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不完全型ベーチェット病と診断されましたが赤ちゃんに遺伝するか教えてください

不完全型ベーチェット病と診断されましたが赤ちゃんに遺伝するか教えてください

ベーチェット病

NIPTを受けた患者さんからの質問
10年前に結節性紅斑、陰部潰瘍、口内炎で不完全型ベーチェット病と診断されました。今回、妊娠して遺伝しないかとても心配です。

患者さん個人に返答するにもお返事の内容がボリュームありますので、HPに記載するとお約束しましたのでこちらに記載します。

ベーチェット病とは?

ベーチェット症候群(ベーチェット病としても知られる)は、再発性の口腔アフタ性潰瘍と多数の潜在的な全身症状を特徴とする炎症性疾患です。ベーチェット症候群は、再発する口腔内のアフタ性潰瘍を特徴とする炎症性疾患であり、性器潰瘍、皮膚病変、眼、神経、血管、関節、胃腸疾患など、様々な全身症状が現れます。

ベーチェット症候群の臨床症状のすべてではありませんが、その多くは血管炎に起因すると考えられています。全身性血管炎の中でも、ベーチェット症候群は、動脈側、静脈側のあらゆるサイズの血管(小、中、大)を侵すことが特徴です。

ベーチェット病の診断基準

1. 主要項目

(1)主症状

口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
皮膚症状
結節性紅斑様皮疹
皮下の血栓性静脈炎
毛嚢炎様皮疹、痤瘡様皮疹
参考所見:皮膚の被刺激性亢進
眼症状
虹彩毛様体炎
網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
以下の所見があれば(a)(b)に準じる
(a)(b)を経過したと思われる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆
外陰部潰瘍

(2)副症状

変形や硬直を伴わない関節炎
精巣上体炎(副睾丸炎)
回盲部潰瘍で代表される消化器病変
血管病変
中等度以上の中枢神経病変

(3)病型診断の基準

完全型:経過中に4主症状が出現したもの
不全型:
経過中に3主症状、あるいは2主症状と2副症状が出現したもの
経過中に定型的眼症状とその他の1主症状、あるいは2副症状が出現したもの
疑い:主症状の一部が出現するが、不全型の条件を満たさないもの、及び定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの
特殊病変:完全型または不全型の基準を満たし、下のいずれかの病変を伴う場合を特殊型と定義し、以下のように分類する。
腸管(型)ベーチェット病—内視鏡で病変(部位を含む)を確認する。
血管(型)ベーチェット病—動脈瘤、動脈閉塞、深部静脈血栓症、肺塞栓のいずれかを確認する。
神経(型)ベーチェット病—髄膜炎、脳幹脳炎など急激な炎症性病態を呈する急性型と体幹失調、精神症状が緩徐に進行する慢性進行型のいずれかを確認する。

2. 検査所見

参考となる検査所見(必須ではない)
皮膚の針反応の陰・陽性
20~22Gの比較的太い注射針を用いること
炎症反応
赤沈値の亢進、血清CRPの陽性化、末梢血白血球数の増加、補体価の上昇
HLA-B51の陽性(約60%)、A26(約30%)。
病理所見
急性期の結節性紅斑様皮疹では中隔性脂肪組織炎で浸潤細胞は多核白血球と単核球の浸潤による。初期に多核球が多いが、単核球の浸潤が中心で、いわゆるリンパ球性血管炎の像をとる。全身的血管炎の可能性を示唆する壊死性血管炎を伴うこともあるので、その有無をみる。
神経型の診断においては髄液検査における細胞増多、IL-6増加、MRIの画像所見(フレア画像での高信号域や脳幹の萎縮像)を参考とする。

3. 参考事項

主症状、副症状とも、非典型例は取り上げない。
皮膚症状の(a)(b)(c)はいずれでも多発すれば1項目でもよく、眼症状も(a)(b)どちらでもよい。
眼症状について
虹彩毛様体炎、網膜ぶどう膜炎を経過したことが確実である虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆は主症状として取り上げてよいが、病変の由来が不確実であれば参考所見とする。
副症状について
副症状には鑑別すべき対象疾患が非常に多いことに留意せねばならない(鑑別診断の項参照)。鑑別診断が不十分な場合は参考所見とする。
炎症反応の全くないものは、ベーチェット病として疑わしい。また、ベーチェット病では補体価の高値を伴うことが多いが、γグロブリンの著しい増量や、自己抗体陽性は、むしろ膠原病などを疑う。

ベーチェット病の原因とは?

ベーチェット病の根本的な原因は不明です。他の自己免疫疾患と同様に、この疾患は、遺伝的素因を持つ患者が、おそらく感染性の物質にさらされることによって引き起こされた異常な免疫活動であると考えられています。ベーチェット病の主な疾患メカニズムには以下のものがあります。(論文

  • 特定のヒト白血球抗原(HLA)や非HLA遺伝子との関連を含む遺伝的影響
  • 宿主の細菌や細菌に対する免疫応答の変化
  • 造血細胞および関連サイトカインの変化
  • 免疫複合体や自己抗体の存在
  • 血管内皮の活性化と血液凝固能の亢進

誘発因子としては、ウイルスや細菌の抗原、化学物質や重金属などの環境因子が考えられています。また、患部への直接感染は認められていませんが、その可能性もあります。他の自己免疫疾患とは異なり、喫煙はベーチェット症候群の発症の危険因子であることは示されていません。

ベーチェット病と遺伝

ベーチェット病の遺伝的要因は多遺伝子遺伝(多因子遺伝)であると考えられます。

HLA遺伝子

ベーチェット病を発症するリスクの増加は、特定のヒト白血球抗原、特にHLA-B51の存在と関連しています。
イタリア(オッズ比5.9)、ドイツ、シルクロード沿いの中東・極東諸国のベーチェット症候群患者では、HLA-B51がベースラインよりも高い有病率を示し(対照群では63%、9%)、イスラエルではHLA-B52(21%、9%)、英国ではHLA-B57との関係が報告されています。シルクロード沿いの患者では、HLA-B5101と、程度の差はあるもののHLA-5108の対立遺伝子が最も密接に関連していることがわかっています。その他のHLA対立遺伝子は、様々な集団や男女において、ベーチェット症候群のリスクを増加(HLA-B15、HLA-B27、HLA-B57、HLA-26)または減少(HLA-B49、HLA-A03)させる可能性がある。しかし、HLAの寄与率は20%以下と推定されている。

疾患の重症度には、遺伝的な要因が寄与する可能性があり、HLA-B51対立遺伝子の存在は、いくつかの研究で疾患の悪化と関連している。

HLA-B51とベーチェット病の遺伝的関連性

HLA-B51とベーチェット病の遺伝的関連性については、いくつかの可能性が示唆されています。

HLA-B51が適合する抗原結合溝のBポケットの変化が、ベーチェット症候群関連ペプチドが結合するかどうかを決定し、ベーチェット症候群の活動に寄与している可能性があります。また、HLA-B51と臓器特異的抗原との間に交差反応が存在する可能性も報告されています。

ベーチェット症候群のほとんどの症例は散発性ですが、家族性クラスタリングと呼ばれる複数の罹患者を持つ家族が報告されており、第一度近親(親子、兄弟:遺伝的に半分を共有する関係)にベーチェット病の患者がいることは、この病気のリスクを高めることになります。HLA-B51の割合は、散発例よりも家族性の方が高い。ベーチェット症候群の患者の患児は、発症年齢が早いことがあり、これはgenetic anticipation(表現促進現象)と呼ばれる現象です。この特性は、多くの遺伝性疾患において、世代を重ねるごとにヌクレオチドの反復回数が増加することと関連しています。例えば,ベーチェット病では,日本の77人の患者を対象としたある研究において主要組織適合性複合体MHC)クラスI関連遺伝子内に見出された(GCT)nの3連反復マイクロサテライト多型がベーチェット症候群と関連していることが明らかになっています

主要組織適合性複合体クラスI鎖関連遺伝子A(MICA)A6アリルがベーチェット症候群に対する感受性の増加と関連することが示されています。

ベーチェット病の患者では、HLA-B51陽性は、小胞体アミノペプチダーゼ1(ERAP1)の低活性変異体であるHAP10と関連している。小胞体アミノペプチダーゼは、小胞体内でペプチドをトリミングし、クラスI主要組織適合性複合体へのペプチドのローディングを促進する。HAP10を用いた細胞研究では、より長いペプチドが生成され、その結果としてペプチドームに変化が生じ、これが免疫活動を刺激するように作用することが示されている。ERAP1とERAP2をノックアウトしたトランスフェクタントHLAB51:01細胞を用いた研究では、HLA-B51のペプチドームに変化が見られており、ベーチェット症候群では、ERAP1遺伝子の多型が報告されている。

非HLA遺伝子

HLA遺伝子ではない遺伝子たちもまた、疾患に対する感受性を決定する役割を果たしている。複数の罹患者がいる罹患家族のゲノムワイドスクリーニングにより、潜在的に関心のある非HLA領域がさらに特定されている。以下の遺伝子たちはベーチェット症候群との関連が示唆されています。

細胞間接着分子(ICAM)-1遺伝子、内皮一酸化窒素合成酵素遺伝子、TNF遺伝子、血管内皮成長因子(VEGF)遺伝子、マンガンスーパーオキシドディスムターゼ遺伝子、シトクロムP450遺伝子、インターロイキン(IL)-10遺伝子、IL-23受容体遺伝子などの多型。

好中球の表面に発現するタンパク質ピリンをコードする家族性地中海熱(MEFV)遺伝子のミセンス変異

ベーチェット病と妊娠中の女性

多くのベーチェット症候群患者では、妊娠中に疾患活動性が低下することが示唆されていますが、ベーチェット症候群患者では、ベーチェット症候群を持たないマッチドコントロールと比較して、合併症のリスクが高くなる可能性があります。
ベーチェット症候群患者では、妊娠の36%が再燃を伴い、患者1人当たりの年間再燃発生率は、妊娠中は妊娠前または妊娠後に比べて約3倍低かった。

妊娠合併症の発生率は全体で16%でした。合併症には、流産、帝王切開、HELLP症候群(溶血、肝酵素の上昇、血小板数の低下)、免疫性血小板減少症などがありました。合併症は深部静脈血栓症の既往歴のある患者に多く見られました。

ベーチェット症候群の患者では、コントロールと比較して、流産、妊娠合併症、帝王切開の発生率が高いことが示されています。ベーチェット症候群の女性においては流産が24.2%、子宮内死亡が3%、早産が24%と報告されています。

まとめ

ベーチェット病と遺伝についてお書きしましたが、ベーチェット病の原因は一つの遺伝子ではなく、多くの遺伝子がかかわって、環境要因なども加味されて発症する多因子遺伝と考えられていますので、第一度近親にあたるお子様は非ベーチェット病の母体から生まれるお子様と比べるとリスクは高くなりますが、その他の要因も合わさって発症するため、あまり心配しなくてもよいのかな、と考えます。
今回のご相談事例は10年前に診断された不完全型ベーチェット病であり、その後の疾患活動性も低い(たまに口内炎が出る程度)だと伺っていますので、あまり心配しないほうがいいのかなと思います。心配しすぎると精神敵にストレスがかかり、こうした疾患とストレスの関係もよく示されていることから、おおらかなお気持ちで妊娠期間を過ごされたほうがよろしいかと思います。
元気に残りの妊婦生活頑張ってくださいね!
調べ物に手間取ったのでお返事遅れてごめんなさい。催促もいただいてたようで、お待たせして申し訳ありませんでした。

このパージをご覧になって、産婦人科べースではない「臨床遺伝専門医」による遺伝相談を受けてよかったなとかんじていただけたら嬉しいです。内科ベースの臨床遺伝専門医はこうした幅広い疾患のご相談も承れるのが大きな特徴だと思っています。また何かありましたらお気軽にご相談くださいませ。

ミネルバクリニック院長 仲田洋美 拝

東京の「ミネルバクリニック」では、女性遺伝専門医が国内唯一となる最新悦のNIPT技術を駆使した豊富な検査メニューをご提供しています。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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