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セカンドオピニオン|乳がんステージⅡがん放置療法希望

セカンドオピニオン|乳がんステージⅡがん放置療法希望

乳癌のイメージであるピンクリボンと女性と子供の手

手術可能なステージⅡと言う時期でがんが見つかったAさん。ある日、Aさんの夫が震える声で深刻そうに電話をかけてきました。「セカンドオピニオンに行きたい。妻が治療を受けないと言っていて、近藤誠さんのところに行ってがん放置療法を選ぼうとしている」Aさんが手術可能な割と初期の乳でそう思ってしまったわけは何だったのでしょうか?

始まりは1本の電話

ある日、患者さんの夫から電話をもらいました。
東京でセカンドオピニオンを受けようと思っているのだけど、先生のところに行くか有名な近藤誠先生のところに行くか迷っている。
どうして私のことを知ったのかと聞くと、図書館にある本、という事でした。
わたしが一般の方向けに書いた、女性のがんの本当の話 – がん専門女医と先輩患者からの本音のアドバイス – という本をお読みになったようでした。

手術可能なのに近藤誠の放置療法を選ぼうとしている人がいる。わたしたちがんの専門医は、放置療法をうたう近藤誠や怪しいがんの免疫療法、がんの食事療法、断食療法などの「エセ医学」と水面下で激しく戦ってきました。

わたしの友人である勝俣さん(武蔵小杉病院腫瘍内科教授)などは近藤誠を非難する本を出版したりもしていますが、わたしは彼らと明らかに一線を画してむしろ彼らを非難してきました。理由は、以下の通りです。

我々は国民に振られた彼氏である。新しい彼氏である近藤誠の悪口を言うと、モトカレの我々は「それ見たことか」「やっぱああいうしかないよね」「バカだよね」としか言われない。国民たちが我々をまたちゃんと見て、すごい(*///∇///*)、こっちの先生の方がいい、と思ってくれるように我々が変わらないとダメなんだ。我々は国民に振られた彼氏である。新しい彼氏である近藤誠の悪口を言うと、モトカレの我々は「それ見たことか」「やっぱああいうしかないよね」「バカだよね」としか言われない。国民たちが我々をまたちゃんと見て、すごい(*///∇///*)、こっちの先生の方がいい、と思ってくれるように我々が変わらないとダメなんだ。

そしてわたしは、この「近藤誠にあって放置療法の決意をする」ために東京に来るご夫婦に、「ゆっくり話を聞くから先にミネルバクリニックに寄って」とお願いしました。

仲田洋美vs近藤誠

近藤誠さんといえば、慶応義塾大学放射線科の講師で、わたしが医学生の頃、乳房温存療法を提唱していました。わたしの出身大学の高知医科大学では第1外科、第2外科ともに乳癌を扱っていて、1外科は絶対温存しない、2外科は先進的なものも取り入れるので慶應以外では当時唯一と言っていいくらいの「乳房温存療法」をする病院だったんです。近藤誠は乳房温存療法に放射線科の立場から取り組んだ医師でした。しかし、わたしは当時近藤さんのことは知りませんでした。
その後、近藤さんが出す本がミリオンセラーに次々となってしまい、がん患者たちがこぞって近藤さんのところにセカンドオピニオンを受けに行くようになり、いろんながんを扱う医師たちが近藤教に入信した患者たちに唇をかむ事態となって行きました。
わたしが近藤誠の被害にあったのは、某がんセンターで勤務していた時、食道がんだけど、大掛かりな外科手術をせずに内視鏡手術とするにはちょっと深すぎる、放射線治療も「肺気腫」のため危険だと考えられる、その上、抗がん剤も肺気腫のある人たちには肺の線維化を急速に来して危ないものもある、というどのような治療をすべきかと悩む担当患者さん(Bさん)が近藤誠のところに行ったことから、あら大変って感じになりました。

Bさんは「それ見たことか」という感じで近藤さんのセカンドオピニオンの返書を私たちに見せ、「近藤先生がこう言ってるからやってくれよ」と言いました。

放射線治療が肺気腫の患者さんでは放射線肺臓炎をおこしやすくなり、普通の人よりは危険、ということは放射線科医だった近藤誠とわたしたちがん専門医の間で同じだったのですが。決定的に違ったのは、近藤誠は、「抗がん剤を1/6の量に減らせば大丈夫だからそれで投与してもらえ」とBさんに言ってしまい、セカンドオピニオンの返事にもそう書いてあったので、Bさんは「有名な近藤先生がそう言ってるんだからお前たち言うこと聞け」っていうノリだったので、大変になりました。

わたしはくどくどと、使用する抗がん剤の量を臨床試験のときにどうやって決めているのか?を説明しました。

治験の第1相試験:
少人数の健康な成人で、ごく少量から少しずつ投与量を増やしていき(dose escalation)、安全に投与できる量を調べたり、血液のなかの薬剤の濃度や薬剤の代謝経路(排泄されるのが肝臓からか、腎臓からか)を調べます。

治験の第2相試験:
比較的少人数の患者さんについて、薬剤の有効性の有無や有害事象の有無、どういう量をどういうタイミングで投与したら一番良いのかなどを検討します。

治験の第2相試験:
多数の患者さんで第2相の結果から最も有効で安全な使い方と思われた用法容量で最終的に効果や有害事象を確認します。効果については実際に投与されている薬剤と比較することが行われます。

以上のような段階を経て、薬の量は決まっていて、たとえば腎臓や肝臓の機能に問題があるなど減量すべき諸事情があって決められた量が使えない場合には、一旦8割に減らし、もう1回その8割にしてみる、ということを臨床場面では致しますが、近藤さんのように1/6量にしろ、というのはエビデンスが全くありません。

8割、8割、はそういう風に減らしてもなんとか効果があった、有害事象も許容できた、とかわかっている薬に対して行いますので、それぞれの医師の勘で行うものでもありません。

また、内視鏡手術の成績に関しても、この深さなら再発する率がどれくらい、とかいう説明を全部数字でしました。

こうした説明をくどくどして、Bさんはやっと納得し、一旦頭を冷やして家族会議をすることとなりました。
後日、Bさんは外科手術だけを選択することにしました。

わたしが近藤誠おそるべし、と初めて思った症例でした。

患者さん(Aさん)が近藤誠のところに行きたくなったわけ

話を元に戻しましょう。
近藤誠のセカオピを受けて、がん放置療法しようという気持ちに傾いていたAさんは、それまで別に近藤誠が好きだったわけでも何でもありません。ただただ医療不信から「何も治療をしたくない」というお気持ちになってしまっていました。

Aさん本人と話も少ししましたが、どうしていきなりそこまで思ってしまったのか正直分かりませんでした。
わたしは、Aさんにとにかくだまされたと思って私のところにきて、主治医に言ってセカンドオピニオン用の診療情報提供書とCT、MRIなどの画像診断や病理診断の結果など一式全部もらってください、とお願いしました。

そしてそのセカンドオピニオンの紹介状を見て、後日わたしは倒れそうになります。

主治医のセカンドオピニオン紹介状に仲田洋美が激怒した理由とは?

主治医からの紹介状にわたしは大変驚き、これは患者さんが絶望して近藤誠のところに行ってがん放置療法を選ぼうと思うのも無理はないなと思ってしまいました。

一方的な言い分だけ述べることを説明と思っている医師たち

一方的な言い分だけ述べることを説明と思っている医師たち。よくお目にかかりませんか?
正直、わたしは自分が病気になったとき、見てもらいたい医師はいません。
というくらい、医師たちは一方的に自分の考えだけを述べて従えという態度で診療します。

Aさんの紹介状を見てわたしもほとんど絶望して怒りが湧きました。
なぜかというと、治療選択肢の提示が1個しかなかったんです。

Aさんは手術可能ですので、手術の前に抗がん剤をする、手術のあとに抗がん剤をする、が少なくとも選べます。
放射線治療を加えるのか、ホルモン療法をするのか、するならどのタイミングか、など。乳癌は通常、治療選択肢が1個なんてありません。

もちろん、各治療を行う順番で治療成績が変わったりするのですが、複数ある選択肢のメリットデメリットをきちんと説明して、最終的にどうするか選ぶのは患者さんご自身なわけです。

ところがこの主治医は、1個しか治療選択肢を提示しておらず、手術を優先したかったAさんの考えとまったく合わなかったんです。その上、なぜその治療選択肢しかないのかという説明もありません。何度聞いても「こうするものだから」という言葉しか返ってこなくて、会うたびに医師が信用できなくなっていきました。

Aさんにはお子さんもいます。通常ならば、お子さんのために一番長生きできる治療方法を選びたい、って思いませんか?
なのにAさんは医療に絶望し、不信を感じて、もうこんなことなら何も治療せずにいよう、とほとんど決意するに至ったんです。

Aさんには少し障害のあるお子さんもいて、子どもたちと旦那さんを残して死ぬことを考えたりして、正常な思考回路をうしなっていきました。
そんなとき、図書館で見かけた1冊の本で、どうせ東京に行くんだったらこの先生にあってみない?と夫に言われてAさんはミネルバクリニックに来ました。

Aさんの主治医に激怒した仲田洋美医師がとった行動とは?

これはもう、「怒りを十二分にのせて返書を書く」という事です。

セカンドオピニオンは患者さんと主治医の溝を埋める作業だとわたしは考えて、普段は主治医の考えを患者さんが理解できていない点はどこか、と探して重点的に説明する、とか患者さんを実際に診療し続ける医師との医師患者関係を破壊しないように気を付けています。

しかし。治療選択肢を1つしか提示しないことが、「患者の意思決定を奪う」ことなのだと分からないようなひどい医者にたいする情けはまったく必要ないと思います。

それと、わたしはがんプロフェッショナル養成プランという大学院の1期生で、がんの診療に対する網羅的な教育を受けている人材としていろんなところに意見を発信しているため、きちんと説明しないがん拠点病院をがん拠点病院と認めるな、とか吠えました。

このままだと患者さんが治療を受ける勇気が出ないので、こうした場合はむしろ、医師患者関係を破壊しても良いと思ってます。

その後患者さんはどうなったのか?

患者さんは、夫とともにだいぶ長い事私のところで話をして、落ち着いて帰っていきました。3時間くらいでしたかね。
必要な時間を削ってはいけないと思いますので、セカンドオピニオンは30分までにしてください、とか言うこともしていません。

主治医は、わたしの激おこぷんぷんな返書を受け取って仰天していたようですが、さすががん拠点病院の端くれだけあって、がんプロのことは知っていたようで、その中でも超戦闘型で有名な仲田洋美が相手ですので、その後、「君子危うきに近寄らず」ということか、患者さんに対する態度はすこぶる良くなったそうです。

Aさんは希望通りまず手術を受け。その後もどういう治療選択肢があるのか、選ぶに際して必要なエビデンスなどを添えて説明してくれるようになったそうです

セカンドオピニオンが人生の転機になることも

Aさんは、障害をもつ子どもたちを残して死にたくない、というがんと闘いたいという思いがありましたが、一方で、満足な説明をしてくれない主治医に絶望し、夫は自分の残される将来や子供たちを一人で世話できるのかという不安でいっぱいになり、一家で八方ふさがりに陥り、一家心中も頭をよぎったそうです。

Aさん一家は、「先生のところに来たからもう、近藤先生のところにこの後行く予定で予約もしてたけど行かない」とニコニコして帰っていきました。

わたしのような、「相手が医師たちでも戦うスタイル」の医師は少数でしょうが、それでもAさんはわたしを見つけてきてくれて、ちゃんとがんと闘う気持ちになってくれました。

かけがえのない人たちを大事にしたければ、自分の人生を地に足を付けて歩むしかないのです。
その姿が愛する人たちに勇気を与える。
愛する人たちから自分も勇気づけられる。

誰もあなたの人生を変わって歩むことはできません。
わたしはあなたが人生で一番つらくてまよっているときに、ともに悩み、すすみたい方向を見つけるお手伝いをしたいと思います。

必要と感じたら主治医と戦うことも辞さないです。それが患者さんを守ることならそうします。

がんの専門医、そして遺伝子の専門医として。

心も体もまるっと受け止めて支えたい。
辛い誰かの希望の灯になれますように。

1歩踏み出す勇気がないあなたの背中をそっと押す。

わたしはそういう医者でありたい。

ちなみにその後、Aさんには困ったことがあればいつでもわたしに連絡をとお伝えしていたのですが、何の音さたもありません。
そりゃ、Aさんが不満を抱くとまたあの怖い仲田先生に文句を言われると思ったら、背筋を伸ばして診療してるってことですね(笑)
わたしは、医者たちにはとても厳しいことで有名です。

患者さんの近況

2021年7月10日。
3年半ぶりにAさんと話をしました。
Aさんは当然ご存命で、明るく過ごしています。
手術も放射線治療も抗がん剤も全部終わって、ホルモン療法を受けています。

がんを放置すると決断しなくてよかった~、と屈託なく元気そうな声を聞かせてもらって、とても幸せな気持ちになりました。
医師っていい仕事ですね。
これからもわたしはこの仕事を誇りに思って続けていきたいと思います。

この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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