・腹壁の所見を精査し、両親の検査で新生突然変異か遺伝かを判定します。ご家族の不安や葛藤に寄り添い、決断を急がせない時間と環境を確保することが重要です。
⚖️ 倫理的なスタンス|検査は「常に利益」ではない
本症候群のように不完全浸透や表現型の幅が大きい疾患では、出生前に見つけたことが必ずしもご家族の利益になるとは限りません。「特定の検査を勧める」「安心を保証する」「不安をあおる」ような表現は適切ではないと私たちは考えています。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、十分な情報を得たうえで、ご家族自身が決めるべき事柄です。
7.4 ミネルバクリニックのサポート体制
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医の専門性を活かした診療体制を整えています。17p13.3重複症候群を含む染色体微小欠失・重複症候群について、出生前検査から結果説明、確定検査、その後のフォローまで一貫してサポートいたします。
- 全染色体スクリーニング対応:インペリアルプランで5Mb以上の全染色体微小欠失・重複を広くスクリーニング、17p13.3領域もカバー
- 確定検査も院内で実施:羊水検査・絨毛検査も院内で実施可能、転院の必要なし
- 臨床遺伝専門医が担当:臨床遺伝専門医が検査前後の遺伝カウンセリングを直接担当
- 互助会で費用面も安心:NIPT受検者全員に適用される互助会(8,000円)により、陽性時の羊水検査費用が全額補助
🧬 その他の染色体異常(トリソミー・部分モノソミー)について
各染色体の異数性や微小欠失・重複による特徴的な疾患、および予後については以下のリンクから詳細をご確認いただけます。
よくある質問(FAQ)
関連記事
参考文献
- Orphanet – 17p13.3 microduplication syndrome (ORPHA:217385) [外部サイトへ]
- Simons Searchlight – 17p13.3 Duplication Syndrome [外部サイトへ]
- Bruno DL et al. Refining the Clinical Spectrum of the 17p13.3 Microduplication Syndrome: Case-Report of a Familial Small Microduplication. Biomedicines 2022 [外部サイトへ]
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- Capra V et al. Identification of a rare 17p13.3 duplication including the BHLHA9 and YWHAE genes in a family with developmental delay and behavioural problems. BMC Med Genet 2012 [外部サイトへ]
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- Responsible Genes for Neuronal Migration in the Chromosome 17p13.3: Beyond Pafah1b1(Lis1), Crk and Ywhae(14-3-3ε). 2022 [外部サイトへ]
- Case report: Recurrent catatonia in a patient with 17p13.3 microduplication syndrome. Front Psychiatry 2025 [外部サイトへ]
- Deep clinical and genetic analysis of 17p13.3 region: 38 pediatric patients diagnosed using next-generation sequencing and literature review. 2025 [外部サイトへ]
- Let Time Teach You: A Case Report of a Double Diagnosis of 17P Duplication and Ehlers-Danlos Syndrome. Genes 2022 [外部サイトへ]
- Chromosome Disorder Outreach – 17p13.3 Duplication Syndrome [外部サイトへ]



