承認済シンボル:BRCA1
遺伝子名:BRCA1 DNA repair associated
参照:
HGNC: 1100
AllianceGenome : HGNC : 1100
NCBI:672
遺伝子OMIM番号113705
Ensembl :ENSG00000012048
UCSC : uc002ict.4
遺伝子のlocus type :タンパク質をコードする
遺伝子のグループ:Ring finger proteins
Protein phosphatase 1 regulatory subunits
BRCA1 A complex
BRCA1 B complex
BRCA1 C complex
FA complementation groups
遺伝子座: 17q21.31
遺伝子の別名
BRCA1_HUMAN
BRCC1
breast cancer 1
breast cancer 1 gene
breast cancer 1, early onset
breast cancer 1, early onset gene
breast cancer type 1 susceptibility gene
breast cancer type 1 susceptibility protein
IRIS
PPP1R53
PSCP
RNF53
概要
BRCA1遺伝子は、DNA修復、細胞周期のチェックポイント制御、およびゲノムの安定性の維持において重要な役割を果たしています。この遺伝子は、異なるアダプタータンパク質と結合することによって、互いに排他的な方法で複数の異なる複合体を形成します。これらの複合体はそれぞれ、DNA修復や細胞周期の調整など、細胞の重要な機能を担っています。
遺伝子と関係のある疾患
遺伝子の発現とクローニング
Bennettら(1995)は、マウスのBrca1遺伝子がヒトの配列とヌクレオチドレベルで75%、アミノ酸レベルで58%の同一性を持つことを発見。
Jensenら(1996)は、BRCA1がグラニンタンパク質ファミリーのメンバーと相同性を持つことを示し、BRCA2にもグラニンのモチーフが含まれていることを発見。BRCA1は制御された経路で分泌され、ホルモンに応答する。
ElShamyとLivingston(2004)は、BRCA1の新たなスプライスバリアント、BRCA1-IRISを同定。このバリアントは1,399アミノ酸を含み、DNA複製開始部位のコアや複製開始タンパク質と共沈降し、DNA複製を調節する可能性がある。
遺伝子の構造
マッピング
ヒト染色体17q21へのマッピング:
Mikiらにより、BRCA1遺伝子はヒト染色体17q21にマップされました。
高解像度遺伝地図の作成:
Albertsenら(1994年)は、17q21周辺の40-CM領域に関する高解像度遺伝地図を作成しました。
この地図には、137のオーバーラップしたYACとP1クローンのコンティグと112のPCRマーカーが含まれています。
BRCA1遺伝子領域の物理的地図:
Albertsenら(1994年)は、BRCA1遺伝子を含む4-CM領域の物理的地図を構築し、その領域に20以上の遺伝子を局在させました。
BRCA1候補領域の放射線ハイブリッド地図:
O’Connellら(1994年)は、BRCA1遺伝子の候補領域に関する放射線ハイブリッド地図を作成しました。
NBR2遺伝子の位置決定:
Xuら(1997年)は、NBR2遺伝子がBRCA1遺伝子と偽BRCA1遺伝子の間に位置し、BRCA1と頭対頭で並んでいることを明らかにしました。
Suenら(2005年)は、NBR2遺伝子とBRCA1遺伝子が双方向性プロモーターを共有していることを報告しました。
マウス染色体へのマッピング:
Bennettら(1995年)は、Brca1遺伝子をマウス11番染色体の遠位にマッピングしました。
Schrockら(1996年)とDeGregorioら(1996年)は、Brca1遺伝子をマウス11番染色体、特に11Dにマップしました。
これらの研究は、BRCA1遺伝子の位置特定とその遺伝的背景に関する深い理解を提供し、乳がんや卵巣がんのリスク評価や治療において重要な役割を果たします。また、これらの知見は、ヒトとマウスの遺伝的シンテニー(相同性領域)に関する基礎的な理解を深めるものです。
偽遺伝子
BRCA1遺伝子の5-プライム末端は染色体17q21上の重複領域内に位置し、この領域にはBRCA1エクソン1A、1B、2およびその周辺のイントロンが含まれています。この重複により、BRCA1偽遺伝子がBRCA1の上流に存在することが確認されています。
Pugetら(2002)は、BRCA1とその偽遺伝子の間に広範な相同性を見出し、この相同性が相同組換え事象を引き起こす可能性があることを示唆しました。特に、BRCA1のイントロン2と偽遺伝子のイントロン2の間で37kbの欠失を引き起こす相同組換えが確認されました。この組換えは、相同性の高いセグメント内の異なる部位で起こり、偽遺伝子によるキメラ遺伝子の形成につながることがあります。
このキメラ遺伝子はBRCA1プロモーターを欠き、開始コドンを欠く偽遺伝子エクソン1A、1B、2がBRCA1エクソン3-24に融合したものです。これはBRCA1遺伝子における新しい突然変異メカニズムとして考えられ、BRCA1と相同な大きな領域が同じ染色体上に存在することが、組換えのホットスポットを形成する可能性があることを示しています。
このような偽遺伝子の存在は、BRCA1遺伝子の変異と機能の理解において重要です。BRCA1は、DNA修復、細胞周期チェックポイント制御、ゲノムの安定性維持において重要な役割を果たしているため、これらの偽遺伝子による変異は、乳癌や卵巣癌などのリスクに影響を与える可能性があります。
遺伝子の機能
Chenら(1995)は、BRCA1が多くの乳癌および卵巣癌細胞で細胞質に主に局在し、その異常が家族性だけでなく散発性の多くの乳癌の病因に関与している可能性を示唆した。
Coenら(1997)は、BRCA1が小胞体-ゴルジ複合体の核周辺コンパートメントおよび核内管に局在することを発見し、細胞周期への関与を示唆した。
Chenら(1996)は、BRCA1の発現とリン酸化が細胞周期に依存し、特にS期とM期に最も高いことを報告した。
Chenら(1998)は、BRCA1とBRCA2が生化学的複合体として存在し、DNA二本鎖切断修復および/または相同組換えに関連する経路に共に関与することを示した。
Zhongら(1999)は、BRCA1がRAD50-MRE11-p95複合体を介するDNA損傷に対する細胞応答に重要であることを示唆した。
Holtら(1996)は、野生型BRCA1の導入が乳癌および卵巣癌細胞の増殖を阻害するが、結腸癌細胞や肺癌細胞、線維芽細胞には影響しないことを示した。
Harkinら(1999)は、BRCA1の主要な標的がDNA損傷誘導遺伝子GADD45であり、c-Jun N末端キナーゼ/ストレス活性化プロテインキナーゼの活性化を通じてアポトーシスを誘発することを発見した。
Lorickら(1999)は、BRCA1のN末端がE2依存性のユビキチン化を促進することを示した。
Wuら(1996)は、BRCA1と相互作用する新規タンパク質BARD1を同定し、BRCA1の機能についての理解を深めた。
Jinら(1997)は、BARD1とBRCA1タンパク質の細胞周期に依存した共局在を調査し、BARD1の定常状態レベルがBRCA1とは異なり、細胞周期全体で一定であることを発見しました。特に、BARD1はS期にBRCA1と共に核内で凝集しました。これは、BRCA1を介した腫瘍抑制においてBARD1の役割を示唆しています。
Scullyら(1997)は、BRCA1遺伝子産物がRNAポリメラーゼIIホロ酵素の構成要素であることを発見しました。BRCA1はホロ酵素と共重合し、ホロ酵素成分SRB7に特異的な抗体を用いて特異的に精製されました。これは、BRCA1が転写コアクチベーターとして機能する可能性を示しています。
Andersonら(1998年)は、RNAヘリカーゼA(RHA)がBRCA1をホロ酵素複合体に連結していることを示しました。これはBRCA1が転写コアクチベーターとして機能するモデルを支持します。
Gowenら(1998年)は、BRCA1欠損マウス胚性幹細胞が酸化的DNA損傷の転写共役修復能力に欠陥があることを発見しましたが、この研究結果は疑問視されています。
Fanら(1999)は、BRCA1がエストロゲン受容体ERαの転写活性を抑制し、乳腺上皮増殖を抑制する可能性があることを示しました。
Scullyら(1999)は、野生型BRCA1が二本鎖DNA切断の効率的修復を促進し、DNA損傷への感受性を低下させることを発見しました。
YardenとBrody(1999)は、BRCA1がRb結合タンパク質RbAp46、RbAp48、Rbと相互作用し、ヒストン脱アセチル化酵素HDAC1およびHDAC2と関連していることを報告しました。これは、BRCA1が転写、DNA修復、組換えなどの過程に関与している可能性を示唆しています。
CHK2とBRCA1の相互作用:
Leeら(2000年)は、CHK2がBRCA1のセリン988をリン酸化し、DNA損傷後のBRCA1の機能を制御することを発見しました。
また、彼らはCHK2とBRCA1が核病巣内で共局在化するが、ガンマ線照射後は分離することを示しました。
BRCA1のリン酸化とその複雑性:
Cortezら(1999年)は、ATMがBRCA1のセリン1423と1524をリン酸化することを発見しました。
Ruffnerら(1999年)は、CDK2がセリン1497をリン酸化することを示しました。
IGF1Rプロモーターの制御:
Maorら(2000年)は、BRCA1がIGF1Rプロモーター活性を抑制し、SP1との機能的相互作用を持つことを発見しました。
CTIPとBRCA1の関係:
Liら(2000年)は、CTIPが電離放射線照射により過リン酸化され、BRCA1から解離することを報告しました。
LMO4とBRCA1の相互作用:
Sumら(2002年)は、LMO4とBRCA1が相互作用し、LMO4がBRCA1を介した転写活性化を抑制することを発見しました。
BRCA1の進化的分析:
Huttleyら(2000年)は、BRCA1に正のダーウィン選択圧が存在することを示唆しました。
BRCA1含有複合体の研究:
Bocharら(2000年)は、BRCA1を含む複合体がクロマチンリモデリング活性を示すことを発見しました。
BRCA1とクロマチン構造:
Yeら(2001年)は、BRCA1が大規模なクロマチン脱凝集を誘導することを見いだしました。
BRCA1関連ゲノム監視複合体(BASC):
Wangら(2000年)は、BRCA1がDNA修復タンパク質を含む大きなマルチサブユニット複合体の一部であることを発見しました。
BRCA1遺伝子は、細胞周期停止やDNA損傷誘導性遺伝子の転写制御に関与する重要な役割を果たしています。Zhengら(2000)は、BRCA1と関連するタンパク質を探るために酵母2ハイブリッドスクリーニングを行い、ZBRK1というタンパク質との関連を発見しました。ZBRK1はBRCA1依存的に転写を抑制し、BRCA1のコアプレッサー機能を明らかにしました。
ナンセンスを介したmRNA崩壊経路は、ナンセンス変異によって引き起こされる潜在的な損傷を最小限に抑える重要なメカニズムです。Liuら(2001)は、BRCA1におけるナンセンスを介したスプライシングの変化(NAS)を解析し、不適切なエキソンスキッピングがin vitroで再現可能であることを発見しました。
Hedenfalkら(2001)はマイクロアレイ技術を用いて、BRCA1陽性乳癌とBRCA2陽性乳癌の遺伝子発現プロファイルを比較し、両者の間に有意な遺伝子発現の違いを発見しました。
Garcia-Higueraら(2001)は、FANCA、FANCC、FANCF、FANCGタンパク質がFANCD2タンパク質の単ビキチン化アイソフォームの活性化に必要であることを発見しました。これにより、FANCD2タンパク質はファンコニー貧血の核複合体とBRCA1修復装置との間のミッシングリンクを提供しています。
ファンコニー貧血核複合体とFANCD2タンパク質との関連も示されており、FANCD2はDNA損傷部位でBRCA1タンパク質と結合します。また、Foliasら(2002)は、FANCAとBRCA1タンパク質間の直接的相互作用を証明しました。
Yuら(2003)は、BRCA1のBRCTドメインがリン酸化されたBACH1と相互作用し、細胞周期のG2期からM期への移行期におけるDNA損傷誘発チェックポイント制御に必要であることを示しました。さらに、他のBRCTドメインもリン酸化ペプチドと優先的に結合することを発見しました。
Dongら(2003)は、BRCA1、BRCA2、BARD1、RAD51を含むホロ酵素複合体(BRCC)を単離し、UBC5依存性のユビキチンE3リガーゼ活性を示すことを発見しました。この複合体はDNA損傷後の細胞生存を促進する役割を果たしていると結論づけました。
DengとWang(2003)は、DNA損傷修復におけるBRCA1の機能と、発生と癌を結びつける細胞応答について論じました。
MorrisとSolomon (2004)は、BRCA1がS期のDNA複製構造、ヒドロキシ尿素処理後、電離放射線被曝後の二本鎖切断修復部位でユビキチン結合することを示しました。
Furutaら(2005)は、RNA干渉によってBRCA1を減少させると、正常ヒト乳腺上皮細胞株の増殖が促進され、尖端形成が障害されることを発見しました。
Farmerら(2005年)は、BRCA1またはBRCA2の機能不全が、PARPの酵素活性阻害に対する細胞の感受性を増加させることを示しました。
Joukovら(2006年)は、BRCA1/BARD1が紡錘体極の集合とTPX2の紡錘体極への蓄積に必要であることを発見しました。
Wangら(2007)は、AbraxasとRAP80を含むBRCA1複合体を同定し、DNA損傷部位へのBRCA1の動員を助ける役割を果たしていることを示しました。
Sobhianら(2007)とKimら(2007)は、RAP80との相互作用を介してBRCA1がDNA損傷部位に集積し、G2/Mチェックポイント制御に関与することを示しました。
Wangら(2008)は、マウスとヒトのBRCA1関連乳癌において、SIRT1の発現が低下していることを発見しました。これは、サバイビンの発現上昇と関連しており、BRCA1の誘導によって逆転する可能性があります。また、SIRT1活性のアップレギュレーションは、腫瘍細胞のアポトーシスを引き起こす可能性があります。
Tan-Wongら(2008)は、BRCA1遺伝子にクロマチンループが形成されていることを明らかにしました。このループ形成は転写依存的であり、エストロゲンによる転写を調節する役割を果たす可能性があります。
YunとHiom(2009)は、DNA二本鎖切断の修復においてCTIPが重要な役割を果たすことを明らかにしました。特に、CTIPのリン酸化とBRCA1のリクルートメントは、DNA修復の過程を制御する重要なメカニズムです。
Morrisら(2009)は、BRCA1がSUMOによって修飾され、DNA損傷部位に局在することを報告しました。これは、BRCA1がDNA修復過程において重要な役割を果たすことを示唆しています。
Wuら(2010)は、HERC2がBRCA1の分解を引き起こすことを発見しました。これは、細胞周期のS期に最大であり、BRCA1の機能を調節する重要なメカニズムです。
Wu-Baerら(2010)は、UBXN1がBRCA1/BARD1ヘテロダイマーと相互作用し、BRCA1の酵素活性を制御することを示しました。
Harteら(2010)は、BRD7がBRCA1と相互作用し、乳癌細胞株の転写調節に重要な役割を果たすことを発見しました。
Zhuら(2011)は、BRCA1がサテライトDNAの転写を抑制し、ヘテロクロマチン構造を維持することを明らかにしました。
Changら(2011)は、BRCA1の変異がMIR155のアップレギュレーションを引き起こし、胚性幹細胞の生存率を低下させることを発見しました。これは、BRCA1がMIR155のエピジェネティック制御に関与していることを示唆しています。
Shakyaら(2011年): BRCA1のE3ユビキチンリガーゼ活性の役割
BRCA1のE3ユビキチンリガーゼ活性が腫瘍抑制には必要ではないことを示しました。
BRCTドメインによるリンタンパク質の認識が腫瘍抑制に重要であると結論づけました。
Leeら(2012年): YY1とBRCA1の相互作用
YY1がBRCA1の強力な陽性制御因子であることを発見しました。
YY1とBRCA1の発現は乳腺周期と正の相関があり、乳がんでは両者の発現が低いことが観察されました。
Willisら(2014年): BRCA1と複製フォークの関係
BRCA1が複製フォークの停止と染色体相同組換えを制御することを発見しました。
Orthweinら(2015年): 細胞周期がBRCA1の機能を制御
細胞周期がBRCA1とPALB2-BRCA2の相互作用を制御し、BRCA2の機能をS/G2期に限定することを発見しました。
Willisら(2017年): タンデム重複とBRCA1の役割
BRCA1がタンデム重複の形成を抑制し、特に卵巣がんにおいてこの役割が重要であることを明らかにしました。
Zhaoら(2017年): BRCA1-BARD1のDNA修復における役割
BRCA1-BARD1がDNA修復に不可欠であり、特にRAD51の活性を促進することを示しました。
Pandaら(2018年): Cep112とBrca1の相互作用
Cep112とBrca1が相互作用し、Ginir RNAによってこの相互作用が阻害されることを発見しました。
Daza-Martinら(2019年): フォーク保護におけるBRCA1-BARD1の役割
BRCA1-BARD1がフォーク保護に重要であり、その機能がPIN1によって制御されることを示しました。
これらの発見は、BRCA1の腫瘍抑制、DNA修復、複製フォークの安定性、および細胞周期制御における役割を明らかにし、特に乳がんや卵巣がんの病態解明に寄与しています。
分子遺伝学
家族性乳がんおよび卵巣がんの感受性
家族性乳がんおよび卵巣がんの感受性に関連するBRCA1遺伝子の研究は、多数の重要な発見をもたらしています。Mikiら(1994)は、家族性乳がん卵巣がんの患者においてBRCA1遺伝子の異なるヘテロ接合性変異を同定しました。これには11-bpの欠失、1-bpの挿入、ストップコドン、ミスセンス置換、および調節変異が含まれていました。
Castillaら(1994)は、乳癌および/または卵巣癌の家族歴のある50人のプロバンドにおいて、BRCA1遺伝子の8つの疾患原因と推定される変異を発見しました。Friedmanら(1994)は、乳がん卵巣がんの家族において9種類のヘテロ接合性BRCA1突然変異を同定しました。
Simardら(1994)は、カナダの乳がん卵巣がん症候群の家族のうち12家族でBRCA1遺伝子の突然変異を発見しました。変異の不均一性は、BRCA1変異検査の臨床応用が技術的に困難であることを示しています。
Futrealら(1994)は、原発性乳癌および卵巣腫瘍においてBRCA1遺伝子座の対立遺伝子消失を確認し、Merajverら(1995)は散発性卵巣癌の一部においてBRCA1の体細胞変異を発見しました。
Serovaら(1996)は、男性乳癌症例を含む家族性乳がん卵巣がん家系の多くでBRCA1遺伝子の突然変異を同定しました。これらの研究は、BRCA1遺伝子が家族性および散発性乳癌および卵巣癌の発生に関与していることを示しています。また、これらの発見は、BRCA1変異検査の重要性を強調しており、遺伝的リスク評価や癌予防戦略の策定において重要な役割を果たしています。
FitzGeraldら(1996)の研究では、30歳以前に乳癌に罹患した女性30人のうち13%がBRCA1遺伝子に変異を持っていました。また、40歳以前のユダヤ人女性の中で21%が185delAG変異を持っていました。
Gaytherら(1996)は、BRCA1のコード領域全体に散在する65以上の異なる突然変異を検出しました。
Couchら(1996)は、254のBRCA1突然変異を報告し、そのうちの52%がユニークでした。多くは蛋白質の切断や欠失をもたらす変異でした。
Stoppa-Lyonnetら(1996)は、1家族で2つの独立したBRCA1突然変異を記述しました。
Ramusら(1997)は、ハンガリーの乳癌/卵巣癌家系でBRCA1とBRCA2の変異を持つ1人を発見しました。
Liedeら(1998年)は、スコットランド系の乳癌患者にBRCA1とBRCA2の両方の変異を認めました。
Janezicら(1999)は、カリフォルニア州オレンジ郡の連続卵巣癌症例107例においてBRCA1変異の有病率を決定しました。
Vallon-Christerssonら(2001)は、スカンジナビアの乳癌および卵巣癌家系でBRCA1のC末端生殖細胞系列変異の影響を特徴付けました。
Perrin-Vidozら(2002)は、30種類のBRCA1変異がナンセンス媒介崩壊(NMD)によりmRNA量が減少することを発見しました。
Rostagnoら(2003)は、フランス南東部の乳癌および卵巣癌の家族140家族のBRCA1遺伝子変異を解析しました。
スコットランド/北アイルランドBRCA1/BRCA2コンソーシアム(2003)は、107家族にBRCA1またはBRCA2変異を同定しました。
Claesら(2004)は、ベルギーの乳癌-卵巣癌家族349家族のうち、49家族にBRCA1変異があり、26家族にBRCA2変異がありました。
Jaraら(2006年)は、チリ人64家族のうち7人がBRCA1遺伝子に変異を、3人がBRCA2遺伝子に変異を持っていることを発見しました。
Walshら(2006)は、従来の検査でBRCA1やBRCA2の変異が見つからなかった高リスク家族300人の中で、31人がBRCA1、4人がBRCA2のゲノム再配列を持つことを発見しました。特に、卵巣がんや男性乳がんの家系で再配列が多く見られました。また、4%のプロバンドがCHEK2遺伝子変異、1%がp53変異を持っていました。
Pavlicekら(2004)は、BICデータベースのBRCA1ミスセンス変異解析を行い、これらの変異がタンパク質の保存性と正の相関があることを示しました。
Eastonら(2007)は、BRCA1とBRCA2の不明な1,433の配列変異の系統的評価を行い、乳がんリスクと強い関連がある変異を特定しました。
Wangら(2010)は、乳がんリスク因子として同定された350のSNPをBRCA1とBRCA2変異保有者で評価し、BRCA1保有者では8つのSNP、BRCA2保有者では12つのSNPが乳がんリスクと関連していることを発見しました。SNRPBとCAMK1Dの特定のアレルがBRCA1キャリアにおいて強い関連を示しました。
ファンコニー貧血相補群S
ファンコニー貧血相補群S(FANCS)に関連する研究では、BRCA1遺伝子の変異が重要な役割を果たしていることが示されています。
Domchekら(2012)は、28歳の女性において、BRCA1遺伝子の2つの変異(V1736Aとc.2457delC)とBRCA2遺伝子の意味不明の変異(c.971G-C、R324T)を同定しました。BRCA1 V1736A変異体は、野生型に比べて二本鎖切断への局在が低下し、RAP80との相互作用が低下していました。
Sawyerら(2014)は、BRCA1遺伝子の変異(R1699Wとc.594_597del4)の複合ヘテロ接合体を持つFANCSの女性を報告しました。この患者のリンパ球は染色体切断と放射状染色体形成が増加し、細胞のDNA修復機能が損なわれていることが示唆されました。
Freireら(2018)は、ブラジル人両親から生まれた2歳半の女児においてBRCA1遺伝子のホモ接合性のナンセンス変異(C903X)を同定しました。この患者の細胞もまた染色体切断が増加していました。
Seoら(2018)は、中東の2家系の4人の患者において、BRCA1遺伝子のホモ接合性のナンセンス変異(W372XとL431X)を発見しました。これらのナンセンス変異はBRCA1エクソン11に生じ、短いアイソフォームの産生を引き起こしました。
これらの研究は、BRCA1遺伝子の変異がファンコニー貧血相補群S(FANCS)に関連する症状の発現に重要であることを示しており、特にBRCA1タンパク質のDNA修復機能の異常が症状の発現に関与している可能性を示唆しています。また、これらの発見は、BRCA1とBRCA2の変異が腫瘍リスクを高めることも示唆しており、遺伝的スクリーニングと癌予防戦略の策定に重要な情報を提供しています。
前立腺がん
アイスランドでの研究により、BRCA1遺伝子の男性保因者は前立腺がんのリスクが高い可能性が示唆されました(Araasonら、1993年)。Langstonら(1996年)は特定基準を満たす男性61人のBRCA1遺伝子を調査し、1人に185delAG変異が見つかりました。Isaacsら(1995年)は前立腺がん患者の親族における乳がんリスクの有意な上昇を同定できませんでした。
Nastiukら(1999年)は、アシュケナージ・ユダヤ人男性においてBRCA1またはBRCA2の変異が前立腺がんを誘発するかを調査しましたが、これらの変異が前立腺がんの発生に有意な影響を与えることは見出せませんでした。Vazinaら(2000年)も同様に、ユダヤ人集団におけるBRCA1およびBRCA2の変異は前立腺がんの発生にほとんど寄与していないと結論づけました。
一方、Giustiら(2003年)は、アシュケナジ・イスラエル人男性940人においてBRCA変異に関連する前立腺がんが2倍増加すると推定しました。この研究では、創始者変異を持つ症例と持たない症例の間で診断時の平均年齢や病理組織学的特徴に差は見られませんでした。
その他の癌
Al-Sukhniら(2008)の研究によると、ヘテロ接合性のBRCA1変異を持つ膵癌患者7例中5例(71%)の膵腫瘍DNAで、BRCA1遺伝子座にヘテロ接合性の消失(LOH)が確認されました。この結果は、BRCA1変異が膵癌のリスク要因であることを示唆しています。
Jonssonら(2019)は、進行性および転移性癌患者17,152人に対し、468のがん関連遺伝子のシーケンス解析を実施しました。彼らは、BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系列および体細胞性の機能喪失変異を特定しました。進行期がん患者の中でBRCA1/2変異を持つ割合は2.7%(BRCA1)と1.8%(BRCA2)でした。これらの変異は、BRCA関連のがん型で見られることが多く、PARP阻害剤への感受性に関連していました。しかし、非BRCA関連がん型では、これらの変異は生物学的に中立的な影響を持つ可能性があり、腫瘍の系統によってその重要性が異なることが示唆されました。
突然変異検出法
Haciaら(1996年)、Ishiokaら(1997年)、Petrij-Boschら(1997年)、Van Orsouwら(1999年)、Montagnaら(2003年)、Tavtigianら(2006年)、およびFindlayら(2018年)による研究から、BRCA1突然変異検出法における多様なアプローチとその進化が明らかになります。以下にその概要を示します。
Haciaら(1996年): DNAチップベースのアッセイ
DNAチップとオリゴヌクレオチドアレイを使用してBRCA1突然変異をハイスループットで検出するアプローチを開発。
Ishiokaら(1997年): 酵母を用いたコドンアッセイ
酵母の相同組換えを利用して、BRCA1遺伝子のタンパク質切断変異を検出する方法を開発。
Petrij-Boschら(1997年): 大規模ゲノム欠失の検出
PCRに基づく従来の方法で検出できなかったBRCA1遺伝子の大規模ゲノム欠失を確認。
Van Orsouwら(1999年): 多重PCR増幅と2次元電気泳動
安価なシステムを用いて多数のサンプルからBRCA1遺伝子の突然変異を検出。
Montagnaら(2003年): MLPA法
Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification法を用いてBRCA1遺伝子のゲノム再配列を同定。
Tavtigianら(2006年): 配列アラインメントとGrantham変異計算
BRCA1ミスセンス置換の大部分を解析し、病原性と中立的変異を区別。
Findlayら(2018年): 飽和ゲノム編集
BRCA1の13エクソンにおけるほぼすべての一塩基変異をアッセイし、非機能的ミスセンスSNVや表現を破壊するSNVを同定。
これらの研究は、BRCA1突然変異の検出方法の発展と精度向上を示しており、乳がんや卵巣がんの診断と治療における遺伝子検査の重要性を強調しています。
遺伝子型と表現型の相関
Gaytherら(1995)は60家族の乳癌および/または卵巣癌の症例を調査し、BRCA1遺伝子の変異の位置が乳癌と卵巣癌の発生比率に影響を与えることを発見しました。この研究は、遺伝子の3-プライム3分の1に変異があると卵巣癌の割合が低くなる傾向を示しました。
Neuhausenら(1996)は、61家族を対象にBRCA1遺伝子のハプロタイプを分析し、特定の変異が卵巣癌の発生に影響を与えることを示しました。
Boydら(2000)は、遺伝性卵巣癌と散発性卵巣癌の間に臨床的および病理学的な差異があるかどうかを調べました。遺伝性卵巣癌は散発性癌と比べて一次化学療法後の無病期間が長く、全体的な生存期間が長いことが示されました。
HohensteinとFodde(2003)は、BRCA1遺伝子座の遺伝子型と表現型の相関について総括的にレビューしました。
Saalら(2008)は、基底様乳癌においてPTENタンパク質の発現の消失が、非遺伝性および遺伝性BRCA1欠損乳癌の両方において有意に関連していることを発見しました。この結果は、BRCA1の機能不全が特定の癌サブタイプの発生に直接関与している可能性を示唆しています。
これらの研究は、特定の遺伝子変異が疾患の発生や進行にどのように影響を与えるかを理解するための重要な洞察を提供しており、疾患のリスク評価や治療戦略の策定に役立ちます。
進化
一方、Pavlicekら(2004年)は霊長類からのBRCA1ホモログを特徴付けました。彼らはヒトと非ヒト霊長類のBRCA1配列を比較し、非コードDNA領域における挿入/欠失が高く、Aluリピートに関連していることを発見しました。ほとんどのAluエレメントは非ヒト霊長類でも保持されており、BRCA1遺伝子座の構造的不安定性が類人猿に内在している可能性が示されました。非同義/同義変異の比率の解析は、BRCA1の内部配列の大部分が霊長類間で可変であり、正の選択の下で進化していることを示しました。BRCA1のRINGフィンガーとBRCTドメインをコードする末端領域は負の選択を受けており、比較した霊長類間でほとんど変わらなかった。
動物モデル
Xuら(1999)は、Brca1遺伝子のエクソン11の標的欠失を持つマウス胚線維芽細胞を用いて、G1-SおよびG2-M細胞周期チェックポイントの欠陥と染色体異常を発見しました。これは、BRCA1が遺伝的安定性の維持に重要な役割を果たしていることを示しています。
Moynahanら(1999年)は、Brca1欠損マウス胚性幹細胞において、相同組換えによる染色体二本鎖切断の修復が障害されていることを発見しました。これは、BRCA1が相同組換えを促進し、ゲノムの完全性を維持する役割を果たしていることを示しています。
Hakemら(1997)は、Brca1(5-6)とp53またはp21の二重変異マウスを作成し、Brca1(5-6)胚の生存期間の延長を観察しましたが、胚は完全には救済されませんでした。これは、胚の致死性が多因子プロセスによるものであることを示唆しています。
Ludwigら(1997)は、エクソン2を欠失したBrca1欠損マウスとエクソン11の一部を置換したBrca2欠損マウスを作成し、ヘテロ接合体は正常だったものの、ホモ接合体胚は発生が遅れ、無秩序で早期に死亡しました。
Xuら(2001)は、Brca1遺伝子のエクソン11を欠失したホモ接合体マウス胚が、広範なアポトーシスのために妊娠後期に死亡することを発見しました。p53の変異が加わると、生存期間が延長し、正常な乳腺の発達が回復しましたが、乳腺腫瘍の発症率が高まりました。
McCarthyら(2003)は、Bard1とBrca1の二重変異マウス胚が、単独のホモ接合体と区別がつかないことを明らかにしました。これは、Brca1とBard1の発生機能がBrca1/Bard1ヘテロダイマーによって媒介されることを示しています。
Wangら(2004)は、Brca1遺伝子のエクソン11の標的欠失またはGadd45a欠損変異を持つマウス胚線維芽細胞が、中心体増幅を起こすことを発見しました。また、この変異胚は無脳で、アポトーシスの高発生率を示しました。
Pooleら(2006)は、無産卵BRCA1/p53欠損マウスの乳腺がエストロゲン受容体ではなくプロゲステロン受容体を過剰発現し、抗プロゲステロン治療がBRCA1変異を持つ個体の乳癌予防に有用である可能性を示唆しました。
Shakyaら(2008)は、Bard1を条件付きで不活性化したマウスの乳腺が、基底様乳腺がんを発症することを見出し、BARD1とBRCA1のがん抑制活性がBRCA1/BARD1ヘテロダイマーを介して媒介されることを示唆しました。
アレリックバリアント
0001 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1, CYS64GLY
8人が乳癌、5人が卵巣癌であった血統(604370)において、Castillaら(1994)はBRCA1遺伝子のコドン64にTGTからGGTへの転座を見つけ、グリシンがシステインに置換された(C64G)。この血族の2人の罹患者の腫瘍DNAを分析したところ、野生型対立遺伝子は失われ、C64G変異対立遺伝子だけが残っていた。
.0002 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1, CYS61GLY
Gorskiら(2000)は、BRCA1遺伝子のcys61-to-gly(C61G)変異を、ポーランドの乳癌家系(604370)における創始者変異として同定し、同定された変異の20%を占めた。研究者らは、少なくとも3人の女性が乳がんまたは卵巣がんに罹患し、そのうち少なくとも1人が50歳以前にがんと診断された66家族を調査した。66家族のうち35家族(53%)で突然変異が同定された。
Merajverら(1995年)は、SSCP法を用いて47の卵巣癌の腫瘍部分と正常部分のゲノムDNAを分析し、BRCA1の突然変異を調べた。BRCA1遺伝子の体細胞突然変異は4つの腫瘍で同定され、その全てにBRCA1遺伝子内マーカーにおけるヘテロ接合性の消失も認められた。そのうちの1つは53歳の女性の子宮内膜様卵巣がんで認められ、ジンクフィンガーモチーフのC61G置換であった。このデータはBRCA1の腫瘍抑制機構を支持した。
.0003 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
膵臓がん、罹患しやすさ、4、含まれる
BRCA1、2-bp欠失、185ag
乳がん-卵巣がん感受性
Simardら(1994)は、カナダの乳がんおよび/または卵巣がん患者30家族(604370人)について、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。彼らはエクソン3のコドン22-23の正常配列TTA GAGに2bp(AG185)の欠失を同定した。このAGAGはおそらく欠失の素因となっている。この変異はmRNAの読み枠を変化させ、39位の早期終止コドンを引き起こす。この変異は、カナダの異なる地域から来た、血縁関係のない4家族のインデックス症例で検出された。これらの4家系では乳癌が合計12例、卵巣癌が11例であった。
Struewingら(1995)は、185delAG変異(187delAGとも呼ばれる)を有する発表された10家族全てがアシュケナージ・ユダヤ人(東ヨーロッパ起源)であることを指摘した。さらに、185delAG以外のBRCA1変異を持つアシュケナージ系ユダヤ人家族は1家族しか知られていなかった。さらに、185delAG変異を持つアシュケナージ家系は共通のハプロタイプを共有しているようであった。がんと関係のない疾患で遺伝学的検査を受けようとした858人のアシュケナージ人を対象にした研究では、0.9%(95%信頼限界、0.4%-1.8%)に185delAG変異が観察され、民族的出身で選ばなかった815人の参照人では、この変異を持つ人はいなかった。
Roaら(1996)は、約3,000人のアシュケナージ・ユダヤ人の1.09%に185delAG変異を認め、0.13%に5382insC変異(113705.0018)を認めた。同じ集団の3,085人を対象としたBRCA2解析では、6174delT変異(600185.0009)の保因者頻度は1.52%であった。この拡大集団ベースの研究により、BRCA1 185delAG変異とBRCA2 6174delT変異が、アシュケナジムの遺伝性乳癌の素因となる最も頻度の高い2つの変異対立遺伝子を構成していることが確認され、BRCA2の6174delT変異の浸透率は比較的低いことが示唆された。
Bar-Sadeら(1997)は、アシュケナジムに多くみられる185delAG変異の低リスク群と推定されるイラク系ユダヤ人の健康な639人を調査した。3人が185delAG突然変異の保因者と同定され、イラク人突然変異保因者のハプロタイプ解析の結果、イラク人のうち2人は6人のアシュケナージ人突然変異保因者と共通のハプロタイプを持ち、3人目は1マーカーだけ異なるハプロタイプを持っていた。このことからBar-Sadeら(1997)は、BRCA1 185delAG変異はユダヤ人がディアスポラに分散する以前、少なくともキリストの時代に発生した可能性があることを示唆した。
Bar-Sadeら(1998)は、彼らの分析を他の非アシュケナージ・サブセットにも拡大した: モロッコ系354人、イエメン系200人、イラン系150人である。モロッコ系では4人(1.1%)、イエメン系、イラン系では185delAG変異の保有者はいなかった。BRCA1対立遺伝子パターン(ハプロタイプ)は、これらの4人と、乳癌/卵巣癌を発症した非アシュケナージ185delAG変異保因者12人について決定された。共通の “アシュケナージ・ハプロタイプ “は6人の非アシュケナージ人と共有され、4人は密接に関連したパターンを有し、残り(n = 6)は明確なBRCA1対立遺伝子パターンを示した。著者らは、185delAG BRCA1突然変異は、アシュケナジムと同程度の割合で非アシュケナジ集団の一部で発生していると結論づけた。ユダヤ人の185delAG突然変異保因者の大多数が同じハプロタイプを持っており、創始者効果説を支持するが、突然変異の起源は以前推定されていたよりも早い時期であった。BRCA1遺伝子座の対立遺伝子パターンがユダヤ人変異保有者の一部で異なっていることは、この変異が独立して生じたことを示唆しているのかもしれない。
Banderaら(1998年)は、乳癌と腹膜漿液性乳頭癌(PSCP)の個人歴または家族歴を有する2人の女性において185delAG変異を証明した。PSCPは組織学的に漿液性上皮性卵巣がんと区別がつかず、卵巣摘出後何年も経ってから発症することがある。Schorgeら(1998年)は、これらの症例で腫瘍が多巣性であることを示し、生殖細胞系列BRCA1遺伝子変異を有する患者が乳癌や卵巣癌に加えてPSCPを発症する可能性を示した。
Ah Mewら(2002年)は、ユダヤ人の祖先が報告されていない非ユダヤ系のチリ人家族における185delAG変異を報告した。この家族に存在した連鎖ハプロタイプはアシュケナージ・ユダヤ人集団で同定されたものと同一であった。
Buissonら(2006年)は、185delAG変異を持つBRCA1転写産物はナンセンスを介するmRNA崩壊では分解されないことを発見した。ウェスタンブロット分析を用いて、彼らはこの転写産物と36位に早期終止コドンを持つ別の転写産物のミニゲインをトランスフェクトしたHeLa細胞を調べ、これらの転写産物からの翻訳がコドン128で再び開始されることを見出した。
膵臓癌感受性
Al-Sukhniら(2008)は、ヘテロ接合性の生殖細胞系列BRCA1突然変異を有する膵癌患者7人(PNCA4;614320)のうち5人(71%)の膵腫瘍DNAにBRCA1遺伝子座のヘテロ接合性の消失を認めた。3人の患者が185delAG変異を有していた。対照的に、生殖細胞系列のBRCA1変異を持たない散発性膵癌患者9人のうち、BRCA1遺伝子座にLOHを示したのは1人(11%)のみであった。Al-Sukhniら(2008年)は、BRCA1生殖細胞系列変異は膵癌の発生を容易にする可能性が高いと結論し、これらの変異を有する個人を膵癌スクリーニングプログラムの対象とすることを示唆した。
.0004 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、59-bp ins
Friedmanら(1994年)は、染色体17q21(604370)に関連した癌を持つ10家系の乳癌患者63人と卵巣癌患者10人を調査した。彼らはBRCA1遺伝子のエクソン5のヌクレオチド332でT-G変換を同定し、75位の早発終止コドンと切断蛋白をもたらした。
.0005 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、1-bp ins
Simardら(1994)は、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について、乳癌および/または卵巣癌のカナダ人30家族(604370人)を調査した。彼らはエクソン11のコドン337-339の正常配列GAA AAA AAGに1-bp(A)の挿入を同定し、mRNAの読み枠を変化させ、345位の早発終止コドンを引き起こした。この変異は、乳癌4例、卵巣癌3例を有するカナダ人家族の指標例で検出され、BRCA1との連鎖確率は98.3%となった。
.0006 乳がん-卵巣がん, 家族性, 罹患率, 1
BRCA1、40bp欠失、NT1294
Castillaら(1994)は、乳がんおよび/または卵巣がんの家族歴のある50人のプロバンド(604370人)を対象に、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。Simardら(1994年)は、乳癌および/または卵巣癌のカナダ人家族30人について、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。両者とも1294位から1333位までの40bpの欠失を同定し、この欠失から5コドン遠位で早発終止コドンが生じ、396アミノ酸の切断型BRCA1蛋白が予測された。
.0007 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、SER766TER
Friedmanら(1994)は、染色体17q21(604370)に関連した癌を持つ10家系の63人の乳癌患者と10人の卵巣癌患者を調査した。彼らはBRCA1遺伝子のエクソン11のヌクレオチド2415に2bp(AG)の欠失を同定し、セリン766の代わりに早発終止コドンが存在し、タンパク質が切断されていることを明らかにした。
.0008 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、2-bp欠失、2800AA
Friedmanら(1994)は、染色体17q21(604370)に関連した癌を持つ10家系の63人の乳癌患者と10人の卵巣癌患者を調査した。彼らはBRCA1遺伝子のエクソン11のヌクレオチド2800に2bp(AA)の欠失を同定し、901位の早発終止コドンと切断蛋白をもたらした。
.0009 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、SER915TER
Friedmanら(1994)は、染色体17q21(604370)に関連した癌を持つ10家系の63人の乳癌患者と10人の卵巣癌患者を調査した。彼らは、BRCA1遺伝子のエクソン11のヌクレオチド2863に2bp(TC)の欠失を同定し、セリン915の代わりに早発終止コドンが存在し、タンパク質が切断されていることを明らかにした。
.0010 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
brca1、1-bp欠失、3121a
Simardら(1994年)は、乳癌および/または卵巣癌を有するカナダの30家族について、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。彼らはエクソン11のコドン1001-1002の正常配列GAA AACに1-bpの欠失(3121delA)を同定し、mRNAの読み枠を変化させ、1023位の早発終止コドンを引き起こした。この変異は、合計5例の乳癌と1例の卵巣癌を有するカナダ人家族の指標例で検出され(604370)、BRCA1との連鎖確率は90%となった。
.0011再分類-意義不明の変異体
BRCA1、SER1040ASN
この変異体は、以前はBREAST-OVARIAN CANCER, FAMILIAL, SUSCEPTIBILITY TO, 1と題されていたが、Millotら(2012)の所見に基づいて再分類された。
Friedmanら(1994)は、染色体17q21(604370)に関連する癌を有する10家系の乳癌患者63人と卵巣癌患者10人を調査した。彼らはBRCA1遺伝子のエクソン11のヌクレオチド3238でGからAへの転移を同定し、1040位のセリンをアスパラギンに変化させた(S1040N)。
S1040N変異体の影響を評価するために使用された機能アッセイにより、S1040Nは国際がん研究機関(IARC)のクラスシステム(Millot et al.
.0012 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1, ARG1203TER
Friedmanら(1994)は、染色体17q21(604370)に関連した癌を持つ10家系の乳癌患者63人と卵巣癌患者10人を調査した。彼らはBRCA1遺伝子のエクソン11の3726位のCからTへの置換を同定し、アルギニン1203の代わりに早発終止コドンが生じ、タンパク質が切断されていることを明らかにした。
.0013 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、GLU1250TER
Castillaら(1994)は、乳癌および/または卵巣癌の家族歴のある50人のプロバンド(604370人)を対象に、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。彼らはエクソン11の3867位でGからTへの置換を同定し、グルタミン酸-1250の代わりに早発終止コドンが生じ、タンパク質は切断された。
.0014 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、4-bp欠失、NT3875
Castillaら(1994)は、乳がんおよび/または卵巣がんの家族歴のある50人のプロバンド(604370人)を対象に、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。彼らは3875位の4bpの欠失を同定し、1252位の早発終止コドンと切断蛋白をもたらした。
.0015 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRA1、4-bp欠失、4185TCAA
Friedmanら(1994年)は、染色体17q21(604370)に関連したがんを持つ10家系の乳がん患者63人と卵巣がん患者10人を調査した。Simardら(1994)は、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について、乳癌および/または卵巣癌を有するカナダ人30家族を調査した。両研究において、エクソン11の4184位の4bp(TCAA)欠失が同定され、1364位の早発終止コドンと切断蛋白につながった。
.0016 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
brca1, arg1443ter
Castillaら(1994)は、乳癌および/または卵巣癌の家族歴のある50人のプロバンド(604370人)について、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。彼らは、BRCA1遺伝子の4446位のCからTへの置換を同定し、アルギニン1443の代わりに早発終止コドンが生じ、タンパク質が切断されることを明らかにした。
.0017 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
brca1, arg1443gly
Castillaら(1994)は、乳癌および/または卵巣癌の家族歴のある50人のプロバンド(604370人)について、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。彼らは4446位のアルギニン1443からグリシンへのC-to-G転移を同定した。
.0018 乳がん-卵巣がん、家族性、罹患率、1
膵臓がん、感受性、含まれる
BRCA1、1-bp ins、5382c
乳がん-卵巣がん感受性
Simardら(1994年)は、カナダの乳癌および/または卵巣癌の30家族(604370人)について、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について調査した。彼らはエクソン20の5382位に1bp(C)の挿入を同定し、mRNAの読み枠を変化させ、エクソン24の1829位に早期終止コドンを生じさせた。この変異はカナダ人4家族の指標となる症例で検出された。そのうちの1家系では、乳癌3例、卵巣癌2例、白血病2例、膵臓癌2例、前立腺癌1例を含む10例の癌が1つの大家族に出現した。白血病1例とホジキン病1例が最近の世代で見られた。5382insC変異を持つ4家系では、乳癌が14例、卵巣癌が5例であった。
Gaytherら(1997)は、BRCA1遺伝子の5382insCと4153delA(113705.0030)変異がロシアにおける家族性卵巣癌症例の86%を占めている可能性を発見した。
Gorskiら(2000)は、5382insCがポーランドの乳癌卵巣癌家系における創始者突然変異であり、同定された突然変異の51%を占めることを発見した。彼らは、少なくとも3人の女性が乳癌または卵巣癌に罹患し、そのうちの少なくとも1人が50歳以前に癌と診断された66家族を調査した。66家族のうち35家族(53%)に突然変異が認められ、そのうちの18家族が5382insC突然変異を有していた。De Los Riosら(2001)は、ポーランドの先祖を持つ変異保有家族のほとんどがBRCA1 5382insC変異を持っていることを示唆するカナダの家族における所見を報告している。
Porhanovaら(2008)は、5382inC変異とNBN遺伝子のスラブ共通の変異(602667.0001)の複合ヘテロ接合体であることが判明した卵巣癌の52歳のロシア人女性を報告している。卵巣癌組織を調査したところ、NBNについてはヘテロ接合の体細胞欠損が認められたが、BRCA1についてはヘテロ接合の保持が認められた。この患者は特に重篤な癌傾向の表現型を持たず、彼女の両親は癌ではなかったが、3人の兄弟が成人になって癌を発症した。Porhanovaら(2008年)は、BRCA1遺伝子のハプロ不全は体細胞変化なしに癌の進行に寄与する可能性があるとコメントしている。
膵癌感受性
Al-Sukhniら(2008)は、ヘテロ接合性の生殖細胞系列BRCA1突然変異を有する膵癌患者7人(PNCA4;614320)のうち5人(71%)の膵腫瘍DNAにBRCA1遺伝子座のヘテロ接合性の消失を認めた。3人の患者は5382insC変異を有していた。一方、生殖細胞系列のBRCA1遺伝子変異を持たない散発性膵癌患者9人のうち、BRCA1遺伝子座にLOHを示したのは1人(11%)のみであった。Al-Sukhniら(2008年)は、BRCA1の生殖細胞系列変異は膵臓癌の発症の素因となる可能性が高いと結論し、これらの変異を有する個人を膵臓癌スクリーニングプログラムの対象とすることを示唆した。
.0019 乳がん-卵巣がん、家族性、罹患しやすさ、1
BRCA1, TYR1853TER
Friedmanら(1994)は、染色体17q21(604370)に関連した癌を持つ10家系の63人の乳癌患者と10人の卵巣癌患者を調査した。彼らは、BRCA1遺伝子のエクソン24のヌクレオチド5677に1bp(A)の挿入を同定し、チロシン1853の代わりに早発終止コドンが生じ、タンパク質が切断されていることを明らかにした。
.0020 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、19-bp欠失、NT5085
Castillaら(1994)は、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について、乳癌および/または卵巣癌の家族歴のある50人のプロバンド(604370人)を調査した。彼らは5085と5103の塩基対の間に19bpの欠失を同定し、1656位の終止コドンと切断蛋白をもたらした。
.0021 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、1-bp ins、5438c
Castillaら(1994)は、BRCA1候補遺伝子のコード領域における生殖細胞系列変異について、乳癌および/または卵巣癌の家族歴のある50人のプロバンド(604370人)を調査した。彼らはヌクレオチド5438に1bp(C)の挿入を同定し、1773位の終止コドンと切断蛋白をもたらした。
.0022再分類-意義不明の変異体
BRCA1, ARG841TRP
この変異体は、以前はBREAST-OVARIAN CANCER, FAMILIAL, SUSCEPTIBILITY TO, 1と題されていたが、Millotら(2012)の所見に基づいて再分類された。
Barkerら(1996)は、BRCA1遺伝子のarg841-to-trp(R814W)変異を、乳がん-卵巣がん患者で同定される一般的な変異として報告した(604370)。
R814W変異の影響を評価するために使用された機能アッセイにより、R814Wは国際がん研究機関(IARC)のクラスシステム(Millot et al.
.0023 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1, 2508G-T
スコットランド系の乳癌患者(604370)において、Liedeら(1998)は2つの高誘発性突然変異のダブルヘテロ接合を発見した:BRCA1の2508G-Tトランスバージョンで、グルタミン酸の停止コドンへの変換をもたらし、BRCA2の3295insA突然変異(600185.0011)である。両変異とも父親由来と考えられた。
.0024 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、4-bp欠失、962CTCA
第一度近親者に乳癌または卵巣癌の陽性家族歴を有する白人患者(604370)において、Janezicら(1999)はBRCA1遺伝子に962delCTCA変異を同定した。
.0025 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、11-bp欠失、NT3600
第一度近親者に乳癌または卵巣癌の陽性家族歴(604370)を有する白人患者において、Janezicら(1999)はBRCA1遺伝子に3600del11変異を同定した。
.0026 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、1-bp欠失、1675a
2つのBRCA1創始者変異がノルウェー集団で同定された: 1675delA(Dorumら、1997)と1135insA(113705.0027)(Andersenら、1996)である。どちらもエクソン11のフレームシフトと停止をもたらす。Dorumら(1999)は、BRCA1 1675delA変異を有する20人の乳癌卵巣癌患者(604370)と1135insA変異を有する10人の乳癌卵巣癌患者を調査した。その親族について、乳癌および/または卵巣癌の有無について記述した。存命の女性親族133人のうち、83人(62%)が変異の有無を検査された。2つの変異の間に浸透率や発現の差は認められなかったが、確認方法による差は認められた。全体的な所見として、疾患は30歳で発生し始め、50歳までに変異保有女性の48%が乳癌および/または卵巣癌を経験していた。乳癌よりも卵巣癌の方が多かった。浸透率と発現(乳癌と卵巣癌)の両方が、アシュケナージ創始者突然変異の報告とは異なっていた。
.0027 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
brca1、1-bp ins、1135a
113705.0026およびDorumら(1999)を参照。
.0028 乳がん-卵巣がん、家族性、罹患しやすさ、1
BRCA1、2-bp 欠失、3888GA
Tesorieroら(1999)は、40歳以前に腋窩リンパ節転移を伴う高悪性度乳がんを発症した女性を同定した(604370)。彼女の父親は50歳代前半に前立腺がんを発症した。母親には癌はなかった。患者は、BRCA1遺伝子のエクソン11のヌクレオチド3888にde novoの2bp欠失(GA)(3888delGA)を有し、BRCA2遺伝子のエクソン11のヌクレオチド6174に1bp欠失(T)を有し(600185.0009)、これらは父親から受け継いだものであることが判明した。ヘテロ接合体多型の研究から、BRCA1の3888delGA変異は父親由来であることが示された。著者らは、BRCA1およびBRCA2(600185)遺伝子に同定された変異の数が多いにもかかわらず、de novo変異の先行報告はないようであることを指摘した。
.0029 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、10-bp ins、NT943
Meffordら(1999)は、BRCA1遺伝子のヌクレオチド943における10-bpの挿入が、乳がん卵巣がん患者におけるアフリカ由来の創始者変異であることを示唆した(604370)。
.0030 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、1-bp欠失、4153a
ロシアの乳癌(604370)の家族におけるBRCA1遺伝子の突然変異解析により、Gaytherら(1997)は新規の4153delA突然変異を同定した。彼らは、この突然変異とBRCA1遺伝子の5382insC (113705.0018)突然変異がロシアにおける家族性卵巣癌の症例の86%を占めている可能性があると述べている。
.0031 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、6-KB重複、EX13
Pugetら(1999)は、BRCA1遺伝子のエクソン13に6kbの重複があり、コーディング配列にフレームシフトが生じていることを、ヨーロッパ系血統の無関係な米国3家系と乳癌卵巣癌のポルトガル1家系で報告した(604370)。この重複の保因者の頻度と地理的多様性を推定するために、BRCA1 Exon 13 Duplication Screening Group (2000)は、乳癌の家族歴を有する非血縁者3,580人と、19ヵ国の39施設を通じて確認された早期発症乳癌および/または卵巣癌症例934人を調査した。オーストラリア(1人)、ベルギー(1人)、カナダ(1人)、英国(6人)、米国(2人)において、この突然変異を有する11家族が新たに同定された。ハプロタイピングの結果、これらの家系は共通の祖先に由来する可能性が高く、おそらく北イギリス起源であることが判明した。このスクリーニンググループは、英語圏、あるいは英国との歴史的なつながりのある国々におけるBRCA1スクリーニングのプロトコールには、彼らの報告に記載されたPCRベースのアッセイを含めるべきであると提案した。
.0032 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
brca1、1-bp欠失、3744t
Sarantausら(2000)は、BRCA1遺伝子のエクソン11に3744delT変異を有するフィンランドの乳癌患者26人(604370)のハプロタイプ解析を行った。その結果、この変異は23〜36世代(500〜700年)さかのぼることができると推定された。この突然変異はスウェーデンの家族にも観察された。ほとんどのフィンランド人家族は少なくとも300年前から中央オストロボスニアに住んでいたのに対し、スウェーデン人家族はボスニア湾の反対側から来た。従って、この突然変異はスウェーデン人入植者と共にスウェーデンからフィンランドへ海を渡って持ち込まれた可能性がある。
0033 乳がん-卵巣がん、家族性、罹患率、1
BRCA1、5-bp ins、NT3171
Bergmanら(2001)は、BRCA1遺伝子の3171ins5変異(当初はJohannssonら(1996)により3166insTGAGAとして報告された)は、スウェーデンにおいて最も再発性の高い生殖細胞系列のBRCA1/BRCA2変異であると述べている。Bergmanら(2001)は、3171ins5変異が確認された遺伝性乳癌および/または卵巣癌(604370)を有する18の一見無関係な家系において、BRCA1遺伝子内およびBRCA1遺伝子を挟む多型マイクロサテライトマーカーを用いてハプロタイプを構築した。すべての罹患家系はスウェーデン西海岸沿いの同じ地域出身であった。マイクロサテライトマーカーは17.3cMの領域にわたっており、解析された全家族は、BRCA1遺伝子の内部またはごく近傍に位置する4つのマーカーにわたる3171ins5保因者の共通の3.7cMのハプロタイプを共有していた。このハプロタイプは116本の対照染色体のいずれにも存在せず、3171ins5突然変異は子孫による同一性、すなわち真の創始者である可能性が高かった。この突然変異の推定年代は約50世代、すなわち6世紀頃に初めて出現したと計算された(Bergman et al.) 地理的起源と遺伝子型との間には明らかな相関関係は見られなかった。これはおそらく、スウェーデン西部の人口が歴史的に西海岸に沿って移動する人々であり、この明確な地理的範囲を超える移動は限られていたことを反映していると思われる。
.0034 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
brca1, arg71gly
Vegaら(2002)は、BRCA1およびBRCA2遺伝子の変異について、スペインの乳がんおよび乳がん/卵巣がん30家族(604370人)を調査した。30家族のうち8家族(26.66%)に変異がみられた。変異はすべてBRCA1遺伝子にあった。arg71からgly(R71G)への置換をもたらすBRCA1遺伝子の330A-G転移は、血縁関係のない4家族に認められ、同定された全変異の50%を占めた。この変異は、異常なスプライシングを引き起こす創始者スペイン人の変異として報告されていた(Vega et al.) 1家族の確率因子は27歳と30歳の時に両側乳癌を発症した。彼女の母親もこの突然変異を有しており、50歳で卵巣癌と診断された。
Diezら(2003)は、330A-G変異はイントロン5のスプライスドナー部位に影響を及ぼし、エクソン5の22ヌクレオチドの欠失とコドン64での停止(C64X)をもたらす異常スプライシングを引き起こしたと述べている。Diezら(2003)はこの変異を7家族で観察しており、そのほとんどがガリシア出身であることが知られている。BRCA1データベースで報告されているように、330A-G変異はスペイン以外のヨーロッパの様々な地域(フランスとイギリス)のスペイン系と思われる家族、およびカリブ海諸国と南アメリカの家族で観察されている。
.0035 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、MET1775ARG
Mikiら(1994)は、乳房卵巣がんに罹患した家系(604370)において、BRCA1遺伝子のエクソン21におけるヘテロ接合性のT-G変換を同定し、met1775-arg(M1775R)置換をもたらした。
乳癌または卵巣癌患者の生殖細胞系列において、Monteiroら(1996年)はBRCA1遺伝子のM1775R変異を同定した。この変異はBRCA1の転写活性を低下させる。WilliamsとGlover(2003)はこの変異の影響について構造的研究を行った。変異した側鎖はタンパク質の疎水性コアからはみ出し、それによってタンパク質表面が変化している。電荷と電荷の反発、疎水性コアの再配列、2つのBRCTリピート間の界面における本来の水素結合ネットワークの破壊が、変異タンパク質のコンフォメーション不安定性に寄与している。WilliamsとGlover (2003)は、変異型BRCTドメインが生理的温度で不安定化し、グローバルにアンフォールディングすることで、変異型タンパク質に関連する多面的な分子的・遺伝的欠陥が説明できると結論づけた。
Aglipayら(2006)は、M1775R変異が、電離放射線誘発DNA損傷後のATM(607585)の活性化に必要なBRAT1(614506)とBRCA1の相互作用を阻害することを示した。
0036 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1、MET1775LYS
Tischkowitzら(2008)は、乳癌(604370)の既往歴のある血縁関係のないヨーロッパの2家系において、BRCA1遺伝子のmet1775-to-lys(M1775K)置換を同定し、その病原性を証明した。著者らは、M1775K変異体タンパク質を酵母および哺乳動物細胞で発現させると、BRCA1の転写活性が著しく低下することを示し、この変異体の病原性を示した。M1775K変異は、BRCTドメインのリン酸化ペプチド結合ポケットを破壊し、それによってBRCA1とDNA損傷によるチェックポイント制御に関与するタンパク質BRIP1(605882)およびCTIP(RBBP8;604128)との相互作用を阻害した。これらの結果は、BRCTリン酸化ペプチド結合ポケットがBRCA1の腫瘍抑制機能に重要であることを示している。Tischkowitzら(2008)の研究では、機能的、構造的、分子的、進化的手法を組み合わせて用いた。
.0037 乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1
BRCA1, ARG1699GLN
乳癌(604370)を分離するスカンジナビアの家系(LUND488)において、Vallon-Christerssonら(2001)はBRCA1遺伝子のエクソン18のヌクレオチド5215においてGからAへの転移を同定し、その結果、arg1699からglnへの置換(R1699Q)が生じた。R1699Q置換はC末端BRCT-Nトランスアクティベーションドメインのαヘリックス-2内にある。Vallon-Christerssonら(2001)は、この置換を持つBRCA1が酵母で研究された場合には野生型のトランス活性化活性を持つが、哺乳動物細胞で研究された場合には活性化が低下し、機能喪失と一致することを見いだした。
Changら(2011)は、マウス胚性幹細胞を用いて、R1699Q置換を持つヒトBRCA1を発現させると、胚性幹細胞の生存率が低下し、細胞増殖を促進する役割を持ち、様々なヒト癌で発現が上昇するマイクロRNA-155(MIR155;609337)のアップレギュレーションが起こることを見出した。野生型BRCA1は、R1699Q置換を持つBRCA1ではなく、Hdac2(605164)をMIR155プロモーターにリクルートすることによってマウスのMIR155発現をダウンレギュレートし、ヒストンH2a(142720参照)とH3(601128参照)の脱アセチル化をもたらした。
.0038 ファンコニー貧血、相補群S
乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1、含まれる
BRCA1, VAL1736ALA
ファンコニー貧血相補群S(FANCS;617883)に一致する複雑な表現型を有する28歳の女性において、Domchekら(2012年)は、BRCA1遺伝子の複合ヘテロ接合体変異を同定した:c.5207 c.5207のT-C転移は保存残基のval1736-ala(V1736A)置換をもたらし、エクソン11の1-bp欠失(c.2457delC; 113705.0039)はフレームシフトと早期終止(Asp821IlefsTer25)をもたらすと予測された。彼女はまた、BRCA2遺伝子に意義不明のヘテロ接合体変異(c.971G-C, R324T)を有していた。患者の母親は55歳で卵巣癌で死亡しており、母親のDNAは入手できなかった。乳癌と卵巣癌の両方を患った母方の大叔母(BROVCA1; 604370)はヘテロ接合性のV1736A変異を有し、腹膜癌を患った別の母方の大叔母はV1736A変異とBRCA2のR324T変異を有していた。罹患していない家族2人にもヘテロ接合性のV1736A変異が認められた。ヘテロ接合性のV1736A変異を有する患者の何人かの腫瘍組織では、野生型のBRCA1対立遺伝子のヘテロ接合性の喪失が認められ、V1736A変異が病因であることが示唆された。その後、V1736A変異に関連するBROVCA1または他のタイプの癌を有する11の血統がさらに確認された。分離解析の結果、V1736Aが病原性であることを支持する合計オッズ比(OR)は234:1であった。In vitroでの機能発現研究により、BRCA1 V1736A変異体は、野生型と比較して、二本鎖切断への局在が低下し、RAP80(UIMC1;609433)との相互作用が低下する低型対立遺伝子であることが示された。BRCA2変異体の研究は行われなかった。プローバントの父系にも乳癌の多発例があるが、これらの個体のほとんどについて遺伝学的研究は行われていない。
.0039 ファンコニー貧血、相補群S
BRCA1、1-bp欠失、2457c
Domchekら(2012)によるファンコニー貧血相補群S(FANCS; 617883)の患者において複合ヘテロ接合状態で見つかった、フレームシフトと早期終止(Asp821IlefsTer25)をもたらすと予測されるBRCA1遺伝子の1-bp欠失(c.2457delC)についての考察は、113705.0038を参照。
.0040 ファンコニー貧血相補群S
乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1、含まれる
BRCA1, ARG1699TRP
血縁関係のないフィンランド人の両親から生まれたファンコニー貧血相補群S(FANCS;617883)の女性において、Sawyerら(2014年)はBRCA1遺伝子の複合ヘテロ接合体変異を同定した:c.5095C-T転移(c.5095 エクソン18のc.5095C-T転移(c.5095C-T, NM_007294)はarg1699からtrpへの置換(R1699W)をもたらし、エクソン10の4bp欠失(c.594_597del4; 113705.0041)はフレームシフトと早期終結(Ser198ArgfsTer35)をもたらすと予測された。この変異は全ゲノム配列決定により発見され、家族内でこの疾患と分離した。4bpの欠失を有する患者の母親は卵巣癌(BROVCA1; 604370)であった;彼女の腫瘍組織は野生型BRCA1対立遺伝子のヘテロ接合性の喪失(LOH)を示した。卵巣癌、子宮内膜癌、胃癌を含む癌の強い家族歴があった。患者のリンパ球は対照と比較して染色体切断と放射状染色体形成の増加を示した。患者の線維芽細胞ではBRCA1タンパク質の全長発現が低下しており、R1699W変異がミスフォールディングを引き起こし、タンパク質分解安定性が低下していることが示唆された。RT-PCR解析から、c.594_597の欠失はナンセンスを介したmRNAの崩壊をもたらしたことが示唆された。患者細胞のさらなる研究により、BRCA1とRAD51(179617)の病巣が障害に応答して減少することが示され、二本鎖切断修復機能が損なわれていることが示唆された。野生型BRCA1の異所性発現はこれらの修復機能を回復させた。
R1699W変異は、Vallon-Christerssonら(2001)によって、乳癌と卵巣癌を分離するスカンジナビアの家系(LUND279)でヘテロ接合状態で同定されたことがある。Vallon-Christerssonら(2001)は、この置換基を持つBRCA1は、酵母で研究した場合には野生型のトランス活性を持つが、哺乳動物細胞で研究した場合にはトランス活性が低下し、機能喪失と一致することを見出した。さらに、この変異体タンパク質は野生型と同程度のレベルで発現しており、機能喪失の原因としてタンパク質の不安定性の増加を除外することができた。
.0041 ファンコニー貧血、相補群S
乳がん、卵巣がん、家族性、感受性、1、含まれる
BRCA1、4-bp欠失、NT594
Sawyerら(2014)によるファンコニー貧血相補群S(FANCS; 617883)患者において複合ヘテロ接合状態で見つかった、フレームシフトと早期終結(Ser198ArgfsTer35)をもたらすと予測されるBRCA1遺伝子の4bp欠失(c.594_597del4, NM_007294)については、113705.0040を参照のこと。この変異のヘテロ接合体保有者は、乳がん-卵巣がん(BROVCA1; 604370)に対する感受性が増加していた。
.0042 ファンコニー貧血、相補群S
乳がん-卵巣がん、家族性、感受性、1、含まれる
BRCA1, CYS903TER
Freireら(2018年)は、近親血縁のブラジル人の両親から生まれたファンコニー貧血相補群S(FANCS;617883)の2歳半の女児において、BRCA1遺伝子のエクソン10にホモ接合性のc.2909T-A転座(c.2709T-A、NM_007294.3)が同定され、その結果、cys903からter(C903X)への置換が生じ、タンパク質の機能が完全に失われると予測された。この変異は全ゲノム配列決定により発見され、サンガー配列決定により確認されたが、彼女の両親にはヘテロ接合体の状態で存在した。この変異は1000 Genomes ProjectやgnomADのデータベースでは見つからなかった。患者の細胞は対照と比較して染色体切断が増加していた。患者の母親はその後スクリーニングを受け、乳癌であることが判明した(BROVCA1; 604370)。母方にはさらに乳がんの家族歴があった。
Seoら(2018)は、C903X変異体はBRCA1遺伝子のエクソン11に存在し、エクソン11の天然に存在する代替スプライスドナーの3プライムに位置すると指摘した。したがって、天然に存在するアイソフォームにはC903X変異がなく、おそらくナンセンス変異のホモ接合体である患者の生存可能性を説明しているのであろう。
.0043 ファンコニー貧血、相補群S
BRCA1、TRP372TER
ファンコニー貧血相補群S(FANCS; 617883)に一致する複雑な表現型を有する、血縁関係にあるアラブ人の両親から生まれた2人のきょうだい(A家系)において、Seoら(2018年)は、BRCA1遺伝子のエクソン11にホモ接合性のc.1115G-A転移(c.1115G-A, NM_007294.3)を同定し、その結果、trp372からter(W372X)への置換が生じた。サンガー配列決定により確認されたこの変異は、家族内で本疾患と分離し、患者では体細胞性ではなく生殖細胞性であることが証明された。これらの患者では、BRCA1エクソン11に、変異の5プライムに位置し、変異によって影響を受けた残基を欠く2つの短いアイソフォームを生成する、自然に発生する代替スプライスドナーが存在するため、ナンセンス変異のホモ接合性は生存可能であった。患者の線維芽細胞では、完全長のBRCA1タンパク質は検出されなかったが、DNA損傷を修復する能力をある程度保持し、完全長のタンパク質の欠損を部分的に補うことができる正常アイソフォームの1つに相当するタンパク質レベルを有していた。
.0044 ファンコニー貧血、相補群S
BRCA1、LEU431TER
ファンコニー貧血相補群S(FANCS; 617883)に一致する複雑な表現型を持つ、トルコ人の近親の両親から生まれた2人のきょうだい(B家系)において、Seoら(2018年)は、BRCA1遺伝子のエクソン11にホモ接合性のc.1292T-G転座(c.1292T-G, NM_007294.3)を同定し、leu431からterへの置換(L431X)をもたらした。この変異は全ゲノム塩基配列決定により発見され、サンガー塩基配列決定により確認されたが、家族内でこの疾患と分離し、患者では体細胞ではなく生殖細胞系列であることが証明された。BRCA1エクソン11には、変異の5プライムに位置し、変異によって影響を受けた残基を欠く2つの短いアイソフォームを産生する、天然に存在する代替スプライスドナーが存在するため、これらの患者ではナンセンス変異のホモ接合体が生存可能であった。これらの代替アイソフォームはDNA損傷修復能力をある程度保持し、全長タンパク質の欠損を部分的に補う。