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マイクロサテライト不安定性と発がん:関連性と臨床的意義

この記事では、マイクロサテライト不安定性(MSI)とがん発症との関連に焦点を当て、MSIがどのようにしてがんのリスクを増大させるか、そしてこの知識がどのように臨床で応用されているかについて解説します。さらに、MSI検出の最新技術とその治療への影響も詳しく説明します。

マイクロサテライト不安定性とは

MSIの定義と基本概念

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、DNAの特定の領域であるマイクロサテライト(短いDNAの繰り返し配列)において、DNA複製時のエラーが蓄積する現象を指します。正常な細胞では、DNAポリメラーゼの誤りを修正するミスマッチ修復システム(MMR)がこれを防ぎますが、この修復システムが機能不全を起こすと、マイクロサテライトの長さが不安定になり、これが「マイクロサテライト不安定性」として観察されます。

● MSIの特徴と重要性
マイクロサテライト不安定性は、特に色々な種類のがん、特に遺伝性非ポリポーシス性大腸がん(Lynch症候群)などでよく見られる特徴です。MSIはがん細胞のDNA中に多数存在し、正常な細胞のDNAと比較することでがんの診断や進行状況の評価に役立てられます。また、MSIの高いがんは特定の免疫チェックポイント阻害剤に対して敏感であることが知られており、がん治療の選択肢を決定する際の重要な指標の一つとなっています。

● MSIの臨床的応用
MSIのスクリーニングは、がん治療のパーソナライズを可能にし、特定の治療法が患者に適しているかどうかを判断する手助けとなります。また、MSIの存在は、特定のがんが遺伝的要因によるものかどうかを理解するのにも役立ち、家族歴がある患者のリスク評価にも使用されます。

MSIの生物学的機構

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、細胞が分裂する際にDNAの配列ミスを修復する機能が低下している状態を指します。この現象は、特にがん細胞において重要な意味を持ちます。細胞は常に分裂を繰り返しており、その過程でDNAの配列が誤って複製されることがあります。通常、これらのミスはミスマッチ修復(MMR)機構によって修復されますが、この機能が低下すると、マイクロサテライト不安定性が発生します[9].

● MSIの生物学的機構

MSIの生物学的機構は、ミスマッチ修復(MMR)システムの異常に関連しています。MMRシステムは、DNA複製中に生じる可能性のあるミスマッチ、すなわちベースペアの不一致を修復する一連のタンパク質から構成されています。このシステムには、MLH1MSH2MSH6PMS2などのタンパク質が含まれており、これらは複製エラーを認識し、修復する役割を担っています[7][11].

MMRシステムの機能不全は、遺伝的変異やタンパク質の発現低下によって引き起こされることが多いです。例えば、MLH1遺伝子プロモーター領域のメチル化による発現低下は、非遺伝性のがんでMSIを引き起こす一因とされています。また、遺伝性の場合(例えばリンチ症候群)では、これらの遺伝子に生じた変異が原因でMMR機能が低下します[6].

MSIの発生は、がん細胞においてマイクロサテライト領域のDNA配列の反復回数に変化をもたらします。これにより、DNAの微小な配列エラーが蓄積し、最終的には細胞の遺伝的多様性が増加し、がん化を促進する可能性があります[11].

MSIの状態は、特定のがん治療薬、特に免疫チェックポイント阻害剤に対する反応性を予測する重要なバイオマーカーとしても機能します。MSI-Highの状態は、これらの治療薬に対して良好な反応を示すことが多いため、がん治療においてMSIのステータスを評価することが重要です[8].

MSIとがん発生の関連性

MSIと消化器がん

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、消化器がん、特に大腸がんと密接に関連しています。MSIは、DNAのミスマッチ修復(MMR)システムの機能不全により生じる遺伝子の変異の蓄積を指します。この不安定性は、特定のがんの発生や進行に影響を与えることが知られています。

● 大腸がんとMSI

大腸がんにおけるMSIの発生は、特に遺伝性の大腸がん症候群であるリンチ症候群と強く関連しています。リンチ症候群は、MLH1、MSH2、MSH6、PMS2といったMMR遺伝子の変異によって引き起こされ、これらの遺伝子の異常はMSIを引き起こす主な原因です[6][11][19]. MSI-High(MSI-H)状態の大腸がんは、非MSI-Highのがんに比べて免疫応答が異なり、免疫チェックポイント阻害薬に対して高い感受性を示すことが報告されています[1][2][4].

● 胃がんとMSI

胃がんにおけるMSIの研究も進んでおり、MSI-Highの胃がんは全体の約10%を占め、良好な予後因子とされています[16][17]. MSI-Highの胃がんは、MSI陰性の胃がんに比べて、特定の遺伝子変異(例えば、p53遺伝子の変異)の頻度が低いことが特徴です[15][17]. また、MSI-Highの胃がんは免疫チェックポイント阻害薬に対しても有効な反応を示す可能性があります[14].

● MSIの検査と臨床応用

MSIの状態は、がんの診断、予後評価、治療選択において重要なバイオマーカーとして利用されています。MSIの検査には、PCR法や免疫組織化学染色(IHC)が用いられ、特に大腸がんの診断においてはMSI検査とMMRタンパク質の免疫染色が一致率90%以上で広く行われています[12]. これにより、MSI-Highのがんを特定し、免疫チェックポイント阻害薬などの特定の治療法への適応を判断することが可能です。

● 結論

MSIは消化器がん、特に大腸がんと胃がんにおいて重要な役割を果たしており、遺伝的要因や免疫応答の違いに基づいて、治療選択や予後評価に大きく寄与しています。今後もMSIの研究は、がん治療のパーソナライズ化に貢献する重要な分野として注目されています。

その他のがん種との関連

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、消化器がんだけでなく、多くの他のがん種においても重要な役割を果たします。MSIはこれらのがんにおいて異なる臨床的特徴と治療応答を示すことが知られています。以下に、消化器以外でのがん種とMSIの関連について詳しく説明します。

子宮内膜がん
子宮内膜がんでは、MSIの発生率が比較的高いと報告されています。特に、遺伝的要因によるものとして知られるリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス性大腸がん)の女性は、子宮内膜がんを発症するリスクも高く、これらのがんにおいてもMSIが頻繁に観察されます。MSIの存在は、これらのがんの診断、予後の判定、および治療選択に有用なバイオマーカーとなっています。

卵巣がん
卵巣がんにおいても、MSIは重要な役割を果たします。特に、内膜様卵巣がんというサブタイプでMSIの発生が報告されており、この情報は治療戦略の決定に役立てられています。MSI高発がんは、一般に免疫チェックポイント阻害薬に対する応答が良好であるとされています。

● 前立腺がん
前立腺がんにおけるMSIの研究は進行中ですが、MSIは前立腺がんのサブセットにおいて観察され、これらの患者では伝統的な治療法よりも免疫療法が有効である可能性が示唆されています。MSIの検出は、前立腺がんの予後判定や治療選択に有用な情報を提供するかもしれません。

● その他のがん種
皮膚がん、頭頸部がん、小児がんなど、他の多くのがん種においてもMSIの存在が報告されています。これらのがん種におけるMSIの頻度は低いものの、存在する場合は病態の理解や治療選択に重要な情報をもたらすことがあります。

● 総合的な治療戦略としてのMSI
MSIは、がん治療におけるパーソナライズドメディシンの進展に寄与しており、患者の治療応答を予測するためのバイオマーカーとしての役割を担っています。免疫チェックポイント阻害薬などの新しい治療法が特にMSI高発がんに有効であるため、MSIのスクリーニングはがん治療の効率化と最適化に貢献しています。

MSIの診断方法

分子遺伝学的検査技術

MSI(Microsatellite Instability、マイクロサテライト不安定性)の診断には、分子遺伝学的検査技術が用いられます。MSIは、ゲノムDNA上の1~5塩基を単位とする短い反復配列(マイクロサテライト)の長さががん細胞で変化する現象を指し、特にリンチ症候群などの遺伝性腫瘍の診断に重要です[18]。

● MSI検査の方法

MSI検査は、がん組織と非がん組織(正常組織)から取り出したDNAを比較することで、マイクロサテライトの長さの変化を検出します。具体的には、PCR(Polymerase Chain Reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いてマイクロサテライトを含む領域を増幅し、その後のフラグメント解析によってマイクロサテライト配列の反復回数を比較します[15]。

● 使用されるマーカー

米国国立がん研究所によって提唱された5つのマイクロサテライトマーカー(ベセスダパネル)を用いて検査を行い、2個以上のマーカーで不安定性が確認された場合をMSI-High(MSI-H)と定義します[18]。

● MSI検査の目的

MSI検査は以下の2つの主要な目的で使用されます:

1. リンチ症候群の診断:MSI-Highの場合、DNAミスマッチ修復遺伝子の機能障害が疑われます。リンチ症候群は遺伝性の病気であり、DNAミスマッチ修復遺伝子の変異によって引き起こされます[18]。
2. 免疫チェックポイント阻害薬の治療効果の予測:MSI-Highのがんは、免疫チェックポイント阻害薬に対して高い治療効果を示すことが知られています[18]。

遺伝子パネル検査

MSI-High固形がんの判定は、がん遺伝子パネル検査によっても可能です。この検査では、遺伝子の情報を高速で解析する装置を用いて、1回の検査で多数の遺伝子を同時に調べることができます[13]。

遺伝学的検査の質保証

分子遺伝学的検査の質を確保するために、いくつかのメカニズムが整備されており、一部の国では規制・監視制度を構築し、医療検査に関与する検査施設の質を向上させる取り組みが行われています[1]。

● 検査の実施にあたっての注意点

MSI検査を実施する際には、リンチ症候群の可能性について事前に説明し、結果がMSI-Highであった場合には、遺伝カウンセリングや遺伝子診断が受けられる機会を提供する必要があります[15]。また、検査の適応を決める基準として、ベセスダ基準やアムステルダム基準が用いられます[15]。

● 結論

MSI検査は、分子遺伝学的検査技術を用いて、がん組織のマイクロサテライトの不安定性を評価する重要な診断手法です。リンチ症候群の診断や免疫チェックポイント阻害薬の治療効果の予測に役立ちます。検査の質保証や遺伝カウンセリングの提供が重要な要素となります。

臨床でのMSI検査の適用

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、がん細胞のDNAにおける短い反復配列であるマイクロサテライトの長さが変化する現象であり、ミスマッチ修復(MMR)システムの機能不全を示唆するバイオマーカーです。MSIの診断には主に以下の方法が用いられます。

1. PCR法によるMSI検査:
PCR法を用いて、正常組織と腫瘍組織から得られたDNAのマイクロサテライト領域を増幅し、その長さの変化を電気泳動で比較します。日本では「MSI検査キット(FALCO)」が薬事承認されており、ペムブロリズマブやニボルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬の適応判定の補助として保険適用されています[11].

2. 免疫組織化学染色(IHC)法:
IHC法により、腫瘍組織中のMMRタンパク質(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)の発現を評価します。MMRタンパク質の発現が消失している場合は、MSI-High(MSI-H)である可能性が高いとされます[5].

3. 次世代シーケンサー(NGS):
NGSを用いたがんゲノムプロファイリング検査(CGP検査)では、がん関連遺伝子を一度に解析し、MSIの状態を含む多くの遺伝子変異を同時に調べることができます[15].

臨床でのMSI検査の適用は以下のようになります。

– リンチ症候群のスクリーニング:
MSI検査はリンチ症候群の診断に有用であり、MSI-Hの結果が出た場合はリンチ症候群の可能性を示唆します[9][16].

– 免疫チェックポイント阻害薬の適応判定:
MSI-Hの固形がん患者に対して、免疫チェックポイント阻害薬が有効である可能性が高いため、これらの薬剤の適応を判定するためにMSI検査が行われます[1][5].

– 術後抗がん剤選択の補助:
大腸がんの術後抗がん剤を選択する際にMSI検査を行い、治療選択の補助として利用されます[12].

MSI検査は、がん治療のパーソナライズ化に貢献し、特に免疫療法の適応判定において重要な役割を果たしています。検査結果の解釈には専門的な知識が必要であり、MSI-Hの結果が出た場合には、リンチ症候群の可能性を含めた遺伝カウンセリングが推奨されます[9][10].

MSIを対象とした治療戦略

免疫チェックポイント阻害薬との関連

マイクロサテライト不安定性(Microsatellite Instability, MSI)は、DNAのミスマッチ修復(Mismatch Repair, MMR)システムの機能不全によって生じる現象であり、特に大腸がんなどの一部のがん種において、治療戦略に重要な意味を持ちます。MSIの高い(MSI-H)がんは、MMR遺伝子の機能欠損により、DNAの繰り返し配列であるマイクロサテライト領域に変異が蓄積しやすくなります。これにより、がん細胞は多数の新規抗原(ネオアンチゲン)を発現し、免疫系による認識と攻撃を受けやすくなると考えられています[1][3][5][10]。

免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint Inhibitors, ICIs)は、T細胞の活性化を抑制するチェックポイント分子の働きを阻害することで、がん細胞に対する免疫応答を強化する薬剤です。MSI-Hがんは、その多数のネオアンチゲンにより、免疫系による認識が高まるため、免疫チェックポイント阻害薬に対して特に感受性が高いとされています[1][3][5][10]。

● 免疫チェックポイント阻害薬との関連

免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1(Programmed Death-1)、PD-L1(Programmed Death-Ligand 1)、CTLA-4(Cytotoxic T-Lymphocyte-Associated Protein 4)などのチェックポイント分子を標的としています。これらの薬剤は、MSI-Hがんにおいて、通常の化学療法や他の治療法に比べて高い効果を示すことが多く、MSI-Hがんの治療において重要な選択肢となっています[1][3][5][10]。

例えば、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)やニボルマブ(オプジーボ)などの抗PD-1抗体は、MSI-H大腸がんを含むMSI-H固形がんに対して承認されており、これらの薬剤はMSI-Hがんにおいて顕著な治療効果を示しています[1][3][5][7][10]。

● MSIを対象とした治療戦略

MSIを対象とした治療戦略では、まずがん組織におけるMSIの状態を評価することが重要です。MSIの検査は、がん組織からDNAを抽出し、特定のマイクロサテライト領域の長さを分析することで行われます。MSI-Hが確認された場合、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療が検討されます[1][3][5][10]。

治療戦略としては、MSI-Hがんに対して免疫チェックポイント阻害薬を第一選択の治療として使用することが推奨されています。また、MSI-Hがんに対する免疫チェックポイント阻害薬の使用は、化学療法に耐性を示すがんや、従来の治療法に反応しないがんに対しても有効な選択肢となり得ます[1][3][5][10]。

さらに、MSI-Hがんにおける免疫チェックポイント阻害薬の使用は、長期的な治療効果をもたらす可能性があり、一部の患者では持続的な寛解を達成することが報告されています[1][3][5][10]。

● 結論

MSIを対象とした治療戦略では、MSI-Hがんに対して免疫チェックポイント阻害薬を積極的に使用することが推奨されます。これらの薬剤は、MSI-Hがんにおいて高い治療効果を示し、がん治療の新たな可能性を開いています。患者のMSI状態の評価を行い、適切な治療選択を行うことが重要です。

MSI高発がんの標的治療

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、がん細胞のDNAにおいて短いDNA配列の繰り返しが異常に増減する現象です。この現象は、特に大腸がんやその他の固形がんで見られ、がん細胞の遺伝的特性を示す重要なマーカーとなっています。MSIの高い(MSI-H)がんは、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に対して高い感受性を示すことが知られています[1][4][5][7][14][15].

● 免疫チェックポイント阻害薬の利用

MSI-Hがんに対する治療戦略として、免疫チェックポイント阻害薬が効果的です。これらの薬剤は、がん細胞が免疫系の攻撃から逃れるのを防ぐために、免疫システムを活性化させます。特に、ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)やニボルマブ(オプジーボ®)などの抗PD-1抗体が、MSI-Hがんの治療において有効であるとされています[1][4][7][10][14][15].

ペムブロリズマブは、MSI-H大腸がんを含むMSI-H固形がんに対して、米国食品医薬品局(FDA)によって承認されています。この薬剤は、特に標準治療に抵抗性を示すか、適切な代替治療がない場合に推奨されます[1][4][7][14][15].

● MSI検査の重要性

MSI-Hがんを特定するためには、MSI検査が不可欠です。この検査は、がん細胞と正常細胞のDNAを比較し、マイクロサテライト領域の長さの変化を検出することで、MSIの状態を評価します[1][4][13][17]. MSI検査により、MSI-Hがんの診断が確定した場合、免疫チェックポイント阻害薬による治療が検討されます。

● 総合的ながん治療戦略

MSI-Hがんの治療においては、免疫チェックポイント阻害薬だけでなく、患者の全体的な健康状態や他の治療オプションとの組み合わせも考慮する必要があります。これには、手術、放射線療法、化学療法などが含まれる場合があります。また、がんの進行度や他の生物学的マーカーも治療計画を立てる際の重要な要素です[1][4][5][7][14][15].

MSI-Hがんの標的治療は、個々の患者に最適な治療を提供するための精密医療の一環として、今後も進化し続けることが期待されます。

MSIの研究最前線

最新の研究成果と臨床試験

● 最新の研究成果

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、がん細胞のDNAにおける短い繰り返し配列の長さが変化する現象であり、特に消化器系のがんで見られることが多いです。最新の研究では、MSIの高頻度(MSI-High)が確認されるがんは、特定の免疫チェックポイント阻害薬に対して高い感受性を示すことが明らかにされています。

● 臨床試験

1. KEYNOTE-158試験
– ペムブロリズマブ(キイトルーダ®)は、MSI-Highを有する固形に対する治療薬として評価されています。この国際共同第II相試験では、MSI-High固形癌患者にペムブロリズマブを投与し、その有効性と安全性を検証しました[1][3][5][13].

2. CheckMate 142試験
– ニボルマブとイピリムマブの併用療法が、MSI-Highまたはミスマッチ修復機構欠損(dMMR)の進行大腸がん患者に対して行われました。この治療は、化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の大腸がん患者に対して新たな治療オプションとなる可能性が示されています[7].

3. CheckMate -8HW試験
– この試験は、進行大腸がん(mCRC)患者を対象に、オプジーボ(ニボルマブ)とヤーボイ(イピリムマブ)の併用療法を評価しています。特に、MSI-HまたはdMMRの大腸がん患者に焦点を当て、従来の化学療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を主要評価項目としています[8].

これらの臨床試験は、MSI-HighまたはdMMRのがん患者に対する免疫療法の有効性を示しており、がん治療の新たな方向性を示唆しています。特に、従来の治療法に反応しない患者に対して、これらの治療が新たな希望を提供していることが期待されます。

将来の治療への展望

● MSI(マイクロサテライト不安定性)の研究進展

マイクロサテライト不安定性(MSI)は、がん細胞のDNAにおける短い繰り返し配列が正常細胞と比較して不安定になる現象です。この不安定性は、特に消化器系のがん(大腸がんなど)において重要なバイオマーカーとされています。最近の研究では、MSIの状態を利用した新たな治療法が開発されており、特に免疫チェックポイント阻害薬の効果が注目されています。

● 免疫チェックポイント阻害薬とMSI

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫系の攻撃から逃れるのを防ぐために、特定の免疫チェックポイントをブロックすることで、体の免疫応答を強化します。MSI-H(マイクロサテライト高度不安定)状態のがんは、変異の数が多いため、免疫系による認識が容易になり、免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まると考えられています[1][2][13].

● 最新の研究動向

1. 抗PD-1抗体の進展
– 最近の研究では、抗PD-1抗体を用いた治療がMSI-HまたはdMMR(ミスマッチ修復機構欠損)の固形がんに対して高い効果を示しています。これにより、PFS(無病生存期間)の延長が認められています[1].

2. オプジーボとヤーボイの併用療法
– オプジーボ(ニボルマブ)とヤーボイ(Relatlimab)の併用療法が、化学療法と比較してMSI-HまたはdMMRのmCRC(転移性大腸がん)のファーストライン治療薬として顕著な有効性を示したと報告されています[9][11].

● 将来の治療への展望

MSIの研究は、個別化医療の進展に寄与しています。リキッドバイオプシーなどの新技術を用いて、がんの遺伝的特徴をリアルタイムでモニタリングすることが可能になり、治療の適応や効果の予測がより精確に行えるようになることが期待されています[2]. また、MSIの状態を詳細に分析することで、より効果的な治療法の開発が進むと考えられます。

このように、MSIをターゲットとした治療法の研究は、がん治療の新たな可能性を開いており、今後もその進展が注目されます。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

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