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染色体の不分離とは

染色体の不分離とはなんなのか?

染色体の不分離(nondisjunction)とは、細胞分裂(有糸分裂や減数分裂)時に相同染色体または姉妹染色分体が適切に分離しない現象です。この不分離が起こると、通常より多いまたは少ない染色体を持つ娘細胞が生じ、これが染色体異常の原因となります。

減数分裂は、生殖細胞(精子や卵子)の生成において行われる特殊な細胞分裂で、この過程で染色体が一度2倍に増えた後、2回の分裂を経て通常の半分の染色体数を持つ生殖細胞が作られます。染色体不分離は、この減数分裂の過程で起こり得るエラーであり、特に第1減数分裂での相同染色体の分離の失敗や第2減数分裂での姉妹染色体の分離の失敗が原因で発生します。

染色体不分離の結果として、例えば21番染色体が1本余分に存在することでダウン症候群(21トリソミー)が生じることがあります。また、女性の年齢が高くなるにつれて染色体不分離が起こりやすくなるとされており、これは女性の加齢に伴う「卵子の老化」が関係していると考えられています。卵子の老化は、卵子の第一減数分裂の異常である染色体不分離を引き起こし、染色体異常が増加するとされています。

染色体不分離は、遺伝的な要因ではなく、突然変異によって起こることが多いため、両親から遺伝することは稀です。染色体不分離によって生じた染色体異常は、流産の重要な原因になることもあります。また、性染色体の不分離によって、トリプルX症候群(トリソミーX)やXYY症候群(ヤコブ症候群)などの性染色体異常が生じることもあります。

細胞分裂と減数分裂についておさらいするために模式図を出します。
細胞分裂と減数分裂
詳細はそれぞれのリンク先ページでご覧ください。

染色体不分離の種類

染色体不分離は染色体の分配を伴う細胞分裂のどのような形態でも起こり得ます。
高等動物の細胞分裂には3つの形態があります。第1減数分裂と第2減数分裂は、有性生殖のための配偶子(卵子と精子)の生成中に発生する細胞分裂の特殊な形態であり、体細胞分裂は体の生殖細胞以外の他のすべての細胞で行われる細胞分裂の形態です。
不分離には3つの形態があります。

  • 1.第1減数分裂での相同染色体の分離の失敗:ほとんどはこれが原因となります
  • 2.第2減数分裂での姉妹染色体の分離の失敗
  • 3.体細胞分裂での姉妹染色体の分離の失敗

これらによる不分離の結果、染色体数が異常な娘細胞(異数性染色体)が発生します。
染色体不分離

染色体不分離の原因とは

以下に、染色体不分離の原因となる事象を挙げていきます。

減数分裂における性差

ヒト異数性症候群の症例を調査したところ、そのほとんどが母体由来であることがわかっています。それでは、なぜ女性の減数分裂は不分離を起こしやすいのでしょうか?女性の減数分裂と男性の精子形成の最も明白な違いは、女性では出生前後にすべての卵母細胞は第一減数分裂の前期に入っていますが、第一次減数分裂中期には進まず、複糸期とよばれる前期中の休止期で、卵胞細胞からは卵子成熟抑制物質(oocyte maturation inhibitor :OMI)が分泌されるため、排卵直前までそのままとどまります。
関連記事:卵子形成
一方、雄の配偶子は、第1減数分裂と第2減数分裂のすべての段階を速やかに通過して終えます。男性と女性の減数分裂のもう一つの重要な違いは、相同染色体間の組換えの頻度に関係しています。男性では、ほとんどすべての染色体のペアが少なくとも1つのクロスオーバーによって組換えしていますが、ヒトの卵母細胞の10%以上には、クロスオーバーが起こらずに少なくとも1つの2価染色体が含まれています。組換えの失敗または不適切なクロスオーバーは、ヒトにおける不分離の発生の一因としてよく知られています。
女性では、出生前後にすべての卵母細胞が第一減数分裂の前期に入りますが、第一次減数分裂中期には進まず、複糸期と呼ばれる前期中の休止期で、排卵直前までそのままとどまります。この長期間の停止は、染色体を結合している結合力が弱まり、SAC(紡錘体組立チェックポイント)の活性が低下することから、染色体不分離が起こりやすくなります。

加齢によるコヒーシン結合の喪失

紡錘体組立チェックポイント(SAC)は、真核細胞における染色体の適切な分離を制御する分子的安全防御機構で、すべての相同染色体(二価染色体、または四価染色体)が紡錘体装置に適切に整列するまで、SACは細胞分裂後期への進行を抑制する。その時に限って、SACはアナフェーズ促進複合体(APC:anaphase promoting complex)の阻害を解除し、それによってアナフェーズ(後期)への進行を不可逆的に誘発します。
紡錘体形成チェックポイント
ヒトの卵母細胞は第1減数分裂の複式で長期停止することが原因で、染色体を結合している結合力が弱まり、SACの活性が低下していることから、母体の年齢に関連した染色体分離制御のエラーの一因となっている可能性があります。コヒーシンは、胎児期の発生中に卵子において新たに複製された染色体で合成されます。成熟した卵母細胞は、S期の完了後、コヒーシンを再合成する能力が限られています。そのため、第1減数分裂の完了前のヒト卵母細胞の長時間の停止は、時間の経過とともにコヒーシンのかなりの損失をもたらす可能性があり、このコヒーシンの損失が減数分裂中の微小管の不適切な付着と染色体の分離エラーに寄与していると考えられているのです。
関連記事:染色体異数性|そのメカニズムと加齢問題の新しい知見|ARTで異数性が増加

生活・環境による危険因子

生活習慣、環境、または職業上の危険に精子がさらされると、異数性のリスクが高まる可能性があります。たばこの煙は既知の異数性誘発剤です。その他の研究では、アルコール摂取、ベンゼンへの職業的曝露や殺虫剤フェノバルビタールやカルバリルへの曝露などの因子もまた、異数性を増加させることが示されています。

染色体不分離のもたらす結果とは

染色体不分離の結果、染色体のバランスが崩れた細胞になります。このような細胞は異数体と呼ばれます。1本の染色体を失った場合、欠陥のある娘細胞はモノソミーとよびいます。1本の染色体を獲得した場合、トリソミーと呼びます。 異数分裂性配偶体が受精した場合、多くの症候群が生じることになりますが、常染色体のモノソミーは生存できず、モノソミーで生存可能なのは唯一X染色体で、ターナー症候群となります。

常染色体トリソミー

常染色体トリソミーとは、二倍体細胞において、性染色体のXとY以外の染色体が通常の2本ではなく、3本のコピーで存在していることを意味します。

  • ダウン症候群(トリソミー21)
  • エドワーズ症候群(トリソミー18)
  • パタウ症候群(トリソミー13)

などがありますが、それぞれについてはリンク先でご覧ください。

性染色体異数性

性染色体異数体症という用語は、性染色体の数に異常がある状態、すなわちXX(女性)またはXY(男性)以外の性染色体の数に異常がある状態をまとめたものです。正式には、X染色体モノソミー(ターナー症候群)も性染色体異数体症の一形態として分類されます。

  • クラインフェルター症候群(47,XXY)
  • XYY男性(47,XYY)
  • トリソミーX (47,XXX)(トリプルX)

などがありますが詳しくはリンク先でご覧ください。

片親性ダイソミーUPD

片親性ダイソミーUPDとは、ある染色体のペアの染色体の両方が同じ親から受け継いでいるために、同じ染色体であるという状況を指します。この現象は、不分離によりトリソミーとして始まった妊娠の結果である可能性が高いです。ほとんどのトリソミーは致死的なものなので、3本の染色体のうち1本を失って二つになることで、胎児は生き延びることができます。15番染色体の片親性ダイソミーは、Prader-Willi症候群やAngelman症候群のいくつかの症例で見られます。

モザイク症候群

モザイク症候群は、胎児の発生初期の体細胞分裂の際の不分離によって引き起こされるものです。その結果、生物は、異なる種類の細胞の型(染色体の数)を持つ細胞株の混合物として進化します。モザイクは、ある組織には存在するが、他の組織には存在しないことがあります。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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