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全ゲノムシークエンス|ミネルバクリニック

全ゲノムシークエンス|ミネルバクリニック

全ゲノムシークエンスとは

Whole Genome Sequencing(WGS: 全ゲノムシーケンス)とは、DNA全体の塩基配列(約30億塩基対)を網羅的に解析する技術です。ゲノム全体を対象に、すべての遺伝子領域(エクソン、イントロン、調節領域など)を含むDNAの完全な配列情報を取得します。

全ゲノムシークエンスは、希少疾患や遺伝性疾患の診断において最も包括的な遺伝子検査手法です。従来の検査では見つけることができなかった遺伝的変異を発見できる可能性があり、診断率の向上に大きく貢献します。

全ゲノムシークエンスは、特定の遺伝子だけを調べる単一遺伝子検査や、タンパク質をコードする領域のみを解析する全エクソーム解析(WES)とは異なり、ゲノム全体の情報を取得できることが最大の特徴です。これにより、これまで診断がつかなかった希少疾患の原因を明らかにできる可能性が高まります。

WGSの主な特徴と仕組み

対象範囲

  • エクソン(タンパク質をコードする領域)
  • イントロン(非コード領域)
  • 調節領域(遺伝子発現を制御する領域)
  • ミトコンドリアDNAやその他の構造変異領域

解析ステップ

サンプル準備:DNAを抽出し、ライブラリを作成します。

シーケンシング:次世代シーケンシング(NGS)技術を使用し、DNA配列を読み取ります。高速かつ高精度で大量の配列情報を取得します。

データ解析:バイオインフォマティクスツールで配列をマッピングし、遺伝的な変異(SNVs:一塩基変異、CNVs:コピー数変異、構造異常など)を検出します。得られた膨大なデータから、疾患に関連する変異を同定します。

WGSの主な応用分野

医療分野

  • 遺伝性疾患の診断(希少疾患、発達遅延、知的障害など)
  • がんの遺伝的リスク評価と治療選択
  • 個別化医療の開発(治療効果や副作用の予測)
  • 出生前診断や新生児スクリーニング

研究分野

  • 疾患原因の特定
  • 新しい遺伝子の発見
  • 進化生物学や集団遺伝学の研究
  • 薬剤反応性の研究

法医学・犯罪捜査

身元確認や犯罪現場の証拠解析にも活用されています。

WGSの利点と限界

利点

  • 網羅性:全ゲノムを対象とするため、すべての遺伝的変異を検出可能
  • 汎用性:希少疾患からがん研究、集団遺伝学まで幅広い分野に応用可能
  • 精度の向上:高度な解析ツールを用いることで、複雑な変異も検出できる
  • 診断率の向上:従来の検査では見つからなかった原因を発見できる可能性
  • 構造変異の検出:エクソーム解析では見つけにくい大きなゲノム変異も検出可能

限界

  • コスト:高度な技術と計算リソースが必要
  • データ管理:大規模なデータ量の保存と解析が不可欠
  • 解釈の難しさ:一部の遺伝的変異の機能的な影響はまだ不明
  • 偶発的所見:予期しない遺伝情報が見つかる可能性がある
  • 専門的知識の必要性:結果の解釈には高度な専門知識が必要

他のシーケンシング手法との違い

手法 対象範囲 主な用途 コストと時間
Whole Genome Sequencing (WGS) ゲノム全体 (全塩基配列) 網羅的な変異解析、研究用、希少疾患診断 高い
Whole Exome Sequencing (WES) エクソン領域のみ 遺伝性疾患の診断 中程度
Targeted Gene Panel 特定の遺伝子群 疾患特異的な診断 低い

WGSは、ゲノム全体の塩基配列情報を提供することで、これまで不明だった遺伝的要因の解明を可能にし、医療や研究の未来を切り開く重要な技術です。

対象遺伝子

詳しくはこちら

全ゲノムシークエンスでは、ヒトゲノム上のすべての遺伝子(約22,000個の遺伝子)を対象として解析します。

主要な遺伝子カテゴリー:

・タンパク質コード遺伝子:

約20,000個の遺伝子が含まれ、体の構造や機能に関わるタンパク質をコードします。

・非コードRNA遺伝子:

タンパク質に翻訳されないRNA分子をコードする遺伝子で、遺伝子発現の調節などに関与します。

・調節領域:

プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど、遺伝子の発現を制御する領域も解析対象に含まれます。

・イントロン領域:

スプライシング部位の変異など、遺伝子発現に影響を与える可能性のある領域も検出できます。

・構造変異領域:

大きな欠失、重複、逆位、転座などの染色体レベルの変化も検出可能です。

・ミトコンドリアDNA:

ミトコンドリア由来の遺伝子(37個)も解析対象に含まれます。

※具体的な遺伝子リストについては、全ゲノムシークエンスではゲノム全体が対象となるため、約22,392個の遺伝子すべてが含まれます。

検査内容

全ゲノムシークエンスでは、患者さんのDNA全体(約30億塩基対)を解析し、遺伝的変異を網羅的に検出します。この検査は、原因不明の症状や診断困難な希少疾患に対して、最も包括的な遺伝学的評価を提供します。

全ゲノムシークエンスは、以下のような遺伝的変異を検出することができます:

  • 単一塩基変異(SNVs):遺伝子配列中の1つの塩基が変化したもの
  • 小さな挿入・欠失(Indels):数塩基から数十塩基の挿入または欠失
  • コピー数変異(CNVs):ゲノム領域の重複または欠失
  • 構造変異:大きな染色体の再編成、転座、逆位など
  • イントロン領域の変異:スプライシング異常を引き起こす可能性のある変異
  • 調節領域の変異:遺伝子発現に影響を与える可能性のある変異

どんな人が受けたらいいの?

全ゲノムシークエンスは、以下のような方に適しています:

【診断困難な希少疾患の方】

・複数の専門医を受診しても診断がつかない方

・複数の臓器にわたる複雑な症状がある方

・既存の遺伝子検査(パネル検査、エクソーム解析など)で原因が見つからなかった方

【小児の発達遅延・知的障害】

・原因不明の発達遅延がある小児

・複数の先天異常を伴う場合

・染色体検査で異常が見つからなかった場合

【神経筋疾患】

・原因不明の筋力低下や神経症状がある方

・複数の神経学的症状が組み合わさっている方

【遺伝性代謝異常症】

・生化学検査で異常があるが原因遺伝子が特定できない方

・複数の臓器に代謝異常の症状がある方

【遺伝性がんの疑い】

・家族に複数のがん患者がいる方

・既存のがん関連遺伝子パネルで原因が見つからなかった方

【家族計画を考えている方】

・遺伝性疾患の保因者であることが分かっている方

・将来子どもを持つことを考えている方で、リスク評価を希望される方

この検査は、血液、抽出DNA、口腔粘膜、唾液検体で実施可能です。

検査で得られる患者さんの潜在的利益は?

全ゲノムシークエンスにより原因が判明すると、希少疾患や遺伝性疾患の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。

遺伝子検査により以下の利益が期待できます:

・長年の診断の旅(diagnostic odyssey)の終結

・適切な診断の確立または確認

・他の疾患との正確な鑑別

・適切な治療法や管理方針の選択

・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案

・合併症のリスク評価と早期発見

・追加の関連症状のリスクの特定

・関連リソースやサポートへの患者の接続

・より個別化された治療と症状管理

・家族の危険因子に関する情報提供

・家族計画のためのオプション提供

・出生前・着床前診断の選択肢提供

・研究参加や臨床試験への参加機会

患者さんで病原性変異が同定された場合、遺伝形式に応じて家族の発症リスクが異なります。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。

検体

血液(EDTAチューブ、紫色キャップ2本)、抽出DNA(3μg in EBバッファー)、口腔粘膜、唾液

※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。

 ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。

 血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。

 オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。

 検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。

検査の限界

詳しくはこちら

Whole Genomeは表現型主導型の検査です。すべての注文には、家族歴および臨床情報が必須となります。表現型と一致しない偶発的または二次的所見は、通常は報告されません。

すべてのシーケンス技術には限界があります。この分析は、非コード領域およびコード領域の検査用に設計されています。当院のバイオインフォマティクス解析により、偽遺伝子配列や他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらの配列が、シーケンス解析および欠失/重複解析の両方において、アッセイの技術的能力を妨害することがまれに起こる可能性があります。

低品質スコアのバリアントの確認とカバレッジ基準の達成には、サンガーシークエンシングが使用されます。

このアッセイでは、転座や逆位、およびほとんどの反復配列の拡大(トリヌクレオチドやヘキサヌクレオチドなど)など、特定の疾患の原因となる可能性があるゲノム変異を検出できない場合があります。

このアッセイは、体細胞モザイクや体細胞変異の検出用に設計または検証されたものではありません。

特定遺伝子の制限事項:

遺伝子 制限事項
AFF2 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。特に記載がない限り、この遺伝子の配列変異とコピー数変化のみを検査します。
ALG1 高い相同性を持つ領域の干渉により、ALG1遺伝子(NM_019109.4)のエクソン6〜13における変異の検出感度が低下します。
CD40LG 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
DIP2B 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
DUOX2 高い相同性を持つDUOX1遺伝子の干渉により、DUOX2遺伝子(NM_014080.5)のエクソン6〜8における変異の検出が困難です。
GALNT12 GC含量が高いため、GALNT12遺伝子(NM_024642.4)のエクソン1に位置するコピー数変異は信頼性を持って検出できないため、報告されません。
IL11RA 現在の検査方法では、この遺伝子の反復拡大を評価しません。
MSH2 MSH2遺伝子のエクソン1〜7の反転(「Boland」反転)は、リンチ症候群関連検査で評価されますが、他の検査では特に指定がない限り実施されません。
MTHFR ACMGの推奨に基づき、MTHFR遺伝子の2つの一般的な多型(c.1286A>Cおよびc.665C>T)は臨床的有用性が不十分なため報告されません。
PIK3CA PIK3CAの病原性変異は主に接合後に発生し、モザイク型であるため、複数の組織検査が必要になる場合があります。
RPGR RPGR遺伝子(NM_001034853.1)の「ORF15」領域における病原性変異の大部分を検出可能ですが、この領域の一部は現在の検査方法では完全な変異除外が困難です。
RUNX2 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
SMN2 SMN2遺伝子(NM_017411.3)のエクソン7〜8に対する配列解析と欠失/重複解析は、SMN1に診断的変異が見つかった場合に限り実施されます。
SOX3 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
TPRN TPRN遺伝子のエクソン1は現在のシーケンシング方法では解析が困難なため、配列解析および欠失/重複解析は行われません。
ZIC2 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。
ZIC3 現在の検査方法では、この遺伝子の三塩基反復拡大を評価しません。

希少疾患患者の診断におけるWhole Genome Sequencing (WGS)の有用性

Whole Genome Sequencing(WGS)は、DNAの全塩基配列(約30億塩基対)を解析し、希少疾患の診断において極めて重要な役割を果たしています。希少疾患は一般的に発見が難しく、診断が遅れがちですが、WGSを活用することで、早期かつ正確な診断が可能になります。

WGSの診断的メリット

1. すべての遺伝的変異の検出

  • SNVs(単一塩基変異): 病気を引き起こす点変異を網羅的に検出
  • CNVs(コピー数変異): 大きな欠失や重複の有無を確認
  • 構造変異: 染色体の異常や遺伝子の再編成を特定
  • イントロン・調節領域の変異: 非コード領域の変異も含め、全ゲノムを対象に異常の検出が可能

2. 未知の疾患原因の発見

従来の検査で特定されなかった新規遺伝子変異の発見が可能です。希少疾患の多くはまだ十分に研究されておらず、WGSによって初めて原因が解明される場合もあります。

3. 複数の疾患の同時診断

一度の検査で、異なる疾患や複数の遺伝子に関連する変異を網羅的に調査でき、個別に検査する必要がありません。

4. 疾患の遺伝的リスク評価と家族内の遺伝子解析

家族歴がある場合、WGSによって家族内のリスク評価が可能です。保因者スクリーニングも行えるため、将来的な家族計画に役立ちます。

臨床現場での応用例

発達遅延・知的障害の診断:

小児の不明な発達遅延の原因特定にWGSは重要。多遺伝子疾患の可能性も網羅的に調査します。

遺伝性がんのリスク評価:

遺伝性のがんリスクを示す変異を広範に評価し、予防や早期治療に貢献します。

希少疾患の迅速診断:

従来の方法では数年間かかる診断が、WGSを使うことで数週間から数か月で診断可能。

免疫異常や代謝異常の解明:

難治性疾患の多くは、複雑な免疫系や代謝経路に関連し、WGSで根本的な原因解明が進みます。

診断精度の向上と患者ケアへの影響

  • 早期診断:遺伝子変異の特定により治療の選択肢が広がり、患者ケアの質が向上します
  • 個別化医療:患者ごとの遺伝的特徴に基づいて、最適な治療戦略が計画されます
  • 生活の質の向上:適切な診断と治療により、希少疾患患者の生活の質を大きく向上させることができます

課題と今後の展望

課題:

  • データ解析の複雑さと膨大な計算リソースが必要
  • 未知の変異の解釈が難しい場合もある
  • 遺伝情報のプライバシーと倫理的問題の対処が必要

今後の展望:

  • バイオインフォマティクス技術の進化により、データ解析が迅速かつ精密になる
  • 大規模なデータベースの整備により、変異の臨床的解釈が進む
  • WGSのコストが下がることで、一般的な医療現場でも利用可能になる

WGSは、希少疾患患者にとって画期的な診断ツールとして注目されており、迅速かつ正確な診断を通じて治療や管理の可能性を広げ、患者の未来を切り開く重要な技術です。

米国遺伝子検査ガイドラインに基づく報告制限について

全ゲノム解析(WGS)を実施する際、米国医学遺伝学会(ACMG)のガイドラインに従って、以下の重要な制限があることをご理解ください。

主要な報告制限

1. 臨床症状と関係のない遺伝子所見について

・検査目的(臨床症状)と関係のない遺伝子変異については、原則として報告できません

・これは、検査の本来の目的から逸脱した所見の報告を制限するガイドラインに基づくものです

2. 偶発的所見(Secondary Findings)の報告について

・報告可能な偶発的所見は、ACMG SF v3.3に記載された84個の「actionable(治療・予防可能)」な遺伝子のみに限定されます

・これらの遺伝子は、医学的介入により病気の発症や重症度を軽減できる可能性がある疾患に関連するもののみです

ACMG偶発的所見リストの詳細

現在のガイドラインでは:

ACMG SF v3.3(2025年版)として84個の遺伝子が指定されています

毎年更新される最小限のリストとして維持されています

病原性変異(P/LP variants)のみが報告対象となり、意義不明変異(VUS)は報告されません

対象となる主な疾患カテゴリー

ACMG偶発的所見リストには以下の疾患群が含まれます:

心血管疾患(遺伝性心筋症、不整脈疾患等)

遺伝性がん症候群(乳がん・卵巣がん症候群、リンチ症候群等)

代謝性疾患

その他の治療・予防可能な遺伝性疾患

患者様へのお願い

偶発的所見の報告を希望される場合:

・事前に偶発的所見報告への同意(オプトイン)が必要です

・検査前カウンセリングにて詳細をご説明いたします

・意義不明変異については報告されないことをご理解ください


参考文献

  1. Lee K, et al. ACMG SF v3.3 list for reporting of secondary findings in clinical exome and genome sequencing: A policy statement of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genetics in Medicine. 2025; PMID: 40568962
  2. Miller DT, et al. ACMG SF v3.2 list for reporting of secondary findings in clinical exome and genome sequencing: A policy statement of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genetics in Medicine. 2023;25(8):100866. PMID: 37347242
  3. Clinical Genome Resource (ClinGen). ACMG SF Genes. Available at: search.clinicalgenome.org/kb/genes/acmgsf

本注意事項は、American College of Medical Genetics and Genomics(ACMG)の最新ガイドライン(2025年)に基づいて作成されています。ガイドラインは定期的に更新されるため、最新の情報については検査前カウンセリングにてご確認ください。

全ゲノム検査や全エクソーム検査とパネル検査の違い

全ゲノム検査や全エクソーム検査でパネル検査をカバーできない理由

全ゲノムシーケンス(WGS)や全エクソームシーケンス(WES)は網羅的な検査ですが、保因者検査等のパネル検査の代わりにはなりません。これは検査の目的と設計が根本的に異なるためです。

目的と設計の違い

項目 全ゲノム検査(WGS)/

全エクソーム検査(WES)

パネル検査(保因者検査等)
対象者 すでに症状がある人 健康な人(症状なし)
主な目的 病気の原因診断 将来の子どもへのリスク評価
検査戦略 浅く広く(約30×カバレッジ) 深く確実に(高カバレッジ)
解析アプローチ 症状(表現型)から関連遺伝子を

重点的に解析

すべての対象遺伝子を

均等に網羅的に解析

検出対象 未知の変異も含む全ゲノム/全エクソーム 数百の遺伝性疾患

(劣性・優性・X連鎖)の既知変異

なぜ「大は小を兼ねない」のか

1. 解析の優先順位が異なる
全ゲノム検査や全エクソーム検査は、診断がつかない場合に症状(表現型)から関係ありそうな遺伝子を重点的に調べていきます。すべての遺伝子を同じ興味をもって調べるわけではありません。一方、パネル検査は対象となるすべての遺伝子を均等に、かつ徹底的に解析する設計になっています。
2. 読み取り深度の違い
全ゲノム検査や全エクソーム検査は約30倍のカバレッジで読みますが、パネル検査は重要な遺伝子領域を100倍以上の深さで読み取ります。この深い読み取りにより、保因者の変異を確実に検出できます。
3. 検査設計の違い
パネル検査は数百の遺伝性疾患(劣性遺伝病・優性遺伝病・X連鎖疾患)に特化し、それぞれの疾患で既知の病的変異を網羅的にカバーするよう設計されています。全ゲノム検査や全エクソーム検査はこのような特化した設計ではありません。
4. 検出感度の違い
全ゲノム検査や全エクソーム検査の浅いカバレッジでは、保因者が持つ重要な変異を見逃すリスクが高くなります。パネル検査の高い検出感度は、将来の家族計画において重要です。

重要なポイント: 全ゲノム検査や全エクソーム検査は診断のための強力なツールですが、表現型主導で特定の遺伝子を重点的に調べる検査であり、浅く広く読む検査です。そのため、パネル検査で必要とされる確実な検出はできません。将来の妊娠を計画される場合や家族性の遺伝病が心配な場合は、専用のパネル検査の受検をお勧めします。

保因者検査等のパネル検査について詳しく見る

結果が出るまでの期間

5~7週間

料金

税込み935,000円

遺伝カウンセリング料金は別途おひとり様16,500円(税込)

※検査を受けなくても遺伝カウンセリング料金は診察料ですのでお支払いください。

遺伝子検査の結果は、DNA配列の変異や遺伝的な異常の有無を示す複雑な情報が含まれており、その解釈には高度な専門知識が求められます。例えば、遺伝子の変異が必ずしも疾患を引き起こすわけではなく、病気のリスクを高める「病原性変異」や影響が不明な「意義不明な変異(VUS: Variant of Uncertain Significance)」として分類される場合もあります。こうした分類や疾患との関連性を理解し、臨床的な意義を判断するためには、最新の研究データや専門的な解析手法が必要です。

よくあるご質問

全ゲノムシークエンスと全エクソーム解析の違いは何ですか?
全ゲノムシークエンス(WGS)はDNA全体(約30億塩基対)を解析するのに対し、全エクソーム解析(WES)はタンパク質をコードするエクソン領域のみ(全ゲノムの約2%)を解析します。WGSの方がより包括的で、イントロン領域や調節領域の変異、構造変異なども検出できるため、診断率が高くなります。ただし、費用と解析時間はWGSの方が高くなります。
どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
複数の専門医を受診しても診断がつかない希少疾患、原因不明の発達遅延や知的障害、複数の臓器にわたる複雑な症状がある場合に推奨されます。また、既存の遺伝子パネル検査や全エクソーム解析で原因が見つからなかった場合にも有用です。
検査はどのように行いますか?
血液採取(紫色キャップのEDTAチューブ2本)または唾液・口腔粘膜スワブで検査可能です。唾液や口腔粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
家族も検査を受ける必要がありますか?
患者さんで病原性変異が同定された場合、遺伝形式によってご家族の発症リスクが異なります。適切なリスク評価のため、ご家族の検査も推奨される場合があります。遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
全ゲノムシークエンスは最も包括的な検査ですが、現在の医学では解釈できない変異や、まだ発見されていない疾患原因遺伝子が存在する可能性があります。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。臨床症状に基づいた診断と管理が引き続き重要です。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み935,000円、別途遺伝カウンセリング料金(おひとり様16,500円)が必要です。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。複雑な遺伝情報を理解していただくため、十分な時間をかけてご説明いたします。
偶発的所見とは何ですか?
偶発的所見(Secondary Findings)とは、検査の本来の目的とは関係のない遺伝子変異が見つかることです。全ゲノムシークエンスでは、ACMG SF v3.3に記載された84個の治療・予防可能な遺伝子の病原性変異のみが報告されます。これらは遺伝性がんや心血管疾患など、医学的介入により予防や早期治療が可能な疾患に関連する遺伝子です。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
遺伝形式によって子どもへの影響が異なります。病原性変異が見つかった場合、検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
全ゲノムシークエンスとパネル検査の違いは何ですか?
パネル検査は特定の疾患に関連する限られた遺伝子のみを調べるのに対し、全ゲノムシークエンスはゲノム全体を解析します。パネル検査で原因が見つからなかった場合や、複雑な症状で診断が困難な場合に全ゲノムシークエンスが推奨されます。ただし、全ゲノムシークエンスは浅く広く読む検査であるため、特定の疾患のスクリーニング(保因者検査など)には適していません。
検査結果はどのくらいの期間保存されますか?
検査結果およびデータは適切に管理され、長期間保存されます。将来的に新しい遺伝子や疾患との関連が発見された場合、既存のデータを再解析することで追加の情報が得られる可能性があります。
他の医療機関での検査との違いは何ですか?
当院では臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。また、オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。検査前後のサポート体制が充実しているのも特徴です。


プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら