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網膜色素変性症概論

疾患概要

症候性網膜色素変性症(RP)は、遺伝的異質性が非常に高い疾患群であり、多数の遺伝子変異が関与しているため、番号記号(#)が付されます。この分類法は、RPが単一の遺伝子異常によって引き起こされるわけではなく、複数の遺伝子が関与する可能性があることを示しています。さらに、RPは他の一般的な疾患と合併することが多く、その遺伝的背景や表現型の多様性を反映しています。

RPの症例は番号付き型(具体的な遺伝子異常が同定されているケース)と番号なし型(遺伝子異常が特定されていない、または複数の遺伝子が関与している可能性があるケース)に大別されます。具体的なRP型の一覧や遺伝的背景については、遺伝学の文献やデータベースを参照することが推奨されます。このような情報は、研究者や医療専門家が症状の理解、診断、治療戦略の開発に役立てるための重要な基盤を提供します。

網膜色素変性症(RP)は、3,000人から5,000人に1人の割合で見られる進行性の遺伝性眼疾患です。この病気は、夜盲、視野狭窄、20歳頃から始まる中心視力の徐々に進行する低下などの症状を特徴としています。診断には、視力の低下、視野の狭窄、色覚異常、眼底に見られる特徴的な「骨棘」の色素塊、減弱した網膜血管、嚢胞様黄斑浮腫、微細な色素硝子体細胞、視神経乳頭の蒼白などが含まれます。RPは、39%から72%の患者で後嚢下白内障を、30%で高度近視、乱視、円錐角膜、軽度難聴を引き起こすことがあり、これらはアッシャー症候群(276900を参照)を除いた場合の数字です。X連鎖性RPの女性保因者の半数には後極の黄金反射が見られます。これらの特徴は、RPの診断と理解において重要な役割を果たします。

「黄金反射(golden reflex)in the posterior pole」とは、網膜色素変性症(RP)などの眼疾患に関連する眼底の特徴的な所見の一つです。後極部とは、眼底の中心部にあたり、黄斑(視力の中心である網膜の一部)を含む領域を指します。黄金反射は、この地域で観察される光の反射現象で、特にX連鎖性RPの女性保因者に見られることがあります。

この反射は、眼底検査時に後極部で光が特定の角度で反射することにより生じ、黄金色に輝くように見えるためこの名前が付けられました。黄金反射は、網膜の特定の変性状態や構造的な変化によって引き起こされると考えられています。ただし、この所見が見られるからといって必ずしも視力に重大な影響があるわけではなく、診断の手がかりの一つとして用いられます。

RPやその他の網膜疾患の診断において、黄金反射は網膜の健康状態や病態を評価する上での重要な指標の一つとなります。この現象は、特にX連鎖遺伝形式のRPを持つ女性保因者において診断のヒントとなり得るため、網膜疾患の診断プロセスにおいて注目される所見です。

若年性網膜色素変性症

若年性網膜色素変性症は、桿体および錐体視細胞が同時に影響を受ける小児期に発症する重症網膜ジストロフィーの一群です。この病気は遺伝的に不均質で、重症度に幅があります。最も重篤な形態はLeber先天性網膜色素変性症と呼ばれ、より侵襲性が低い場合は通常、若年性網膜色素変性症と分類されます。

常染色体劣性遺伝型の若年性網膜色素変性症は、SPATA7、LRAT、TULP1遺伝子の変異によって発症することが知られており、これらはそれぞれLCA3、LCA14、LCA15としても参照されます。これらの遺伝子変異によって引き起こされる網膜ジストロフィーは、視覚障害を伴う進行性の疾患です。

一方、常染色体優性遺伝型の若年性網膜色素変性症は、AIPL1遺伝子の変異によって引き起こされます。この型は特定の遺伝子変異によるもので、同じく進行性の視覚障害を特徴とします。

これらの疾患は、遺伝子診断により特定されることが多く、網膜ジストロフィーの遺伝的背景を理解する上で重要です。治療法や管理戦略は、症状の重症度や遺伝的原因に応じて異なります。

遺伝

常染色体劣性RP

網膜色素変性症(RP)の番号とそれに対応する遺伝子の関係を以下にまとめます。この一覧は、RPの特定の型と、それを引き起こす遺伝子変異を示しています。

RP1: RP1遺伝子のホモ接合体変異 (603937.0006)
RP4: ロドプシン遺伝子 (RHO; 180380.0023) の変異
RP12: CRB1の変異 (604210.0001)
RP14: TULP1の変異 (602280.0001)
RP19: ABCA4の変異 (601691.0008)
RP20: RPE65の変異 (180069.0003)
RP25: EYSの変異 (612424.0001)
RP26: CERKLの変異 (608381.0001)
RP28: FAM161Aの変異 (613596)
RP32: CLCC1の変異 (617539)
RP35: SEMA4Aの変異 (607292)
RP36: PRCDの変異 (610598.0001)
RP37: NR2E3の変異 (604485.0007)
RP38: MERTKの変異 (604705.0001)
RP39: USH2Aの変異 (608400.0006)
RP40: PDE6Bの変異 (180072.0001)
RP41: PROM1の変異 (604365.0001)
RP43: PDE6Aの変異 (180071.0001)
RP44: RGRの変異 (600342.0001)
RP45: CNGB1の変異 (600724.0001)
RP46: IDH3Bの変異 (604526.0001)
RP47: SAGの変異 (181031.0001)
RP49: CNGA1の変異 (123825.0001)
RP51: TTC8の変異 (608132.0005)
RP53: RDH12の変異 (608830)
RP54: C2ORF71の変異 (613425.0001)
RP55: ARL6の変異 (608845)
RP56: IMPG2の変異 (607056)
RP57: PDE6Gの変異 (180073)
RP58: ZNF513の変異 (613598)
RP59: DHDDSの変異 (608172)
RP61: CLRN1の変異 (606397)
RP62: MAKの変異 (154235)
RP64: C8ORF37の変異 (614477)
RP65: CDHR1の変異 (609502)
RP66: RBP3の変異 (180290)
RP67: NEK2の変異 (604043)
RP68: SLC7A14の変異 (615720)
RP69: KIZの変異 (615757)
RP71: IFT172の変異 (607386)
RP72: ZNF408の変異 (616454)
RP73: HGSNATの変異 (610453)
RP74: BBS2の変異 (606151)
RP75: AGBL5の変異 (615900)
RP76: POMGT1の変異 (606822)
RP77: REEP6の変異 (609346)
RP78: ARHGEF18の変異 (616432)
RP79: HK1の変異 (142600)
RP80: IFT140の変異 (614620)
RP81: IFT43の変異 (614068)
RP82: ARL2BPの変異 (615407)
RP84: DHX38の変異 (605584)
RP85: AHRの変異 (600253)
RP86: KIAA1549の変異 (613344)
RP88: RP1L1の変異 (608581)
RP90: IDH3Aの変異 (601149)
RP92: HKDC1の変異 (617221)
RP93: CC2D2Aの変異 (612013)
RP94: SPATA7の変異 (609868)
RP95: RAX2の変異 (610362)
近親者では、RP22 (602594) が16p12に、RP29 (612165) が4q32-q34にマッピングされています。

この一覧は、RPの異なる型とそれを引き起こす可能性のある遺伝子変異を示しており、RPの遺伝的な多様性を反映しています。

常染色体優性RP

Hartongら(2006年)による研究によれば、網膜色素変性症の約30~40%は常染色体優性遺伝によるものであるとされています。具体的には、以下の遺伝子または遺伝子座に変異が関与しています。

RP1(RP1遺伝子)
RP4(ロドプシン遺伝子 RHO)
RP7(ペリフェリン-2遺伝子 PRPH2)
RP9(RP9遺伝子)
RP10(IMPDH1遺伝子)
RP11、PRPF31
RP13、PRPF8
RP18、PRPF3
RP27、NRL
RP30(FSCN2遺伝子)
RP31(TOPORS遺伝子)
RP33(SNRNP200遺伝子)
RP35(SEMA4A遺伝子)
RP37、NR2E3
RP42、KLHL7
RP44、RGR
RP48、GUCA1B
RP50、BEST1
RP53、RDH12
RP60、PRPF6
RP70、PRPF4
RP83、ARL3
RPE87、RPE65
RP89、KIF3B
RP91、IMPG1
RP96、SAG
RP97、VWA8
また、RP17は染色体17q22上の構造変異による連続遺伝子障害であり、YPEL2のトポロジー関連ドメインが関与し、GDPD1遺伝子の網膜発現が増加することが報告されています。

RP63遺伝子座は染色体6q23にマップされています。

また、常染色体優性遺伝による網膜色素変性症については、180210で詳しく述べられています。

常染色体優性遺伝の網膜色素変性症とCA4遺伝子の変異との関連については、114760.0002および114760.0003を参照してください。

X連鎖遺伝

Hartongらによる2006年の研究は、網膜色素変性症(RP)の一部がX連鎖遺伝のパターンを持つことを示しています。RPは、夜盲、視野狭窄、そして最終的には完全な視力喪失につながる可能性がある進行性の遺伝性疾患です。X連鎖遺伝によるRPは、網膜色素変性症全体の5〜15%を占め、主に男性に影響を与えますが、女性も症状の発現に影響を受けることがあります。

RP2とRP23の遺伝子変異

RP2はRP2遺伝子の変異により発症します。この遺伝子変異は、主に男性に影響を与えるX連鎖劣性遺伝の疾患です。
RP23はOFD1遺伝子の変異によって発症する別の形態のRPで、これもX連鎖劣性遺伝のパターンを持ちます。
RPGR遺伝子とX連鎖網膜色素変性症

RP3とRP15は、RPGR遺伝子の変異によって引き起こされるX連鎖網膜色素変性症の一型であり、RPGR遺伝子の変異はXLRP患者の70%以上、全RP患者の11%以上に見られます。Vervoortらによる2000年の研究では、RPGR遺伝子の変異がXLRPの主要な原因であることが示されました。RP15では、罹患した男性および保因者の女性が早期の錐体病変を示すことがあり、これはX連鎖網膜色素変性症の典型的な症状とは異なります。
その他のX連鎖RP

RP6は染色体Xp21.3-p21.2に、
RP24はXq26-q27に、
RP34はXq28にマッピングされています。
これらの遺伝子変異によるRPの研究は、病態生理の理解を深めるだけでなく、将来的には治療法の開発にも繋がる可能性があります。X連鎖遺伝形式のRPは、主に男性に影響を与え、女性は通常、病気の保因者となりますが、時には症状を発現することもあります。これらの知見は、遺伝カウンセリングや将来の治療戦略において重要な役割を果たします。

Y連鎖遺伝

Y連鎖遺伝とは、Y染色体上に位置する遺伝子の変異が父から息子へと直接伝えられる遺伝のパターンです。Y染色体は男性にのみ存在し、男性がXY染色体を持ち、女性がXX染色体を持つという人類の性染色体の配置から、この遺伝の形式が成り立ちます。そのため、Y連鎖遺伝による特徴や疾患は男性にのみ見られます。

家系図においてY連鎖遺伝が示唆される場合、その特徴や疾患は父から息子へと伝わり、女性には伝わらないパターンが見られます。これは、女性がY染色体を持たないため、Y染色体上の遺伝子は女性には存在しないからです。

RPY (400004) という記述は、Y染色体に関連する特定の遺伝的状態や疾患を指している可能性があります。Y染色体に関連する遺伝的特徴には、特定の種類の男性特有の不妊症や、Y染色体上の特定の遺伝子に由来する病状が含まれます。しかし、Y染色体による遺伝は比較的数が少ないため、Y連鎖遺伝病は珍しい部類に入ります。

Y染色体は主に性別の決定や男性の生殖に関連する遺伝子を含んでいますが、そのほかにも身長や特定の健康状態に関連する遺伝子が存在することが研究によって明らかにされています。この染色体の研究は、男性特有の健康問題の理解や治療法の開発に貢献しています。

その他

RP7: PRPH2(179605)およびROM1(180721)遺伝子のダイジェニック変異(ダブルヘテロ接合)により発症するとされています。これは、二つの異なる遺伝子の変異が一緒になって病気を引き起こす比較的珍しい例です。

ミトコンドリア型RP: MTTS2(590085)の突然変異によって起こるとされ、以前はRP8およびRP21と呼ばれていました。これはミトコンドリアDNAの変異により発症することから、ミトコンドリア病とも関連があります。

RP5: これは染色体6qに欠失を持つスペインの近親家族(RP25、602772)と、RHO変異が発見された後もロドプシンとは無関係と推定される家族(613731)を示しています。この記号は時間を通じて異なる状況で使用されてきました。

RP16: これは染色体14q11に連鎖を示す常染色体劣性遺伝のサルデーニャ人家族を指すために使用されていたが、後に撤回されました。このケースは、遺伝学的研究が進行するにつれて新しい情報が明らかになり、以前の理解が更新されることがあることを示しています。

非定型網膜色素変性症: これはアベタリポ蛋白血症、アルストローム症候群、レフスム症候群、バルデー・ビードル症候群、ローレンス・ムーン症候群、アッシャー症候群、コケイン症候群、淡蒼球変性症などの多くの劣性遺伝性疾患で観察されることがあります。これらの病気は、網膜色素変性症の特徴を持ちながらも、他の臨床的特徴を有することから非定型と分類されています。

これらの情報は、遺伝子変異がどのようにして多様な疾患を引き起こす可能性があるかを理解する上で重要です。それぞれの症例は、遺伝子診断や治療戦略を考える上でのユニークな洞察を提供します。遺伝性疾患の研究は、これらの複雑な相互作用を解明し、患者に最適なケアを提供するための戦略を改善するために不可欠です。

臨床的特徴

網膜色素変性症(RP)は、進行性の視野狭窄、夜盲、そして眼底変化を含む色素の「骨小体」塊によって特徴づけられる遺伝性の眼疾患です。歴史的には、Ayres (1886) からSungaとSloan (1967) まで、複数世代にわたる家系研究がRPの遺伝的特徴を明らかにしてきました。特に、SungaとSloanは男性から男性への感染を含む3世代13人の罹患者を持つ家系を報告しました。Dowling (1966) は、明るい光への暴露がRPの変性過程を促進する可能性があるとの実験結果を議論しました。

Ammannら(1961)によるスイスの5州での調査では、RP患者118例中16例に先天性難聴が合併していることが発見されました。Kaplanら(1990)は、93例のRPを検討し、散発性症例が最も多かったこと(42%)、そして錐体-杆体ジストロフィー、早期発症の重症型、および後期発症の中等症型といった少なくとも3つの臨床型が存在することを示しました。

Ben-Arie-Weintrobら(2005)は、原因遺伝子の欠損が同定されたRP患者の病理組織所見をレビューしました。また、Janakyら(2007)は、多巣性網膜電図(mfERG)を用いてRP患者の網膜機能を解析し、中心部における反応の高い変動性を指摘しました。これは、検査時の遺伝的および疾患期間に関連した錐体変性の差異によるものである可能性が示唆されました。

Macrae (1982)は、オンタリオ州を含む5つの地域で観察されたRPのメンデル型の頻度を表にまとめ、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖遺伝の割合を示しました。BundeyとCrews(1984)はバーミンガム市でのRPの有病率を約5,000人に1人と報告しました。

Fishmanら(1985)は、84人の患者を対象に4つのタイプの常染色体優性遺伝性RPを区別しました。Galbraithら(1986)は、RP患者とその家族における抗体の存在を調査し、RPの神経細胞損傷と自己免疫反応の関連を示唆しました。

Grondahl(1987)によるノルウェーの研究では、53家系101人のRP患者を認め、予後は遺伝形式によって異なることが示されました。非典型的RPは、Flynn-Aird症候群を含む他の多くの疾患でも観察されます。

Inglehearnら、Farrarら、Blantonらによる研究では、RPの遺伝子座が特定され、特にII型ADRPは染色体3qマーカーと無関係に分離することが確認されました。MassofとFinkelstein(1981)は、RPを早期発症型と後期発症型に分類し、Ardenら(1983)やLynessら(1985)によってさらに詳細な分類が提案されました。Blantonら(1991)は、異なる遺伝子座に起因する疾患の臨床的格差は顕著ではないとコメントしています。

チャールズ・ボネ症候群 Charles Bonnet Syndrome

O’Hareら(2015)の研究では、オーストラリアにおける網膜色素変性症(RP)の自然史研究の一環として、重度の視力障害(良い方の眼の視力が20/200未満、および/または視野制限が10度未満)を持つ72人の患者を対象に電話インタビューが行われました。その結果、27人(37.5%)の患者がチャールズ・ボネ症候群(CBS)に一致する幻視を繰り返し経験していることが同定されました。

27人の患者のうち、13人は数秒間続く無生物の光模様から成る単純な幻覚を経験し、10人はエピソードがランダムに現れ、時間的なパターンや既知の誘因は見当たりませんでした。増悪状況を自覚していた17人の患者のうち、11人は疲れているときに、3人は活動や作業に集中しているときに幻覚を経験しました。また、21人の患者は幻覚が自然に消えたと報告しましたが、6人は意図的に目を閉じるとエピソードが消失すると報告しました。18人の患者が幻視体験による精神的な苦痛を報告しました。

O’Hareら(2015)は、日常的な眼科診療や臨床治療試験において、CBSの診断と積極的な管理が非常に重要であると強調しました。

診断

Kondoらによる2003年の研究では、常染色体優性遺伝性網膜色素変性症(ADRP)の効率的な遺伝子診断を行うための階層的アプローチが提案されました。このアプローチは、病気の原因となる遺伝子の変異を特定するために、最も一般的に関与する遺伝子から順に検査を行う方法です。ADRPには多くの原因遺伝子があり、それぞれが異なる頻度で変異を示します。このため、診断プロセスを効率化し、患者に最も適した遺伝カウンセリングと管理を提供するために、特定の遺伝子を優先的に検査することが推奨されています。

この階層的アプローチでは、まず最も頻繁に変異が見られる遺伝子、例えばRHO(ロドプシン)遺伝子やRP1遺伝子などを検査します。これらの遺伝子で変異が見つからない場合には、次に頻度の低い遺伝子へと検査を拡大していきます。この方法により、患者やその家族の遺伝的リスクをより迅速に、かつ正確に評価することが可能となり、遺伝子治療や将来の治療法の選択肢に関する情報提供にも役立ちます。

効率的な遺伝子診断は、特に遺伝性疾患の理解と治療が進展している現在、網膜色素変性症患者にとって非常に重要です。それにより、患者個々の疾患の原因となる遺伝子変異を特定し、将来の治療選択肢や家族計画において重要な情報を提供することができます。

治療・臨床管理

臨床管理に関する研究で、Swansonらは2000年に、自動静的ペリメトリーを用いて網膜色素変性症(RP)患者の視野感度に対する刺激の大きさがどのように影響するかを調査しました。長年にわたり、RP患者の視野検査の標準的な方法は手動の運動学的ペリメトリー(ゴールドマンペリメトリ)でしたが、この研究では自動静的ペリメトリーが使用され、刺激サイズIII(直径0.43度)とV(直径1.72度)が比較されました。結果として、視野の損傷がある部分では、小さい刺激サイズから大きい刺激サイズへの変更が、異常に大きな感度の増加を引き起こす可能性があることがわかりました。視野の異常を検出するにはサイズIIIが、RPの進行を観察するにはサイズVがより適していると結論付けられました。

2003年、Bergerらは成人ヒト視細胞移植を受けた進行型RP患者8人の1年間の追跡調査を発表しました。この治療法がRP治療において実行可能であることを示しながらも、中心視力の回復や視力低下の遅延には結びつかなかったと報告しています。しかし、網膜変性の進行を遅らせる可能性については、長期間にわたる追跡調査が必要であると述べました。

英国王立外科学会(RCS)ラットは、視細胞が死滅する劣性遺伝性網膜変性のモデルとして、網膜色素上皮が外分節を貪食できないことが研究されています。2004年、Lawrenceらは人工シュワン細胞がジストロフィーRCSラットの網膜の構造と機能を維持できることを発見しました。GDNFやBDNFを過剰発現させた細胞は、通常よりも視細胞の生存率を高める効果があることが示されました。この研究は、遺伝子治療による細胞移植が網膜変性による細胞死を防ぐのに有効であることを示しました。

2010年、Busskampらは、ハロロドプシンを発現させたことで光に鈍感な錐体が光感受性を回復し、網膜の高度な回路機能を活性化できることを網膜色素変性症モデルマウスを用いて示しました。また、ヒトの網膜においても同様の結果が得られ、ハロロドプシンに基づく治療が光に鈍感な錐体を持つ盲目患者にとって有望であることを発見しました。

病因

Birdの1995年のレビューは、視細胞ジストロフィーに関する文献を広範囲にわたって評価し、この分野における病因の概念と臨床診療への影響について考察しました。視細胞ジストロフィーは、視力喪失につながる進行性の眼疾患であり、多くの場合、遺伝的要因によって引き起こされます。このような病態の理解は、将来的な治療法の開発に不可欠です。

Clarkeらによる2000年の研究は、神経変性疾患の病因と細胞死のメカニズムに関する重要な洞察を提供しました。彼らは、12種類の視細胞変性モデル、興奮毒性細胞死を起こした海馬ニューロン、小脳変性マウスモデル、そしてパーキンソン病とハンチントン病の神経細胞死の動態を研究しました。研究結果は、神経細胞死が指数関数的なパターンを示し、細胞死のリスクが一定であるか、年齢とともに指数関数的に減少することを示しました。これらの発見は、累積損傷仮説に対する挑戦となります。

特に注目すべきは、Clarkeらが提案した「1ヒット」生化学モデルです。このモデルでは、突然変異がニューロンに定常状態を与え、単一のランダムな事象が細胞死を引き起こすとされています。この考え方は、神経変性の治療において重要な示唆を与えています。具体的には、突然変異を持つニューロンは年齢に関係なく治療の恩恵を受ける可能性があり、これは病気の任意の段階での治療が有益である可能性を意味しています。

このような研究は、神経変性疾患の理解を深め、治療法の開発に向けた新たなアプローチを提供します。特に、「1ヒット」モデルは、病気の初期段階だけでなく、進行した段階でも治療が可能であることを示唆しており、これは多くの患者にとって希望を与えるものです。

異質性

異質性とは、同じ疾患や症状が異なる遺伝的原因によって引き起こされる現象です。遺伝性疾患において、異質性は一つの疾患が複数の遺伝子変異によって生じることを意味し、これは診断、治療、遺伝カウンセリングにおいて重要な考慮事項となります。網膜色素変性症(RP)はこの異質性の一例で、多くの異なる遺伝子変異がRPの原因として同定されています。

Galらによる1990年の研究では、RBP1遺伝子が網膜色素変性症(RP)と組換えのない密接な連鎖を持つ証拠が見つかりました(組換え率θ=0.00で、lodスコアが最大4.08)。lodスコアは、連鎖の確率を数値化したもので、3以上であればその連鎖が統計的に有意であると見なされます。一方で、RHO遺伝子およびそれに密接に関連するマーカーD3S47とは、いくつかの組換えがあり、緩やかな連鎖の証拠が見つかりました。この結果は、RPの原因となる遺伝子が複数存在し、それらが異なる位置にあることを示唆しています。

Greenbergらによる1992年の研究では、異なる集団(イギリス起源の南アフリカの大家族)を対象にした研究で、常染色体優性RPとD3S47との間に連鎖が見つからず、組換え率がほぼ0.10で連鎖が除外されました。この結果は、RPの遺伝的原因が集団によって異なる可能性を示唆しており、RPの遺伝的異質性をさらに裏付けるものです。

これらの研究は、RPの遺伝的基盤の複雑さと、異なる遺伝子が同じ疾患の原因となり得る異質性を示しています。RPのように異質性が高い疾患では、個々の患者や家族に最適な診断法や治療法を見つけるために、遺伝子検査が重要な役割を果たします。

分子遺伝学

分子遺伝学の進歩により、網膜色素変性症(RP)の遺伝的基盤に関する深い理解が進んでいます。Sohockiら、Kondoら、およびCoppietersらによる研究は、この分野での重要な進展を示しており、特定のRPの分子遺伝学的特徴を明らかにしています。

Sohockiらによる研究
Sohockiらの研究は、網膜色素変性症患者423人を対象に5つの遺伝子の突然変異をスクリーニングし、その結果を報告しています。このスタディでは、網膜色素変性症の異なる形態が遺伝的にどのように異なるかを示しています。ロドプシン遺伝子の変異が最も一般的であり、その後ペリフェリン/RDS遺伝子、RP1遺伝子、CRX遺伝子、そしてAIPL1遺伝子の順に変異が見られました。

Kondoらによる研究
Kondoらの研究では、常染色体劣性網膜色素変性症または単純網膜色素変性症の59人の患者を対象に、既知の候補遺伝子の突然変異を同定するためのホモ接合性マッピングが用いられました。このアプローチにより、TULP1およびCNGB1遺伝子の新規変異が発見され、RPE65遺伝子の変異も同定されました。これらの変異は、患者の臨床的特徴と共分離解析を通じてその病原性が強く支持されました。

Coppietersらによる研究
Coppietersらの研究では、RetNetに記録されている網膜色素変性症を引き起こす多数の遺伝子座が指摘されています。この情報は、常染色体優性網膜色素変性症(adRP)が遺伝的に非常に不均一であり、全症例の54%が17の遺伝子座に起因していることを示しています。

これらの研究は、RPの診断、治療、および遺伝カウンセリングにおいて重要な役割を果たしています。遺伝子変異の同定は、特定の疾患の予後を理解し、将来的には遺伝子治療などの個別化された治療戦略を開発するための基盤を提供します。遺伝学の進歩は、RPを含む多くの遺伝性疾患の管理と治療において、新たな希望をもたらしています。

命名法

Inglehearn and Hardcastleの1996年の研究では、遺伝性網膜変性症、特に網膜色素変性症(RP)に関連する命名法の混乱について詳細に論じられています。網膜色素変性症は遺伝的異質性が高く、多数の遺伝子変異によって引き起こされるため、研究者や臨床医の間で命名法に関する一貫性を保つことが困難です。

RPの各型には、それを特定するための番号が割り当てられていますが、この研究によれば、その割り当てには一貫性が欠け、時には混乱を招くことがあるとされています。例えば、RP1が1番染色体から8番染色体に移動したり、RP5がもはや存在せず、RP8が定義された遺伝子座ではなく、単に以前の7つの遺伝子座とリンクしていないファミリーであったりするなど、命名法に一貫性がないことが指摘されています。

特に、RP4(ロドプシンの突然変異による)とRP7(ペリフェリン/RDSの突然変異による)のように、特定の遺伝子変異によって引き起こされるRPの型については、遺伝子名を用いて呼ぶ方が理解しやすく、便利であると提案されています。

Inglehearn and Hardcastleは、このような混乱を避けるために、ヒト遺伝性網膜変性症の遺伝子座命名法に関する包括的なリストを提供しています。このリストは、遺伝性網膜変性症の研究と診断における明確さと一貫性を確保するために重要です。網膜色素変性症の分類と命名法の改善は、疾患の遺伝的異質性を理解し、効果的な治療法の開発に向けた研究を促進するために不可欠です。

集団遺伝学

集団遺伝学は、特定の地理的、民族的、または文化的集団における遺伝子の分布と変異を研究する分野です。この分野は、遺伝的多様性、遺伝病の有病率、および集団間での遺伝的差異に光を当てます。Sharon and Baninによる2015年の研究は、集団遺伝学の一例であり、異なる集団における非症候性網膜色素変性症(RP)の有病率について調査しています。

非症候性RPは、視覚障害を引き起こす遺伝的条件の一種で、特に夜盲や視野の狭窄を特徴とします。この状態は、多くの異なる遺伝的メカニズムによって引き起こされるため、有病率は地域や集団によって大きく異なる可能性があります。

Sharon and Baninの研究は、アメリカおよびヨーロッパの集団における非症候性RPの有病率が約1:5,260であることを示していますが、エルサレム地域ではこれが約1:2,086と明らかに高く、特にアラブ系イスラム教徒の集団で1:1,798とさらに高い有病率を示しています。これに対し、ユダヤ人集団では有病率が1:2,230であり、これらのデータは集団間での遺伝的リスクの違いを示唆しています。

研究では、183家族のコホートにおいて、RPの49%が常染色体劣性遺伝によるものであることが明らかにされました。さらに、遺伝的原因が特定された64家族のうち、42家族(66%)で創始者突然変異がRPの原因であることが判明しています。創始者効果は、比較的閉じられた集団内で一つの遺伝子変異が広がり、集団全体の有病率に大きな影響を与える現象です。

この研究は、特定の地域や集団における遺伝的条件の有病率を理解する上で重要な意味を持ち、これらの集団における遺伝的スクリーニングや介入戦略を計画する際の基礎情報を提供します。また、遺伝的多様性と集団特有の遺伝的リスク要因の理解を深めることで、より効果的な治療法や予防策の開発に貢献する可能性があります。

動物モデル

Nilssonらによる研究は、動物モデルを使用して人間の網膜疾患の理解を深める重要な例です。この研究では、アビシニアンキャットを用いて常染色体劣性遺伝性進行性網膜萎縮症(PRA)の経過を調査し、特に網膜血流の変化に焦点を当てました。PRAは、網膜色素変性症(RP)における臨床経過と電気生理学的所見と非常に似ているとされています。

この研究の主な発見は以下の通りです。

網膜変性の後期には、網膜血流が有意に減少し、これはPRAが進行するにつれて網膜の健康が損なわれることを示しています。
虹彩の血流抵抗が有意に増加し、これが視覚機能の低下に寄与する可能性があります。
インドメタシンの投与は、虹彩の血流量を2倍以上に増加させ、これは虹彩の血管抵抗の増加がシクロオキシゲナーゼ産物によるものであることを示唆しています。
PRAの猫では、乳酸の網膜形成が正常の猫よりも有意に低かったことから、エネルギー代謝に異常があることが示唆されます。
一方で、グルコースの取り込みにはPRAの猫と正常の猫の間に有意な差はありませんでした。

この研究は、PRAおよびRPの理解を深める上で重要な意味を持ちます。網膜血流の減少や虹彩の血流抵抗の増加などの発見は、これらの疾患の治療戦略を考える際に考慮すべき重要な要素です。また、インドメタシンが虹彩血流に及ぼす影響は、将来の治療法の開発に向けた新たな可能性を示唆しています。動物モデルを用いたこのような研究は、人間の疾患のメカニズムを解明し、より効果的な治療法を開発するための基盤となります。

歴史

Franceschettiによる1953年の印象的な血統図は、Francoisが1961年に出版した本で再現され、網膜色素変性症(RP)の家族歴の重要性を示しました。この時期の研究は、RPの遺伝的な側面に光を当てるのに貢献しました。

Babelは1972年に、網膜色素変性のヘテロ接合体が、麻疹後にホモ接合体に典型的な眼底変化を引き起こす可能性があることを示唆しました。この発見は、RPの表現型に影響を与える可能性のある環境因子についての早期の議論を促しました。

1980年には、BoughmanらがRPの全体の頻度を約3,700人に1人と推定し、劣性型(少なくとも2人の遺伝子コピーを持つ)の頻度を約4,450人に1人と推定しました。この研究は、RPの民族的異質性の証拠を見つけることができなかったことを示しています。

Heckenlivelyらは1981年に、ナバホ・インディアンの中で43例の常染色体劣性遺伝性RPを同定しました。Heckenlivelyは1982年に、ナバホ族RPの特徴的な眼底外観を持つインディアンの血を引く人を極めて少数しか確認していないと述べ、病態の進行とともに色素の凝集や骨棘の出現が少ないことを観察しました。

上海では、Huが1982年に209例のRPを持つ151の血統を分析しました。この研究では、AR型、AD型、XR型のRPの割合と平均発症年齢、屈折異常を報告しており、AD型、AR型、XR型RPの遺伝子頻度を計算し、RPを引き起こす変異の数を11から41の間と推定しました。これらの研究は、RPの遺伝的多様性と複雑さを浮き彫りにし、異なる遺伝子型に関連する臨床的特徴の理解を深めるのに役立ちました。

参考文献

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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