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脆弱X症候群 フラジールX症候群
脆弱性X症候群(fragile X syndrome ;FXS フラジールX症候群 フラジャイルX症候群)は、遺伝性疾患である。脆弱性X症候群は、FMR1遺伝子と呼んだ遺伝子の変化によって引き起こされる。FMR1遺伝子は通常、FMRPと呼ばれるタンパク質を作る。FMRPは脳の発達に必須である。脆弱性X症候群の人は、このタンパク質が作られない。他の脆弱性X関連疾患の人は、FMR1遺伝子に変化があるが、こちらは通常、タンパク質の一部を作っているので一部機能が保たれており、症状の出方が違うのだと考えられている。
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脆弱X症候群(FXS)は、精神遅滞の最も一般的な遺伝性疾患で、男性4000人に1人が罹患している(出典)。軽度から重度の知的障害があり、しばしば自閉症に似た行動をとる。その他の神経症状としては、発達遅延やけいれんへの感受性が高くなることが挙げられる。FXS患者の神経細胞は、緻密で未熟な樹状突起を持つ。身体的には、男性のFXS患者は、思春期直前に発症する巨細胞性睾丸炎を示す。身体的症状としては、耳が突出した細長い顔、関節の弛緩、扁平足などがある(出典)。
脆弱性X症候群はどのように遺伝するのか
脆弱性X症候群(FXS)は、遺伝性疾患の一つである。遺伝子疾患とは、その人の遺伝子に変化があることを意味する。FXS、もしくはFXSを発症するリスクは、遺伝子を通して親から子へと受け継がれる可能性がある。
家族に脆弱性X症候群の方がいて、ご自身の健康や他の家族の健康にとってどのような意味があるのか、疑問に思われる方は、医療機関や臨床遺伝専門医ご相談下さい。
ゲノムとDNAと遺伝子と染色体の違い
以下は、FXSやいくつかの関連する症状がどのように遺伝子を通じて受け継がれるかを理解するのに役立つ情報としてお伝えする。
遺伝子
人体の各細胞は、何千もの遺伝子を有している。遺伝子は、その人についての多くのことを決定する。例えば、その人がどのような外見をしているか(皮膚や髪や目の色など)、ある種の病気にかかりやすいかどうかなどである。遺伝子は、体が正しく機能するために必要なタンパク質を細胞内で作るための指示書である。脆弱X症候群は、科学者がFMR1遺伝子と呼ぶ遺伝子の変化(突然変異)により引き起こされる。FMR1遺伝子は、FMRPと呼ばれる脳の発達に必要なタンパク質をコードしている。
染色体
遺伝子は、染色体上に存在する。すべての人間の細胞には、23対の染色体がある。ヒトは、1~22番までの常染色体と性染色体が1本で1組となった染色体を両親からそれぞれ1組みずつをもらう。23番目のペアを形成する染色体は、性染色体と呼ばれ、ヒトが男性か女性かを決めるのは、この性染色体でである。女性には2本のX染色体(XX)があり、男性には1本のX染色体と1本のY染色体(XY)がある。FMR1遺伝子はX染色体上にある。
ゲノムとDNA
染色体と遺伝子はDNAには「塩基」と呼ばれる4つの化学構造からできている。アデニンA、シトシンC、チミンT、グアニンGの4つの文字の並び方によって、それぞれの遺伝子が持つ情報が決定される。DNAの配列の全てをゲノムと呼び、遺伝子はゲノムの約2%を占めるタンパクを作るための指示書として機能する部分である。
脆弱X症候群の遺伝のしくみ
脆弱X症候群や他の脆弱X関連疾患の原因となるのはX染色体上にあるFMR1遺伝子に病気を引き起こす変化があることである。FMR1遺伝子の中には、CGGという化学文字のDNAパターンが何度も繰り返される場所がある。人によってこのCGGの繰り返しの数は異なるが、ほとんどの人は45回以下である。脆弱X症候群の人は、ほとんどの場合、200回以上の繰り返しがあり、通常よりも多くの回数を抱えている。200回以上の繰り返しがあると、FMR1遺伝子が「オフ」になってしまい、FMRP(FMR1遺伝子が作るタンパク質)を作れなくなる。この場合、脆弱X症候群FXSを発症する。
FMR1遺伝子のCGGリピートの数により、以下の4つのグループに分類される。CGGリピートの数は、遺伝専門医や神経専門医が行う血液検査で知ることができる。CGGリピートの数が異なる人は、脆弱X関連障害を発症するリスクとFXSの子供を産むリスクが正常の人とは異なる。
女性は、FMR1遺伝子のコピーを2つ持っており、2つのX染色体にそれぞれ1つずつのFMR1遺伝子がある。FMR1遺伝子の各コピーにあるCGGリピートの数は、例えば、FMR1遺伝子の片方のコピーに30個のCGGリピートがあり、もう片方のコピーには40個のCGGリピートがある、という風に通常、その数は異なっている。
- 正常:5〜44回
- ほとんどの男性は、FMR1遺伝子にCGGという化学文字の繰り返しが5〜44個あり、ほとんどの女性もFMR1遺伝子にそれぞれ5〜44個の繰り返しをもっている。45未満は正常な繰り返し回数と考えられている。正常な繰り返し数を持つ人は脆弱X症候群ではなく、脆弱X症候群になる確率が高くなることもない。
- 中間:45~54回
- 中程度の反復数(45~54回)の人は、脆弱X症候群ではなく、脆弱X症候群の子供を持つリスクもありません。しかし、他の脆弱X関連障害に関連する何らかの症状を持つ可能性が少し高く、これらの障害を持つ可能性が少し高いことを子供に伝える可能性がある。
- プレミューテーション 55~200回反復
- 55から200の繰り返しを持つ人は、FMR1遺伝子の「前段階病的変異(前変異、プレミューテーション)」を持っていると考えられる。脆弱X症候群は発症していないが、他の脆弱X関連障害を発症している、あるいは発症する可能性がある。また、前変異を持つ人は、前変異または完全変異を持つ子供を持つこととなる。しかし、前置型を持つ女性と前置型を持つ男性では、プレミューテーション型または完全変異の子供を持つ確率が異なる。
前変異を持つ女性の卵子細胞内の繰り返し数は、前置型の範囲(繰り返し数55から200)から完全変異の範囲(繰り返し数200以上)へと増加する可能性がある。従って、前変異を持つ女性は完全変異を子どもに伝達する可能性がある。前変異を持つ女性のCGGの繰り返しが多いほど、その子供が完全変異を持つFMR1遺伝子を受け継ぎ、その結果、脆弱X症候群に罹患する可能性が高くなる。一方、前変異を持つ男性が完全変異を子供に伝達することはない。 - 完全変異型(脆弱X症候群):200回以上の繰り返し
- 完全変異型は200回以上のCGGリピートを持ち、脆弱X症候群を発症する。
女性は妊娠するたびに、50%の確率でフラジャイルXを子供(息子または娘)に伝達する。
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脆弱X症候群の徴候と症状
脆弱X症候群の可能性のある兆候には以下のものが挙げられる。
- 同年齢の他の子供と同じ時期に座ったり、歩いたり、話したりしない等のいう発達の遅れ。
- 新しいスキルを習得するのが難しいという学習障害。
- 視線を合わせない、不安、注意を払うのが難しい、手をばたつかせる、考えずに行動や発言をする、非常に活発であるなどの社会性および行動上の問題
脆弱X症候群の男性は、通常、軽度から重度まで、ある程度の知的障害を有している。脆弱X症候群の女性は、正常な知能を持つ場合もあれば、ある程度の知的障害を持つ場合もある。また、自閉症スペクトラム(ASD)は、脆弱X症候群の人に多く見られる。
脆弱X症候群の検査・診断
脆弱X症候群も脆弱X関連障害も、血液検査でDNAを調べることによって診断される。脆弱X症候群の診断は、子供の知的障害や行動上の問題の理由を示すことができるため、家族にとって有用である。これにより、家族や他の介護者は、障害についてより詳しく知り、子供が潜在能力を最大限に発揮できるようにケアを管理できる。一方、DNA検査の結果は、他の家族にも影響を与え、多くの問題を引き起こす可能性がある。このため、脆弱X症候群/脆弱X関連障害の検査を考えている人は、検査を受ける前に遺伝カウンセリングを受けることを検討すべきである。
FMR1遺伝子産物であるFMRPの機能
FMRPは、神経細胞の様々な領域で多様な機能を有しているが、これらの機能はまだほんの一部しか解明されていない。FMRPは、mRNA の核・細胞質間シャトリング、樹状突起のmRNA局在化、シナプスのタンパク合成に関与することが示唆されている。
高解像度蛍光イメージング法を用いた研究により、海馬培養神経細胞の樹状突起と樹状突起スパインにおけるFMRP顆粒輸送の存在、運動性、活動依存的な制御を記録した研究からは、培養海馬神経細胞の段階的な発達の過程で、FMRP顆粒がフィロポディア、スパインなどのF-actinに富むコンパートメントに分布することが示されている。
また、FMRP顆粒は、リボソーム、リボソームRNA、FMRPの標的として知られるMAP1B mRNA(微小管とアクチンの安定化に重要なタンパク質をコード)と共局在していることが示された。樹状突起内のFMRPのレベルは、微小管ダイナミクスの破壊によって減少したが、F-アクチンの破壊によって減少することはなかった。生きている神経細胞で光退行後の蛍光回復法を用いてFMRPの輸送動態を直接測定したところ、mGluR依存的な樹状突起への移動を誘導するために微小管が必要であることが示された。(文献)
脆弱X症候群のマウスモデルでは、シナプス可塑性にFMRPが関与していることが示唆されている。シナプス可塑性には、シナプス受容体の活性化に応じた新しいタンパク質の生産が必要である。刺激に応じたタンパク産生こそが、学習と記憶のプロセスに関連する永久的な物理的変化とシナプス結合の変化を可能にすると仮定される。
FMRP依存性のシナプス可塑性にグループ1代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)シグナルが重要な役割を果たすことが示唆されている。シナプス後のmGluR刺激は、セカンドメッセンジャー系を介してタンパク合成をアップレギュレーションする。シナプス可塑性におけるmGluRの役割は、mGluR刺激後に樹状突起スパインの伸長が観察されることで証明されている。また、mGluR活性化は、シナプス付近でFMRPの合成をもたらす。このFMRPは、mGluR刺激によりポリリボソーム複合体と結合することから、翻訳過程に脆弱性X精神遅滞タンパク質が関与していることが示唆される。さらに、FMRPがシナプスタンパク質合成やシナプス結合の伸長に関与しているという仮説もある。マウスでFMR1遺伝子を欠失させると、シナプス棘数が増加したという報告があり、FMRPの欠損により樹状突起スパインの表現型に異常が生じることがわかっている。
FMRPがシナプス可塑性に影響を与えるメカニズムとして、翻訳のネガティブレギュレーターとして働くのではないかと考えられている。FMRPはポリリボソームと結合するRNA結合タンパク質であり、そのRNA結合能力はKHドメインとRGGボックスに依存している。KHドメインは、多くのRNA結合タンパク質に特徴的な保存されたモチーフである。このドメインを変異させると、FMRPのRNAへの結合が損なわれる。
FMRPは翻訳の開始を阻害する。FMRPはCYFIP1と直接結合し、CYFIP1は翻訳開始因子であるeIF4Eと結合する。FMRP-CYFIP1複合体は、eIF4Eに依存した翻訳開始を阻害することで翻訳を抑制する。フラジャイルX症候群で観察される表現型である過剰なタンパク質レベルと翻訳制御の低下は、FMRPによる翻訳抑制の喪失によって説明できる。
脆弱X症候群の治療法
脆弱X症候群を根治的に治療する方法はない。治療は、脆弱X症候群の患者が重要なスキルを学ぶのを助けることが主体となる。行動上の問題などをコントロールするために、薬が使用されることもある。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号