血栓性微小血管症(TMA)遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック
血栓性微小血管症(TMA)とは
血栓性微小血管症(Thrombotic Microangiopathy: TMA)は、全身の細い血管(毛細血管や細動脈)に血小板を主体とした血栓が形成され、その結果として血小板減少、溶血性貧血、臓器障害を引き起こす重篤な疾患群の総称です。血栓により血管が閉塞することで、特に腎臓、脳、心臓などの重要臓器に虚血性障害をもたらします。
TMAには複数の病型が含まれ、それぞれ原因や発症メカニズムが異なります。主要な病型として血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)があり、いずれも早期診断と適切な治療が予後を大きく左右する緊急性の高い疾患です。
TMAの三大徴候は以下の通りです:
1. 微小血管障害性溶血性貧血(血管内で赤血球が機械的に破壊される)
2. 血小板減少(血小板が血栓形成に消費される)
3. 臓器障害(特に腎臓、脳、心臓などへの虚血性障害)
TMAは適切な治療を行わないと死に至る可能性がある重篤な疾患ですが、早期に正確な診断を行い、病型に応じた適切な治療を開始することで、多くの患者さんの予後が大幅に改善されることが報告されています。
症状と病態
血栓性微小血管症(TMA)の症状は、血小板減少による出血症状、溶血性貧血による全身症状、そして血栓による臓器障害の三つに大別されます。症状の出方や重症度は病型や患者さんによって大きく異なります。
主要症状
- 血小板減少による症状:皮膚の紫斑(あおあざ)、点状出血、歯肉出血、鼻出血などの出血傾向
- 溶血性貧血による症状:全身倦怠感、息切れ、動悸、顔面蒼白、黄疸
- 腎障害:尿量減少、浮腫(むくみ)、血尿、蛋白尿、腎機能低下
- 神経症状:頭痛、意識障害、けいれん、麻痺、精神症状の変動
- 消化器症状:腹痛、下痢、血便、悪心、嘔吐
- 心血管症状:胸痛、不整脈、心不全
- 発熱
TMAの主要病型
1. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
TTPは、血液凝固制御酵素であるADAMTS13の活性が著しく低下することで発症します。ADAMTS13はフォン・ウィルブランド因子(VWF)を切断する酵素で、この酵素が欠乏すると超高分子量VWFが血液中に蓄積し、微小血管で血小板血栓を形成しやすくなります。
TTPの古典的5徴候(Moschcowitzの5徴候):
1. 血小板減少
2. 溶血性貧血
3. 腎機能障害
4. 発熱
5. 精神神経症状(意識障害、けいれん、麻痺など)
※現在では、5徴候が全て揃わなくても、血小板減少と溶血性貧血の2徴候があればTTPを疑う必要があるとされています。
TTPには先天性(Upshaw-Schulman症候群)と後天性があり、先天性はADAMTS13遺伝子の変異により生まれつき酵素活性が低下しているもので、後天性はADAMTS13に対する自己抗体が産生されることで酵素活性が低下するものです。後天性TTPが全体の約95%を占めます。
2. 溶血性尿毒症症候群(HUS)
HUSは血小板減少、溶血性貧血、急性腎不全を三徴とする疾患で、TTPよりも腎障害が強く出ることが特徴です。
志賀毒素産生性大腸菌によるHUS(STEC-HUS):
腸管出血性大腸菌(O157、O111など)が産生する志賀毒素(ベロ毒素)が原因となるHUSで、HUSの中で最も頻度が高いとされています。感染後、下痢や血便などの腸炎症状が先行し、4~10日後にTMAの症状が出現します。小児に多く見られます。
3. 非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)
aHUSは、志賀毒素産生性大腸菌によるHUSやADAMTS13活性低下によるTTPを除いた、主に補体系の異常が原因となるTMAです。補体は免疫システムの一つで、通常は病原体を攻撃する役割を担っていますが、補体制御因子の遺伝子異常や自己抗体により補体の活性化が制御できなくなると、自分自身の血管内皮細胞を攻撃してしまい、TMAを発症します。
aHUSの約60%の症例で、補体制御因子(H因子、I因子、C3、B因子、CD46など)やその他の補体関連遺伝子に病的変異が認められます。感染症、妊娠、手術、臓器移植などをきっかけに発症することが多く、適切な治療を行わないと予後不良となりやすい疾患です。
その他のTMA
上記以外にも、妊娠、薬剤(抗がん剤、免疫抑制剤など)、造血幹細胞移植、自己免疫疾患、悪性腫瘍、高血圧などに関連して発症する二次性TMAが存在します。
遺伝形式と原因遺伝子
TMAの遺伝学的背景は病型によって大きく異なります。本検査パネルで対象とする39遺伝子は、TTP、aHUS、その他のTMAの原因として報告されている遺伝子です。
ADAMTS13関連(TTP)
ADAMTS13遺伝子:
先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)の原因遺伝子です。常染色体劣性遺伝形式をとり、両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継いだ場合に発症します。ADAMTS13はフォン・ウィルブランド因子を切断する酵素をコードしており、この遺伝子の両アレルに病的変異があるとADAMTS13活性が著しく低下し、TTPを発症します。
補体関連遺伝子(aHUS)
aHUSの原因となる補体関連遺伝子は多数報告されており、補体の活性化を抑制する因子の機能低下、または活性化を促進する因子の機能亢進により発症します。
補体制御因子(活性化を抑制)
- CFH(補体H因子)遺伝子:最も頻度の高いaHUS原因遺伝子の一つ。補体の副経路を抑制する重要な制御因子をコードします。常染色体優性または劣性遺伝形式をとります。
- CFI(補体I因子)遺伝子:補体制御因子の一つで、H因子と協調して補体を抑制します。常染色体劣性遺伝形式が多いとされています。
- CD46(MCP)遺伝子:膜結合型補体制御因子をコードします。常染色体優性遺伝形式をとり、比較的予後良好な症例が多いとされています。
- THBD(トロンボモジュリン)遺伝子:血管内皮細胞に発現する糖タンパク質で、補体制御にも関与します。
- CFH関連遺伝子(CFHR1、CFHR2、CFHR3、CFHR4、CFHR5):H因子に関連する遺伝子群で、これらの遺伝子の変異や欠失、H因子との遺伝子変換などがaHUSの原因となることがあります。
補体活性化因子
- C3遺伝子:補体の中心的成分をコードします。機能獲得型変異により補体活性化が亢進し、aHUSを発症します。常染色体優性遺伝形式をとります。
- CFB(補体B因子)遺伝子:補体副経路の活性化に関与します。機能獲得型変異によりaHUSを発症します。
その他の補体関連遺伝子
- C4BPA、C4BPB遺伝子:C4結合タンパク質をコードし、古典経路および レクチン経路の制御に関与します。
- C5、C5AR1、C6、C7、C8A、C8B、C8G、C9遺伝子:補体の膜侵襲複合体(MAC)形成に関与する遺伝子群です。
- CFD(補体D因子)遺伝子:補体副経路の開始に関与します。
- CFP(プロペルジン)遺伝子:補体副経路を安定化させる因子です。X連鎖遺伝形式をとります。
- C3AR1遺伝子:C3aレセプターをコードします。
- CD55、CD59遺伝子:膜結合型補体制御因子をコードします。
- CR1、CR2遺伝子:補体レセプターをコードします。
その他のTMA関連遺伝子
- DGKE遺伝子:ジアシルグリセロールキナーゼをコードし、血小板活性化シグナル伝達に関与します。常染色体劣性遺伝形式で、乳幼児期発症のaHUSの原因となります。
- VWF遺伝子:フォン・ウィルブランド因子をコードします。一部の変異はTMAと関連することがあります。
- PLG(プラスミノゲン)遺伝子:線溶系に関与します。
- MMACHC遺伝子:ビタミンB12代謝に関与し、メチルマロン酸血症合併のTMAの原因となります。
- INF2遺伝子:アクチン重合制御に関与し、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)に加えてTMAを呈することがあります。
- FKRP遺伝子:糖転移酵素関連タンパク質をコードし、筋ジストロフィーに加えてTMAを呈することがあります。
- F12(第XII因子)遺伝子:凝固第XII因子をコードします。
- ST3GAL1遺伝子:シアル酸転移酵素をコードします。
- STAT2遺伝子:インターフェロンシグナル伝達に関与します。
- ZNFX1遺伝子:亜鉛フィンガータンパク質をコードします。
当検査パネルでは、これらの原因遺伝子を含む39遺伝子を対象としています。これにより、TMAの主要な遺伝的原因を効率的にスクリーニングすることが可能です。ただし、遺伝学的原因が特定できない症例も存在することに留意が必要です。
ミネルバクリニックの血栓性微小血管症(TMA)遺伝子パネル検査の特徴
「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」とは、現在血栓性微小血管症の原因として報告されている39の遺伝子に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、血栓性微小血管症に関連する39遺伝子を一度に調べられる「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で血栓性微小血管症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、血栓性微小血管症に関係するとされる39の遺伝子を一度に調べられる「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える血栓性微小血管症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」の場合、39の遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
臨床症状から血栓性微小血管症を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」ならば、臨床的に重要な39の原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」では、血栓性微小血管症に関係するとされる39種類の遺伝子(ADAMTS13, C3, C3AR1, C4BPA, C4BPB, C5, C5AR1, C6, C7, C8A, C8B, C8G, C9, CD46, CD55, CD59, CFB, CFD, CFH, CFHR1, CFHR2, CFHR3, CFHR4, CFHR5, CFI, CFP, CR1, CR2, DGKE, F12, FKRP, INF2, MMACHC, PLG, ST3GAL1, STAT2, THBD, VWF, ZNFX1)をまとめて検査します。
「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」は、血栓性微小血管症の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【血栓性微小血管症の個人歴または家族歴のある方】に
「血栓性微小血管症 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・血小板減少と溶血性貧血が同時に認められる方
・急性腎障害や腎機能低下がある方
・原因不明の神経症状(意識障害、けいれん、麻痺など)がある方
・皮膚の紫斑や出血傾向がある方
・末梢血塗抹検査で破砕赤血球が認められる方
・直接クームス試験陰性の溶血性貧血がある方
・LDH高値、ハプトグロビン低値、間接ビリルビン上昇などの溶血所見がある方
・ADAMTS13活性低下が認められる方
・補体値異常(特にC3低値)が認められる方
・血栓性微小血管症またはその疑いの家族歴がある方
・原因不明の腎不全の家族歴がある方
・妊娠、感染、手術などをきっかけに上記症状が出現した方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、血栓性微小血管症の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、適切な治療法の選択、定期的なモニタリング、発症予防策を行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・TTP、HUS、aHUSなどの病型の鑑別
・病型に応じた最適な治療法の選択(血漿交換、抗補体療法など)
・補体阻害剤(エクリズマブ、ラブリズマブなど)の適応判断
・腎移植時の再発リスク評価
・妊娠時の発症リスク評価と管理
・感染症などの発症トリガーに対する予防的対応
・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、遺伝形式に応じて家族の発症リスクが異なります。常染色体優性遺伝の場合は子どもが発症するリスクは50%、常染色体劣性遺伝の場合は兄弟姉妹が発症するリスクは25%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
- 詳しくはこちら
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ADAMTS13, C3, C3AR1, C4BPA, C4BPB, C5, C5AR1, C6, C7, C8A, C8B, C8G, C9, CD46, CD55, CD59, CFB, CFD, CFH, CFHR1, CFHR2, CFHR3, CFHR4, CFHR5, CFI, CFP, CR1, CR2, DGKE, F12, FKRP, INF2, MMACHC, PLG, ST3GAL1, STAT2, THBD, VWF, ZNFX1 ( 39遺伝子 )
各遺伝子の詳細:
・ADAMTS13遺伝子:
フォン・ウィルブランド因子(VWF)切断酵素をコードする遺伝子。先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)の原因遺伝子で、常染色体劣性遺伝形式をとります。両アレルに病的変異がある場合、ADAMTS13活性が著減し、乳幼児期から成人期にかけて発症します。
・C3遺伝子:
補体第3成分をコードする遺伝子。補体系の中心的役割を担い、機能獲得型変異により補体活性化が亢進し、aHUSを発症します。常染色体優性遺伝形式をとります。
・C3AR1遺伝子:
C3aレセプターをコードする遺伝子。補体活性化産物であるC3aのレセプターで、炎症反応に関与します。
・C4BPA遺伝子:
C4結合タンパク質α鎖をコードする遺伝子。古典経路およびレクチン経路の制御に関与します。
・C4BPB遺伝子:
C4結合タンパク質β鎖をコードする遺伝子。C4BPAと複合体を形成します。
・C5遺伝子:
補体第5成分をコードする遺伝子。膜侵襲複合体(MAC)形成の開始点となる重要な補体成分です。
・C5AR1遺伝子:
C5aレセプター1をコードする遺伝子。C5aは強力な炎症性メディエーターで、好中球の活性化などに関与します。
・C6、C7、C8A、C8B、C8G、C9遺伝子:
膜侵襲複合体(MAC)を形成する補体成分をコードする遺伝子群。これらが順次結合してMACを形成し、細胞膜に孔を開けます。
・CD46(MCP)遺伝子:
膜補因子タンパク質(membrane cofactor protein)をコードする遺伝子。細胞膜上で補体を抑制する重要な制御因子で、常染色体優性遺伝形式のaHUSの原因となります。比較的予後良好な症例が多いとされています。
・CD55(DAF)遺伝子:
崩壊促進因子(decay-accelerating factor)をコードする遺伝子。細胞膜上で補体の活性化を抑制します。
・CD59遺伝子:
プロテクチン(CD59)をコードする遺伝子。膜侵襲複合体(MAC)の形成を阻害する膜結合型補体制御因子です。
・CFB(補体B因子)遺伝子:
補体B因子をコードする遺伝子。補体副経路(第二経路)の活性化に関与し、機能獲得型変異によりaHUSを発症します。
・CFD(補体D因子)遺伝子:
補体D因子をコードする遺伝子。補体副経路の開始に関与するセリンプロテアーゼです。
・CFH(補体H因子)遺伝子:
補体H因子をコードする遺伝子。最も頻度の高いaHUS原因遺伝子の一つで、補体副経路の主要な制御因子です。常染色体優性または劣性遺伝形式をとります。H因子欠損症では血漿輸注による補充療法が有効です。
・CFHR1、CFHR2、CFHR3、CFHR4、CFHR5遺伝子:
補体H因子関連タンパク質をコードする遺伝子群。CFHと高い相同性を持ち、これらの遺伝子の欠失、変異、またはCFHとの遺伝子変換がaHUSの原因となることがあります。特にCFHR1およびCFHR3の欠失は抗H因子自己抗体の産生と関連することがあります。
・CFI(補体I因子)遺伝子:
補体I因子をコードする遺伝子。補体制御因子の一つで、H因子と協調して補体を不活化します。常染色体劣性遺伝形式が多いとされています。
・CFP(プロペルジン)遺伝子:
プロペルジンをコードする遺伝子。補体副経路を安定化させる因子で、X連鎖遺伝形式をとります。
・CR1遺伝子:
補体レセプター1をコードする遺伝子。赤血球などに発現し、免疫複合体の処理に関与します。
※注意:CR1遺伝子は複数の相同領域を含むため、現在の検査方法では一部の変異を確実に検出できない場合があります。
・CR2遺伝子:
補体レセプター2をコードする遺伝子。B細胞に発現し、B細胞の活性化に関与します。
・DGKE遺伝子:
ジアシルグリセロールキナーゼεをコードする遺伝子。血小板活性化シグナル伝達に関与し、常染色体劣性遺伝形式で乳幼児期発症のaHUSの原因となります。DGKE関連aHUSは補体異常を伴わないことが特徴です。
・F12(第XII因子)遺伝子:
凝固第XII因子(ハーゲマン因子)をコードする遺伝子。内因系凝固カスケードの開始因子です。
・FKRP遺伝子:
フクチン関連タンパク質をコードする遺伝子。糖転移酵素関連タンパク質で、筋ジストロフィーの原因遺伝子としても知られています。一部の変異はTMAを呈することがあります。
・INF2遺伝子:
inverted formin 2をコードする遺伝子。アクチン重合制御に関与し、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の原因遺伝子として知られていますが、TMAを合併することがあります。
・MMACHC遺伝子:
メチルマロニルCoA変換酵素をコードする遺伝子。ビタミンB12代謝に関与し、メチルマロン酸血症および/またはホモシスチン尿症を呈します。一部の患者でTMAを合併することがあります。常染色体劣性遺伝形式をとります。
・PLG(プラスミノゲン)遺伝子:
プラスミノゲンをコードする遺伝子。線溶系の主要因子で、フィブリン血栓の分解に関与します。
・ST3GAL1遺伝子:
ST3β-ガラクトシド α-2,3-シアル酸転移酵素1をコードする遺伝子。糖鎖修飾に関与します。
・STAT2遺伝子:
シグナル伝達兼転写活性化因子2をコードする遺伝子。インターフェロンシグナル伝達経路に関与し、自然免疫応答において重要な役割を果たします。
・THBD(トロンボモジュリン)遺伝子:
トロンボモジュリンをコードする遺伝子。血管内皮細胞に発現し、抗凝固作用と補体制御作用を持ちます。aHUSの原因遺伝子の一つです。
・VWF遺伝子:
フォン・ウィルブランド因子をコードする遺伝子。血小板粘着と凝固第VIII因子の安定化に関与します。一部の変異はTMAと関連することがあります。
・ZNFX1遺伝子:
亜鉛フィンガーNFX1型含有1をコードする遺伝子。RNA結合タンパク質で、ウイルス感染に対する自然免疫応答に関与します。
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度平均20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
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すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
遺伝子特異的な制限:
CR1遺伝子:CR1遺伝子内に複数の相同領域(chr1:207700096-207749032)が存在するため、現在の検査方法では本遺伝子内の特定の変異を確実に検出することができません。
※この検査パネルでは、39の原因遺伝子のみを対象としています。TMA症例の中には、既知の遺伝子に変異が見つからない場合もあります。特にaHUSでは約40%の症例で原因遺伝子が特定できないと報告されています。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。また、後天性TTP(抗ADAMTS13自己抗体によるもの)は遺伝子検査では検出できないため、ADAMTS13活性測定と抗ADAMTS13抗体測定が必要です。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 血小板減少と溶血性貧血が同時に認められる方、特に末梢血塗抹検査で破砕赤血球が確認される方におすすめします。腎機能障害、神経症状、原因不明の発熱などを伴う場合は、TMAの可能性が高くなります。また、家族に同様の症状やTMAの診断歴がある場合も検査をご検討ください。妊娠、感染症、手術などをきっかけに症状が出現した場合も重要な情報です。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- TTP、HUS、aHUSの違いは何ですか?
- TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)はADAMTS13活性低下が原因で、神経症状が目立つことが特徴です。HUS(溶血性尿毒症症候群)は腸管出血性大腸菌感染後に発症することが多く、腎障害が強く出ます。aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)は補体制御異常が原因で、感染症や妊娠などをきっかけに発症します。当検査により原因遺伝子を特定することで、これらを鑑別し、最適な治療法を選択できます。
- TMAは治療可能な病気ですか?
- TMAは早期診断と適切な治療により予後が大きく改善される疾患です。TTPには血漿交換療法、aHUSには抗補体療法(エクリズマブ、ラブリズマブ)が有効です。遺伝子検査により原因を特定することで、最適な治療法を選択でき、治療効果も向上します。ただし、治療を行わない場合は生命に関わる重篤な疾患です。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- 遺伝形式によって家族の発症リスクが異なります。常染色体優性遺伝(CFH、C3など)の場合、患者さんのお子さんが発症するリスクは50%です。常染色体劣性遺伝(ADAMTS13、DGKEなど)の場合、兄弟姉妹が発症するリスクは25%、保因者となるリスクは50%です。ご家族の検査により、発症リスクを評価し、予防的対応や早期発見につなげることができます。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- 特にaHUSでは約40%の症例で既知の遺伝子に変異が見つかりません。また、後天性TTPは遺伝子検査では検出できません。検査で病原性変異が検出されなくても、臨床的にTMAと診断される場合は、ADAMTS13活性測定、補体検査、抗ADAMTS13抗体測定などの追加検査が重要です。臨床症状と検査所見に基づいた診断と治療が引き続き必要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。病的変異が見つかった場合は、その遺伝子の機能、遺伝形式、予後、利用可能な治療法について詳しくご説明します。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- 遺伝形式によって子どもへの影響が異なります。常染色体優性遺伝の場合は子どもが発症する確率は50%、常染色体劣性遺伝の場合は保因者同士のカップルで子どもが発症する確率は25%です。妊娠自体がTMA発症のトリガーとなることもあるため、妊娠前のリスク評価が重要です。検査結果により、妊娠管理、出生前診断、着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- TMAの長期的な予後はどうですか?
- 予後は病型、治療開始時期、治療への反応性によって大きく異なります。TTPは血漿交換により85%以上の患者さんが回復しますが、再発の可能性もあります。aHUSは適切な抗補体療法により良好な予後が期待できますが、治療を行わない場合や診断が遅れた場合は末期腎不全に至ることがあります。遺伝子変異の種類によっても予後が異なるため、遺伝子検査は長期的な予後予測にも役立ちます。
- 腎移植後の再発リスクはありますか?
- aHUSでは腎移植後の再発リスクが遺伝子変異の種類によって異なります。CFH、CFI、C3変異では再発リスクが高く、CD46変異では低いとされています。遺伝子検査により再発リスクを評価し、移植前から抗補体療法を予防的に使用するなどの対策が可能です。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では臨床的に重要な39の原因遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。また、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
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