疾患概要
臨床的特徴
研究による症例報告は以下の通りです。
Gearingら(2002)は、12歳で全般性ジストニアを発症した男性双生児の症例を報告しました。彼らは、生まれつきの口唇口蓋裂や発達上の異常などを伴っていました。
Conboyら(2017)は、15歳の男児の症例を紹介しました。この男児は生後8ヵ月で感音性難聴と診断され、13歳でジストニアが発現しました。
Skogseidら(2018)は、青年期に発症した重度のジストニアとACTB変異を持つ23歳の女性の症例を報告しました。彼女は乳幼児期から軽度の発達遅延を示していました。
Freitasら(2020)は、25歳で左下肢ジストニアが発症し、その後全身に進行した52歳の女性の症例を紹介しました。
Zavalaら(2022)は、34歳で重度の多巣性ジストニアを発症したアルゼンチン人女性の症例を報告しました。彼女は生まれつき感音性難聴がありました。
DDS1は様々な重症度を示し、感音性難聴、ジストニア、顔面異形、骨格異常などを伴うことがあります。加えて、患者の認知機能は軽度正常以下であり、重症度は病状の進行と共に増加する可能性があります。
神経病理学的所見
Gearingら(2002)による研究は、双子の脳における神経病理学的所見について報告しています。彼らの調査では、以下のような特徴的な所見が見られました。
新皮質と視床の神経細胞における好酸球性棒状細胞質封入体:これらの封入体はアクチン脱分極因子/コフィリンに対して免疫反応性を示していましたが、アクチンに対する陽性反応はまれでした。好酸球性封入体は、細胞内に蓄積した異常なタンパク質集合体を示すことがあり、特定の神経変性疾患で見られます。
線条体における豊富な好酸球性球状構造:これらの構造はアクチンおよびアクチン脱分極因子/コフィリンに対して強い陽性反応を示していました。線条体は運動機能や行動調節に重要な役割を果たす脳領域であり、ここでの異常は運動障害や他の神経症状に関連している可能性があります。
Gearingらは、アクチンの凝集が神経変性疾患の主要な特徴として報告されたことはこれまでなかったと述べ、ジストニアに伴うこれらの神経病理学的変化は、アクチンが関与する新しい変性機構を示唆している可能性があると指摘しました。アクチンは細胞骨格系の重要な構成要素であり、その異常は細胞の構造と機能に広範な影響を及ぼす可能性があります。
この研究は、アクチンの異常が神経変性疾患の新たな病理学的メカニズムである可能性を示しており、先天異常や発達異常の背景にある全身的な関与を考慮する必要があることを示唆しています。
遺伝
ACTB遺伝子は細胞骨格の構成要素であるアクチンをコードしており、この遺伝子の変異は細胞の動態や形態に影響を与える可能性があります。特に、発達遅延やその他の神経発達障害に関連していることが知られています。
Conboyらの研究は、特定の遺伝的変異がどのようにして発達障害やその他の健康問題を引き起こす可能性があるかについての理解を深めることに貢献しています。また、de novo変異の同定は、遺伝カウンセリングや将来的な医療管理において重要な情報を提供します。
頻度
原因
特に、DDS1に関連すると考えられている主要な遺伝子変異はACTB遺伝子におけるものです。ACTB遺伝子は細胞骨格を構成するアクチンの一種をコードしており、この遺伝子の変異は細胞の構造と機能に影響を与える可能性があります。これにより、神経系や他の組織での発達異常が引き起こされ、DDS1の特徴的な症状が現れると考えられています。
また、これらの遺伝子変異はしばしばde novo(新規)で生じるため、患者の親からは遺伝していないことが一般的です。遺伝的検査によってこれらの変異を特定することは、診断、治療計画、および遺伝カウンセリングにおいて重要な役割を果たします。
DDS1は、その稀少性と遺伝的多様性のため、まだ完全には理解されていない疾患です。したがって、個々の症例の詳細な分析とさらなる研究が、この疾患のより深い理解に不可欠です。
診断
臨床的評価:DDS1の主な特徴は、ジストニア(筋肉の持続的な収縮による運動障害)と聴覚障害です。そのため、患者の運動機能と聴力の両方を詳細に評価します。また、他の潜在的な症状や徴候も考慮されます。
家族歴の調査:DDS1は多くの場合、de novo(新規)変異によって発生するため、家族内に同じ症状を持つ人がいない場合が一般的です。しかし、遺伝的要因を理解するために、家族歴の詳細な調査が重要です。
遺伝子検査:DDS1の診断には、遺伝子検査が不可欠です。特に、ACTB遺伝子の変異がDDS1に関連していることが知られています。遺伝子検査によって、この遺伝子における変異を特定し、診断を確定することが可能です。
その他の検査:必要に応じて、脳の画像診断(MRIなど)、聴力検査、神経学的検査などが行われることもあります。
DDS1の診断は多面的なアプローチを必要とし、神経学的、聴覚学的、および遺伝学的専門知識の統合が求められます。DDS1のような稀な疾患に対する正確な診断は、適切な治療計画の策定と患者の生活の質の改善に不可欠です。また、遺伝カウンセリングも重要な役割を果たし、患者とその家族に対する情報提供とサポートを提供します。
治療・臨床管理
この研究は、DDS1およびACTB遺伝子の特定の変異(R183W変異)を有する患者に対して、淡蒼球刺激が効果的な治療オプションであることを示唆しています。Skogseidらは、同様の変異を持つ他の患者7人のうち、生存している4人全員が淡蒼球刺激治療を受けていたことを指摘しています。これは、進行性ジストニアを有する患者において、淡蒼球刺激が有効な治療選択肢である可能性を示唆しています。
分子遺伝学
Gearingら(2002)が報告したDDS1を有する一卵性双生児では、Procaccioら(2006)がACTB遺伝子のR183W変異を同定しました。
Conboyら(2017)は、ハッター派の両親から生まれた15歳の男児で同じR183W変異を発見し、これはde novo(新規)のヘテロ接合性変異でした。この変異は全ゲノム配列決定により発見され、サンガー配列決定で確認されましたが、公開データベースには存在していませんでした。
Skogseidら(2018年)は、22歳の女性でR183W変異を同定しました。この変異は全ゲノム配列決定とサンガー配列決定によって確認されました。
Freitasら(2020)は、52歳のブラジル人女性でR183W変異を報告し、全ゲノム配列決定によって同定されました。
Zavalaら(2022年)は、34歳のアルゼンチン人女性で同じR183W変異を発見しました。この変異も全ゲノム配列決定とサンガー配列決定で確認されました。
これらの研究は、DDS1の患者におけるACTB遺伝子のR183W変異の重要性を強調しており、この変異がDDS1の主要な遺伝的原因の一つであることを示唆しています。しかし、変異体の具体的な機能や患者細胞における影響に関する研究はまだ行われていません。