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LDLアフェレーシスとは?家族性高コレステロール血症・高Lp(a)血症の血液浄化療法を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

薬を最大量使ってもコレステロールが下がりきらない——そんな重症の家族性高コレステロール血症(FH)や、薬では下げにくい高リポ蛋白(a)血症の方に対し、血液を体の外で浄化して悪玉を物理的に取り除くのが「LDLアフェレーシス(血液浄化療法)」です。1回でLDLコレステロールを60〜85%も急に下げ、心筋梗塞などの心血管イベントを約8割減らすことが大規模データで示されています。この記事では、その仕組み・効果・適応・妊娠中の役割、そして近年の新薬による「アフェレーシスからの卒業」までを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🩸 血液浄化療法・FH・高Lp(a)血症
臨床遺伝専門医監修

Q. LDLアフェレーシスとは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. LDLアフェレーシスは、血液を体の外に循環させて悪玉コレステロール(LDL)やリポ蛋白(a)を選択的に取り除く血液浄化療法です。飲み薬では目標まで下がらない重症の家族性高コレステロール血症(FH)や、進行する動脈硬化を伴う高Lp(a)血症に対する「最後の砦」として使われてきました。1回でLDLを60〜85%下げ、心筋梗塞・心臓死のリスクを約8割減らすことが示されています。胎児に薬の毒性が及ばないため、薬が使えない妊娠中のFH管理でも特に重要な役割を担います。

  • 仕組み → 体外循環で血液をろ過・吸着し、ApoBを含むLDL・VLDL・Lp(a)だけを物理的に除去
  • 5つの方式 → DFPP・デキストラン硫酸吸着(リポソーバー)・HELP・DALI・免疫吸着
  • 効果 → 1回でLDL急性低下60〜85%、心血管イベントは約78〜80%減少
  • 注意点 → ACE阻害薬との併用は重いショックの危険があり、必ず事前休薬が必要
  • 最新動向 → エビナクマブやRNA医薬の登場でアフェレーシスから卒業できる時代へ

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1. LDLアフェレーシスとは:薬で下がらない悪玉を「直接取り除く」治療

LDLアフェレーシスは、専用の機械で血液を体の外に循環させ、動脈硬化の元になる悪玉コレステロール(LDL)やリポ蛋白(a)だけを選んで取り除く血液浄化療法です。飲み薬は「これ以上コレステロールが作られないように」「ゆっくり下げる」治療ですが、アフェレーシスはすでに血液中にある悪玉を、その場で物理的・化学的に抜き取るという点で根本的に異なります。生活習慣の改善と最大量の薬物療法(高強度スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬など)を行ってもなお目標値に届かない、難治性の重症患者さんに対する「最後の砦」として、数十年にわたり世界中で使われてきました[1]

💡 用語解説:家族性高コレステロール血症(FH)とLDL受容体

FHは、生まれつき血液中のLDLコレステロールが非常に高くなる遺伝性の体質です。肝臓の表面には、血液中のLDLを回収する「LDL受容体」という掃除機のような部品があります。FHではこの受容体やその働きに関わる遺伝子に変化があるため、LDLが回収されず血液中にたまり続けます。両親のどちらか一方から受け継ぐヘテロ接合体(HeFH)は約300〜500人に1人と頻度が高く、両方から受け継ぐホモ接合体(HoFH)は約100万人に1人と非常にまれですが極めて重症で、未治療だとLDLが10 mmol/L(約400 mg/dL)を超え、子どものうちから動脈硬化が進みます[2]

もう一つ、薬では下げにくい強力な動脈硬化・血栓のリスク因子が「リポ蛋白(a)」です。これはLDLによく似た粒子に「アポ(a)」というタンパク質がくっついた構造をしており、コレステロールを運ぶだけでなく血栓をできやすくする、いわば「とても粘着質で危険なLDL」です。世界人口の約2割が遺伝的に高Lp(a)を持つと推定されますが、高用量スタチンを使ってもLp(a)はほとんど下がりません[6]。だからこそ、Lp(a)を確実に下げられる確立した手段として、アフェレーシスが重要な位置を占めてきました。

💡 用語解説:リポ蛋白(a)〔Lp(a)・エルピーリトルエー〕

Lp(a)は、アポ(a)というタンパク質が血液を固める仕組み(プラスミノゲン)とよく似た構造を持つため、血栓を作りやすくし、血管の炎症も引き起こします。値はほぼ生まれつき遺伝で決まり、食事や運動、スタチンではあまり変わりません。高Lp(a)血症は心筋梗塞や大動脈弁狭窄症のリスクを高めることが知られており、現在、Lp(a)を確実に下げられるとして承認されている治療はLDLアフェレーシスが中心です。

2. 5つの除去システム:それぞれの仕組みと特徴

「LDLアフェレーシス」とひと口に言っても、悪玉をどう取り除くかによって5つの主要な方式があります。大きく分けると「ろ過(ふるい)で大きな粒子を物理的に分ける」タイプ、「電気的・化学的にくっつけて吸着する」タイプ、「抗体を使って狙い撃ちする」タイプがあります[3][4]。それぞれに長所と短所があり、患者さんの状態(体格・血圧・合併症・Lp(a)の高さなど)に合わせて選ばれます。

💡 用語解説:アポリポ蛋白B(ApoB)

ApoBは、LDLやVLDL、Lp(a)といった「悪玉系」の粒子1個につき1個だけ付いている目印のタンパク質です。多くのアフェレーシスは、このApoBの表面にあるプラスの電気を帯びた部分を狙ってくっつけ、悪玉だけを抜き取ります。善玉(HDL)にはApoBが付いていないため、善玉を残したまま悪玉だけを選んで除去できるという、とても都合のよい性質を利用しているのです。

方式 仕組み 特徴・長所 注意点
二重ろ過血漿交換(DFPP) 孔の大きさが違う2枚のフィルターで、大きいLDLやLp(a)を「ふるい」で分ける 比較的安価。フィブリノーゲンも除去され血液が流れやすくなる LDLへの選択性がやや低く、HDLやアルブミンなど有用な成分も一部失われる
デキストラン硫酸吸着(リポソーバー) 強いマイナス電荷を帯びた吸着剤がApoBのプラス部分に結合して吸着 LDL・VLDL・Lp(a)への選択性が非常に高い。世界で最も実績が豊富 ACE阻害薬併用でショックの危険(後述)。抗凝固薬の厳密な管理が必要
HELP法 酸性条件(pH約5.12)でヘパリンと結合させ、悪玉を沈殿させて回収 脂質だけでなく炎症マーカーやフィブリノーゲンも下げ、微小循環を改善 回路が複雑でpH調整・透析工程が必要。操作に熟練を要する
DALI(全血直接吸着) 血漿を分けずに全血をそのまま吸着カラムに通す 回路が単純で体外に出る血液量が少なく、小柄な方や血圧の低い方に有利 カラムが高価で専用機器が必要。ACE阻害薬には同様の注意が必要
免疫吸着(IA) 抗ApoB抗体でApoB含有粒子を狙い撃ちして捕捉 選択性が最も高く、特にLp(a)の除去に優れる。カラムの再利用も可能 導入・維持コストが高い

なかでも免疫吸着法は、通常の方法では取り除きにくいLp(a)の除去に最も効果的とされています[3]。一方でHELP法は、脂質に加えて血液の流れを悪くするフィブリノーゲンや炎症の指標を大きく下げるため、血管の内皮機能や微小循環の改善という「脂質を下げる以上の効果」が評価されています。どの方式にも一長一短があり、画一的な優劣ではなく、患者さん一人ひとりの病態に合わせて選ぶことが大切です。

3. どれくらい下がる?「ノコギリ状」の変化とリバウンド

飲み薬は毎日飲むことで血液中の濃度を一定に保ちますが、アフェレーシスは通常1〜2週間に1回の「間欠的な治療」です。1回の治療で約2人分の血漿量を処理すると、LDLコレステロールやLp(a)はその場で60〜85%も急激に低下します[6]。ところが治療が終わると、肝臓が新しく作り始めるため濃度は再び上がっていきます。この「治療直後にストンと下がり、次の治療までにジワジワ戻る」というギザギザの変化が、アフェレーシス特有の「ノコギリ状(saw-tooth)」のパターンです。

どのくらいの速さで戻るかは粒子の種類によって違います。Kroonらの詳しい研究では、デキストラン硫酸の方式で隔週治療を受けた20名で、急性の低下率は総コレステロール61%、LDL77%、ApoB75%、Lp(a)76%でした(善玉HDLは影響を受けません)。戻る速さ(回復半減期)はLDLが約4.0日、Lp(a)が約3.5日で、完全に元に戻るまで12〜13日かかります[7]。とくにHoFHではLDL受容体の働きがほとんどないため、戻りがゆるやかで、再上昇に最長30日ほどかかることもあります。

💡 用語解説:時間平均LDL-C(じかんへいきん)とKroonの式

ギザギザに上下するため、「治療直後の一番低い値」だけを見ると効果を過大評価し、「次の治療直前の一番高い値」だけを見ると過小評価してしまいます。そこで、血管が実際にさらされている平均的な濃度を表す「時間平均LDL-C」という考え方が使われます。これを簡単に推定するのが「Kroonの式」で、最低値・最高値・戻りやすさの係数から計算します。

この時間平均値こそが治療目標の達成度を測る本当のものさしであり、単発の採血結果に一喜一憂しないことが大切です。Kroonの式は実際の平均より少し高めに(=効果を控えめに)見積もる傾向がありますが、計算が簡単で実用的なため、各国のガイドラインで標準的に使われています。

4. 心筋梗塞を防げるのか:レジストリが示す強力な予防効果

アフェレーシスは「最後の手段」として使われるため、有効な治療を受けない比較群を作る臨床試験は倫理的に難しく、薬のような大規模なプラセボ比較試験は行えません[1]。その代わり、長期間の観察データやレジストリ(症例登録)が強力な証拠を積み上げてきました。ドイツの脂質アフェレーシス・レジストリ(GLAR)では、15,000回を超える治療記録でLDLの平均除去率67.5%、Lp(a)の除去率71.1%という高い効果が安定して維持されていました[8]

最も注目すべきは、心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中など)の抑制効果です。アフェレーシス開始前の2年間と開始後の2年間で発生率を比べた解析では、イベントが約78%も減少しました[8]。さらに別の長期コホート研究でも、平均6.8年という長い治療期間でイベントが約79.7%減少したと報告されています[9]。これらは単なる検査値の改善にとどまらず、長期的な治療が冠動脈のプラーク(動脈硬化の塊)の安定化や退縮につながることが、画像研究でも裏づけられています[9]

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「数字を下げる」その先にあるもの】

私は内科医として、コレステロールの数字に長く向き合ってきました。患者さんの多くは「LDLが下がった/上がった」という数字に一喜一憂されます。けれど本当に大切なのは、その数字の先にある「心筋梗塞を起こさずに、家族との時間を重ねられること」です。アフェレーシスが示した約8割という心血管イベントの減少は、まさにこの「人生のイベントを守る」という結果に直結しています。

重症FHのご家族には、若くして心筋梗塞で親御さんを亡くされた方が少なくありません。だからこそ、診断がついた後に「何ができるのか」を具体的にお示しすることが、私たち臨床遺伝専門医の責任だと考えています。アフェレーシスはその選択肢の、確かな一つです。

5. 誰が対象になるのか:各国ガイドラインと日本の適応

アフェレーシスは時間的・身体的な負担(1回2〜4時間)と高い費用を伴う治療のため、適応は厳密に決められています。基本は「生活習慣の改善と最大量の薬物療法をしても目標に届かない難治例」に限られます。米国FDAは、リポソーバーの適応を以下のグループに整理しています[5]

グループ 対象 基準(薬物・食事療法後)
A ホモ接合体FH(HoFH) LDL-C>500 mg/dL
B ヘテロ接合体FH(HeFH) LDL-C≧300 mg/dL
C HeFH+冠動脈疾患または末梢動脈疾患あり LDL-C≧70 mg/dL
D HeFH+冠動脈疾患または末梢動脈疾患あり Lp(a)≧60 mg/dL(約130 nmol/L)

米国では、Lp(a)を下げる目的で承認されている確立した治療はアフェレーシスが中心です[5]。欧州動脈硬化学会(EAS)の2023年コンセンサスでは、HoFHの診断は遺伝子検査の有無よりも「未治療LDL-Cが>10 mmol/L(約400 mg/dL)」という表現型を重視する方向へ移行し、成人のHoFHではLDL-C<1.8 mmol/L(70 mg/dL)という厳しい目標が設定されています[2]

日本では、日本動脈硬化学会のガイドラインで、薬物療法への反応が不十分なFHにアフェレーシスが高く位置づけられています。FHの管理目標は一次予防でLDL-C<100 mg/dL、二次予防で<70 mg/dLです[12]。国民皆保険や通院アクセスの良さから、日本は比較的アフェレーシスを受けやすい環境にあります。なお日本では、FHのほかに閉塞性動脈硬化症(ASO)や、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)に伴う難治性ネフローゼ症候群に対しても、LDLアフェレーシス(LDL吸着療法)が保険で認められています。これは脂質の組織毒性を取り除くことで腎臓や末梢血管を守るという、FHとは別の応用です。

6. 妊娠中・小児での役割:薬が使えないときの「命綱」

アフェレーシスが「唯一無二」となる場面が、妊娠中・授乳中の重症FH管理です。スタチン・エゼチミブ・PCSK9阻害薬・MTP阻害薬といった脂質低下薬の多くは、胎児への影響が懸念されるため妊娠中は使えません。これらを使っている方が妊娠を希望する場合、受胎の1〜2か月前にはすべて中止する必要があります。しかし重症のHeFHやHoFHでは、約1年以上にわたって治療を完全に止めると、動脈硬化が急に進み、大動脈弁狭窄の悪化や妊娠中の心筋梗塞のリスクが高まるという深刻なジレンマが生じます。

この問題を解決するのがアフェレーシスです。母体の血液から悪玉を物理的に取り除くだけで、胎児への薬の毒性がいっさいありません。そのため妊娠前から継続し、妊娠中・授乳中を通じて行うことが、重症FH合併妊娠の管理で強く推奨されており、まさに母児を守る「命綱」として機能します。

小児のHoFHでは、できれば3歳から、遅くとも8歳までにアフェレーシスを始め、若いうちからの動脈硬化を食い止めることが推奨されています[11]。子どもでは吸着が飽和しにくく、1回で70%を超える急性低下が得られることもあります。ただし最大の課題は「血管アクセスの確保」で、細い静脈では十分な血流が取れず、内シャント造設などが必要になることが、小児治療の大きな制約となります[11]

💡 用語解説:常染色体顕性(優性)遺伝とホモ・ヘテロ接合体

FHの多くは「常染色体顕性(優性)遺伝」という形式で受け継がれます。これは、ペアになっている遺伝子の片方だけに変化があれば発症しうるタイプで、患者さんの子どもには2分の1(50%)の確率で受け継がれます。

片方だけに変化を持つのが「ヘテロ接合体(HeFH)」、両方に持つのが「ホモ接合体(HoFH)」で、後者ほど重症です。なお原因遺伝子のうちLDLRAP1による型だけは「常染色体潜性(劣性)遺伝」で、両方の変化がそろって初めて発症します。新旧の用語が混在しますが、顕性=優性、潜性=劣性と同じ意味です。

7. 副作用と安全性:ACE阻害薬との「危険な組み合わせ」

アフェレーシスは長期に繰り返しても全般に安全性の高い治療で、副作用の発生率は約5〜6%と低く、その多くは穿刺やシャントに伴う局所的なトラブルです[8]。全身の副作用としては軽い低血圧・吐き気・胸部の違和感などが報告されています。ただし、絶対に避けなければならない致命的な組み合わせが一つあります。それが、デキストラン硫酸(リポソーバー)やDALIと、降圧薬「ACE阻害薬」の併用です[6]

💡 用語解説:ブラジキニンとACE阻害薬

血液が、強いマイナス電荷を帯びた吸着カラムに触れると、血液を固める仕組みの一部(接触相)が刺激され、強力に血管を広げる物質「ブラジキニン」が大量に作られます。通常は「キニナーゼII」という酵素ですぐ分解されますが、この酵素は血圧の薬であるACE(アンジオテンシン変換酵素)とまったく同じものです。

そのため、ACE阻害薬を飲んでいると分解がブロックされ、ブラジキニンが異常にたまって激しい血圧低下=アナフィラキシー様ショックを起こします。これを防ぐため、治療の最低24時間前にはACE阻害薬を必ず休薬します。一方、同じ降圧薬でもARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)はこの分解酵素を止めないため、安全に併用できます。

この相互作用は仕組みがはっきり解明されており、徹底した休薬プロトコルと、代わりにARBを使うことで、臨床現場では安全に管理できるようになっています。アフェレーシスを受ける際は、現在飲んでいる薬を必ず医療者に伝えることが大切です。

8. 新しい薬の登場:アフェレーシスから「卒業」できる時代へ

長年、重症FHの治療はアフェレーシスに大きく依存してきました。命を救う基盤治療である一方、隔週〜毎週・数時間の拘束、太い針の穿刺、シャント造設、高額な医療費という大きな負担も伴います。しかし近年、LDL受容体の働きに頼らない新しい仕組みの薬が次々と登場し、「アフェレーシスの回数を大きく減らす」あるいは「完全に卒業する」ことが現実になりつつあります。

💡 用語解説:モノクローナル抗体(こうたい医薬)

体が異物を狙い撃ちするために作る「抗体」を、医薬品として人工的に大量生産したものです。狙った標的タンパク質1種類だけにピタリと結合するため精密で、PCSK9阻害薬(エボロクマブ・アリロクマブ)や、後述のエビナクマブがこのタイプです。点滴や皮下注射で使われます。なお抗体は分子が大きいため、アフェレーシスの前に注射すると一緒に除去されてしまうので、必ず治療が終わった直後に投与します。

PCSK9阻害薬(エボロクマブ・アリロクマブ)は、肝臓のLDL受容体が壊されるのを防いで悪玉を強力に下げます。ただし、両方の遺伝子で受容体が完全に欠けている最重症のHoFHでは受容体そのものが乏しいため、効果が25〜30%程度にとどまります[2]。この限界を超えたのがエビナクマブです。これはANGPTL3というタンパク質を抑える抗体で、LDL受容体の働きに全く依存しないため、最重症のHoFHでも同じように効きます。アフェレーシスを含む最大限の治療に上乗せすると、平均でさらに約56%もLDLが下がり、その効果は長期間持続しました[10]

エビナクマブ上乗せによる心血管イベント発生率の比較

追跡期間中央値3.5〜4年における心血管イベントの発生割合

24%
0%

標準治療のみ(対照群)

(n=21)

標準治療+エビナクマブ

(n=12)

アフェレーシスを含む標準治療にエビナクマブを上乗せした群では、追跡期間中の心血管イベント発生が0%であったのに対し、対照群では約4人に1人がイベントを発症した。

こうした劇的なコレステロール低下は、実際のイベント予防に直結します。アフェレーシスを含む治療にエビナクマブを上乗せした群では、追跡期間中の心血管イベントがゼロだったのに対し、上乗せのない対照群では約24%(4人に1人)がイベントを起こしました[10]。そして患者さんにとって最大の恩恵は、長年つらい思いをして続けてきたアフェレーシスから安全に卒業できた例が多数報告されたことです[10]

経口薬のロミタピド(MTP阻害薬)も、悪玉の前駆体VLDLの産生を根本から抑え、HoFHでLDLを約60%、Lp(a)も約15%下げます。アフェレーシスと併用しても効果が打ち消されることはなく、第III相試験では約3分の1の成人がアフェレーシスの頻度を減らすか中止できました[13]。ただし脂肪肝や肝機能障害のリスクがあるため、厳格な低脂肪食と定期的な肝臓のチェックが欠かせません。

💡 用語解説:核酸医薬(ASO・siRNA)

遺伝子の「設計図のコピー(mRNA)」に直接働きかけ、原因タンパク質が作られる前にブロックする新しいタイプの薬です。ASO(アンチセンス核酸)siRNA(小分子干渉RNA)があり、Lp(a)を作る設計図を狙うペラカルセン(ASO)やオルパシラン(siRNA)が開発の最終段階にあります。オルパシランは3か月に1回の皮下注射でLp(a)を95%以上下げるという驚異的な結果が示されています。これらが実用化すれば、高Lp(a)血症に対する侵襲的なアフェレーシスの役割は大きく縮小すると予測されます。

9. 遺伝学的診断との接続:誰に必要かは「遺伝子」が教えてくれる

LDLアフェレーシスは「治療」ですが、その出発点は「どの遺伝子に変化があるかを正しく診断すること」です。FHの原因として知られる主な遺伝子はLDLR・APOB・PCSK9の3つで、これに常染色体潜性(劣性)型のLDLRAP1が加わります。これらをまとめて調べる遺伝子パネル検査によって、コレステロールが高い原因が「体質(遺伝)」なのかを確定でき、必要な治療強度や家族のスクリーニングの判断につながります。当院の家族性高コレステロール血症の遺伝子検査では、この4遺伝子を一度に解析します。

FHは「片方の親から受け継げば発症しうる」常染色体顕性遺伝のため、患者さんで原因となる変化が見つかると、血のつながったご家族(親・きょうだい・子)も50%の確率で同じ体質を持つ可能性があります。早期に家族を検査すれば、まだ症状のない段階から血管を守る対策を始められます。だからこそ、診断結果をどう受け止め、家族にどう伝え、どんな対策を取るかを一緒に考える遺伝カウンセリングが、治療と同じくらい重要になります。検査結果の意味づけや、ご家族への影響については、臨床遺伝専門医が責任をもってご説明します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「体質」を知ることが、家族を守る第一歩】

コレステロールが高いと言われても、「食べすぎかな」「運動不足かな」と生活習慣のせいだと思い込んでしまう方は少なくありません。けれど、若いのに値が極端に高い、家族に若くして心筋梗塞を起こした人がいる——そんなときは、生まれ持った体質(FH)が隠れていることがあります。遺伝カウンセリングの場で「原因がわかって、むしろ安心した」とおっしゃる方に何度も出会ってきました。

遺伝子を調べることは、犯人探しではありません。ご自身とご家族が、どこに気をつけ、どんな治療の選択肢を持てるのかを知るための「地図」を手に入れることです。アフェレーシスも新しい薬も、その地図があってこそ最適に選べます。気になる方は、どうか一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。

10. よくある誤解

誤解①「血を抜くだけの古い治療でしょう?」

単に血を抜くのではなく、悪玉だけを選んで取り除き、善玉や栄養は体に戻す精密な治療です。電気的吸着や抗体による狙い撃ちなど、技術は進化を続けています。

誤解②「1回やれば治る」

体は悪玉を作り続けるため、効果は数日〜2週間ほどで戻ります。原則として1〜2週間ごとに繰り返す維持療法であり、根本的な遺伝子治療ではありません。

誤解③「コレステロールが高い人は皆受けるべき」

対象は、最大量の薬でも目標に届かない難治の重症FHや高Lp(a)血症などに限られます。多くの方は飲み薬と生活習慣で十分管理できます。

誤解④「新しい薬が出たから、もう不要」

エビナクマブやRNA医薬で卒業できる方が増える一方、妊娠中や新薬が使えない状況では今も不可欠です。役割を変えながら重要な治療であり続けています。

よくある質問(FAQ)

Q1. LDLアフェレーシスはミネルバクリニックで受けられますか?

当院はLDLアフェレーシスの実施施設ではありません。当院の役割は、臨床遺伝専門医が家族性高コレステロール血症の原因遺伝子の診断と遺伝カウンセリングを担当することです。アフェレーシスは体外循環装置を備えた循環器・腎臓内科などの専門施設で行われます。遺伝子診断の後、必要に応じて治療施設へのご相談につなげます。

Q2. 1回の治療にどのくらい時間がかかりますか?痛いですか?

1回あたり通常2〜4時間で、原則1〜2週間ごとに繰り返します。透析と同じく血管に針を刺して血液を体外に循環させるため、穿刺の痛みやシャント管理の負担があります。これらの身体的・時間的負担が、近年の新薬による「卒業」への期待につながっています。

Q3. 妊娠中でも本当に安全に受けられますか?

はい。スタチンなど多くの脂質低下薬は妊娠中に使えませんが、アフェレーシスは母体の血液から悪玉を物理的に取り除くだけで胎児への薬の毒性がないため、重症FHの妊娠管理で強く推奨されています。妊娠前から継続し、妊娠・授乳期を通じて行うことで、母体の動脈硬化進行や妊娠中の心筋梗塞リスクを抑えます。実施は専門施設での慎重な管理のもとで行われます。

Q4. 飲んでいる薬で気をつけるものはありますか?

特に注意が必要なのが降圧薬の「ACE阻害薬」です。デキストラン硫酸やDALIの方式と併用すると、ブラジキニンという物質がたまって重い血圧低下(アナフィラキシー様ショック)を起こす危険があります。そのため治療の最低24時間前には休薬します。同じ降圧薬でもARBは安全に併用できます。服用中の薬は必ず医療者にお伝えください。

Q5. リポ蛋白(a)〔Lp(a)〕が高いだけでも受けられますか?

米国では、家族性高コレステロール血症があり、Lp(a)が60 mg/dL(約130 nmol/L)以上で、かつ冠動脈疾患または末梢動脈疾患が証明されている方が対象とされています。Lp(a)はスタチンでは下がりにくく、現在Lp(a)を下げる目的で確立した治療はアフェレーシスが中心です。ただし近年はLp(a)を狙うRNA医薬の開発が進んでおり、今後の選択肢が広がると期待されています。

Q6. 新しい薬が出たら、アフェレーシスはやめられますか?

エビナクマブやロミタピドの登場で、目標値を達成してアフェレーシスを安全に中止できた例が多数報告されています。実際にエビナクマブを上乗せした研究では、アフェレーシスから卒業できた患者さんが報告されました。ただし卒業できるかは病態や薬の効き方によって異なり、必ず主治医の管理のもとで判断します。自己判断での中止は避けてください。

Q7. 家族性高コレステロール血症かどうか、どうすればわかりますか?

未治療でLDLコレステロールが高い、腱や皮膚に黄色腫がある、若くして冠動脈疾患を起こした家族がいる、といった点が手がかりになります。確定にはLDLR・APOB・PCSK9・LDLRAP1の遺伝子検査が役立ちます。原因が判明すると治療方針が立てやすくなり、ご家族のスクリーニングにもつながります。

Q8. 子どももアフェレーシスを受けられますか?

重症のホモ接合体FHでは、できれば3歳から、遅くとも8歳までに開始して若年期の動脈硬化を防ぐことが推奨されています。子どもでは1回で高い低下が得られやすい一方、細い血管で十分な血流を確保することが最大の課題で、内シャント造設などが必要になる場合があります。小児循環器・腎臓の専門施設での慎重な管理が前提となります。

🏥 家族性高コレステロール血症・遺伝子診断のご相談

コレステロールが薬で下がらない、若くして心筋梗塞の家族歴がある——
そんなご不安の背景にある「体質(FH)」の遺伝子診断と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] Lipid apheresis, indications, and principles. PubMed. [PubMed 21834078]
  • [2] 2023 Update on European Atherosclerosis Society Consensus Statement on Homozygous Familial Hypercholesterolaemia. European Heart Journal. 2023. [Eur Heart J]
  • [3] LDL-Apheresis: Technical and Clinical Aspects. The Scientific World Journal / PMC. [PMC3361163]
  • [4] An update on lipid apheresis for familial hypercholesterolemia. PMC. [PMC9763149]
  • [5] LIPOSORBER LA-15 System Indications. U.S. Food and Drug Administration. [FDA H170002]
  • [6] LDL Apheresis and Lp(a) Apheresis: A Clinician’s Perspective. PMC. [PMC7886643]
  • [7] The rebound of lipoproteins after LDL-apheresis: kinetics and estimation of mean lipoprotein levels(Kroon AA, et al.). PubMed. [PubMed 10998482]
  • [8] The German Lipoprotein Apheresis Registry (GLAR) – almost 5 years on. PMC. [PMC5352787]
  • [9] Lipoprotein Apheresis: Utility, Outcomes, and Implementation in Clinical Practice — A Scientific Statement From the American Heart Association. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. [AHA Journals]
  • [10] Evinacumab and Cardiovascular Outcome in Patients With Homozygous Familial Hypercholesterolemia. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. [AHA Journals]
  • [11] Clinical practice recommendations on lipoprotein apheresis for children with homozygous familial hypercholesterolaemia(Reijman, et al.). ERKNet. [ERKNet]
  • [12] Japan Atherosclerosis Society (JAS) Guidelines for Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Diseases 2022. PMC. [PMC11150976]
  • [13] The lipid-lowering effects of lomitapide are unaffected by adjunctive apheresis in patients with homozygous familial hypercholesterolaemia — a post-hoc analysis of a Phase 3 trial. PMC. [PMC4573555]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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