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眼瞼裂口唇歯症候群1

疾患概要

Blepharocheilodontic syndrome 1  眼瞼裂口唇歯症候群1 119580 AD  3
BLEPHAROCHEILODONTIC SYNDROME 1; BCDS1

眼瞼裂唇歯症候群(Blepharocheilodontic (BCD) syndrome)は、CDH1遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性疾患であり、主に顔面の特定の部位に影響を及ぼします。CDH1遺伝子はE-カドヘリンのコーディング遺伝子であり、細胞間接着の重要な役割を果たしています。E-カドヘリンは細胞の表面に存在し、細胞同士が互いにくっつくために必要なタンパク質です。このため、E-カドヘリンの異常は細胞接着の不具合を引き起こし、特に発生中の組織において正常な形態形成を妨げることになります。

BCD症候群で見られる特徴的な異常には、両側の口唇裂(上唇の両側に開口部が存在する状態)、口蓋裂(口蓋の開口部)、およびまぶたの異常が含まれます。これらの異常は出生時に存在し、顔面の発達におけるE-カドヘリンの役割の重要性を示しています。

CDH1遺伝子変異と癌リスクの関連については、特に胃癌や乳癌のリスクが高まることが知られています。これは、E-カドヘリンの異常が細胞の遊走や侵入能力を高め、腫瘍の形成や転移を促進する可能性があるためです。しかし、BCD症候群の患者が特に癌を発症するリスクが高いかどうかについては、まだ明確ではありません。この点については、さらなる研究が必要とされています。

総じて、CDH1遺伝子の変異によって引き起こされるBCD症候群は、顔面の特定部位に影響を及ぼす遺伝性疾患であり、これらの変異がE-カドヘリンの機能不全によって細胞接着の問題を生じさせることが病態の根底にあると考えられます。また、これらの変異が癌リスクの上昇にどのように関連しているかについては、今後の研究でより明らかにされることが期待されます。

眼瞼裂口唇歯症候群(Blepharo-Cheilo-Dontic Syndrome, BCD)は、先天性の希少疾患で、特に眼瞼(まぶた)、上唇、そして歯に影響を与えるものです。この症候群の特徴は多岐にわたり、主に以下のような症状が見られます。

眼瞼外反(Ectropion):下まぶたが内側に反り返ることで、まぶたの内側が露出します。
眼瞼下垂(Ptosis):下まぶたの外側が眼球から離れてたるむこと、またはまぶたが完全に閉じないことがあります。
睫毛乱生症(Distichiasis):異常なまつ毛がまぶたの内側から生え、眼球の角膜に損傷を与える可能性があります。
眼間解離(Hypertelorism):眼球の間隔が広がっています。
顔貌:顔が平坦で、額が高い特徴があります。
加えて、BCD症候群は以下の症状も伴うことがあります。

両側口唇裂および口蓋裂:上唇の両側に開口部があり、口蓋にも開口部が見られます。
乏歯症(Hypodontia):通常より歯の数が少なく、歯は小さく円錐形をしていることが多いです。
毛髪と爪の異常:まばらで細い髪や異常な爪が見られます。
その他、以下のような症状が見られることもあります。

不全肛門:肛門の閉鎖や異常。
甲状腺の奇形または欠損:甲状腺機能の低下を引き起こすことがあります。
指や足の指の癒合(Syndactyly):手足の指が異常に癒合していること。
四肢短縮欠損:手足が不完全に形成されること。
二分脊椎:脊髄の異常。
BCD症候群はその症状が非常に多様であり、患者によって異なる特徴を示します。治療は症状に応じて行われ、手術や矯正治療などが含まれることがあります。遺伝的要因が関与している可能性があるため、遺伝相談も推奨される場合があります。

遺伝的不均一性

眼瞼裂口歯症候群-1(Blepharo-Cheilo-Dontic Syndrome 1, BCDS1)は、常染色体優性遺伝性疾患であり、染色体16q22に位置するCDH1遺伝子(192090)のヘテロ接合体変異によって引き起こされることが示されています。この遺伝子は細胞接着に関与するE-カドヘリンをコードしており、その変異は組織の形成や維持に影響を及ぼす可能性があります。

一方、眼瞼裂口歯症候群-2(BCDS2; 617681)は、染色体11q12に位置するCTNND1遺伝子(601045)の変異によって引き起こされる異なる型です。CTNND1遺伝子は細胞接着と細胞骨格の調節に関与するδ-カテニンをコードしています。この変異も同様に、組織の発達と維持に重要な影響を与えることが考えられます。

臨床的特徴

この詳細な記述は、Blepharo-cheilo-dontic (BCD) 症候群の複雑な臨床的特徴と家族歴を通じて、この症候群の多様な表現形式を示しています。BCD症候群は、眼瞼外反(まぶたの開きが異常に広い)、口唇口蓋裂(唇や口蓋の裂け目)、および歯の異常など、主に顔面に影響を及ぼす一連の先天性異常を特徴とします。さらに、一部の症例では、甲状腺機能障害や肛門閉鎖不全などの追加の合併症が報告されています。

この症候群は、常染色体優性の遺伝パターンに従うことが多く、家族内で複数の世代にわたって発症することがあります。遺伝的要因として、P63遺伝子の変異やインターフェロン調節因子-6遺伝子(IRF6)の検査が示唆されています。これらの遺伝子は、顔面、歯、皮膚、および他の組織の発達に関与しており、その変異はBCD症候群の発症に寄与している可能性があります。

症例報告からは、BCD症候群が非常に多様な臨床的表現を持つことが示されています。これには、眼瞼の異常、顔面の非対称性、扁平顔、高い額、眼間解離、毛髪異常、円錐歯、歯牙発育不全などが含まれます。これらの特徴は、患者の診断と管理において重要な指標となります。

また、BCD症候群と他の症候群との間に表現型の重複があることも指摘されており、特にEEC症候群(EEC3; 604292)やAEC症候群(106260)、van der Woude症候群(119300)との間で表現型が重なる場合があります。これは、これらの症候群が共通の遺伝的基盤を共有している可能性を示唆しています。

BCD症候群の診断と管理は、その複雑さと多様な表現形式により挑戦的であり、遺伝子検査、詳細な臨床評価、および多職種間のアプローチを含む総合的なアプローチが必要です。また、家族歴の詳細な調査が、遺伝的カウンセリングと将来のリスク評価のために重要です。

遺伝

この疾患は、常染色体優性遺伝の疾患で、影響を受ける遺伝子の変異したコピーが1つ存在するだけで疾患が発現します。この遺伝のパターンでは、罹患した親から変異した遺伝子を受け継ぐ子どもは、罹患するリスクが50%あります。つまり、罹患した親が変異遺伝子の1つのコピーを持っている場合、その親から子へ遺伝子が伝わる各機会において、子が疾患を発症するか否かの確率は50%になります。

一方で、変異が新規に生じるケース(新規変異)もあります。これは、罹患者の親には変異が存在せず、家族歴がないにもかかわらず、子どもが変異を持って生まれ、疾患を発症する場合です。新規変異は、生殖細胞(精子または卵子)の形成過程で偶発的に生じることがあり、この変異を持つ生殖細胞から発生した子は、疾患を発症するリスクを持ちます。

常染色体優性遺伝病において、新規変異によって疾患が発症する例は比較的珍しくはありません。これは、ある疾患が家族内で初めて報告されるケースにしばしば見られます。新規変異の発生は、遺伝子の多様性に寄与し、稀な遺伝病の発生機構を理解する上で重要な要素です。

総じて、常染色体優性遺伝病の場合、罹患した親からの遺伝または新規変異によって疾患が発症する可能性があります。この遺伝のメカニズムは、遺伝相談や家系調査の際に考慮される重要な要素です。

頻度

BCD症候群(Bietti’s Crystalline Dystrophy)は、網膜に特徴的な結晶沈着を伴う遺伝性の眼疾患です。この病気は通常、成人期に視力の低下を引き起こし、最終的には視野の喪失につながる可能性があります。BCD症候群は、特定の遺伝子変異によって引き起こされ、主に自己免疫性や代謝異常と関連しています。

有病率については、非常にまれなため正確な数値を特定することが難しいです。あなたの述べる通り、医学文献には少なくとも50人の罹患者が記載されていますが、実際には報告されていないケースも存在する可能性があるため、実数はこれよりも多いかもしれません。特に、症状が軽度である場合や、診断が困難な場合には、症例が過小評価される可能性があります。

原因

BCD症候群(Blepharocheilodontic syndrome)は、特定の遺伝子変異によって引き起こされる希少な遺伝性疾患であり、その特徴は頭蓋顔面の異常発育にあります。この症候群は、CDH1(上皮カドヘリンをコードする)およびCTNND1(p120-カテニンをコードする)遺伝子の変異によって引き起こされます。これらのタンパク質は細胞間の接着に重要な役割を果たしており、特に上皮細胞の接着と信号伝達に関与しています。

E-カドヘリン(CDH1遺伝子によってコードされる)は、細胞間の接着を促進し、細胞が一緒に留まるのを助ける役割を担っています。これは細胞が組織を形成し、体の表面や空洞を覆う上皮細胞に特に重要です。一方、p120-カテニン(CTNND1遺伝子によってコードされる)は、E-カドヘリンが細胞膜に正しく配置されるのを助け、細胞内に取り込まれて分解されるのを防ぐ役割を果たします。

CDH1遺伝子の変異は、E-カドヘリンの不安定化と早期分解につながる可能性があり、これにより細胞間の接着が弱まります。同様に、CTNND1遺伝子の変異はp120-カテニンの産生または機能の喪失につながり、これもE-カドヘリンの安定性と機能に悪影響を及ぼします。これらの遺伝子の変異によるタンパク質の機能不全は、頭蓋顔面の正常な発育を阻害し、BCD症候群の様々な形態的特徴の原因となります。

BCD症候群の患者は、まぶた、口、歯の異常など、頭蓋顔面の異常を示すことが一般的です。これらの異常は、生活の質に影響を及ぼし、外科的または歯科的介入を必要とする場合があります。現在、この症候群の治療は主に症状の管理に焦点を当てており、遺伝子療法のような根本的な治療法はまだ開発中です。

分子遺伝学

Ghoumidらによる2017年の研究は、Blepharocheilodontic syndrome (BCDS) の分子遺伝学的側面に重要な光を当てています。この研究では、BCDSを持つ8家族に対して全エクソームシーケンシングまたは候補遺伝子のシーケンス決定を行い、CDH1遺伝子に5つのヘテロ接合体変異とCTNND1遺伝子に3つのヘテロ接合体変異を同定しました。これらの変異のうち、2つはde novo(新規発生)であり、さらに2つの家系では変異が疾患と分離しており、2つの家系では変異が無症状の親から子に受け継がれていることが示されました。これは、BCDSの不完全浸透性を示唆しています。また、残りの2家系では親のDNAが利用できなかったため、遺伝子伝達のパターンを特定することはできませんでした。

Ghoumidらの研究は、CDH1変異を持つ患者ではCTNND1変異を持つ患者よりも眼瞼異常が重症である可能性が高いことを示唆しています。しかし、遺伝子型と表現型の相関を確立するには、研究された患者の数が少なすぎると彼らは指摘しています。さらに、この研究では、日本人女児がCDH1のミスセンス変異(D676E)を持ち、口唇口蓋裂、顎動脈閉鎖症、ファロー四徴症、および神経管欠損を示していることが明らかにされました。これは、CDH1遺伝子変異が多様な臨床的表現に関連している可能性があることを示しています。

一方、Freitasらによる2007年の研究およびWeaverらによる2010年の研究は、BCDSと関連が疑われる別の遺伝子、P63とIRF6に焦点を当てていますが、これらの研究ではBCDSの3家族においてこれらの候補遺伝子の変異は見つかりませんでした。これは、BCDSの原因となる遺伝的変異が複数存在し、症状の発現には異なる遺伝子が関与している可能性があることを示唆しています。

これらの研究結果は、BCDSの分子遺伝学的基盤の理解を深め、将来の研究や治療戦略の開発に向けた基礎を提供します。しかし、遺伝子型と表現型の間の正確な相関を確立するためには、より多くの患者を対象とした研究が必要です。

疾患の別名

BLEPHAROCHEILODONTIC SYNDROME; BCDS
BCD SYNDROME
CLEFTING, ECTROPION, AND CONICAL TEETH
ECTROPION, INFERIOR, WITH CLEFT LIP AND/OR PALATE
ELSCHNIG SYNDROME
LAGOPHTHALMIA WITH BILATERAL CLEFT LIP AND PALATE
BCDS
Blepharo-cheilo-dontic syndrome
Blepharo-cheilo-odontic syndrome
Clefting, ectropion, and conical teeth
Ectropion, inferior, with cleft lip and/or palate
Elschnig syndrome
Lagophthalmia with bilateral cleft lip and palate
眼瞼裂口唇歯症候群;BCD症候群
BCD症候群
口唇裂、外反、円錐歯
口唇裂および/または口蓋裂を伴う下方の外反症
エルシュニッヒ症候群
両側口唇口蓋裂を伴う緘黙症
口唇裂、眼瞼外反、円錐歯
口唇裂および/または口蓋裂を伴う下方の外反症
エルシュニッヒ症候群
両側口唇口蓋裂を伴う顎下垂症

参考文献

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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