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乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGS遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック

乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGS遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック

乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症とは

乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症は、細胞のエネルギー産生に重要なピルビン酸の代謝経路に障害が生じることで、血液中に乳酸が過剰に蓄積し、血液が酸性に傾く状態を引き起こす遺伝性代謝疾患の総称です。

これらの疾患は、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)の欠損症、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症、ミトコンドリア病、呼吸鎖複合体異常症などを含む広範な疾患群です。多くの場合、ミトコンドリアDNAまたは核DNAの遺伝子変異が原因となり、細胞のエネルギー産生が障害されます。

乳酸アシドーシスとは、血液中の乳酸濃度が5mM(45mg/dL)以上に上昇し、血液のpHが7.35以下になった状態を指します。ピルビン酸は糖代謝における重要な中間代謝物であり、正常な状態では酸素を用いてミトコンドリアでアセチルCoAに変換され、エネルギー産生に利用されます。しかし、ピルビン酸代謝に関わる酵素の遺伝的欠損により、ピルビン酸が正常に代謝されず乳酸に変換されて蓄積することで、深刻な代謝異常を引き起こします。

疾患の分類

遺伝性の乳酸アシドーシスを引き起こす主な疾患には以下があります:

  • ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症:最も頻度の高いピルビン酸代謝異常症で、PDHA1、PDHB、DLAT、DLD、PDHX、PDP1などの遺伝子変異が原因となります
  • ピルビン酸カルボキシラーゼ(PC)欠損症:糖新生の障害を伴う重症型の代謝異常症です
  • ミトコンドリア呼吸鎖複合体異常症:複合体I、II、III、IV、Vの機能障害により、ATP産生が低下します
  • ミトコンドリアDNA関連疾患:MELAS、MERRF、リー症候群などの疾患を含みます
  • その他のミトコンドリア病:コエンザイムQ10生合成異常症、ミトコンドリアDNA枯渇症候群など

症状と病態

乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の症状は、原因疾患、発症年齢、重症度によって大きく異なりますが、エネルギー需要の高い臓器(脳、筋肉、心臓)に症状が現れやすいことが特徴です。

主要症状

  • 神経症状:発達遅滞、精神運動制止、けいれん発作、筋緊張低下、運動失調、脳症
  • 筋症状:筋力低下、易疲労性、筋肉痛、運動不耐性
  • 代謝異常:繰り返す乳酸アシドーシス、低血糖、高アンモニア血症
  • 消化器症状:哺乳不良、嘔吐、食欲不振、体重増加不良
  • 呼吸器症状:多呼吸、クスマウル呼吸(深く速い呼吸)
  • 心血管系症状:心筋症、不整脈、心不全
  • 眼症状:視神経萎縮、網膜色素変性、外眼筋麻痺
  • 聴覚症状:感音性難聴
  • その他:肝機能障害、腎機能障害、低身長

発症年齢による特徴

新生児期・乳児期発症型:
重症型が多く、哺乳不良、筋緊張低下、呼吸障害、乳酸アシドーシスで発症します。ピルビン酸脱水素酵素欠損症の一部やミトコンドリア呼吸鎖複合体異常症の重症型がこの時期に発症することがあります。

幼児期・学童期発症型:
発達遅滞、けいれん発作、運動失調、筋力低下などで発症します。リー症候群(亜急性壊死性脳脊髄症)やMELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群)などがこの時期に発症することがあります。

成人発症型:
筋力低下、易疲労性、糖尿病、難聴などで発症することがあります。一部のミトコンドリア病は成人期に発症します。

代表的な疾患とその特徴

ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症:
最も頻度の高いピルビン酸代謝異常症で、X連鎖性遺伝のPDHA1遺伝子変異が全体の約6割を占めます。新生児期からの重症型では脳の形成異常を伴うことがあり、軽症型では間欠性の運動失調や発達遅滞で発症します。

MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群):
ミトコンドリアDNAのm.3243A>G変異が最も多く、脳卒中様発作、けいれん、認知症、糖尿病、難聴などを特徴とします。

リー症候群(亜急性壊死性脳脊髄症):
乳児期から幼児期に発症し、精神運動発達退行、筋緊張低下、呼吸障害、眼球運動障害を特徴とします。脳MRIで基底核や脳幹に特徴的な病変を認めます。

急性増悪の誘因

以下のような状況で症状が急激に悪化することがあります:

  • 感染症(風邪、胃腸炎など)
  • 絶食、脱水
  • 過度の運動
  • 手術、麻酔
  • 高糖質食の過剰摂取
  • 特定の薬剤(バルプロ酸など)

遺伝形式と原因遺伝子

乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症は遺伝学的に非常に多様で、常染色体劣性(潜性)遺伝、常染色体優性(顕性)遺伝、X連鎖遺伝、ミトコンドリア母系遺伝のいずれの形式でも発症します。

主要な遺伝形式と原因遺伝子

X連鎖遺伝:

  • PDHA1遺伝子:ピルビン酸脱水素酵素E1α(PDH-E1α)をコードし、PDHC欠損症の約60%を占める最も頻度の高い原因遺伝子です

常染色体劣性(潜性)遺伝:

  • PC遺伝子:ピルビン酸カルボキシラーゼをコードし、糖新生障害を引き起こします
  • PDHB、DLAT、DLD、PDHX遺伝子:PDHCの各構成成分をコードします
  • NDUFS1, NDUFS2, NDUFS3, NDUFS4, NDUFS6, NDUFS7, NDUFS8, NDUFV1遺伝子:ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの構成成分をコードします
  • SURF1, SCO2, COX10, COX15, COX6B1遺伝子:ミトコンドリア呼吸鎖複合体IVの構成成分または組み立てに関与します
  • BCS1L, UQCRB遺伝子:ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIに関与します
  • ATP5F1E, TMEM70, ATPAF2遺伝子:ミトコンドリアATP合成酵素(複合体V)に関与します
  • COQ2, COQ8A, COQ9, PDSS1, PDSS2遺伝子:コエンザイムQ10の生合成に関与します
  • SUCLA2, SUCLG1遺伝子:コハク酸-CoAリガーゼをコードし、TCA回路に関与します
  • FH遺伝子:フマラーゼをコードし、TCA回路に関与します
  • その他多数の遺伝子:ミトコンドリアDNA維持、翻訳、組み立てに関与する遺伝子群

常染色体優性(顕性)遺伝:

  • PDP1遺伝子:PDHCの調節に関与するピルビン酸脱水素酵素ホスファターゼをコードします

ミトコンドリア母系遺伝:

  • ミトコンドリアDNA上の遺伝子変異(tRNA遺伝子、複合体I、III、IVのサブユニット遺伝子など)により、母親から子どもへ遺伝します

当検査パネルでは、これらの原因遺伝子のうち、臨床的に重要な70遺伝子(核DNA上の遺伝子)を対象としています。これにより、乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の主要な核遺伝子の原因を効率的にスクリーニングすることが可能です。

ミネルバクリニックの乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査の特徴

「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」とは、現在乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の原因として報告されている70の遺伝子に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。

従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。

何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症に関連する70遺伝子を一度に調べられる「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」を採用しています。

一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。

1.費用がリーズナブル

一般的な医療機関で乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。

当院では、乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症に関係するとされる70の遺伝子を一度に調べられる「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)

2.結果が出るまでがはやい

一般的な医療機関で行える乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。

当院で行う「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」の場合、70の遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。

3.一気にまとめてできる

臨床症状から乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。

当院で行う「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」ならば、臨床的に重要な70の原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。

オプション

塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)

検査内容

「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」では、乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症に関係するとされる70種類の遺伝子(ACAD9、APTX、ATP5F1E、ATPAF2、BCS1L、COQ2、COQ8A、COQ9、COX10、COX15、COX6B1、DARS2、DGUOK、DLAT、DLD、DNM1L、ETFA、ETFB、ETFDH、ETHE1、FBP1、FH、FOXRED1、G6PC、GFM1、GYS2、ISCU、LRPPRC、MRPS16、MRPS22、NDUFA11、NDUFAF1、NDUFAF3、NDUFAF4、NDUFAF5、NDUFAF6、NDUFS1、NDUFS2、NDUFS3、NDUFS4、NDUFS6、NDUFS7、NDUFS8、NDUFV1、PC、PDHA1、PDHB、PDHX、PDP1、PDSS1、PDSS2、PLPBP、POLG、PUS1、RRM2B、SCO2、SLC25A3、SLC25A4、SUCLA2、SUCLG1、SURF1、TAZ、TK2、TMEM70、TRMU、TSFM、TUFM、TYMP、UQCRB、YARS2)をまとめて検査します。

「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」は、乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。

どんな人が受けたらいいの?

【乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症またはミトコンドリア病の個人歴または家族歴のある方】に
「乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。

この検査は以下のような方に適しています:
・繰り返す乳酸アシドーシスのエピソードがある方
・原因不明の発達遅滞または精神運動制止がある方
・けいれん発作、筋緊張低下、運動失調などの神経症状がある方
・筋力低下、易疲労性、運動不耐性がある方
・脳MRIで基底核や脳幹に病変を認める方
・血液または髄液の乳酸値が繰り返し高値の方
・原因不明の心筋症または不整脈がある方
・糖尿病と難聴を合併している方
・脳卒中様発作を繰り返す方
・外眼筋麻痺、視神経萎縮、網膜色素変性がある方
・乳酸アシドーシス、ピルビン酸代謝異常症、またはミトコンドリア病の家族歴がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方

このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。

検査で得られる患者さんの潜在的利益は?

遺伝子検査により原因が判明すると、乳酸アシドーシス・ピルビン酸代謝異常症の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、適切な栄養管理、ビタミン補充療法、急性増悪の予防、定期的なモニタリングを行うことができます。

遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・他の神経筋疾患や代謝疾患との鑑別
・適切な食事療法(高脂肪・低炭水化物食など)の立案
・ビタミンB1(チアミン)、コエンザイムQ10、L-カルニチンなどの補充療法の適応判断
・急性増悪時の適切な治療方針の決定
・感染症、絶食、過度の運動などの増悪因子の回避
・バルプロ酸など避けるべき薬剤の特定
・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案
・心筋症、糖尿病、難聴などの合併症の早期発見と管理
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供

患者さんで病原性変異が同定された場合、遺伝形式に応じて家族の発症リスクが異なります。常染色体劣性遺伝の場合は兄弟姉妹が発症するリスクは25%、X連鎖遺伝のPDHA1変異の場合は男児が発症するリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。

対象遺伝子

詳しくはこちら

ACAD9, APTX, ATP5F1E, ATPAF2, BCS1L, COQ2, COQ8A, COQ9, COX10, COX15, COX6B1, DARS2, DGUOK, DLAT, DLD, DNM1L, ETFA, ETFB, ETFDH, ETHE1, FBP1, FH, FOXRED1, G6PC, GFM1, GYS2, ISCU, LRPPRC, MRPS16, MRPS22, NDUFA11, NDUFAF1, NDUFAF3, NDUFAF4, NDUFAF5, NDUFAF6, NDUFS1, NDUFS2, NDUFS3, NDUFS4, NDUFS6, NDUFS7, NDUFS8, NDUFV1, PC, PDHA1, PDHB, PDHX, PDP1, PDSS1, PDSS2, PLPBP, POLG, PUS1, RRM2B, SCO2, SLC25A3, SLC25A4, SUCLA2, SUCLG1, SURF1, TAZ, TK2, TMEM70, TRMU, TSFM, TUFM, TYMP, UQCRB, YARS2 ( 70遺伝子 )

各遺伝子の詳細:

【ピルビン酸代謝関連遺伝子】

・PC遺伝子:
ピルビン酸カルボキシラーゼをコードする遺伝子。糖新生の重要な酵素で、欠損すると重症の乳酸アシドーシス、ケトアシドーシス、高アンモニア血症を引き起こします。

・PDHA1遺伝子:
ピルビン酸脱水素酵素複合体E1αサブユニットをコードする遺伝子。X連鎖遺伝形式で、PDHC欠損症の約60%を占める最も頻度の高い原因遺伝子です。

・PDHB遺伝子:
ピルビン酸脱水素酵素複合体E1βサブユニットをコードする遺伝子。常染色体劣性遺伝形式です。

・DLAT遺伝子:
ピルビン酸脱水素酵素複合体E2サブユニット(ジヒドロリポイルアセチルトランスフェラーゼ)をコードする遺伝子。

・DLD遺伝子:
ピルビン酸脱水素酵素複合体E3サブユニット(ジヒドロリポアミド脱水素酵素)をコードする遺伝子。PDHCだけでなく、α-ケトグルタル酸脱水素酵素や分枝鎖α-ケト酸脱水素酵素の共通成分でもあります。

・PDHX遺伝子:
ピルビン酸脱水素酵素複合体のX成分(E3結合タンパク質)をコードする遺伝子。

・PDP1遺伝子:
ピルビン酸脱水素酵素ホスファターゼ触媒サブユニット1をコードする遺伝子。PDHCの脱リン酸化による活性化に関与します。

【ミトコンドリア呼吸鎖複合体I関連遺伝子】

・NDUFS1, NDUFS2, NDUFS3, NDUFS4, NDUFS6, NDUFS7, NDUFS8遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体I(NADHデヒドロゲナーゼ)のコアサブユニットをコードする遺伝子群。これらの変異はリー症候群やリー様症候群の原因となります。

・NDUFV1遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iのフラビンモノヌクレオチド結合サブユニットをコードする遺伝子。

・NDUFA11遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの副サブユニットをコードする遺伝子。

・NDUFAF1, NDUFAF3, NDUFAF4, NDUFAF5, NDUFAF6遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの組み立て因子をコードする遺伝子群。

・FOXRED1遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの組み立てに関与するFAD依存性酸化還元酵素をコードする遺伝子。

・ACAD9遺伝子:
アシルCoA脱水素酵素ファミリーメンバー9をコードする遺伝子。脂肪酸β酸化だけでなく、複合体Iの組み立てにも関与します。

【ミトコンドリア呼吸鎖複合体III関連遺伝子】

・BCS1L遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体III(ユビキノール-チトクロムc還元酵素)の組み立て因子をコードする遺伝子。GRACILE症候群の原因遺伝子としても知られています。

・UQCRB遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体IIIのサブユニットVIIをコードする遺伝子。

【ミトコンドリア呼吸鎖複合体IV関連遺伝子】

・SURF1遺伝子:
ミトコンドリア呼吸鎖複合体IV(チトクロムc酸化酵素)の組み立て因子をコードする遺伝子。リー症候群の主要な原因遺伝子の一つです。

・SCO2遺伝子:
チトクロムc酸化酵素の銅シャペロンをコードする遺伝子。複合体IVの組み立てに必須です。

・COX10遺伝子:
ヘムAファルネシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子。複合体IVのヘムA合成に関与します。

・COX15遺伝子:
ヘムA合成酵素をコードする遺伝子。複合体IVの組み立てに関与します。

・COX6B1遺伝子:
チトクロムc酸化酵素サブユニット6B1をコードする遺伝子。

【ミトコンドリアATP合成酵素(複合体V)関連遺伝子】

・ATP5F1E遺伝子:
ミトコンドリアATP合成酵素F1εサブユニットをコードする遺伝子。

・TMEM70遺伝子:
ミトコンドリアATP合成酵素の組み立て因子をコードする遺伝子。新生児期発症の重症型ATP合成酵素欠損症の主要な原因です。

・ATPAF2遺伝子:
ミトコンドリアATP合成酵素の組み立て因子2をコードする遺伝子。

【コエンザイムQ10生合成関連遺伝子】

・COQ2遺伝子:
コエンザイムQ10生合成のパラヒドロキシベンゾエート-ポリプレニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子。

・COQ8A(ADCK3)遺伝子:
コエンザイムQ10生合成に関与するATPaseドメイン含有キナーゼをコードする遺伝子。小脳性運動失調を特徴とします。

・COQ9遺伝子:
コエンザイムQ10生合成タンパク質9をコードする遺伝子。

・PDSS1遺伝子:
デカプレニルジホスフェート合成酵素サブユニット1をコードする遺伝子。コエンザイムQ10のイソプレノイド側鎖合成に関与します。

・PDSS2遺伝子:
デカプレニルジホスフェート合成酵素サブユニット2をコードする遺伝子。

【TCA回路関連遺伝子】

・SUCLA2遺伝子:
コハク酸-CoAリガーゼADPフォーミングβサブユニットをコードする遺伝子。TCA回路の酵素で、リー様症候群の原因となります。

・SUCLG1遺伝子:
コハク酸-CoAリガーゼGDPフォーミングαサブユニットをコードする遺伝子。

・FH遺伝子:
フマラーゼをコードする遺伝子。TCA回路の酵素で、欠損すると重症の乳酸アシドーシスを引き起こします。

【ミトコンドリアDNA維持関連遺伝子】

・POLG遺伝子:
ミトコンドリアDNAポリメラーゼγ触媒サブユニットをコードする遺伝子。ミトコンドリアDNA枯渇症候群やアルパース症候群の原因となります。

・TK2遺伝子:
チミジンキナーゼ2をコードする遺伝子。ミトコンドリアDNA枯渇症候群(筋型)の原因です。

・DGUOK遺伝子:
デオキシグアノシンキナーゼをコードする遺伝子。ミトコンドリアDNA枯渇症候群(肝脳型)の原因です。

・RRM2B遺伝子:
リボヌクレオチド還元酵素制御サブユニットM2Bをコードする遺伝子。ミトコンドリアDNA枯渇症候群の原因となります。

・TYMP遺伝子:
チミジンホスホリラーゼをコードする遺伝子。ミトコンドリア神経消化管脳筋症(MNGIE)の原因です。

【ミトコンドリアタンパク質翻訳関連遺伝子】

・GFM1遺伝子:
ミトコンドリア翻訳伸長因子G1をコードする遺伝子。

・TSFM遺伝子:
ミトコンドリア翻訳伸長因子Tsをコードする遺伝子。

・TUFM遺伝子:
ミトコンドリア翻訳伸長因子Tuをコードする遺伝子。

・DARS2遺伝子:
ミトコンドリアアスパラギルtRNA合成酵素をコードする遺伝子。白質脳症を伴う乳酸アシドーシスの原因となります。

・YARS2遺伝子:
ミトコンドリアチロシルtRNA合成酵素をコードする遺伝子。

・TRMU遺伝子:
ミトコンドリアtRNA修飾酵素をコードする遺伝子。

・PUS1遺伝子:
tRNAシュードウリジン合成酵素1をコードする遺伝子。ミトコンドリア筋症、乳酸アシドーシス、鉄芽球性貧血(MLASA)症候群の原因となります。

・MRPS16遺伝子:
ミトコンドリアリボソーム小サブユニットタンパク質S16をコードする遺伝子。

・MRPS22遺伝子:
ミトコンドリアリボソーム小サブユニットタンパク質S22をコードする遺伝子。

【その他のミトコンドリア機能関連遺伝子】

・LRPPRC遺伝子:
ロイシンリッチペントラトリコペプチドリピート含有タンパク質をコードする遺伝子。フレンチカナダ人に多いリー症候群の原因です。

・TAZ遺伝子:
タファジンをコードする遺伝子。バース症候群(カルジオリピン代謝異常による拡張型心筋症)の原因です。X連鎖遺伝形式です。

・DNM1L遺伝子:
ダイナミン関連タンパク質1(Drp1)をコードする遺伝子。ミトコンドリアの分裂に関与し、欠損すると致死的な脳症を引き起こします。

・SLC25A3遺伝子:
ミトコンドリアリン酸キャリアーをコードする遺伝子。

・SLC25A4遺伝子:
ミトコンドリアADP/ATPトランスロカーゼ1をコードする遺伝子。進行性外眼筋麻痺の原因となります。

【脂肪酸β酸化・電子伝達関連遺伝子】

・ETFA遺伝子:
電子伝達フラボタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子。複合型アシルCoA脱水素酵素欠損症(MADD)の原因です。

・ETFB遺伝子:
電子伝達フラボタンパク質βサブユニットをコードする遺伝子。

・ETFDH遺伝子:
電子伝達フラボタンパク質-ユビキノン酸化還元酵素をコードする遺伝子。

・ETHE1遺伝子:
硫黄ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子。エチルマロン酸性脳症の原因です。

【その他の代謝関連遺伝子】

・FBP1遺伝子:
フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ1をコードする遺伝子。糖新生の律速酵素で、欠損すると低血糖と乳酸アシドーシスを引き起こします。

・G6PC遺伝子:
グルコース-6-ホスファターゼをコードする遺伝子。糖原病1a型(フォンギールケ病)の原因です。

・GYS2遺伝子:
肝型グリコーゲン合成酵素をコードする遺伝子。糖原病0型の原因です。

・ISCU遺伝子:
鉄硫黄クラスター組み立て酵素をコードする遺伝子。ミオパチーと運動不耐性を特徴とします。

・PLPBP(旧称PROSC)遺伝子:
ピリドキサール5′-リン酸結合タンパク質をコードする遺伝子。ビタミンB6代謝異常症の原因です。

・APTX遺伝子:
アプラタキシンをコードする遺伝子。DNA修復に関与し、欠損すると早発性小脳性運動失調とコエンザイムQ10欠乏を伴います。

カバレッジ

カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。

≥99% at 20x(読み取り深度平均20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。

検体

血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)

※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
 ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
 血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
 オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
 検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。

検査の限界

詳しくはこちら

すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。

低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。

この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。

※この検査パネルでは、核DNA上の70の原因遺伝子のみを対象としています。ミトコンドリアDNA上の遺伝子変異は対象外です。ミトコンドリア病の約20~30%はミトコンドリアDNA変異が原因であるため、この検査で病原性変異が検出されなくても、ミトコンドリアDNA変異による疾患の可能性は残ります。また、まだ同定されていない新規の原因遺伝子も存在する可能性があります。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。

結果が出るまでの期間

2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。

料金

税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)

よくあるご質問

どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
繰り返す乳酸アシドーシスのエピソード、原因不明の発達遅滞、けいれん発作、筋力低下、易疲労性がある方におすすめします。特に、血液または髄液の乳酸値が繰り返し高値の方、脳MRIで基底核や脳幹に病変を認める方は、ピルビン酸代謝異常症やミトコンドリア病の可能性が高くなります。また、家族に同様の症状がある場合も検査をご検討ください。
検査はどのように行いますか?
血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
ミトコンドリアDNAの検査もできますか?
この検査パネルでは核DNA上の70遺伝子のみを対象としており、ミトコンドリアDNA上の遺伝子変異は含まれていません。ミトコンドリアDNA解析が必要な場合は、別途ミトコンドリア病遺伝子パネル検査をご検討いただくか、ご相談ください。
家族も検査を受ける必要がありますか?
遺伝形式によって家族の発症リスクが異なります。常染色体劣性遺伝の場合、兄弟姉妹が発症するリスクは25%、保因者となるリスクは50%です。X連鎖遺伝のPDHA1変異の場合、患者さんが女性の場合、男児が発症するリスクは50%です。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
この検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。ミトコンドリアDNA変異や、まだ同定されていない新規の原因遺伝子の可能性があります。臨床症状、血液検査(乳酸、ピルビン酸値)、画像検査、生化学検査(筋生検や皮膚生検での酵素活性測定)に基づいた診断と管理が引き続き重要です。
治療法はありますか?
現在のところ根本的な治療法は限られていますが、疾患によっては特異的治療が可能です。ピルビン酸脱水素酵素欠損症ではビタミンB1(チアミン)補充、コエンザイムQ10欠乏症ではコエンザイムQ10補充が有効な場合があります。また、高脂肪・低炭水化物食(ケトン食療法)、L-カルニチン補充、急性増悪時の適切な輸液管理などが行われます。原因遺伝子が特定されることで、より個別化された治療方針を立てることができます。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
遺伝形式によって子どもへの影響が異なります。常染色体劣性遺伝の場合は保因者同士のカップルで子どもが発症する確率は25%です。X連鎖遺伝のPDHA1変異を持つ女性の場合、男児が発症する確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
急性増悪を防ぐにはどうすればよいですか?
感染症、絶食、脱水、過度の運動などが急性増悪の誘因となります。感染症の早期治療、十分な水分・エネルギー摂取の維持、無理な運動の回避が重要です。また、バルプロ酸などの避けるべき薬剤があるため、原因遺伝子が特定されることで適切な予防策を立てることができます。
予後はどうですか?
予後は原因疾患、発症年齢、重症度によって大きく異なります。新生児期発症の重症型では生命予後が不良な場合もありますが、軽症型では適切な管理により長期生存が可能です。原因遺伝子が特定されることで、より正確な予後予測と長期的な管理計画を立てることができます。
他の医療機関での検査との違いは何ですか?
当院では臨床的に重要な70の原因遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を大幅に短縮できます。また、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。


プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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