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Sタンパクとは?|新型コロナウイルスの感染力の源

Sタンパクとは?|新型コロナウイルスの感染力の源

ウイルス株や世界の状況を分析する人々による流行感染症の発生。コロナウイルスの原因となるSARS-CoV-2病原体–19パンデミックが社会生活と経済生活を混乱させる

新型コロナウイルス感染症がもう1年8カ月ほど世界で流行しています。

変異が入ると問題になるSタンパクと言う言葉をよく聞くようになりましたが、この記事ではSタンパクとは何か、なぜ重要なのかについてお伝えしたいと思います。

ウイルスとほかの微生物の違いとは?

寄生虫や細菌・真菌といった病原体の多くは感染する宿主細胞がなくても自力で生き延びることができますが、ウイルスは自力で生き延びることはできません。ウイルスは細胞内に侵入して複製を行い、細胞内の生化学装置を使って新しいウィルス粒子を作り、他の細胞や個体に拡散していくしか生き延びる道がないのです。

このため、ウイルスは生物ではないという考え方もあります。

ヒトとウイルスのあくなき戦い

ウイルスが生命体であるならば、彼らは最古の生命体であり、人類(というか生物)とはあくなき戦いを続けてきました。

ヒトの細胞は、このようなウイルスの侵入(感染)を防ぐために進化してきたのです。細胞を構成する酵素、タンパク、DNAは、脂質二重膜からなる細胞膜で守られています。この脂質の生化学的性質により、外側の表面は非常にマイナスに帯電しており、マイナス荷電された物質とは反発します。ウイルスが細胞にアクセスするためには、細胞膜を通過しなければなりません。

コロナウイルスの大まかな構造

COVID-19ウイルス構造図のリアルな3Dイラスト。Corona Virus SARS-CoV-2、2019年nCoVウイルス・シーム。

2019年末までに約2,500人が感染した中東呼吸器症候群MERS-CoVや、新型コロナウイルスSARS-CoV-2などのコロナウイルス(CoV)は、通常80~120ナノメートル(nm)の大きさのエンベロープ型で球状のウイルスです。

コロナウイルスのRNAゲノムは、中央値で29kbとRNAウイルスの中で最も長く、6~10個のオープンリーディングフレーム(ORF)で構成されており、ウイルスの複製酵素と構造タンパク質をコードしています。

ウイルスゲノムの各構成要素は、脂質二重層で囲まれたらせん状のヌクレオカプシドの中に入っています。

ACE2に結合したSARS-CoV-2 RBDの全体構造

先ほど、ヒトの細胞は脂質二重膜からなる細胞膜をもち細胞の外側と隔離されていることをお伝えしましたが、同様に、コロナウイルス自体もエンベロープと呼ばれる脂肪膜に包まれてます。エンベロープを持つウイルスは、細胞内に侵入するために、感染したい宿主の細胞表面のタンパク(糖タンパク質)を足がかりに自分の膜を細胞の膜に融合させ、細胞に侵入します。

エボラウイルスには1つ、インフルエンザウイルスは2つ、単純ヘルペスウイルスには5つ糖タンパクを持っています。スパイクタンパクはコロナウイルスで有名になりましたが、ほかにもアレナウイルスやラブドウイルスなどのほかのウイルスもスパイクタンパクを持つものがあります。

コロナウイルスのウイルスエンベロープは、通常、膜タンパク質(M)、エンベロープタンパク質(E)、スパイクタンパク質(S)の3つのタンパク質で構成されています。

スパイクタンパク質の機能

ヒト細胞上のACE-2受容体に結合するSARS-CoV-2ウイルス、COVID-19感染の初期段階、コンセプト的な3Dイラスト

コロナウイルスの表面に見られるトゲ状の突起がSタンパクです。

主にウイルスの組み立てに関与するMタンパクやEタンパクと比較して、Sタンパクは宿主の細胞に侵入して感染を開始するのに重要な役割を果たしています

Sタンパク質は、ウイルスの種類によって異なりますが、約1,100~1,400個のアミノ酸から構成される高糖化かつ大型のI型膜貫通融合タンパク質です。

新型コロナウイルスのスパイクタンパクは1,273個のアミノ酸からなる直鎖がきれいに折りたたまれた構造をしており、その中には最大で23個の糖分子があります。スパイクタンパク質は互いに結合する性質があり、3つの異なるスパイクタンパク分子がが互いに結合して、「三量体」を形成しています。

コロナウイルスのSタンパクは、Sタンパクの球状の頭部を形成するN末端側のS1サブユニットと、タンパクの茎を形成し、ウイルスエンベロープに直接埋め込まれるC末端側のS2領域の2つの重要な機能サブユニットに分けられます。

Sタンパクが足がかりとなるコロナウイルスの細胞への侵入方法

S1サブユニットが宿主細胞の受容体に結合した後、S2サブユニットがウイルスの細胞膜への融合を完了するためには、2つの大きな構造変化が必要となります。コロナウイルスの融合に関与するS2サブユニットの2つの構成要素は、ヘプタッドリピート(HR)領域1と2(HR1とHR2)です。

最初の構造変化は、プレヘアピンと呼ばれ、S2サブユニット内の構造化されていないリンカーがらせん状に変化することを伴います。2つ目の構造変化は、このサブユニットのCヘリックスがコイルに反転し、6本のαヘリックスが束になって形成されることです。

これらの構造変化が完了すると、融合ペプチドが宿主細胞の膜に固定され、ウイルスが細胞膜に近づいていったときに足掛かりであるACE2に付着して、エンドサイトーシスで細胞内に入っていく、という具合に最終的にヌクレオカプシドを標的細胞に届けて感染を成立させることができるようになります。

受容体であるACE2と結合したSARS-CoV-2はエンドサイトーシスと言う過程を経て細胞内に取り込まれます。細胞内に取り込まれて初めて感染が成立します。

Sタンパクの変異が新型コロナウイルスの感染力に与える影響とは?

SARS-CoV-2ウイルスは時間の経過とともに変化しています。

ヒトの細胞には複製過程でエラーが生じてもそれを正しく置き換えるエラー回避システム(DNA修復酵素と言います)がありますが、ウイルスは外来の異物なのでその複製エラーに対しては修復されるシステムはありません。それゆえ、ウイルスは複製されればされるほど、突然変異が入りやすくなります。

ほとんどの突然変異はあまり意味がなく、スパイクタンパクの機能に影響しまません。しかし、中には、ウイルスの伝達性や感染性を高めることで、選択的に有利になるような変化を起こすものもあります。

特に細胞に対する感染のカギを握るSタンパクに入った変異はウイルスを進化させ、その生化学的特性を変化させることができる可能性があるものです。

進化の仕方には二通りが考えられます。

  1. 中和抗体の結合する部位のタンパクの立体構造を変えてしまうようにアミノ酸が置き換わってしまう
  2. スパイクタンパクの受容体であるACE2受容体への結合力が高まるようなタンパクの立体構造にアミノ酸が置き換わってしまう(ACE2受容体に対する親和性が高まる)

このため、スパイクの機能を変化させる新たな変異が特に注目されており、SARS-CoV-2のパンデミックを抑制する政策に影響を与えています。

COVID-19の予防や治療|Sタンパクをターゲットに抗ウイルス効果を得る

コロナウイルスSARS-CpV-2のスパイク(S)タンパク質に結合する抗体。

Sタンパク質がなければ、今回のSARS-CoV-2のようなウイルスは、動物や人間などの宿主の細胞と相互作用して感染を引き起こすことができません。そのため、Sタンパクは、ワクチンや抗ウイルス剤の研究に理想的なターゲットとなります。

ウイルス、特にSARS-CoV-2ウイルスのSタンパク質は、細胞を貫通する役割に加えて、中和抗体(NAbs)の主要な誘導因子となります。中和抗体とは、人間の液性免疫系(抗体を介した免疫機構)が自然に産生する防御抗体をいいます。

中和抗体は、ウイルス粒子の表面エピトープに結合し、宿主細胞への侵入を阻止することで、抗ウイルス活性を発揮します。

中和抗体に対するSARS-CoV-2のSタンパク質の感受性の高さから、多くの研究者が、SARS-CoV-2のSタンパク質の宿主細胞(感染する主体を宿主といいます)への結合や融合を阻止できる標準的な薬剤の開発研究をしてきました。新型コロナウイルスに対する抗体薬はそのすべてがSタンパクをターゲットにしています。理論的には「コロナウイルスのSタンパクを占拠することで、その受容体であるACE2に結合するのを阻害する」ことを狙っています。

SARS-CpV-2ウイルスのスパイク(S)タンパク質に対する抗体の結合は、コロナウイルス.PDB 1igtに対する免疫を開発する上で不可欠なステップである。

新型コロナウイルス感染症COVID-19に対する中和抗体製剤を複数使うカクテル療法は、中和抗体を単独で使用した場合と比較すると、より強い中和能力が得られることが分かっています。

まとめ

今回は、新型コロナウイルスの感染成立に必須であるSタンパクとその受容体であるACE2の関係をご説明しました。

ちなみに、HIVウイルスにまったく感染しない人たちがいるのですが、HIVの場合はCCR5受容体と呼ばれる受容体を足掛かりに細胞に侵入します。北ヨーロッパの白人の16%はこのウイルスが感染するために必要なCCR5遺伝子に生まれつき変異があり、HIVが感染することができません。

HIVも非常に変異のスピードが速く、このためヒトの免疫システムその変異スピードに敗けてしまい追いつかないという、厄介な感染症なのです。要するに免疫系が指名手配しているにもかかわらず犯人がどんどん整形手術で見かけを変えるようなものだと思っていただいたらちょうどだと思います。

また、抗体価は軽症感染者では16週程度、重症感染者でも44週程度しかもたないと報告されていますので、ワクチンは激しい症状を起こさずに免疫を惹起するためのものですから、やはり数か月に一度打たないといけないという状態になる可能性が十分あると考えています。

いずれにせよ、新型コロナウイルスのいちばんの怖さは急激に重症化する個体をまだ見分けるすべをわたしたち人類がもっていないという点です。重症となりやすい因子としては高齢、肥満、糖尿病などが挙げられていますが、そういう背景のない健康な個体が突然重症化して自宅待機中に亡くなったりする事例も散見します。

国は医療体制の提供を頑張るしかできません。しかし、医療機関に入院できたとしてた命が守られる保証はどこにもないのです。

感染してもより軽症で済むようにというのがワクチンのコンセプトですので、反ワクチンのデマに踊らさせることなく、どうかワクチンをお受けくださいますようお願いいたします。それがあなたとあなたの愛する人を守ります。

この記事の著者:仲田洋美(医師)

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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