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ケルセチンとは?効果・薬の飲み合わせ・甲状腺リスクまで遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床のなかで、のべ10万人以上のご家族の切実な意思決定に伴走してきました。世界基準の遺伝子診断と遺伝カウンセリングを、終始責任をもって提供します。

📍 クイックナビゲーション

「玉ねぎやリンゴの皮に多い成分」「サプリでよく見かける抗酸化物質」——ケルセチンにこうしたイメージをお持ちの方は多いと思います。じつはこの成分は、単なる抗酸化物質という枠を超えて、細胞の老化や炎症にかかわる複数の経路へ作用する可能性が研究されている、薬理学的に興味深い物質であることが近年わかってきました。その一方で、飲んでいる薬の効き方を変えてしまう「飲み合わせ」の問題や、甲状腺の持病がある方には注意が必要な側面も持っています。

この記事では、ケルセチンがどんな成分で、体の中でどう働き、どんな効果が科学的に確かめられているのかを整理したうえで、遺伝子の個人差(体質)とのかかわりや、安全に付き合うために知っておきたい注意点までを、遺伝専門医の立場から、一般の方にもわかる言葉でお話しします。健康食品としてのケルセチンは、遺伝子によって薬の効き方が変わるファーマコゲノミクス(薬理ゲノミクス)という遺伝医学のテーマとも、意外なところでつながっています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16〜18分
🧬 抗酸化・抗炎症・老化細胞への作用
臨床遺伝専門医監修

  • ケルセチンがどんな成分で、どの食品に多く含まれるのか
  • なぜ「吸収が悪い」のか、そして新しい製剤で何が変わったのか
  • 血圧・脂質などの臨床研究と、老化細胞(セノリティクス)研究の現在地
  • ワルファリンやスタチンとの飲み合わせと、遺伝子の個人差
  • 甲状腺の持病がある方に知っておいてほしい注意点
⏱️ 30秒でわかる要約

🧬Q. ケルセチンとはどんな成分ですか?

玉ねぎやリンゴ、お茶などに含まれるフラボノイド(ポリフェノールの一種)です。抗酸化作用に加えて、炎症関連経路や老化細胞に対する作用など、多彩な働きが研究されています。

🩺Q. サプリで飲めば効きますか?

ふつうのケルセチンは水に溶けにくく、体内動態が複雑なのが弱点ですが、ファイトソームなどの製剤では血中への到達量が高まることが報告されています。ただし吸収が上がったぶん、薬との飲み合わせに注意が必要です。

🌸Q. 誰でも安全にとれますか?

多くの人にとって食品由来の量は問題ありませんが、抗凝固薬・スタチン・免疫抑制剤などを飲んでいる方や、甲状腺の持病がある方は、高用量サプリの前に主治医へご相談ください。

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ケルセチンとは——植物がもつ「黄色い抗酸化物質」

名前の由来は「樫の木」

ケルセチン(Quercetin)は、植物界に広く分布するフラボノイドという色素成分の一種です。フラボノイドはポリフェノールの大きなグループで、そのなかでもケルセチンは、世界でもっとも広く分布し、もっとも研究されてきた生理活性物質のひとつです。名前はラテン語で樫(オーク)を意味する「Quercus」に由来し、19世紀半ばからその存在が知られてきました。

ケルセチンをほかのフラボノイドから際立たせているのは、分子のなかに「ヒドロキシル基」という反応性の高い部分が5か所あるという構造です。この構造のおかげで、ケルセチンは体をさびさせる原因になる活性酸素などを効率よく捕まえ、鉄や銅といった金属イオンを抱え込む、強力な還元剤(抗酸化物質)として働きます。糖がついていない「アグリコン」という形は鮮やかな黄色をしていて、水にはほとんど溶けません。この「水に溶けにくい」という性質が、あとで出てくる「吸収の悪さ」につながっていきます。

🔬 用語解説:フラボノイドとポリフェノール

ポリフェノールは、植物が紫外線や外敵から身を守るために作る色素・苦味成分の総称です。そのなかの大きなグループがフラボノイドで、さらに細かく分けた「フラボノール」というカテゴリーの代表選手がケルセチンです。赤ワインのポリフェノール、緑茶のカテキン、大豆のイソフラボンなども、すべてこのポリフェノールの仲間です。

自然界では、ケルセチンの多くは糖と結びついた「配糖体(グリコシド)」という形で存在します。玉ねぎに多いイソクェルシトリンや、ソバなどに含まれるルチンが代表的です。糖がつくことで水に溶けやすくなり、植物の中で安定して蓄えられます。私たちが食品から口にするケルセチンは、ほとんどがこの配糖体の形だと考えてよいでしょう。

遺伝や薬の個人差を専門とする立場からケルセチンを見ると、この成分は「食品」と「くすりに近いもの」の境界に位置する、興味深い存在です。食品として玉ねぎやリンゴから摂るぶんには、多くの方にとって身近で安心して付き合える成分です。ところが、成分を凝縮したサプリメントとして高用量でとると、体の中で薬を代謝する酵素や、薬を運ぶトランスポーターに影響し、飲んでいるお薬の効き方を左右することがあります。そしてその影響の大きさは、一人ひとりの遺伝的な体質によって変わってくる可能性があります。この記事の後半では、そうした「体質と成分の相互作用」という、遺伝医療ならではの視点も交えてお話ししていきます。

どんな食品に多い?——赤玉ねぎと「皮ごと」がカギ

ケルセチンは、野菜・果物・種子・お茶・ワインなど、幅広い植物性食品に含まれています。含有量は品種や収穫時期、育った環境、そして食品のどの部分かによって大きく変わります。とくに玉ねぎ、ケッパー、リンゴ、ケール、ブロッコリーなどが供給源として知られています。

図1:ケルセチンを含む代表的な植物性食品(模式図)

ケッパー

玉ねぎ

リンゴ

ケール

ブロッコリー

※含有量は品種・部位・生育条件・調理法などで大きく変わるため、ここでは食品間の厳密な定量比較はしていません。

ケッパーや玉ねぎは、ケルセチンを多く含む食品として知られています。ただし、食品中の含有量は品種・部位・生育条件によって大きく変わります。日常の食事では、玉ねぎは摂取しやすい代表的な供給源のひとつです。とくに外側の層にはフラボノイドが多く含まれる傾向があります。

リンゴでもケルセチンは果肉より果皮に多く含まれる傾向があるため、食べられる状態であれば皮ごと摂ることで摂取量が増える可能性があります。また、食品中のケルセチン量は調理条件によって変化します。加熱やゆで調理では、熱による分解だけでなく煮汁への溶出も起こりうるため、調理法によって残存量が異なります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「体に良い成分」ほど、量と体質を丁寧に】

診療の場では、「テレビで体に良いと聞いたので、サプリをたくさん飲んでいます」というお話をよく伺います。食品として玉ねぎやリンゴから摂るぶんには、ケルセチンはとても身近で安心して付き合える成分です。けれども、成分を凝縮したサプリメントを高用量でとることは、食品を食べることとは意味が違ってきます

とくにこの記事の後半でお話しするように、ケルセチンは飲んでいるお薬の効き方に影響する可能性があり、甲状腺についても前臨床研究から注意すべき作用が報告されています。「天然だから安全」「たくさんとるほど良い」とは限らない——これは、遺伝や薬の個人差を専門にしている立場から、いちばんお伝えしたいことのひとつです。

「吸収の悪さ」という最大の壁と、新しい製剤

飲んだケルセチンは、そのまま血液中に残るわけではない

ケルセチンを健康に役立てようとするとき、課題になるのが経口での「生体利用効率(バイオアベイラビリティ)」です。ケルセチンは水に溶けにくく、さらに食品中ではさまざまな配糖体として存在するため、吸収のされ方は化学形や食品、製剤によって大きく異なります。そのため、単純に「摂取量の何%が吸収される」と一つの数字で表すことは難しい成分です。

また、吸収されたケルセチンは、小腸や肝臓で速やかに代謝されます。ケルセチンは体内で「抱合(ほうごう)」という代謝を受け、グルクロン酸や硫酸が結合した代謝物などに変化します。そのため、血液中では元のケルセチンそのものより、こうした代謝物が多く存在します。この「溶けにくさ」と「速やかな代謝」が、経口摂取したケルセチンの作用を考えるうえで重要です。

この吸収と代謝には、腸内細菌や代謝酵素の個人差も関係します。腸内細菌叢や代謝酵素の活性には個人差があるため、同じ食品やサプリメントを摂っても、体内で生じる代謝物や血中濃度の推移が人によって異なる可能性があります。

図2:ケルセチンが体に入ってからの流れ

食品・製剤を摂取

配糖体など

腸管で吸収

形態で差がある

腸・肝臓で代謝

抱合体へ変化

全身へ

主に代謝物

※吸収されなかった成分の一部は大腸に届き、腸内細菌による代謝を受けます。

製剤技術で吸収が大きく高まった

この「溶けにくく、すぐ代謝される」という弱点を乗り越えるため、近年はナノテクノロジーや新しい添加剤を使った製剤の開発が急速に進みました。代表的なものに、ケルセチンを脂質の膜で包んで水になじみやすくするリポソーム型・ミセル型や、食品グレードのレシチン(リン脂質)と複合体をつくるファイトソーム型があります。

ファイトソーム型(Quercefitという製剤)を用いた健康な人での薬物動態試験では、通常のケルセチンと比べて総ケルセチンの血中曝露量が大きく増加したと報告されています[3]。ただし、製剤ごとに試験条件や測定対象が異なるため、異なる製剤の「何倍」という数字をそのまま横並びに比較することはできません。

図3:製剤技術による吸収改善の考え方(模式図)

標準ケルセチン
基準
シクロデキストリン
吸収改善を目指す
リポソーム型
吸収改善を目指す
ファイトソーム型
大幅な増加を報告

※模式図です。製剤ごとに試験条件が異なるため、棒の長さは厳密な定量比較を示しません。ファイトソームについてはヒト薬物動態試験で血中曝露量の大幅な増加が報告されています[3]。

ただし、ここには落とし穴もあります。吸収が飛躍的に高まったということは、体の中に入るケルセチンの量が増え、薬の代謝への影響も強く出やすくなったことを意味します。この「飲み合わせ」の問題は、記事の後半でくわしくお話しします。

体の中での働き——「アクセル」と「ブレーキ」を同時に

ケルセチンは、単に活性酸素を消去するだけではなく、細胞内のさまざまな情報伝達経路に影響することが、主に細胞・動物研究で報告されています。とくにAMPKやSIRT1、NF-κB、NLRP3インフラマソームなど、代謝・炎症・細胞ストレスに関係する経路が研究対象になっています。

図4:ケルセチンで研究されている主な細胞内経路

活性化方向の報告

AMPK / SIRT1

エネルギー代謝、ミトコンドリア機能、オートファジーなどとの関連が研究されている

抑制方向の報告

NF-κB / NLRP3

炎症性サイトカインやインフラマソーム活性の抑制が前臨床研究で報告されている

→ これらの機序がヒトでどの程度臨床効果につながるかは、作用ごとに検証段階が異なります

研究されている経路の一つがサーチュイン(SIRT1)です。また、細胞のエネルギー状態を感知するAMPKとの関連や、ミトコンドリア機能、オートファジー(自食作用)への影響も前臨床研究で検討されています。

一方、炎症に関しては、NF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー)やNLRP3インフラマソームなどへの作用が研究されています。これらは炎症性サイトカインの産生に関係する重要な経路ですが、細胞・動物レベルで示された作用を、そのままヒトの治療効果と同一視することはできません。

🔬 用語解説:正常細胞とがん細胞では作用の意味が異なることも

オートファジーやアポトーシスに対するケルセチンの作用は、細胞の種類や実験条件によって異なります。正常細胞では細胞保護に関連する報告がある一方、一部のがん細胞を用いた基礎研究では、増殖抑制やアポトーシス誘導に関係する作用も報告されています。ただし、これはケルセチンががん治療として確立しているという意味ではありません。現在は主として基礎・前臨床研究の知見です。

期待される効果——血圧から老化細胞の除去まで

血圧・脂質・炎症への影響

ケルセチンについては、心血管系への影響を調べた臨床研究も行われています。複数のランダム化比較試験をまとめたメタアナリシスでは、ケルセチン補給によって血圧が小幅に低下する可能性が示されています。587人を含む解析では、収縮期血圧がおよそ3.0mmHg、拡張期血圧がおよそ2.6mmHg低下したと報告されています[1]

図5:臨床研究で報告された心血管系指標への影響

収縮期血圧

−3.0mmHg

拡張期血圧

−2.6mmHg

脂質指標

改善報告あり

炎症指標

改善報告あり

※研究間のばらつきがあり、効果の大きさは対象者・用量・期間などで異なります。

脂質や炎症マーカーについてもメタアナリシスが行われていますが、結果は対象集団や用量によって異なります[2]。したがって、ケルセチンを脂質異常症や高血圧症の治療薬の代わりと考えることは適切ではありません。あくまで研究されている栄養成分の一つとして位置づける必要があります。

アレルギー・感染症に関する研究

ケルセチンは、アレルギー反応に関係する肥満細胞やヒスタミン放出への作用が研究されています。細胞・動物研究では、肥満細胞の活性化や炎症性メディエーター放出を抑える方向の作用が報告されています。ただし、これらの前臨床データだけから、アレルギー疾患の標準治療として有効だと判断することはできません。

新型コロナウイルス感染症についてもケルセチンを用いた臨床研究が行われ、メタアナリシスでは一部の転帰について有利な結果が報告されています[9]。ただし研究数や対象人数は限られ、製剤・投与量・併用治療も均一ではありません。したがって、ケルセチンはCOVID-19の標準治療として確立されたものではありません。

脳・運動後の回復に関する研究

神経系では、酸化ストレス、神経炎症、血液脳関門、ミクログリアなどに対するケルセチンの作用が主として動物・細胞研究で検討されています。脳梗塞や神経障害モデルで保護的な作用が報告されていますが、ヒトの脳疾患の予防・治療効果が確立しているわけではありません。

スポーツ栄養の分野でも研究されています。持久力や運動後の筋肉痛・酸化ストレス・炎症指標などを評価した研究がありますが、結果は一貫しておらず、効果が認められた場合でも大きさは限定的です。運動パフォーマンスを大幅に高める成分と考えるのは適切ではありません。

腸内細菌と腸のバリア

吸収されなかったケルセチンやその関連化合物は大腸に到達し、腸内細菌による代謝を受けます。そこで生じるフェノール酸などの代謝物と腸管機能との関係が研究されています。また、細胞・動物モデルでは、タイトジャンクションや腸管バリア機能への作用も報告されています。ただし、いわゆる「リーキーガット」をケルセチンで治療できるとする臨床的根拠が確立しているわけではありません。

老化細胞を標的にする「セノリティクス」研究

近年の老化研究では、ケルセチンがセノリティクス研究の一部で用いられています。老化細胞は分裂を停止した状態で組織に残り、SASPと呼ばれる炎症性因子などを分泌することがあります。これらの細胞を選択的に除去する方法が、老化関連疾患への新しい介入法として研究されています。

代表的なのが、チロシンキナーゼ阻害薬のダサチニブとケルセチンを組み合わせる「D+Q」です。ヒトを対象とした初期研究では、糖尿病性腎症の患者にD+Qを投与した後、組織中の老化細胞に関連する指標が低下したことが報告されています[6]。ただし、これは小規模な初期試験であり、疾患治療として有効性が確立した段階ではありません。

閉経後女性を対象とした第2相ランダム化比較試験では、D+Qによる骨代謝への影響が検討されました。主要な解析では参加者全体に明確な有益性が示されたわけではありませんが、老化細胞負荷が高いと考えられる一部の参加者では骨形成指標や骨密度に有利な変化がみられました[5]。この結果は今後の研究につながるシグナルですが、一般診療で使用できる治療法が確立したことを意味するものではありません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「老化に効く」という言葉の受け止め方】

「老化細胞を除去できる」と聞くと、まるで若返りの薬のように感じられるかもしれません。実際、セノリティクスは老化医学のなかでとても刺激的な分野です。ただ、D+Q療法はダサチニブという医薬品をケルセチンと併用する研究的介入で、市販のケルセチンサプリを飲むこととはまったく別のものだということは、はっきりお伝えしておきたいと思います。

これらは臨床試験という厳密な管理のもとで研究されている段階の治療です。ネット上の「アンチエイジング」という言葉と、研究段階の医療とを混同せず、確かめられていることと、まだこれからのことを、冷静に見分けていただければと思います。

薬の飲み合わせ——ここに遺伝子の個人差がかかわる

ケルセチンは薬物代謝酵素や薬物トランスポーターに影響することが、in vitro研究や一部のヒト試験で報告されています。そのため、とくに高用量サプリや吸収を高めた製剤を使用する場合には、処方薬との相互作用に注意が必要です。ただし、相互作用の強さは薬剤ごとに異なり、試験管内でみられた作用がそのまま臨床上の大きな相互作用になるとは限りません。

図6:注意したい主な飲み合わせ

⚠️ ワルファリン

CYP2C9などへの作用が実験系で報告されているため、高用量サプリとの併用は慎重に判断する必要があります。ワルファリンは治療域が狭いため、使用中の方は自己判断で併用せず、医師・薬剤師に確認してください。

⚠️ 一部のスタチン

健康な人を対象とした試験では、ケルセチン併用によりプラバスタチンの血中曝露量が増加したことが報告されています[4]。OATP1B1などの薬物トランスポーターへの作用が関係すると考えられています。

⚠️ 治療域の狭い薬・免疫抑制薬など

薬物代謝酵素やトランスポーターへの影響が問題となる可能性があるため、高用量サプリを追加する前に医師・薬剤師へ確認することが重要です。

💡 相互作用は「強くなる」方向だけではありません

代謝酵素やトランスポーターへの作用の方向は薬剤によって異なります。したがって、「ケルセチンを加えると薬が必ず強く効く」と単純化することはできません。

スタチンについては、健康な人を対象にした試験で、ケルセチンを併用するとプラバスタチンの血中濃度の指標であるAUCと最高血中濃度が増加したと報告されています[4]。この研究では、肝臓への取り込みに関係するOATP1B1への阻害作用が検討されています。

🧬 遺伝の視点:なぜ「個人差」が出るのか

薬を代謝する酵素(CYPなど)や、薬を運ぶトランスポーター(OATP1B1など)の遺伝子には、人によって違いがあります。この違いによって薬物動態や副作用リスクが変わる場合があります。こうした遺伝的差異と薬物反応との関係を研究する分野がファーマコゲノミクスです。

たとえば、スタチンの薬物動態や筋障害リスクにはSLCO1B1の遺伝子多型が関係することが知られています。ただし、「特定のSLCO1B1遺伝型を持つ人では、ケルセチンを併用すると臨床的な相互作用が必ず増大する」と直接証明されたわけではありません。遺伝的素因、薬剤、用量、腎肝機能、併用薬などを総合して考える必要があります。

甲状腺への影響——前臨床研究からわかっていること

ケルセチンと甲状腺の関係については、主として試験管内・細胞・動物研究から得られた知見があります。ケルセチンが甲状腺ホルモン合成に関係する酵素「甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)」を阻害する作用は、in vitro研究で報告されています[7]

さらに、甲状腺由来の実験系では、ヨウ素の取り込みに関係するNIS、チログロブリン、TSH受容体など、甲状腺機能に関係する遺伝子発現への影響も報告されています[8]。これらの結果から、高用量のケルセチンが甲状腺機能へ影響する可能性は検討されていますが、通常の食品摂取によってヒトの甲状腺機能低下症や橋本病が悪化すると確立されたわけではありません

図7:甲状腺について現在わかっている範囲

前臨床上の懸念

TPO阻害や甲状腺関連遺伝子への作用が報告されているため、高用量サプリを長期使用する場合は慎重に考える

ヒトで未確立

通常の食品摂取が橋本病や甲状腺機能低下症を悪化させるという臨床的因果関係は確立していない

→ 甲状腺疾患がある方が高用量サプリを継続する場合は、主治医に相談し、必要に応じてTSH・FT4など通常の甲状腺機能評価を受けましょう

したがって、橋本病(自己免疫性甲状腺炎)などの甲状腺疾患がある方について、通常の食品に含まれるケルセチンまで一律に避ける根拠はありません。一方、高用量サプリメントを長期に使用する場合には、前臨床研究で報告されている作用を踏まえて主治医に相談するのが安全です。甲状腺機能そのものが心配な場合には、まずTSHやFT4など一般的な甲状腺機能検査で状態を確認することが基本です。

甲状腺がん細胞に対するケルセチンの増殖抑制作用なども基礎研究で検討されていますが、これも現時点では治療として確立したものではありません。正常甲状腺への作用と、がん細胞に対する実験的作用は区別して理解する必要があります。

🏥 サプリと薬・遺伝の体質について、専門医に相談したくなったら

お薬との飲み合わせや、遺伝子による体質の個人差についてのご相談は、臨床遺伝専門医が運営するミネルバクリニックへ。遺伝子検査の解釈から遺伝カウンセリングまで、終始責任をもって支援します。

よくある質問(FAQ)

Q. ケルセチンは食品からとるのとサプリからとるので違いますか?

違います。食品中のケルセチンは食品成分の一つとして摂取される一方、サプリメントでは濃縮された量を摂ることができます。また、吸収を高めるよう設計された製剤では体内曝露量がさらに増える場合があります。そのため、高用量サプリでは薬物相互作用などについて食品摂取とは別に考える必要があります。

Q. 血圧やコレステロールの薬の代わりになりますか?

なりません。メタアナリシスでは血圧や脂質指標への影響が報告されていますが[1][2]、処方薬の代替として有効性が確立されたものではありません。治療薬を自己判断で中止しないでください。

Q. 「老化細胞を除去する」と聞きましたが、サプリで若返りますか?

そのようには言えません。研究で注目されているD+Qは、ケルセチンとダサチニブを組み合わせた研究的介入です[5][6]。市販のケルセチンサプリを飲むこととは別であり、若返り効果が確立しているわけではありません。

Q. ワルファリンやスタチンを飲んでいますが、ケルセチンをとって大丈夫ですか?

高用量サプリを自己判断で追加することはおすすめできません。ケルセチンは薬物代謝酵素やトランスポーターに作用する可能性があり、プラバスタチンではヒトで薬物動態への影響も報告されています[4]。主治医・薬剤師にご相談ください。

Q. 甲状腺の病気があります。ケルセチンは避けるべきですか?

通常の食品摂取まで一律に避ける根拠はありません。ただし、試験管内・細胞・動物研究では甲状腺ペルオキシダーゼや甲状腺関連遺伝子への作用が報告されています[7][8]。甲状腺疾患がある方が高用量サプリを長期使用する場合には、主治医に相談してください。

Q. ケルセチンは遺伝子検査と関係がありますか?

ケルセチンそのものを調べる遺伝子検査が一般的に必要という意味ではありません。一方、薬物代謝酵素や薬物トランスポーターには遺伝的な個人差があり、薬の効き方や副作用との関係を調べるファーマコゲノミクスという分野があります。サプリと処方薬の相互作用を考える際にも、こうした個人差は背景要因の一つになります。

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参考文献

  1. [1] Effects of Quercetin on Blood Pressure: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Am Heart Assoc. 2016. [PubMed 27405810]
  2. [2] The effects of quercetin supplementation on lipid profiles and inflammatory markers among patients with metabolic syndrome and related disorders: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Crit Rev Food Sci Nutr. 2020. [PubMed 31017459]
  3. [3] Improved Oral Absorption of Quercetin from Quercetin Phytosome®, a New Delivery System Based on Food Grade Lecithin. Eur J Drug Metab Pharmacokinet. 2019. [PubMed 30328058]
  4. [4] Inhibition of the organic anion-transporting polypeptide 1B1 by quercetin: an in vitro and in vivo assessment. Br J Clin Pharmacol. 2012. [PubMed 22114872]
  5. [5] Effects of intermittent senolytic therapy on bone metabolism in postmenopausal women: a phase 2 randomized controlled trial. Nat Med. 2024. [Nature Medicine]
  6. [6] Senolytics decrease senescent cells in humans: Preliminary report from a clinical trial of Dasatinib plus Quercetin in individuals with diabetic kidney disease. EBioMedicine. 2019. [PMC6796530]
  7. [7] Inhibition of thyroid peroxidase by dietary flavonoids. Chem Res Toxicol. 1996. [PubMed 8924586]
  8. [8] The flavonoid quercetin inhibits thyroid-restricted genes expression and thyroid function. Food Chem Toxicol. 2014. [PubMed 24447974]
  9. [9] Quercetin for the treatment of COVID-19 patients: A systematic review and meta-analysis. Rev Med Virol. 2023. [Rev Med Virol]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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