目次
適応外処方(てきおうがいしょほう)とは、国が承認した添付文書に書かれていない効能・効果や用法・用量で、医師が薬を処方することです。英語では off-label use(オフラベル使用)と呼びます。保険診療では承認された効能・効果に沿った使い方が原則ですが、「55年通知」や審査情報提供事例などによって、適応外でも保険で認められる場合があります。この記事では、保険適用される場合・されない場合、よくある適応外処方の例、薬局の疑義照会、副作用が起きたときの注意点まで、制度の仕組みに沿って整理します。
⏱️ 30秒でわかる要約
💊 Q. 適応外処方とは何ですか?
添付文書に書かれていない効能・効果、用法・用量で薬を処方することです。薬そのものは国内で承認されていて、使い方だけが承認の範囲から外れている点が、国内で承認されていない「未承認薬」との違いです。
💊 Q. 適応外処方に保険は使えますか?
原則は承認された効能・効果に限られますが、薬理作用に基づく処方を個別に認める「55年通知」、審査で原則として認める使い方を公表した「審査情報提供事例」、公知申請の事前評価が終わった薬などは、適応外でも保険で認められることがあります。
💊 Q. 保険が使えない適応外処方を自費で足すとどうなりますか?
一連の診療の中で保険診療と保険外の診療を併用する「混合診療」は原則として認められておらず、制度上の例外に当たらない併用をすると、その一連の診療は保険が使える部分も含めて全額自己負担になります。例外は評価療養・患者申出療養・選定療養です。
💊 Q. 適応外処方は違法ですか?
適応外処方そのものを前提にした国の制度(55年通知・公知申請など)があり、使い方だけで直ちに違法になるものではありません。ただし医学的な根拠と、患者さんへの説明・同意が欠かせません。
- ➤適応外処方 → 承認済みの薬を、添付文書にない効能・用法・用量で使うこと
- ➤保険が通る道 → 55年通知・審査情報提供事例・公知申請の事前評価・評価療養
- ➤保険が通らないとき → 例外に当たらない混合診療は、その一連の診療が保険分も含めて全額自己負担
- ➤疑義照会 → 処方箋に疑わしい点があれば、薬剤師が医師に確かめる(薬剤師法第24条)
- ➤遺伝とのつながり → 希少な遺伝性疾患では承認薬が少なく、適応外使用が治療の選択肢になることがある

1. 適応外処方とは?意味と未承認薬との違い
適応外処方とは、国内で承認されている薬を、添付文書に記載された効能・効果、用法・用量の範囲を外れて処方することです。医薬品は、製薬会社が臨床試験の結果をもとに承認を申請し、国が「どの病気に」「どの量で」「どの使い方で」効果と安全性が確かめられたかを審査して承認します。その承認内容をまとめたものが添付文書で、承認された範囲を「適応」と呼びます。
適応外になるのは、効能・効果だけではありません。承認された病気に使う場合でも、承認より多い量を使う、承認より長い期間使う、承認されていない年齢(小児など)に使う、承認されていない投与経路で使う、といった場合も適応外にあたります。「病名が合っていれば適応内」とは限らない点は、見落とされやすいところです。
なお、「適用外処方」と書かれることもありますが、薬の世界では添付文書の「効能・効果」の範囲を「適応」と呼ぶため、「適応外処方」と書くのが一般的です。一方、保険の文脈で「保険適用外」「保険適応外」という言い方もされ、こちらは「保険が使えるかどうか」の話です。「適応外(添付文書の範囲外)」と「保険適用外(保険が使えない)」は別の軸で、適応外でも保険が使える場合がある、というのがこの記事の大事なところです。
適応外処方・未承認薬・適応外使用の違いは?
適応外処方は「承認された薬の承認外の使い方」、未承認薬は「国内で承認されていない薬そのもの」です。適応外使用は、処方に限らず注射や院内での投与も含めた、承認外の使い方全般を指す言葉です。違いを表にまとめます。
📘 適応外処方・適応外使用・未承認薬の違い
| 用語 | 薬は国内で承認済みか | 意味 |
|---|---|---|
| 適応外処方 | 承認済み | 添付文書にない効能・効果、用法・用量で処方すること |
| 適応外使用 | 承認済み | 処方・注射・院内投与などを含めた、承認外の使い方全般 |
| 未承認薬 | 未承認 | 海外では使われていても、日本では承認されていない薬 |
| 適用外(保険適用外) | (使い方とは別の軸) | 保険が使えないこと。適応外でも保険が使える場合がある |
※保険が使えるかどうかの条件は、第2章で説明します。
適応外処方は違法?
適応外処方は、使い方が承認の範囲外というだけで直ちに違法になるものではなく、国の制度も適応外での使用があることを前提に作られています。たとえば厚生労働省は、海外で使われているのに国内では適応外となっている薬について、公知申請の事前評価が終わった段階で医療機関が使うときの注意として、用法・用量を患者さんごとに調整して慎重に使うこと、事前に説明して同意を得るよう努めること、重い副作用を知ったら報告することを示しています[5]。
一方で、適応外処方は、その使い方について国内の承認審査で有効性・安全性が確認されていないことを意味します。臨床研究や診療ガイドラインで一定の根拠が積み上がっている使い方もあれば、根拠の乏しい使い方もあります。だからこそ、医学的な根拠があるか、ほかに承認された選択肢がないか、患者さんが内容を理解して同意しているか、が問われます。保険が使えるかどうか(第2章)と、副作用が起きたときの救済(第4章)も、承認内の使い方とは扱いが変わることがあります。
適応外処方はどのくらい行われている?
米国の外来診療を調べた研究では、調べた薬の処方の約21%が適応外で、その適応外処方の約73%は科学的な裏づけが乏しいか、ないと判断されました。この研究は、2001年の米国の外来診療の全国調査をもとに、よく使われる薬の処方を分析したものです[1]。
この数字は米国の2001年時点のもので、日本の現在の割合をそのまま示すものではありません。それでも、適応外処方は一部の特殊な医療だけで行われているのではなく、日常の診療の中にかなりの割合で含まれていること、そして根拠の強さにはばらつきがあることがわかります。「適応外=危ない」「適応外でも普通のこと」のどちらかに決めつけず、一つひとつの使い方について根拠を確かめる必要があります。
2. 適応外処方に保険は適用される?保険適応になる場合・ならない場合
保険診療で使う薬は、承認された効能・効果に沿った使い方が原則です。ただし、55年通知・審査情報提供事例・公知申請の事前評価・評価療養などによって、適応外でも保険が使える場合があります。厚生労働省は2014年(平成26年)の通知で、保険診療における医薬品の取扱いは承認された効能・効果等によることが原則だと確認したうえで、55年通知による例外を示しています[2]。
55年通知とは?
55年通知とは、1980年(昭和55年)9月3日に厚生省保険局長が出した通知(保発第51号)のことで、有効性と安全性が確認された薬を薬理作用に基づいて処方した場合の保険審査の考え方を示したものです。2014年の厚生労働省の通知は、この55年通知について、有効性・安全性が確認された医薬品(副作用報告義務期間または再審査が終了したもの)を薬理作用に基づいて処方した場合は、診療報酬明細書の審査で学術的な正しさと全国統一的な対応が求められる、と説明しています[2]。
ここで大事なのは、55年通知が適応外処方を一律に保険適用とする制度ではないことです。示されているのは、有効性・安全性が確認された医薬品(副作用報告義務期間または再審査が終了したもの)について、薬理作用に基づく使用の医学的な妥当性を、審査で個別に判断する考え方です。発売から間もない新薬は、この前提に当てはまりません。また、「薬理作用に基づく」とは、その薬の働き方から見て効果が期待できる理由があるということで、単に「効くかもしれない」で使ってよいという意味ではありません。
審査情報提供事例とは?「よくある適応外処方」の一覧
審査情報提供事例とは、適応外の使い方のうち、保険の審査で原則として認める取扱いを、審査を行う機関が事例ごとに公表したものです。厚生労働省の2014年の通知は、社会保険診療報酬支払基金に置かれた審査情報提供検討委員会が適応外使用の事例を検討し、その結果をまとめたことを述べています[2]。国民健康保険中央会も、2005年度(平成17年度)から全国調査を行って審査委員会どうしで情報を共有し、2011年(平成23年)3月に審査情報提供事例(適応外医薬品)を公表しています[3]。
「適応外処方の一覧」を探している方にとって、実務上いちばん近いのがこの事例集です。国民健康保険中央会の事例には、たとえば次のような使い方が、原則として審査上認められる例として載っています[3]。
💊 審査情報提供事例に載っている適応外の使い方(例)
| 薬(剤形) | 原則として認められる使い方 |
|---|---|
| デュロキセチン(内服薬) | 神経障害性疼痛 |
| ガバペンチン(内服薬) | 神経障害性疼痛 |
| アセメタシン(内服薬) | 片頭痛・緊張型頭痛などの各種頭痛 |
| ミダゾラム(注射薬) | 全身麻酔を伴わない気管支鏡検査などの鎮静 |
| ブチルスコポラミン(注射薬) | 腹部・骨盤のCT・MRI検査時の腸の動きの抑制 |
| ボノプラザン(内服薬) | クラリスロマイシン耐性ピロリ菌の一次除菌 |
※国民健康保険中央会「審査情報提供事例(適応外医薬品)」の掲載例(2026年10月時点で閲覧)[3]。最新の事例は公表元で確認してください。
ただし、事例に載っているから必ず保険が通る、という意味ではありません。国民健康保険中央会自身が、審査は個々の診療行為の必要性・妥当性を医学的に判断して行うのが前提で、示した方向性がすべての個別事例に一律に当てはまるわけではない、と注意書きをしています[3]。用量・期間・病名の書き方など、事例の条件から外れれば判断は変わります。
公知申請とは?事前評価が終わると保険が使える
公知申請とは、海外で使われている適応外の使い方について、医学的に広く知られた根拠があるとして、国内の新たな臨床試験の全部または一部を省いて承認事項の追加を申請する仕組みです。2010年(平成22年)、国は、欧米で使用が認められているのに国内では未承認の薬・適応について医療上の必要性を評価する検討会議を設け、審議会の部会で事前評価を受けた薬は公知申請を行ってよいとしました[5]。
保険の面では、厚生労働省は、薬事・食品衛生審議会で公知申請の事前評価が終了した適応外薬は、その時点から、承認上はまだ適応外であっても保険適用の対象とする扱いを示しています[4]。個々の薬がいつから保険適用になったかは、厚生労働省の一覧で薬ごとに示されています。
評価療養・患者申出療養とは?
評価療養と患者申出療養は、一定の条件のもとで保険診療と保険外診療の併用を認める「保険外併用療養費制度」の区分です。適応外使用も、承認申請の状況や所定の手続きなど、制度上の要件を満たす場合に対象になります。厚生労働省は、評価療養の種類として、先進医療、医薬品等の治験に係る診療、承認後で保険収載前の医薬品等の使用、薬価基準収載医薬品の適応外使用、保険適用医療機器・再生医療等製品の適応外使用を挙げています[6]。このうち薬価基準収載医薬品の適応外使用は、用法・用量・効能・効果の一部変更の承認申請がなされたものが対象です[7]。
患者申出療養は、未承認薬などを保険外併用療養として使いたい患者さんの申出を起点とする仕組みで、2016年度(平成28年度)から始まりました。患者申出療養に係る費用は全額自己負担で、診察・検査・投薬・入院料など一般の診療と共通する部分には保険が適用されます[7]。評価療養でも同じく、基礎的な部分は保険給付、特別な部分は全額自己負担で、医療機関には掲示と事前説明、患者さんの同意、領収書の発行が求められます[6]。
保険が使えない適応外処方を自費で足すと?混合診療の原則
一連の診療の中で保険適用されていない医療と保険診療を併用すること(いわゆる混合診療)は、保険外併用療養費制度などの例外を除き原則として認められておらず、実施した場合には保険適用されている医療も含めて費用は全額自己負担になります。厚生労働省は2025年(令和7年)の通知でも、この原則をあらためて示しています[8]。
つまり、「保険の診察に、保険が通らない適応外の薬だけ自費で追加する」という形は、評価療養などの例外に当たらない限り成り立ちません。適応外処方の費用を考えるときは、薬代だけでなく、その日の診察や検査も含めて扱いが変わることがあると知っておく必要があります。
🏥 適応外処方と保険の関係(まとめ)
🩺 院長コラム【「保険が通る」と「効く」は別の話】
55年通知や審査情報提供事例は、保険の審査でどう扱うかを決めるための仕組みです。審査で認められていることは、その使い方に一定の医学的な理由があると判断された目安にはなりますが、承認のための臨床試験で効果と安全性を確かめたことと同じではありません。
適応外の薬を使うかどうかは、保険が使えるかどうかより先に、その使い方を支える根拠の強さ、ほかに承認された選択肢がないか、副作用が出たときにどうなるかを並べて考えるべきだと考えています。
3. 疑義照会とは?薬局が適応外処方を確かめる仕組み
疑義照会とは、処方箋に疑わしい点があるときに、薬剤師が処方した医師に問い合わせて確かめることで、薬剤師法第24条で義務づけられています。条文は、薬剤師は処方箋中に疑わしい点があるときは、処方箋を交付した医師などに問い合わせて、その点を確かめた後でなければ調剤してはならない、と定めています[9]。
適応外処方は、添付文書と照らし合わせると用量・期間・効能が合わないため、薬局から医師に問い合わせが入る代表的な場面です。問い合わせの結果、医師が意図して適応外で使っていると確認されれば、そのまま調剤されることもありますし、記載の誤りであれば処方が直されます。薬局で「先生に確認します」と言われたときは、処方に問題があると決まったわけではなく、法律で決められた確認の手順が動いている、と受け止めてください。
患者さんの側からも、処方された薬が添付文書の効能と違う目的で出ていないか、気になれば医師や薬剤師に尋ねてかまいません。添付文書は医薬品医療機器総合機構(PMDA)のホームページで誰でも読むことができます。
4. 適応外処方のリスク:副作用救済と過去の事例
適応外処方で副作用が出たら救済される?
医薬品副作用被害救済制度は「適正な使用」をしたのに起きた副作用を対象にしており、適正な使用とは、原則として容器や添付文書に書かれた効能・効果、用法・用量、使用上の注意に従った使用を基本とします。PMDAは同時に、個別の事例は現在の医学・薬学の水準に照らして総合的に判断すると説明しています[10]。
このため、添付文書の範囲を外れた適応外処方では、副作用が起きても救済の対象になるかどうかが、承認内の使い方より不確かになります。一律に対象外と決まっているわけではなく、医学的に妥当な使い方だったかが個別に判断されます。適応外の薬を使うときは、このことも説明を受けたうえで決めるのが望ましいと考えます。
フェンフェン事件:適応外の組み合わせで起きた心臓弁膜症
フェンフェン(fen-phen)は、米国でやせ薬のフェンフルラミンとフェンテルミンを組み合わせて広く使われた処方で、心臓弁膜症との関連が報告され、1997年9月15日にフェンフルラミンとデクスフェンフルラミンが市場から撤退しました。米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、フェンフルラミンは単剤で短期間の肥満治療に承認されていましたが、フェンテルミンとの併用や、数週間を超える長期使用が広がっていました[11]。
同じ報告では、1997年9月30日までに米国食品医薬品局(FDA)に寄せられた報告のうち113例が定義に合う弁膜症で、98%が女性、薬の使用期間の中央値は9か月、24%が弁置換術を必要としました[11]。なお、撤退したのはフェンフルラミンとデクスフェンフルラミンで、フェンテルミンは撤退していません。承認された使い方を組み合わせや期間の面で外れた使用が、短期間に大勢へ広がると何が起こりうるかを示した例です。
⚠️ 適応外処方を受ける前に確かめたいこと
その使い方を支える根拠(ガイドライン・論文・審査情報提供事例など)は何か/承認された別の選択肢はないか/保険が使えるか、使えない場合は診療全体の費用がどうなるか/副作用が出たときの救済の扱い/どんな副作用に注意すればよいか。この5点を医師に尋ねて、納得してから決めてください。
5. 遺伝・医療とのつながり:希少な遺伝性疾患と適応外使用
患者さんの数が少ない遺伝性の病気では、その病気のために承認された薬がないことが多く、別の病気で承認された薬を、病気の仕組みに合わせて適応外で使うことが治療の選択肢になる場面があります。適応外処方は、遺伝医療と無関係な制度の話ではありません。
遺伝子の変化がわかると、適応外の薬が候補になる例
ヌーナン症候群は、細胞の増殖にかかわるRAS-MAPK経路の遺伝子の変化で起こる病気で、乳児期に重い肥大型心筋症を起こすことがあります。カナダとドイツの研究者は、RIT1遺伝子に新生突然変異があるヌーナン症候群で、重い肥大型心筋症が進んだ乳児2人に、がんの治療薬として承認されているMEK阻害薬のトラメチニブを適応外で使い、心筋の肥大が小さくなったと報告しました。倫理審査委員会の承認と保護者の同意を得て行われたものです[12]。
この報告は2人だけの症例報告で、長期の効果や副作用、適切な量はわかっていないと著者自身が述べています[12]。それでも、どの遺伝子のどんな変化で病気が起きているかがわかると、その経路に作用する既存の薬が候補として見えてくる、という流れをよく示しています。トラメチニブと小児のRAS経路の病気については、トラメチニブが拓く小児RAS病治療で詳しく解説しています。
遺伝子の違いで薬の効き方が変わる:ファーマコゲノミクス
同じ薬を同じ量だけ使っても、薬を分解する酵素や薬が作用する受容体の遺伝子の違いによって、効き方や副作用の出方は人によって変わります。遺伝子の情報を使って薬の選び方や量を考える分野をファーマコゲノミクス(薬理ゲノミクス)といいます。薬が体の中で水に溶けやすい形に変えられて排出される仕組みは、抱合のページで説明しています。
添付文書の用法・用量は、承認までの臨床試験などで得られたデータをもとに定められており、一人ひとりの体質の違いまで織り込んだものではありません。適応外の使い方を考えるときも、承認された使い方を考えるときも、「その人の体質でこの薬がどう働くか」という視点は共通しています。
遺伝学的な診断と、治療の選択肢を考える順番
希少な遺伝性の病気では、まず正確な診断がつくことが、承認薬・臨床試験・適応外使用といった選択肢を検討する出発点になります。遺伝子検査の結果が本人や家族にとって何を意味するかを整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。
遺伝学的な検査は、生まれたあとの検査だけではありません。妊娠中に赤ちゃんの染色体の数の変化などの可能性を母体の血液で調べるNIPT(新型出生前診断)も、出生前の遺伝学的なスクリーニング検査の一つです。NIPTは確定診断ではなく、陽性の場合は羊水検査や絨毛検査による確定診断を検討します。結果の意味や次に必要な対応は、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングで整理します。
🩺 院長コラム【診断がつくことが、選択肢を広げる】
希少な遺伝性の病気では、その病気のために承認された薬がないことが少なくありません。そのとき、原因の遺伝子と、その遺伝子がかかわる経路がわかっていれば、別の病気で使われている薬が理屈のうえで候補になることがあります。
一方で、候補になることと、使ってよい根拠がそろっていることは別です。遺伝学的な診断は、治療を考えるための地図のようなものであり、その地図をもとに、根拠・安全性・制度の面から一つずつ確かめていく姿勢が大切だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 適応外処方とは簡単にいうと何ですか?
国内で承認されている薬を、添付文書に書かれていない病気・量・期間・年齢・使い方で処方することです。英語ではoff-label use(オフラベル使用)といいます。
Q2. 「適応外」と「適用外」の違いは何ですか?
薬の添付文書の効能・効果の範囲を「適応」と呼ぶため、承認の範囲外の使い方は「適応外」と書くのが一般的です。「保険適用外」は保険が使えないことを指し、使い方の話とは別の軸です。適応外でも保険が使える場合があります。
Q3. 適応外処方でも保険は使えますか?
原則は承認された効能・効果に限られますが、55年通知による薬理作用に基づく処方、審査情報提供事例に載っている使い方、公知申請の事前評価が終わった薬などは、適応外でも保険で認められることがあります。最終的な判断は個々の審査で行われます。
Q4. 55年通知とは何ですか?
1980年(昭和55年)9月3日に厚生省保険局長が出した通知(保発第51号)で、有効性と安全性が確認された薬を薬理作用に基づいて処方した場合、保険の審査で学術的な正しさと全国統一的な対応を求める考え方を示したものです。
Q5. よくある適応外処方の一覧はありますか?
社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会が、保険の審査で原則として認める適応外の使い方を「審査情報提供事例」として公表しています。たとえばデュロキセチンやガバペンチンの神経障害性疼痛への使用などが載っています。ただし個別の審査が前提です。
Q6. 適応外処方で薬局から疑義照会が入るのはなぜですか?
薬剤師法第24条により、薬剤師は処方箋に疑わしい点があれば医師に問い合わせて確かめてから調剤しなければならないためです。適応外処方は添付文書と合わないため確認の対象になりやすく、照会が入っても処方に問題があると決まったわけではありません。
Q7. 適応外処方で副作用が出たら救済制度は使えますか?
医薬品副作用被害救済制度は、原則として添付文書に従った「適正な使用」をしたのに起きた副作用を対象にしています。個別の事例は現在の医学・薬学の水準に照らして総合的に判断されるため、適応外の使用では承認内の使い方より扱いが不確かになります。
まとめ
適応外処方とは、国内で承認された薬を、添付文書にない効能・効果、用法・用量で処方することで、国内で承認されていない未承認薬とは区別されます。米国の調査では処方の約21%が適応外で、その約73%は科学的な裏づけが乏しいか、ないと判断されました[1]。
保険診療は承認された使い方が原則ですが、55年通知・審査情報提供事例・公知申請の事前評価・評価療養などにより、適応外でも保険が使える場合があります[2][3][4]。これらの例外に当たらない適応外の医療を一連の保険診療と併用すると、その診療は保険分も含めて全額自己負担になります[8]。希少な遺伝性の病気では、遺伝子の診断をもとに既存の薬が適応外で検討されることもあり、根拠・安全性・制度の三つの面から確かめることが欠かせません。
📘 この記事について
この記事は、適応外処方の意味と保険上の扱いを解説する用語ページです。処方について気になることは、処方した医師や薬剤師にご確認ください。遺伝学的検査の結果が本人や血縁者にとってどういう意味を持つかを専門医と整理する場として、遺伝カウンセリングがあります。
参考文献
- [1] Radley DC, Finkelstein SN, Stafford RS. Off-label Prescribing Among Office-Based Physicians. Arch Intern Med. 2006;166(9):1021-1026. [doi:10.1001/archinte.166.9.1021]
- [2] 厚生労働省保険局医療課長・歯科医療管理官. 医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて(平成26年2月24日 保医発0224第2号). [関東信越厚生局]
- [3] 公益社団法人 国民健康保険中央会. 審査情報提供事例について(適応外医薬品). [国民健康保険中央会]
- [4] 厚生労働省. 公知申請に係る事前評価が終了した適応外薬の保険適用について. [厚生労働省]
- [5] 厚生労働省医薬食品局審査管理課長・安全対策課長. 薬事・食品衛生審議会において公知申請に関する事前評価を受けた医薬品の適応外使用について(平成22年8月30日). [札幌市掲載の通知]
- [6] 厚生労働省. 先進医療・保険外併用療養費(評価療養)に関するページ. [厚生労働省]
- [7] 厚生労働省. 保険外併用療養費制度・患者申出療養に関する資料. [厚生労働省]
- [8] 厚生労働省医政局研究開発政策課・保険局医療課. 未承認又は適応外の医薬品等を用いる特定臨床研究における保険診療について(令和7年7月9日). [厚生労働省]
- [9] 大阪府. 薬剤師法第24条(処方せん中の疑義)の条文を掲載したページ. [大阪府]
- [10] 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 医薬品副作用被害救済制度 Q&A:「適正な使用」とは、具体的にどのような使用をいうのですか. [PMDA]
- [11] Centers for Disease Control and Prevention. Cardiac Valvulopathy Associated with Exposure to Fenfluramine or Dexfenfluramine: U.S. Department of Health and Human Services Interim Public Health Recommendations, November 1997. MMWR. 1997;46(45). [CDC MMWR]
- [12] Andelfinger G, Marquis C, Raboisson MJ, et al. Hypertrophic Cardiomyopathy in Noonan Syndrome Treated by MEK-Inhibition. J Am Coll Cardiol. 2019;73(17):2237-2239. [PMC6916648/PMID 31047013]



