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BRCA2遺伝子と遺伝性がんリスク:症状・検査・予防対策の完全ガイド

遺伝性のがんリスクを考える上で重要な役割を果たすBRCA2遺伝子。この遺伝子の変異は、乳がんや卵巣がんをはじめとする様々ながんの発症リスクを高めることが明らかになっています。

本記事では、BRCA2遺伝子の基本的な機能から変異によるリスク、検査方法、そして予防策まで、最新の医学知見に基づいた情報をご紹介します。ご自身やご家族の健康を守るための参考としてお役立てください。

重要なお知らせ:遺伝子変異に関する不安や疑問をお持ちの方は、専門家による遺伝カウンセリングをご検討ください。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による個別相談を承っております。

BRCA2遺伝子とは?その基本的な機能

BRCA2(Breast Cancer susceptibility gene 2)は、私たちの体の中で重要な役割を果たす遺伝子の一つです。染色体13番の長腕(13q13.1)に位置し、DNAの修復に関わる重要なタンパク質をコードしています。この遺伝子は1994年にイギリスの研究チームによって初めて同定され、1995年に完全な構造が解明されました。

BRCA2遺伝子の主な働き

  • ・ DNAの損傷、特に二重鎖切断を修復する機能
  • ・ 染色体の安定性を維持し、構造的異常を防止
  • ・ 細胞分裂時のゲノムの完全性を保護
  • ・ がん抑制遺伝子としての役割
  • ・ 細胞周期のチェックポイント制御への関与
  • ・ 細胞分裂の最終段階(細胞質分裂)への関与

BRCA2遺伝子は特に「相同組み換え修復」と呼ばれるDNA修復メカニズムで中心的な役割を果たします。この過程で、BRCA2はRAD51タンパク質と結合し、DNAの二重鎖切断を正確に修復するのを助けます。BRCA2タンパク質は、RAD51が損傷したDNAに結合するのを促進し、修復過程を効率的に進行させる「足場」のような働きをします。

また、BRCA2は単独で機能するのではなく、PALB2(Partner and Localizer of BRCA2)やBRCA1など、他のDNA修復タンパク質と複合体を形成して働きます。これらのタンパク質が協調して働くことで、正確なDNA修復が可能になります。

この修復機能が正常に働かないと、細胞内に遺伝子変異が蓄積し、がん発症のリスクが高まります。BRCA2遺伝子はまさに「ゲノムの守護者」としての重要な役割を担っているのです。

BRCA2遺伝子の構造的特徴

BRCA2遺伝子は非常に大きな遺伝子で、以下のような特徴を持っています:

  • ・ 全長約70キロベース(kb)のゲノムDNA領域を占める
  • ・ 全部で27のエクソン(タンパク質をコードする領域)から構成
  • ・ 3,418個のアミノ酸からなる大型タンパク質を生成
  • ・ エクソン11は特に大きく、遺伝子全体の約60%を占める
  • ・ BRC repeatsと呼ばれる8つの繰り返し配列を持ち、これらがRAD51と結合
  • ・ C末端にはDNA結合ドメインが存在
  • ・ N末端には転写活性化ドメインが存在

BRCA2タンパク質の機能ドメイン

BRCA2タンパク質は複数の重要な機能ドメインを持っています:

  • BRCリピート領域:RAD51と結合し、DNA修復を促進
  • DNA結合ドメイン:損傷したDNAに直接結合
  • 核局在シグナル:タンパク質を細胞核に運ぶための信号
  • トランスアクティベーションドメイン:遺伝子発現を調節
  • PALB2結合ドメイン:PALB2と結合し、BRCA1とのリンクを形成

BRCA2遺伝子から作られるタンパク質は、非常に複雑な構造を持っており、様々なタンパク質と相互作用します。この遺伝子の重要性は、進化的に保存されていることからも明らかです。マウスやニワトリなど他の脊椎動物にも相同遺伝子が存在し、基本的な機能は維持されています。

専門知識:BRCA2タンパク質は、DNA損傷時に特定の核内構造体(「核内フォーカス」と呼ばれる)に集積します。これらのフォーカスは、DNA修復工場のように機能し、複数の修復タンパク質が協調して働く場となります。BRCA2遺伝子に変異があると、これらの修復フォーカスの形成が障害され、DNA修復能力が著しく低下します。また、BRCA2は細胞周期のS期(DNA複製期)に特に活性化され、DNA複製時に生じる損傷の修復にも重要な役割を果たしています。

BRCA2遺伝子変異とがんリスク

BRCA2遺伝子に病的変異(パソジェニックバリアント)が生じると、DNAの修復機能が低下し、がん発症のリスクが大幅に上昇します。BRCA2変異は常染色体優性遺伝形式をとり、親から子へ50%の確率で受け継がれます。

BRCA2変異による主ながんリスク

がんの種類 一般人口のリスク BRCA2変異保持者のリスク
女性乳がん 約12% 45-69%
男性乳がん 0.1%未満 5-10%
卵巣がん 1-2% 10-20%
膵臓がん 約1% 2-7%
前立腺がん 約14% 20-30%

特に注目すべきは、BRCA2遺伝子変異保持者は男性の乳がんリスクも上昇することです。一般的に男性乳がんは稀ですが、BRCA2変異がある場合は発症リスクが高まります。

主なBRCA2変異タイプ

BRCA2遺伝子変異には様々なタイプがありますが、最も病的影響が大きいのは以下のようなものです:

  • ・ フレームシフト変異(塩基の挿入や欠失によるもの)
  • ・ ナンセンス変異(早期終止コドンを生じさせるもの)
  • ・ スプライシング部位の変異
  • ・ 大きな遺伝子再編成(欠失や重複)

日本人での代表的なBRCA2変異としては、c.8487+1G>A(スプライシング異常)やc.5574_5577delAATT(フレームシフト)などが報告されています。

重要:アシュケナージ・ユダヤ人には6174delT変異(全体の約1.5%)が見られるなど、民族によって特定の創始者変異(ファウンダー変異)が存在することがあります。日本人の場合、様々な種類の変異が見られるため、包括的な検査が重要です。

BRCA2と遺伝性疾患:ファンコニ貧血

BRCA2遺伝子の両アレルに病的変異がある場合(両アレル性変異)、ファンコニ貧血の一種であるFANCD1(Fanconi anemia complementation group D1)を引き起こすことが知られています。

ファンコニ貧血FANCD1は以下のような特徴を持つ重篤な疾患です:

  • ・ 生まれつきの身体的特徴(小頭症、色素沈着異常など)
  • ・ 骨髄不全による重度の貧血
  • ・ 小児期早期からの高い白血病リスク
  • ・ 脳腫瘍、ウィルムス腫瘍などの小児固形がんの発症リスク

FANCD1は通常の遺伝性乳がん卵巣がん症候群とは異なり、常染色体劣性遺伝形式をとります。つまり、両親それぞれからBRCA2の変異アレルを受け継いだ場合に発症します。

知っておきたい情報:BRCA2遺伝子はDNA修復経路の一部であるため、ファンコニ貧血の原因となる他の遺伝子(FANCA、FANCC、FANCD2など)と機能的に関連しています。このことは、遺伝性がんと先天性疾患の間に重要な生物学的関連があることを示しています。

BRCA2遺伝子検査:必要性と選択肢

次のような方はBRCA2遺伝子検査を検討すべきかもしれません:

  • ・ 乳がん、卵巣がんなどの家族歴がある方
  • ・ 50歳未満で乳がんを発症した方
  • ・ 両側性乳がんや男性乳がんの方
  • ・ 複数のがんを発症した方
  • ・ アシュケナージ・ユダヤ人の祖先を持つ方

遺伝子検査の種類

  1. 単一遺伝子検査:BRCA2遺伝子のみを検査
  2. 遺伝性がんパネル検査:BRCA1/2に加え、他の遺伝性がん関連遺伝子も同時に検査
  3. 包括的がん遺伝子パネル検査:より広範囲の遺伝子を検査

ミネルバクリニックでは、最新の次世代シーケンサーを用いた遺伝性がんパネル検査を提供しています。この検査では、BRCA2を含む複数の遺伝性がん関連遺伝子を一度に検査できます。

遺伝子検査の意義

BRCA2遺伝子検査には以下のような意義があります:

  • ・ がんリスクの正確な評価
  • ・ 予防的医療介入の検討材料
  • ・ 適切な治療法の選択(PARP阻害剤などの分子標的薬の適応判断)
  • ・ 血縁者のリスク評価と予防

検査前に知っておくべきこと:遺伝子検査を受ける前に、検査の意義やメリット・デメリット、結果の解釈について十分理解しておくことが重要です。また、保険適用となるケースもありますので、専門医にご相談ください。

BRCA2変異保持者のためのリスク管理と予防戦略

BRCA2遺伝子変異が確認された場合、がんリスクを軽減するための様々な選択肢があります。

サーベイランス(定期的検診)

  • 乳がん:25歳頃から年1回のマンモグラフィと乳房MRI
  • 卵巣がん:30歳頃から経腟超音波検査とCA-125血液検査
  • 膵臓がん:家族歴によっては50歳頃からMRIや内視鏡的超音波検査
  • 前立腺がん:男性の場合、40歳頃からPSA検査

予防的手術

  • 予防的乳房切除術:乳がんリスクを90%以上低減
  • 予防的卵巣・卵管切除術:卵巣がんリスクを大幅に低減、35〜40歳での実施が推奨

薬物予防

  • 選択的エストロゲン受容体モジュレーター(タモキシフェンなど):一部の女性で乳がんリスク低減の選択肢
  • 経口避妊薬:卵巣がんリスク低減の可能性がある

これらの選択肢はそれぞれメリット・デメリットがあり、個人の状況や希望に応じて検討する必要があります。

最新治療情報:BRCA2変異陽性の進行がんに対しては、PARP阻害剤(オラパリブなど)が効果的な治療選択肢として承認されています。これらの薬剤は、BRCA2変異によるDNA修復機能の欠損を標的とした精密医療の一例です。

遺伝カウンセリングの重要性

BRCA2遺伝子検査の前後には、専門家による遺伝カウンセリングが非常に重要です。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による丁寧な遺伝カウンセリングを提供しています。

遺伝カウンセリングで得られるもの

  • ・ ご家族の詳細な家系図作成と遺伝リスク評価
  • ・ 適切な遺伝子検査の選択についてのアドバイス
  • ・ 検査結果の詳細な解釈と説明
  • ・ リスク管理のための具体的な選択肢の提示
  • ・ 心理的サポートと情報提供
  • ・ 血縁者への情報共有に関するサポート

遺伝子検査の結果は、ご本人だけでなく血縁者にも影響する可能性があります。専門家による遺伝カウンセリングを通じて、正確な情報と適切なサポートを得ることが大切です。

ミネルバクリニックの遺伝カウンセリング:30分16,500円で、臨床遺伝専門医による専門的なカウンセリングを受けることができます。遺伝子検査の必要性や選択肢、結果の解釈などについて、わかりやすく丁寧にご説明いたします。

まとめ:BRCA2遺伝子と向き合うために

BRCA2遺伝子変異は、乳がんや卵巣がんをはじめとする様々ながんのリスクを高めます。しかし、適切な遺伝子検査と予防戦略によって、そのリスクを管理することが可能です。

特に重要なポイントをまとめると:

  • ・ BRCA2遺伝子はDNA修復に関わる重要ながん抑制遺伝子です
  • ・ 変異により乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんなどのリスクが上昇します
  • ・ 家族歴や若年発症がある場合は、遺伝子検査を検討すべきです
  • ・ 変異が見つかった場合は、サーベイランス、予防的手術、薬物予防などの選択肢があります
  • ・ 専門家による遺伝カウンセリングが非常に重要です

ミネルバクリニックでは、BRCA2遺伝子検査から遺伝カウンセリング、その後のフォローアップまで、一貫したサポートを提供しています。遺伝性がんリスクに関する不安や疑問がある方は、まずは専門家にご相談ください。

参考資料

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「遺伝性乳がん卵巣がん症候群
  2. 日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構「HBOC診療の手引き
  3. 日本医学会「遺伝医学関連学会ガイドライン
  4. Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM) 「BRCA2 Gene
  5. National Cancer Institute「BRCA Mutations: Cancer Risk and Genetic Testing
プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

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