疾患に関係する遺伝子/染色体領域
疾患概要
Neurodevelopmental disorder with spastic diplegia and visual defects 痙性片麻痺と視覚障害を伴う神経発達障害 615075 AD 3
痙性斜頸と視覚障害を伴う神経発達障害(NEDSDV)は、CTNNB1遺伝子におけるヘテロ接合体の変異によって引き起こされる比較的まれな遺伝性障害です。この状態は、神経発達に影響を与え、特定の神経系の問題を引き起こします。
痙性斜頸と視覚障害を伴う神経発達障害(NEDSDV)は、発達遅延、知的障害、筋緊張の低下、小頭症といった特徴を持ち、異常な頭蓋顔貌が認められる状態です。罹患者は視覚に関連するさまざまな問題を抱えることが多く、それには斜視、視神経の萎縮、網膜の異常が含まれます。特に下肢に痙性が現れることがあり、行動に異常を示す場合もあります。
### CTNNB1遺伝子とは?
CTNNB1遺伝子は、β-カテニンタンパク質をコードしています。β-カテニンは細胞接着とWntシグナリングの両方において重要な役割を果たすタンパク質であり、これらのプロセスは細胞の増殖、分化、および運命決定に不可欠です。β-カテニンの調節不全は、発達障害やがんを含むさまざまな病態に関連しています。
### 痙性斜頸と視覚障害を伴う神経発達障害(NEDSDV)
NEDSDVは、その名の通り、痙性斜頸(首の筋肉が引きつることによる異常な頭部の傾き)と視覚障害を特徴とします。さらに、この症候群は、遅延した神経発達、知的障害、言語発達の遅れ、運動調整の問題など、他の神経発達の特徴を伴うことがあります。
### 遺伝
NEDSDVはCTNNB1遺伝子の変異によって引き起こされますが、この状態は通常、新規変異(de novo変異)によって生じ、患者の家族歴にこの症状が見られないことが多いです。このため、NEDSDVはヘテロ接合体変異による遺伝性障害の一例とされます。
### 診断と治療
NEDSDVの診断は、臨床的特徴、神経発達の評価、および遺伝子検査によって行われます。現在、この障害に特有の治療法はありませんが、症状の管理とサポートが重要です。物理療法、作業療法、視覚支援サービス、特別な教育プログラムなどが、患者の能力を最大限に引き出すために推奨されます。
NEDSDVのような特定の神経発達障害の研究は、遺伝子の変異が人間の発達にどのように影響を与えるかについての理解を深め、将来的にはより効果的な介入や治療戦略の開発につながる可能性があります。
臨床的特徴
– 発達遅延と重度の知的障害: 乳児期から見られる精神運動発達の遅れ、言語障害が著しく、多くの患者で知的障害が確認されています。
– 運動障害: 筋緊張低下、進行性の痙性片麻痺がみられ、多くの患者で歩行が不安定になったり、歩けなくなったりしています。
– 小頭症: 原発性小頭症が約半数の患者に見られ、これは脳の発達障害を示唆しています。
– 顔貌の特徴: 鼻翼が小さく、鼻先が広がっている、人中が長いまたは平坦、上唇が薄いなどの特徴が一般的です。
– 視覚障害: 11人の患者に視覚障害が見られましたが、この研究では具体的な視覚障害の内容までは明らかにされていません。
これらの特徴は、NEDSDVを持つ患者の診断と管理において重要な指標となります。治療に関しては、現在特定の治療法は存在せず、症状の管理とサポートに焦点を当てた対症療法が中心となっています。物理療法、作業療法、特別支援教育、視覚支援サービスなどが、患者の能力を最大限に引き出し、生活の質を向上させるために推奨されるでしょう。また、患者と家族への精神的サポートも非常に重要です。
細胞遺伝学
分子遺伝学
– de Ligtらは、3人の患者でCTNNB1遺伝子の機能喪失型変異を発見しました。これらのうち2つはde novoで、3番目の患者では父親の遺伝情報が利用できなかったため、母親からの遺伝ではないことが確認されました。
– Tucciらは、NEDSDV患者でCTNNB1遺伝子のde novoヘテロ接合体切断変異を同定し、CTNNB1のハプロ不全が表現型に関与していることを示しました。
– Kuechlerらは、15家系16人のNEDSDV患者からCTNNB1遺伝子のde novo変異を発見しましたが、これらの変異の機能影響については検討されていません。
– Kharbandaらは、11人の患者でCTNNB1遺伝子の不活性化変異を同定し、これらの患者が以前に記述された特徴を示すことを確認しました。これには、知的障害や小頭症の他に、色白の皮膚と細く色白の毛髪が含まれます。
– Liらは、網膜剥離を示す15ヵ月齢の男児でCTNNB1遺伝子のde novo変異を見つけました。この男児はまた、小頭症や発達遅延を示しました。
– Panagiotouらは、滲出性硝子体網膜症と発達遅延を有する3歳の男児でCTNNB1遺伝子のde novo変異を同定しました。
これらの研究結果は、CTNNB1遺伝子の変異が神経発達障害の一因であることを示しており、β-カテニンシグナル伝達経路がこれらの疾患の発生において重要な役割を果たしていることを示唆しています。これらの発見は、これらの障害の診断や治療法の開発に貢献する可能性があります。
動物モデル
変異マウスにおける脳の形態学的変化は、脳構造の発達過程におけるβ-カテニンの役割を示唆しています。初期段階での神経細胞の増加に続いて、樹状突起の分岐の減少が観察され、これはβ-カテニンの機能喪失が神経発達の過程において重要な影響を及ぼしていることを示しています。また、β-カテニンのsiRNAによるノックダウンが野生型神経細胞でも同様の影響をもたらしたことから、T653K変異が機能喪失を引き起こす可能性がさらに支持されました。
変異型ニューロンの電気生理学的研究は、神経ネットワークの興奮性が高く、機能的な結合が効率的でないことを明らかにし、これが行動・認知異常に寄与している可能性が示唆されました。これらの発見は、β-カテニンが神経発達およびシナプス機能の調節において中心的な役割を果たしており、その変異が神経発達障害の原因となり得ることを示しています。
この研究は、β-カテニンの役割と機能についての理解を深めるとともに、特定の神経発達障害や他の神経系疾患における潜在的な治療標的としてβ-カテニンを考慮することの重要性を強調しています。
疾患の別名
精神発達障害、常染色体優性19、旧:MRD19型、旧:MRD19