疾患概要
一方、Mitchell症候群は、同じACOX1遺伝子のヘテロ接合体変異によって引き起こされますが、ペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ欠損症とは異なり、機能獲得型の変異が特徴です。この症状は、酵素活性の上昇とタンパク質の二量体化の増加が見られることが示されています。
これらの疾患の理解は、代謝異常や神経学的障害の診断と治療において重要です。ペルオキシソームの機能障害に関連するこれらの疾患は、類似した症状を示す他の疾患との鑑別が必要であり、それぞれの症状や進行の特徴を把握することが治療方針の策定に不可欠です。遺伝子検査による確定診断は、これらの疾患の管理と遺伝カウンセリングに役立ちます。
ペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ欠損症は、乳児期に始まる重篤な神経変性疾患で、新生児期から筋緊張低下症や痙攣発作といった神経系の機能低下を示します。この疾患の小さな患者たちは、目の間隔が広く、鼻梁が低く、耳の位置が低いといった独特な顔貌を持つことがあります。また、一部の患者には多指症や肝腫大のような追加の身体的特徴が見られることがあります。
この病気の特徴的な側面は、患者が初期には歩行や言葉を学ぶ能力を獲得するものの、これらの能力は病状の進行に伴い徐々に失われることです。これは発達退行として知られ、子供たちは反射亢進、筋緊張亢進、重篤かつ再発する発作、視力と聴力の低下といった症状の悪化を経験します。残念ながら、ペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ欠損症の多くの小児は、幼児期を超えて生き延びることが非常に難しいとされています。
現在のところ、この疾患に対する治療法は限られており、主に症状の緩和とサポーティブケアに重点を置いています。早期診断と適切な治療計画の実施が、これらの子供たちの生活の質を改善し、可能な限り快適な生活を提供する上で重要です。また、この疾患は遺伝的な要因によって引き起こされるため、家族は遺伝カウンセリングを受けることで状況への理解を深めることができます。
臨床的特徴
鈴木ら(1994)の報告では、血縁関係にある両親から生まれた日本人兄妹が同様の症状を示し、ペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ欠損症が単離されました。これらの患者は重度の筋緊張低下、多毛、鼻甲介、低い鼻梁、低い耳、多指症などの異形性を示していました。Watkinsら(1995)は、ペルオキシソーム脂肪酸β酸化酵素の欠損がペルオキシソーム集合体の障害と診断された患者の約10%で見られることを示しました。
Kurianら(2004)は、生後7ヵ月で発達退行を示した女児を報告し、この子は過敏性、異常な定型運動、聴覚刺激に対する過剰な反応を示しました。Carrozzoら(2008)は、イタリア人の近親の両親から生まれた重度のアシル-CoAオキシダーゼ欠損症の患者を報告し、この患者は生後5.4歳で呼吸不全により死亡しました。
Ferdinandusseら(2007)は、アシル-CoA酸化酵素欠損が確認された22人の患者を報告し、これらの患者は筋緊張低下、発作、発育不全、視覚系不全、聴覚・視覚障害、運動機能喪失、肝腫大、異形、脳白質異常、骨減少などの症状を示しました。Massonら(2016)は、新生児期に発作を起こしたパキスタン人患者を報告し、この患者は発達遅滞を示しました。
これらの報告は、ペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ欠損症の臨床的多様性を示しています。この疾患は進行性で、しばしば重篤な神経学的障害や身体的異常を伴います。早期診断と管理が重要であり、遺伝的要因を考慮した治療計画が必要です。
遺伝
このような遺伝的パターンは、近親間での婚姻や血族関係がある家系でより明確に観察されることが多く、特に希少な遺伝子変異を持つ症状の場合に顕著です。Poll-TheらとSuzukiらによる研究は、アシル-CoAオキシダーゼ欠損症の遺伝的背景に関する重要な洞察を提供し、この疾患の遺伝的なリスク評価、診断、家族計画、および遺伝カウンセリングのための基礎を形成しています。また、これらの研究は、希少な遺伝子変異を持つ疾患に対する理解を深めることにも寄与しています。
頻度
医学文献に記載されている症例は限られており、その臨床的表現は個々の患者で異なることが多いです。多くの場合、この疾患は進行性であり、患者の予後は不良であることが一般的です。ペルオキシソームアシル-CoA酸化酵素欠損症の症例は世界中で報告されていますが、症例数が非常に少ないため、疾患の全貌についてはまだ完全には理解されていません。
原因
このβ酸化過程は、VLCFAをアセチルCoAという分子に変換するまで、VLCFAを一度に2つの炭素原子分ずつ短縮します。変換されたアセチルCoAは、その後細胞内で再利用されるためにペルオキシソームから輸送されます。
ACOX1遺伝子の変異は、この酵素の機能を損ない、VLCFAの効率的な分解を妨げます。その結果、これらの脂肪酸が体内に蓄積し、ペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ欠損症を引き起こします。VLCFAの蓄積が疾患の特定の神経学的異常にどのようにつながるのかは完全には解明されていませんが、研究者は脂肪酸の異常蓄積が神経炎症を引き起こし、神経インパルスの伝達を助けるミエリンの破壊に繋がる可能性があると示唆しています。ミエリンの破壊は、脳と脊髄の白質組織の損失につながり、これは白質ジストロフィーとして表現されます。この白質の損失が、ペルオキシソームアシル-CoAオキシダーゼ欠損症における神経学的障害の原因となる可能性があります。
分子遺伝学
アシル-CoAオキシダーゼ欠損症の分子遺伝学に関しては、いくつかの重要な研究が行われています。これらの研究は、ACOX1遺伝子におけるさまざまな変異がこの疾患の原因であることを示しています。
最初に、Poll-Theら(1988年)によって報告された2兄妹のケースでは、Fournierら(1994年)がACOX1遺伝子に大きな欠失(609751.0001)を同定しました。この発見は、ACOX1遺伝子の変異がアシル-CoAオキシダーゼ欠損症の原因であることを示す最初のものでした。
その後、Suzukiら(1994年)は、別の2人の日本人兄妹において、ACOX1遺伝子のホモ接合体変異(M278V; 609751.0002)を発見しました。さらに、血縁関係のない第三の日本人患児には異なるホモ接合体変異(G178C; 609751.0003)が見つかりました。
Ferdinandusseら(2007年)の研究では、アシル-CoAオキシダーゼ欠損症の22人の患者において、ACOX1遺伝子に20種類の変異が同定されました。これらの変異には、Q309R(609751.0004)やR148X(609751.0005)などが含まれています。特筆すべきは、一人の患者がACOX1遺伝子のエクソン3IIに欠失(609751.0006)を持ち、他の患者と区別がつかない状態であったことです。
最後に、Massonら(2016年)は、血縁関係のある両親から生まれたパキスタン人の子どもにおいて、ACOX1遺伝子のホモ接合性フレームシフト変異(264470.0009)を発見しました。この変異により、C26:0の異常蓄積とC26:22比の増加が血漿中で確認され、脳MRIで進行性の白質異常が観察されました。
これらの研究は、アシル-CoAオキシダーゼ欠損症の分子遺伝学的な理解を深める上で重要な貢献をしており、この疾患の遺伝的診断、治療、および管理に役立つ情報を提供しています。