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家族性大腸ポリポーシス1 ガードナー症候群 脳腫瘍-ポリポーシス症候群2(BTPS2)

疾患概要

家族性腺腫性ポリポーシス-1(FAP1)とガードナー症候群(これはFAP1の変異型)は、染色体5q22に位置するAPC遺伝子のヘテロ接合体変異が原因で発生します。このため、この遺伝子の記述には番号記号(#)が使用されています。

また、APC遺伝子のプロモーター1B領域のヘテロ接合体変異は、胃腺癌や胃近位部ポリポーシス(GAPPS;619182)の原因にもなります。

遺伝性デスモイド病(135290)についてもこの記事を参照してください。この疾患は、FAPの一種と見なされることがあります(例:Lynch、1996)。

家族性大腸腺腫症(FAP)は、大腸(結腸)や直腸の癌を引き起こす遺伝性の病気です。この病気の一般的な形態では、早ければ10代から、大腸に多くの良性のポリープ(増殖物)が出現します。これらのポリープは、大腸を摘出しない限り、最終的には癌に変わる可能性があります。一般的なFAPで大腸癌を発症する平均年齢は39歳です。一方で、ポリープの成長が遅い「減弱型家族性腺腫性ポリポーシス」という病気の変種を持つ人もいます。この減弱型では大腸癌の平均発症年齢が55歳となります。

古典的な家族性腺腫性ポリポーシスの場合、年を取るにつれてポリープの数が増え、大腸には数百から数千のポリープができることがあります。また、デスモイド腫瘍という良性の線維性腫瘍も重要です。これらの腫瘍は腸を覆う組織にでき、大腸の手術がきっかけで発生することがあります。手術で取り除いても、デスモイド腫瘍は再発する傾向があります。古典的なFAPと減弱型の両方では、十二指腸(小腸の一部)、胃、骨、皮膚、その他の組織にも良性や悪性の腫瘍が発生することがあります。大腸のポリープだけでなく、他の部位にも腫瘍が見られる場合は、「ガードナー症候群」と呼ばれることもあります。

家族性大腸腺腫症-1(FAP-1)は、常染色体優性遺伝による疾患で、癌を発症しやすい特徴があります。罹患者は通常、結腸や直腸に数百から数千にも及ぶ腺腫性ポリープを形成します。これらのポリープの中には、外科的な治療を受けない限り結腸直腸癌に進行するものがあります。ガードナー症候群はFAPの一種で、結腸・直腸の多発性腺腫だけでなく、デスモイド腫瘍、骨腫、その他の新生物の発生を特徴としています(Nishishoら、1991)。

遺伝的不均一性

家族性大腸腺腫症には遺伝的な多様性があります。特に、染色体1p34に位置するMUTYH遺伝子(604933)の変異は、常染色体劣性FAP2(608456)を引き起こし、染色体16p13に位置するNTHL1遺伝子(602656)の変異は、常染色体劣性FAP3(616415)を引き起こします。さらに、染色体5q11に位置するMSH3遺伝子(600887)の変異は、常染色体劣性FAP4(617100)の原因となります。これらの遺伝子変異は、FAPの異なる形態を生じさせる遺伝的要因です。

臨床的特徴

ガードナー症候群に関する歴史的な研究は、家族性大腸腺腫症(FAP)における結腸外症状の理解に重要な貢献をしました。

Gardner (1951): Gardnerはユタ州の大家族を報告し、その家族では腸ポリープ、骨腫、線維腫、脂腺嚢胞などの異常な増殖が見られ、これらは常染色体優性遺伝であることを示唆しました。

Gardner and Plenk (1952), Gardner (1962): この家族の研究をさらに進め、デスモイド腫瘍、歯の異常、Vater膨大部癌、甲状腺癌も報告されました。

Naylor and Gardner (1977), Danes and Gardner (1978): FAPに関連する遺伝子の高い浸透性と多様な発現が観察されました。ある分家では完全な症候群が見られたが、他の分家では結腸外病変のみが見られました。

Gorlin and Chaudhry (1960): 多発性腸ポリポーシス、骨腫、線維腫などの結合組織の遺伝性疾患としての関連性を報告しました。

Savage (1964): ガードナー症候群の女性を報告し、その特徴を示しました。

Krushら (1988), Nishishoら (1991): FAP患者の大多数が一つ以上の結腸外の特徴を持つことを示し、ガードナー症候群はFAPの変種として説明されるようになりました。

Pierceら (1970): カナダの大血族を追跡し、FAPと関連する複数の症状(大腸ポリポーシス、デルモイド嚢胞、デスモイド腫瘍など)を確認しました。

Butson (1983): FAP症候群の多様な症状を持つ患者を報告し、FAP症候群の多面性を示しました。

Dinarvandら (2019年): FAPに関連する腫瘍性および非腫瘍性の実体について、甲状腺、皮膚、軟部組織、骨、中枢神経系、肝臓、および膵臓における免疫組織化学的および分子プロファイルに焦点を当てたレビューを行いました。

これらの研究は、FAPやガードナー症候群の理解に不可欠であり、病気の特徴、遺伝的背景、治療法の発展に貢献しています。FAPやガードナー症候群は、APC遺伝子の変異に関連していることが確認されており、これらの疾患の診断と治療において重要な役割を果たしています。

下部消化管

下部消化管に関連する家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)は、特に思春期において数百個の大腸腺腫が発生するという特徴があります。予防的な大腸切除手術を行わない場合、罹患者のほぼ全員が人生の60歳までに大腸癌を発症するリスクがあります(Giardiello et al., 2002による)。

AsmanとPierce(1970年)は、ケンタッキー州での家族性大腸多発性ポリポーシスの血統を報告しました。この報告では、腸管外の特徴は観察されませんでした。

ShullとFitts(1974年)は、父親と2人の息子が腺腫様ポリープとリンパ腫様ポリープの両方を持つ家系の例を報告しています。また、Venkitachalamら(1978年)は、リンパ球性ポリポーシスがFAPを持つ家系で何度か報告されていることを指摘しています。

上部消化管

上部消化管、特に十二指腸と胃に関連する腺腫性ポリポーシスやがんの発生に関するこれらの研究は、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)やガードナー症候群といった遺伝性疾患の理解に重要な貢献をしています。

●研究の概要
Schnurら(1973年): 十二指腸の腺がんとガードナー症候群との関連を報告。
ErbeおよびWelch(1978年): 小腸の多発性ポリープと空腸の腺がんを持つ患者を報告。
Denzlerら(1979年): FAP患者における胃と十二指腸の腺腫性または過形成性ポリープを報告。
Sugiharaら(1982): ガードナー症候群と直腸がんを持つ患者に十二指腸の腺がんが発生した事例を報告。
Burtら(1984): Gardnerが報告したユタ州の血統の患者における上部消化管ポリープの存在を報告。
Walshら(1987): ガードナー症候群の女性における胆嚢の多巣性腺腫性変化を報告。
飯田ら(1988): FAP患者における胃腺腫の自然史を検討。
Offerhausら(1992): 日本のFAP患者では胃がんが多く、欧米では十二指腸がんが多いと報告。
●重要性
これらの研究は、FAPやガードナー症候群の患者における上部消化管(特に十二指腸と胃)のがんリスクが高いことを示しています。研究によっては、地域差(日本と欧米の間のがん発生の違いなど)が指摘されており、これらの違いが遺伝的要因、生活習慣、環境的要因などによる可能性があります。

これらの知見は、FAPやガードナー症候群の患者に対する監視戦略や治療計画を策定する際に考慮すべき重要な情報を提供します。特に、定期的な内視鏡検査やX線造影検査による早期発見とポリープ除去は、これらの患者のがんリスクを低減するのに重要です。また、地域や人口集団に応じたリスク評価や予防策の調整が必要であることも示唆されています。

FAPやガードナー症候群は、大腸以外の部位にも影響を及ぼすことがあり、上部消化管の検査が重要な役割を果たします。これらの研究は、胃や十二指腸などの上部消化管におけるポリープやがんの発生と遺伝的疾患の関連性についての理解を深めるとともに、適切な監視と治療の必要性を強調しています。

最終的に、これらの研究は、遺伝性大腸ポリポーシス症候群の管理において、大腸だけでなく全身の包括的なアプローチが重要であることを示唆しています。これには、胃腺腫や十二指腸腺腫など、潜在的にがん化することがある他の部位の定期的なスクリーニングが含まれます。

乳頭部周囲腫瘍

乳頭部腫瘍は家族性大腸腺腫症(FAP)の特徴として知られています。これらの発生は、FAPの全体像を理解する上で重要な要素です。

Harned and Williams (1982), Jones and Nance (1977): 乳頭部周囲癌はFAPの特徴として報告されており、Vater乳頭部(胆汁と膵液が十二指腸に流入する部分)周辺にポリープが集積していることが知られています。このことから、胆汁が病理学的過程に関与している可能性が示唆されています。

Pauliら (1980年): Vater乳頭部周辺のポリープの集積と、その病理学的意義について研究しました。

Bapatら (1993): FAP患者の中には、24〜96%が腎周囲腺腫を発症すると報告しています。彼らは、FAP患者の扁桃周囲腺腫でAPC遺伝子の体細胞突然変異を同定し、FAPの分子遺伝学的側面に貢献しました。

これらの発見は、FAPが単に大腸のポリープに限定されない複雑な病態であることを示しています。FAPに関連する症状は、消化器系の外にも広がっており、これらの追加的な特徴はFAPの診断と治療の計画において重要です。FAPの理解を深めるためには、これらの関連症状に注目することが不可欠です。

網膜色素上皮の先天性肥大

網膜色素上皮の先天性肥大(CHRPE)に関する研究についてまとめます。

BlairとTrempe(1980年)は、CHRPEがGardner症候群にしばしば見られ、症状がまだ出ていない患者の遺伝子存在の貴重な手がかりになると述べています。色素性眼底病変は、悪性黒色腫と間違われることがあります。

Lewisら(1984年)は、Gardner症候群の患者に多発性および両側性のCHRPE病変があることを報告しました。ほとんどのCHRPE病変は片側性、孤立性、非家族性であり、他の眼疾患や全身疾患との関連は認められませんでした。

Traboulsiら(1987年)は、ガードナー症候群の患者の眼底色素性病変を調査し、その多くにこのような病変が見られたことを発見しました。両側性病変、多発性病変、またはその両方の存在は、ガードナー症候群の特異的かつ高感度な臨床的マーカーとされました。

Diaz-Llopis and Menezo(1988年)は、CHRPEがFAPのリスクを持つ患者の検出に役立つマーカーである可能性を示唆しました。

Lyonsら(1988年)は、CHRPEの表現型がガードナー症候群の他の表現型の特徴よりも強力なマーカーであると結論付けました。

Bakerら(1988年)は、CHRPEがガードナー症候群に特異的ではない可能性を示唆しました。

Chapmanら(1989年)は、FAPの患者でCHRPEを検索しましたが、対照群では2個以上の病変は見られませんでした。

Houlstonら(1992年)は、CHRPEがAPC遺伝子の突然変異だけでなく、他の因子によっても発生する可能性を示唆しました。

Shieldsら(2000年、2001年)は、CHRPEが高度の固形腫瘍を生じることがあると報告し、CHRPEは新生物の発生について定期的に観察されるべきであると結論づけました。

これらの研究は、CHRPEがGardner症候群や家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)に関連していることを示しており、特にガードナー症候群やFAPを持つ患者において重要な臨床的指標であることを示唆しています。ただし、CHRPEがこれらの症候群に特異的であるかどうかについては、研究によって意見が分かれているようです。また、CHRPEが時に高度な固形腫瘍を生じる可能性があることも、重要な臨床的考慮事項です。

皮膚と骨格

ガードナー症候群と家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)に関連する皮膚と骨格の特徴についての研究は、これらの遺伝性疾患が持つ多様な臨床的表現を示しています。

ガードナー症候群の歯の異常
Faderら(1962): ガードナー症候群における歯の異常(埋伏歯、過剰歯、先天性欠如歯、臼歯の異常に長く尖った歯根)を報告。
Jarvinenら(1982): 患者の18%に歯の異常を認めたが、特に顎骨腫が非常に多かった。
骨肉腫の発生
HoffmannとBrooke(1970): 3世代にわたりFAPに罹患し、母子が骨肉腫で死亡した家族を報告。
顎骨腫の発生
宇都宮と中村(1975): FAP患者の95%に顎骨腫を認めた。
舌骨の軟骨肉腫
Greerら(1977): Gardner症候群と舌骨の軟骨肉腫の患者を報告。
Marfan症候群に類似した特徴
Calinら(1999): Marfan症候群に似た特徴を持つFAPの非血縁患者2人を報告。これには、異常な身長、狭く高いアーチのある口蓋、歯の叢生、胸椎後側彎、関節の過可動性、皮膚の過伸展性、精神遅滞などが含まれていました。また、大動脈拡張期雑音が観察された患者もいました。

これらの研究は、ガードナー症候群やFAPが単に大腸のポリポーシスに限定されないことを示しています。これらの疾患は、多様な組織や器官に影響を及ぼし、さまざまな身体的特徴や合併症を引き起こす可能性があることを示唆しています。

特に、骨や歯に関する異常は、これらの遺伝性疾患の重要な特徴の一部であり、患者の管理や治療計画において考慮すべき点です。また、これらの研究は、遺伝的および環境的要因がこれらの疾患の表現型にどのように影響するかを理解する上で重要な情報を提供しています。

最終的に、これらの所見は、ガードナー症候群やFAPの診断、治療、および管理において、患者の全身的な評価と包括的なケアが必要であることを強調しています。これには、定期的な歯科検査、骨密度の評価、身体的特徴の監視などが含まれます。さらに、これらの疾患の遺伝的側面により、遺伝カウンセリングや家族歴の評価も重要な要素となります。

患者およびその家族が直面する可能性のある多様な医学的課題に対処するためには、異なる専門分野の医療提供者間の協力と、患者中心のアプローチが不可欠です。これにより、FAPやガードナー症候群の患者は、これらの疾患が持つ広範な影響に対処し、生活の質を維持する上でよりよいサポートを受けることができます。

デスモイド腫瘍

デスモイド腫瘍は家族性大腸腺腫症(FAP)に関連する重要な合併症の一つです。以下はこの疾患に関する重要な研究の要点です。

Simpsonら(1964年): FAPにおける腸間膜線維腫症(デスモイド腫瘍としても知られている)の発生と、これが手術後に発症する傾向があることを報告しました。これらの腫瘍は緩徐に成長し、局所浸潤性で巨大になる可能性があります。

Fraumeniら(1968年): FAPの変種として、父親と娘に悪性間葉系腫瘍、息子に大腸ポリポーシス、もう一人の息子に大腸ポリポーシスと悪性間葉系腫瘍の両方が見られた家族を報告しました。

Klemmerら(1987): FAP患者においてデスモイド腫瘍の発生率が高いことを発見しました。全体のおよそ6%がデスモイドを発症し、リスクは年齢と性別に依存すると報告されています。

Clarkら(1999): FAP患者におけるデスモイド腫瘍の発生を研究し、88人の患者で166個のデスモイド腫瘍を同定しました。これらの腫瘍の半数が腹部内に、約48%が腹壁内に位置していました。手術後に発症することが多く、腹腔内デスモイドは小腸や尿管閉塞を引き起こし、死亡に至るケースもありました。

これらの研究は、デスモイド腫瘍がFAP患者において重要な合併症であり、その治療や管理に特別な注意が必要であることを示しています。特に手術後に発生するデスモイド腫瘍は、重篤な合併症を引き起こす可能性が高いため、その治療には慎重なアプローチが求められます。また、腹腔内デスモイド腫瘍の治療はしばしば難しく、手術は特にリスクが高いとされています。このため、FAP患者におけるデスモイド腫瘍の管理は、腫瘍の位置、大きさ、成長速度などを考慮して、個々の患者に最適な治療計画を立てることが重要です。

デスモイド腫瘍の治療法は、手術、放射線療法、化学療法、および標的療法などが含まれますが、それぞれの患者に合ったアプローチを選択する必要があります。また、これらの治療法は、患者の生活の質や他の健康状態にも配慮しながら選ばれるべきです。

デスモイド腫瘍とFAPの関連性の理解は、今後も進化し続ける分野であり、この複雑な病態に関するさらなる研究が期待されています。

肝芽腫

肝芽腫についての研究をまとめます。

Heimannら(1987年)は、思春期早発症を示し腹部腫瘤があった男性患者が、男性化性肝芽腫であることを記述しました。Shneiderら(1992年)は、この患者が肝移植後無病であったが、後に多発性腺腫性ポリープが発見されたことを報告しています。この患者は母方の家系にポリポーシスと結腸癌の病歴があり、CHRPEも見つかりました。

複数の研究グループが肝芽腫と大腸ポリポーシスの関連を指摘しています。例えば、Kingstonら(1982年)、Liら(1987年)、Krushら(1988年)などがいます。Liら(1987年)は、大腸ポリポーシスの家族歴がある血縁関係のない4人の小児に肝芽腫を観察しました。また、文献中の他の10人の血統にもこの関連を見出しました。

Garberら(1988年)は、世界的な共同研究において、肝芽腫と腺腫性ポリポーシスの家族歴を有する11人の小児を同定しました。これらの患者のうち、多くが結腸の腺腫病変やCHRPEを有していました。

Giardielloら(1991年)は、Johns Hopkinsの家族性ポリポーシス登録に登録されている家族における肝芽腫の頻度を調査し、これらの家族のうち7人が幼少期に肝芽腫と診断されたことを報告しました。そのうちの多くはガードナー症候群の家系でした。

HughesとMichels(1992年)は、FAP患者から生まれた470人中2人に肝芽腫が認められたことを報告しました。これは一般集団における肝芽腫の発生率よりも有意に高い数字であり、FAP患者の子供に対する肝芽腫の経験的リスクは1%未満とされました。

これらの研究から、肝芽腫は特定の家族性疾患、特に家族性ポリポーシスやガードナー症候群と関連している可能性が高いことが示されています。また、FAP患者の子供における肝芽腫のリスクが一般集団よりも高いことが示唆されています。

脳腫瘍-ポリポーシス症候群2(BTPS2)

脳腫瘍-ポリポーシス症候群2(BTPS2)に関するこれらの研究は、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)やガードナー症候群と中枢神経系腫瘍、特に髄芽腫との関連性を示しています。

●研究の概要
Crail(1949): FAP、結腸腺がん、脳幹髄芽腫、甲状腺乳頭腺がんを有する患者の報告。
Cappsら(1968年): ポリポーシスと結腸癌を有する家系の報告。一部の家族成員は脳腫瘍で死亡。
Hamiltonら(1995): FAPの患者におけるAPC遺伝子変異と中枢神経系腫瘍(主に髄芽腫)の関連を報告。
Parafら(1997): 脳腫瘍-ポリポーシス症候群(BTP)を2つの異なる病態(BTPS1とBTPS2)に分類。FAP患者では髄芽腫の発生率が高いことを指摘。ミスマッチ修復遺伝子に変異を持つ患者を「BTP症候群1型」と呼び、生殖細胞系列のAPC変異を有するFAP血統の患者で中枢神経系腫瘍を発症するものは「BTP症候群2型」に分類。
Van Meir(1998): FAP患者における髄芽腫の稀少性について、修飾遺伝子または環境因子の関与を示唆。
●重要性
これらの研究は、FAPやガードナー症候群が単に大腸のポリポーシスに限定されないことを示しています。これらの遺伝性疾患は中枢神経系腫瘍、特に髄芽腫の発症リスクを高める可能性があります。このことは、これらの症候群の患者に対する包括的な医療管理と、定期的な神経学的検査の重要性を強調しています。

また、これらの研究は、遺伝的および環境的要因がこれらの疾患の表現型にどのように影響するかを理解する上で重要な情報を提供しています。特に、Hamiltonら(1995)によるFAP患者における髄芽腫の相対リスクが一般集団の92倍であるという推定は、FAP患者における中枢神経系腫瘍のリスクを評価する際の重要な指標となります。

Parafら(1997)によるBTP症候群の分類は、脳腫瘍-ポリポーシス症候群が異なる遺伝的背景を持つことを示し、これらの疾患の診断と治療において個別化されたアプローチが必要であることを示唆しています。

Van Meir(1998)の研究は、FAP患者における髄芽腫の稀少性について、修飾遺伝子の存在や環境因子の関与を示唆しています。これは、FAPおよび関連する脳腫瘍の発生における複雑な遺伝的および環境的相互作用を理解するための重要な情報を提供します。

これらの研究は、FAPやガードナー症候群の患者における脳腫瘍のリスクを評価し、適切な予防策や治療戦略を立てるための基盤となります。また、患者やその家族に対する遺伝カウンセリングやサポートの重要性も強調しています。

内分泌癌

家族性大腸腺腫症(FAP)およびガードナー症候群に関連する内分泌癌についての研究は、これらの遺伝性疾患と特定の癌の間に関連があることを示しています。

Camielら (1968): ガードナー症候群の姉妹に甲状腺癌がみられたことを報告し、この癌が家族の少なくとも3世代にわたってみられた可能性を示唆しました。

Smith (1968): 大腸ポリープと甲状腺乳頭癌を合併した患者について報告しました。

Herveら (1995): 16歳のガードナー症候群の少女に乳頭癌が見られた症例を報告し、ガードナー症候群患者における甲状腺癌の発生率が一般人口の約100倍であると推定しました。

Cameselle-TeijeiroとChan (1999), 友田ら (2004): FAPと最も頻繁に関連する甲状腺乳頭癌は特徴的な篩状-臼状変異型であると指摘しました。

Marshallら (1967): クッシング症候群を伴う副腎皮質がんを持つガードナー症候群の症例を報告しました。

NaylorおよびGardner (1981): ガードナー症候群患者における両側副腎腺腫および甲状腺腫瘍の例を観察し、これらの腫瘍とガードナー症候群の関連を検討しました。

BellとMazzaferri (1993): ガードナー症候群と甲状腺乳頭癌の関連について37例目の報告で、患者の大多数が女性であることを指摘しました。

Chungら (2006): 甲状腺乳頭癌の篩状-大網状変異型を持つ19歳の女性について報告し、この女性ではde novo R302X変異が同定され、遺伝性大腸症候群が大腸外腫瘍と関連する可能性があることを指摘しました。

これらの研究は、ガードナー症候群やFAPが単に大腸腺腫のリスクを高めるだけでなく、甲状腺癌や副腎腫瘍などの内分泌関連癌の発生率を高める可能性があることを示しています。特に甲状腺癌の発生率が高いことは、これらの症候群に関連する重要な特徴の一つです。また、特定の癌の形態やタイプがこれらの遺伝性疾患によく関連していることも注目されています。

これらの発見は、ガードナー症候群やFAPの患者において、大腸以外の部位のスクリーニングや監視を行うことの重要性を強調しています。特に甲状腺や副腎などの内分泌系の監視が推奨され、これらの患者の早期診断と治療には特に注意が必要です。遺伝的要因に基づいた個別化された治療戦略が、これらの患者にとって最も効果的なアプローチとなります。

減弱型家族性腺腫性ポリポーシス

減弱型家族性腺腫性ポリポーシス(attenuated familial adenomatous polyposis, AFP or AAPC)に関する研究をまとめます。

Hodgsonら(1994年)は、APC遺伝子全体のヘテロ接合体欠失が、腺腫が通常よりも近位に分布するFAPの型と関連している可能性を示唆しました。彼らは、通常のFAPで生じる変異によって切断された蛋白質が正常対立遺伝子の蛋白質産物の機能を阻害し、より重篤な疾患を引き起こすのではないかと推測しました。

Samowitzら(1995年)は、この表現型が以前Lynchら(1992年)によって「遺伝性扁平腺腫症候群」と呼ばれていたことを指摘しました。Leppertら(1990年)とLynchら(1992年)の報告した家系がAPC遺伝子の5-プライム末端に特徴的な変異を有していることが明らかになったため、この症候群は後に「減弱性腺腫性ポリポーシス大腸炎」(AAPC)と改名されました。

減弱性大腸腺腫症は、大腸腺腫の発生が100個未満であり、大腸癌の発症が遅い(40歳以上)ことが特徴です(Soravia et al., 1998)。

Evansら(1993年)は減弱型FAPの家系を報告しました。1家系の59歳の患者には異常が見られなかったが、他の家系では遅発性ポリープが発見されました。

Matsumotoら(2002年)は、鋸歯状腺腫とFAPとの関連性を検討し、予防的大腸切除術を受けていない8家系のFAP患者11人の中で3人に鋸歯状腺腫が検出されました。これらの患者では、

巨視的ポリープの数は全体で100個以下であり、APC変異はコドン161、332、および1556に認められました。このことから、鋸歯状腺腫はFAPの減弱型の重要な特徴である可能性が示唆されました。

これらの研究は、減弱型FAPが特定のAPC遺伝子変異と関連しており、このタイプのFAPでは腺腫の発生が少なく、大腸癌の発症が遅れることを示しています。また、鋸歯状腺腫がこのタイプのFAPの重要な特徴である可能性があることが指摘されています。減弱型FAPの診断と管理においては、これらの特徴を考慮に入れることが重要です。

診断

家族性大腸腺腫症(FAP)の診断における遺伝学的なアプローチの進展は、FAPの管理と予防において重要な役割を果たしています。

Petersenら (1989): 連鎖情報を用いてFAPの遺伝カウンセリングを行い、特定の家族において子供たちのリスクを正確に評価しました。

Topsら (1989): FAP遺伝子座の近くに2つの多型DNAマーカーを同定し、これらを利用して出生前および症候前の診断が可能になると推定しました。

Dunlopら (1990, 1991): APC遺伝子の周りのDNAマーカーについて記述し、FAPのリスクのある人々の前兆診断を行いました。

Cachon-Gonzalezら (1991): 4種類のDNAプローブを用いた連鎖研究に基づいて、DNAタイピングだけで症候前診断が可能であることを示しました。

Mortonら (1992): 死亡した親族の保存された組織からのDNAを用いてFAP家族の情報を増やすことが可能であることを示しました。

Petersenら (1993), Maherら (1993): APC突然変異の無症候性直接検出と、遺伝子内および密接に連結したDNAマーカーの有用性を示しました。

Powellら (1993), van der Luijtら(1994): APCタンパク質の検査や「タンパク質切断試験」などの方法を開発しました。

Papadopoulosら (1995): 体細胞ハイブリダイゼーションに基づく高感度で特異的な診断法の開発を報告しました。

Thakkerら (1995): デンタルパノラマX線写真スコア(DPRS)をFAPの診断ツールとして提案しました。

Giardielloら (1997): APC遺伝子検査の適応と遺伝カウンセリングの重要性についての評価を行いました。

DeuterとMuller(1998), Traversoら(2002): 便DNA検査に基づく新しい診断法の開発について報告しました。

これらの研究は、FAPの診断における分子遺伝学的手法の進展を示しています。特に、遺伝子の突然変異やその他のマーカーを用いた前兆診断は、無症候性の患者や高リスクの家族メンバーに対する管理と介入を可能にしています。これにより、早期の介入、適切なスクリーニング戦略の導入、そして必要に応じた治療の実施が可能になります。

また、診断技術の進歩により、FAP患者やその家族に対するカウンセリングやサポートの質も向上しています。これにより、患者とその家族が遺伝的リスクに基づいてより情報に基づいた医療上の決定を下すことが可能になります。遺伝学的診断は、FAPの管理において非常に重要なツールであり、今後もその重要性は高まっていくことが予想されます。

マッピング

FAP(家族性大腸腺腫症)の遺伝子マッピングに関する研究は、この病気の遺伝的基盤を理解する上で非常に重要でした。以下にその主な成果をまとめます:

Bodmerら (1987): FAPの家系を解析し、染色体5q上のマーカーC11p11との連鎖を発見しました。彼らの研究は、ガードナー症候群と家族性大腸癌が同一の対立遺伝子疾患である可能性を示唆しました。

Solomonら (1987): 散発性大腸腺癌の少なくとも20%が染色体5q上の対立遺伝子を失っていることを示し、5q上の遺伝子座が大腸癌の進行に重要であることを示唆しました。

Leppertら (1987): FAPの連鎖を独立して5家族で証明し、lodスコアの最大値は5.0でした。この研究は、ガードナー症候群とFAPが同一の対立遺伝子疾患であることをさらに裏付けました。

中村ら (1988): ポリポーシス遺伝子座の遺伝的位置を5q21-q22のDNAプローブC11p11から約17cM遠位の位置へと精密化しました。

Meera Khanら (1988): オランダのFAP血統において、異なるRFLPマーカーがFPCと密接に連鎖していることを発見しました。

Varescoら (1989): 5q15-q21領域に欠失を持つAPC患者の細胞を用いてヒトとハムスターのハイブリッド細胞株を構築し、欠失内のマーカーを同定しました。

Lasserら (1994): 2世代12人の家族におけるFAPの研究を行い、APC遺伝子座への連鎖を示唆しました。

これらの研究により、FAPおよびガードナー症候群が染色体5qの特定の領域

に関連していることが明らかになりました。これらの発見は、FAPの診断、遺伝カウンセリング、および治療戦略の開発に大きく寄与しています。特に、遺伝子座の特定はFAPの前兆診断や遺伝子療法の研究に不可欠な情報を提供しました。

これらの成果は、ガードナー症候群とFAPが同一の遺伝子異常に由来する可能性を示唆しています。また、FAPに関連する遺伝子の変異が大腸癌の発症にどのように影響するかを理解する上で重要な手がかりを提供しています。さらに、これらの研究は、散発性大腸癌における遺伝的要因の重要性を示唆しており、大腸癌の予防と治療に対する新しいアプローチを開く可能性を持っています。

全体として、FAPのマッピング研究は、大腸癌を含む遺伝性疾患の理解を深めるための基礎を築き、未来の研究方向を指し示しています。

頻度

家族性腺腫性ポリポーシス(Familial Adenomatous Polyposis, FAP)の発生率についての報告は、7,000人に1人から22,000人に1人の範囲で異なっています。この疾患は遺伝性の腸の状態で、主に大腸に多数の腺腫性ポリープが発生することが特徴です。これらのポリープは良性ですが、放置すると大腸がんに進行するリスクが高まります。

FAPは、APC遺伝子の変異によって引き起こされることが多いです。この遺伝子変異は、通常、家族内で常染色体優性遺伝のパターンを持ちます。つまり、変異遺伝子を1つ持つ親から子に遺伝する可能性が50%あります。

FAPの発生率の幅が広いのは、地域や人口集団によって発生率が異なるためです。また、診断技術や報告基準の違いによっても発生率の数値にバリエーションが生じることがあります。

原因

APC遺伝子の変異は、古典的な家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)と減弱型FAPの両方に関連しています。この変異は、細胞の正常な増殖と機能維持の能力に影響を与えます。特に、APC遺伝子の変異があると、細胞の過剰増殖が起こり、これが家族性大腸腺腫症に見られる大腸ポリープの原因になります。APC遺伝子に変異があるほとんどの人は大腸癌を発症しますが、ポリープの数や癌化するまでの期間は変異の具体的な位置によって異なります。

用語

家族性大腸腺腫症(FAP)という用語は、複数の異なる病名が存在する中で、特に英国で一般的に使用されています。この名称は、ポリープが大腸に限定されないことを反映しています。FAPという略称は、他にも家族性アミロイドポリニューロパチー(176300)や線維芽細胞活性化蛋白(600403)などにも使用されるため、文脈に応じて意味が異なることがあります。

他にも、大腸多発性ポリポーシス、遺伝性大腸ポリポーシス、家族性多発性ポリポーシス、家族性大腸ポリポーシス(FPC)など、似た病態を示す疾患にはさまざまな呼称があります。これらの用語は、病気の特徴や遺伝的要因に基づいて使い分けられます。医学分野では、これらの異なる病名を正確に理解し区別することが重要です。

治療・臨床管理

臨床管理に関する研究の要約です。

WaddellとLoughry(1983年)は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が結腸癌と関連していることを発見しました。彼らはガードナー症候群の患者において、NSAIDであるスリンダックの投与により直腸ポリープが消失したことを観察しました。

Giardielloら(1993年)は、スリンダックがFAP患者の大腸腺腫の数と大きさを減少させることを明らかにしましたが、効果は不完全であり、大腸切除術に取って代わる可能性は低いと結論づけました。

Giovannucciら(1994年)は、アスピリンや他のNSAIDsを常用することで大腸癌の相対リスクが低下することを報告しました。

Schnitzlerら(1996年)は、スリンダックが癌細胞の増殖を阻害し、APC mRNAの増加を引き起こすことを示しました。

Herrmannら(1998年)は、スリンダックの代謝産物がRasによる悪性化を阻害することを発見しました。

Maule(1994年)は、看護師が消化器内科医と同様に正確かつ安全に軟性S状結腸鏡によるスクリーニングを実施できることを発見しました。

Steinbachら(2000年)は、選択的COX2阻害薬celecoxibがFAP患者の大腸ポリープの数を減少させることを明らかにしました。

Hardwickら(2001年)は、大腸ポリープの間質マクロファージにおけるCOX2とNFKBの発現を証明しました。

Giardielloら(2002年)は、標準用量のスリンダックがFAP患者における腺腫の発生を予防しないことを報告しました。

ChauとCunningham(2002年)は、NSAIDsとCOX-2阻害剤が大腸癌の予防や治療に役立つ可能性を示唆しました。

Martinezら(2003年)は、オルニチン脱炭酸酵素遺伝子のイントロン多型が大腸腺腫の再発リスクに影響を及ぼすことを検討しました。

これらの研究は、NSAIDsやCOX2阻害薬が大腸ポリープや腺腫の治療において一定の効果を持つ可能性があることを示唆しています。しかし、これらの薬剤が大腸切除術に取って代わる主治療法としての役割はまだ限定的であり、さらなる研究が必要です。また、遺伝的要因も大腸腺腫の発生や再発に影響を及ぼす可能性があることが示されています。

病因

Hsuら(1983)は、ガードナー症候群のポリープは、神経線維腫症(NF1; 162200)および三上皮腫(CTLD1; 132700)の腫瘍と同様に、多クローン性であることを発見しました。Rasheedら(1983)は、ガードナー症候群および家族性大腸ポリポーシス患者の皮膚線維芽細胞が、レトロウイルス誘発性形質転換および染色体異数性に罹患しやすいことを示しました。Chenら(1989)は、FPC患者の培養皮膚線維芽細胞のin vitro寿命は、健常人と比較して著しく延長していると結論しました。

Bolandら(1995)は、個々の大腸腫瘍の多くの領域についてマイクロアレロタイピングを行い、腫瘍の進行過程における5q、17p、18qの対立遺伝子消失の順序とテンポを決定しました。大腸新生物を取り囲む正常組織では対立遺伝子の消失は見られませんでしたが、5qでは正常大腸上皮から良性腺腫への移行期に、17pでは腺腫から癌への移行期に突然消失が起こり、腫瘍の進行においてこれらの消失が重要な役割を果たしていることが示されました。対立遺伝子欠損は、広範囲に微小解剖された良性腺腫および癌全体にわたって一様でした。しかしながら、腺腫とがん腫の移行病変である高悪性度異形成では、かなりの対立遺伝子の不均一性が認められました。Bolandら(1995年)は、5q(おそらくAPC)と17p(おそらくp53)がクローン性腫瘍拡大の突然の波と関連していると結論しました。

腫瘍は単クローン性であり、単一細胞とその子孫における突然変異または一連の突然変異から発生することが広く受け入れられています(Fialkow, 1979)。Novelliら(1996)は、XO/XYモザイクのFAP患者の大腸腺腫と非発達腸粘膜のクローン性起源を調べるために、Y染色体プローブを用いた直接in situハイブリダイゼーションを用いて、矛盾する所見を報告しました。この患者では、小腸および大腸の陰窩はクローン性でありましたが、微小腺腫の少なくとも76%は多クローン性由来であった。別個の腫瘍の衝突など他の解釈も考えられましたが、Novelliら(1996年)はこの結果がポリープの真の多クローン性を最も強く支持していると考えました。

特定の腫瘍におけるDNA複製エラーを調べることにより、Homfrayら(1998年)は散発性大腸腫瘍の病因においてAPC突然変異の前にミスマッチ修復の欠陥が起こっている証拠はないことを発見しました。著者らは、ゲノムの不安定性よりもむしろAPC突然変異が散発性腫瘍の病因であると結論づけました。

LynchとSmyrk(1998)は、多発性胃底腺ポリープが、比較的多くの減弱性FAP患者において結腸での病理所見に先行していたと述べています。

FAPにおけるデスモイドの性質については、腫瘍性起源を支持する議論と反対する議論があります。腫瘍性増殖は定義上単クローン性であるのに対し、反応性過程は多クローン性背景に由来する。Middletonら(2000)は、11人の女性FAP患者から採取した25検体のデスモイド組織について、X染色体不活性化パターンを評価することによりクローナリティを調べ、クローナリティ比を算出しました。ヒトアンドロゲン受容体遺伝子(AR;313700)内のメチル化感受性制限酵素部位に隣接する多型CAGショートタンデムリピート(STR)配列のPCR増幅が用いられました。9人の患者から得た21検体がこのアッセイで有益でした。全情報提供症例からのサンプルは、中央値で66%のクローン性細胞から構成されていました。Middletonら(2000年)は、FAP関連デスモイド腫瘍は真の新生物であると結論しました。

Shihら(2001年)は、小腸腺腫の陰窩頂部の異形成細胞はAPCの変化を含んでいることを見出しました。対照的に、同じ陰窩の底部の細胞はAPCの変化を含まず、上記の形質転換細胞とはクローン的に関連していなかった。これらの所見は、腺腫性ポリープの発生が “トップダウン “メカニズムで進行することを示唆しています。粘膜の表層部に存在する遺伝的に変化した細胞は、横方向および下方向に広がって新しい陰窩を形成し、その陰窩はまず既存の正常な陰窩に接続し、最終的にはその陰窩に取って代わります。

FAP患者44人の病理報告を検討したCrabtreeら(2001年)は、腺腫:陰窩の比と巨視的腺腫数との間に個人差の相関を認めました(r = 0.82、pは0.001未満)。顕微鏡レベルでは、1つの結腸内のポリープ密度には明らかなばらつきはありませんでした。また、大腸切除が行われた年齢範囲において、兄弟間の巨視的腺腫数には年齢に関連した検出可能な増加はみられませんでした。著者らは、疾患の重症度におけるばらつきは、微小腺腫から巨視的腺腫への進行の違いからではなく、腫瘍の発生速度の違いから生じている可能性が高いと結論しました。腺腫数と年齢との間に明らかな関連性がないことから、ほとんどの腫瘍は患者の人生の比較的早期に発生する可能性が示唆されました。

Houlstonら(2001年)は、FAP患者における表現型の多様性の根底にある機序を包括的に検討しました。

細胞遺伝学

これらの研究は、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)やガードナー症候群と、染色体異常、特に5番染色体上の遺伝子の変化との関連を示しています。

●研究の要点
5番染色体上の変化とFAPの関連: これらの研究は、5番染色体上の特定の領域(特に5q15-q22)に変化があると、FAPや関連症状が発症する可能性が高まることを示しています。これには、大腸における腺腫性ポリポーシス、結腸癌、さらには脳腫瘍や他の器官の異常も含まれます。

5qの欠失と大腸癌: 散発性大腸腺癌でも、5q染色体上の対立遺伝子の1つの欠損がしばしば認められ、APC遺伝子座の欠損が悪性化に寄与している可能性が示唆されました。

APC遺伝子の変化: APC遺伝子の欠損や間質性欠失は、FAPやガードナー症候群だけでなく、大腸癌の発生にも関与していることが示されています。

FAP関連の染色体異常: FAP患者における5qの欠失や染色体異常(体質的逆位など)は、FAPの発症やその臨床的特徴に影響を与えることが示されています。

●重要性
これらの研究は、FAPやガードナー症候群の診断や治療において、細胞遺伝学的なアプローチの重要性を示しています。これらの遺伝

的変化を理解することは、これらの症候群の遺伝的カウンセリング、リスク評価、早期発見、予防戦略の策定において重要です。特に、5番染色体の変化は、FAPや関連する腫瘍の発生において重要な役割を果たしていることが示されています。

これらの研究は、FAPやガードナー症候群の病態メカニズムに新たな光を当てています。例えば、APC遺伝子の変化が大腸癌やその他のがんの発生にどのように寄与するか、さらにはこれらの症状がなぜ特定の家族で発症するかを理解するために役立ちます。また、これらの染色体異常が示唆する位置効果は、遺伝子の発現と病態との関連を理解するための重要な手がかりを提供します。

最終的に、これらの研究は、FAPやガードナー症候群の患者に対する個別化された医療アプローチを開発するための基盤となります。遺伝子レベルでの理解が進むことで、より効果的な治療法や予防戦略が開発される可能性があります。また、これらの遺伝的変化を持つ患者やその家族への遺伝カウンセリングやサポートを提供する上での知見も得られます。

分子遺伝学

Grodenら(1991)は、血縁関係のない家族性大腸腺腫症患者4人において、APC遺伝子に4つの異なるヘテロ接合性の不活性化突然変異を同定しました。

西所ら(1991)は、FAPまたはガードナー症候群の5人の患者の生殖細胞系列において、APC遺伝子の4つの点突然変異を同定しました。そのうち1つの突然変異は2人の無関係な患者で発見され、1人は腺腫性ポリポーシスで、もう1人はデスモイド腫瘍でした。

Miyoshiら(1992)は、血縁関係のない79人のFAP患者のうち53人にAPC遺伝子の生殖細胞系列変異を同定し、その多くがタンパク質の切断をもたらす変異であることを示しました。

Foddeら(1992)は、オランダのFAP患者におけるAPC遺伝子の8つの異なる生殖細胞系列変異を同定しました。全ての変異は切断タンパク質をもたらしました。

Lagardeら(2010)は、863人のFAP患者の遺伝子型を報告し、APC遺伝子の多くの変異がタンパク質の長さを短くするものであることを示しました。特にコドン1700の上流に変異が集中していました。

Kadiyskaら(2014)は、ブルガリアのFAP家系でプロモーター1B領域のヘテロ接合体欠失を同定しました。この変異は患者のAPC遺伝子の発現に影響を及ぼしていることが示唆されました。

Snowら(2015)は、大腸および上部消化管ポリポーシスとAPCプロモーター1Bの欠失を有するFAP家族を同定し、これらの家族が共通の祖先の子孫であることを示唆しました。プロモーター1B欠失を含む対立遺伝子の相対発現は組織型によって異なりました。

これらの研究は、FAPと関連する遺伝子変異についての重要な情報を提供し、疾患の理解と治療法の開発に寄与しています。

Vater乳頭周囲腺腫

Bapatら(1993年)による研究は、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)患者由来のVater乳頭周囲腺腫におけるAPC遺伝子の体細胞変異に関するものです。

●研究の要点
腎周囲腺腫におけるAPC遺伝子の変異: この研究では、FAP患者由来の2つの腎周囲腺腫でAPC遺伝子の2つの異なる体細胞変異が同定されました。これらの変異は、611731.0019と611731.0020として識別されます。

病理学的一致性: これらの体細胞変異は、脾周囲腫瘍と一致していることが示され、これはFAPに関連する腫瘍が同じ病理学的過程の一部であることを示唆しています。

●重要性
この研究は、FAPに関連する腫瘍の発生においてAPC遺伝子の変異が重要な役割を果たすことを示しています。特に、体細胞変異は腫瘍の局所的な発生や進展において重要であると考えられます。

また、これらの体細胞変異は、腎周囲腺腫や脾周囲腫瘍など、大腸以外の部位に発生する腫瘍にも関連している可能性があります。これは、FAPの診断と治療において、大腸の腫瘍だけでなく、他の臓器に影響を及ぼす可能性のある腫瘍にも注意を払う必要があることを示しています。

この研究は、FAPにおける腫瘍発生のメカニズムについての理解を深め、将来的な治療戦略の開発に貢献する可能性があります。また、体細胞変異の同定は、特定の腫瘍や疾患のリスク評価においても重要な情報を提供します。

修飾遺伝子

修飾遺伝子の研究は、特定の遺伝的疾患の表現型の多様性や重症度に影響を及ぼす遺伝子を理解するために重要です。家族性大腸腺腫症(FAP)の文脈では、以下のような研究が行われました:

Humarら (2000): FAP家系の130人の変異解析を行い、COX2遺伝子のコード領域とプロモーター領域の3つの共通多型を検出しましたが、これらは特定の表現型とは関連していないと結論付けました。COX2転写産物の量やサイズも、FAP患者の結腸外疾患の発症とは相関しないことが分かりました。

Plasilovaら (2004): スイスのFAP血族50人に対して、1p36-p32領域の28の多型マーカーについて遺伝子型を決定しました。彼らの2点連鎖解析により、大腸外FAP病に対する優性修飾遺伝子座の存在は証明されませんでした。さらに、修飾遺伝子候補であるMYHの変異解析を行いましたが、この研究での結果から、1p36-p33領域やMYH遺伝子は結腸外疾患の修飾遺伝子としては関連していないと結論づけました。

これらの研究は、FAPやその他の遺伝性疾患における修飾遺伝子の存在とその影響を理解するための基礎を築いています。修飾遺伝子は、疾患の表現型や重症度に影響を及ぼす可能性があるため、これらを特定し理解することは、疾患のより良い予防、診断、および治療戦略の開発につながる可能性があります。

特に、Humarらの研究はCOX2遺伝子がFAPの結腸外疾患の発症には関連しないことを示し、Plasilovaらの研究は1p36-p33領域やMYH遺伝子がFAPの修飾遺伝子ではないことを示しています。これらの知見は、FAPに関連する修飾遺伝子の探索を他の遺伝的領域や遺伝子に方向付けることに役立ちます。

修飾遺伝子に関するこれらの研究は、遺伝性疾患の複雑な自然を理解する上での重要な一歩であり、将来の研究でさらなる進展が期待されます。

遺伝子型と表現型の関係

集団遺伝学

ジョンズ・ホプキンス病院大腸ポリポーシス登録は、1973年に設立され、6つの州とコロンビア特別区をカバーしており、大腸ポリポーシスに関連する様々な症候群の血統情報を記録しています。1988年4月までには98のガードナー症候群血統と47のAPC血統が登録されており、Peutz-Jeghers症候群も19の血統が登録されています。

Burnら(1991)は、イギリスの北部地域におけるAPCの有病率を2.29×10(-5)と推定しています。これはAPC遺伝子に関連する遺伝性疾患の頻度を示しています。

Bisgaardら(1994)は、デンマークの全国ポリポーシス登録を基に、FAPの頻度や遺伝的特性について報告しました。遺伝性症例の疾患浸透率は40歳までにほぼ100%であり、突然変異率や新しい突然変異の割合についても調査を行いました。また、適合度や遺伝的特性の変化についても研究しました。

Charamesら(2008)は、カナダのメノナイト血統において、大腸腺腫性ポリポーシスと結腸癌を有する罹患者において、APCプロモーター領域に大きなヘテロ接合性欠失を同定しました。この変異はAPC対立遺伝子の転写抑制を引き起こし、創始者効果に関連していることを示唆しています。

これらの研究は、遺伝的疾患の頻度や特性を集団レベルで理解し、特定の集団内での遺伝的な影響を調査するのに役立っています。

歴史

ガードナー症候群の歴史に関する要約を提供します。

1972年、ガードナー(Gardner)はガードナー症候群の発見について語りました。彼は、1947年に遺伝学の講義を受けていた医学部の学生から、ユタ州の大腸ポリポーシスの大家族を紹介されました。この家族がガードナーによるポリポーシスの報告の基礎となりました。

ガードナーは、多発性骨腫についても研究し、常染色体優性遺伝のパターンを説明し、「作業仮説として、同じ遺伝子がポリポーシスと骨腫の両方の異常に影響を及ぼすと仮定する」と述べました(Gardner and Plenk, 1952)。

1950年から1953年にかけて、同じ家族で4つの異常増殖(多発性腸管ポリポーシス、骨腫、線維腫、脂腺嚢胞)が観察され、その後、デスモイド腫瘍、歯牙異常、Vater膨大部癌、甲状腺癌が報告されました。この症候群はガードナー症候群として知られるようになりました。

1982年、Gardnerらは、Gardner症候群と家族性大腸ポリポーシス患者、および大腸に多発性腺腫を生じる危険性のある小児の研究を行い、2番染色体の遺伝的異常に関連があることを示しました。

また、オルニチン脱炭酸酵素(オルニチンデカルボキシラーゼ)の活性が家族性ポリポーシスの遺伝子型のマーカーとして有用であることも報告されました。

Topsら(1993)は、一見典型的な常染色体優性大腸ポリポーシスの家系を報告しましたが、APC遺伝子座との関連は認められなかったと述べられています。

ガードナー症候群の発見と研究は、家族性大腸ポリポーシスや遺伝性腫瘍疾患の理解に貢献し、その後の遺伝学的研究に影響を与えました。

参考文献

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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