目次
- 1 1. JMMLとは──乳幼児期に発症する希少な「ハイブリッド型」白血病
- 2 2. RAS/MAPK経路の異常活性化──JMMLの分子病態
- 3 3. 臨床症状と初期所見──乳幼児の「成長障害+肝脾腫」を見逃さない
- 4 4. 最新治療戦略──HSCTからエピジェネティクス・分子標的療法へのパラダイムシフト
- 5 5. 予後を決定づける二次的変異とDNAメチル化シグネチャー
- 6 6. 鑑別診断と臨床遺伝学的対応──ヌーナン症候群との重大な区別
- 7 7. 家族計画と次世代へのサポート──予防医療としての遺伝医療
- 8 8. よくある誤解
- 9 9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
- 10 よくある質問(FAQ)
- 11 参考文献
- 12 関連記事
📍 クイックナビゲーション
若年性骨髄単球性白血病(JMML)は、主に4歳未満の乳幼児期に発症する極めて稀な悪性血液腫瘍です。年間100万人に約1.2人と稀少な疾患ですが、その本態はRAS/MAPKシグナル経路の異常活性化にあり、最新の分子診断・分子標的治療によって予後が大きく変わりつつあります。本記事ではWHO 2022分類による最新診断基準、PTPN11・NF1・CBL等の原因遺伝子、アザシチジン・トラメチニブによる分子標的治療、ヌーナン症候群との重要な鑑別、家族計画における選択肢まで、臨床遺伝専門医が丁寧に解説します。
Q. JMMLとはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. JMMLは乳幼児に発症する稀少な造血器腫瘍で、骨髄異形成症候群(MDS)と骨髄増殖性腫瘍(MPN)の特徴を併せ持つ「MDS/MPNオーバーラップ症候群」です。RAS/MAPK経路の遺伝子変異(PTPN11・NF1・KRAS・NRAS・CBL)が原因で、肝脾腫・出血傾向・成長障害が初発症状として高頻度に現れます。標準治療は造血幹細胞移植ですが、近年はアザシチジン・トラメチニブによる分子標的治療が予後を大きく改善しつつあります。
- ➤疫学 → 100万人に1.2人。発症年齢中央値は約2歳、男児優位(男女比2-3.5:1)
- ➤分子病態 → RAS/MAPK経路変異(PTPN11が約35%と最頻、約90-95%で主要5遺伝子のいずれかに変異)
- ➤最新治療 → アザシチジンで61%が寛解、トラメチニブで再発例50%奏効
- ➤予後因子 → SETBP1・ASXL1等の二次変異、DNAメチル化パターン(高メチル化群は予後不良)
- ➤遺伝医療 → 生殖細胞系列変異の場合はヌーナン症候群・CBL症候群・神経線維腫症1型との関連あり、家族計画にも影響
1. JMMLとは──乳幼児期に発症する希少な「ハイブリッド型」白血病
若年性骨髄単球性白血病(Juvenile Myelomonocytic Leukemia: 以下JMML)は、主に乳幼児期に発症する極めて稀かつ侵攻性の高いクローン性造血器腫瘍です。Online Mendelian Inheritance in Manには「OMIM 607785」として、国際疾病分類ではICD-10 C93.3/ICD-11 2A42として登録されています。Orphanet疾患コードは86834です。
本疾患の特異性は、世界保健機関(WHO)の造血器腫瘍分類において「骨髄異形成症候群(MDS)」と「骨髄増殖性腫瘍(MPN)」の双方の特徴を併せ持つ「骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)」のカテゴリーに分類される点にあります。多能性造血幹細胞分画における悪性転化と、分化した子孫細胞(主に顆粒球系および単球系)の異常な増殖・分化異常が本態で、白血病細胞が肝臓・脾臓・リンパ節・皮膚・呼吸器・消化管など多臓器へ広範に浸潤します。
💡 用語解説:MDS/MPNオーバーラップ症候群
骨髄異形成症候群(MDS)は「血液細胞がうまく作れなくなる病気」、骨髄増殖性腫瘍(MPN)は「血液細胞が異常に増えすぎる病気」です。通常はどちらか一方の特徴を示しますが、JMMLは「異形成(うまく作れない)」と「増殖(増えすぎる)」の両方の特徴を併せ持つ「ハイブリッド型」の珍しい血液がんで、両者の境界に位置づけられます。
疫学と発症年齢
JMMLは小児期の骨髄異形成症候群の約30%、小児白血病全体の約1〜2%を占めるに過ぎない極めて稀な疾患です。発症頻度は年間100万人の小児あたり約1.2人と推定されます。発症年齢の中央値は約2歳(24〜27ヶ月)で、大多数の患者が4歳未満で発症します。明確な男児優位性が確認されており、男女比は概ね2:1から3.5:1で報告されています。ただし神経線維腫症1型(NF1)やヌーナン症候群関連疾患などの特定の遺伝的背景を持つ患者では、より年長で発症する例も散見されます。
WHO 2022分類による最新診断基準
2022年に改訂された世界保健機関(WHO)第5版造血器腫瘍分類により、分子遺伝学的な異常が診断の必須要件として組み込まれる決定的なパラダイムシフトが起きました。白血病の診断において芽球の割合という形態学的閾値よりも、疾患を規定する遺伝子異常を重視する精密医療(プレシジョン・メディシン)の潮流を強く反映したものです。
WHO 2022分類における確定診断には、以下の「臨床的・血液学的基準」をすべて満たした上で、特異的な「遺伝学的基準」を満たすことが求められます。
上記の必須基準を満たした上で、PTPN11・KRAS・NRAS・NF1・CBLのいずれかにクローン性変異(NF1とCBLでは生殖細胞系列変異+腫瘍細胞でのLOH/複合ヘテロ接合性変異も含む)が確認されれば、診断が確定します。この基準の導入により、次世代シーケンサー(NGS)による網羅的遺伝子解析が診断プロトコルにおいて不可欠となりました。
2. RAS/MAPK経路の異常活性化──JMMLの分子病態
JMMLの病態生理の核心は、細胞の増殖・分化・アポトーシス・生存を制御する細胞内の主要情報伝達網である「RAS/MAPKシグナル伝達経路」の恒常的な過剰活性化にあります。JMML患者の約90〜95%において、この経路を構成する主要5遺伝子(PTPN11・KRAS・NRAS・NF1・CBL)のいずれかに、相互排他的な病的変異が同定されます(一人の患者につき通常一つのドライバー変異のみ)。
これらの遺伝子変異は、細胞膜上の受容体チロシンキナーゼ(RTK)から細胞核へのシグナル伝達を、外部からのリガンドが存在しない状態でも常に「オン」に固定します。結果として、JMMLの最も特徴的な表現型である「GM-CSFに対する異常な過敏性」と下流の「STAT5の過剰リン酸化」が引き起こされ、造血前駆細胞の無秩序な増殖がもたらされます。JMMLは実質的に、遺伝子変異によって引き起こされる「RASopathy(RASシグナル伝達経路異常症候群)」の極端な悪性表現型と位置づけられます。
PTPN11/CBL/SOS1(機能獲得)、RAS(KRAS/NRAS)、NF1/CBL(ブレーキ役の機能喪失)と多様な遺伝子変異が、最終的に同一のRAS/MAPK経路の異常活性化に集約される。MEK阻害薬トラメチニブは経路下流を、DNAメチル化阻害薬アザシチジンは核内のメチル化異常をそれぞれ標的とする。
主要5遺伝子の頻度と特徴
国際的に確立されたJMMLのドライバー遺伝子変異の頻度は以下のとおりです。コホートによって若干の変動がありますが、各遺伝子の臨床的意義は明確に確立されています。
💡 用語解説:機能獲得型変異 vs 機能喪失型変異
機能獲得型変異(gain-of-function)は、変異によりタンパク質の働きが「強くなりすぎる」「常にオン状態になる」タイプの変異です。JMMLではPTPN11・KRAS・NRASがこのタイプで、シグナルを送り続ける「壊れたアクセル」のような状態を作り出します。
機能喪失型変異(loss-of-function)はその反対で、タンパク質の働きが「弱まる」「なくなる」タイプ。JMMLではNF1(ブレーキ役)とCBL(不要なシグナル分解役)がこのタイプ。「ブレーキの故障」によりアクセルが解除されない状態が続きます。RAS/MAPK経路では、アクセルとブレーキのどちらが壊れても同じ「経路の過剰活性化」という結果を招きます。
3. 臨床症状と初期所見──乳幼児の「成長障害+肝脾腫」を見逃さない
JMMLの初期症状は非特異的であることが多く、発症から確定診断まで数週間から数ヶ月を要することも少なくありません。早期発見のためにも、特徴的な臨床像を理解しておくことが重要です。
🌡️ 全身症状・造血不全
- 発熱・倦怠感・食欲不振
- 体重減少・成長障害(failure to thrive)
- 貧血による著明な蒼白
- 血小板減少による点状出血・紫斑・血便
🫁 臓器浸潤の徴候
- 著明な肝脾腫(90%以上)
- 初診時に肋骨弓下3cm以上の脾腫が典型
- 広範なリンパ節腫脹
- 肺胞・間質浸潤による咳嗽・呼吸困難
🌿 皮膚・粘膜症状
- 単球系細胞の皮膚浸潤による紅斑性皮疹
- 結節性病変
- NF1合併例ではカフェ・オ・レ斑が多数
- 口腔粘膜の出血傾向
🩸 血液所見
- 持続的な単球増加(1,000/µL以上)
- 年齢に対し不相応に高い胎児ヘモグロビン(HbF)
- 骨髄前駆細胞の末梢血出現
- 過形成性の骨髄
補助的診断基準──サイトカイン過敏性と胎児ヘモグロビン
遺伝学的基準を満たさない稀な症例では、必須基準+以下の補助的所見を2つ以上満たすことで診断可能です。特に「GM-CSFに対する異常な過敏性」は本疾患の病態を最も雄弁に物語る所見で、骨髄前駆細胞のコロニー形成試験や、外因性GM-CSF非存在下/低用量下でのSTAT5タンパク質の過剰リン酸化をフローサイトメトリーで証明することで確認されます。
また、年齢に対し不相応に高いHbF値は本疾患のマーカーとして長らく利用されてきており、現在も補助的診断基準の一つです。HbFが極端に高い症例ほど予後不良傾向にあるとされています。
4. 最新治療戦略──HSCTからエピジェネティクス・分子標的療法へのパラダイムシフト
JMMLに対する治療は、急速に進行する病勢を制御しつつ最終的な治癒を目指すという複雑な過程を経ます。歴史的に強力な細胞障害性化学療法(高用量シタラビン等)が試みられてきましたが、化学療法単独での疾患制御効果は極めて限定的でした。現時点でも同種造血幹細胞移植(HSCT)が唯一の治癒をもたらし得る標準治療として位置づけられています。
しかしHSCTには大きな限界が残ります。移植後の白血病細胞再発率は30〜50%と非常に高く、移植後5年無イベント生存率(EFS)は依然52〜64%の範囲にとどまります。さらに移植後再発例の予後は絶望的で、2回目のHSCTを実施しない場合の2年全生存率は約10%です。この過酷な現状を打破するために、近年2つの革新的な薬物療法が臨床の最前線に登場しました。
① アザシチジン──エピジェネティック標的によるブリッジング療法の確立
JMML細胞におけるDNA高メチル化状態が病態悪化に直接関与しているというエピジェネティック発見に基づき、DNAメチル基転移酵素阻害薬「アザシチジン(5-Azacytidine: AZA)」が新たな治療戦略の柱として注目されています。アザシチジンはシトシンアナログで、投与量の80〜90%がRNAに、残りがDNAに取り込まれ、DNAメチル化を低下させてエピジェネティックにサイレンシングされていた癌抑制遺伝子の働きを回復させます。
この有効性を決定づけたのが、欧州小児MDSワーキンググループ(EWOG-MDS)が主導した前向き第II相国際多施設共同臨床試験「AZA-JMML-001試験(NCT02447666)」です。新規診断JMML患児18名に造血幹細胞移植前のブリッジング療法として、アザシチジン単独療法(75 mg/m²、1日1回静脈内投与、28日サイクル中1日目から7日目まで、最大6サイクル)が実施されました。
AZA-JMML-001試験:アザシチジン3サイクル後の臨床奏効
N=18(新規診断JMML患児)
cCR/cPR達成
11/18名
血小板輸血離脱
6/16名
無白血病生存
14/17名
3サイクル時点で11/18名(61%)が臨床的完全寛解(cCR)または部分寛解(cPR)を達成。重篤な血小板減少で輸血依存だった16名のうち6名(38%)が3サイクルで輸血離脱、追跡中央値23.8ヶ月で14/17名(82%)が無白血病生存を維持。
有害事象は全例に見られたものの、治療関連毒性により治療中止となったのは腹痛による1例のみで、小児に対する忍容性と安全性が確認されました。さらに極めて稀ですが、KRAS変異およびモノソミー7を有する乳児患者において、造血幹細胞移植を行うことなくアザシチジン単独療法のみで長期の持続的寛解を維持している症例も報告され、エピジェネティック制御による根治の可能性という新たな地平が示されました。
② トラメチニブ──RAS/MAPK経路を直接遮断する分子標的療法
アザシチジンがエピジェネティクスを標的とするのに対し、JMMLの根本的な発症原因である「RAS/MAPK経路の異常活性化」そのものを直接遮断するアプローチが、MEK1/2に対する経口アロステリック阻害薬「トラメチニブ」です。RASタンパク質の直下流に位置するMEK酵素の働きを強力に阻害することで、異常な増殖シグナルが核内ERKへ伝達されるのをブロックします。
前臨床ではJMML患者由来細胞を用いた異種移植(PDX)マウスモデルにおいて、トラメチニブ単独で白血球数の減少・脾腫消失・正常な赤血球造血への回復が示され、生存期間中央値も対照群124日から治療群194日へと有意に延長(p=0.02)しました。この強力なデータをもとに、再発・難治性JMML患児を対象とした第I/II相臨床試験が実施されています。
年齢中央値23.6ヶ月の乳幼児10名(全例がRAS経路クローン変異を有する)に年齢調整されたトラメチニブが28日サイクルで経口投与され、結果として客観的奏効率(ORR)は50%、2名が完全寛解(CR)、3名が部分寛解(PR)を達成しました。再発難治のため移植適応外と判断されていた4名が、トラメチニブによって再び移植可能な状態まで劇的に回復し、移植後もRAS経路変異が検出限界以下の完全寛解を維持して生存しているという、希望に満ちたデータが報告されました。
現在ではトラメチニブとアザシチジン・フルダラビン・シタラビン等を組み合わせた前向きリスク層別化臨床試験(T2020-004試験)が進行中で、初発JMML患者に対する「移植に依存しない白血病治癒」というパラダイムシフトの実現に近づきつつあります。
5. 予後を決定づける二次的変異とDNAメチル化シグネチャー
JMMLの臨床経過は、致死的な急性白血病への転化から稀な自然軽快まで、個々の患者によって極めて広範な多様性を示します。近年の次世代シーケンサーや高感度デジタルPCRを用いた網羅的ゲノム・エピゲノム解析の進歩により、診断時あるいは病勢進行過程で獲得される「二次的遺伝子変異」と、ゲノム全体の「DNAメチル化シグネチャー」が、予後を決定づける極めて強力な独立因子であることが解明されました。
SETBP1・ASXL1等の二次的変異とクローン進化
JMML患者の約25〜35%において、RAS経路の主要ドライバー変異に加えて、SETBP1・ASXL1・DNMT3A・EZH2・RUNX1・JAK3・SH2B3といった遺伝子に二次的体細胞変異が同定されます。特にSETBP1遺伝子のSKIドメイン変異と、ASXL1変異(約7〜8%)は予後に対し破壊的な影響を及ぼします。
小児オンコロジーグループ(COG)の臨床試験AAML0122の検体を用いた高感度な液滴デジタルPCR(ddPCR)解析では、再発患者の検体を遡って調べた結果、診断時にはサンガーシーケンスの検出限界以下であったごくわずかな細胞群(サブクローン)の中に既にSETBP1変異が存在していたことが明らかになりました。これらの稀な変異クローンが強力な化学療法の治療圧下でも生存し続け、再発時には主要白血病クローンとして増幅・支配的になることが証明されています。
⚠️ 予後への影響:SETBP1変異の有無で5年EFSが33ポイント差
SETBP1変異を有する患者の5年無イベント生存率(EFS)はわずか18%(±9%)、同変異を持たない患者の51%(±8%)と比較して極めて不良です(p=0.006)。診断時に超高感度なNGSやddPCRで微小な二次的変異をスクリーニングすることの重要性が明確に示されており、SETBP1変異が同定された場合は一刻の猶予もなく速やかにHSCTへ移行すべきという強い臨床的指針となっています。
ゲノムワイドDNAメチル化シグネチャーによる3群層別化
複数の独立した大規模国際共同研究により、JMML患者はDNAメチル化の程度に基づいて、明確に異なる3つのエピジェネティック・サブグループに分類可能であることが見出されました。
- ▸高メチル化群(HM):PTPN11変異・SETBP1等の二次変異・高齢発症・高HbF・重篤な血小板減少と相関。多変量解析で全生存期間(OS)を予測する最も強力な独立因子
- ▸中間メチル化群(IM):中間的な予後と臨床経過を示す
- ▸低メチル化群(LM):CBL・NRAS変異を含み、比較的良好な経過。一部に自然軽快例
特に高メチル化群の患者はHSCT後の再発率が著しく高く、メチル化パターン自体が治療強度の決定に決定的な情報を提供します。患者の末梢血で非侵襲的・縦断的にモニタリング可能であり、治療効果判定や再発の早期検知に向けたバイオマーカーとしても極めて有用です。
また染色体レベルでは、7番染色体の単一化(モノソミー7)などの第7染色体異常が約25〜30%の患者で認められ、独立した予後不良因子として扱われます。RAS経路内で2つの異なる変異を同時に有する「複合変異」も予後増悪因子です。
6. 鑑別診断と臨床遺伝学的対応──ヌーナン症候群との重大な区別
🔍 関連記事:ヌーナン症候群とは?特徴・原因・寿命/ヌーナン症候群1型/レオパード症候群3
JMMLは血液腫瘍学の領域であると同時に、背景に遺伝性疾患(RASopathy)が関与する頻度が非常に高いことから、高度な臨床遺伝学的介入が不可欠な疾患モデルです。検出された原因遺伝子変異が「白血病細胞のみに生じた体細胞変異」なのか、「患者の全身細胞に生まれつき存在する生殖細胞系列変異」なのかという鑑別が、臨床的・倫理的・家族学的に最も重要な判断となります。
「JMML様一過性骨髄増殖異常症」という落とし穴
ヌーナン症候群(PTPN11・SOS1・RAF1・RIT1・KRAS等の生殖細胞系列変異が原因)の基礎疾患を持つ乳児では、真のJMMLと血液学的に極めて類似した「JMML様一過性骨髄増殖異常症(JMML-like transient myeloproliferative disorder)」を発症することがあります。しかしこの一過性異常増殖は多くの場合、強力な治療を要さずに自然退縮します。
⚠️ 重大な医療過誤の回避ポイント
血液所見のみで真のJMMLと誤認し、不必要で致死的なリスクを伴う強力な細胞障害性化学療法やHSCTを実施してしまうことは、絶対に避けなければならない重大な医療過誤です。CBL変異・NF1変異が同定された場合も同様に、患者背景に生殖細胞系列の「CBL症候群」「神経線維腫症1型」が存在しないかを、臨床遺伝専門医が身体所見・家族歴から慎重に評価する必要があります。
NF1スペクトラム疾患との関連
NF1遺伝子の生殖細胞系列変異は、JMMLの主要ドライバーであるとともに、複数のNF1スペクトラム疾患の原因でもあります。同じNF1遺伝子の変異が、症状の出方や重症度の違いにより別々の疾患として分類されているという理解が重要です。
NGSによる包括的遺伝子解析が必須
WHO 2022分類が示すとおり、現在のJMML診療において遺伝子検査は「診断を補助するツール」ではなく「確定診断を下すための絶対基準」です。PTPN11等の主要ドライバー変異のみならず、クローン進化に関与し予後を劇的に悪化させるSETBP1やASXL1などの微小な二次的変異を早期検出するためには、従来のサンガーシーケンスでは不十分です。
次世代シーケンサーを用いたターゲットパネル、全エクソーム解析(WES)、全ゲノム解析(WGS)といった包括的アプローチに加え、染色体マイクロアレイ(CMA)やトリオWES(両親と患児の3者同時解析)も有用です。これらの高解像度プロファイリングにより、「一刻も早く移植を急ぐべきSETBP1変異等のハイリスク群」と、「アザシチジン単独等で慎重な経過観察が許容される可能性のある低リスク群」の明確な層別化が可能となります。
7. 家族計画と次世代へのサポート──予防医療としての遺伝医療
🔍 関連記事:遺伝カウンセリングとは/拡大版保因者検査787女性版/PGT-A詳細解説
患者の遺伝子変異が生殖細胞系列に由来する(ヌーナン症候群やNF1など)と判明した場合、その情報は患者個人の治療方針の決定にとどまらず、ご家族の将来のライフプランニングに対して重大な影響を及ぼします。
ヌーナン症候群の原因となる遺伝子異常の約60〜80%は両親に変異を持たない「新生突然変異(de novo変異)」で生じますが、残りの約20〜40%は親からの遺伝(常染色体顕性〔旧:優性〕遺伝)です。後者の場合、親自身が極めて軽症で疾患に気づいていないケースも少なくありません。親が原因遺伝子を保有していると判明した場合、次のお子さんが同じ疾患(およびJMML発症リスク)を受け継ぐ確率は50%となります。
出生前検査と出生後検査の明確な区別
🤰 出生前の検査
非侵襲的スクリーニング:NIPT。特にインペリアルプラン(154遺伝子218疾患・NF1含む)やダイヤモンドプラン(PTPN11・CBL・KRAS・NRAS等の56遺伝子含む)で網羅的解析が可能
確定検査:羊水検査・絨毛検査+ターゲット遺伝子解析
👶 出生後の検査
遺伝子パネル検査:JMML疑い・RASopathies疑い児への網羅的NGSパネル解析
網羅解析:WES/WGS、染色体マイクロアレイ(CMA)。Gバンド法では微細な変異・モノソミー7の確実な検出は困難
妊娠前のリスク低減──ブライダルチェックとPGT-M
これから妊娠を希望されるご夫婦に対しては、体外受精のプロセスに組み込み、遺伝性疾患を発症しない正常な遺伝子を持つ胚を事前に選択して子宮に移植する「着床前遺伝学的検査(PGT-M)」が有効な選択肢として提示されます。また、健康に問題がないように見えるカップルであっても、双方が同一の病的変異を潜在的に保有していた場合、25%の確率で罹患児が誕生するリスクがあります。事前にリスクを把握する「遺伝子ブライダルチェック」の重要性は世界的にも高まっています。
ミネルバクリニックでは、女性向けに787遺伝子の拡大版保因者スクリーニング、男性向けに714遺伝子の拡大版保因者スクリーニングを実施しています。これらは米国産婦人科学会(ACOG)推奨の113遺伝子(Tier 3)を含む、世界最大規模の保因者スクリーニングパネルです。
8. よくある誤解
誤解①「子どもの白血病はすべて急性リンパ性白血病」
小児白血病で最も頻度が高いのは急性リンパ性白血病(ALL)ですが、それだけではありません。JMMLは小児MDSの約30%を占める独立した疾患であり、ALLとは病態も治療戦略も全く異なります。乳幼児の難治性貧血や肝脾腫を見たら、JMMLを必ず鑑別に挙げる必要があります。
誤解②「JMMLはすべて生まれつきの遺伝性」
JMMLのドライバー変異の大半は体細胞変異(後天的)です。一方で、ヌーナン症候群・CBL症候群・NF1などの生殖細胞系列変異が背景にある場合もあり、両者の区別が極めて重要。生殖細胞系列変異の場合は家族計画にも影響します。
誤解③「移植以外に治療法はない」
かつてはHSCTのみが治癒手段とされてきましたが、現在はアザシチジンによるブリッジング療法とトラメチニブによる分子標的療法が確立しつつあります。再発難治例でも移植可能な状態まで改善できる症例が増えており、極めて稀ながら移植非依存で長期寛解を維持する例もあります。
誤解④「ヌーナン症候群の赤ちゃんの血液異常はJMML」
ヌーナン症候群の乳児に見られる血液異常は、しばしば「JMML様一過性骨髄増殖異常症」であり、多くは強力な治療を要さず自然退縮します。真のJMMLと区別せずに化学療法を行うことは重大な医療過誤となります。
9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
よくある質問(FAQ)
🏥 JMML・RAS病・遺伝子診断のご相談
JMML・ヌーナン症候群・CBL症候群・神経線維腫症1型など、
RAS病および小児血液腫瘍に関わる遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
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