(更新日:2025/10/02)
脊髄小脳失調症12型(SCA12)PPP2R2B遺伝子リピート伸長検査|ミネルバクリニック
脊髄小脳失調症12型(SCA12)とは
脊髄小脳失調症12型(Spinocerebellar Ataxia Type 12: SCA12)は、PPP2R2B遺伝子の5’非翻訳領域におけるCAGリピートの異常伸長により発症する、稀な常染色体優性(顕性)遺伝性の神経変性疾患です。脊髄小脳変性症の中でも特徴的な疾患で、運動失調に加えて振戦(ふるえ)を伴うことが大きな特徴です。
本疾患は1999年にアメリカで最初に報告され、その後インド、特にAgarwalコミュニティーで多数の患者さんが報告されています。日本では極めて稀で、2012年時点では報告例がない状況でしたが、国際的には徐々に症例が増加しており、遺伝学的診断の重要性が認識されています。
脊髄小脳変性症(SCD)は、小脳を中心とした神経の変性により運動失調を主症状とする疾患群の総称です。遺伝性と孤発性(遺伝歴のないもの)に大別され、全国で約3万人以上の患者さんがいると推定されています。遺伝性SCDの中でも常染色体優性遺伝形式をとるものが約90%以上を占めており、SCA12もその一つです。日本ではSCA3(マチャド・ジョセフ病)、SCA6、SCA31が多く、SCA12は極めて稀な疾患です。
症状と病態
脊髄小脳失調症12型の特徴は、小脳性運動失調に加えて、振戦(特に動作時振戦)が顕著に認められることです。また、パーキンソン症候を呈することもあり、他のSCAとは異なる臨床像を示します。
主要症状
動作時振戦(手を動かすときに起こる震え)
運動失調(歩行時のふらつき、協調運動障害)
構音障害(ろれつが回らない、話しにくい)
腱反射亢進(反射が強くなる)
軽度の認知機能障害(一部の症例)
パーキンソン症候(筋強剛、動作緩慢など)
発症年齢と進行
発症年齢は20代から60代と幅広く、平均的には30~40歳代での発症が多いとされています。症状は緩徐進行性で、最初は軽度の手の震えや歩行時のふらつきから始まり、徐々に構音障害や嚥下障害が加わってきます。
常染色体優性遺伝性SCDの中には「表現促進現象」(世代を経るごとに発症年齢が若年化し、症状が重症化する現象)が認められるものがありますが、SCA12ではその詳細はまだ十分に解明されていません。
他のSCAとの鑑別点
SCA12は振戦が顕著であることが特徴的で、これは他の多くのSCAではあまり目立たない症状です。また、パーキンソン症候を伴うこともあり、本態性振戦やパーキンソン病との鑑別が臨床上重要になります。
病理学的特徴
SCA12では、小脳皮質の変性に加えて、大脳皮質の変性も認められることがあります。これは他のSCAと比べて皮質の関与が目立つ点で特徴的です。MRI画像では小脳萎縮が認められ、進行例では大脳萎縮も観察されます。
遺伝形式と原因遺伝子
脊髄小脳失調症12型は常染色体優性(顕性)遺伝形式をとる遺伝性疾患です。これは、両親のどちらかが病的変異を持っていれば、子どもに50%の確率で変異が遺伝することを意味します。男女での発症頻度に差はありません。
PPP2R2B遺伝子とCAGリピート伸長
SCA12の原因は、第5染色体長腕(5q32)に位置するPPP2R2B遺伝子の5’非翻訳領域におけるCAGリピートの異常伸長です。PPP2R2B遺伝子は、プロテインホスファターゼ2A(PP2A)の調節サブユニットBβをコードしており、脳特異的に発現しています。
正常なCAGリピート数: 7~32回程度
SCA12患者のCAGリピート数: 43回以上(多くは43~78回)
非翻訳領域リピート病としての特徴
SCA12は、SCA8、SCA10、SCA31、SCA36とともに「非翻訳領域リピート病(RNAリピート病)」に分類されます。これらの疾患では、CAGリピートが遺伝子の翻訳されない領域に存在するため、ポリグルタミンタンパク質は産生されません。SCA12を除く他の非翻訳領域リピート病では、伸長RNAがRNA結合タンパク質と核内RNA凝集体(RNA foci)を形成し、核内タンパク質制御異常をもたらすことが病態の主なメカニズムと考えられています。
しかし、SCA12の詳細な発症メカニズムはまだ完全には解明されていません。CAGリピートの伸長がPPP2R2B遺伝子の発現にどのような影響を与え、神経変性を引き起こすのかについては、現在も研究が続けられています。
遺伝カウンセリングの重要性
常染色体優性遺伝の場合、患者さんの子どもが変異を受け継ぐ確率は50%です。家族計画を考える際には、遺伝カウンセリングを受けることが非常に重要です。また、発症前診断や出生前診断についても、専門家と十分に相談する必要があります。
ミネルバクリニックの脊髄小脳失調症12型 PPP2R2B遺伝子リピート伸長検査の特徴
「脊髄小脳失調症12型 PPP2R2B遺伝子リピート伸長検査」とは、PPP2R2B遺伝子の5’非翻訳領域におけるCAGリピートの伸長を調べる検査方法です。この検査により、SCA12の確定診断が可能になります。
SCA12は日本では極めて稀な疾患ですが、臨床症状から疑われる場合や、家族歴がある場合には、遺伝学的検査による確定診断が重要です。特に、振戦を主訴とする運動失調症の鑑別診断において、本検査は有用な情報を提供します。
ミネルバクリニックでは、SCA12を含む脊髄小脳変性症の遺伝子検査を専門的に行っており、臨床遺伝専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを担当いたします。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページ をご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で脊髄小脳変性症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、SCA12の原因遺伝子であるPPP2R2B遺伝子のCAGリピート伸長検査をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える脊髄小脳変性症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。
当院で行う「脊髄小脳失調症12型 PPP2R2B遺伝子リピート伸長検査」の場合、約2週間程度で結果を得ることが可能です。
3.専門的な遺伝カウンセリング
当院では臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。検査前のカウンセリングでは、検査の意義、結果の解釈、家族への影響などについて十分にご説明いたします。
また、検査結果が判明した後も、今後の治療方針、リハビリテーション、家族計画、出生前診断などについて、専門的な観点からサポートいたします。
検査内容
「脊髄小脳失調症12型 PPP2R2B遺伝子リピート伸長検査」では、PPP2R2B遺伝子の5’非翻訳領域におけるCAGリピートの長さを測定します。この検査は、リピートプライムドPCR(repeat-primed PCR: rpPCR)法とアンプリコン長解析により実施されます。
「脊髄小脳失調症12型 PPP2R2B遺伝子リピート伸長検査」は、SCA12の確定診断を可能にし、適切な治療・管理方針の決定に役立つ重要な情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【脊髄小脳失調症12型の症状を有する方、または家族歴のある方】に
「脊髄小脳失調症12型 PPP2R2B遺伝子リピート伸長検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・動作時振戦(手を動かすときの震え)がある方
・運動失調(歩行時のふらつき、協調運動障害)がある方
・構音障害(ろれつが回らない)がある方
・腱反射亢進が認められる方
・パーキンソン症候(筋強剛、動作緩慢)を伴う運動失調がある方
・振戦を伴う小脳性運動失調がある方
・脊髄小脳変性症の家族歴がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
・本態性振戦やパーキンソン病との鑑別が必要な方
この検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、脊髄小脳失調症12型の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・SCA12の確定診断
・本態性振戦、パーキンソン病、他のSCAとの鑑別
・適切なリハビリテーションプログラムの立案
・振戦に対する適切な治療選択
・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体優性遺伝であるため、子どもが変異を受け継ぐリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
検査方法
本検査では、以下の方法によりPPP2R2B遺伝子のCAGリピートを解析します:
・リピートプライムドPCR(repeat-primed PCR: rpPCR)
CAGリピートの異常伸長を検出するための高感度PCR法です。
・アンプリコン長解析
PCR産物の長さを測定することで、CAGリピート数を推定します。
これらの方法により、正常範囲(7~32回)と病的範囲(43回以上)のCAGリピート数を正確に判定することができます。ただし、大規模な伸長の場合、正確なリピート数の測定には限界がある場合があります。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能 です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
詳しくはこちら
すべてのリピート伸長検査には限界があります。この分析はリピートプライムドPCR(rpPCR)とアンプリコン長解析により実施され、PPP2R2B遺伝子のCAGリピート伸長の検査を目的として設計されています。
本検査では以下の制限事項があります:
リピートプライムドPCR法は、CAGリピートの異常伸長を検出できますが、大規模な伸長(200回以上など)の場合、正確なリピート数を測定できない可能性があります
この検査の範囲は、PPP2R2B遺伝子のCAGリピート伸長の解析に限定されています
遺伝子配列決定(シーケンス)や欠失・重複解析は含まれていません
PPP2R2B遺伝子の他の領域(コード領域、イントロン領域など)の変異は検出されません
メチル化解析は含まれていません
この検査は体細胞モザイク(一部の細胞のみに変異がある状態)の検出を目的として設計されていません
低頻度のモザイク変異は検出されない可能性があります
※SCA12は日本では極めて稀な疾患です。検査で病原性変異が検出されなくても、臨床症状が認められる場合は、他のSCAや神経変性疾患の可能性を考慮する必要があります。
※検査結果の解釈には、臨床症状、家族歴、画像所見などの総合的な評価が必要です。遺伝カウンセリングを通じて、検査結果の意義について十分にご説明いたします。
結果が出るまでの期間
料金
税込み220,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
動作時振戦(手を動かすときの震え)、運動失調(歩行時のふらつき)、構音障害(ろれつが回らない)などの症状がある方におすすめします。特に、振戦を伴う小脳性運動失調がある場合や、パーキンソン症候を呈する場合は、SCA12の可能性を考慮する必要があります。また、家族に脊髄小脳変性症の方がいる場合も検査をご検討ください。
検査はどのように行いますか?
血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
SCA12は日本では稀な疾患とのことですが、検査を受ける意義はありますか?
SCA12は日本では極めて稀ですが、振戦を伴う運動失調症の鑑別診断において重要です。本態性振戦やパーキンソン病との鑑別、他のSCAとの区別のためにも、遺伝学的検査による確定診断は有用です。また、家族計画や遺伝カウンセリングのためにも重要な情報となります。
家族も検査を受ける必要がありますか?
SCA12は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんのお子さんが変異を受け継ぐリスクは50%です。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。ただし、発症前診断には慎重な遺伝カウンセリングが必要です。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
検査で病原性変異が検出されなくても、臨床症状が認められる場合は、他のSCA(SCA3、SCA6、SCA31など)や神経変性疾患の可能性を考慮する必要があります。脊髄小脳変性症パネル検査など、より包括的な検査をご提案することもあります。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み220,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。CAGリピート数、結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
SCA12は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんの子どもが変異を受け継ぐ確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
SCA12の治療はどのように行われますか?
現在のところ根本的な治療法はありませんが、振戦に対する薬物療法、理学療法、作業療法などのリハビリテーション、必要に応じて装具療法などが行われます。振戦が強い場合は、β遮断薬や抗てんかん薬が有効なことがあります。
予後はどうですか?
SCA12は緩徐進行性の疾患で、発症から数十年かけて徐々に症状が進行します。適切なリハビリテーションと症状管理により、長期間にわたって日常生活機能を維持できることが多いです。ただし、CAGリピート数や発症年齢により進行速度は異なります。
他の医療機関での検査との違いは何ですか?
当院では臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。また、オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。検査前後の丁寧なカウンセリングにより、患者さんとご家族が十分に理解した上で検査を受けていただけます。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得 して以来、のべ10万人以上 のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら