疾患概要
Cystic fibrosis 嚢胞性線維症 219700 AR 3
嚢胞性線維症(CF)は、遺伝性の全身性疾患であり、主に肺、膵臓、汗腺、および生殖器系に影響を及ぼします。この疾患は、慢性閉塞性肺疾患、外分泌膵機能不全、そして汗中のナトリウムおよび塩化物濃度の上昇という三徴候で古典的に特徴づけられます。CFの患者は、特に肺感染症や栄養不良による合併症に苦しみ、これらは寿命を短縮する主要な要因となります。また、CFのほぼすべての男性は、先天性両側性精管欠損症により不妊症になります。
CFTR遺伝子の変異がCFの主な原因であり、これによって塩化物イオンの輸送が妨げられ、体内のさまざまな器官で粘液の過剰分泌が引き起こされます。この粘液の過剰は、肺の感染症や膵臓の機能不全、さらには消化不良や糖尿病などの原因となります。
また、気管支拡張症の一形態であるBESC1(気管支拡張症-1)は、上皮性ナトリウムチャネルの3つのサブユニットをコードする遺伝子の変異と関連していることが示されています。これらの変異もまた、気道の機能障害や感染症のリスク増加に寄与しており、CFと類似した症状を引き起こすことがあります。BESC1は、汗の塩化物濃度の上昇を伴うか伴わない気管支拡張症の表現型に対する理解を深めることに貢献しています。
嚢胞性線維症(CF)は、CFTR遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の疾患であり、1,000以上の変異が確認されています。これらの変異は主に、CFTRタンパク質のアミノ酸構成の変化や、遺伝子からのDNAの欠失を引き起こします。最も一般的な変異であるデルタF508は、CFTRタンパク質の508番目のアミノ酸が欠失することで、正常に機能するクロライドチャネルの生成が妨げられます。この変異によって生じる異常なチャネルは、細胞膜に到達する前に分解され、結果として塩化物イオンの輸送が阻害されます。
CFTR遺伝子の変異は、クロライドチャネルの生成、構造、および安定性に影響を与え、チャネルの正常な機能を妨げます。これにより、塩化物イオンの輸送障害と細胞内外の水分移動の障害が生じ、肺や膵臓などの臓器を覆う細胞が異常に濃い粘着性の粘液を産生するようになります。この粘液は気道や分泌腺を閉塞し、嚢胞性線維症の典型的な徴候や症状を引き起こす原因となります。
嚢胞性線維症(CF)は、体内で濃厚で粘着性の粘液が異常に生成される遺伝性疾患で、気道の閉塞、深刻な呼吸障害、慢性の細菌感染を引き起こします。この粘液の蓄積は、肺の瘢痕組織形成や嚢胞の発生により、永久的な肺障害をもたらすことがあります。また、消化器系にも影響を与え、膵臓損傷によるインスリンや消化酵素の産生障害、栄養不良、成長不良を引き起こすことがあります。CFはまた、青年期や成人期に嚢胞性線維症関連糖尿病(CFRDM)のリスクを高めます。
治療法と病気管理の進歩により、CF患者の生存期間は延び、多くの患者が成人になっても生活していますが、呼吸器系や消化器系、生殖器系の問題を引き続き経験します。特に、ほとんどのCF男性は先天性両側性精管欠損症(CBAVD)を持ち、精管が正常に発達せず、自然な方法で子供をもうけることができない状態にあります。女性では、妊娠中に合併症が起こる可能性があります。
臨床的特徴
Estivillら(1987)による研究は、7番染色体上のCF遺伝子座に関連する多型が、メコニウムイレウス、偽モナス感染症、膵疾患の頻度という点で臨床的な差異をもたらす2つのサブグループを定義することを発見しました。これは、CFの表現型の多様性に対する遺伝的要因の影響を示しています。
さらに、Gaspariniら(1990)は、CF遺伝子座に密接に関連するRFLP DNAマーカーが疾患の重症度と関連していることを報告しました。特に、遺伝子型2/2は重症疾患と関連し、遺伝子型1/2は非常に軽度の臨床症状を示す患者に多くみられました。これらの研究結果は、CFの症状の重症度が遺伝子の変異や特定の遺伝子型によって影響を受ける可能性があることを示唆しています。
これらの発見は、CFの診断と治療において個々の遺伝的背景を考慮する重要性を強調しており、患者ごとのパーソナライズドなアプローチが有効であることを示しています。
胎便イレウス
Allanら(1981)の研究は、嚢胞性線維症(CF)が原因で起こる胎便イレウス(新生児期の腸閉塞)が兄弟姉妹間で再発する傾向があることを明らかにしました。この状態は、CFの成人においても遠位腸閉塞症候群として類似の症状を示し、異常に粘着性のある粘液が消化管内に蓄積することで、特に食事後に症状が悪化します。
Mornetら(1988)は、41家族を対象にCFに関連するハプロタイプを4つのDNAプローブを用いて解析しました。その結果、胎便イレウスを持つ子供と持たない子供の家系で異なるハプロタイプが関連していることが示され、CFの表現型に影響を与える複数の対立遺伝子や異なる変異が存在することが示唆されました。
これらの研究は、CFの臨床的な多様性と遺伝的背景の複雑性を浮き彫りにし、特定の遺伝子変異が胎便イレウスのような特定の臨床的特徴にどのように関与するかを理解する上で重要な意味を持ちます。この知見は、CFの個々の患者に対するよりパーソナライズされた治療戦略の開発に貢献する可能性があります。
肝疾患
嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis, CF)は遺伝性の疾患であり、CFTR遺伝子の変異が原因で、肺や膵臓、肝臓などの外分泌腺に影響を及ぼします。特に、CFに伴う肝疾患は、疾患の進行において重要な合併症の一つです。
胆道閉塞と肝疾患
Gaskinらの研究によると、嚢胞性線維症で肝疾患を持つ患者の大多数(96%)に胆道閉塞が見られ、主に遠位総胆管の狭窄によるものでした。これは、CF患者における肝疾患の一般的な特徴であり、胆汁の流れの障害によって引き起こされます。
肝硬変とMBL2遺伝子
Gaboldeらの研究では、嚢胞性線維症患者における肝硬変の発症が、マンノース結合レクチン(MBL)をコードするMBL2遺伝子の変異と有意に関連していることが示されました。特に、MBL2遺伝子の変異対立遺伝子のホモ接合体または複合ヘテロ接合体を持つ患者は、野生型対立遺伝子を持つ患者に比べて、肝硬変のリスクが著しく高いことがわかりました。
CF関連肝疾患と遺伝的修飾因子
Bartlettらの研究では、CF関連肝疾患の発症に影響を及ぼす可能性のある複数の遺伝子の多型に焦点を当てました。特に、SERPINA1遺伝子のZ対立遺伝子がCF関連肝疾患のリスクを著しく高めることが示されました。この対立遺伝子を持つ患者は、重篤な肝疾患を発症するリスクが約5倍に増加することがわかりました。
結論
嚢胞性線維症に伴う肝疾患は、CFTR遺伝子の変異だけでなく、他の遺伝的要因も重要な役割を果たしていることが示されています。これらの遺伝的修飾因子の同定は、CF関連肝疾患のリスク評価や治療戦略の開発に貢献する可能性があります。今後も継続的な研究が必要ですが、これらの知見はCF患者における肝疾患の管理と治療に新たな洞察を提供しています。
膵機能不全
膵機能不全と膵機能充足のサブグループ
膵機能不全(PI): CF患者の大部分は膵機能不全(PI)を示し、膵臓からの消化酵素の分泌が不足しています。これにより、消化不良や栄養吸収不良が起こります。
膵機能充足(PS): 一方で約15%のCF患者は膵機能充足(PS)を保っており、消化酵素の分泌が正常に近いレベルを維持しています。
遺伝的要因と膵臓病変の関連
研究により、PIとPSのサブグループ間でCFTR遺伝子座の異なる変異とハプロタイプの分布が存在することが示されました。これは、膵機能の異なる臨床的表現がCFTR遺伝子座の異なる変異に関連していることを示唆しています。特に、PI患者はCF遺伝子座における単一の突然変異から派生している可能性が高く、PS患者は複数の異なる突然変異の結果である可能性があります。
膵臓病変の家族内一致
膵表現型は家族内で一貫していることが多く、これは遺伝的背景が膵臓病変の発生に大きな役割を果たしていることを示しています。また、CFTR遺伝子変異のヘテロ接合体が特発性慢性膵炎の発症に関与する可能性があり、特にCFTR遺伝子のイントロン8のチミジン数の可変性が関係していることが示されました。
結論
これらの研究成果は、CFTR遺伝子の変異が嚢胞性線維症における膵臓病変の発症において重要な役割を果たしていることを強調しています。また、遺伝的背景が膵機能の異なる臨床的表現に大きく影響しており、CFTR遺伝子の変異だけでなく、そのハプロタイプや他の修飾遺伝子座が疾患の発症および進行に寄与している可能性があります。これらの知見は、嚢胞性線維症の個別化医療や新たな治療戦略の開発に向けた重要なステップです。
肺疾患
これらの研究は、嚢胞性線維症(CF)における慢性肺感染症の発症メカニズムと自然免疫応答の複雑な相互作用を明らかにしています。CF患者が慢性緑膿菌肺感染症にかかりやすい理由について、Pierら(1996)は、CFTR遺伝子の変異が細胞内での緑膿菌の取り込みを阻害し、これが緑膿菌の気道内での増殖を促進する可能性があることを示しました。また、緑膿菌のリポ多糖構造がCFの気道環境に特異的に適応していることが、Ernstら(1999)によって同定されました。
MBL(マンノース結合レクチン)の役割については、Garredら(1999)やDaviesら(2000)の研究が示すように、MBL2遺伝子の変異がCF患者における慢性緑膿菌感染と関連している可能性があり、MBLの変異型対立遺伝子保有者は特に感染リスクが高いことがわかりました。MBL欠乏は、特にBurkholderia cepaciaとの感染に対するリスクを高める可能性がありますが、緑膿菌に対してはそのような影響は見られないことが示されています。
気道表面液(ASL)の体積と塩濃度の調節に関するTarranら(2001)の研究は、CF患者の気道疾患の発症において、ASLの体積減少がCl^-濃度の異常よりも重要である可能性を示唆しています。この研究は、ASLの量を正常化する新しい治療法の開発が、CF患者の肺機能を改善する上で重要であることを強調しています。
これらの研究は、CFにおける肺疾患の発症と進行の複雑な生物学的プロセスを理解する上で重要な洞察を提供しています。それらは、慢性肺感染症の予防と治療のための新しい標的を同定し、CF患者の生活の質の向上に寄与する可能性があります。
不妊症
不妊症は多くの場合、生殖器系の機能障害に関連しています。Oppenheimerら(1970)による研究は、子宮頸管粘液の特性が子宮蓄膿症を持つ女性の不妊の一因である可能性を示唆しました。一方で、先天性両側性精管欠損症(CBAVD)は、嚢胞性線維症(CF)における男性不妊の主要な原因です。
CBAVDの発生には、CFTR遺伝子の変異が関与しています。特に、CFTR遺伝子のイントロン8におけるチミジンの多型数が重要で、5T対立遺伝子の存在はCBAVDのリスクを高めることが知られています。この5T変異は、CFTR遺伝子の正常なスプライシングを妨げ、CFTRタンパク質の量や機能に影響を与える可能性があります。これにより、精管が正常に形成されず、精子が精巣から射精される経路が遮断され、結果として不妊症につながります。
CBAVDにおけるCFTR遺伝子のヘテロ接合体変異や5T対立遺伝子の関連性は、嚢胞性線維症のスクリーニングや不妊症の原因を探る際に重要な考慮事項です。これらの知見は、不妊症の診断と治療において、遺伝的要因を理解し対応することの重要性を強調しています。
がん
Siraganianら(1987年)、Schoumacherら(1990年)、Bradburyら(1992年)、Negliaら(1995年)、およびFreedmanら(2004年)の研究は、嚢胞性線維症(CF)患者におけるがんの発生とその背景にある分子遺伝学的機序に関する貴重な洞察を提供しています。
Siraganianら(1987年)は、嚢胞性線維症の男性3人が29歳から34歳の間に回腸腺癌の診断を受けたことを報告しました。これは、CF患者におけるがんのリスクが一般集団とは異なる可能性を示唆しています。
Schoumacherら(1990年)は、フェニルアラニン508欠失を持つ26歳のCF患者から膵臓腺癌の細胞株を樹立し、CF細胞の特性を示すことに成功しました。この細胞株はCFの研究において貴重なツールとなります。
Bradburyら(1992年)は、CFTRタンパク質が細胞膜のリサイクリングに重要な役割を果たしていることを発見し、CFTRが正常に機能していない場合、細胞膜のリサイクリングが妨げられることを示しました。
Negliaら(1995年)のレトロスペクティブコホート研究は、CF患者におけるがん全体のリスクは一般集団と同様であるものの、消化管がんのリスクが高まることを明らかにしました。この結果は、CF患者における持続的または原因不明の消化器症状に対する注意を促します。
Freedmanら(2004年)は、CF患者とCFノックアウトマウスの両方において、脂肪酸レベルの変化が観察され、特にアラキドン酸レベルの上昇とドコサヘキサエン酸レベルの低下が確認されました。この脂肪酸の変化は、CF患者におけるがんの発生やその他の病態に関連している可能性があります。
これらの研究は、CF患者におけるがん発生の潜在的リスクと、CFTRタンパク質の機能不全が細胞レベルでどのように影響を及ぼすかについての理解を深めるものです。これらの知見は、CF患者のがんリスクの管理と予防策の開発に向けたさらなる研究の基礎を築いています。
その他の特徴
嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis, CF)は、CFTR遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の疾患で、主に呼吸器系や消化器系に影響を及ぼしますが、その影響はこれらのシステムに限定されません。CF患者における思春期の遅れは、この疾患の複雑な影響を示す一例です。
思春期の遅れの原因
CF患者における思春期の遅れは、多くの場合、慢性疾患の存在や栄養不良に起因するとされています。慢性的な呼吸器感染症や消化吸収障害は、成長と発達に必要な栄養素の摂取や利用を妨げ、結果的に思春期の遅れを引き起こすことがあります。
栄養状態や臨床状態が良好な場合の思春期遅延
Johannesson et al. (1997) による研究は、栄養状態や臨床状態が良好であっても、CF患者においては思春期が遅れることがあると報告しています。これは、CFの生理学的または分子生物学的特性が、成長や性的成熟に直接影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。例えば、CFTR遺伝子の機能不全は、体内の塩分バランスに影響を及ぼし、これがホルモンの代謝や機能に影響を与える可能性があります。
CF患者の管理における考慮事項
CF患者における思春期の遅れを考慮に入れることは、包括的なケアの提供において重要です。これには、栄養状態の最適化、慢性感染症の管理、そして必要に応じて内分泌学的評価や介入が含まれます。また、思春期の遅れは、患者やその家族にとって心理社会的な影響も及ぼすため、適切なサポートと教育が必要です。
結論
CF患者における思春期の遅れは、疾患の多面的な影響を示す例であり、CFの管理において多職種のアプローチが必要であることを強調しています。患者の全体的な健康と幸福を支援するために、成長と発達に関連する問題に対処することが重要です。
マッピング
Scamblerら(1985)やEibergら(1984、1985)による研究は、CF遺伝子が7番染色体上の特定の遺伝マーカーと連鎖していることを示しました。特に、PON遺伝子座やF13Bとの連鎖が指摘され、CF遺伝子の位置が7q22.3-q23.1の範囲に絞り込まれました。
Tsuiら(1985)は、CF遺伝子座とPON遺伝子座が連鎖していることを発見し、その間の距離を約5cMと推定しました。この発見は、CF遺伝子の位置特定における重要な進展を示しました。
さらに、Estivillら(1987)は、レア・カッター・コスミド・ライブラリーを用いてCF遺伝子座の候補領域を同定し、HTFアイランドを特徴とするゲノム領域が高い連鎖不平衡にあることを発見しました。これらのHTFアイランドは、CpGに富むメチル化フリーアイランドを含み、CF遺伝子の同定に貢献しました。
最終的に、CF遺伝子座と7番染色体上の他のマーカーとの間の強い連鎖不平衡が示され、CF遺伝子の位置が7q31.3-q32にマッピングされました。CollinsとMorton(1998)は、連鎖証拠と対立遺伝子の関連を組み合わせる方法を通じて、疾患遺伝子のポジショナルクローニングのための領域を同定するアプローチを示しました。
これらの研究は、CF遺伝子の位置特定と、CFの原因となる遺伝的変異の理解における重要な進歩を示しています。
遺伝
常染色体劣性遺伝のパターンでは、ある特定の遺伝子の変異したコピーを両親からそれぞれ1つずつ受け継ぐことで疾患が発現します。この遺伝パターンにおいて、両親は変異遺伝子の1つのコピーを持つヘテロ接合体であり、通常、疾患の徴候や症状を示さない「保因者」とされます。子供が疾患を発症するためには、両親から受け継いだ遺伝子の両方のコピーに変異が存在する必要があり、これをホモ接合体変異と呼びます。
この遺伝メカニズムにより、保因者の両親から生まれる子供は、以下の可能性を持ちます:
25%(4分の1)の確率で、子供が両方の変異遺伝子のコピーを受け継ぎ、疾患を発症します(ホモ接合体)。
50%(2分の1)の確率で、子供が1つの変異遺伝子のコピーを受け継ぎ、疾患は発症せず、両親と同様に保因者になります(ヘテロ接合体)。
25%(4分の1)の確率で、子供が両親から受け継いだ遺伝子の変異コピーを1つも受け継がず、疾患のリスクを持たず、保因者でもありません。
常染色体劣性遺伝疾患には、嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血、フェニルケトン尿症(PKU)などがあります。これらの疾患の管理と治療には、早期診断と遺伝カウンセリングが重要です。遺伝カウンセリングでは、両親や潜在的な保因者が自身の遺伝的状態とリスク、将来の子供への影響について理解し、情報に基づいた選択をするための支援が提供されます。
頻度
民族間の罹患率の違い
嚢胞性線維症の罹患率は民族によって大きく異なります。この差異は、CFTR遺伝子の特定の変異が特定の民族集団内で共有されているか、あるいはその頻度が異なるために起こります。
白人: 米国では、白人の新生児の約2,500~3,500人に1人が嚢胞性線維症に罹患します。これは、嚢胞性線維症が最も一般的に見られる民族グループです。
アフリカ系アメリカ人: 嚢胞性線維症はアフリカ系アメリカ人の間ではより稀であり、約17,000人に1人の割合で発症します。
アジア系アメリカ人: アジア系アメリカ人ではさらに罹患率が低く、約31,000人に1人が罹患しています。
罹患率の違いの意味
これらの統計は、嚢胞性線維症のスクリーニングや診断、治療戦略を計画する際に考慮すべき重要な要因を示しています。特定の民族集団内での罹患率の違いは、遺伝的カウンセリングや新生児スクリーニングプログラムの設計において特に重要です。
まとめ
嚢胞性線維症の民族間の罹患率の違いは、この疾患が遺伝的背景に深く根ざしていることを示しています。疾患の管理と治療において、これらの違いを理解し、各患者に最適なケアを提供するためには、遺伝的要因を考慮に入れることが不可欠です。
原因
●CFTR遺伝子の変異とその影響
CFTR遺伝子における変異は、塩化物チャネルの機能障害を引き起こし、これにより塩化物イオンと水の適切な流れが妨げられます。この結果、特に肺や膵臓で、異常に粘着性が高く濃い粘液が産生されます。この粘液は管状構造を詰まらせ、感染症のリスクを高め、様々な器官の機能障害を引き起こします。
●嚢胞性線維症の特徴的な徴候と症状
肺: 粘液の蓄積は気道を塞ぎ、呼吸困難、慢性的な咳、繰り返し起こる肺感染症を引き起こします。
膵臓: 粘液によって膵管が詰まると、消化酵素が十二指腸に運ばれなくなり、消化不良や栄養不良を引き起こします。
他の影響: 嚢胞性線維症は、生殖器系や汗腺など、体の他の部分にも影響を及ぼすことがあります。
嚢胞性線維症の重症度に影響する要因
嚢胞性線維症の重症度は、患者によって大きく異なります。これは、CFTR遺伝子の変異の種類や位置、他の遺伝的要因、環境要因などによって影響を受けるためです。例えば、変異の種類によっては、塩化物チャネルの機能が完全に失われる場合と、部分的に機能する場合があり、それによって症状の重症度が変わります。
●研究の進展
嚢胞性線維症の理解は、過去数十年にわたり大きく進展してきましたが、CFTR以外の遺伝子の変異が疾患の病態にどのように影響しているかについては、まだ多くが不明です。今後の研究により、これらの追加的な遺伝的要因が明らかになると、嚢胞性線維症のより個別化された治療戦略の開発につながる可能性があります。
診断
BaudetとKazazianによるガイドラインでは、スクリーニングの実施にあたっての倫理的な基準や品質管理の重要性が強調されています。
Hammondらの研究は、新生児スクリーニングの実行可能性と有効性を示し、CFの発生率を明らかにしました。
Farrellらの研究は、早期診断と栄養介入によるCF患者の成長と栄養状態の改善を実証しましたが、Dankert-Roelse and te Meermanはスクリーニングの一般的な導入のタイミングについて疑問を投げかけました。
MullerらとScotetらの研究は、超音波検査によるCFの出生前診断の可能性を示しました。
DequekerらとDe Becdelievreらの報告は、CFTR関連疾患の分子遺伝学的診断に関するガイドラインを提供し、CFおよびCFTR関連疾患の診断と管理における遺伝子検査の役割を強調しています。
これらの研究から得られた知見は、CFのスクリーニングおよび管理におけるベストプラクティスの発展に貢献しています。早期診断と介入は、CF患者の健康と生活の質を改善するための鍵となります。また、これらの研究は、将来のスクリーニングプログラムや治療戦略の開発において重要な基礎となります。
治療・臨床管理
デオキシリボヌクレアーゼIの使用: Hubbardら(1992年)による研究では、組換えDNA技術で産生されたヒトデオキシリボヌクレアーゼIがCF患者の喀痰中のDNAを切断し、喀痰の粘度を低下させることで、肺機能の改善に寄与することが報告されています。この治療法は、肺における粘液の過剰な蓄積を管理し、感染症のリスクを減少させることができます。
線維性大腸症の管理: Smythら(1994年)は、嚢胞性線維症の小児における結腸狭窄(後に線維化結腸症と呼ばれる)のケースを報告し、外科的切除が必要であることを指摘しました。この状態は、高強度の膵酵素製剤の使用と関連している可能性がありますが、その原因は完全には明らかにされていません。FitzSimmonsら(1997年)の研究は、高用量の膵酵素製剤が線維化結腸症のリスクを著しく増加させることを示し、膵酵素の投与量に関する重要な勧告を提供しました。
これらの治療法と管理戦略は、嚢胞性線維症患者の生活の質を向上させるための重要なステップです。特に、喀痰の粘度を低下させるアプローチは、肺機能の維持と感染症の予防に対して有効です。また、線維性大腸症のリスクを管理するためには、膵酵素製剤の適切な使用が重要であり、これにより不必要な外科的介入を避けることができます。
Potentiator
ポテンシエイターはCFTRモジュレーターであり、ゲートを開いたままにして塩化物が細胞膜を通過できるようにする薬剤です。
嚢胞性線維症(CF)の治療に用いられるCFTRモジュレーターは、遺伝的変異に応じて特定の患者群に対する効果が示されています。これらの薬剤は、CFTR遺伝子の変異によって生じるタンパク質の機能不全を修正または改善し、症状の緩和を目指します。
Kalydeco(ivacaftor)は、G551D変異を有するCF患者向けの最初のCFTR増強剤としてFDAによって2012年に承認されました。この薬剤は、CFTRタンパク質のゲート機能を正常化し、塩化物イオンの流れを改善することで、肺機能の向上と肺の感染リスクの減少をもたらします。
ルマカフトールとアイバカフトール(ivacaftor)の併用療法は、Phe508del CFTR変異ホモ接合体を持つ12歳以上の患者を対象に、肺機能の改善や肺増悪のリスク低下などの臨床的利益を示しています。この併用療法は、CFTRタンパク質の正しい細胞内への輸送を促進し(ルマカフトールによる)、その後のチャネル機能を活性化させる(アイバカフトールによる)ことで作用します。
テザカフトールとアイバカフトールの併用は、同じくF508del CFTR変異ホモ接合体を持つ患者に対して有効であり、肺機能の改善や肺増悪のリスク低下をもたらすことが確認されています。テザカフトールはCFTRタンパク質の細胞膜への輸送を改善し、アイバカフトールはそのチャネル機能の活性化を支援します。
エレキサカフトール-テザカフトール-イバカフトールの併用療法は、phe508del-minimal function遺伝子型を持つ12歳以上のCF患者に対する治療として開発されました。この三重併用療法は、FEV1(強制呼気量)の予測値に対する顕著な改善、肺増悪のリスク低下、生活の質の向上を示し、CF治療の新たな地平を開きました。エレキサカフトールはCFTRタンパク質の細胞膜への輸送をさらに強化し、テザカフトールとアイバカフトールはそれぞれの作用機序でCFTRの機能を改善します。
これらの治療法は、CF患者に対して個別化された治療選択肢を提供し、CFTRタンパク質の機能不全に直接介入することで、病態の根本原因に対処することができます。臨床試験では、これらの薬剤の安全性と有効性が確認されており、CFの管理における大きな進歩とされています。それぞれの治療法には、特定のCFTR変異を持つ患者群での使用が推奨されており、適切な患者に対しては肺機能の改善、生活の質の向上、そしてより良い疾患管理の可能性を提供します。
アムホテリシンB
アムホテリシンBに関するMuragliaらの研究は、嚢胞性線維症(CF)の治療における新たなアプローチを提供しています。CFはCFTR遺伝子の変異により引き起こされる遺伝性の疾患で、主に肺や膵臓などの外分泌腺に影響を及ぼします。CFTRタンパク質の機能不全は、気道の粘液分泌異常や感染症の増加、さらには気道表面液のpH低下を引き起こし、これがさまざまな気道疾患の原因となります。
アムホテリシンBの作用機序
アムホテリシンBは、非選択的イオンチャネルを形成する抗真菌薬であり、Muragliaらの研究によると、CF患者の気道上皮細胞にアピカル(細胞の外側)から添加することで、重炭酸塩分泌を促進し、気道表面液のpHを上昇させることができることが示されました。このプロセスは、基底側(細胞の内側)のNa(+), K(+)-ATPaseの活動に依存しており、アムホテリシンBによって形成されたチャネルが陰イオン分泌の原動力として機能していることを示唆しています。
治療への応用
アムホテリシンBは、CFTRタンパク質を生じない、あるいは異常なCFTRタンパク質を持つCF患者の気道上皮においても、気道表面液のpH、粘度、抗菌活性を改善することができました。この点は、CFの治療において重要な意味を持ちます。CFTR遺伝子の変異は多岐にわたり、一部の患者ではCFTRタンパク質が完全に欠損しています。アムホテリシンBによる治療は、CFTRに依存しないため、CFのさまざまな遺伝子型に対して効果的な可能性があります。
結論
Muragliaらの研究は、アムホテリシンBがCFにおける宿主防御の回復を促進し、特にCFTR機能不全による影響を受ける患者において、遺伝子型に依存しない治療オプションとして有望であることを示しています。この治療戦略は、CF患者の生活の質の向上と、疾患の管理における新たな可能性を開くものです。今後、さらに詳細な研究が必要ですが、アムホテリシンBによる治療はCF治療の新たな地平を開くかもしれません。
遺伝子治療
嚢胞性線維症(CF)に対する遺伝子治療の研究は、過去数十年にわたり進展してきました。これらの研究は、CFTR遺伝子の変異を持つ患者の肺や他の器官の機能を改善するための新しい治療法を探求しています。
遺伝子治療の初期の試み
Rosenfeldら(1992) は、複製欠損型組換えアデノウイルスベクターを用いて、綿ラットの気道上皮に正常ヒトCFTR遺伝子を導入し、ヒトCFTR転写産物の発現を確認しました。この研究は、CFの肺症状に対する遺伝子治療の可能性を示唆しました。
Hydeら(1993) は、リポソームを用いたCFTR発現プラスミドの導入により、トランスジェニックマウスのイオンコンダクタンス欠損を改善しました。
臨床試験
Crystalら(1994) は、CF患者の鼻および気管支上皮に組換えアデノウイルスベクターを投与し、CFTR cDNAの発現を確認しましたが、一部の患者で一過性の全身および肺症候群が観察されました。
Knowlesら(1995) の対照試験では、鼻上皮の機能欠損を改善することに成功せず、局所炎症反応によって投与できるアデノウイルスの量が制限されました。
研究の課題と展望
CFの遺伝子治療は、生体外で操作された幹細胞の移植ではなく、in vivoアプローチに焦点を当てています。気道への遺伝子導入にはエアロゾルを介した方法が探求されていますが、治療効果を実現するためには、標的細胞への効率的な遺伝子導入と長期的な発現が必要です。
研究者たちは、安全性の向上、治療効果の持続性、および局所炎症反応の軽減に向けた新しいベクターや導入方法を開発するために努力しています。
遺伝子治療の研究は、CFの根本的な遺伝的原因に対処する有望なアプローチですが、臨床応用にはまだ多くの課題が残っています。今後の技術の進歩と臨床試験の結果が、CF治療における遺伝子治療の可能性をさらに明らかにすることが期待されます。
病因
Quinton(1983)とKnowlesら(1983)は、CFの根本的な欠陥が塩化物輸送の障害にあることを最初に提唱しました。Widdicombeら(1985)は、CF患者の上皮細胞において、正常なサイクリックAMP依存性の塩化物イオン輸送が機能しないことを確認しました。
この病態の背景には、CFTR(Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator)遺伝子の変異があります。Landryら(1989)は、クロライドチャネル活性を示すタンパク質を腎臓と気管から精製し、これらがCFで欠損している分泌性クロライドチャネルの一部である可能性があることを示唆しました。また、Marinoら(1991)は、CFTR分子が膵臓細胞の特定の部位に存在することを示し、これが膵機能不全に重要な役割を果たしていることを示しました。
CFの病態は、塩化物イオンチャネルの欠陥だけではなく、塩分と水分の分泌や再吸収の過程全体にわたる影響を受けます。Matsuiら(1998)は、CF気道上皮の異常な液体吸収率が粘液輸送を阻害し、感染症のリスクを高めることを示しました。Reddyら(1999)は、嚢胞性線維症において、塩化物イオンの透過性の欠損がナトリウムイオンの伝導能低下を伴うことを発見しました。
さらに、Kravchenkoら(2008)は、細菌が免疫応答を抑制するメカニズムを明らかにし、CF患者における持続感染の背景にある可能性を示唆しました。これらの研究結果は、CFの複雑な病態生理を理解する上で重要であり、治療法の開発において考慮されるべき重要な要素です。
細胞遺伝学
一方、Spenceら(1988)の研究では、嚢胞性線維症の症例で一親ダイソミーが発見され、これは高分解能細胞遺伝学的解析で確認されました。一親ダイソミーは、ある染色体の両コピーが片親から由来する状態を指し、これが劣性遺伝性疾患の発症にどのように関与するかを理解する上で重要です。一親ダイソミーは、モノソミー受胎の後の染色体増加、トリソミー受胎の後の染色体喪失、受精後のエラー、または配偶子の相補性など、さまざまなメカニズムによって生じる可能性があります。
これらの研究は、嚢胞性線維症の遺伝学的背景を理解する上での重要なステップであり、細胞遺伝学と分子遺伝学の手法が疾患の原因遺伝子の同定にどのように役立つかを示しています。嚢胞性線維症遺伝子の正確な位置の特定と、劣性遺伝性疾患における一親ダイソミーの発見は、診断、治療、および予防戦略の開発において重要な意味を持ちます。
分子遺伝学
Drummら(2005)は、重症または軽症の肺疾患を有するCF患者におけるTGFB1遺伝子の変異を調査し、特にコドン10の多型において表現型との有意な関連が見られたことを発見しました。コドン10 CC遺伝子型は、重症肺疾患のリスクを約2.2倍に増加させました。
Dorfmanら(2008)は、緑膿菌の初感染年齢とMBL2遺伝子の欠損との間に有意な関連を見出し、TGFB1の高発現遺伝子型を持つ患者でこの効果が増幅されることを発見しました。これは、TGFB1とMBL2の相互作用がCF肺疾患の進行に影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。
Bremerら(2008)は、CF患者におけるTGFB1遺伝子の特定のSNP(単一核苷酸多型)が肺機能に有益な影響を与える可能性があることを発見しました。これらのSNPは、CFTR遺伝子型別に層別化された患者において、肺機能の改善と関連していました。
これらの研究結果は、CFにおける肺疾患の重症度に影響を及ぼす可能性のある複数の遺伝的要因の存在を示しています。TGFB1遺伝子は、CFの臨床表現型における修飾遺伝子として機能し、特定の遺伝子型が肺機能に有益または不利な影響を与えることが示されています。これらの発見は、CF患者の管理および治療戦略の改善に向けた研究において重要な洞察を提供しています。
上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)サブユニット
非古典型嚢胞性線維症(CF)は、CFTR遺伝子の変異によってCFTRタンパク質の機能が低下するが完全には消失しない症例で見られ、CFの典型的な症状とは異なる表現型を示すことがあります。これらの表現型には、CFTR遺伝子に変異が見つからない場合も含まれますが、上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)サブユニットの遺伝子変異が関与していることが示唆されています。
ENaCサブユニット遺伝子の関与
ENaCは、肺や気道の上皮細胞表面に存在し、ナトリウムの吸収を調節する重要なチャネルです。CFTRとENaCは、気道の液体輸送と塩分バランスの維持において相互作用し、いずれかの機能不全は気道の粘液輸送異常を引き起こし、CFやCF様の疾患表現型につながる可能性があります。
SCNN1BとSCNN1G遺伝子: これらの遺伝子は、ENaCのβサブユニットとγサブユニットをコードしています。変異は、ナトリウムチャネルの活性化または機能不全を引き起こし、CF様の症状や特発性気管支拡張症に関連する可能性があります。
SCNN1A遺伝子: αサブユニットをコードするこの遺伝子の変異も、CF様の表現型に関与する可能性があります。特に、W493Rのような高活性変異体は、CFTR遺伝子に変異を持たない患者で見られ、CF様症状の原因となる可能性が示唆されています。
CFと非古典型CFの臨床的意義
これらの研究は、CFや非古典型CFの診断において、CFTR遺伝子のスクリーニングだけでなく、ENaCサブユニット遺伝子の変異も考慮に入れるべきであることを示唆しています。特に、CFTR遺伝子の変異が見つからないCF様表現型の患者では、ENaCサブユニットの遺伝子変異が症状の原因である可能性があります。
結論
CFと非古典型CFの理解において、CFTR遺伝子とENaCサブユニット遺伝子の両方を考慮することは、病態の理解、適切な診断、そして治療戦略の開発に不可欠です。これらの遺伝子変異の検出は、CF様症状を示す患者に対する包括的な評価と管理を提供するための重要なステップです。
確認待ちの関連
これらの研究は、嚢胞性線維症(CF)患者の病態に影響を及ぼす様々な遺伝子とその変異についての洞察を提供します。CFはCFTR遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患であり、肺や膵臓などの器官に粘着性の粘液が蓄積し、慢性的な炎症や感染症を引き起こします。しかし、CFの臨床的表現型は患者によって大きく異なり、これは部分的にはCFTR遺伝子以外の修飾遺伝子による影響によるものです。
Fcガンマ受容体IIa(FCGR2A)
De Roseら(2005年)による研究は、FCGR2A遺伝子のR131対立遺伝子を持つCF患者は、慢性緑膿菌感染症のリスクが高いことを示しています。これは、免疫系の応答におけるFcガンマ受容体の役割と、病原体に対する宿主の防御メカニズムとの関連を示唆しています。
レプチン(LEP)
Mekusら(2003)による研究は、CFの疾患発現におけるレプチン遺伝子の役割を示しています。レプチンは、食欲やエネルギー消費に関与するホルモンであり、CF患者における栄養状態や肺機能と関連しています。
腫瘍壊死因子/マンノース結合レクチン2(TNF-α、MBL2)
Buranawutiら(2007)の研究は、TNF-αおよびMBL2遺伝子型がCF患者の生存率と関連していることを示しています。これらの遺伝子は炎症応答および免疫系の機能に関与しており、CFの重症度に影響を及ぼす可能性があります。
インターフェロン関連発生調節因子1(IFRD1)
Guら(2009)の研究は、IFRD1がCF肺疾患の重症度を修飾する遺伝子として機能することを示しています。IFRD1は、好中球の機能および細菌のクリアランスに関与し、CF患者の肺疾患の重症度に影響を与える可能性があります。
ダイナクチン4(DCTN4)
Emondら(2012)の研究は、DCTN4遺伝子の変異が緑膿菌感染の早期発症に関連していることを示しています。これは、CF患者における感染症の感受性に関する重要な洞察を提供します。
α-1-アンチトリプシン(AAT)
Meyerら(2002)の研究は、α-1-アンチトリプシン欠損症の対立遺伝子がCFの肺予後とは関連しないことを示しています。これは、プロテイナーゼとアンチプロテアーゼのバランスがCFの肺疾患の発症において重要な役割を果たす可能性があることを示唆しています。
これらの研究結果は、CFの臨床的表現型に影響を及ぼす可能性のある複数の遺伝的要因を浮き彫りにし、CF治療のための個別化医療戦略の開発に貢献する可能性があります。
遺伝子型と表現型の関係
一方、Sheppardら(1993)は、delF508のような変異が正常なプロセシングを阻害し、CFTR変異体が塩化物電流を生成せず、重篤な疾患と関連することを発見しました。しかし、R117H、R334W、R347Pのような変異体は、正常に処理され、アピカルなクロライドチャネル機能を保持し、比較的軽症のCFを引き起こします。
Kubeschら(1993)は、膵臓機能が保持されている患者では、緑膿菌によるコロニー形成率が著しく低いことを明らかにし、これらの「軽度」のCF対立遺伝子が緑膿菌を獲得するリスクが低いことを示しました。
最も興味深い事例の一つとして、Kulczyckiら(2003)は、71歳で診断された最高齢のCF患者を報告しました。この患者は、重度CFに関連する変異と軽度CFに関連する変異の両方を持っており、比較的健康な生活を送っていました。これは、CFの遺伝子型が非常に多様であり、患者の臨床的表現型に大きな影響を与えることを示しています。
これらの研究は、CFの表現型の多様性を理解し、個々の患者に対する遺伝子またはタンパク質の置換療法などのパーソナライズドな治療戦略を開発する上で重要な情報を提供しています。
集団遺伝学
SteinbergとBrown(1960)は、オハイオ州の白人小児において、表現型の頻度が約3,700人に1人であると推定しました。
Klinger(1983)は、オールド・オーダー・アーミッシュの間で異なる発生率を報告し、地域によってCFの遺伝子頻度が異なることを示しました。
Boisら(1978)とScotetら(2002)は、フランスのブルターニュ地方でCFの発生率が2,630人に1人であることを発見し、地域によって発生率に勾配があることを示しました。
Romeoら(1985)は、イタリアでのCFの発生率が約1/2000であることを報告しました。
これらの研究結果は、CFの発生率と遺伝子頻度が地理的に異なることを示しています。特に、オールド・オーダー・アーミッシュやブルターニュ地方などの特定の集団では、CFの発生率が全国平均と比べて高いことが確認されています。
また、Oberら(1987)による研究は、フッタイト集団におけるCF遺伝子の多様な起源を示唆しています。このような集団遺伝学的研究は、CFの原因となる遺伝子変異の伝播や集団内での遺伝子の多様性を理解する上で重要な手がかりを提供します。
JordeとLathrop(1988)によるユタ州の白人家族における研究は、CF保因者の妊孕性に関する興味深い観察を提供しましたが、補正を適用した後、保因者と対照者間の妊孕性に有意な差は認められないことが明らかになりました。
フッター派とCFハプロタイプ
フッター派の集団では、CFの原因となる3つの異なるハプロタイプが存在し、そのうち1つはよく知られたphe508欠失を含んでいることが示されました。これは、ハッタート集団の創始者の中に少なくとも3人のCF変異のオリジナル保因者がいたことを意味します。
CF変異の地理的分布
北アイルランドや北欧の集団では、CF遺伝子座が特定のDNAマーカーと強い連鎖不平衡にあることが確認され、これはCFが単一の祖先の突然変異から生じた可能性があることを示唆しています。一方、アメリカの黒人集団では、複数の突然変異対立遺伝子が存在することが示唆されました。
CFの地域的発生率
アラブ人集団ではCFが非常にまれであると考えられていましたが、サウジアラビアでの症例が報告されています。南ヨーロッパの集団では、phe508欠失がCF染色体の約半数にしか存在せず、複数の独立した突然変異が存在することが示唆されました。
CF変異の多様性
PCR法とハイブリダイゼーションを用いた研究では、南ヨーロッパの集団で最も頻度の高い突然変異がG542X、R1162X、N1303Kであることが明らかにされました。これは、CFに関連する突然変異の多様性と、特定の地域や人口集団に特有の変異の存在を示しています。
ブルターニュのケルト人集団でのFerecら(1992年)の研究は、CFTR変異の多様性を示し、9つの新しい変異を含む19の異なる変異を特定しました。この研究は、特定の人口集団内でのCF遺伝子変異の広範な多様性を浮き彫りにしました。
イスラエルのユダヤ人集団におけるKeremらの研究は、CFの発生率と変異の頻度がユダヤ人のサブグループ間で異なることを示しました。アシュケナージ系と非アシュケナージ系ユダヤ人のCF発生率の違いは、これらの集団が異なる遺伝的背景を持つことを示しています。
オランダでのde Vriesら(1997)の研究は、地域によってCFの保因者頻度に勾配があることを発見しました。これは、特定の地理的地域がCF変異の分布に影響を与える可能性があることを示唆しています。
CF変異の検出率
スコットランドのBrockら(1998)の研究は、CFの発生率を推定し、特定の変異に対するスクリーニングの重要性を強調しました。
アフリカ系アメリカ人集団におけるMacekら(1997)の研究は、アフリカ系アメリカ人CF患者における独自の「一般的な」CF変異の存在を明らかにしました。
これらの研究は、CFの診断、遺伝カウンセリング、および患者の管理において、民族的および地理的背景を考慮することの重要性を示しています。さらに、CF遺伝子の変異の全スペクトルを理解することは、遺伝子治療や他の治療戦略の開発においても重要です。これらの知見は、CF研究において、特定の人口集団に固有の変異を特定し、その影響を理解するための基盤を提供します。
進化
細菌毒素による下痢への耐性: Hansson(1988)やBaxterら(1988)は、CF遺伝子のヘテロ接合体が、特定の細菌毒素による下痢から保護する可能性があると示唆しました。これは、過去に疫病やコレラなどの感染症が流行した地域で、CF遺伝子の保因者が生存に有利だったことを意味するかもしれません。
免疫系との相互作用: McMillanら(1989)は、CF遺伝子座のヘテロ接合性が免疫系との関連を持つ可能性があることを示唆しました。これは、CF遺伝子と免疫系の間に何らかの相互作用が存在し、それが免疫応答に有利な影響を与える可能性があることを示しています。
コレラや腸チフスへの耐性: RodmanとZamudio(1991)やPierら(1998)の研究は、CFヘテロ接合体がコレラや腸チフスに対する耐性を持つ可能性があることを示しています。これは、これらの病気が流行した地域でCF遺伝子の保因者が生存上の利点を持っていた可能性があることを示唆します。
疾患への感受性の低下: Van de Vosseら(2005)やHogenauerら(2000)の研究は、CFヘテロ接合体が特定の病気に対して感受性が低いことを示しています。これは、腸内での塩化物イオンの分泌に関連するメカニズムが、病原体の侵入や疾患の発症に影響を与えることを示しています。
これらの研究は、CF遺伝子のヘテロ接合体が過去の疫病に対する耐性を提供し、遺伝子の高頻度の維持に寄与している可能性を示唆しています。これは、遺伝的変異が進化の過程でどのように有利な特性を提供し、集団内で維持されるかを理解する上で重要な視点を提供します。
動物モデル
マウスモデル
嚢胞性線維症(CF)に関する研究では、動物モデルが重要な役割を果たしています。マウスモデルは、CFの病態生理を理解し、新たな治療法の開発に不可欠です。Engelhardtらによる研究では、ラットの気管にヒト気道を模したモデルを用い、レトロウイルスによる遺伝子導入の可能性を示しましたが、完全に分化した上皮では遺伝子導入が困難であることが分かりました。
Clarkeら、Colledgeら、Dorinら、Snouwaertらによって作成されたトランスジェニックマウスモデルは、CFTR遺伝子の異なる変異を持つモデルを提供し、CFの腸管病態やイオン透過性の欠如を再現しました。これらのモデルは、特に腸閉塞や腸の異常を示し、ホモ接合体マウスでは受胎可能性に影響を与えることなく、病態の理解を深めました。Dorinらのモデルでは、エキソンスキッピングによる正常なCftr mRNAの産生が示され、CFのイオン輸送欠損を是正することはないものの、腸の表現型の重症度を改善することが示唆されました。
Zhouらは、ラット腸脂肪酸結合蛋白遺伝子プロモーターの制御下にあるヒトCFTR遺伝子を用いたマウスモデルを作製し、CFTR遺伝子の導入がCF患者における生理学的欠損を修正する有用な戦略であることを示しました。
しかし、Colemanらによる研究では、CFTR欠損マウスが緑膿菌のコロニー形成と感染に対して高い感受性を示し、肺疾患の発症に重要な因子を提供することが示されました。一方で、Mallらの研究では、気道ナトリウム吸収の増加がCF様の肺疾患を引き起こし、気道表面の液体量の減少と粘液輸送の阻害につながることが明らかにされました。
Harmonらは、Cftr欠損マウスがペルオキシソーム増殖因子活性化受容体-γ(PPAR-γ)機能の欠損を示し、それが遺伝子発現の病理学的プログラムに寄与していることを発見しました。ロシグリタゾンの投与によるPPAR-γシグナル伝達の可逆的欠損の補正は、Cftr欠損細胞における病態の重症度を改善する新たな治療戦略を提供します。
これらの研究は、CFの治療における遺伝子治療の可能性を示すと同時に、CF患者の生理学的欠損を修正するための薬理学的介入の有効性を示しています。CFの動物モデルは、病態生理の理解を深め、新たな治療法の開発に不可欠な役割を果たしています。
羊モデル
嚢胞性線維症(CF)の研究において、大型動物モデルの開発は、この疾患の理解と治療法の発展に不可欠です。ヒツジは、ヒトのCFTR(Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulator)遺伝子と高い保存性を示し、その発現パターンがヒトと類似しているため、CFの大型動物モデルとしての可能性があります。
ヒツジCFTR遺伝子の特性
DNAコードおよびポリペプチドレベルでの保存性: ヒツジのCFTR cDNAはヒトと比較して、DNAレベルで90%、ポリペプチドレベルで95%の保存性があります。これは、ヒトとマウス間の保存性(それぞれ80%と88%)よりも高いです。
発現パターンの類似性: ノーザンブロット解析と逆転写PCRによって、ヒツジのCFTR遺伝子の発現パターンがヒトに見られるパターンと非常に類似していることが示されました。
発生的発現: ヒツジにおけるCFTRの発生的発現は、ヒトで観察されるものと同等です。
ヒツジを用いたCFモデルの有用性
組織特異的および発生的発現パターン: ヒツジとヒトのCFTRは高い類似性を示し、組織特異的および発生的発現パターンがヒトのそれと非常に類似しています。これは、ヒツジモデルがヒトのCFを再現する上で重要な利点を提供します。
膵臓の病態: CFの膵管の分泌物の沈着による閉塞は、ヒトの妊娠中期に始まり、出産までに膵臓は構造的、機能的に破壊されます。ヒツジモデルは、このような膵臓の病態を研究するための貴重なツールとなる可能性があります。
子宮内治療の検討: ヒツジモデルを使用することで、CFに対する子宮内治療の可能性を探ることができます。これは、疾患の進行を遅らせるか、あるいは防ぐための新しい治療戦略を開発する上で重要です。
結論
ヒツジを用いたCFの大型動物モデルは、ヒトの病態を再現する能力により、CFの基礎研究や新たな治療法の開発に大きな貢献をすることが期待されます。ヒツジCFTR遺伝子の高い保存性と発現パターンの類似性は、ヒツジモデルがCFの理解を深め、疾患管理に新たなアプローチを提供するための強力な基盤を形成します。
豚モデル
これらの研究は、嚢胞性線維症(CF)の理解を深めるためにブタモデルを使用することの重要性を示しています。ブタモデルは、ヒトのCFと非常に類似した疾患特性を示し、特に肺や消化器系の病理学的変化を再現することで、疾患のメカニズムの解明や新たな治療法の開発に貢献しています。
CFTR欠損ブタモデルの主な発見
新生ブタの塩化物輸送障害: CFTR遺伝子を欠損したブタは、塩化物輸送の障害、メコニウムイレウス、外分泌膵破壊、巣状胆汁性肝硬変など、ヒトのCFと非常に類似した症状を発症します。このモデルは、CFの初期発症と進行を研究するのに理想的です。
肺の自然発生的な疾患: Cftr -/-ブタは、生後数時間で肺から細菌を除去する能力が低下しているにもかかわらず、初期には肺炎症を示さないという特徴があります。しかし、細菌の除去不全により、生後数ヶ月以内に炎症、感染、粘液蓄積などが進行し、自然発生的な肺疾患が発症します。
粘膜繊毛輸送(MCT)の障害: CFのブタモデルは、粘膜繊毛輸送の障害も示し、これがCFの一次的な欠陥であることを示唆しています。粘膜下腺からの粘液ストランドの分泌異常や、非CF気道で陰イオン分泌を抑制することによるMCT障害の再現など、MCT障害のメカニズムに関する新たな知見が得られました。
これらの研究は、CFの複雑な病態生理を理解し、特に早期に発症する肺や消化器系の病変に対する治療法を開発するための新たな方向性を提供しています。ブタモデルは、ヒトのCFと類似した疾患進行を示すため、新しい治療法の前臨床試験において非常に有用です。
歴史
回腸閉鎖症: Blanckら(1965)によってCFの2人の兄弟で最初に報告されました。
線毛の作用阻害: Spockら(1967)は、CF患者の血清がウサギの気管粘膜の線毛の作用を阻害する因子を含んでいることを発見しました。
cri-du-chat症候群とCF: Smithら(1968)はcri-du-chat症候群の子供にCFを発見し、嚢胞性線維症の遺伝子座が5番染色体短腕にある可能性を示唆しましたが、後の研究で否定されました。
遺伝的同質性: Vitaleら(1986)はイタリアの12のCF家系でCF遺伝子とMET遺伝子座の連鎖を発見し、CFの遺伝的同質性の仮説を支持しました。
遺伝子のマッピング: 1980年代初頭から中頃にかけて、CF遺伝子は7番染色体に位置すると特定されました。
遺伝子型と表現型の相関: Wine(1992)やSheppardら(1993)などの研究は、CFTR変異が塩化物イオンチャネルの機能とCFの臨床的表現型にどのように影響を与えるかを明らかにしました。
臨床管理: Hubbardら(1992年)は、組換えDNA技術によって産生されたヒトデオキシリボヌクレアーゼIの使用が喀痰粘度を低下させることを報告しました。
集団遺伝学: SteinbergとBrown(1960)は、CFが小児期の致死的遺伝性疾患の中で最も頻度の高い疾患であることを示しました。
これらの歴史的な発見と研究は、CFの遺伝学、生理学、臨床管理に関する現在の理解に不可欠な基盤を提供しています。
疾患の別名
Cystic fibrosis of pancreas
Fibrocystic disease of pancreas
Mucoviscidosis