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全ゲノムシークエンス

全ゲノムシークエンス(whole genom sequencing)とは

Whole Genome Sequencing(WGS: 全ゲノムシーケンス)とは、DNA全体の塩基配列(約30億塩基対)を網羅的に解析する技術です。ゲノム全体を対象に、すべての遺伝子領域(エクソン、イントロン、調節領域など)を含むDNAの完全な配列情報を取得します。

WGSの主な特徴と仕組み

対象範囲:
エクソン(タンパク質をコードする領域)
イントロン(非コード領域)
調節領域(遺伝子発現を制御する領域)
ミトコンドリアDNAやその他の構造変異領域
解析ステップ:
サンプル準備: DNAを抽出し、ライブラリを作成。
シーケンシング: 次世代シーケンシング(NGS)技術を使用し、DNA配列を読み取る。
データ解析: バイオインフォマティクスツールで配列をマッピングし、遺伝的な変異(SNVs、CNVs、構造異常など)を検出。
WGSの主な応用分野
●医療分野:
遺伝性疾患の診断(例: がん、希少疾患)
個別化医療の開発(治療効果や副作用の予測)
出生前診断(NIPTなど)
●研究分野:
疾患原因の特定
新しい遺伝子の発見
進化生物学や集団遺伝学の研究
●法医学・犯罪捜査:
身元確認や犯罪現場の証拠解析

WGSの利点と限界

利点
網羅性: 全ゲノムを対象とするため、すべての遺伝的変異を検出可能。
汎用性: 希少疾患からがん研究、集団遺伝学まで幅広い分野に応用可能。
精度の向上: 高度な解析ツールを用いることで、複雑な変異も検出できる。
限界
コスト: 高度な技術と計算リソースが必要。
データ管理: 大規模なデータ量の保存と解析が不可欠。
解釈の難しさ: 一部の遺伝的変異の機能的な影響はまだ不明。

WGSと他のシーケンシング手法との違い

手法 対象範囲 主な用途 コストと時間
Whole Genome Sequencing (WGS) ゲノム全体 (全塩基配列) 網羅的な変異解析、研究用 高い
Whole Exome Sequencing (WES) エクソン領域のみ 遺伝性疾患の診断 中程度
Targeted Gene Panel 特定の遺伝子群 疾患特異的な診断 低い

WGSは、ゲノム全体の塩基配列情報を提供することで、これまで不明だった遺伝的要因の解明を可能にし、医療や研究の未来を切り開く重要な技術です。

検査の詳細

結果が出るまでの期間

5~7週間

費用

935,000(税込)

遺伝カウンセリング料金はおひとり様別途16,500円(税込)。検査を受けなくても遺伝カウンセリング料金は診察料ですのでお支払いください。 

遺伝子検査の結果は、DNA配列の変異や遺伝的な異常の有無を示す複雑な情報が含まれており、その解釈には高度な専門知識が求められます。例えば、遺伝子の変異が必ずしも疾患を引き起こすわけではなく、病気のリスクを高める「病原性変異」や影響が不明な「意義不明な変異(VUS: Variant of Uncertain Significance)」として分類される場合もあります。こうした分類や疾患との関連性を理解し、臨床的な意義を判断するためには、最新の研究データや専門的な解析手法が必要です。
ミネルバクリニックの検査では、米国の信頼ある大手遺伝子検査機関が結果の解析と評価を行い、最新の遺伝学的知見に基づいた高精度な解釈をご提供します。

サンプル

血液(EDTA tubes, lavender top2本)、抽出DNA(3ug in EB buffer)、口腔粘膜、唾液

検査の限界

Whole Genomeは表現型主導型の検査であり、トリオ分析が推奨されます。Whole Genomeのすべての注文には、家族歴および臨床情報が必須となります。表現型と一致しない偶発的または二次的所見は、通常は報告されません。すべてのシーケンス技術には限界があります。この分析は、非コード領域およびコード領域の検査用に設計されています。検査会社のバイオインフォマティクス解析により、偽遺伝子配列や他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらの配列が、シーケンス解析および欠失/重複解析の両方において、アッセイの技術的能力を妨害することがまれに起こる可能性があります。 低品質スコアのバリアントの確認とカバレッジ基準の達成には、サンガーシークエンシングが使用されます。このアッセイでは、転座や逆位、およびほとんどの反復配列の拡大(トリヌクレオチドやヘキサヌクレオチドなど)など、特定の疾患の原因となる可能性があるゲノム変異を検出できない場合があります。このアッセイは、体細胞モザイクや体細胞変異の検出用に設計または検証されたものではありません。

遺伝子 備考
AFF2 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。特に記載がない限り、この遺伝子の配列変異とコピー数変化のみを検査します。
ALG1 高い相同性を持つ領域の干渉により、ALG1遺伝子(NM_019109.4)のエクソン6〜13における変異の検出感度が低下します。
CD40LG 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
DIP2B 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
DUOX2 高い相同性を持つDUOX1遺伝子の干渉により、DUOX2遺伝子(NM_014080.5)のエクソン6〜8における変異の検出が困難です。
GALNT12 GC含量が高いため、GALNT12遺伝子(NM_024642.4)のエクソン1に位置するコピー数変異は信頼性を持って検出できないため、報告されません。
IL11RA 現在の検査方法では、この遺伝子の反復拡大を評価しません。
MSH2 MSH2遺伝子のエクソン1〜7の反転(「Boland」反転)は、リンチ症候群、大腸、子宮内膜、および前立腺がんパネル検査で評価されますが、他のがんパネルでは特に指定がない限り実施されません。
MTHFR ACMGの推奨に基づき、MTHFR遺伝子の2つの一般的な多型(c.1286A>Cおよびc.665C>T)は臨床的有用性が不十分なため報告されません。
PIK3CA PIK3CAの病原性変異は主に接合後に発生し、モザイク型であるため、複数の組織検査が必要になる場合があります。
RPGR RPGR遺伝子(NM_001034853.1)の「ORF15」領域における病原性変異の大部分を検出可能ですが、この領域の一部は現在の検査方法では完全な変異除外が困難です。
RUNX2 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
SMN2 SMN2遺伝子(NM_017411.3)のエクソン7〜8に対する配列解析と欠失/重複解析は、SMN1に診断的変異が見つかった場合に限り実施されます。
SOX3 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
TPRN TPRN遺伝子のエクソン1は現在のシーケンシング方法では解析が困難なため、配列解析および欠失/重複解析は行われません。
ZIC2 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
ZIC3 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。

希少疾患患者の診断におけるWhole Genome Sequencing (WGS)の有用性

Whole Genome Sequencing(WGS)は、DNAの全塩基配列(約30億塩基対)を解析し、希少疾患の診断において極めて重要な役割を果たしています。希少疾患は一般的に発見が難しく、診断が遅れがちですが、WGSを活用することで、早期かつ正確な診断が可能になります。

WGSの診断的メリット

1. すべての遺伝的変異の検出
SNVs(単一塩基変異): 病気を引き起こす点変異を網羅的に検出。
CNVs(コピー数変異): 大きな欠失や重複の有無を確認。
構造変異: 染色体の異常や遺伝子の再編成を特定。
イントロン・調節領域の変異: 非コード領域の変異も含め、全ゲノムを対象に異常の検出が可能。
2. 未知の疾患原因の発見
従来の検査で特定されなかった新規遺伝子変異の発見が可能です。希少疾患の多くはまだ十分に研究されておらず、WGSによって初めて原因が解明される場合もあります。
3. 複数の疾患の同時診断
一度の検査で、異なる疾患や複数の遺伝子に関連する変異を網羅的に調査でき、個別に検査する必要がありません。
4. 疾患の遺伝的リスク評価と家族内の遺伝子解析
家族歴がある場合、WGSによって家族内のリスク評価が可能です。保因者スクリーニングも行えるため、将来的な家族計画に役立ちます。

臨床現場での応用例

発達遅延・知的障害の診断:
小児の不明な発達遅延の原因特定にWGSは重要。多遺伝子疾患の可能性も網羅的に調査します。
遺伝性がんのリスク評価:
遺伝性のがんリスクを示す変異を広範に評価し、予防や早期治療に貢献します。
希少疾患の迅速診断:
従来の方法では数年間かかる診断が、WGSを使うことで数週間から数か月で診断可能。
免疫異常や代謝異常の解明:
難治性疾患の多くは、複雑な免疫系や代謝経路に関連し、WGSで根本的な原因解明が進みます。

診断精度の向上と患者ケアへの影響

早期診断: 遺伝子変異の特定により治療の選択肢が広がり、患者ケアの質が向上します。
個別化医療: 患者ごとの遺伝的特徴に基づいて、最適な治療戦略が計画されます。
生活の質の向上: 適切な診断と治療により、希少疾患患者の生活の質を大きく向上させることができます。

課題と今後の展望

課題:
データ解析の複雑さと膨大な計算リソースが必要。
未知の変異の解釈が難しい場合もある。
遺伝情報のプライバシーと倫理的問題の対処が必要。
今後の展望:
バイオインフォマティクス技術の進化により、データ解析が迅速かつ精密になる。
大規模なデータベースの整備により、変異の臨床的解釈が進む。
WGSのコストが下がることで、一般的な医療現場でも利用可能になる。

WGSは、希少疾患患者にとって画期的な診断ツールとして注目されており、迅速かつ正確な診断を通じて治療や管理の可能性を広げ、患者の未来を切り開く重要な技術です。

ミネルバクリニックでは患者さまへ正しい情報をお届けするために、
発達障害・学習障害・知的障害に関する様々な情報を公開しています。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら