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年齢を重ねると、感染症や明らかな病気がなくても、体の中では弱く・くすぶり続ける炎症が静かに進んでいきます。これが「インフラメイジング(炎症老化)」です。自覚症状がほとんどないまま全身に広がり、心臓病・認知症・フレイル(虚弱)といった多くの加齢関連疾患の「共通の土台」になることが分かってきました。本記事では、その正体である細胞老化やミトコンドリアの異常、最新のバイオマーカー(iAge・GlycA)、食事・運動・老化細胞除去といった対策までを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. インフラメイジング(炎症老化)とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. インフラメイジングとは、加齢とともに全身でゆっくり進む「弱く・持続的な慢性炎症」のことです。感染症や自己免疫疾患のような明らかな原因がなくても水面下で進み、高齢になるとほぼすべての人に見られます。心臓病・認知症・フレイルなど多くの加齢関連疾患の共通の土台になりますが、近年は「治療・予防できる標的」として捉え直されつつあります。なお、IL-6などの炎症遺伝子の体質差(SNP)が進みやすさを左右する点で、遺伝とも地続きのテーマです。
- ➤正体 → 細胞老化(SASP)・ガーベージング・ミトコンドリア異常・腸内環境の乱れ・代謝過負荷が重なって生じる全身の弱い炎症
- ➤測り方 → AIで算出する「iAge」やNMRで測る「GlycA」など新しいものさし(※研究段階)
- ➤つながる病気 → 心血管疾患・神経変性疾患・フレイル/サルコペニア・2型糖尿病など
- ➤対策 → 老化細胞を狙うセノリティクス、抗炎症食、運動、十分な睡眠
- ➤遺伝とのつながり → IL-6・CRPなどのSNP(遺伝的体質)が炎症老化の速度に個人差を生む
1. インフラメイジング(炎症老化)とは?まず結論から
インフラメイジング(Inflammaging)は、「炎症(inflammation)」と「老化(aging)」を組み合わせた言葉で、日本語では「炎症老化」と訳されます。私たちが「炎症」と聞いてイメージするのは、ケガをして赤く腫れたり、風邪で熱が出たりする「強くて短い」反応でしょう。ところがインフラメイジングはそれとは正反対で、弱く・全身的で・何年も続く「くすぶり型」の慢性炎症です[1]。
やっかいなのは、はっきりした感染症も自己免疫疾患もないのに水面下で進む点です。痛みも腫れもないため本人は気づきません。しかし加齢とともに、ほぼすべての高齢者に普遍的に観察されることが分かっており[1]、組織の修復や維持のしくみをじわじわと妨害して、ダメージの蓄積を引き起こします[2]。
💡 用語解説:慢性炎症と急性炎症のちがい
急性炎症は、ケガや感染に対して「赤く・熱く・腫れて・痛む」短期決戦の反応で、敵をやっつけたら速やかにおさまります。一方慢性炎症は、火種が弱いまま長期間ずっと続く状態です。インフラメイジングはこの慢性炎症が「全身で・低レベルで・加齢とともに」進むタイプを指し、自覚症状がないのに体をむしばむ点が特徴です。
かつて老化は「避けられない自然な衰え」と考えられてきました。しかし現在では、インフラメイジングは明確な分子メカニズムによって動かされる「介入可能な病態」へと捉え方が大きく変わっています。つまり、原因の仕組みが分かれば、その進行を遅らせたり、関連する病気を未然に防いだりできる可能性がある、ということです。
2. なぜ起きる?進化が残した”諸刃の剣”と免疫老化
「なぜ体は、自分を傷つける炎症をわざわざ続けるのか」——この疑問に進化生物学のひとつの答えを与えるのが「拮抗的多面発現説」という考え方です[1]。
💡 用語解説:拮抗的多面発現説(きっこうてきためんはつげんせつ)
ひとつの遺伝的な仕組みが、人生の若い時期には有利に、年老いた時期には不利に働く、という進化の考え方です。若い頃に病原体から身を守り傷を治すために必要だった「強い炎症反応」が、子孫を残す時期を過ぎた晩年には制御がきかなくなり、自分自身の組織を攻撃する「有害な慢性炎症」に変わってしまう——インフラメイジングはまさにこの典型例です。寿命が大きく延びた現代では、若さのために選ばれた仕組みが逆に体を壊す側に回ってしまったのです。
もうひとつの主役が「免疫老化(Immunosenescence)」です[2]。加齢に伴って、免疫の司令塔である胸腺が縮み、血液を作る造血幹細胞の働きが落ち、T細胞・B細胞のバランスが大きく変わります。とくに、未知の病原体に立ち向かう「新人」であるナイーブT細胞が著しく減少し、代わりに、サイトメガロウイルスなど生涯にわたる慢性的な刺激で「疲れ果てた」終末分化エフェクターメモリーT細胞(TEMRA)が異常に蓄積します[2]。
この疲弊した免疫細胞は、ただ守りが弱くなるだけでなく、自らも炎症を起こす物質を出す「火種」に変わります[2]。すると、本来なら排除すべき老化細胞や老廃物が処理されずに残り、それがさらに炎症を呼ぶ——という自己増幅的な悪循環が生まれます。免疫老化はインフラメイジングの「原因」であると同時に「結果」でもある、双方向の関係なのです。
3. インフラメイジングを駆動する5つのメカニズム
🔍 関連記事:テロメアと細胞寿命/アポトーシス(細胞の自然死)/オートファジー
インフラメイジングは、たったひとつの原因で起きるわけではありません。複数の仕組みがネットワークのように絡み合い、互いを強め合って「全身の慢性炎症」という共通のゴールに集約していきます。まずは全体像を図で整理しましょう。
① 細胞老化とSASP——”ゾンビ細胞”が炎症をまき散らす
インフラメイジングの最も強力なエンジンが「細胞老化」です。細胞はテロメアの短縮やDNA損傷、酸化ストレスなどにさらされると、がん化を防ぐために「二度と分裂しない」状態(不可逆的な細胞周期の停止)に入ります。これはアポトーシス(細胞の自然死)とは違い、死なずに体内に居残ります。
💡 用語解説:細胞老化とSASP(サスプ)
細胞老化とは、分裂を止めたまま死なずに残る細胞の状態で、しばしば「ゾンビ細胞」とも呼ばれます。問題は、これらの老化細胞が代謝的にはとても活発で、まわりに大量の生理活性物質をまき散らすことです。
この分泌現象をSASP(細胞老化随伴分泌現象)といいます。SASPにはIL-6・IL-1β・TNF-αといった強力な炎症性サイトカインや、組織を分解する酵素などが含まれ、これがインフラメイジングの直接の燃料になります。
若い頃は、少数の老化細胞が出ても、元気なマクロファージやNK細胞が見つけてすぐ片付けます。ところが免疫老化でこの掃除機能が衰えると、老化細胞が組織にたまり続けます。たまったSASPは、となりの健康な細胞まで老化させる「パラクライン・セネッセンス」を引き起こし、局所の小さな火種が臓器全体、さらに全身へと燃え広がっていきます。
② ガーベージング——掃除機能の低下で”自分のゴミ”がたまる
近年注目される概念が「ガーベージング(Garb-aging)」です[3]。これは加齢に伴い、傷んだタンパク質や壊れた細胞小器官といった「自分由来のゴミ」がたまり、それ自体が炎症の刺激源になる現象を指します。
💡 用語解説:オートファジーと”内なる危険信号”
健康な細胞は、いらなくなった部品を分解して再利用するオートファジー(自食作用)という”自己清掃システム”を持っています。ところが加齢でこの機能が衰えると、傷んだミトコンドリアや異常タンパク質が片付けられず蓄積します。たまったゴミは、体にとって「自分由来の危険信号(DAMPs)」として作用し、自然免疫がこれを”異物”と誤認して炎症を起こしてしまうのです。
さらに深刻なのは、この慢性炎症が動脈硬化やアルツハイマー病などの病気を進めると、その病変組織自体が新たな老廃物(アミロイドなど)を放出し、それがまた炎症を呼ぶ——という致命的なフィードバックループを作る点です[3]。ゴミと病気が互いを増幅し合う負の連鎖が、加齢とともに止まらなくなっていきます。
③ 腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)
体の中で最大の免疫器官である腸と、そこに住む腸内細菌叢の変化も、インフラメイジングの強力な増幅器になります[7]。加齢で腸の壁の細胞が老化すると、本来は腸内にとどまるべき細菌の毒素が血流へ漏れ出す「リーキーガット(腸管漏出症候群)」が起こります。
💡 用語解説:ディスバイオーシスと短鎖脂肪酸
ディスバイオーシスとは、腸内細菌のバランスが崩れた状態のことです。健康な腸内細菌は、食物繊維から「短鎖脂肪酸(酪酸など)」という有益な物質を作り、腸のバリアを守り免疫を整えます。ところがバランスが崩れると、この保護的な代謝が乱れ、漏れ出した毒素が全身の免疫細胞を刺激し続けて慢性炎症を悪化させます[7]。腸の乱れと細胞老化が互いを悪化させる双方向ループが形成されるのです。
④ メタフラメーション——肥満・過栄養による”代謝の炎症”
加齢と並んで重大な影響を持つのが「メタフラメーション(Metaflammation)」です[8]。これは肥満や過栄養といった代謝細胞への栄養的な過負荷によって起こる、慢性の低レベル全身炎症のことを指します。
💡 用語解説:脂肪組織とマクロファージの”性格変化”
肥満で大きくなった脂肪組織では、炎症をしずめる「M2型マクロファージ」から、TNF-α・IL-6などをまき散らす「M1型マクロファージ」へと免疫細胞の性格が劇的に変わります[8]。放出されたサイトカインはインスリンの働きを妨げて2型糖尿病の原因になり、さらに脳にも作用して神経の炎症や慢性疼痛を悪化させることが分かっています。加齢のインフラメイジングと代謝のメタフラメーションが融合した状態を「メタフラメイジング」と呼ぶ見方もあります。
4. ミトコンドリアからの警報:cGAS-STING-NLRP3という増幅装置
🔍 関連記事:ミトコンドリアの役割/NLRP3インフラマソーム/パイロトーシス
いま最も注目されている分子メカニズムが、ミトコンドリアの不調から始まる「cGAS-STING経路」と「NLRP3インフラマソーム」の強力な連携です[5]。少し専門的ですが、ここがインフラメイジングの”心臓部”なので、流れを図で追ってみましょう。
💡 用語解説:cGAS-STING経路とは
細胞質(細胞の内側の液体部分)には、本来DNAは存在しません。ところが加齢やストレスでミトコンドリアが傷つくと、その中のDNA(mtDNA)が細胞質に漏れ出します。すると見張り役のcGASがこれを「ウイルス感染のような異常事態」と勘違いして警報物質を作り、STINGというスイッチを入れて、I型インターフェロンやSASP関連の炎症遺伝子を一気にオンにします。自分のミトコンドリアのDNAが、自分の体を攻撃する引き金になってしまうのです。
重要なのは、このcGAS-STING経路が単独で終わらず、NLRP3インフラマソームの組み立てと活性化を直接後押しする点です[5]。実験的にも、ミトコンドリア毒(ロテノン)でマクロファージのミトコンドリアにストレスを与えると、cGAS-STINGの活性化を通じてNLRP3が強烈に動き出すことが示されています[6]。活性化したNLRP3はカスパーゼ-1を介してIL-1β・IL-18を放出し、最終的にパイロトーシスという激しい炎症を伴う細胞死を引き起こします。
💡 用語解説:パイロトーシス(炎症性細胞死)
パイロトーシスは、ギリシャ語の「炎(pyro)」に由来する、激しい炎症を伴う細胞の死に方です。静かに片付けられるアポトーシスと違い、細胞が破裂して中身(IL-1βなどの炎症物質)を周囲にぶちまけるため、まわりにさらに炎症を広げます。インフラメイジングでは、このパイロトーシスが慢性炎症を持続させる「火に油」の役割を果たします。
このcGAS-STING-NLRP3軸の慢性的な活性化は、脳の神経炎症(認知機能低下やアルツハイマー病の推進力)から、心臓・肝臓・肺の炎症まで、全身の多臓器にわたる炎症の中核を担っています[5]。だからこそ、この経路はインフラメイジングと加齢関連疾患の魅力的な治療標的として、世界中で研究が進んでいます。
5. どうやって測る?AI時代の新しい”炎症のものさし”
🔍 関連記事:サイトカインとは(IL-6・CXCL9など)
インフラメイジングは無症状でじわじわ進むため、「どのくらい進んでいるか」を数値で測ることが長年の課題でした。従来はCRPやIL-6を測ってきましたが、これらは風邪などの急性炎症ですぐ変動してしまい、長期の慢性炎症の蓄積を評価するには不安定でした。そこで近年、AIと最新の分析技術を駆使した新しいバイオマーカーが登場しています。
深層学習でつくる”炎症の体内時計” iAge とケモカインCXCL9
スタンフォード大学とバック加齢研究所のチームは、約1,000人分の膨大な血液の免疫データに深層学習(ディープラーニング)を適用し、免疫系の”機能的な年齢”を予測する炎症老化クロック「iAge」を開発しました[9]。同じ暦年齢でも、生物学的な老化速度は人によって大きく異なります。iAgeは暦年齢よりも正確に、将来の多疾患罹患・フレイル・心血管系の老化リスクを早期に検出できるとされています[9]。
💡 用語解説:CXCL9(しーえっくすしーえる・ナイン)
CXCL9は、免疫細胞を呼び寄せるサイトカイン(ケモカイン)の一種です。研究チームは、iAgeのスコアを最も強く左右する因子がCXCL9であることを突き止めました[10]。健康な人でも60歳を過ぎると血中レベルが急に上がり始め、しかも単なる「結果」ではなく、血管の老化や心臓の悪化を引き起こす「原因(ドライバー)」であることが示されています[10]。血管内皮でCXCL9を抑える実験では、動脈の硬さや細胞老化が回復したことから、将来の治療標的として期待されています。
代謝の炎症を”安定して”映すバイオマーカー GlycA
もうひとつ臨床応用が進むのが「GlycA(糖タンパク質アセチル化)」です[11]。これは単一の分子ではなく、NMR(核磁気共鳴)という技術で、血液中の複数の急性期タンパク質に付いた糖鎖のシグナルをまとめて測ったものです。複数のタンパク質を統合して評価するため、体内の炎症レベルを非常に安定して反映できるのが最大の利点です[11]。
GlycA と hsCRP の個体内変動(週ごと)
数値が低いほど”ブレずに安定”していて、慢性炎症の指標として信頼できる
GlycA
(安定・1回で評価可能)
hsCRP
(変動大・複数回測定が必要)
従来のhsCRPは週ごとの変動が約29.2%と大きく、心血管リスク評価には複数回の測定が推奨されます。一方GlycAの変動はわずか約4.3%で、1回の採血で信頼性の高い慢性炎症評価が可能です[12]。
GlycAの上昇は、メタボリックシンドローム・肥満・インスリン抵抗性・2型糖尿病と独立して強く相関し、将来の動脈硬化性心血管疾患イベントや全死因死亡率を予測することが大規模研究で示されています[11]。さらに、関節リウマチや炎症性腸疾患(IBD)など、従来のマーカーでは捉えにくかった病気の活動性評価にも有用で、CRPが正常範囲でも水面下の炎症を捉えられる点が特筆されます[12]。
⚠️ 補足:iAge・GlycAは先端的な研究指標であり、一部の研究機関・専門ラボでの実施が中心です。一般的な健康診断や、当院の標準的な遺伝学的検査メニューに含まれるものではありません。本記事は最新の知見の紹介であり、特定の検査を推奨するものではありません。
6. どんな病気につながるのか
インフラメイジングの「悪玉の炎症」は、全身の自己修復メカニズムを絶えず妨害し、ダメージを蓄積させます。約50万人規模のUK Biobankなどの大規模解析からも、慢性炎症と多くの加齢関連疾患との強い関連が見出されています[4]。主な疾患を整理しましょう。
注目すべきは、これらが「インフラメイジングという共通の土台」を共有しているという点です。つまり、個々の病気を別々に治すのではなく、共通の根本(慢性炎症)に介入できれば、複数の加齢関連疾患をまとめて予防できる可能性がある——という発想が生まれます。
7. どう抑える?次世代の対策と暮らしの工夫
対策は、対症療法的な抗炎症薬から、老化の根本原因である「老化細胞の蓄積」に直接介入する革新的な戦略へと進化しつつあります。研究段階のものから、今日からできる生活の工夫まで、順に見ていきましょう。
セノセラピューティクス——老化細胞を狙い撃つ薬
老化細胞をコントロールする薬は「セノセラピューティクス」と総称され、作用の仕方で2種類に分かれます[13]。
💡 用語解説:セノリティクスとセノモーフィクス
セノリティクス(Senolytics)は、老化細胞に選択的にアポトーシスを誘導して物理的に除去する薬です。代表例が、白血病治療薬ダサチニブと植物由来フラボノイドのケルセチンを組み合わせた「DQ療法」、そしてイチゴ等に含まれるフィセチンです[13]。
セノモーフィクス(Senomorphics)は、老化細胞を殺さずに生かしたまま、有害なSASP(炎症物質の分泌)だけを抑える薬です。老化細胞は傷の治癒など一時的に有益な働きもするため、「バランスをとる」戦略といえます[13]。
初期の第I相試験では、健康な人にDQ療法を間欠的に行った結果、DNAメチル化クロック(生物学的年齢の指標)の進行がゆるやかになり、免疫細胞に有益な変化が生じたことが確認されています[14]。フィセチンを加えた「DQF療法」の検証も進行中で、近年は両者を組み合わせた洗練されたプロトコルも探索されています[13]。ただし、これらはまだ研究段階であり、長期安全性や最適な使い方は今後の課題です。
食事・運動・睡眠——今日からできる”全身の抗炎症”
日々の食事と栄養は、インフラメイジングを動的に調節する身近で強力な手段です[14]。地中海食やDASH食に代表される、食物繊維・ポリフェノール・オメガ3系脂肪酸をバランスよく摂る食事は、腸内環境を整え、サイトカインのバランスを保つ土台になります。実際、抗炎症食の要素(ビタミンD・オメガ3・抗酸化ビタミン)を多く摂る高齢者では、CRPやIL-6などの炎症マーカーが有意に低く保たれることが示されています[16]。レスベラトロールやクルクミンなどのポリフェノールが、AMPK/SIRT1経路やオートファジーを介して炎症を和らげる可能性も研究されています[14]。
運動は、インフラメイジングに対抗する強力な”全身性の治療薬”として働きます[14]。定期的な身体活動は、炎症促進性の単球を減らし、NK細胞の活性や好中球の機能を若返らせ、T細胞の老化マーカー(p16)を低下させることがヒトの研究で確認されています[14]。歩行速度の速い活動的な高齢者ほどIL-6・TNF-αが低く、抗炎症性のIL-10が増えて全身の炎症バランスが整います。さらに、良質な睡眠とストレス管理も、ベースラインの慢性炎症を下げる重要なライフスタイル介入です[14]。
🥗 食事
- 食物繊維・発酵食品で腸内環境を整える
- オメガ3(青魚など)を意識
- ポリフェノール(野菜・果実)
- 過食・過体重を避ける
🏃 運動・睡眠
- 有酸素運動+筋トレを習慣に
- 歩行速度を保つ意識
- 規則正しい十分な睡眠
- ストレス管理(自律神経を整える)
加えて、メタフラメーション(代謝の炎症)に対しては、メトホルミンやGLP-1受容体作動薬、SGLT-2阻害薬といった代謝改善薬が、インスリン感受性を高めると同時に二次的な抗炎症効果を発揮することも報告されています[8]。これらは医師の管理のもとで使われる治療薬です。
8. 遺伝・臨床とのつながり(遺伝カウンセリングの視点)
🔍 関連記事:SNP(一塩基多型)とは/臨床遺伝専門医とは/遺伝カウンセリングとは
「インフラメイジングは老化生物学の話で、遺伝とは関係ないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、ここには明確な接点があります。それが「遺伝的感受性」です。すべての人が同じ速度で炎症老化を進めるわけではなく、その差は、炎症性サイトカインをコードする遺伝子のSNP(一塩基多型)によって部分的に説明されます[1]。
💡 用語解説:SNP(一塩基多型)と”炎症の体質”
SNP(スニップ)とは、DNAの並びのうち1か所だけが個人で異なる、ありふれた遺伝的な個性のことです。たとえばIL-6遺伝子のSNPはIL-6の産生量を変え、冠動脈疾患・アルツハイマー病・2型糖尿病などのリスクと関連します[1]。同様にCRPやIL-1RNの多型も、炎症の起きやすさに個人差を生みます。つまり、SNPは「炎症老化が進みやすい体質か」を左右する、生まれ持った設計図の一部なのです。
こうした「炎症の体質」や、家族にみられる加齢関連疾患・遺伝性腫瘍の傾向を、医学的に整理して受け止めるお手伝いをするのが、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングです。当院では、検査を一方的に勧めるのではなく、中立・非指示的な立場で情報を提供し、最終的な判断はご本人・ご家族に委ねることを大切にしています。
なお、念のため正直にお伝えすると、インフラメイジングそのものを診断・測定する検査(iAge・GlycAなど)は研究段階であり、当院の標準的な遺伝学的検査メニューに含まれるものではありません。この記事は、いま世界の研究で何が分かってきているのかを知っていただくための学術的な解説です。
9. よくある誤解
誤解①「炎症がないから自分は大丈夫」
インフラメイジングは痛みも腫れもなく進むのが特徴です。自覚症状がないことは「炎症がない」ことを意味しません。だからこそ、仕組みを知り、生活習慣で予防的に手を打つことに意味があります。
誤解②「老化だから治せない」
かつてはそう考えられていましたが、いまは明確な分子メカニズムによる介入可能な病態と捉えられています。進行を遅らせたり、関連疾患を予防したりする研究が進んでいます。
誤解③「セノリティクスを飲めば若返る」
DQ療法などのセノリティクスはまだ研究段階です。初期試験で有望な結果は出ていますが、長期安全性や最適な使い方は未確立で、安易な自己判断での使用は推奨できません。
誤解④「特別な検査でしか対策できない」
iAgeやGlycAは研究段階ですが、対策の基本は食事・運動・睡眠という日々の習慣にあります。特別な検査がなくても、今日から取り組めることがたくさんあります。
よくある質問(FAQ)
🏥 遺伝的リスク・体質のご相談
加齢関連疾患や遺伝性腫瘍の「体質」が気になる方は
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックの
遺伝カウンセリングに、中立的な立場でご相談いただけます。
参考文献
- [1] Inflammageing: chronic inflammation in ageing, cardiovascular disease, and frailty. PMC. [PMC6146930]
- [2] Pathological and Inflammatory Consequences of Aging. PMC. [PMC11939965]
- [3] Inflammaging and ‘Garb-aging’. PubMed. [PubMed 27789101]
- [4] Inflammation, Aging and Cardiovascular Disease: JACC Review Topic of the Week. PMC. [PMC8881676]
- [5] cGAS-STING, inflammasomes and pyroptosis: an overview of crosstalk mechanism of activation and regulation. PMC. [PMC10775518]
- [6] cGAS–STING–NF-κB Axis Mediates Rotenone-Induced NLRP3 Inflammasome Activation. PMC. [PMC12649239]
- [7] The connection between aging, cellular senescence and gut microbiome. PMC. [PMC11464129]
- [8] Metaflammation’s Role in Systemic Dysfunction in Obesity: A Comprehensive Review. International Journal of Molecular Sciences (MDPI). [MDPI IJMS]
- [9] An inflammatory aging clock (iAge) based on deep learning tracks multimorbidity, immunosenescence, frailty and cardiovascular aging. PubMed. [PubMed 34888528]
- [10] First actionable clock that predicts immunological health and chronic diseases of aging. Buck Institute. [Buck Institute]
- [11] GlycA: A New Biomarker for Systemic Inflammation and Cardiovascular Disease (CVD) Risk Assessment. PMC. [PMC7194207]
- [12] GlycA: Providing a More Stable Measure of Systemic Inflammation than hsCRP. Labcorp. [Labcorp]
- [13] Targeting Cellular Senescence for Healthy Aging: Advances in Senolytics and Senomorphics. Drug Design, Development and Therapy (Taylor & Francis). [Taylor & Francis]
- [14] Immunosenescence and inflammaging: Mechanisms and interventions. PMC. [PMC12711513]
- [15] Exploring the effects of Dasatinib, Quercetin, and Fisetin on DNA methylation clocks. PMC. [PMC10929829]
- [16] The Association of Anti-Inflammatory Diet Ingredients and Lifestyle Exercise with Inflammaging. PMC. [PMC8621229]



