(更新日:2025/10/05)
脊髄性筋萎縮症(SMA)NGS遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック
脊髄性筋萎縮症とは
脊髄性筋萎縮症(Spinal Muscular Atrophy: SMA)は、脊髄の運動ニューロン(脊髄前角細胞)の病変によって起こる神経原性の筋萎縮症で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と同じ運動ニューロン病の範疇に入る遺伝性疾患です。体幹や四肢の筋力低下と筋萎縮を進行性に示すことを特徴とします。
本疾患は、発症年齢と運動機能の獲得状況により、0型(最重症型)、I型(重症型:ウェルドニッヒ・ホフマン病)、II型(中間型:デュボビッツ病)、III型(軽症型:クーゲルベルグ・ウェランダー病)、IV型(成人発症型)に分類されます。小児期に発症するSMAの多くは第5染色体に位置するSMN1遺伝子の変異による常染色体劣性(潜性)遺伝性疾患ですが、成人発症のIV型では遺伝学的に複数の成因が考えられます。
脊髄性筋萎縮症は日本において指定難病3に指定されている希少疾患です。日本での発症率は10万人あたり1~2人程度と推定されており、SMAをもつ患者さんの年齢分布は乳児から高齢者まで幅広いですが、その9割以上は16歳未満、8割以上が2歳未満に発症します。乳児死亡の主要な遺伝的原因の一つであり、小児の筋力低下の主な原因疾患として知られています。
症状と病態
脊髄性筋萎縮症の主な症状は、運動ニューロンの変性による進行性の筋力低下と筋萎縮です。症状の程度は病型によって大きく異なり、患者さんごとにも多様性があります。感覚神経は障害されないため、知覚障害は伴いません。また、認知機能は正常に保たれることが特徴です。
主要症状
進行性の筋力低下(体幹や四肢の近位部に顕著)
筋萎縮(筋肉が痩せる)
深部腱反射の減弱または消失
筋緊張低下(フロッピーインファント:体がふにゃふにゃしている)
線維束性収縮(筋肉の細かい震え、特に舌)
運動機能の発達遅延または喪失
呼吸筋障害による呼吸困難
嚥下困難
病型による特徴
0型(最重症型・胎児型)
出生前に発症する最重症型です。妊娠後期における胎動の減少、羊水過多として認識されます。出生時から重度の筋力低下と筋緊張低下がみられ、両側顔面神経麻痺、反射消失、心形成異常、関節拘縮を伴うことがあります。ほとんどの場合、生後6カ月以内に呼吸不全により死亡します。
I型(重症型:ウェルドニッヒ・ホフマン病)
生後6カ月以内に発症する重症型で、SMA全体の約60%を占めます。首のすわりが遅い、支えなしで座れない、泣き声が弱いなどの症状が特徴的です。筋緊張低下(フロッピーインファント)、深部腱反射の消失、舌の線維束性収縮がみられます。呼吸筋や嚥下筋の障害が進行し、未治療の場合、90%以上の症例で2歳までに死亡するか、永続的な人工呼吸管理が必要となります。
II型(中間型:デュボビッツ病)
生後3~15カ月の間に筋力低下が出現します。自力で座ることはできるようになりますが(患児の25%未満)、立つことや歩くことはできません。手指のふるえ、嚥下困難がみられることがあります。ほとんどの患児が2~3歳までに車椅子での生活を余儀なくされます。早期に死亡することも多く、その原因は通常、呼吸器系合併症です。一部の小児では症状の進行が自然に停止し、非進行性の筋力低下が永続的に残る場合があり、重度の脊柱側弯症のリスクが高くなります。
III型(軽症型:クーゲルベルグ・ウェランダー病)
生後15カ月から19歳までの間に発症し、緩徐に進行します。自力で立つことや歩くことができますが、徐々に筋力低下が進行します。対称性の筋力低下と筋萎縮が近位から遠位へ進行し、大腿四頭筋と股関節屈筋群に始まり、下肢で最も著明に現れます。後には上肢も侵されます。I型やII型と比べて予後は良好で、一部の患者では健康な人と同じくらい生きることができます。予後は呼吸器系合併症が発生するか否かに左右されます。
IV型(成人発症型)
通常30~60歳の成人期に最初の症状が現れます。主に股関節部、太もも、肩の筋力がゆっくり低下し、筋肉が萎縮します。進行は緩徐で、生命予後は比較的良好です。遺伝学的には複数の成因の混在が考えられ、常染色体劣性、常染色体優性、X連鎖遺伝のいずれの形式もあります。
合併症
呼吸器系合併症: 呼吸筋の筋力低下による呼吸困難、誤嚥性肺炎、睡眠時無呼吸
消化器系合併症: 嚥下障害、胃食道逆流、便秘
整形外科的合併症: 脊柱側弯症、股関節脱臼、関節拘縮
栄養障害: 嚥下困難による低栄養、成長障害
進行と予後
症状は徐々に進行する場合が多いですが、症状が一時期進行した後、停止するような場合もあります。I型、II型では、成長と共に運動機能の獲得の時期もあります。近年、疾患修飾薬(ヌシネルセン、オナセムノゲンアベパルボベク、リスジプラム)の開発により、特に早期診断・早期治療により予後が大幅に改善されています。発症前(症状が出る前)に治療を受けることで発病を抑えたり、軽症化させることが可能であることが治験で報告されています。
遺伝形式と原因遺伝子
脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子は、第5染色体長腕(5q13)に位置するSMN1(survival motor neuron 1)遺伝子です。小児期に発症するSMAの約95%は、SMN1遺伝子のホモ接合性の欠失(エクソン7の欠失)または変異によって引き起こされます。
SMN1遺伝子とSMN2遺伝子
SMN1遺伝子は、運動ニューロンの生存に必要なSMNタンパク質を産生します。SMN1遺伝子の近傍には、SMN1遺伝子と99%同一で16か所の塩基対が異なるSMN2遺伝子が存在します。SMN2遺伝子からは少量のSMNタンパク質しか産生されませんが、「バックアップ遺伝子」として機能します。
SMAにおいては、SMN1遺伝子の変異により、SMN1遺伝子由来のSMNタンパク質は作られず、わずかなSMN2遺伝子由来のSMNタンパク質しかない状態となります。SMN2遺伝子のコピー数が多いほどSMNタンパク質の産生量が多いため、重症度が軽くなる傾向があります。一般的に、SMN2遺伝子が2コピーの場合はI型、3コピーの場合はII型またはIII型、4コピー以上の場合はIII型またはIV型となる傾向がありますが、個人差があります。
常染色体劣性(潜性)遺伝
小児期に発症するSMAは常染色体劣性遺伝形式をとります。これは、両親から変異のあるSMN1遺伝子を1つずつ、合わせて2つ受け継いで初めて発症することを意味します。変異のあるSMN1遺伝子を1つのみ受け継いだ人は保因者となりますが、生涯症状は現れません。
保因者の頻度:約54人に1人がSMN1遺伝子の変異または欠失を保有していると言われています(欧米のデータ)。日本では欧米より少ないようです。
保因者同士の結婚:保因者同士のカップルから生まれる子どもがSMAを発症する確率は25%、保因者となる確率は50%、正常遺伝子を2つ受け継ぐ確率は25%です。
患者さん本人のお子さん:患者さん本人のお子さんがSMAになる可能性は約1/200です。
患者さんの兄弟姉妹のお子さん:患者さんの兄弟姉妹のお子さんがSMAになる可能性は約1/600です。
その他の原因遺伝子
成人発症のIV型や、SMN1遺伝子変異が検出されない症例では、他の遺伝子(UBA1、BICD2、DYNC1H1、VAPBなど)の変異が原因となることがあります。当検査パネルでは、SMN1遺伝子を含む29の関連遺伝子を対象としており、SMAおよび類似疾患の包括的な遺伝学的評価が可能です。
ミネルバクリニックの脊髄性筋萎縮症遺伝子パネル検査の特徴
「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」とは、現在脊髄性筋萎縮症の原因として報告されている29の遺伝子に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、脊髄性筋萎縮症に関連する29遺伝子を一度に調べられる「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページ をご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で脊髄性筋萎縮症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、脊髄性筋萎縮症に関係するとされる29の遺伝子を一度に調べられる「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える脊髄性筋萎縮症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」の場合、29の遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
臨床症状から脊髄性筋萎縮症を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」ならば、臨床的に重要な29の原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」では、脊髄性筋萎縮症に関係するとされる29種類の遺伝子(AARS、ASAH1、ATP7A、BICD2、BSCL2、CHCHD10、DCTN1、DNAJB2、DYNC1H1、EXOSC3、EXOSC8、FBXO38、GARS、HEXA、HSPB1、HSPB3、HSPB8、IGHMBP2、LAS1L、PLEKHG5、REEP1、SCO2、SLC5A7、SMN1、SMN2、TRPV4、UBA1、VAPB、VRK1)をまとめて検査します。
「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」は、脊髄性筋萎縮症の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【脊髄性筋萎縮症の個人歴または家族歴のある方】に
「脊髄性筋萎縮症 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・進行性の筋力低下がある方
・筋緊張低下(フロッピーインファント)がみられる乳幼児
・運動機能の発達遅延(首のすわりが遅い、座れない、歩けない)がある方
・深部腱反射の減弱または消失がある方
・線維束性収縮(特に舌)がみられる方
・呼吸筋障害や嚥下困難がある方
・脊髄性筋萎縮症の家族歴がある方
・新生児スクリーニングでSMAの疑いを指摘された方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
・出生前診断や着床前診断を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、脊髄性筋萎縮症の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。特に早期診断により、疾患修飾薬による治療を早期に開始できれば、発病を抑えたり、軽症化させることが可能です。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・SMN2遺伝子のコピー数の評価による重症度予測
・早期の疾患修飾薬治療の開始(ヌシネルセン、オナセムノゲンアベパルボベク、リスジプラム)
・適切な呼吸管理と栄養管理の立案
・理学療法・作業療法などリハビリテーションプログラムの最適化
・合併症(脊柱側弯症、呼吸器感染症など)の早期発見と予防
・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案
・小児慢性特定疾病または指定難病の医療費助成の申請
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の発症リスクに関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体劣性遺伝形式では兄弟姉妹が発症するリスクは25%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。また、新生児スクリーニングで陽性となった場合、遺伝子検査での確定診断と早期治療開始が極めて重要です。
対象遺伝子
詳しくはこちら
AARS, ASAH1, ATP7A, BICD2, BSCL2, CHCHD10, DCTN1, DNAJB2, DYNC1H1, EXOSC3, EXOSC8, FBXO38, GARS, HEXA, HSPB1, HSPB3, HSPB8, IGHMBP2, LAS1L, PLEKHG5, REEP1, SCO2, SLC5A7, SMN1, SMN2, TRPV4, UBA1, VAPB, VRK1 ( 29遺伝子 )
各遺伝子の詳細:
・SMN1遺伝子:
Survival Motor Neuron 1遺伝子。運動ニューロンの生存に必要なSMNタンパク質をコードします。小児期発症SMAの約95%で、このSMN1遺伝子のホモ接合性の欠失(エクソン7の欠失)または変異が原因となります。SMA診断において最も重要な遺伝子です。
・SMN2遺伝子:
Survival Motor Neuron 2遺伝子。SMN1遺伝子と99%同一の配列を持つバックアップ遺伝子です。少量のSMNタンパク質を産生し、SMN2遺伝子のコピー数が多いほど重症度が軽くなる傾向があります。当検査ではSMN2遺伝子のエクソン7-8の配列決定と欠失/重複解析を実施します(SMN1遺伝子で診断的結果が検出された場合のみ)。
・IGHMBP2遺伝子:
免疫グロブリンμ結合タンパク質2をコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、乳児期発症の重症型(遠位型脊髄性筋萎縮症1型:DSMA1)の原因となります。呼吸筋障害を伴うことが多い重症型です。
・UBA1遺伝子:
ユビキチン様修飾活性化酵素1をコードする遺伝子。X連鎖遺伝形式で、成人発症のX連鎖脊髄延髄性筋萎縮症の原因となります。
・BICD2遺伝子:
Bicaudal D Homolog 2をコードする遺伝子。細胞内輸送に関与するタンパク質で、常染色体優性遺伝形式の脊髄性筋萎縮症の原因となります。下肢優位の筋力低下を呈することが多いです。
・DYNC1H1遺伝子:
ダイニン細胞質重鎖1をコードする遺伝子。軸索輸送に関与し、常染色体優性遺伝形式の下肢優位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・VAPB遺伝子:
小胞関連膜タンパク質関連タンパク質B/CをコードするVAPB遺伝子。常染色体優性遺伝形式で、遅発性脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・GARS遺伝子:
グリシルtRNA合成酵素をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式または劣性遺伝形式で、遠位型脊髄性筋萎縮症やシャルコー・マリー・トゥース病2D型の原因となります。
・HSPB1遺伝子:
熱ショックタンパク質27(HSP27)をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式で、遠位型遺伝性運動ニューロパチーやシャルコー・マリー・トゥース病2F型の原因となります。
・HSPB3遺伝子:
熱ショックタンパク質ファミリーの一つをコードする遺伝子。遠位型脊髄性筋萎縮症に関連します。
・HSPB8遺伝子:
熱ショックタンパク質22(HSP22)をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式で、遠位型遺伝性運動ニューロパチーの原因となります。
・BSCL2遺伝子:
セイピン(seipin)をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式で、上肢遠位優位型の運動ニューロパチー(Silver症候群)や脂肪萎縮症の原因となります。
・REEP1遺伝子:
受容体付随タンパク質1をコードする遺伝子。小胞体の形態維持に関与し、常染色体優性遺伝形式の遠位型脊髄性筋萎縮症や遺伝性痙性対麻痺の原因となります。
・DCTN1遺伝子:
ダイナクチンをコードする遺伝子。細胞内輸送に関与し、常染色体優性遺伝形式で声帯麻痺を伴う遠位型脊髄性筋萎縮症やALSの原因となります。
・DNAJB2遺伝子:
DnaJホモログサブファミリーBメンバー2をコードする遺伝子。シャペロンタンパク質で、常染色体劣性遺伝形式の遠位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・SLC5A7遺伝子:
高親和性コリントランスポーターをコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、声帯麻痺を伴う遠位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・TRPV4遺伝子:
陽イオンチャネルTRPV4をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式で、声帯麻痺を伴う脊髄性筋萎縮症やシャルコー・マリー・トゥース病2C型の原因となります。
・EXOSC3遺伝子:
エキソソーム複合体成分3をコードする遺伝子。RNA分解に関与し、常染色体劣性遺伝形式で小脳低形成を伴う脊髄小脳性運動失調症の原因となります。
・EXOSC8遺伝子:
エキソソーム複合体成分8をコードする遺伝子。RNA分解に関与し、常染色体劣性遺伝形式で遠位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・VRK1遺伝子:
VRK セリン/スレオニンキナーゼ1をコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、複雑型遠位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・AARS遺伝子:
アラニルtRNA合成酵素をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式または劣性遺伝形式で、シャルコー・マリー・トゥース病や遠位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・ASAH1遺伝子:
酸性セラミダーゼをコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、脊髄性筋萎縮症様疾患の原因となります。
・ATP7A遺伝子:
銅輸送ATPアーゼをコードする遺伝子。X連鎖遺伝形式で、銅代謝異常を伴う脊髄性筋萎縮症様疾患の原因となります。
・CHCHD10遺伝子:
ミトコンドリアタンパク質をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式で、前頭側頭葉変性症を伴うALS、脊髄性筋萎縮症様疾患の原因となります。
・FBXO38遺伝子:
F-boxタンパク質38をコードする遺伝子。常染色体優性遺伝形式で、遠位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・HEXA遺伝子:
ヘキソサミニダーゼAをコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、テイ・サックス病や脊髄性筋萎縮症様症状を呈する疾患の原因となります。
・LAS1L遺伝子:
LAS1様タンパク質をコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、脊髄性筋萎縮症様疾患の原因となります。
・PLEKHG5遺伝子:
プレクストリンホモロジードメイン含有ファミリーGメンバー5をコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、遠位型脊髄性筋萎縮症の原因となります。
・SCO2遺伝子:
シトクロムcオキシダーゼ銅シャペロンをコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式で、ミトコンドリア病や脊髄性筋萎縮症様症状を呈する疾患の原因となります。
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能 です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
詳しくはこちら
すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
SMN1遺伝子に関する重要な限界事項:
一般集団の約5~8%の人は、SMN1遺伝子のコピーが1本の染色体に2つあり(2+0配置)、もう一方の染色体では欠失しているという状態です。この検査方法では、このような[2+0]配置のSMN1遺伝子を持つ保因者を検出することができません。したがって、保因者検査で陰性の結果が出ても、保因者である可能性を完全に除外することはできません。
SMN2遺伝子に関する限界事項:
SMN2遺伝子(NM_017411.3)の検査は、SMN1遺伝子で診断的結果が検出された場合のみ、エキソン7-8の配列決定と欠失/重複解析に限定されます。SMN2遺伝子の他の領域については、配列決定および欠失/重複解析は実施されません。
※検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。約5%のSMA症例では、既知の遺伝子に変異が見つかりません。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
進行性の筋力低下がある方、筋緊張低下(フロッピーインファント)がみられる乳幼児、運動機能の発達遅延(首のすわりが遅い、座れない、歩けない)がある方におすすめします。深部腱反射の減弱または消失、線維束性収縮(特に舌)、呼吸筋障害や嚥下困難がある場合も検査をご検討ください。また、新生児スクリーニングでSMAの疑いを指摘された方、家族に脊髄性筋萎縮症の方がいる場合も重要です。
検査はどのように行いますか?
血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
新生児スクリーニングで陽性と言われました。どうすればいいですか?
新生児スクリーニング検査は確定検査ではありませんので、すぐに専門医を受診して、確定検査として遺伝子検査を受けてください。遺伝子検査の結果、SMAと診断された場合には、発症前(SMAの症状が出る前)に治療を受けることで発病を抑えたり、軽症化させることが可能です。発症前に治療を受けた場合の有効性が報告されています。もし、既に症状が出ていても、治療は早ければ早いほど有効です。大至急の治療開始が推奨されています。
家族も検査を受ける必要がありますか?
常染色体劣性遺伝形式の場合、患者さんの兄弟姉妹が発症するリスクは25%、保因者となるリスクは50%です。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。特に将来子どもを持つことを考えている兄弟姉妹の方は、保因者かどうかを知ることが重要です。
SMN2遺伝子のコピー数は分かりますか?
はい。SMN1遺伝子で診断的結果が検出された場合、SMN2遺伝子のエキソン7-8の解析を行い、コピー数を評価します。SMN2遺伝子のコピー数は重症度予測の重要な指標となります。一般的に、SMN2遺伝子のコピー数が多いほど症状が軽い傾向がありますが、個人差があります。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
約5%のSMA症例では、既知の遺伝子に変異が見つかりません。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。臨床症状と電気生理学的検査、筋生検などに基づいた診断と管理が引き続き重要です。
保因者検査としても使えますか?
はい、保因者検査としても使用できます。ただし、一般集団の約5~8%の人はSMN1遺伝子が1本の染色体に2つある[2+0]配置を持っており、この検査方法ではそのような保因者を検出できません。したがって、陰性の結果が出ても、保因者である可能性を完全に除外することはできません。より正確な保因者診断が必要な場合は、別の検査方法が必要になることがあります。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。なお、SMAと診断された場合、小児慢性特定疾病または指定難病の医療費助成を申請できます。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療選択肢(疾患修飾薬、リハビリテーション、呼吸管理など)について、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
常染色体劣性遺伝形式の場合、保因者同士のカップルで子どもが発症する確率は25%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。患者さん本人のお子さんがSMAになる可能性は約1/200です。
脊髄性筋萎縮症の治療はどのように行われますか?
現在、疾患修飾薬として、ヌシネルセン(髄腔内投与)、オナセムノゲンアベパルボベク(遺伝子治療・静脈内投与)、リスジプラム(経口薬)が使用可能です。これらの薬剤は、特に早期に開始することで効果が高いことが報告されています。また、呼吸管理、栄養管理、理学療法、作業療法などの支持療法も重要です。
予後はどうですか?
病型によって予後は大きく異なります。未治療のI型では2歳までに90%以上が死亡または永続的な換気が必要となりますが、早期診断・早期治療により予後が大幅に改善されています。III型やIV型では、適切な管理により長期間にわたって日常生活を維持できることが多いです。発症前治療により、ほぼ正常な発達が期待できる症例も報告されています。
他の医療機関での検査との違いは何ですか?
当院では臨床的に重要な29の関連遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。また、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得 して以来、のべ10万人以上 のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら