脊髄小脳失調症6型(SCA6)CACNA1A遺伝子リピート伸長検査|ミネルバクリニック
脊髄小脳失調症6型(SCA6)とは
脊髄小脳失調症6型(Spinocerebellar Ataxia Type 6: SCA6)は、常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性脊髄小脳変性症の一つです。成人発症で緩徐進行性の小脳性運動失調、構音障害、眼振を特徴とする神経変性疾患です。
SCA6は、CACNA1A遺伝子(P/Q型カルシウムチャネルα1Aサブユニット遺伝子)のCAGリピート配列の異常伸長により発症します。本症は日本の常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症の中でMachado-Joseph病(SCA3)に次いで多く、約30%を占めています。
脊髄小脳失調症(脊髄小脳変性症)は、小脳を中心とした神経の変性によって生じる疾患群の総称です。全国で約3万人以上の患者さんがいるとされ、そのうち約1/3が遺伝性です。遺伝性脊髄小脳変性症の中でも、SCA6は特に「純粋小脳型」として知られ、小脳症状が主体で他の神経系統の症状が比較的少ないことが特徴です。
症状と病態
SCA6は成人発症で、発症年齢は19歳から73歳と幅広く、平均発症年齢は43~52歳です。初発症状の約90%は歩行の不安定、つまずき、平衡異常であり、約10%は構音障害で始まります。症状は緩徐に進行し、最終的にはすべての患者さんで失調性歩行、上肢の協調運動障害、企図時振戦、構音障害が認められます。
主要症状
- 歩行失調(ふらつき、よろめき)
- 四肢の運動失調(手足の動きがぎこちない)
- 企図時振戦(目標に向かって手を動かすときの震え)
- 構音障害(ろれつが回らない、しゃべりにくい)
- 嚥下障害(飲み込みにくい)
- 眼振(眼球の不随意運動)
- 注視誘発性眼振(水平性および垂直性)
- 下眼瞼向き眼振(SCA6に特徴的)
- 複視(物が二重に見える)
- 視線固定困難
小脳症状の特徴
SCA6は「純粋小脳型」に分類され、小脳症状が主体です。初期は下肢の失調症状が目立ち、徐々に上肢や体幹にも広がります。日常生活では、まっすぐ歩けない、箸や鉛筆がうまく使えない、ボタンがかけられない、字が書きにくいなどの症状が現れます。
錐体路徴候・その他の症状
小脳症状以外の神経症状は比較的少ないですが、以下の症状を伴うことがあります:
- 反射亢進と伸展性足底反応(40~50%の患者さんで認められる)
- ジストニアおよび眼瞼痙攣を含む大脳基底核徴候(最大25%)
- 精神状態は一般的に保持される(認知機能は比較的保たれる)
進行と予後
SCA6は緩徐進行性で、発症から25年以上の経過をたどることもあります。進行速度は患者さんによって異なりますが、一般的に他のSCAタイプと比較して進行が遅いことが特徴です。多くの患者さんは補助具を使用しながら長期間にわたって歩行可能な状態を維持できます。生命予後は比較的良好で、寿命は一般人口と大きく変わらないとされています。
遺伝形式と原因遺伝子
常染色体優性遺伝
SCA6は常染色体優性遺伝形式をとります。これは、CACNA1A遺伝子の変異を持つ親から子どもへ遺伝する確率が50%であることを意味します。男女ともに同じ確率で発症します。
常染色体優性遺伝の特徴:
・患者さんのお子さんが変異遺伝子を受け継ぐ確率は50%
・変異遺伝子を受け継いだ場合、ほぼ100%発症する(浸透率が高い)
・男女差はない
・世代を超えて受け継がれる
CACNA1A遺伝子とCAGリピート伸長
SCA6の原因遺伝子はCACNA1A遺伝子で、この遺伝子はP/Q型(Cav2.1)電位依存性カルシウムチャネルのα1Aサブユニットをコードしています。正常なCACNA1A遺伝子では、CAGリピート数は4~19回程度ですが、SCA6患者さんでは20~33回に伸長しています。
興味深いことに、SCA6のCAGリピート伸長は他のポリグルタミン病(SCA1、2、3など)と比較して非常に小さく、わずか20回程度のリピートでも病的とされます。また、世代を超えた遺伝の際にリピート数の変化がほとんど見られず、表現促進現象(若年発症化)を認めないことも特徴です。
遺伝型と表現型の関係
- リピート数と発症年齢:CAGリピート数が多いほど発症年齢が若くなる傾向がありますが、その相関は比較的弱いです
- 家族内での発症年齢のばらつき:同じリピート数を持つ兄弟姉妹でも、発症年齢が12年程度異なることがあります
- リピート数の安定性:親から子への遺伝の際、リピート数の変化がほとんどありません
CACNA1A遺伝子と関連疾患
CACNA1A遺伝子の異なるタイプの変異は、異なる疾患を引き起こします:
- SCA6:CAGリピート伸長による
- 発作性運動失調2型(EA2):点変異や欠失による
- 家族性片麻痺性片頭痛1型:点変異による
- 早期乳児てんかん性脳症:ヘテロ接合性の病的バリアント
これらの疾患は表現型が重複することがあり、同一家系内でSCA6様の症状とEA2様の発作性症状を呈する方が混在することもあります。
ミネルバクリニックの脊髄小脳失調症6型(SCA6)リピート伸長検査の特徴
「脊髄小脳失調症6型(SCA6)CACNA1A遺伝子リピート伸長検査」は、CACNA1A遺伝子のCAGリピート配列の異常伸長を調べる検査です。この検査により、SCA6の診断を確定することができます。
SCA6は臨床症状のみでは他の脊髄小脳変性症との鑑別が困難な場合がありますが、遺伝子検査により確定診断が可能です。確定診断により、適切な治療・管理方針の決定、遺伝カウンセリング、家族計画などに役立ちます。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関でSCA6の遺伝子検査を行う場合、数万円から十数万円の費用がかかることがあります。
当院では、SCA6の診断に必要なCACNA1A遺伝子のリピート伸長検査をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行えるSCA6の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。
当院で行う「SCA6 CACNA1A遺伝子リピート伸長検査」の場合、約2週間で結果を得ることが可能です。
3.正確な診断が可能
SCA6は臨床症状から疑われますが、他の脊髄小脳変性症との鑑別には遺伝子検査が必須です。当院で行う「SCA6 CACNA1A遺伝子リピート伸長検査」により、SCA6の確定診断が可能になります。
オプション
リピート伸長分析(料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が短くなります。 33,000円
検査内容
「脊髄小脳失調症6型(SCA6)CACNA1A遺伝子リピート伸長検査」では、CACNA1A遺伝子のCAGリピート配列の長さを測定します。正常では4~19回程度ですが、20回以上のリピート伸長が認められた場合、SCA6と診断されます。
この検査は、repeat-primed PCR(rpPCR)とアンプリコン長分析により実施されます。SCA6の診断確定に加え、リスク評価、家族への遺伝情報の提供、将来的な家族計画に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【脊髄小脳失調症6型(SCA6)または遺伝性脊髄小脳変性症の個人歴・家族歴のある方】に
「SCA6 CACNA1A遺伝子リピート伸長検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・成人発症の緩徐進行性小脳性運動失調がある方
・歩行失調、ふらつきがある方
・構音障害(ろれつが回らない)がある方
・眼振、複視、視線固定困難などの眼症状がある方
・四肢の協調運動障害、企図時振戦がある方
・嚥下障害がある方
・MRIで小脳虫部優位の小脳萎縮が認められる方
・脊髄小脳変性症または脊髄小脳失調症の家族歴がある方
・将来子どもを持つことを考えている方で、リスク評価を希望される方
・発作性運動失調や片麻痺性片頭痛の家族歴があり、小脳症状が認められる方
この検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、SCA6の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。SCA6と診断されることで、疾患の進行予測、適切なリハビリテーション、生活習慣の改善、定期的なモニタリングを行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・SCA6の診断確定
・他の脊髄小脳変性症との鑑別
・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案
・適切なリハビリテーションプログラムの立案
・転倒予防策の実施
・嚥下機能評価と誤嚥予防
・構音障害に対する言語療法の導入
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の発症リスクに関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんでCACNA1A遺伝子のCAGリピート伸長が同定された場合、常染色体優性遺伝形式のため、お子さんが変異遺伝子を受け継ぐリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
検査対象遺伝子
CACNA1A遺伝子(1遺伝子)
CACNA1A遺伝子の詳細:
CACNA1A遺伝子は、染色体19p13に位置し、P/Q型(Cav2.1)電位依存性カルシウムチャネルのα1Aサブユニットをコードしています。このカルシウムチャネルは、神経伝達物質の放出に重要な役割を果たしており、特に小脳のプルキンエ細胞で高発現しています。
SCA6では、CACNA1A遺伝子のC末端領域にあるCAGリピート配列が異常に伸長することで発症します。正常では4~19回のリピートですが、SCA6患者さんでは20~33回に伸長しています。このCAGリピートはポリグルタミン鎖に翻訳されるため、SCA6はポリグルタミン病の一つとして分類されています。
神経病理学的には、小脳皮質変性が認められ、特にプルキンエ細胞が小脳虫部優位にほぼ選択的に脱落します。小脳顆粒細胞や下オリーブ核神経細胞の脱落は、プルキンエ細胞の脱落の程度に比べて非常に軽度です。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
- 詳しくはこちら
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すべてのリピート伸長検査には限界があります。この分析はrepeat-primed PCR(rpPCR)とアンプリコン長分析により実施され、CACNA1A遺伝子のCAGリピート伸長の検出を目的として設計されています。
このリピート伸長分析は、大きな伸長が存在する場合、正確なリピート数を明らかにできない場合があります。遺伝子の塩基配列決定や欠失・重複分析はこの検査には含まれませんが、別途注文することができます。また、この分析にはメチル化研究は含まれません。
CACNA1A遺伝子には、CAGリピート伸長以外にも点変異や欠失などの変異が存在し、これらは発作性運動失調2型(EA2)や家族性片麻痺性片頭痛1型の原因となります。このリピート伸長検査では、これらの点変異や欠失は検出されません。
※この検査は、CACNA1A遺伝子のCAGリピート伸長のみを対象としています。SCA6以外の脊髄小脳変性症の原因遺伝子(SCA1、2、3、7、17など)は検査されません。臨床的にSCA6が強く疑われる場合に実施される検査です。検査で異常が検出されなくても、他のタイプの脊髄小脳変性症の可能性を完全に否定することはできません。
結果が出るまでの期間
2週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が短くなります。
料金
税込み220,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 成人発症で緩徐進行性の歩行失調、ふらつき、構音障害(ろれつが回らない)、眼振などがある方におすすめします。特に、小脳症状が主体で他の神経症状が少なく、MRIで小脳萎縮(特に小脳虫部)が認められる場合はSCA6の可能性が高くなります。また、家族に同様の症状がある場合も検査をご検討ください。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- 他の脊髄小脳変性症との違いは何ですか?
- SCA6は「純粋小脳型」に分類され、小脳症状が主体で他の神経系統の症状が比較的少ないことが特徴です。また、進行が緩徐で、生命予後が比較的良好です。他のSCAタイプ(SCA1、2、3など)と比較してCAGリピート数が少なく(20~33回)、世代間でのリピート数の変化がほとんどありません。遺伝子検査により正確な診断が可能になります。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- SCA6は常染色体優性遺伝形式のため、患者さんのお子さんが変異遺伝子を受け継ぐ確率は50%です。変異遺伝子を受け継いだ場合、ほぼ100%発症します。ご家族の検査により、発症リスクを明らかにし、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。発症前診断を希望される場合は、十分な遺伝カウンセリングが必要です。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- この検査でCACNA1A遺伝子のCAGリピート伸長が検出されなかった場合、SCA6ではない可能性が高いですが、他のタイプの脊髄小脳変性症(SCA1、2、3、31など)の可能性は残ります。臨床症状が脊髄小脳変性症を強く示唆する場合は、他のSCAタイプの遺伝子検査を検討する必要があります。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み220,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。特に陽性結果の場合は、疾患の進行、予後、遺伝形式について十分な説明を行います。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- SCA6は常染色体優性遺伝形式のため、患者さんのお子さんが変異遺伝子を受け継ぐ確率は50%です。変異を受け継いだ場合、ほぼ100%発症します。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- SCA6の治療はどのように行われますか?
- 現在のところ根本的な治療法はありませんが、理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーション、転倒予防策、嚥下機能評価と誤嚥予防、構音障害への対応などが行われます。アセタゾラミド(ダイアモックス)が発作性の失調症状に有効な場合がありますが、疾患の進行を止めることはできません。適切な管理により、多くの患者さんは長期間にわたって日常生活を維持できます。
- 予後はどうですか?
- SCA6は緩徐進行性で、発症から25年以上の経過をたどることもあります。他のSCAタイプと比較して進行が遅く、生命予後は比較的良好です。多くの患者さんは、補助具を使用しながら長期間にわたって歩行可能な状態を維持できます。寿命は一般人口と大きく変わらないとされています。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。また、結果が約2週間で得られ、リーズナブルな料金設定となっています。
- 発症前診断は受けられますか?
- SCA6患者さんのご家族で、まだ症状が出ていない方の発症前診断(未発症保因者診断)も可能です。ただし、発症前診断には慎重な検討が必要で、十分な遺伝カウンセリングを受けていただくことが前提となります。検査を受けるかどうか、結果を知るかどうかは、ご本人の自律的な意思決定を尊重します。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら