目次
ATP10A遺伝子とは
ATP10A遺伝子は、染色体15q12に位置するタンパク質をコードする遺伝子です。この遺伝子は、リン脂質を細胞膜の一方から他方へ輸送する「リン脂質転移酵素」として機能します。ATP10AはATPase Phospholipid-Transporting 10Aの略称で、細胞のエネルギー源であるATPを使用してリン脂質の輸送を行います。
ATP10A遺伝子の基本情報
- 染色体位置:15q12
- ゲノム座標(GRCh38):15:25,672,237-25,865,088
- 別名:ATPase, CLASS V, TYPE 10A; ATPase, CLASS V, TYPE 10C(ATP10C); ATPVC
- 機能:リン脂質輸送に関わるATPase
ATP10A遺伝子の発現と機能
ATP10A遺伝子は、脳、腎臓、肺、前立腺、精巣、卵巣、小腸など、体内の様々な組織で発現しています。特に腎臓と脳での発現レベルが高いことが報告されています。
この遺伝子がコードするタンパク質は、細胞膜のリン脂質の分布を調節する重要な役割を果たしています。具体的には、膜を横切ってリン脂質を輸送することで、細胞膜の構造と機能を維持しています。
脳内でのATP10A遺伝子の発現は、神経細胞の正常な機能や発達に重要な役割を果たしている可能性があります。特に、海馬や嗅球などの特定の脳領域での発現が確認されており、これらの領域は学習や記憶、感覚処理に重要な役割を担っています。
ATP10A遺伝子のインプリンティング
インプリンティング(刷り込み)とは、特定の遺伝子が親の性別によって異なる発現パターンを示す現象です。ATP10A遺伝子は、母親由来の染色体からのみ発現する「母性発現」を示す可能性が報告されています。
しかし、研究によって見解が分かれており、完全なインプリンティングを示すわけではないという報告もあります。Hogart氏らの研究では、脳サンプルの約62.5%が両方の対立遺伝子から発現(二対立発現)を示し、37.5%が片方の対立遺伝子のみからの発現(単対立発現)を示しました。
さらに、性別によってもATP10Aの発現パターンが異なることが示されており、女性は男性よりも単対立発現を示す傾向が高いことが報告されています。
重要:ATP10A遺伝子の発現パターンは個人差があり、性別や遺伝的変異によって影響を受ける可能性があります。そのため、この遺伝子の機能や疾患との関連を理解するには、個人ごとの詳細な遺伝子解析が必要となります。
ATP10A遺伝子と神経発達障害
ATP10A遺伝子は、アンジェルマン症候群(AS)や自閉症など、いくつかの神経発達障害との関連が示唆されています。
アンジェルマン症候群との関連
アンジェルマン症候群は、重度の知的障害、運動失調、てんかんなどを特徴とする神経発達障害です。この症候群の多くは、母親由来の染色体15q11-q13領域の欠失によって引き起こされます。
ATP10A遺伝子はこの領域内に位置しており、アンジェルマン症候群患者ではATP10Aの発現がほとんど見られないことが報告されています。このことから、ATP10Aの欠損がアンジェルマン症候群の臨床症状の一部に寄与している可能性が考えられています。
ATP10A遺伝子と知的障害
ATP10A遺伝子の異常は、知的障害を含む様々な神経発達障害と関連している可能性があります。特に、母親由来の染色体15q11-q13領域の異常は、知的障害の重要な原因の一つとなっています。
ミネルバクリニックでは、ATP10Aを含む知的障害関連遺伝子を検査する「知的障害遺伝子検査パネル」を提供しています。この検査により、お子様の知的障害の原因を特定し、適切な治療やサポート方法を見つけるお手伝いをします。
自閉症スペクトラム障害との関連
いくつかの研究では、ATP10A遺伝子を含む染色体15q11-q13領域の異常が、自閉症スペクトラム障害の発症リスクを高める可能性が示唆されています。
ミネルバクリニックでは、ATP10Aを含む自閉症関連遺伝子を検査する「自閉症遺伝子検査パネル」も提供しています。この検査によって、自閉症の背景にある遺伝的要因を明らかにし、個々のお子様に合わせたサポート方法を検討することができます。
ATP10A遺伝子の変異(バリアント)
ATP10A遺伝子のバリアント(変異)は、様々な健康状態や疾患リスクと関連している可能性があります。
遺伝子バリアントには、以下のようなタイプがあります
- 病的バリアント:疾患を引き起こす可能性が高い変異
- VUS(意義不明のバリアント):健康への影響が明確でない変異
- 良性バリアント:健康への悪影響がないと考えられる変異
ATP10Aの病的バリアントは、リン脂質輸送機能の障害を引き起こし、細胞膜の構造や機能に影響を与える可能性があります。特に神経細胞では、この機能障害が神経発達や脳機能に影響を及ぼす可能性があります。
ATP10A遺伝子変異と肥満
マウスモデルの研究では、母親由来のAtp10a遺伝子(マウスの相同遺伝子)の欠失が体脂肪の増加と関連していることが報告されています。また、アンジェルマン症候群の一部の患者では、プラダー・ウィリー症候群に似た肥満が観察されています。
これらの知見から、ATP10Aが代謝調節にも関与している可能性が示唆されています。
ATP10A遺伝子検査の重要性
ATP10A遺伝子を含む遺伝子検査は、以下のような場合に重要な情報を提供します
- 原因不明の知的障害や発達遅延がある場合
- 自閉症スペクトラム障害の診断を受けている場合
- アンジェルマン症候群の特徴を示す症状がある場合
- 家族歴に神経発達障害がある場合
遺伝子検査の結果は、以下のようなメリットをもたらす可能性があります
- 診断の確定
- 将来的な健康リスクの予測
- 個別化された治療やサポート方法の選択
- 家族計画のための情報提供
遺伝カウンセリングの重要性
遺伝子検査を受ける前後には、専門家による遺伝カウンセリングを受けることが重要です。遺伝カウンセリングでは、検査の意義や限界、結果の解釈、心理的・社会的影響などについて詳しく説明を受けることができます。
ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が直接遺伝カウンセリングを行い、患者さんとご家族の不安や疑問に丁寧に対応しています。
ミネルバクリニックの遺伝子検査
ミネルバクリニックでは、ATP10A遺伝子を含む様々な遺伝子を検査する遺伝子検査サービスを提供しています。
ミネルバクリニックの遺伝子検査サービス
- 知的障害遺伝子検査パネル
知的障害に関連する遺伝子を網羅的に検査 - 自閉症遺伝子検査パネル
自閉症に関連する遺伝子を検査 - 発達障害・自閉症・知的障害染色体シーケンス解析
染色体全体の異常を詳細に解析
これらの検査は、お子様の発達の遅れや知的障害、自閉症の原因を遺伝学的に明らかにするのに役立ちます。
医療機関での遺伝子検査の重要性
遺伝子検査は、専門的な知識を持つ医療機関で行うことが重要です。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医の指導のもと、高品質な遺伝子検査と結果の詳細な解釈を提供しています。
まとめ:ATP10A遺伝子と神経発達
ATP10A遺伝子は、リン脂質輸送に関わる重要な遺伝子であり、脳機能や神経発達に重要な役割を果たしています。この遺伝子の異常は、アンジェルマン症候群や自閉症、知的障害などの神経発達障害と関連している可能性があります。
お子様の発達に関する懸念がある場合は、ミネルバクリニックの専門医にご相談ください。ATP10Aを含む遺伝子検査によって、お子様の状態の原因を特定し、適切なサポート方法を見つけるお手伝いをします。
ミネルバクリニックの遺伝子検査の特徴
- 臨床遺伝専門医による直接の遺伝カウンセリング
- 最新の遺伝子解析技術を活用した高精度な検査
- 検査結果に基づく具体的なサポート方法の提案
- 継続的な経過観察とフォローアップ
参考文献
- Nagase T, et al. (1998). Prediction of the coding sequences of unidentified human genes. X. The complete sequences of 100 new cDNA clones from brain which can code for large proteins in vitro. DNA Res. 5(5):277-86.
- Meguro M, et al. (2001). A novel maternally expressed gene, ATP10C, encodes a putative aminophospholipid translocase associated with Angelman syndrome. Nat Genet. 28(1):19-20.
- Hogart A, et al. (2008). The comorbidity of autism with the genomic disorders of chromosome 15q11.2-q13. Neurobiol Dis. 38(2):181-91.
- Kayashima T, et al. (2003). Atp10a, the mouse ortholog of the human imprinted ATP10A gene, escapes genomic imprinting. Genomics. 81(4):336-40.
- Herzing LB, et al. (2001). Genome-wide screening for novel imprinted genes. Genomics. 72(3):233-36.

ミネルバクリニックでは、お子さまの発達や学びの遅れに不安を感じている方に向けて、発達障害・学習障害・知的障害および自閉スペクトラム症(ASD)に関する遺伝子パネル検査をご提供しています。
また、将来生まれてくるお子さまが自閉症になるリスクを事前に知っておきたいとお考えの、妊娠前のカップル(プレコンセプション)にも、この検査はおすすめです。ご夫婦双方の遺伝情報を知ることで、お子さまに遺伝する可能性のある発達障害のリスクを事前に確認することが可能です。
それぞれの検査は、以下のように構成されています:
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検査は唾液または口腔粘膜の採取のみで行え、採血の必要はありません。
全国どこからでもご自宅で検体を採取していただけます。
ご相談から結果のご説明まで、すべてオンラインで完結します。
検査結果は、臨床遺伝専門医が個別に丁寧にご説明いたします。
なお、本検査に関する遺伝カウンセリングは有料(30分16,500円・税込)で承っております。
発達障害のあるお子さまが生まれるリスクを知っておきたい方、あるいはすでにご不安を抱えておられる方にとって、この検査が将来への確かな手がかりとなることを願っています。

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