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単一遺伝子疾患の出生前診断|検査方法・費用・遺伝カウンセリングを医師監修で解説

単一遺伝子疾患の出生前診断

単一遺伝子疾患の出生前診断|検査方法・費用・遺伝カウンセリングを医師監修で解説

この記事のポイント
  • 単一遺伝子疾患の出生前診断の方法と適応基準
  • 羊水検査・絨毛検査の特徴と流産リスク
  • 検査費用と保険適用について
  • 遺伝カウンセリングの重要性と内容
  • 最新の検査技術動向と注意点

単一遺伝子疾患(single gene disorders)とは、1つの遺伝子の変異が原因で発症する疾患の総称です。現在、4,600以上の遺伝子が遺伝性疾患の原因であることが知られており、疾患としての総数は7,000を超えています

この記事では、家族歴がある方や妊娠中で遺伝的疾患が心配な方に向けて、単一遺伝子疾患の出生前診断について、検査方法から費用、遺伝カウンセリングの重要性まで、臨床遺伝専門医監修のもと詳しく解説いたします。

単一遺伝子疾患とは何か

単一遺伝子疾患の頻度

個々の単一遺伝子疾患の頻度は以下の通りです:

  • 1 単一の原因遺伝子:およそ10,000人に1人以下の頻度
  • 2 複数の原因遺伝子:100〜10,000人に1人程度の頻度
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重要:しかし、単一遺伝子疾患は7,000を超える疾患が存在するため、全体を合わせた積算リスクは約1/300〜1/500の新生児が何らかの単一遺伝子疾患を持って生まれるとされています。

単一遺伝子疾患の遺伝形式

単一遺伝子疾患は、その遺伝様式により大きく3つに分類されます:

遺伝形式 特徴 発症条件 代表的疾患
常染色体優性遺伝 片親からの変異遺伝子で発症 対になった遺伝子の一方に異常 ハンチントン病、筋緊張性ジストロフィー
常染色体劣性遺伝 両親からの変異遺伝子で発症 対になった遺伝子の両方に異常 フェニルケトン尿症、嚢胞性線維症
X染色体連鎖遺伝 X染色体上の変異で発症 男性では1つの変異で発症 血友病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー

検査対象となる条件と適応基準

単一遺伝子疾患の出生前診断は、すべての妊婦さんに推奨される検査ではありません。以下のような臨床的適応がある場合に検査対象となります。

主な適応基準

検査対象となる臨床的適応
  • 超音波所見:胎児超音波検査で異常所見が認められる場合
  • 異常な出生前スクリーニング結果:NIPT等で陽性結果が出た場合
  • 家族歴陽性:特定の遺伝性疾患または家族性バリアントの家族歴がある場合
  • キャリアスクリーニング陽性:夫婦の保因者検査で陽性結果が出た場合

対象疾患と対象遺伝子の例

単一遺伝子疾患の出生前診断では、以下のような疾患が検査対象となります。遺伝形式別に代表的な疾患とその原因遺伝子をご紹介します。

遺伝形式 疾患名 主要原因遺伝子 主な症状・特徴
常染色体劣性遺伝 脊髄性筋萎縮症(SMA) SMN1 運動神経変性・筋力低下
嚢胞性線維症(CF) CFTR 呼吸器・消化器の粘液異常
β-サラセミア HBB ヘモグロビン異常・貧血
鎌状赤血球症 HBB 異常ヘモグロビン・溶血性貧血
フェニルケトン尿症(PKU) PAH アミノ酸代謝異常・知的障害
テイ・サックス病 HEXA 神経系脂質蓄積症
ゴーシェ病 GBA 糖脂質代謝異常
先天性副腎皮質過形成(CAH) CYP21A2 副腎酵素欠損症
α-サラセミア HBA1/HBA2 ヘモグロビン異常・貧血
ウィルソン病 ATP7B 銅代謝異常・肝障害
常染色体優性遺伝 ハンチントン病 HTT 進行性神経変性疾患
マルファン症候群 FBN1 結合組織異常・大動脈拡張
成人型多発性嚢胞腎(ADPKD) PKD1/PKD2 腎嚢胞形成・腎機能低下
家族性腺腫性ポリポーシス(FAP) APC 大腸ポリープ・癌リスク高
神経線維腫症1型(NF1) NF1 カフェオレ斑・神経線維腫
筋強直性ジストロフィー1型(DM1) DMPK 筋萎縮・不整脈
軟骨無形成症 FGFR3 軟骨異栄養症・低身長
肥大型心筋症 MYBPC3/MYH7 心室壁肥厚・不整脈
X連鎖遺伝 血友病A F8 第VIII因子欠損・出血傾向
血友病B F9 第IX因子欠損・出血傾向
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD) DMD 進行性筋萎縮・車椅子生活
ベッカー型筋ジストロフィー(BMD) DMD 軽症型筋ジストロフィー
脆弱X症候群 FMR1 知的障害・自閉症の原因
G6PD欠損症 G6PD 溶血発作・薬剤誘発性貧血
ファブリー病 GLA ライソゾーム病・腎障害
ミトコンドリア病 MELAS症候群 MT-TL1等 脳筋症・乳酸アシドーシス
MERRF症候群 MT-TK等 てんかん・筋繊維異常
レーベル遺伝性視神経症(LHON) MT-ND1/4/6等 急性視力障害・失明
その他の疾患について

上記以外にも、7,000を超える単一遺伝子疾患が知られており、それぞれ異なる遺伝子が関与しています。

  • ライソゾーム病:ムコ多糖症各型、ポンペ病、クラッベ病など
  • 骨系統疾患:骨形成不全症、軟骨異形成症など
  • 感覚器疾患:先天性聴覚障害、網膜色素変性など
  • 免疫系疾患:重症複合免疫不全症、慢性肉芽腫症など
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ご家族の疾患が上記にない場合でも、遺伝カウンセリングにてご相談ください。最新の遺伝子パネル検査や特定遺伝子検査により対応可能な場合があります。

単一遺伝子疾患の出生前診断方法

単一遺伝子疾患の出生前診断は、主に確定的検査である羊水検査と絨毛検査によって行われます。これらの検査では、NIPTなどの非確定的検査とは異なり、胎児の遺伝子を直接調べることが可能です。

羊水検査による単一遺伝子疾患の診断

羊水検査の特徴
  • 実施時期:妊娠15週以降(一般的には16-18週)
  • 検査方法:超音波ガイド下で羊水を採取
  • 診断精度:確定診断(99%以上の精度)
  • 流産リスク:約1/300

絨毛検査による単一遺伝子疾患の診断

絨毛検査の特徴
  • 実施時期:妊娠10-14週
  • 検査方法:胎盤絨毛を採取して分析
  • 診断精度:確定診断(99%以上の精度)
  • 流産リスク:約1/100

検査費用と保険適用について

重要:出生前診断は保険適用外です

羊水検査・絨毛検査を含む出生前診断は、基本的に保険適用外の自由診療となります。全額自己負担となります。

ミネルバクリニックでの検査料金

検査項目 料金(税込) 備考
羊水検査 88,000円 基本的な染色体検査は含まない
絨毛検査 132,000円 基本的な染色体検査は含まない
単一遺伝子検査 198,000円(リピート病以外)/220,000円(リピート病) リピート病以外の詳細はこちら
リピート病の詳細はこちら
MCC(母体細胞混入検査) 132,000円 羊水や絨毛検体の母体細胞混入有無を判定し、胎児遺伝学的検査の正確性を確保するために必ず行います。

遺伝カウンセリングの重要性

単一遺伝子疾患の出生前診断において、遺伝カウンセリングは必要不可欠な要素です。検査前後の適切なカウンセリングにより、ご夫婦が十分な情報に基づいて意思決定を行うことができます。

検査前カウンセリングの内容

  • 家族歴の詳細な聞き取り:3世代にわたる遺伝歴の確認
  • 遺伝形式の説明:疾患の遺伝パターンと再発リスクの説明
  • 検査方法の説明:各検査のメリット・デメリット、リスクの説明
  • 検査結果の解釈:陽性・陰性結果の意味と限界の説明

よくある質問(FAQ)

Q1. 単一遺伝子疾患の出生前診断はいつから受けられますか?
絨毛検査は妊娠10-14週、羊水検査は妊娠15週以降から受けることができます。検査の種類や医療機関によって異なるため、事前に確認することをお勧めします。
Q2. 検査費用はどのくらいかかりますか?
単一遺伝子疾患の検査費用は検査内容により大きく異なります。ミネルバクリニックでは羊水検査88,000円、絨毛検査132,000円、単一遺伝子検査198,000円(いずれも税込)となっています。出生前診断は保険適用外の自由診療のため、全額自己負担となります。
Q3. 検査のリスクはありますか?
羊水検査では約1/300、絨毛検査では約1/100の確率で流産のリスクがあります。その他、感染や出血のリスクも極めて稀ですが存在します。

まとめ

単一遺伝子疾患の出生前診断は、家族歴のある方や遺伝的リスクが懸念される場合の重要な選択肢です。検査には羊水検査や絨毛検査といった確定的な方法があり、高い精度で診断することが可能ですが、一定のリスクも伴います。

検査を検討される方へ

遺伝カウンセリングを受けることが最も重要です。専門医による適切な説明とサポートのもと、ご夫婦で十分に話し合って決断することをお勧めします。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による無料の遺伝カウンセリングを提供しており、検査前後の手厚いサポートを行っております。

NIPTと遺伝カウンセリングのご相談はミネルバクリニックへ

ミネルバクリニックでは、NIPT(新型出生前診断)と単一遺伝子疾患の出生前診断を専門に提供しています。検査前後の遺伝カウンセリングでは、検査の内容や意味、結果の解釈について詳しくご説明します。不安やご質問があれば、臨床遺伝専門医にご相談ください。



プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら