疾患に関係する遺伝子/染色体領域
疾患概要
D-2-hydroxyglutaric aciduria D-2ヒドロキシグルタル酸尿症 600721 AR 3
D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症-1(D2HGA1)は、D-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ(D2HGDH)遺伝子の変異によって引き起こされる希少な神経代謝疾患です。この遺伝子は染色体2q37上に位置し、D-2-ヒドロキシグルタル酸の代謝に重要な役割を果たします。この疾患は、遺伝子のホモ接合変異または複合ヘテロ接合変異により発症し、主に神経系に影響を及ぼします。
Chalmersらによって1980年に初めて報告されたこの疾患は、発達遅延、てんかん、筋緊張低下、異形性などの臨床症状を伴います。D2HGA1には軽度および重度の表現型があり、van der Knaapら(1999年)によって特徴づけられています。重症の表現型は均一で、幼児期早期に発症するてんかん性脳症と心筋症を特徴とします。一方、軽度の表現型では臨床症状が多様で、患者によって異なる特徴を示します。
D2HGA1の診断は、尿中のD-2-ヒドロキシグルタル酸の増加を確認することで行われ、遺伝子検査によって遺伝子変異の特定が行われます。治療に関しては、症状に基づいた対症療法が中心となりますが、特定の治療法はまだ確立されていません。
この疾患は、遺伝的、臨床的にも多様性があるため、患者一人ひとりに合わせた個別の対応が必要です。神経代謝疾患としての理解が進むにつれ、より効果的な治療方法の開発が期待されています。
D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症(D-2-HGA)I型は、D2HGDH遺伝子の変異によって生じる代謝異常症であり、D-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼという酵素の活性低下が特徴です。この酵素は、D-2-ヒドロキシグルタル酸を2-ケトグルタル酸に変換する役割を持ち、この変換が妨げられると、D-2-ヒドロキシグルタル酸が体内に蓄積します。研究者らは、この疾患を引き起こす30以上のD2HGDH遺伝子変異を同定しています。
これらの変異は、酵素のアミノ酸配列を変化させることで酵素の構造と機能に影響を与えることがあります。一部の変異は酵素の活性を直接低下させ、また他の変異は、非機能性の短縮版酵素の産生を引き起こすことがあります。これにより、正常な代謝プロセスが妨げられ、D-2-ヒドロキシグルタル酸が適切に分解されずに細胞内に蓄積します。
D-2-ヒドロキシグルタル酸の蓄積は細胞に対して毒性を持ち、特に脳細胞はこの毒性に対して脆弱であるため、進行性の脳障害を引き起こすことがあります。これは、D-2-HGA I型の患者が生後早期に脳関連の症状を呈する主な理由です。脳への影響は、運動障害、発達遅滞、てんかん発作など、さまざまな形で現れることがあります。
D-2-HGA I型の診断と治療は、遺伝的検査を通じて特定のD2HGDH遺伝子変異を同定し、適切な管理とサポートを提供することが重要です。現在、この状態に対する根本的な治療法は限られていますが、症状の管理と患者の生活の質の向上に向けた支援が可能です。
2-ヒドロキシグルタル酸尿症は、代謝異常によって脳に進行性の障害を引き起こす遺伝性疾患です。この疾患は、D-2-ヒドロキシグルタル酸(D-2-HGA)、L-2-ヒドロキシグルタル酸(L-2-HGA)、および両者の合併形態(D,L-2-HGA)の3つの主要なタイプに分けられます。各タイプは、体内での2-ヒドロキシグルタル酸の代謝経路の異常に基づいています。
### D-2-HGA
D-2-HGAはさらに、I型とII型の2つの亜型に分類され、遺伝的原因と遺伝パターン、および症状の違いによって区別されます。I型は比較的穏やかな症状を示すことが多いのに対し、II型はより早期に発症し、重篤な健康障害を引き起こします。特にII型では、心筋症を含む心臓の問題が見られることがあります。
### L-2-HGA
L-2-HGAは特に小脳に影響を及ぼし、運動の調整に問題を生じさせます。発育遅延、てんかん発作、言語障害、巨頭症などの症状があり、乳児期または幼児期に症状が始まります。この障害は時間とともに進行し、成人期早期には重度の障害を引き起こすことが一般的です。
### D,L-2-HGA
D,L-2-HGAは非常に重篤な症状を伴い、乳幼児期に明らかになります。重度のてんかん発作、筋緊張の低下、呼吸および摂食障害が特徴で、多くの場合、乳児期または幼児期を超えて生存することは難しいです。
2-ヒドロキシグルタル酸尿症の診断は、尿や血中の2-ヒドロキシグルタル酸の濃度の測定、遺伝子検査によって行われます。治療は症状の管理に焦点を当てており、遺伝的アプローチによる治療法の開発が進められています。早期診断と適切な管理により、患者の症状の進行を遅らせることができる場合がありますが、現時点で根本的な治療法はありません。
遺伝的不均一性
D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症はメタボローム疾患の一種で、代謝異常に基づく病態を持ちます。患者では、神経系に影響を与えることが多く、発達遅延、てんかん発作、筋緊張低下などの症状が現れることがあります。この病気の重症度は個人差が大きく、症状の出現形態や程度は変異によって異なります。
遺伝的検査によりIDH2遺伝子の変異を特定することで、この病気の診断が可能になります。遺伝的カウンセリングは、変異保有者の家族や将来子供を持つことを考えている人にとって重要な情報源となり得ます。現時点では、D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の治療法は症状の管理に重点を置いており、栄養療法や発作の管理など、患者の状態に合わせた支援が行われます。遺伝的多様性はこの疾患の診断や治療において考慮されるべき重要な要素であり、患者一人ひとりに合わせた治療アプローチが求められます。
臨床的特徴
Van der Knaapら(1999)は、D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の未記載患者8人の臨床、生化学、神経画像データを報告しました。患者の中で最も一貫した症状はてんかん、筋緊張低下、精神運動遅延でした。MRIで最も一貫した所見は側脳室の拡大で、特に後頭部が大きかったです。
Amielら(1999)は、てんかん性脳症を呈したD-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の2例を報告し、患者は軽度の顔面異常を示しました。これらの異常と未診断のてんかん性脳症を持つ患者では、D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の可能性を考慮すべきであると示唆しました。
Wajnerら(2002)は、D-2-ヒドロキシグルタル酸の尿中排泄が間欠的であった乳児の症例を報告しました。この乳児は心筋症による心原性ショックで死亡し、大脳MRIでは特定の脳領域に両側性の病変が認められました。
Clarkeら(2003)は、新生児期に呼吸不全、眠気の増加、哺乳不良を示したD-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の中間型の女児を報告しました。この女児は顕著な発達遅延、皮質視覚障害、小頭症などを示しました。
Struysら(2005)は、血縁関係のないパレスチナの2家系から、軽症のD-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の3例を報告しました。これらの患者は異なる症状を示し、1家族の2人の兄弟は無症状で正常な発達を示しました。
Misraら(2005)は、一卵性双生児の姉妹がD-2-ヒドロキシグルタル酸尿症であることを遺伝子解析で確認しました。姉妹は表現型が著しく異なり、重症の女児は複数の先天異常、重度の発達遅延、てんかん性脳症などを示しました。
D-2-ヒドロキシグルタル酸尿症は脊椎骨軟骨腫症と関連して報告されており、脊椎骨軟骨腫症は骨格形成異常のまれな疾患で、椎体の形成異常と関連した長骨の骨幹部に多発性軟骨腫を呈します。
遺伝
頻度
世界中で150人未満しか罹患していないと報告されているD-2-HGAとL-2-HGAは、遺伝性代謝疾患の中でも特に稀な病気とされています。さらに、D-2-HGAとL-2-HGAの両方を合併する症例は、その稀少性においてさらに一層まれであり、報告されている症例はわずか10数例に過ぎません。
これらの疾患の臨床症状は神経系に関連するものが多く、遅延発達、発作、運動機能障害などが含まれます。症状の重さは個々の症例によって大きく異なりますが、適切な診断と管理が重要です。遺伝子診断により、これらの疾患の正確なタイプを特定し、個別化された治療計画を立てることが可能になります。
分子遺伝学
また、同じ研究で、血縁関係のないパレスチナ人2家系の3人の患者から、D2HGDH遺伝子のホモ接合体変異(609186.0004と609186.0005)が同定されました。この結果は、D2HGDH遺伝子の変異がD-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の軽症型と重症型の両方を引き起こすことを示しています。
Kranendijkらの2010年の研究では、D-2-ヒドロキシグルタル酸濃度が上昇した患者50人中24人(48%)からD2HGDH遺伝子の推定病原性変異を同定しました。D2HGDH遺伝子変異のある患者では酵素活性の低下が確認され、変異のない患者と比較して、体液中のD-2-ヒドロキシグルタル酸濃度が有意に低いことが分かりました。これは、D-2-ヒドロキシグルタル酸の過剰排泄と少なくとも一つの遺伝子座が関連していることを示唆しています。
Popらによる2019年の研究では、D2HGDH遺伝子のミスセンス変異の機能的影響を詳しく調査しました。病原性が報告されている変異21個と新規の病原性の可能性がある変異10個をHEK293細胞に導入し、これらの変異の中で18個は野生型と比較してD2HGH酵素活性がほぼ完全に失われ(6%未満)、他の13個の変異は17~94%の範囲の残存D2HGDH活性を示しました。この研究は、D2HGDH変異の機能的特徴付けが個々の変異の病原性を理解する上で有益であることを結論付けています。



