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CADASIL1(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症1型)|ミネルバクリニック

CADASIL1(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症1型)|ミネルバクリニック

疾患概要

CEREBRAL ARTERIOPATHY, AUTOSOMAL DOMINANT, WITH SUBCORTICAL INFARCTS AND LEUKOENCEPHALOPATHY, TYPE 1; CADASIL1
Cerebral arteriopathy, autosomal dominant, with subcortical infarcts and leukoencephalopathy 1 皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症1型 125310 AD, AR 3 

皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症1型(CADASIL1)は、染色体19p13.12に位置するNOTCH3遺伝子のヘテロ接合性変異によって引き起こされる遺伝性脳小血管病です。NOTCH3遺伝子は、主に血管平滑筋細胞に発現するNotch3受容体蛋白質をコードしており、血管の正常な構造と機能の維持に重要な役割を果たしています。

CADASIL1は、成人期に発症する進行性の脳小動脈疾患であり、片頭痛、脳卒中、白質病変を特徴とし、一部の患者では認知機能障害を伴います。この疾患は不完全浸透と可変的発現を示し、同じ家系内でも症状の重症度や発症年齢に大きなばらつきが見られます。

古典的にはCADASIL1はヘテロ接合性変異と関連していますが、多くの患者が表現型的に区別できない両側アレル性(ホモ接合性または複合ヘテロ接合性)のNOTCH3バリアント、通常はシステイン残基に関与する変異を保有していることが明らかになっています。これは、ヘテロ接合体とホモ接合体の患者の表現型が区別できない常染色体優性疾患の古典的定義に従っていることを示しています。

💡 遺伝学的用語の解説

CADASIL1の遺伝様式を理解するために、以下の用語を知っておくことが重要です。

ヘテロ接合性変異(Heterozygous variant)

対になる2本の染色体のうち、片方だけに変異がある状態です。CADASIL1の大多数の患者がこの状態です。父親または母親のどちらか一方から変異を受け継いだ場合、ヘテロ接合性変異となります。

両側アレル性変異(Biallelic variants)

対になる2本の染色体の両方に変異がある状態の総称です。ホモ接合性変異と複合ヘテロ接合性変異の両方を含みます。通常、両親がともに変異保有者である場合に生じます。

ホモ接合性変異(Homozygous variant)

両側アレル性変異の一種で、対になる2本の染色体の両方に同じ変異がある状態です。例えば、父親からR133C変異、母親からもR133C変異を受け継いだ場合、ホモ接合性R133C変異となります。近親婚の家系で見られることが多いです。

複合ヘテロ接合性変異(Compound heterozygous variants)

両側アレル性変異の一種で、対になる2本の染色体の両方に変異があるものの、それぞれ異なる変異がある状態です。例えば、父親からR133C変異、母親からR544C変異を受け継いだ場合、R133CとR544Cの複合ヘテロ接合性変異となります。

CADASIL1における重要なポイント:
多くのCADASIL1患者はヘテロ接合性変異を持ちますが、両側アレル性変異(ホモ接合性または複合ヘテロ接合性)を持つ患者も報告されています。興味深いことに、両側アレル性変異を持つ患者の症状は、ヘテロ接合性変異を持つ患者と区別できないことが多く、これはCADASIL1が常染色体優性遺伝の古典的定義に従うことを示しています。

病態メカニズム

NOTCH3遺伝子の変異により、Notch3蛋白質の細胞外ドメインに異常が生じ、血管平滑筋細胞の周囲に顆粒状好オスミウム物質(GOM: Granular Osmiophilic Material)が蓄積します。この異常蛋白質の蓄積により、脳の小動脈の血管壁が肥厚し、血管の伸縮性が失われることで、脳虚血性病変が引き起こされます。

Notch3蛋白質は、34個の上皮成長因子様リピート(EGFr)を含む大きな細胞外ドメインを持ち、各EGFrには6個のシステイン残基が含まれています。CADASIL1の原因となる変異の大部分は、システイン残基の獲得または喪失を引き起こすミスセンス変異であり、これにより蛋白質のミスフォールディングとGOMの蓄積が生じると考えられています。これは毒性獲得機能効果を示唆しています。

日本における特徴

日本では、CADASIL1が厚生労働省の指定難病124として認定されており、国内には少なくとも1,200人ほどの患者が存在すると推定されています。しかし、診断されていない患者が多数存在する可能性があり、最近のゲノム解析により、この疾患を引き起こす遺伝子変異がより高頻度である可能性が指摘されています。

日本では、脳梗塞よりも脳出血が目立つタイプの存在が報告されており、NOTCH3遺伝子のp.R75P変異を有する患者では、「脳の出血性病変が目立つ一方で側頭極病変が乏しい」という従来のCADASILとは異なる臨床的特徴を示すことが明らかになっています。この亜型は「出血指向型CADASIL(Pro-hemorrhagic CADASIL)」として提唱されています。

遺伝形式の特徴

CADASIL1は基本的に常染色体優性遺伝形式を示しますが、両側アレル性のシステイン関連ミスセンス変異を持つ患者も報告されており、これらの家系の多くは近親婚です。興味深いことに、ヘテロ接合性で同じ変異を持つ家族員も類似の表現型を示します。これは、CADASIL1が常染色体優性疾患の古典的定義に従うことを示しており、ヘテロ接合体とホモ接合体の患者の表現型が区別できないという特徴があります。表現型の可変性は、不完全浸透や追加的な遺伝的または非遺伝的因子によるものと考えられています。

疾患の別名

OMIM ID: 125310

主要疾患名:
CEREBRAL ARTERIOPATHY, AUTOSOMAL DOMINANT, WITH SUBCORTICAL INFARCTS AND LEUKOENCEPHALOPATHY, TYPE 1; CADASIL1

別名・同義語:

  • CADASIL(カダシル)
  • DEMENTIA, HEREDITARY MULTIINFARCT TYPE(遺伝性多発梗塞性認知症)
  • CASIL
  • 皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症1型
  • 皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症

これらの別名は、疾患の臨床的特徴や発見の歴史的経緯を反映しています。CADASILという略称は、英語名のCerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathyに由来しており、国際的に広く使用されています。日本では「カダシル」と呼ばれることが一般的です。

遺伝的不均一性

皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症2型(CADASIL2; 616779)は、染色体10q26に位置するHTRA1遺伝子(602194)の変異によって引き起こされます。

CADASIL1とCADASIL2は、臨床的に類似した表現型を示しますが、原因遺伝子が異なります。CADASIL1の原因であるNOTCH3遺伝子変異は、CADASIL患者の95%以上で同定されており、CADASILを引き起こすことが知られている主要な遺伝子です。一方、HTRA1遺伝子変異によるCADASIL2は比較的まれです。

臨床診断においては、NOTCH3遺伝子の変異が同定されない場合に、HTRA1遺伝子の変異検索を考慮する必要があります。分子遺伝学的診断により、正確な遺伝型分類が可能となり、適切な遺伝カウンセリングと家族内リスク評価に役立ちます。

臨床的特徴

CADASIL1は、成人期に発症する進行性の脳小血管疾患であり、その臨床症状は多彩で個人差が大きいことが特徴です。主な症状として、片頭痛、脳卒中、認知機能障害、気分障害などがあり、神経画像検査ではびまん性の大脳白質病変と皮質下梗塞が検出されます。

片頭痛

約半数の患者が20~40歳代で片頭痛を経験します。多くの場合、視覚性の前兆(閃輝暗点など)を伴う片頭痛であり、発症年齢の平均は38.1歳(標準偏差8.03)です。片頭痛は、しばしばCADASIL1の最初の症状として現れ、他の神経症状に先行します。ただし、片頭痛のみでCADASIL1を診断することはできず、家族歴やMRI所見との総合的な評価が必要です。

脳虚血性イベント

最も一般的な症状は、反復する皮質下虚血性イベントで、患者の84%に認められます。典型的には、一過性脳虚血発作(TIA)やラクナ梗塞として現れ、発症年齢の平均は43.9歳(標準偏差10.7)です。脳卒中の危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)がないにもかかわらず、比較的若年で脳梗塞を繰り返すことが特徴です。

典型的な症状としては以下があります:

  • 片麻痺または運動麻痺
  • 感覚障害(しびれ、感覚鈍麻)
  • 構音障害(しゃべりにくさ)
  • 失語症
  • 視覚障害
  • 運動失調

認知機能障害と認知症

進行性または段階的な皮質下性認知症が患者の31%に見られ、偽性球麻痺を伴うことがあります。認知機能障害の特徴として、以下が挙げられます:

  • 処理速度の低下
  • 実行機能障害(計画立案能力の低下)
  • 注意力の低下とエラー監視の障害
  • 言語流暢性の低下
  • 観念行為の障害

一方、想起、見当識、受容性言語能力は比較的保たれることが多く、この認知機能プロファイルは早期段階から存在します。血管性認知症や皮質下性認知症として診断されることがあります。

💡 臨床用語の解説

CADASIL1の症状を理解するために、以下の専門用語を解説します。

皮質下性認知症(Subcortical dementia)

大脳皮質ではなく、脳の深部(皮質下構造)の障害によって生じる認知症のタイプです。アルツハイマー型認知症などの「皮質性認知症」とは異なる特徴的なパターンを示します。皮質下性認知症では、処理速度の低下、実行機能障害(計画立案や問題解決の困難)、注意力低下が目立つ一方で、記憶の想起や言語理解は比較的保たれることが特徴です。CADASIL1では、脳の小血管病変により基底核や白質が障害されることで、この皮質下性認知症が出現します。

偽性球麻痺(Pseudobulbar palsy)

脳幹の延髄(球)につながる神経経路の障害によって生じる症状群です。「偽性」という名前は、延髄そのものの障害(真性球麻痺)ではなく、延髄より上位の神経経路の障害によるものであることを意味します。主な症状として、構音障害(呂律が回らない、しゃべりにくい)、嚥下障害(飲み込みにくい、むせやすい)、感情の不安定さ(突然泣いたり笑ったりする)などが見られます。CADASIL1では、両側性の脳血管病変によって延髄への神経経路が障害されることで偽性球麻痺が出現することがあります。

観念行為(Ideational praxis)

目的のある複雑な動作を正しい順序で実行する能力のことです。例えば、「お茶を入れる」という行為には、①やかんに水を入れる、②火にかける、③茶葉を急須に入れる、④お湯を注ぐ、⑤湯のみに注ぐ、という一連の動作を正しい順序で行う必要があります。CADASIL1の認知機能障害では、この観念行為が障害されることがあり、日常的な動作の手順がわからなくなったり、途中で混乱したりすることがあります。これは実行機能障害の一つの現れです。

CADASIL1における認知機能の特徴:
CADASIL1の認知機能障害は皮質下性認知症のパターンを示し、処理速度の低下や実行機能障害が早期から目立つ一方で、記憶の想起や言語理解は比較的保たれます。これはアルツハイマー型認知症とは異なる重要な特徴です。進行すると偽性球麻痺を伴うことがあり、日常生活に大きな影響を及ぼします。

気分障害と精神症状

重度のうつエピソードを含む気分障害が患者の20%に認められます。抑うつ症状、躁病エピソード、無気力(アパシー)などが出現し、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。これらの精神症状は、脳血管性変化に関連して生じると考えられています。

その他の神経症状

  • 偽性球麻痺(構音障害、嚥下障害)
  • 歩行障害と運動機能の進行性低下
  • けいれん発作(約10%の患者)
  • パーキンソン症状(まれ)
  • 急性視力喪失(まれだが報告あり)

妊娠と産褥期における症状

フィンランドの研究では、R133C変異を持つCADASIL1女性患者の25人中12人(48%)が、43回の妊娠のうち17回で神経症状を経験しました。最も一般的な症状は、片麻痺性感覚異常(65%)、片麻痺(36%)、失語症(65%)、視覚障害(47%)でした。症状が現れた患者の82%では、これらがCADASIL1の最初の症状であり、産褥期と30歳以上の患者で最も一般的でした。このため、CADASIL1は神経学的に合併症のある妊娠の鑑別診断として考慮すべきです。

日本人における特徴

日本人CADASIL1患者の特徴として、以下の点が報告されています:

  • 片頭痛以外の臨床症状の発症年齢が広く分布しており、20%以上の症例で60歳以上での発症が見られる
  • 65%の日本人CADASIL1症例が脳卒中の危険因子(高血圧、脂質異常症、喫煙など)を有している
  • 20%の症例で脳卒中の家族歴が不明瞭である
  • 脳梗塞よりも脳出血が目立つタイプが存在する

頭蓋内出血

韓国の研究では、遺伝学的に確認されたCADASIL1患者20人中5人(25%)が頭蓋内出血(ICH)を経験し、2人ではICHが最初の神経症状でした。すべての患者が高血圧という危険因子を持ち、抗血小板薬を服用していましたが、これらの因子はICHのないCADASIL1患者と有意な差はありませんでした。脳MRI所見では、ICHの発生と脳微小出血の数との間に有意な相関が見られました。

眼症状

まれですが、急性片側視力喪失がCADASIL1の初発症状として報告されています。また、症状のない患者でも、視神経乳頭の血流低下や網膜動脈の狭細化、異常な網膜電図が観察されることがあります。

両側アレル性NOTCH3変異を持つ患者

ホモ接合性または複合ヘテロ接合性のNOTCH3変異を持つ患者も報告されており、多くの場合、表現型はヘテロ接合性変異を持つ患者と区別できません。しかし、一部のホモ接合性患者では、より重症な経過をたどる場合があります。これらの所見は、CADASIL1が常染色体優性疾患の古典的定義に従うことを示唆しています。

疾患の自然経過

Chabriat et al.(1995)は、CADASIL1の自然経過を3段階に分類しました:

  • 第1段階(20~40歳):頻繁な片頭痛様エピソードと、境界明瞭な白質病変
  • 第2段階(40~60歳):脳卒中様エピソード、気分障害、白質病変の融合と基底核のラクナ
  • 第3段階(60歳以降):皮質下性認知症と偽性球麻痺

平均死亡年齢は、男性で53.2±10.9歳、女性で59.3±8.8歳と報告されていますが、個人差が大きく、80歳代でも認知症を発症していない患者も存在します。

画像所見

頭部MRI検査では、T2強調画像およびFLAIR画像で、皮質下白質と基底核に高信号病変が認められます。特に、両側側頭極の白質病変はCADASIL1に特異性が高く、診断の重要な手がかりとなります。その他、外包、内側前頭極、脳室周囲領域、脳幹にも病変が見られます。

20歳から30歳代の若年患者でも、臨床的に無症状であってもMRI上の異常所見が検出されることがあります。病変は年齢とともに進行し、40歳以降では脳萎縮、脳微小出血、ラクナ梗塞が見られるようになります。

ラクナ梗塞の体積は、全般的な認知機能障害や運動障害と相関することが示されており、CADASIL1患者の臨床的影響において重要な役割を果たしています。

画像所見

MRI所見の特徴

CADASIL1の診断において、頭部MRI検査は極めて重要な役割を果たします。神経画像検査により、びまん性の大脳白質病変と皮質下梗塞が検出され、これらの所見は臨床症状に先行して出現することがあります。

白質病変の分布

MRIでは、T2強調画像やFLAIR画像で以下の領域に高信号病変が認められます:

  • 側頭極(特に前部):CADASIL1に最も特異的な所見で、診断において重要な手がかりとなります。93%の患者で認められます
  • 外包:100%の患者で病変が見られます
  • 前頭葉(特に内側前頭極):広範な白質病変として出現
  • 脳室周囲領域(特に後頭葉周囲):大きな融合性の高信号変化
  • 基底核(特に視床、被殻):小さな線状および点状のラクナ病変
  • 脳幹:橋を中心とした病変
  • 小脳:比較的まれですが、白質病変が見られることがあります

年齢による病変の進行

Van den Boom et al.(2003)の研究により、CADASIL1における脳病変の年齢依存性の進行パターンが明らかにされています:

20~30歳代:

  • 臨床的に無症状であっても、MRI上の高信号病変が全患者で認められる
  • 主に前頭葉と前部側頭葉のテント上領域に病変が分布
  • 約20%の患者で皮質下ラクナ病変が出現

30歳以降:

  • テント下構造(脳幹、小脳)、基底核、視床に高信号病変とラクナ梗塞が発生
  • 脳室周囲領域の病変が拡大

40歳以降:

  • 脳微小出血が出現(通常5mm未満)
  • 橋のラクナ梗塞
  • 全体的な病変の進行と融合

ラクナ梗塞

T1強調画像で低信号を示すラクナ病変は、全般的な認知機能障害と有意な相関を示します。これらの病変は以下の部位に好発します:

  • 脳室周囲白質
  • 基底核
  • 視床
  • 外包
  • 脳梁
  • 脳幹

CADASIL1患者において、ラクナ病変の体積は、白質高信号病変や脳微小出血とは独立して、認知機能障害や運動障害と関連することが示されています。

脳微小出血

T2*強調画像やsusceptibility-weighted imaging(SWI)で検出される脳微小出血は、CADASIL1患者の重要な所見です。脳微小出血の数は、頭蓋内出血のリスクと相関することが報告されています。

脳萎縮

Peters et al.(2006)の研究により、CADASIL1患者では脳萎縮が疾患過程の重要な側面であることが明らかになりました。2年間の追跡調査で、平均年間脳容積減少率は0.56%であり、これは健康な同年齢者の2倍の速度です。年齢、男性、収縮期血圧の上昇が、脳容積低下の主な危険因子でした。脳萎縮は運動障害や全般的な認知機能と有意な相関を示します。

出血指向型CADASIL

NOTCH3遺伝子のp.R75P変異を有する東アジア特異的な亜型では、以下の特徴的な画像所見が見られます:

  • 脳の出血性病変が目立つ
  • 側頭極病変が乏しい
  • 脳微小出血の頻度が高い

この亜型は「出血指向型CADASIL(Pro-hemorrhagic CADASIL)」として提唱されており、従来認識されてきたCADASILとは異なる臨床的特徴を示します。

若年無症状キャリアにおける所見

Lesnik Oberstein et al.(2003)の研究では、35歳未満のNOTCH3変異保有者6人を対象とした調査で、対照群と比較して白質高信号病変の増加が認められました。病変は前部側頭葉、前頭葉、脳室周囲キャップに特徴的なパターンを示しました。これらの変異保有者は身体的または認知的障害を示しませんでしたが、対照群よりも前兆を伴う片頭痛の頻度が高い傾向にありました。

診断における画像所見の重要性

MRI上の側頭極病変は、CADASIL1の診断において特異性が高く、診断スクリーニングにおいて重要な所見です。近年、医療従事者の間でも「側頭極に白質病変を確認したらCADASILを疑う」という認識が浸透してきており、比較的早期の診断が可能になってきています。

ただし、画像所見のみで確定診断を行うことはできず、臨床症状、家族歴、分子遺伝学的検査を総合的に評価する必要があります。

分子遺伝学

NOTCH3遺伝子の同定

Joutel et al.(1996)は、CADASIL1の責任遺伝子としてNOTCH3遺伝子を同定しました。NOTCH3遺伝子は染色体19p13のCADASIL1重要領域にマッピングされ、CADASIL1患者においてNOTCH3の重大な破壊を引き起こすヘテロ接合性変異が同定されたことから、この遺伝子の変異が疾患の原因であることが示唆されました。

NOTCH3遺伝子と蛋白質の構造

NOTCH3遺伝子は、主に血管平滑筋細胞に発現するNotch3受容体蛋白質をコードしています。この受容体は、以下の構造的特徴を持ちます:

  • 34個の上皮成長因子様リピート(EGFr)を含む大きな細胞外ドメイン
  • 各EGFrには6個のシステイン残基が含まれる
  • 膜貫通ドメイン
  • 細胞内シグナル伝達ドメイン

変異の種類と分布

CADASIL1の原因となるNOTCH3遺伝子変異は、主に以下の特徴を持ちます:

システイン関連変異:

  • 約90%以上がシステイン残基の獲得または喪失を引き起こすミスセンス変異
  • これらの変異により蛋白質のミスフォールディングが生じる
  • 顆粒状好オスミウム物質(GOM)の蓄積につながる

エクソン分布:

Markus et al.(2002)のイギリスにおける研究では、48家系で15種類の点変異が同定されました:

  • 73%がエクソン4に局在
  • 8%がエクソン3に局在
  • 各6%がエクソン5と6に局在

Peters et al.(2005)の研究では、125人の生検で証明されたCADASIL1患者のうち120人(96%)で54種類の異なるNOTCH3変異が同定されました:

  • 58.3%がエクソン4に局在
  • 85.8%がエクソン2~6に局在
  • 5人(4%)では変異が同定されず、偽陰性の可能性が示唆されました

EGFr 1-6とEGFr 7-34の違い

Rutten et al.(2019)は、664人のCADASIL1患者を対象とした研究で、NOTCH3変異の位置が疾患の重症度に影響することを明らかにしました:

EGFr 1-6に病原性変異を持つ患者:

  • 脳卒中発症年齢が12年早い
  • 全生存期間が短い
  • 脳MRI上の白質高信号病変の量が多い
  • より重症な表現型を示す

EGFr 7-34に病原性変異を持つ患者:

  • 一般集団でより高頻度に見られる
  • 比較的軽症な表現型
  • 発症年齢が遅い傾向

Gravesteijn et al.(2022)の研究では、EGFr 1-6変異を持つ患者は、EGFr 7-34変異を持つ患者と比較して、皮膚生検でのGOM沈着とNotch3凝集が高レベルであることが示されました。

頻度の高い変異

R133C変異(600276.0008):

  • フィンランドで最も一般的な変異
  • 創始者効果が確認されており、すべてのフィンランド人R133C家系が共通の祖先を持つ
  • 変異の導入時期は1600年代後半から1700年代初期と推定

R544C変異(600276.0023):

  • 東アジア、特に台湾で高頻度(台湾CADASIL1患者の約70%)
  • ExACデータベースでの東アジアにおけるアレル頻度:0.0036(8,574アレル中31)
  • 他の集団では111,042アレル中1と非常にまれ
  • 浸透率の低下を示唆する所見あり

R1231C変異(600276.0026):

  • 南アジア人で0.489%、中東人で0.347%と比較的高頻度
  • gnomAD(v4.0.0)に3人のホモ接合体保有者が存在
  • 病原性に関して矛盾する証拠があり、一部の保有者は無症状または軽症

システイン非関連変異

まれではありますが、システイン残基に影響しない変異も報告されています:

Scheid et al.(2008)は、A1020P変異(600276.0010)を持つドイツの家系を報告しました。この変異を持つ患者は:

  • 比較的軽症な表現型
  • 発症年齢が遅い
  • MRI変化の出現が遅い
  • 感音難聴が追加的な症状として見られる場合がある

ハプロ不全変異の非病原性

Rutten et al.(2013)の研究により、ヘテロ接合性の機能喪失型NOTCH3変異はCADASIL1を引き起こさないことが示されました。2つの無関係な家系の調査から:

  • 切断型変異(R103X)を持つ患者は古典的なCADASIL1の特徴を示さず
  • 皮膚生検でNotch3染色が陰性で、血管壁の正常な構造と電子顕微鏡的沈着物の欠如が確認された
  • 変異を持つ兄弟は無症状で正常なMRI所見を示した

これらの知見は、CADASIL1関連のNOTCH3変異の大部分が保存されたシステイン残基を変化させ、新形態的な毒性効果を引き起こすという仮説を支持しています。

一般集団におけるNOTCH3変異

Rutten et al.(2020)は、UK Biobank(50,000人)および認知的に健康な高齢者のコホート(751人)のエクソームおよびゲノム配列データセットを調査し、一般集団におけるシステイン変化型NOTCH3変異を持つ108人(1000人あたり2.2人、平均年齢64.9歳)を同定しました:

  • 75%がCADASIL1患者で以前に報告された変異を持つ
  • 103人がEGFr 7-34ドメインにシステイン変化型変異を持つ
  • これらの人々は対照群と比較して白質高信号病変が多いが、CADASIL1患者よりは少ない
  • 約半数は70歳まで神経画像異常を示さず
  • 脳卒中の増加は認められず

この研究は、CADASIL1が重症でまれなNOTCH3関連小血管疾患の一端であり、ほとんどのシステイン変化型NOTCH3変異保有者がより軽症で発症年齢が遅い疾患を持つことを示唆しています。

両側アレル性変異を持つ患者

Iruzubieta et al.(2024)は、17の無関係な家系から24人のCADASIL1患者で両側アレル性のシステイン関連ミスセンス変異を報告しました。14種類の異なる変異が同定され、そのうち2つ(R133CとC183S)のみがEGFr 1-6ドメインに位置していました。

これらの患者の臨床的特徴:

  • 平均発症年齢:43歳(範囲13-64歳)
  • 60%が脳卒中で発症
  • 27%が片頭痛で発症
  • 57%で認知機能低下
  • 43%で認知症
  • 正常な神経発達
  • けいれん発作はまれ(1人のみ)

重要なことに、ヘテロ接合性で同じ変異を持つ家族員も類似の表現型を示し、CADASIL1が常染色体優性疾患の古典的定義に従うことを示しています。家系内での疾患の重症度には可変性があり、不完全浸透と可変的発現が認められます。

病態生理学的メカニズム

Li et al.(2025)は、CADASIL1の病態生理学的メカニズムについて以下の知見を報告しました:

  • R170C変異(ヒトのR169Cに相当)を持つマウスで、脳血管にGOMの沈着とNotch3細胞外ドメイン凝集体の蓄積が確認
  • グリンパティック系の流入と流出が、ヘテロ接合体とホモ接合体の両方の変異マウスで障害
  • 変異マウスの星状細胞でAQP4(600308)転写とエンドフィート蛋白質発現が減少
  • RUNX1(151385)-CMYB(MYB; 189990)-AQP4シグナル経路のダウンレギュレーション
  • 老化マーカー、神経細胞死、重度の白質損傷の増加
  • AAVを介した星状細胞でのAQP4発現により、老化マーカーの発現が軽減され、グリンパティック活性が改善

これらの知見は、変異型Notch3が星状細胞エンドフィートでのAQP4発現のダウンレギュレーションを引き起こし、グリンパティック機能を障害して脳細胞の老化を促進するという仮説を支持しています。

遺伝形式

常染色体優性遺伝

CADASIL1は基本的に常染色体優性遺伝形式を示します。Chabriat et al.(1995)による7家系148人を対象とした研究では、すべての家系で染色体19への強い連鎖が示され、遺伝的同質性が示唆されました。MRIデータに基づくと、疾患の浸透率は30~40歳の間で完全になると考えられています。

常染色体優性遺伝の特徴として:

  • 罹患者の子供が50%の確率で変異を受け継ぐ
  • 男女ともに等しく罹患する
  • 世代を超えて伝達される(垂直伝播)
  • 男性から男性への伝達が可能

新生突然変異

一部の症例は孤発例(散発例)であり、両親に変異がない新生突然変異(de novo変異)によって発症します。これらの症例では、家族歴がないため診断が遅れることがあります。

両側アレル性変異と常染色体優性遺伝の定義

興味深いことに、ホモ接合性または複合ヘテロ接合性のNOTCH3変異を持つ患者も報告されています。これらの患者の多くは近親婚の家系から発生していますが、表現型はヘテロ接合性変異を持つ患者と区別できないことが多いです。

主要な研究報告:

Tuominen et al.(2001):

  • 近親婚のフィンランド人両親から生まれた54歳男性で、ホモ接合性R133C変異を同定
  • 28歳で軽度の脳卒中を初発、その後複数回の脳卒中を経験
  • 48歳で認知症と診断
  • 2人の息子は変異のヘテロ接合体で、片頭痛と軽度の白質異常を示す
  • 9人の無関係なフィンランド人ヘテロ接合体R133C保有者との比較では、ホモ接合体患者は重症端にあるものの、表現型はCADASIL1の臨床スペクトル内

Liem et al.(2008):

  • 65歳のオランダ人女性でホモ接合性R578C変異を同定
  • 軽症のCADASIL1症状
  • ヘテロ接合体の兄弟も類似の表現型を示したが、白質病変はホモ接合体の姉妹ほど重症ではない

Ragno et al.(2013):

  • 近親婚のイタリア人両親から生まれた54歳女性でホモ接合性G528C変異を報告
  • 2世代にわたる6人の家族員がヘテロ接合性変異を保有
  • ホモ接合体患者の臨床経過、脳画像所見、神経心理学的検査は、ヘテロ接合体の親族および同じ変異を持つ6人の無関係な個人と類似
  • この家系全体で表現型は軽症

Soong et al.(2013):

  • 台湾人の3姉妹でR544C変異を報告
  • 発端者と1人の姉妹がホモ接合体、もう1人の姉妹がヘテロ接合体
  • 3人とも成人期(58~67歳)に様々な神経症状を呈した
  • ホモ接合体の発端者とヘテロ接合体の姉妹は比較的軽症
  • もう1人のホモ接合体の姉妹はより重症な表現型を示した

Iruzubieta et al.(2024):

  • 17の無関係な家系から24人の患者で両側アレル性のシステイン関連ミスセンス変異を報告
  • ヘテロ接合性変異を持つ家族員も一般的にCADASIL1を呈したが、症状は高度に可変的
  • 家系内での疾患の重症度に可変性あり

常染色体優性疾患としての定義

これらの知見から、CADASIL1は常染色体優性疾患の古典的定義に従うことが示されています。Zlotogora(1997)によれば、常染色体優性疾患とは、ヘテロ接合体とホモ接合体の患者の表現型が区別できないものを指します。

CADASIL1において:

  • 両側アレル性変異を持つ患者の伝達パターンは常染色体劣性遺伝と一致
  • しかし、多くの家系は近親婚
  • ヘテロ接合性で同じ変異を持つ家族員も類似の表現型を示す
  • 表現型の可変性は、不完全浸透や追加的な遺伝的または非遺伝的因子による可能性

不完全浸透と可変的発現

CADASIL1は不完全浸透と可変的発現を示します:

  • 同じ変異を持つ家族員間でも症状の重症度や発症年齢が異なる
  • 一部の変異保有者は高齢になっても無症状または軽症
  • R1231C変異などでは、若年の保有者が無症状である一方、高齢者では様々な重症度の症状を示す

表現型の可変性に影響する因子として:

  • 変異の位置(EGFr 1-6 vs 7-34)
  • 血管危険因子(高血圧、喫煙など)
  • 修飾遺伝子
  • 環境因子

遺伝カウンセリングにおける意義

遺伝カウンセリングにおいては、以下の点を考慮する必要があります:

  • NOTCH3変異を持つ親の子供は50%の確率で変異を受け継ぐ
  • 変異を受け継いだ場合でも、症状の重症度や発症年齢は予測が困難
  • 無症状の変異保有者も存在するが、MRI上の変化は早期から出現する可能性
  • 家系内での表現型の可変性を考慮した個別化されたリスク評価が重要
  • 出生前診断や着床前診断の技術的可能性があるが、成人発症疾患のため希望はまれ

診断基準

臨床診断

CADASIL1の診断は、特徴的な臨床症状、家族歴、神経画像所見、および分子遺伝学的検査または病理学的検査の組み合わせによって行われます。国際的に広く受け入れられた診断基準は存在しませんが、Pesciniらによって診断スクリーニングが提唱されています。

日本における診断基準

厚生労働省による指定難病124の診断基準では、以下の項目が設定されています:

A. 臨床症候

  1. 55歳以下の発症(大脳白質病変もしくは臨床症候)
  2. 以下の臨床症候のうち、少なくとも1つを有する
    • 前兆を伴う片頭痛
    • 皮質下虚血発作の反復
    • 気分障害(特にうつ症状)
    • 皮質下性認知症
  3. 脳MRI/CTで以下を認める
    • 側頭極を含む大脳白質のT2/FLAIR高信号病変
    • 多発性ラクナ梗塞
  4. 脳卒中の危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)を認めない、または危険因子があってもその程度が軽度で、画像所見を説明できない
  5. 本症以外の遺伝性疾患および後天性疾患を除外できる

B. 検査所見

  • NOTCH3遺伝子の病原性変異(主としてEGF様リピートのシステイン残基のアミノ酸置換を伴う変異)
  • 皮膚等の組織における電子顕微鏡所見でGOM(オスミウムに濃染する顆粒状物質)を認める
  • 凍結切片を用いた抗Notch3抗体による免疫染色法で血管壁内に陽性の凝集体を認める

診断のカテゴリー

Definite(確定診断):

  • Aの3、4を満たし、NOTCH3遺伝子の変異、または皮膚等の組織における電子顕微鏡所見でGOMを認める

Probable(臨床診断):

  • Aの4を満たし(側頭極病変の有無は問わない)、Aの1もしくは2の臨床症状の最低1つを満たし、Aの3が否定できる

Possible(疑い):

  • 上記5項目をすべて満たすが、NOTCH3遺伝子の変異の解析、または電子顕微鏡でGOMの検索が行えていない

分子遺伝学的診断

確定診断には、NOTCH3遺伝子の病原性変異の同定が最も確実な方法です:

推奨される検査プロトコル:

  • まずエクソン4をスクリーニング(変異の58-73%が局在)
  • 変異が見つからない場合、エクソン3、5、6を検査(追加で約15-25%をカバー)
  • 必要に応じて、すべてのエクソンの完全スクリーニングを実施

Peters et al.(2005)の研究では、125人の生検で証明されたCADASIL1患者のうち120人(96%)でNOTCH3変異が同定されましたが、5人(4%)では変異が見つかりませんでした。このため、臨床的に強く疑われる症例で遺伝学的検査が陰性の場合は、皮膚生検による検査を考慮すべきです。

皮膚生検

皮膚生検は、CADASIL1の診断において有用な方法です:

電子顕微鏡検査:

  • 小動脈血管の平滑筋細胞周囲にGOMの沈着を確認
  • GOMは電子密度の高い顆粒状物質として観察される
  • 適切な皮膚生検(真皮深層と皮下組織の境界を含む)が必要

Tikka et al.(2009)の研究では、131人のフィンランド、スウェーデン、フランスのCADASIL1患者において、皮膚生検でのGOM存在とNOTCH3遺伝子の病原性変異との間に100%の一致が認められました。これは、適切な皮膚生検が分子診断を必要とする人を決定するための費用対効果の高い手段であることを示唆しています。

免疫染色法:

Joutel et al.(2001)は、Notch3モノクローナル抗体を用いた皮膚生検標本の免疫染色が、CADASIL1診断のための信頼性の高い簡便な検査法となることを確立しました:

  • 感度:96%
  • 特異度:100%
  • 小血管内のNotch3の異常蓄積に基づく
  • 熟練した施設では、GOMに代わる有用な方法となる可能性

神経画像診断

頭部MRI検査は、CADASIL1の診断において極めて重要です:

特徴的なMRI所見:

  • 側頭極病変:最も特異的な所見(特異性が高い)。93%の患者で認められる
  • 外包の病変:100%の患者で認められる
  • 前頭葉白質病変:びまん性の高信号域
  • 脳室周囲白質病変
  • 基底核のラクナ梗塞:100%の患者で認められる
  • 脳幹病変

Skehan et al.(1995)の研究では、アイルランドの大家系10人のMRI所見から、2つの主要な異常タイプが確認されました:

  • T2強調画像とプロトン密度強調画像で、特に前部側頭葉と後頭葉の脳室周囲部分を中心とした白質全体に大きな融合性の高信号変化パッチ
  • 脳室周囲白質だけでなく、脳幹、基底核、視床、外包、脳梁に存在する小さな線状および点状のラクナ

鑑別診断

CADASIL1の診断にあたっては、以下の疾患との鑑別が必要です:

  • 多発性硬化症
  • 他の白質脳症(CADASIL2、CARASILなど)
  • 血管炎
  • 抗リン脂質抗体症候群
  • Fabry病
  • ミトコンドリア脳筋症(MELASなど)
  • 動脈硬化性脳小血管病

診断における注意点

日本人患者における特徴:

  • 高齢発症例(60歳以上)が20%以上存在
  • 脳卒中危険因子を有する症例が65%
  • 家族歴が不明瞭な症例が20%

これらの特徴を考慮し、典型的でない症例でもCADASIL1を見逃さないための診断基準が提案されています。

出血指向型CADASIL:

東アジア特異的なp.R75P変異を持つ患者では、従来のCADASILとは異なる特徴があります:

  • 脳出血性病変が目立つ
  • 側頭極病変が乏しい
  • 若年性脳出血例に相当数が潜在している可能性

診断のアルゴリズム

臨床的にCADASIL1が疑われる場合:

  1. 詳細な臨床評価(症状、家族歴)
  2. 頭部MRI検査(特に側頭極病変の有無を確認)
  3. NOTCH3遺伝子検査(まずエクソン4から)
  4. 遺伝子検査が陰性の場合:
    • 皮膚生検(GOM検索、免疫染色)
    • NOTCH3遺伝子の全エクソン解析
    • HTRA1遺伝子検査(CADASIL2の可能性)

確定診断により、適切な遺伝カウンセリング、家族内スクリーニング、および管理方針の決定が可能となります。

よくある質問(FAQ)

Q1: CADASIL1とは何ですか?

A: CADASIL1(皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症1型)は、NOTCH3遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の脳小血管病です。脳の小動脈が障害されることにより、片頭痛、脳梗塞、認知症などの症状が現れます。厚生労働省の指定難病124に指定されている遺伝性疾患です。

Q2: どのような症状がありますか?

A: 主な症状は以下の通りです:

  • 片頭痛(20~30代):約半数の患者で最初の症状として現れます。視覚性の前兆を伴うことが多いです
  • 脳梗塞(40~60代):特にラクナ梗塞を繰り返します。片麻痺、構音障害、感覚障害などが出現します
  • 認知機能障害:処理速度の低下、実行機能障害、注意力低下などが見られます
  • 気分障害:うつ症状や無気力が出現することがあります

症状の重症度や発症年齢は個人差が大きく、同じ家族内でも異なることがあります。

Q3: 遺伝しますか?

A: はい、CADASIL1は常染色体優性遺伝形式で遺伝します。NOTCH3遺伝子に変異を持つ親の子供は、50%の確率で同じ変異を受け継ぎます。ただし、変異を受け継いでも、症状の重症度や発症年齢は予測が困難です。一部の症例は新規変異(de novo変異)によって発症し、家族歴がない場合もあります。

Q4: 診断方法は?

A: CADASIL1の診断には以下の方法があります:

  • 遺伝子検査:NOTCH3遺伝子の変異を調べる最も確実な方法です。まずエクソン4をスクリーニングします
  • 頭部MRI検査:側頭極の白質病変が特徴的です。T2強調画像やFLAIR画像で白質の高信号病変を確認します
  • 皮膚生検:電子顕微鏡でGOM(顆粒状好オスミウム物質)の沈着を確認します。感度は約96%です

確定診断には、臨床症状、画像所見、遺伝子検査または皮膚生検の組み合わせが必要です。

Q5: 治療法はありますか?

A: 現在のところ、CADASIL1の根本的な治療法は確立されていません。治療は主に対症療法となります:

  • 片頭痛:症状発現の頻度に応じて、対症的または予防的に治療します
  • 脳卒中予防:抗血小板療法が行われることがありますが、有効性は証明されていません
  • 危険因子の管理:高血圧、糖尿病、脂質異常症などの併存疾患を治療します
  • 支持療法:理学療法、作業療法、認知リハビリテーションなどが行われます

血管造影検査、抗凝固薬、血栓溶解療法は脳血管発作や脳出血のリスクを高める可能性があるため、原則として避けるべきです。喫煙も脳卒中の危険性を高めるため、禁煙が推奨されます。

Q6: 日本人に多い変異はありますか?

A: はい、日本を含む東アジアで特異的に見られる変異があります:

  • R544C変異:台湾のCADASIL1患者の約70%で見られます。東アジアでのアレル頻度は0.0036で、他の集団と比べて非常に高頻度です
  • p.R75P変異:東アジアに特異的な変異で、「出血指向型CADASIL」と呼ばれる亜型の原因となります。脳出血が目立ち、側頭極病変が乏しいという特徴があります

これらの変異は、浸透率の低下や軽症な表現型を示す可能性が指摘されています。

Q7: MRI検査で何がわかりますか?

A: 頭部MRI検査は、CADASIL1の診断において極めて重要です:

  • 側頭極の白質病変:最も特異的な所見で、93%の患者で認められます。この所見があればCADASIL1を疑います
  • 外包の病変:100%の患者で認められます
  • ラクナ梗塞:基底核、視床、脳幹などに小さな梗塞巣が見られます
  • びまん性白質病変:前頭葉、脳室周囲領域などに広範な高信号域が見られます
  • 脳萎縮:疾患の進行とともに認められます

MRI所見は臨床症状に先行して出現することがあり、無症状の20~30代でも異常が検出される場合があります。

Q8: 若年性脳梗塞との関連は?

A: CADASIL1は若年性脳梗塞の重要な原因の一つです。特に以下の特徴がある場合、CADASIL1を疑う必要があります:

  • 40~60代で脳梗塞を発症
  • 脳卒中の危険因子(高血圧、糖尿病など)がないまたは軽度
  • ラクナ梗塞を繰り返す
  • 脳梗塞の家族歴がある
  • 片頭痛の既往がある
  • MRIで側頭極の白質病変がある

若年で脳梗塞を発症した場合、特に家族歴がある場合は、CADASIL1の遺伝学的検査を考慮すべきです。

Q9: 片頭痛との関係は?

A: CADASIL1患者の約半数(22~73%)が片頭痛を経験します。特徴として:

  • 20~40歳代で発症することが多い
  • 視覚性の前兆(閃輝暗点など)を伴うことが多い
  • 他の神経症状(脳梗塞など)に先行して現れることが多い
  • CADASIL1の最初の症状として現れる場合がある

ただし、片頭痛だけではCADASIL1の診断はできません。前兆を伴う片頭痛があり、若年性脳梗塞や白質病変の家族歴がある場合は、CADASIL1の可能性を考慮する必要があります。

Q10: 遺伝カウンセリングは必要ですか?

A: はい、CADASIL1と診断された場合、または家族にCADASIL1患者がいる場合は、遺伝カウンセリングを受けることが強く推奨されます。遺伝カウンセリングでは以下のことが行われます:

  • 疾患の遺伝形式と再発リスクの説明
  • 家族員への遺伝のリスク評価(50%の確率)
  • 発症前診断の可能性と意義の説明
  • 生殖に関する選択肢(出生前診断、着床前診断など)の情報提供
  • 心理社会的サポート
  • 疾患の管理と生活上の注意点

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを提供しており、患者様とご家族が適切な意思決定を行えるようサポートしています。

Q11: 妊娠・出産への影響はありますか?

A: CADASIL1女性患者の約半数が、妊娠中または産褥期に神経症状を経験するという報告があります。特に以下の点に注意が必要です:

  • 産褥期と30歳以上の妊娠で症状が出やすい
  • 片麻痺、感覚障害、失語症、視覚障害などが出現する可能性
  • 82%の患者では、これらがCADASIL1の最初の症状となる

妊娠を計画している場合は、事前に神経内科医と産科医に相談し、適切な管理計画を立てることが重要です。

Q12: 指定難病の医療費助成は受けられますか?

A: はい、CADASIL1は厚生労働省の指定難病124に指定されています。診断基準を満たし、重症度分類で一定程度以上の場合、医療費助成の対象となります。申請には以下が必要です:

  • 臨床調査個人票(診断書)
  • 住民票
  • 市町村民税の課税証明書(世帯全員分)
  • 健康保険証の写し

詳細は、お住まいの都道府県の保健所または難病相談支援センターにお問い合わせください。

参考文献


プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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