目次
嚢胞黄斑浮腫(CME:Cystoid Macular Edema)は、ものを見る中心である「黄斑」に、境界のはっきりした水ぶくれ(嚢胞)状のすき間ができ、水分がたまって見え方が低下する状態です。これは単独の病気ではなく、白内障手術後・糖尿病・ぶどう膜炎・網膜静脈閉塞症・薬剤・遺伝性網膜疾患など、まったく異なる多くの原因にたどりつく「最終的な共通の出口」として現れます。本記事では、CMEの仕組み・症状・OCTを中心とした診断・原因ごとの最新治療を、一般の方にもわかるように整理し、さらに遺伝性網膜疾患とのつながりという当院ならではの視点を、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. 嚢胞黄斑浮腫(CME)とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 黄斑(網膜の中心)に水ぶくれ状のすき間ができ、水がたまって中心の見え方が悪くなる状態です。それ自体が独立した病気ではなく、白内障手術後・糖尿病・ぶどう膜炎・網膜静脈閉塞症・薬剤・遺伝性網膜疾患など、さまざまな原因の「共通の結果」として現れます。黄斑だけの異常なので周辺の視野は保たれますが、ものが歪む・小さく見える・中心がかすむといった症状が出ます。原因を見極めることが治療の出発点で、特に「漏れるタイプ」か「漏れないタイプ」かの区別が重要です。
- ➤正体 → 黄斑にできる花びら状(ペタロイド)の嚢胞性スペース。多くの眼疾患・全身疾患の最終共通経路
- ➤症状 → 変視症(ものが歪む)・小視症・中心暗点・かすみ。周辺視野は保たれる
- ➤診断の主役 → OCT(光干渉断層計)。CMEの検出感度は蛍光眼底造影より高い
- ➤原因の見極め → 「漏出性(炎症・虚血)」か「非漏出性(細胞内貯留)」かで治療がまったく異なる
- ➤遺伝との接点 → 多くは非遺伝性だが、一部は網膜色素変性症などの遺伝性網膜疾患の合併。若年・両眼・非漏出性なら遺伝精査の価値がある
1. 嚢胞黄斑浮腫(CME)とは?まず結論
黄斑は、網膜のいちばん中心にある直径数ミリの小さな領域です。読書・人の顔の認識・細かい文字の判別など、私たちの「くっきり見る力」のほとんどを担っています。嚢胞黄斑浮腫(CME)は、この黄斑の組織のなかに、境界のはっきりした反射の低い「水ぶくれ(嚢胞)」状のすき間ができ、そこに水分がたまる状態を指します[1]。
ここでとても大切なのは、CMEはそれ自体が単独の独立した病気ではないという点です。CMEは、白内障などの眼内手術・網膜静脈閉塞症・糖尿病網膜症・ぶどう膜炎・網膜色素変性症・特定の薬剤の毒性など、まったく原因の異なる多くの病気がたどりつく「最終的な共通の出口(最終共通経路)」として現れる合併症です[2]。つまり「CMEがある」とわかったら、次に必ず「なぜCMEが起きているのか(原因は何か)」を突き止めることが、治療を成功させる出発点になります。
CMEは黄斑という中心部に限った異常なので、横や端を見る力(周辺視野は通常保たれます)。一方で、ものが歪んで見えたり、中心がかすんだりと、「見え方の質」が大きく落ちることが特徴です。適切に管理されないまま慢性化すると、光を感じる視細胞が不可逆的に傷んでしまい、回復しない視力低下につながることもあるため、早期の発見と原因に応じた介入が重要です[2]。
💡 用語解説:黄斑・中心窩(おうはん・ちゅうしんか)
黄斑は網膜の中心にある、ものをくっきり見るための最重要エリアです。その中央のさらに小さなくぼみを中心窩(ちゅうしんか)と呼び、視細胞がもっとも密集しています。黄斑は代謝がきわめて活発で酸素の消費も多く、中心窩には血管のない領域(無血管網)があるため、いったん水がたまると外に汲み出しにくく、浮腫が起きやすい・残りやすいという弱点をもっています。
そしてこの記事の主題である「遺伝」との接点です。CMEの大部分は遺伝とは関係なく起こりますが、一部は網膜色素変性症などの「遺伝性網膜疾患」の合併症として現れます。とくに若い方・両眼・蛍光眼底造影で「漏れがない」タイプのCMEでは、背景に遺伝子の異常が隠れていることがあり、臨床遺伝専門医による遺伝子診断と遺伝カウンセリングが、診断・将来予測・ご家族の見通しに大きな意味をもちます。詳しくは第6章で解説します。
2. なぜ黄斑に水がたまるのか:CMEの仕組み
CMEは、網膜に水分が「入ってくる量」と「汲み出される量」のバランスが崩れたときに生じます[2]。健康な眼では、血液の中の大きなタンパク質や余分な水分が網膜にむやみに入り込まないよう、血液網膜関門(けつえきもうまくかんもん)という「関所」が厳重に守っています。手術・虚血(血流不足)・炎症などでこの関所が壊れると、タンパク質を多く含む血液成分が網膜にしみ出し、浸透圧の差によって周囲から水が引き込まれて、細胞のすき間に浮腫がたまります。
💡 用語解説:血液網膜関門(BRB)
脳に「血液脳関門」があるように、網膜には血液網膜関門(Blood-Retinal Barrier:BRB)という関所があります。網膜の血管をつくる細胞どうしが固く密着した「内側のBRB」と、網膜のいちばん外側にある網膜色素上皮(RPE)がつくる「外側のBRB」の2つで、血液から余分な水やタンパク質が網膜に入り込むのを防いでいます。このどちらか(または両方)が壊れることが、多くのCMEの出発点です。
血管から水が漏れる過程を強力に後押しするのが、組織の障害によって放出される炎症性・血管作動性のメディエーター(伝達物質)です。なかでも血管内皮増殖因子(VEGF)やプロスタグランジン、アンジオポエチン-2、各種インターロイキン、腫瘍壊死因子(TNF-α)などが、黄斑周囲の毛細血管の透過性(漏れやすさ)を大きく高めます[2]。これらは白血球を血管壁に呼び寄せ、炎症の悪循環をつくり出します。
💡 用語解説:VEGF(血管内皮増殖因子)
VEGFは、血管を新しくつくらせたり、血管の壁を「漏れやすく」したりする働きをもつタンパク質です。糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症のように網膜が酸素不足(虚血)に陥ると、大量のVEGFが放出され、血管から水がしみ出して浮腫を起こします。このVEGFの働きを薬で抑えるのが、後述する「抗VEGF療法」です。
もう一つ重要なのが、網膜を支える代表的なグリア細胞であるミュラー細胞の機能不全です。炎症や物理的ストレスにさらされると、ミュラー細胞自身が腫れあがり、細胞の外ではなく細胞そのものの中に水がたまる「細胞毒性浮腫」を引き起こします[2]。これは「血管から漏れて起きる浮腫(漏出性)」とは仕組みが根本的に異なり、後述するように治療方針を分ける決定的なポイントになります。
💡 用語解説:ミュラー細胞とペタロイド(花びら状)パターン
ミュラー細胞は、網膜全体を縦に貫いて支える「柱」のような細胞で、水やイオンのバランスを保つ役割をもちます。これが腫れると網膜の水はけが悪くなります。
黄斑には、視細胞の軸索が斜めに放射状に走る「ヘンレ線維層」という特殊な構造があります。漏れ出した水がこの放射状のすき間に沿ってたまると、検査で花びらが開いたような模様(ペタロイドパターン)に見えます。これがCMEに特徴的な形です。
こうした仕組みから、CMEは大きく2つのタイプに分けて考えると整理しやすくなります。血管の壁が壊れて漏れる「漏出性(血管原性)」と、血管からの漏れを伴わずに細胞内に水がたまる「非漏出性(細胞毒性)」です。この区別が、診断と治療の両方で「効く薬・効かない薬」を分けるカギになります[2]。
3. CMEの症状:変視症・小視症・中心暗点
CMEの症状は、浮腫の程度と原因によって大きく変わります。ごく軽い段階や中心窩の構造が保たれている場合は、まったく症状がない(無症状・サブクリニカル)こともあります[2]。しかし黄斑の中心が巻き込まれると、中心の見え方に強い影響が出ます。
もっとも特徴的な症状が変視症(へんししょう)です[1]。黄斑に水ぶくれができることで網膜の滑らかな表面が凸凹に歪み、視細胞の並びが乱れる結果、まっすぐな線が波打って見えたり、ものが歪んで見えたりします。さらに、視細胞の間隔が押し広げられると、脳がものを「実際より小さい」と誤って認識する小視症(しょうししょう)が起こります。進行すると、見ようとする中心がぼやけたり欠けたりする中心暗点が自覚されます[2]。
💡 用語解説:変視症(へんししょう)
まっすぐな線が波打って見えたり、格子状の模様が歪んで見えたりする症状です。ご家庭でも「アムスラーチャート」と呼ばれる格子の表で気づけることがあります。片目ずつ見比べて、線の歪み・欠け・かすみがあれば、黄斑の異常のサインかもしれません。気になるときは眼科を受診してください。
このほか、全体的なかすみ、読書のしづらさ、コントラスト感度の低下、色が暗く見える・本来と違う色調に見えるといった色覚の異常、まぶしさ(羞明)など、「見え方の質(Quality of Vision)」の低下が幅広く報告されます[1]。繰り返しになりますが、これらはあくまで黄斑(中心)の症状であり、歩行に必要な周辺の視野は通常保たれます。
4. CMEの診断:OCTと蛍光眼底造影
🔍 関連記事:OCT(光干渉断層計)とは──網膜を断層画像で見る検査
CMEの正確な診断・重症度の数値化・治療効果の経過観察には、画像検査が欠かせません。視力検査や細隙灯顕微鏡による初期評価に加え、OCT(光干渉断層計)と蛍光眼底造影(FA)が現在の標準的な診断の柱です[2]。
まず散瞳した状態で、90Dや78Dのレンズを使った細隙灯顕微鏡で網膜の後極部を立体的に観察し、黄斑の肥厚・中心窩反射の消失・嚢胞性変化などを確認します[2]。次に行うのが、近赤外線で網膜の断面をミクロン単位で写し出すOCTです。OCT上でCMEは、外網状層あたりを起点に内側へ広がる、境界のはっきりした「黒く抜けた」低反射のすき間の集まりとして描出され、網膜厚を数値で測れるため、現在の臨床的ゴールドスタンダードとなっています[2]。
CME(嚢胞黄斑浮腫)の検出感度:OCT と 蛍光眼底造影(FA)
3D-OCT と FA で、CMEを検出できた割合の比較
3D-OCT
(断層画像)
蛍光眼底造影(FA)
(色素造影)
研究では、3D-OCTのCME検出感度は95%で、FAの44%を大きく上回りました。検者どうしの判定の一致率も高く、OCTは非侵襲(注射不要)で繰り返し検査しやすいことから、現在の中心的な検査となっています[3]。
蛍光眼底造影(FA)は、腕の静脈から蛍光色素を注入し、眼底の血管を連続撮影する検査です[1]。毛細血管からの色素の漏れ(血管透過性の亢進)を直接「地図」のように描き出せる最も強力な手法で、CMEがあると造影の後期に、黄斑を中心とした花びら状(ペタロイド)の過蛍光が現れます[2]。近年は色素を使わずに血管とその抜け(無血管領域)を立体的に評価できるOCTアンギオグラフィ(OCTA)も普及し、FAを補完しています。
💡 用語解説:非漏出性CME(漏れないタイプ)
OCTでは典型的な嚢胞や網膜の肥厚が確認できるのに、FAでは色素の漏れがまったく見られないことがあります。これを非漏出性CME(Angiographically silent CMO)と呼びます[10]。原因が「血管からの漏れ」ではなく、ミュラー細胞の腫れやRPEの機能不全による「細胞内への水のたまり」であることを示すサインで、後で述べる遺伝性網膜疾患や薬剤性のCMEに多く、治療の選び方を変える決定的な手がかりになります。
5. CMEを起こす主な原因(多病因)
CMEは多くの病気の「出口」なので、原因を一覧で把握しておくと理解が深まります。代表的な原因と、それぞれのOCT・FAの所見、治療の方向性を整理しました。
白内障手術後のCME(Irvine-Gass症候群)
白内障手術後のCMEは「Irvine-Gass症候群」とも呼ばれ、手術後に予期せず視力が下がる原因として最も多いものです[4]。通常は術後1〜3か月で発症します。手術が問題なく終わった場合でも、視力低下を伴う臨床的なCMEは約1〜3%に起こり、症状のないサブクリニカルな網膜肥厚まで含めると、OCT上では最大19%に達するという報告もあります[4]。糖尿病・ぶどう膜炎やRVOの既往、網膜前膜などがある方ではリスクが上がるため、術前からの注意が大切です[5]。
🔍 関連記事:術後の黄斑をOCTでどう評価するか(OCTとは)
ぶどう膜炎・糖尿病・網膜静脈閉塞症
ぶどう膜炎(眼の中の血管に富む層の炎症)に伴う黄斑浮腫は、視力を脅かす重要な合併症です[6]。ぶどう膜炎は解剖学的な分類によってCMEの合併率が異なります。
糖尿病黄斑浮腫(DME)は、高血糖が長く続いて網膜の微小血管が傷み、虚血からVEGFが大量に出て血管が漏れやすくなることで生じます[7]。網膜静脈閉塞症(RVO)は、静脈が血栓や動脈硬化で詰まることで血圧が急に上がり、血液網膜関門が一気に破綻して、急速で広範な視力低下を起こすのが特徴です[8]。これらはいずれも「漏れる(血管原性)」タイプの代表で、抗VEGF療法がよく効きます。
薬剤によるCME(漏れないタイプ)
特定の薬剤も、網膜への毒性や代謝阻害を通じて、FAで漏れを伴わないCMEを起こします[10]。脂質異常症に使うニコチン酸(ナイアシン)は用量依存的にCMEを起こし、抗がん剤のタキサン系(パクリタキセル・ドセタキセル)は発生率約0.3%とされます[10]。多発性硬化症に使われるフィンゴリモド(FTY720)による黄斑浮腫も知られています。これらは多くの場合、被疑薬の減量・中止で改善(可逆性)しますが、見つけるのが遅れると不可逆的な障害が残ることがあるため、早期発見が大切です。
6. 遺伝とCME:遺伝性網膜疾患という視点
🔍 関連記事:RS1遺伝子(X連鎖網膜分離症)/臨床遺伝専門医とは/遺伝カウンセリングとは
ここからが、当院(臨床遺伝専門医のクリニック)がとくに大切にしている視点です。CMEの多くは遺伝とは関係なく起こりますが、一部は「遺伝性網膜ジストロフィ」と呼ばれる遺伝性の網膜の病気の合併症として現れます。そして、その大半がFAで漏れない「非漏出性CME」であることが大きな特徴です[10]。
💡 用語解説:遺伝性網膜ジストロフィ(IRD)
生まれつきの遺伝子の変化によって、光を感じる視細胞や網膜色素上皮が少しずつ障害される病気の総称です(Inherited Retinal Dystrophy:IRD)。代表が網膜色素変性症(RP)で、夜盲(暗いところで見えにくい)や視野が狭くなる症状が中心ですが、黄斑にCMEを合併して中心の視力まで脅かすことがあります。原因となる遺伝子は数百種類が知られています。
網膜色素変性症(RP)では、黄斑にCMEを合併する割合は報告によって約10〜50%と幅があり、検出方法(FAかOCTか)や遺伝形式によって大きく異なります。一般に常染色体優性(顕性)型のRPで合併が多い傾向が報告されています[9]。重要なのは、RPに伴うCMEの大部分は血管からの漏れを伴わない非漏出性であり、その背景にミュラー細胞の代謝異常やRPEのポンプ機能不全による「細胞内への水のたまり」があると考えられている点です[10]。この仕組みの違いが、後述するように「効く薬」を分けます。
💡 用語解説:常染色体優性(顕性)・劣性(潜性)・X連鎖
遺伝の伝わり方(遺伝形式)の用語です。近年は表現が新しくなり、併記されます。
- ▸常染色体優性(顕性):2つある遺伝子の片方の変化で発症しうる
- ▸常染色体劣性(潜性):両親から受け継いだ2つとも変化して発症。両親は「保因者」のことが多い
- ▸X連鎖:X染色体上の遺伝子による。主に男性に強く出ることが多い
CMEや嚢胞様の網膜の変化を伴う代表的な遺伝性網膜疾患には、次のようなものがあります。原因遺伝子のページがある場合はリンクから詳しくご覧いただけます。
- ➤X連鎖網膜分離症 → 原因遺伝子はRS1。中心窩に放射状の嚢胞様の分離(スポーク状)を起こし、FAでは漏れないのが典型
- ➤X連鎖網膜色素変性症 → 原因遺伝子はRPGRなどで、黄斑に嚢胞性変化を伴うことがある
- ➤RPE65関連網膜症 → 原因遺伝子はRPE65。早期発症の重い網膜ジストロフィで、世界初の網膜遺伝子治療の対象遺伝子として知られる
- ➤そのほか → コロイデレミア・拡張型S錐体症候群・Usher症候群・脳回状脈絡網膜萎縮など、多くのIRDで非漏出性のCMEが報告されている[10]
ここで現代的に重要なのが、遺伝子治療の時代におけるCME管理です。RPE65関連網膜症のように、原因遺伝子に対する治療が登場した疾患では、黄斑のCMEが治療の到達や効果に影響しうるため、治療の前にCMEをきちんとコントロールしておくことの重要性が指摘され始めています。「どの遺伝子が原因か」を正確に知ることは、見通しを立てるだけでなく、将来の治療選択そのものにも関わるのです。原因となりうる遺伝子は遺伝子リストから調べることができます。
なお、Usher症候群など常染色体劣性(潜性)の遺伝性網膜疾患は、ご本人に症状が出る前でも、ご夫婦が同じ遺伝子の変化を「保因者」として持っているかどうかを調べられる場合があります。妊娠前・妊娠初期のご相談として、拡大保因者検査(女性版)や男性版の拡大保因者検査といった選択肢があります。検査を受けるかどうかはご家族で十分に話し合ってお決めいただくもので、当院は中立な立場で情報提供と遺伝カウンセリングを行います。
7. CMEの治療:原因別アプローチ
CME治療の大原則は「すべてに効く万能の治療法はない」ということです。OCTとFAで、浮腫が炎症主導か、VEGF主導の虚血性か、あるいは細胞毒性・薬剤毒性によるものかを見極め、原因に合わせて治療を選ぶことが不可欠です[2]。以下は眼科で行われる代表的な治療の概要です(眼の治療は眼科の専門領域です)。
白内障術後CME・ぶどう膜炎
白内障術後のCME(Irvine-Gass症候群)は、自然に軽快することも多い一方、慢性化による不可逆的な視細胞障害を避けるため、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)点眼とステロイド点眼の併用が第一選択として標準化されています[5]。点眼で不十分な難治例では、眼の近くや内部へのステロイド注射・徐放性インプラント(デキサメタゾンなど)へ段階的に強める方法がとられます[5]。ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫では、まず根本の眼内炎症を抑えることが最大の目標で、ステロイドの局所・全身投与が治療の主力となります[11]。
近年は、強膜と脈絡膜の間の脈絡膜上腔に専用の極細針で薬を届ける新しい投与経路(脈絡膜上腔トリアムシノロン)が、ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の治療として米国で承認され、注目されています[12]。難治例ではメトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫調節薬、TNF-α阻害薬などの生物学的製剤が、専門医の連携のもとで用いられます[11]。
糖尿病黄斑浮腫(DME)・網膜静脈閉塞症(RVO)
DMEとRVOに伴うCMEの治療は、ここ十数年で大きく変わりました。かつて主役だったレーザー治療に代わり、現在はVEGFの働きを抑える「抗VEGF薬」の硝子体内注射が明確な第一選択です[7][8]。これらの病気では、虚血によるVEGFの過剰が浮腫の中心にあるためです。
💡 用語解説:抗VEGF薬と「効果の持続性」
血管を漏れやすくするVEGFの働きを抑える注射薬です。最近は、注射の回数を減らして患者さんの負担を軽くする「効果の持続性」が重視されています。VEGFに加えてアンジオポエチン-2も同時に抑える二重特異性抗体ファリシマブは、臨床試験で最大16週間に1回という投与間隔の延長が示されました[13]。また従来の4倍の薬効成分を含む高用量アフリベルセプト(8mg製剤)も、投与間隔を延ばしても同等の効果が示され、RVOに伴う黄斑浮腫などに用いられています[14]。
網膜色素変性症(RP)・非漏出性CME・薬剤性
ここが、遺伝性網膜疾患とのつながりで最も大切なポイントです。RPに伴うCMEや薬剤性CMEの多くは「漏れない(非漏出性・細胞毒性)」タイプのため、血管の漏れを抑えることを目的としたステロイドや抗VEGF薬はほとんど効きません[10]。RPに関連するCMEに対する第一選択は、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミドの内服やドルゾラミドの点眼)です[15]。
💡 用語解説:炭酸脱水酵素阻害薬(たんさんだっすいこうそそがいやく)
もともと緑内障や高山病などに使われる薬で、網膜色素上皮(RPE)の水のくみ出しポンプを後押しし、たまった水を脈絡膜側へ排出させることでCMEを軽くします。RPのCMEに有効ですが、原因(遺伝子の変化)を治すわけではないため、中止するとCMEが再発(リバウンド)しやすいのが課題で、長期的な管理計画が必要です[16]。内服が合わない場合は点眼が代替になります。
薬剤性CME(ナイアシン・タキサン系・フィンゴリモドなど)は、原疾患の治療計画を考慮しつつ被疑薬の減量・中止が最も確実な対応です[10]。また硝子体が黄斑を引っぱる「牽引性」のCMEでは、硝子体手術が選択されることもあります。いずれの場合も、慢性化する前の早期発見が予後を左右します。
8. よくある誤解
誤解①「黄斑浮腫は糖尿病の人だけの病気」
糖尿病は重要な原因の一つですが、CMEは白内障手術後・ぶどう膜炎・網膜静脈閉塞症・薬剤・遺伝性網膜疾患など、実に多くの原因で起こります。糖尿病がなくても起こりうる病態です。
誤解②「CMEになったら必ず失明する」
CMEは黄斑(中心)の病態なので周辺の視野は通常保たれ、原因に応じた治療で改善することも多くあります。ただし慢性化すると不可逆的な視力低下につながるため、早期の対応が大切です。
誤解③「CMEは遺伝とは関係ない」
大半は非遺伝性ですが、一部は遺伝性網膜疾患の合併です。とくに若年・両眼・FAで漏れない非漏出性のCMEでは、遺伝子の精査が見通しや治療選択に役立つことがあります。
誤解④「治療すればどんなCMEもすぐ治る」
「漏れる」タイプには抗VEGFやステロイドが有効ですが、「漏れない」タイプにはこれらが効きにくく、RPでは薬を続けてもリバウンドが起こりえます。タイプの見極めが治療成功の前提です。
9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
よくある質問(FAQ)
🏥 遺伝性網膜疾患・遺伝子診断のご相談
若年・両眼・非漏出性のCMEで「遺伝が関わるかもしれない」とき、
原因遺伝子の評価や遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
参考文献
- [1] CME (Cystoid Macular Edema). American Academy of Ophthalmology (AAO). [AAO]
- [2] Macular Edema. StatPearls, NCBI Bookshelf. [NBK576396]
- [3] Detection of cystoid macular edema with three-dimensional optical coherence tomography versus fluorescein angiography. PubMed. [PubMed 20357195]
- [4] After Cataract Surgery: Watching for Cystoid Macular Edema. American Academy of Ophthalmology, EyeNet. [AAO EyeNet]
- [5] Managing CME After Cataract Surgery. Review of Ophthalmology. [Review of Ophthalmology]
- [6] Uveitic Macular Edema. StatPearls, NCBI Bookshelf. [NBK562158]
- [7] Diabetic Macular Edema: Diagnosis and Management. American Academy of Ophthalmology, EyeNet. [AAO EyeNet]
- [8] Retinal Vein Occlusions Preferred Practice Pattern (PPP). American Academy of Ophthalmology. [AAO PPP]
- [9] Management of Cystoid Macular Edema in Retinitis Pigmentosa: A Systematic Review and Meta-Analysis. Frontiers in Medicine. 2022. [Frontiers in Medicine]
- [10] Cystoid macular oedema without leakage in fluorescein angiography. PMC. [PMC10219944]
- [11] Uveitic Macular Edema: Treatment Update. PMC. [PMC4917282]
- [12] XIPERE (triamcinolone acetonide injectable suspension) for suprachoroidal use. Official Product Site. [XIPERE]
- [13] Efficacy, Safety, and Durability of Faricimab in Diabetic Macular Edema: Phase 3 YOSEMITE and RHINE Trials. Euretina. [Euretina]
- [14] EYLEA HD (aflibercept) injection 8 mg approved by FDA for macular edema following RVO. Ophthalmology Times. [Ophthalmology Times]
- [15] Treatment of cystoid macular edema secondary to retinitis pigmentosa: a systematic review. Harvard Medical School, Department of Ophthalmology. [Harvard HMS]
- [16] Rebound of cystoid macular edema with continued use of acetazolamide in patients with retinitis pigmentosa. PubMed. [PubMed 18040255]



