ペルオキシソーム障害NGSパネル遺伝子検査|ミネルバクリニック
ペルオキシソーム障害とは
ペルオキシソーム障害(Peroxisomal Disorders)は、細胞内小器官であるペルオキシソームの機能異常によって引き起こされる遺伝性代謝疾患の総称です。ペルオキシソームは、細胞内で脂質代謝、活性酸素の解毒、胆汁酸合成、プラスマローゲン合成など、生命維持に重要な多くの代謝反応を担っています。
ペルオキシソーム障害は、大きく2つのグループに分類されます。1つはペルオキシソーム生合成障害(PEX遺伝子異常症)で、ペルオキシソームそのものの形成や構造に異常が生じるものです。もう1つは単一酵素欠損症で、ペルオキシソーム内の特定の酵素のみが欠損するものです。
ペルオキシソーム障害の症状は非常に多様で、聴力障害、視力障害、神経障害(けいれん、低緊張)、肝臓・腎臓疾患、副腎機能不全、発達遅延など、多臓器にわたる症状を呈します。これらの症状は出生時または乳児期早期から現れることが多く、進行性に悪化します。早期診断により、適切な多診療科チームによる管理が可能となります。
対象疾患
本検査パネルでは、以下の7つの主要なペルオキシソーム障害を対象としています:
ツェルウェガー症候群スペクトラム(Zellweger Spectrum Disorders)
ペルオキシソーム生合成障害の中で最も頻度が高く、重症度に幅があります。従来は、最重症型のツェルウェガー症候群、中等度の新生児型副腎白質ジストロフィー、比較的軽症の乳児型レフサム病の3つに分類されていましたが、現在はこれらを一連のスペクトラム疾患として捉えています。
主な症状:特徴的な顔貌(前額突出、大泉門開大、鼻根部扁平)、筋緊張低下、けいれん、肝腫大、腎嚢胞、点状石灰化、白内障、網膜色素変性、難聴、重度の発達遅滞
D-二機能酵素欠損症(D-bifunctional Enzyme Deficiency)
ペルオキシソームのβ酸化系酵素の一つであるD-二機能酵素の欠損により発症します。最も重症なペルオキシソーム単一酵素欠損症で、ツェルウェガー症候群に類似した症状を呈します。
主な症状:新生児期からの筋緊張低下、けいれん、特徴的な顔貌、肝腫大、進行性の神経変性、視力・聴力障害。多くの患者さんは2歳までに死亡します。
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-linked Adrenoleukodystrophy)
最も頻度の高いペルオキシソーム障害の一つで、X染色体連鎖性の遺伝形式をとります。超長鎖脂肪酸の蓄積により、中枢神経系の白質脱髄と副腎機能不全を引き起こします。
主な病型:
・小児大脳型(3-10歳発症):急速進行性の脱髄、認知機能低下、視力・聴力障害
・副腎脊髄ニューロパチー(20歳以降発症):痙性歩行、排尿障害
・アジソン型:副腎機能不全のみ
女性保因者の20-50%にも何らかの症状が出現します。
アシル-CoAオキシダーゼ欠損症(Acyl-CoA Oxidase Deficiency)
ペルオキシソームβ酸化系の第一段階を担うアシル-CoAオキシダーゼの欠損により発症します。D-二機能酵素欠損症よりは軽症傾向ですが、進行性の神経変性を呈します。
主な症状:新生児期の筋緊張低下、けいれん、一度獲得した運動・言語機能の退行(1-3歳)、白質脱髄、視力・聴力障害。多くの患者さんは小児期早期に死亡します。
根性点状軟骨異形成症(Rhizomelic Chondrodysplasia Punctata)
ペルオキシソーム生合成障害の一つで、PEX7遺伝子異常が原因です。致死性の骨系統疾患で、点状石灰化を伴う近位優位の四肢短縮症が特徴です。
主な症状:四肢短縮(特に上腕・大腿骨)、点状石灰化、特徴的な顔貌、白内障、重度の精神運動発達遅滞、てんかん。重症度には幅があり、多くの患者さんは10歳までに死亡しますが、軽症例では成人まで生存します。
レフサム病(Refsum Disease)
フィタン酸α酸化を担うphytanoyl-CoA hydroxylase(PHYH)の欠損により、フィタン酸が蓄積する疾患です。成人型のペルオキシソーム障害で、英国や北欧に多く報告されています。
主な症状:網膜色素変性症、慢性多発性神経炎、小脳失調、難聴、魚鱗癬、心電図異常。食事療法(フィタン酸制限)や血漿交換療法が有効です。
ハイムラー症候群(Heimler Syndrome)
ツェルウェガー症候群スペクトラムの最も軽症な病型で、PEX1またはPEX6遺伝子の低活性型変異により発症します。2015年に原因遺伝子が同定された比較的新しい疾患概念です。
主な症状:感音性難聴、エナメル質形成不全(歯の異常)、爪の異常、網膜色素変性(遅発性または軽度)。ペルオキシソーム機能障害は非常に軽度で、通常の生化学検査では検出されないことが多いです。
症状と病態
ペルオキシソーム障害は多臓器にわたる症状を呈し、その重症度と進行速度は原因遺伝子と変異の種類によって大きく異なります。
神経学的症状
- 重度の筋緊張低下(フロッピーインファント)
- けいれん・てんかん(難治性のことが多い)
- 重度の精神運動発達遅滞
- 発達退行(一度獲得した能力の喪失)
- 脳白質脱髄(MRIで確認可能)
- 小脳失調
- 末梢神経障害
感覚器症状
- 視力障害:白内障、緑内障、角膜混濁、網膜色素変性
- 聴力障害:感音性難聴
顔貌・骨格系の異常
- 特徴的な顔貌:前額突出、大泉門開大、鼻根部扁平、眼間開離、小顎
- 四肢短縮(特に上腕・大腿骨)
- 関節の異常石灰化・点状石灰化
- 凹足
内臓症状
- 肝腫大、肝機能障害
- 腎皮質嚢胞
- 副腎機能不全
- 心臓異常(心室中隔欠損など)
皮膚症状
その他
生化学的異常
ペルオキシソーム障害では、以下のような生化学的異常が認められます:
- 超長鎖脂肪酸(VLCFA)の蓄積
- プラスマローゲンの低下
- フィタン酸・プリスタン酸の蓄積
- 胆汁酸中間代謝産物の蓄積
- ピペコリン酸の増加
予後
重症型(ツェルウェガー症候群、D-二機能酵素欠損症など)では、多くの患者さんが生後数ヶ月から2歳までに死亡します。中等度から軽症型では、適切な管理により長期生存が可能ですが、進行性の神経症状や視力・聴力障害などにより、QOLが著しく低下します。早期診断と多診療科チームによる包括的な管理が、予後の改善に重要です。
遺伝形式と原因遺伝子
ペルオキシソーム障害の多くは常染色体劣性(潜性)遺伝形式をとりますが、X連鎖性副腎白質ジストロフィーのみX連鎖性遺伝形式をとります。
ペルオキシソーム生合成障害(PEX遺伝子異常症)
これまでに13個のPEX遺伝子異常が同定されており、ペルオキシソームの膜の生合成やタンパク質の局在に関与しています。
ツェルウェガー症候群スペクトラム:
PEX7を除く12個のPEX遺伝子(PEX1、PEX2、PEX3、PEX5、PEX6、PEX10、PEX11B、PEX12、PEX13、PEX14、PEX16、PEX19、PEX26)の異常により発症します。最も頻度が高いのはPEX1遺伝子変異(約60%)で、次いでPEX6遺伝子変異(約30%)です。
根性点状軟骨異形成症1型:
PEX7遺伝子の異常により発症します。PEX7はペルオキシソームターゲティングシグナル2(PTS2)受容体をコードしており、この遺伝子の異常により、プラスマローゲン合成系酵素がペルオキシソームに取り込まれなくなります。
ハイムラー症候群:
PEX1またはPEX6遺伝子の低活性型(hypomorphic)変異により発症します。少なくとも1つの対立遺伝子が低活性型変異であるため、ペルオキシソーム機能障害は非常に軽度です。
ペルオキシソーム単一酵素欠損症
X連鎖性副腎白質ジストロフィー:
ABCD1遺伝子の異常により発症します。X染色体上に位置するため、X連鎖性劣性遺伝形式をとり、主に男性が発症します。ABCD1は超長鎖脂肪酸のペルオキシソームへの輸送に関与するタンパク質(ALDP)をコードしています。日本では男性の2-3万人に1人の頻度で発症します。女性保因者の20-50%にも症状が出現します。
D-二機能酵素欠損症:
HSD17B4遺伝子の異常により発症します。ペルオキシソームβ酸化系の第2・第3段階を担う酵素をコードしており、常染色体劣性遺伝形式をとります。
アシル-CoAオキシダーゼ欠損症:
ACOX1遺伝子の異常により発症します。ペルオキシソームβ酸化系の第1段階を担う酵素をコードしており、常染色体劣性遺伝形式をとります。
レフサム病:
PHYH遺伝子の異常により発症します。フィタン酸α酸化の第1段階を担う酵素をコードしており、常染色体劣性遺伝形式をとります。
根性点状軟骨異形成症2型・3型:
GNPAT遺伝子(2型)またはAGPS遺伝子(3型)の異常により発症します。いずれもプラスマローゲン合成に関与する酵素をコードしており、常染色体劣性遺伝形式をとります。
遺伝カウンセリングの重要性
常染色体劣性遺伝の場合、両親がともに保因者であれば、子どもが発症する確率は25%、保因者となる確率は50%、正常である確率は25%です。X連鎖性遺伝の場合、保因者である母親から生まれる男児が発症する確率は50%、女児が保因者となる確率は50%です。家族計画を考える際には、遺伝カウンセリングが非常に重要です。
ミネルバクリニックのペルオキシソーム障害遺伝子パネル検査の特徴
「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」とは、現在ペルオキシソーム障害の原因として報告されている21の遺伝子に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、ペルオキシソーム障害に関連する21遺伝子を一度に調べられる「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関でペルオキシソーム障害の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、ペルオキシソーム障害に関係するとされる21の遺伝子を一度に調べられる「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行えるペルオキシソーム障害の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」の場合、21の遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
臨床症状からペルオキシソーム障害を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」ならば、臨床的に重要な21の原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」では、ペルオキシソーム障害に関係するとされる21種類の遺伝子(ABCD1、ABCD3、ACOX1、AGPS、DNM1L、HSD17B4、PEX1、PEX10、PEX11B、PEX12、PEX13、PEX14、PEX16、PEX19、PEX2、PEX26、PEX3、PEX5、PEX6、PEX7、PHYH)をまとめて検査します。
「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」は、ペルオキシソーム障害の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【ペルオキシソーム障害の個人歴または家族歴のある方】に
「ペルオキシソーム障害 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・新生児期または乳児期早期からの重度の筋緊張低下がある方
・難治性けいれん・てんかんがある方
・重度の精神運動発達遅滞がある方
・特徴的な顔貌(前額突出、大泉門開大、鼻根部扁平など)がある方
・白内障、緑内障、網膜色素変性などの視力障害がある方
・感音性難聴がある方
・肝腫大または肝機能障害がある方
・副腎機能不全がある方
・四肢短縮や点状石灰化などの骨格異常がある方
・小児期からの白質脱髄が認められる方
・末梢神経障害や小脳失調がある方
・魚鱗癬がある方
・ペルオキシソーム障害の家族歴がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、ペルオキシソーム障害の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、多診療科チームによる包括的な管理、定期的なモニタリング、症状に応じた対症療法を行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・他の先天性代謝異常症や神経疾患との鑑別
・多診療科チーム(神経内科、小児科、眼科、耳鼻科、肝臓内科、内分泌内科など)による包括的な管理計画の立案
・けいれんの適切な管理
・視力・聴力障害への早期対応
・肝機能・腎機能・副腎機能のモニタリング
・栄養管理(特定の脂肪酸制限など)
・呼吸管理
・理学療法・作業療法の早期導入
・一部の疾患(レフサム病など)では特異的治療法の適応判断
・疾患の進行予測と予後の推定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体劣性遺伝の場合は兄弟姉妹が発症するリスクは25%です。X連鎖性副腎白質ジストロフィーの場合、保因者である母親から生まれる男児が発症するリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
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ABCD1, ABCD3, ACOX1, AGPS, DNM1L, HSD17B4, PEX1, PEX10, PEX11B, PEX12, PEX13, PEX14, PEX16, PEX19, PEX2, PEX26, PEX3, PEX5, PEX6, PEX7, PHYH ( 21遺伝子 )
各遺伝子の詳細:
ペルオキシソーム生合成関連遺伝子(PEX遺伝子):
・PEX1遺伝子:
ペルオキシソーム生合成因子1をコードする遺伝子。ツェルウェガー症候群スペクトラムの原因遺伝子として最も頻度が高く(約60%)、ハイムラー症候群の原因遺伝子でもあります。
・PEX2遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。ツェルウェガー症候群スペクトラムの原因遺伝子の一つです。
・PEX3遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。ペルオキシソーム膜の形成に必須です。
・PEX5遺伝子:
ペルオキシソームターゲティングシグナル1(PTS1)受容体をコードする遺伝子。ペルオキシソームへのタンパク質輸送に関与します。
・PEX6遺伝子:
ペルオキシソーム生合成因子6をコードする遺伝子。ツェルウェガー症候群スペクトラムの原因遺伝子として2番目に頻度が高く(約30%)、ハイムラー症候群の原因遺伝子でもあります。
・PEX7遺伝子:
ペルオキシソームターゲティングシグナル2(PTS2)受容体をコードする遺伝子。根性点状軟骨異形成症1型の原因遺伝子です。
・PEX10遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。日本人のツェルウェガー症候群スペクトラムで比較的頻度が高い原因遺伝子です。
・PEX11B遺伝子:
ペルオキシソームの分裂に関与するタンパク質をコードする遺伝子。
・PEX12遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。
・PEX13遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。タンパク質輸送に関与します。
・PEX14遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。タンパク質輸送に関与します。
・PEX16遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。ペルオキシソーム膜の形成に関与します。
・PEX19遺伝子:
ペルオキシソーム生合成因子19をコードする遺伝子。ペルオキシソーム膜タンパク質のシャペロンとして機能します。
・PEX26遺伝子:
ペルオキシソーム膜タンパク質をコードする遺伝子。PEX1やPEX6の機能を補助します。
ペルオキシソーム酵素関連遺伝子:
・ABCD1遺伝子:
ATP結合カセット輸送体D1(ALDP)をコードする遺伝子。X連鎖性副腎白質ジストロフィーの原因遺伝子です。超長鎖脂肪酸のペルオキシソームへの輸送に関与します。
・ABCD3遺伝子:
ATP結合カセット輸送体D3をコードする遺伝子。脂肪酸の輸送に関与します。
・ACOX1遺伝子:
アシル-CoAオキシダーゼ1をコードする遺伝子。ペルオキシソームβ酸化系の第1段階を担う酵素です。アシル-CoAオキシダーゼ欠損症の原因遺伝子です。
・HSD17B4遺伝子:
D-二機能酵素(D-bifunctional protein)をコードする遺伝子。ペルオキシソームβ酸化系の第2・第3段階を担う酵素です。D-二機能酵素欠損症の原因遺伝子で、最も重症なペルオキシソーム単一酵素欠損症です。
・PHYH遺伝子:
フィタノイル-CoAヒドロキシラーゼをコードする遺伝子。フィタン酸α酸化の第1段階を担う酵素です。レフサム病の原因遺伝子です。
・AGPS遺伝子:
アルキルジヒドロキシアセトンリン酸合成酵素をコードする遺伝子。プラスマローゲン合成に関与します。根性点状軟骨異形成症3型の原因遺伝子です。
・GNPAT遺伝子(本パネルには含まれていませんが関連遺伝子として記載):
ジヒドロキシアセトンリン酸アシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子。プラスマローゲン合成に関与します。根性点状軟骨異形成症2型の原因遺伝子です。
その他:
・DNM1L遺伝子:
ダイナミン関連タンパク質1(DRP1)をコードする遺伝子。ペルオキシソームの分裂に関与します。
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度平均20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
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すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
※この検査パネルでは、21の原因遺伝子のみを対象としています。稀なペルオキシソーム障害の一部は、このパネルに含まれていない遺伝子の変異により発症します。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。臨床症状と生化学検査に基づいた診断が引き続き重要です。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 新生児期または乳児期早期からの重度の筋緊張低下、難治性けいれん、重度の発達遅滞がある方におすすめします。特に、特徴的な顔貌(前額突出、大泉門開大、鼻根部扁平など)、白内障や緑内障などの眼科的異常、感音性難聴、肝腫大、副腎機能不全、四肢短縮や点状石灰化などの骨格異常がある場合は、ペルオキシソーム障害の可能性が高くなります。また、家族に同様の症状がある場合も検査をご検討ください。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- ペルオキシソーム障害はどのように診断されますか?
- ペルオキシソーム障害の診断は、臨床症状、生化学検査(超長鎖脂肪酸、プラスマローゲン、フィタン酸など)、画像検査、そして遺伝子検査を組み合わせて行います。遺伝子検査により原因遺伝子を特定することで、確定診断が可能となり、適切な管理方針を立てることができます。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- ペルオキシソーム障害の多くは常染色体劣性遺伝で、両親がともに保因者の場合、次子が発症する確率は25%です。X連鎖性副腎白質ジストロフィーの場合、保因者である母親から生まれる男児が発症する確率は50%です。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。保因者診断や出生前診断についても遺伝カウンセリングでご相談いただけます。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- このパネルには主要な21遺伝子が含まれていますが、稀なペルオキシソーム障害の一部は、パネルに含まれていない遺伝子の変異により発症します。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。臨床症状と生化学検査に基づいた診断と管理が引き続き重要です。
- ペルオキシソーム障害の治療法はありますか?
- 現在のところ、多くのペルオキシソーム障害に対する根本的な治療法はありませんが、対症療法や支持療法により症状を緩和し、QOLを改善することができます。レフサム病では食事療法(フィタン酸制限)や血漿交換療法が有効です。X連鎖性副腎白質ジストロフィーの小児大脳型では、早期の造血幹細胞移植が有効な場合があります。その他、けいれんに対する抗てんかん薬、栄養管理、理学療法、作業療法、補聴器や眼鏡の使用、肝機能・腎機能・副腎機能のモニタリングと補充療法などが行われます。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。病原性変異が見つかった場合は、疾患の予後や管理方法について詳しくご説明し、多診療科チームとの連携をサポートします。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- 常染色体劣性遺伝の場合、保因者同士のカップルで子どもが発症する確率は25%、保因者となる確率は50%です。X連鎖性副腎白質ジストロフィーの場合、保因者である母親から生まれる男児が発症する確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- 予後はどうですか?
- 予後は原因遺伝子と変異の種類、症状の重症度によって大きく異なります。重症型(ツェルウェガー症候群、D-二機能酵素欠損症など)では、多くの患者さんが生後数ヶ月から2歳までに死亡します。中等度から軽症型では、適切な多診療科チームによる管理により、長期生存が可能ですが、進行性の神経症状や視力・聴力障害などにより、QOLが著しく低下することがあります。レフサム病やハイムラー症候群など一部の疾患では、適切な管理により比較的良好な予後が期待できます。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では臨床的に重要な21の原因遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。また、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。結果説明では、疾患の予後や管理方法について詳しくご説明し、必要に応じて専門医療機関へのご紹介もサポートします。
- 生化学検査との違いは何ですか?
- ペルオキシソーム障害の診断には、超長鎖脂肪酸、プラスマローゲン、フィタン酸などの生化学検査が重要です。しかし、ハイムラー症候群のように生化学検査では異常が検出されにくい軽症型も存在します。遺伝子検査により原因遺伝子を特定することで、生化学検査では診断が困難な症例でも確定診断が可能となり、より正確な予後予測や家族計画のための情報提供ができます。理想的には、生化学検査と遺伝子検査を組み合わせて診断することが推奨されます。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら