RNA統合シークエンス解析(RNA-ISE)とは
RNA統合シークエンス解析(RNA-ISE)は、米国の先進的な遺伝子解析企業が開発した最新の遺伝子解析技術です。従来のDNA解析だけでなく、RNA(リボ核酸)の解析も同時に行うことで、がんの早期発見や希少疾患の正確な診断を可能にする画期的な検査方法です。希少疾患においては、全エクソームシーケンス(WES)検査だけでは50~75%の患者が未診断に留まるという課題がありましたが、RNA-ISEはこの問題を解決する新たなアプローチとして注目されています。
RNA-ISEの仕組みと特徴
- 技術的原理:
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DNAを基盤とした全エクソームシークエンス(WES)または全ゲノムシークエンス(WGS)分析と、RNAシークエンシング(RNA-seq)による転写物解析を同時に実施します。これによりDNA変異の機能的な影響を直接捉えることができ、DNA配列情報だけでは見逃される原因解明につながります。
- 解析対象:
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遺伝子発現量の異常(著しい発現低下・消失や過剰発現)、スプライシングの異常(エクソン飛躍やイントロン残存、新規スプライス部位の出現など)、アレル特異的発現(変異アレルに由来する転写産物の欠如)などを網羅的に解析します。これにより、コーディング領域、スプライスサイトの変化、および表現型に関連する標的遺伝子の非コード制御領域における変異のRNA レベルへの影響を評価することが可能になります。
遺伝子解析の重要な用語
コーディング領域
DNAのうち、タンパク質の合成に必要な遺伝情報を含む部分を指します。ヒトゲノムの約1~2%を占め、エクソンと呼ばれます。病気の原因となる変異の多くはこの領域に存在するため、診断において重要です。
スプライス部位
RNAの前駆体から不要な部分(イントロン)を取り除き、必要な部分(エクソン)を結合させる過程で重要な役割を果たす部位です。この部位の変異は、正常なタンパク質の生成を妨げ、様々な疾患を引き起こす可能性があります。
ノンコーディング調節領域
タンパク質を直接コードしない(翻訳されない)DNAの領域ですが、遺伝子発現の調節に重要な役割を果たします。プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなどが含まれ、これらの領域の変異は遺伝子の発現量に影響を与え、疾患を引き起こす可能性があります。
トランスクリプトーム
ある細胞や組織内で発現しているすべてのRNA分子(mRNA、rRNA、tRNA、非コードRNAなど)の総体を指します。DNAからRNAへの転写の結果生じる転写産物の集合であり、細胞の機能状態を反映します。RNA-Seqによる解析は、異常な遺伝子発現パターンやスプライシングを検出し、診断に重要な情報を提供します。
RNA-ISE検査の主なメリット
- 診断率の向上
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RNA-ISEはDNA解析単独では未診断に終わった症例の一部に診断をもたらします。研究報告によると、RNA統合解析により追加で10〜30%前後の患者に遺伝学的診断が付いた例があります。特に筋疾患やミトコンドリア疾患など一部領域では大きな効果が示され、筋疾患患者の約35%にRNA-seq解析で新たな病因変異が見つかったとの報告もあります。
- 非コード変異の検出
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全エクソーム解析(WES)ではカバーしない深部イントロン変異や遺伝子調節領域変異による疾患もRNA解析で解明可能です。RNA-ISEでは、それら非コード変異が引き起こす転写産物レベルの異常(スプライシングのずれや遺伝子発現量の低下)を手がかりに変異を突き止めます。
- 変異の機能的効果の裏付け
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DNA上で意義不明(VUS)の変異でも、RNAデータを用いてその変異が機能に与える影響を実証できます。例えばミスセンス変異がある遺伝子について、RNA上で変異アレルに由来する転写産物が消失していれば、その変異が実質的な機能喪失変異である証拠となります。
- 新規疾患遺伝子の発見
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RNA-ISEは未知の疾患遺伝子の同定にも寄与します。発現異常やスプライシング異常から出発して新たな遺伝子変異を発見し、その遺伝子が疾患に関与することを証明した例も報告されています。
検査の対象となる方
以下のような方々に特にお勧めします:
このオプションは、明確な症候群に当てはまらない複雑または非常に稀な表現型の組み合わせを有する患者さん、あるいは以前に行った限定的な検査で陰性だった患者さんに理想的です。
全ゲノムシーケンシング(WGS)について
- 全ゲノムシーケンシング(WGS)の概要
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全ゲノムシーケンシング(WGS)は、患者中心・表現型主導の解析であり、核ゲノムのコーディング領域およびノンコーディング領域の両方を調査し、患者にとって臨床的意義が考えられるバリアントのみを報告するよう設計されています。
- 検査に必要な情報
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全ゲノム検査を依頼する際には、家族歴および臨床情報の提供が必須です。デュオ(2人)またはトリオ(3人)解析を推奨しており、データ解析の精度向上に寄与します。家族検査は、兄弟姉妹やその他の近親者も対象に拡大することが可能です。
- 偶発的所見の取り扱い
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提供された臨床情報と一致しない偶発的(または二次的)所見は、通常は報告されません。偶発的所見の報告を希望する場合は、遺伝学的検査に関するインフォームドコンセント書類を提出することで依頼可能です。偶発的所見として報告されるのは、ACMG(米国医学遺伝学会)が推奨する81遺伝子において、病的または病的の可能性が高いと認められたバリアントのみです。
- RNA統合型配列解析の効果
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RNA統合型配列解析(RISE)は、基礎となる全ゲノム解析に加え、RNAシークエンシング(RNA-seq)によるトランスクリプトーム解析を並行して行うことで、診断確率を約17%向上させるサービスです。DNA中心およびRNA中心の解析を統合することで、コーディング領域、スプライス部位の変化、表現型に関連するターゲット遺伝子のノンコーディング調節領域におけるバリアントのRNAへの影響を評価し、診断的有用性を最大化します。
WGSと他のシーケンシング手法との違い
| 手法 |
対象範囲 |
主な用途 |
コストと時間 |
| Whole Genome Sequencing (WGS) |
ゲノム全体 (全塩基配列) |
網羅的な変異解析、研究用 |
高い |
| Whole Exome Sequencing (WES) |
エクソン領域のみ |
遺伝性疾患の診断 |
中程度 |
| Targeted Gene Panel |
特定の遺伝子群 |
疾患特異的な診断 |
低い |
希少疾患診断におけるRNA-ISEの革新性
RNA-ISEは主に原因不明の希少疾患の遺伝学的診断を補助・加速する目的で活用されています。近年、未診断疾患に対してWES/WGSに加えてRNA-seqを実施する研究が相次ぎ、その有用性が示されてきました。
診断率向上の実例
米国の未診断疾患ネットワーク(UDN)や欧州のSolve-RDプロジェクトでは、エクソームで原因が判明しなかった患者群に対し網羅的な転写産物解析を行い、新たな診断例を数多く報告しています。特に以下のような成功例があります:
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筋疾患の診断: ある先天性筋疾患のコホート研究では、筋生検から得たRNAを解析することでDNA検査だけでは見逃された病的変異を検出し、複数の家族に新たに遺伝学的診断を付けることに成功しています。
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新規疾患遺伝子の同定: ミトコンドリア病の患者において、TIMMDC1遺伝子のスプライシング異常を検出し、それが病因であることを突き止めたことで、TIMMDC1が新規疾患原因遺伝子として同定されました。
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深部イントロン変異の発見: DONSON遺伝子の深部イントロン変異が転写産物のイントロン残存を引き起こし、それが小頭症を伴う症候群の原因であることが明らかになったケースが報告されています。
RNA-ISEの限界と課題
RNA-ISEは強力な検査法ですが、いくつかの制約もあります:
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対象遺伝子の発現に依存: 最大の課題は解析に適した組織試料が必要な点です。遺伝子発現やスプライシングパターンは組織ごとに異なるため、病変組織でその遺伝子が発現していなければRNA-seqから有用な情報は得られません。
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追加コスト・労力: DNA解析にRNA解析を加えることで、コストと手間が増大します。RNA抽出・保存には慎重な取り扱いが必要であり、データ解析も高度な技術が必要です。
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解釈の難しさ: RNA-seqデータから得られる発現変動やスプライシング異常の解釈には慎重さが求められます。また全ての病的変異がRNAに影響を及ぼすとは限らない点も制約です。
今後の展望
RNA-ISEは今後も発展が見込まれる技術です。以下のような進化が期待されています:
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長鎖リードシークエンス: 現在主流のショートリードRNA-seqでは検出が難しい複雑なスプライシング異常や融合遺伝子も、近年発展した長鎖リードシークエンスによって全長の転写産物を解析することで捉えられる可能性があります。
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空間トランスクリプトミクス: 遺伝子発現の空間情報を解析する新手法も台頭しており、組織内でどの細胞が異常発現を示すかまで含めた解析が将来の診断に役立つかもしれません。
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マルチオミクス統合: プロテオミクス(蛋白質網羅解析)やメタボロミクス(代謝産物解析)との統合も視野に入っており、総合的に生体分子情報を統合することで診断精度を一段と高める試みも進行中です。
検査の流れ
結果が出るまでの期間
RISEの納期:注文した検査の結果返却期間からさらに5~7日かかります。
RISEによるWES(全エクソーム・シーケンス):6~8週間
WESの詳細については、こちらをクリックしてください。
RISEによるWGS(全ゲノムシーケンス):8~11週間
WGSの詳細については、こちらをクリックしてください。
検査の手順
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カウンセリング: 検査前に専門医による詳細な説明と遺伝カウンセリングを行います
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採血: 血液サンプルを採取します
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解析: 最先端の技術を用いてDNAとRNAの包括的分析を行います
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結果説明: 検査結果に基づき、専門医がわかりやすく説明し、必要に応じて治療方針を提案します
検査料金
検査料金は、WES,WGSと同じ料金です。
遺伝カウンセリング料金はおひとり様別途16,500円(税込)。検査を受けなくても遺伝カウンセリング料金は診察料ですのでお支払いください。
サンプル
EDTAチューブ1本(全血4mL*)およびPAXgene Blood RNAチューブ1本(全血2.5mL)が必要です。
*1歳未満の方は1~2mLでお受けいたします。
遺伝子検査の結果は、DNA配列の変異や遺伝的な異常の有無を示す複雑な情報が含まれており、その解釈には高度な専門知識が求められます。例えば、遺伝子の変異が必ずしも疾患を引き起こすわけではなく、病気のリスクを高める「病原性変異」や影響が不明な「意義不明な変異(VUS: Variant of Uncertain Significance)」として分類される場合もあります。こうした分類や疾患との関連性を理解し、臨床的な意義を判断するためには、最新の研究データや専門的な解析手法が必要です。
ミネルバクリニックの検査では、米国の信頼ある大手遺伝子検査機関が結果の解析と評価を行い、最新の遺伝学的知見に基づいた高精度な解釈をご提供します。
ミネルバクリニックの強み
専門医による一貫したサポート
ミネルバクリニックでは、内科専門医、がん薬物療法専門医、臨床遺伝専門医である仲田洋美院長が、患者様一人ひとりに寄り添ったカウンセリングから検査結果の説明まで一貫して担当いたします。最先端の遺伝子検査技術と専門的な知識を組み合わせることで、がんから希少疾患まで、幅広い遺伝性疾患に対応し、患者様に最適な医療を提供します。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら