目次
- 1 1. 環状RNA(circRNA)とは:RNAが「輪」になるという発想
- 2 2. circRNAはどう作られるのか:バックスプライシングという特別な道
- 3 3. circRNAの働き:miRNAスポンジだけではない多面的な分子
- 4 4. 疾患との関係:がん・神経疾患・心血管疾患でなぜ注目されるのか
- 5 5. circRNAをどう見つけるのか:RNA-seqとバックスプライス接合部
- 6 6. 次世代RNA医薬としてのcircRNA:長く働くRNAという可能性
- 7 7. 遺伝診療との接点:circRNAは検査結果の解釈にどう関わるか
- 8 8. よくある誤解:circRNAを正しく理解するために
- 9 9. まとめ:circRNAは「遺伝子の先にあるRNA層」を理解する鍵です
- 10 FAQ:環状RNA(circRNA)についてよくある質問
- 11 参考文献
- 12 関連記事
📍 クイックナビゲーション
環状RNA(circular RNA:circRNA)は、RNAの5’末端と3’末端が共有結合でつながり、輪のような構造をとるRNAです。通常のmRNAは直線状で、端から分解されやすい性質がありますが、circRNAは末端を持たないため、多くの場合で分解されにくく、細胞内や体液中で比較的安定に存在します。かつてはスプライシングの失敗で生じる副産物と考えられていましたが、現在では遺伝子発現制御、microRNAとの相互作用、RNA結合タンパク質の制御、一部のタンパク質翻訳、疾患バイオマーカー、さらに次世代RNA医薬・ワクチンへの応用まで広がる重要な分子として注目されています。
Q. 環状RNA(circRNA)とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. circRNAは、RNAの両端がつながって「輪」になったRNAです。端がないため多くの場合で分解されにくく、細胞内で長く残りやすい性質があります。近年は、遺伝子発現を調節する分子、がんや神経疾患などのバイオマーカー候補、さらにRNAワクチンやタンパク質補充療法の土台として研究されています。ただし、circRNAだから必ず治療に使える、免疫反応を完全に避けられる、という意味ではありません。現時点では研究段階の内容も多く、臨床応用には品質管理と安全性評価が不可欠です。
- ➤構造の特徴 → 5’末端・3’末端を持たない閉じた輪で、直線状RNAより安定なことが多い
- ➤生成機構 → 通常とは逆向きのスプライシングであるバックスプライシングで作られる
- ➤主な機能 → miRNAスポンジだけでなく、タンパク質の足場・転写制御・一部の翻訳が重要
- ➤疾患との接点 → がん・神経疾患・心血管疾患・免疫疾患で発現異常が報告される
- ➤臨床応用 → 現時点では研究段階が中心だが、ワクチン・タンパク質補充・in vivo細胞治療への応用が進む
1. 環状RNA(circRNA)とは:RNAが「輪」になるという発想
RNAというと、多くの方はDNAから情報を写し取ってタンパク質を作るメッセンジャーRNA(mRNA)を思い浮かべるかもしれません。mRNAは5’末端にキャップ構造、3’末端にポリA鎖を持つ直線状の分子で、リボソームに読み取られてタンパク質合成の設計図として働きます。これに対してcircRNAは、5’末端と3’末端が共有結合でつながり、分子全体が閉じた輪になります。端がないため、RNAを端から分解するエキソヌクレアーゼの影響を受けにくく、多くのcircRNAは直線状RNAより細胞内で安定です。
この「輪になったRNA」という性質は、単なる形の違いにとどまりません。RNAは形によって、結合するタンパク質、細胞内の居場所、分解される速さ、翻訳される可能性が変わります。つまりcircRNAは、同じ遺伝子から作られる直線状mRNAとは別の情報層を持つ分子です。DNA配列だけを見てもわからない「RNAとしてどう作られ、どこに存在し、どの分子と結合するか」という視点が、現代の遺伝医学ではますます重要になっています。
💡 用語解説:5’末端・3’末端
RNAやDNAには方向があります。5’末端は「始まり側」、3’末端は「終わり側」と考えるとわかりやすいです。通常のmRNAは両端を持つ直線ですが、circRNAではこの両端がつながっているため、輪のような構造になります。末端がないことが、circRNAの安定性や特殊な働きの基礎になります。
circRNAは、最初から「重要な分子」として注目されていたわけではありません。長い間、スプライシングの途中で偶然できた失敗産物、つまり「細胞内のノイズ」とみなされていました。しかし次世代シーケンサーが普及し、RNA配列を大量に解析できるようになると、ヒトやマウスの細胞で非常に多くのcircRNAが見つかりました。しかも、組織ごと、発生段階ごと、病気の状態ごとに発現量が変わることが示され、単なる偶然の産物ではなく、細胞が使い分けている可能性のあるRNAとして再評価されるようになりました[1][2]。
直線状mRNAとcircRNAの構造イメージ
実際の分子構造を単純化した模式図です
直線状mRNA
5’末端と3’末端があり、端から分解されやすい
環状RNA
端がなく、分解酵素への耐性が高いことが多い
2. circRNAはどう作られるのか:バックスプライシングという特別な道
🔍 関連記事:RNAスプライシング/選択的スプライシング/スプライソソーム
遺伝子から最初に作られるRNAには、タンパク質の設計図として残るエクソンと、通常は取り除かれるイントロンが含まれます。普通のRNAスプライシングでは、上流のエクソンと下流のエクソンが順番通りにつながります。ところがcircRNAでは、下流側のスプライス部位が上流側のスプライス部位へ戻るようにつながります。この反応をバックスプライシングと呼びます。
💡 用語解説:バックスプライシング
通常のスプライシングが「前から後ろへ」RNAをつなぐ反応だとすれば、バックスプライシングは「後ろから前へ戻って」つなぐ反応です。この逆向きの連結によって、RNAの端と端が結ばれ、環状RNAができます。circRNAを理解するうえで最も中心になる概念です。
バックスプライシングが起こるには、RNAの離れた場所同士が空間的に近づく必要があります。そのために、いくつかの仕組みが知られています。第一に、周囲のイントロンに含まれる反復配列が互いに相補的に結合し、RNAを折りたたんでスプライス部位同士を近づける仕組みがあります。第二に、RNA結合タンパク質が左右のイントロンに結合して橋渡しをする仕組みがあります。第三に、通常のスプライシングでエクソンが飛ばされる過程でラリアット構造ができ、その中からcircRNAが生じるモデルもあります。
💡 用語解説:エクソンとイントロン
エクソンは、成熟したRNAに残る部分です。タンパク質を作る情報を含む場合もあります。イントロンは、最初に作られるRNAには含まれますが、多くの場合、スプライシングで取り除かれます。circRNAでは、エクソンだけでできるもの、イントロンだけでできるもの、エクソンとイントロンの両方を含むものがあります。
構造に基づく分類では、エクソンだけからなるexonic circRNA(ecircRNA)、イントロン由来のcircular intronic RNA(ciRNA)、エクソンとイントロンを含むexon-intron circRNA(EIciRNA)がよく説明されます。ecircRNAは細胞質に多く、miRNAやRNA結合タンパク質と相互作用しやすいとされます。一方、ciRNAやEIciRNAは核内にとどまることが多く、親遺伝子の転写調節に関わる例があります。ここで重要なのは、circRNAは一種類の分子ではなく、作られ方・局在・働きが異なるRNAファミリーだという点です。
3. circRNAの働き:miRNAスポンジだけではない多面的な分子
circRNAの働きとして最も有名なのは「miRNAスポンジ」です。代表例であるCDR1as(ciRS-7)はmiR-7結合部位を多数持ち、miR-7の働きを抑える分子として報告されました[3]。miRNAは通常、標的mRNAに結合して翻訳を抑えたり、mRNA分解を促したりします。circRNAがmiRNAを引きつけると、miRNAが本来の標的mRNAに結合しにくくなり、その標的遺伝子の発現が相対的に上がることがあります。
💡 用語解説:miRNAスポンジ
miRNAは、特定のmRNAに結合してタンパク質への翻訳を抑える小さなRNAです。circRNAがmiRNAを吸着するように結合すると、miRNAが本来の標的mRNAに結合しにくくなります。このような「miRNAを吸い取る」働きを、スポンジにたとえてmiRNAスポンジと呼びます。
ただし、現在の理解では、circRNA=miRNAスポンジだけと考えるのは古くなっています。circRNAはRNA結合タンパク質(RBP)とも結合します。あるタンパク質をcircRNA上に隔離して働きを弱めることもあれば、複数のタンパク質を同じcircRNA上に集めて反応を進める「足場」として働くこともあります。細胞内の反応は、分子がただ漂っているだけではなく、必要な分子同士が適切な場所で出会うことで進みます。circRNAは、その出会いの場を作る分子として機能することがあります。
核内に存在するcircRNAは、親遺伝子の転写制御にも関わります。たとえば、EIciRNAがU1 snRNPやRNAポリメラーゼIIと相互作用して、元になった遺伝子の転写を促進する例が報告されています。これは、circRNAが細胞質でmiRNAを吸着するだけの分子ではなく、核内で遺伝子の読み出しそのものにも関わりうることを示しています。
💡 用語解説:RNA結合タンパク質(RBP)
RNA結合タンパク質は、RNAに結合して、そのRNAの場所、寿命、翻訳、分解、他の分子との相互作用を調節するタンパク質です。RNAを「ただの情報のひも」ではなく、細胞内で動的に使われる分子として理解するには、RBPの存在が欠かせません。
さらに、一部のcircRNAには翻訳される能力があります。通常のmRNA翻訳は5’キャップ構造を使いますが、circRNAには5’末端がないため、その仕組みは使えません。その代わり、IRES(内部リボソーム進入部位)やm6A修飾などを利用して、キャップ非依存的に翻訳されるcircRNAが報告されています。ただし、すべてのcircRNAがタンパク質を作るわけではありません。翻訳能を持つのは一部であり、どのcircRNAが本当に機能的ペプチドを作るかは慎重な検証が必要です。
4. 疾患との関係:がん・神経疾患・心血管疾患でなぜ注目されるのか
🔍 関連記事:リキッドバイオプシー/循環腫瘍DNA(ctDNA)/腫瘍微小環境
circRNAは、がん、神経疾患、心血管疾患、免疫疾患などで発現変化が報告されています。がんでは、circRNAが腫瘍の増殖・浸潤・転移を促進する場合もあれば、逆にがん抑制的に働く場合もあります。たとえば、miRNAをスポンジすることで増殖シグナルを強めるcircRNAもあれば、がん抑制遺伝子の発現を保つ方向に働くcircRNAもあります。つまりcircRNAは「良い分子」「悪い分子」と単純に分類できるものではなく、どの細胞で、どのcircRNAが、どの標的と相互作用しているかによって意味が変わります。
がん領域でcircRNAが注目される理由の一つは、体液中で比較的安定に検出される可能性があるからです。血液、血漿、尿、唾液、エクソソームなどに存在するcircRNAは、病気の状態を反映するバイオマーカー候補になりえます。特にがんでは、組織を採取する生検が難しい場面もあるため、血液などから病気の情報を読むリキッドバイオプシーの発展と相性がよいと考えられています。
💡 用語解説:バイオマーカー
バイオマーカーとは、病気の有無、進み具合、治療効果、再発リスクなどを推定するための体内の目印です。血液中の腫瘍マーカー、遺伝子変異、RNA発現量などが含まれます。circRNAは安定性が高いことから、将来のリキッドバイオプシーの候補として研究されています。
神経系では、circRNAが脳で豊富に発現することが知られています。神経細胞は長く生きる細胞で、シナプス機能、局所的な翻訳、RNA輸送、ストレス応答が重要です。circRNAの安定性は、神経細胞のように長期的な分子制御が必要な細胞で特に意味を持つ可能性があります。神経発達、神経変性疾患、加齢との関連も研究されていますが、疾患ごとの因果関係については、まだ慎重に見る必要があります。
心血管領域でもcircRNAは重要です。心筋細胞の増殖、アポトーシス、線維化、心筋リモデリングに関わるcircRNAが報告されています。たとえば、特定のcircRNAがタンパク質複合体の足場として働き、生存シグナルを高める例が研究されています。心不全や心筋梗塞後のリモデリングでは、細胞の死と再生、炎症、線維化が複雑に絡むため、circRNAはその調節ネットワークの一部として注目されています。
5. circRNAをどう見つけるのか:RNA-seqとバックスプライス接合部
circRNAの検出では、通常の直線状RNAには見られない「バックスプライス接合部(back-splice junction:BSJ)」を探します。BSJとは、通常なら隣り合わない順番でエクソンがつながった場所です。RNA-seqデータからこの接合部を見つけることで、circRNA候補を同定します。つまり、circRNA解析では「どの遺伝子から出たRNAか」だけでなく、「どの位置とどの位置が逆向きにつながっているか」を見る必要があります。
💡 用語解説:back-splice junction(BSJ)
BSJは、環状RNAの「輪のつなぎ目」に相当する配列です。直線状mRNAでは出てこない順番でエクソンがつながるため、このつなぎ目を検出することがcircRNA解析の基本になります。ただし、解析ツールやデータ品質によって偽陽性が出るため、実験的な検証が重要です。
研究ではRNase R処理を使うことがあります。RNase Rは多くの直線状RNAを分解しやすいため、circRNAを相対的に濃縮できます。ただしすべてのcircRNAが完全にRNase R耐性というわけではなく、すべての直線状RNAが完全に消えるわけでもありません。また、RNAの二次構造、サンプルの分解度、ライブラリ調製法、リード長、解析アルゴリズムの違いによって結果が変わります。circRNAの論文を読むときには、「検出された」だけでなく「どの方法で検出し、どの方法で検証したか」を確認することが大切です。
6. 次世代RNA医薬としてのcircRNA:長く働くRNAという可能性
🔍 関連記事:脂質ナノ粒子(LNP)/遺伝子治療/AAV9遺伝子治療
mRNA医薬の成功により、「体内にRNAを届けてタンパク質を作らせる」技術は現実の医療になりました。circRNAは末端がないため安定性が高く、適切に設計すれば、直線状mRNAより長くタンパク質を発現できる可能性があります。人工circRNAの設計では、IRES、m6A修飾、コドン最適化、環状化効率、精製方法、送達方法が重要になります[4]。
合成circRNAを医薬品として使うには、まず目的のタンパク質をコードするRNAを設計し、それを環状化し、不要な直線状RNAや二本鎖RNAなどの不純物を取り除く必要があります。研究では、グループIイントロンを利用したPIE法などが使われてきました。環状化そのものは重要ですが、それだけでは不十分です。治療用RNAでは、目的物以外のRNA不純物が自然免疫を刺激する可能性があるため、精製と品質管理が非常に重要です。
RNA医薬として見たcircRNAの強みと注意点
安定性
持続的なタンパク質発現の可能性
製造・精製の難しさ
免疫反応の制御
数値は定量データではなく、研究開発上の相対的な重要度を示した模式図です。
circRNA医薬の応用先としては、感染症ワクチン、がんワクチン、タンパク質補充療法、創傷治癒、眼科疾患、自己免疫疾患、in vivo CAR-Tのような体内細胞改変技術が研究されています。特に、脂質ナノ粒子(LNP)にRNAを包み、標的細胞へ届ける技術はmRNAワクチンで発展しました。circRNAでもLNPは重要な送達手段です。ただし、どの組織に届くか、どの細胞で翻訳されるか、どれくらいの期間発現するかは、RNA配列だけでなくLNP組成や投与経路にも左右されます。
💡 用語解説:脂質ナノ粒子(LNP)
LNPは、RNAを脂質の小さな粒子で包み、体内で分解されにくくしながら細胞へ届けるための技術です。RNAはそのままでは壊れやすく、細胞膜を通りにくいため、LNPのような送達技術が必要です。mRNAワクチンでも重要な役割を果たしました。
ここで特に注意すべきなのは免疫原性です。circRNAそのものの性質だけでなく、製造時に混入する直線状RNA、二本鎖RNA、不完全な環状化産物などが自然免疫を刺激する可能性があります。したがって、「環状だから自然免疫を完全に回避できる」と書くのは不正確です。高純度の精製、品質管理、送達技術が不可欠です。
7. 遺伝診療との接点:circRNAは検査結果の解釈にどう関わるか
circRNAは、現時点で一般的な遺伝子診療における第一選択検査ではありません。多くの遺伝性疾患では、原因遺伝子の病的バリアントを調べるNGSパネル、エクソーム解析、ゲノム解析、あるいはコピー数変化を調べるCMAなどが中心です。一方で、circRNAは遺伝子発現制御、スプライシング、RNA安定性、非コード領域の機能を理解するうえで重要です。
たとえば、DNA上の変化がタンパク質コード領域に直接影響しない場合でも、スプライシングやRNAの発現量、RNA結合タンパク質との相互作用に影響する可能性があります。従来の遺伝子検査では、エクソン内のミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異、スプライス部位変異などを中心に評価してきました。しかし、疾患の背景には、非コード領域、RNA加工、発現量、エピトランスクリプトーム、RNA分子同士の相互作用が関わる場合があります。circRNAは、この「DNA配列から先」の層を考えるための重要な概念です。
💡 用語解説:遺伝子発現制御
遺伝子は「あるかないか」だけでなく、「いつ、どの細胞で、どれくらい働くか」が大切です。この働き方の調節を遺伝子発現制御と呼びます。circRNAは、DNA配列そのものを変えるのではなく、RNAやタンパク質との相互作用を通じて発現制御に関わることがあります。
将来的には、ゲノム情報だけでなく、RNA発現やcircRNAプロファイルを組み合わせることで、病態理解が深まる可能性があります。特に、原因不明の希少疾患、非コード領域のバリアント、スプライシング異常が疑われる症例、がんの治療反応性や再発モニタリングなどでは、RNAレベルの情報が重要になる可能性があります。ただし、現時点では多くが研究段階であり、診断確定に直接使える場面は限定的です。
遺伝カウンセリングでは、「研究で注目されている分子」と「いま受けられる検査」を分けて説明することが大切です。circRNAは将来の診断・治療に関わる可能性がありますが、現在の臨床判断では、まず患者さんの症状、家族歴、既存の遺伝子検査結果、必要に応じた追加解析を総合して考えます。新しい分子の知識は、患者さんを不安にさせるためではなく、検査結果の限界と将来の可能性を正しく理解するために役立ちます。
8. よくある誤解:circRNAを正しく理解するために
circRNAは新しい研究分野であり、魅力的な話題が多い一方で、誤解も生じやすい分子です。特に、安定性が高い、体液中に存在する、RNA医薬に使える可能性がある、という特徴だけが強調されると、あたかもすぐに診断や治療に使える万能分子であるかのように見えてしまいます。しかし、医学では「可能性がある」ことと「臨床で使える」ことの間に大きな距離があります。
注意:circRNAの論文では、発現量の変化が示されていても、それが病気の原因なのか、病気の結果として変化しているのか、まだ不明なことがあります。診断や治療に使うには、再現性、特異性、感度、安全性を段階的に確認する必要があります。
9. まとめ:circRNAは「遺伝子の先にあるRNA層」を理解する鍵です
circRNAは、DNAからRNA、RNAからタンパク質という単純な流れだけでは説明しきれない生命現象を理解するための重要な分子です。端がつながった輪という構造は、安定性、細胞内局在、分子相互作用、翻訳可能性、医薬品としての設計に大きく関わります。かつてはノイズと考えられたRNAが、いまでは疾患研究や創薬研究の中心的なテーマになりつつあります。
一方で、circRNAについてはまだ研究段階の知見も多く、臨床で使うには慎重な評価が必要です。特に、バイオマーカーとして使う場合には疾患特異性と再現性が必要であり、医薬品として使う場合には製造・精製・免疫反応・送達の問題を解決しなければなりません。期待できる分子であることと、すぐに万能の診断・治療になるわけではないことを両方理解することが大切です。
遺伝診療の視点から見ると、circRNAは「検査メニューとしてすぐ選ぶもの」というより、遺伝子変異がどのようにRNAの世界へ波及し、細胞機能や病態へつながるかを考えるための概念です。今後、ゲノム解析、RNA解析、エピトランスクリプトミクス、リキッドバイオプシー、RNA医薬が統合される時代には、circRNAの理解がますます重要になると考えられます。
FAQ:環状RNA(circRNA)についてよくある質問
参考文献
- [1] Memczak S, et al. Circular RNAs are a large class of animal RNAs with regulatory potency. Nature. 2013. [PubMed]
- [2] Jeck WR, et al. Circular RNAs are abundant, conserved, and associated with ALU repeats. RNA. 2013. [PubMed]
- [3] Hansen TB, et al. Natural RNA circles function as efficient microRNA sponges. Nature. 2013. [PubMed]
- [4] Wesselhoeft RA, et al. Engineering circular RNA for potent and stable translation in eukaryotic cells. Nature Communications. 2018. [Nature Communications]
- [5] Huang C, et al. A length-dependent evolutionarily conserved pathway controls nuclear export of circular RNAs. Genes & Development. 2018. [PubMed]
- [6] Chen LL. The expanding regulatory mechanisms and cellular functions of circular RNAs. Nature Reviews Molecular Cell Biology. 2020. [PubMed]
- [7] Kristensen LS, et al. The biogenesis, biology and characterization of circular RNAs. Nature Reviews Genetics. 2019. [PubMed]
- [8] Liu CX, Chen LL. Circular RNAs: Characterization, cellular roles, and applications. Cell. 2022. [PubMed]



