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AXIN2遺伝子と関連疾患:遺伝性大腸がんと歯の先天性欠損(歯の欠損症)の原因遺伝子

AXIN2遺伝子は、私たちの体の発生や成長、そして細胞の増殖をコントロールする重要な役割を果たしています。この遺伝子に変異が生じると、遺伝性大腸がん歯の先天性欠損症(オリゴドンティア)などの疾患リスクが高まることが知られています。

この記事では、AXIN2遺伝子の機能、変異によって引き起こされる疾患、そして遺伝子検査の重要性について詳しく解説します。遺伝性疾患に関する知識を深め、ご自身やご家族の健康管理に役立てていただければ幸いです。

AXIN2遺伝子とは

AXIN2遺伝子(別名:CONDUCTIN)は、17番染色体の長腕(17q24.1)に位置する遺伝子です。この遺伝子は、細胞の増殖や分化を制御するWntシグナル伝達経路において重要な役割を果たしています。

AXIN2タンパク質は、β-カテニン(beta-catenin)の分解を促進することで、細胞増殖をコントロールします。簡単に言えば、AXIN2は細胞の増殖にブレーキをかける役割を持っているのです。このブレーキが正常に機能しなくなると、細胞の過剰な増殖が起こり、がんなどの疾患リスクが高まる可能性があります。

β-カテニンとは

β-カテニン(ベータカテニン)は、細胞接着や遺伝子発現を調節する重要なタンパク質です。主に以下の2つの役割を担っています。

  • 細胞接着:β-カテニンは、細胞同士を結合させるカドヘリンという接着分子と結合し、細胞骨格と連携して細胞の形態を維持します。
  • 遺伝子発現調節:Wntシグナル伝達経路において、β-カテニンは核内に移行して特定の遺伝子の発現を活性化し、細胞増殖や分化を促進します。

AXIN2遺伝子はβ-カテニンの分解を促進することで、Wntシグナル伝達を抑制する役割を持っています。AXIN2の機能が失われると、β-カテニンが過剰に蓄積し、細胞増殖が制御不能になることでがんなどの疾患リスクが高まることがあります。

AXIN2遺伝子の基本情報

  • 染色体位置:17q24.1(17番染色体長腕)
  • 遺伝子サイズ:約25kb以上
  • エクソン数:10個
  • 主な機能:Wntシグナル伝達経路の調節、β-カテニンの分解促進
  • 発現組織:胸腺、前立腺、精巣、卵巣、小腸などで高発現

AXIN2遺伝子の機能

AXIN2遺伝子は、生体内で重要な役割を果たすタンパク質をコードしています。このタンパク質は、細胞増殖の制御に関わるWntシグナル伝達経路において中心的な役割を担っています。

Wntシグナル伝達経路における役割

AXIN2タンパク質は、APC、β-カテニン、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3B)などと複合体を形成し、β-カテニンの分解を促進します。β-カテニンは細胞増殖を促進する遺伝子の発現を活性化するため、AXIN2による適切な制御が細胞の正常な増殖に不可欠です。

正常な細胞では、AXIN2を含む複合体がβ-カテニンの量を適切に調節し、細胞増殖を適切にコントロールしています。しかし、AXIN2遺伝子に変異が生じると、この調節機能が失われ、β-カテニンが過剰に蓄積することで、細胞の異常な増殖が促進され、がんなどの疾患リスクが高まる可能性があります。

発生と組織再生における役割

AXIN2遺伝子は、歯の発生、肝臓の再生、皮膚の維持など、さまざまな組織の発生と再生にも関与しています。マウスを用いた研究では、AXIN2が表皮幹細胞、肝臓の周中心静脈細胞、胃の幹細胞などのマーカーとなることが示されています。

これらの知見は、AXIN2が単にがん抑制に関わるだけでなく、正常な組織の発生と維持にも重要な役割を果たしていることを示しています。

AXIN2遺伝子変異と関連疾患

AXIN2遺伝子の変異は、主に以下の疾患と関連していることが明らかになっています。

オリゴドンティア-大腸がん症候群

オリゴドンティア-大腸がん症候群(OMIM: 608615)は、AXIN2遺伝子のナンセンス変異やフレームシフト変異によって引き起こされる常染色体優性遺伝疾患です。この症候群は以下の特徴を持ちます。

  • 重度の永久歯欠損(オリゴドンティア)
  • 大腸がんや前がん病変の発症リスク増加
  • 場合によっては、胃ポリープ、乳がん、毛髪や眉毛の希薄化なども伴う

フィンランドの研究では、AXIN2遺伝子にR656X変異(アルギニンが終止コドンに変わる変異)を持つ家族において、永久歯の重度の欠損と大腸がんが優性遺伝形式で認められました。この家族では少なくとも8本の永久歯が欠損している患者が11人おり、そのうち2人はわずか3本の永久歯しか発達しませんでした。また、オリゴドンティアの患者8人に大腸がんまたは前がん病変が見つかりました。

別の研究では、W663X変異(トリプトファンが終止コドンに変わる変異)を持つ家族において、オリゴドンティアに加えて、大腸または胃のポリープ、早期発症の大腸がんや乳がん、希薄な毛髪と眉毛が報告されています。

重要なポイント

歯の先天性欠損症(オリゴドンティア)が見られる場合、それは大腸がんリスクの指標となる可能性があります。AXIN2遺伝子の変異を持つ方は、適切ながん検診を受けることが推奨されます。

大腸がん(体細胞変異)

AXIN2遺伝子の体細胞変異(生殖細胞ではなく、体の特定の細胞で後天的に獲得された変異)は、DNAミスマッチ修復機能が欠損した大腸がん(OMIM: 114500)において認められています。

研究によれば、DNAミスマッチ修復機能が欠損した大腸がん45例のうち11例でAXIN2遺伝子の変異が見つかりました。これらの変異はβ-カテニンを安定化させ、β-カテニン/T細胞因子シグナル伝達を活性化することが示されています。

代表的な変異としては、E706X(グルタミン酸が終止コドンに変わる変異)やL688X(ロイシンが終止コドンに変わる変異)などが報告されています。

AXIN2遺伝子検査の重要性

AXIN2遺伝子の変異を検出するための遺伝子検査は、以下のような場合に特に重要となります。

  • 多数の永久歯欠損(オリゴドンティア)が見られる場合
  • 家族内に大腸がんや前がん病変の発症歴がある場合
  • 若年発症の大腸がんがある場合
  • オリゴドンティアと大腸がんの両方の家族歴がある場合

遺伝子検査により、AXIN2遺伝子の病的バリアント(遺伝子変異)を特定することができます。病的バリアントとは、遺伝子の機能に影響を与え、疾患リスクを高める可能性のある変異のことです。AXIN2遺伝子の場合、主にナンセンス変異やフレームシフト変異などが病的バリアントとして報告されています。

遺伝子検査の利点

AXIN2遺伝子検査により、以下のような利点があります。

  • 大腸がんの早期発見・予防のための適切なスクリーニング計画の立案
  • 家族のリスク評価と遺伝カウンセリングの提供
  • 適切な治療計画の立案
  • 将来の妊娠における遺伝的リスクの評価

ミネルバクリニックでは、遺伝性がんパネル検査を提供しており、AXIN2遺伝子を含む多数のがん関連遺伝子の変異を一度に調べることができます。

AXIN2遺伝子の主な病的バリアント

AXIN2遺伝子にはさまざまな病的バリアント(遺伝子変異)が報告されています。主なものは以下の通りです。

オリゴドンティア-大腸がん症候群に関連する主なバリアント

  • R656X(c.1966C>T):エクソン7におけるC→T変異により、アルギニンが終止コドンに変わる。フィンランドの家系で報告。
  • W663X(c.1989G>A):G→A変異によりトリプトファンが終止コドンに変わる。オリゴドンティア、大腸または胃のポリープ、大腸がん、乳がん、希薄な毛髪と眉毛を伴う家系で報告。

大腸がん(体細胞変異)に関連する主なバリアント

  • E706X:2084塩基目へのG挿入によるフレームシフト変異。グルタミン酸が終止コドンに変わる。
  • L688X:2083塩基目のG欠失によるフレームシフト変異。ロイシンが終止コドンに変わる。

これらの変異はいずれも、AXIN2タンパク質の機能を損なうことでWntシグナル伝達経路の異常を引き起こし、疾患リスクを高めると考えられています。

遺伝カウンセリングの重要性

AXIN2遺伝子の変異が見つかった場合、適切な遺伝カウンセリングを受けることが非常に重要です。遺伝カウンセリングでは、以下のようなサポートを受けることができます。

  • 遺伝子変異の意味と疾患リスクについての詳細な説明
  • 適切な医学的管理と予防策についての情報提供
  • 家族への影響とスクリーニングに関するアドバイス
  • 心理的・社会的サポート
  • 今後の妊娠や家族計画に関する情報提供

ミネルバクリニックでの遺伝カウンセリング

ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医による質の高い遺伝カウンセリングを提供しています。当院の仲田洋美院長は臨床遺伝専門医であり、自身も常染色体優性疾患の患者としての経験を持っています。そのため、遺伝性疾患に関する診断を受けた方の気持ちを深く理解し、適切なサポートを提供することができます。

遺伝子検査の結果を知ることで、驚きやショックを感じることは自然なことです。しかし、その情報を適切に活用することで、あなたとご家族の健康管理に役立てることができます。一人で悩まず、専門家のサポートを受けることをおすすめします。

AXIN2遺伝子変異保有者のためのスクリーニングと予防

AXIN2遺伝子の病的バリアントを持つことが確認された場合、以下のようなスクリーニングと予防策が推奨されます。

大腸がんのスクリーニングと予防

  • 若年(25〜30歳)からの定期的な大腸内視鏡検査
  • 家族歴や臨床状況に基づいた個別化されたスクリーニング計画
  • 健康的な生活習慣の維持(バランスの取れた食事、定期的な運動、禁煙など)
  • 必要に応じた予防的医療介入の検討

歯科的管理

  • 早期からの包括的な歯科評価
  • 必要に応じた歯科的介入(インプラント、義歯など)
  • 口腔衛生の維持と定期的な歯科検診

これらの予防策とスクリーニングにより、AXIN2遺伝子変異に関連するリスクを効果的に管理することができます。個々の状況に応じた適切な計画については、臨床遺伝専門医や専門家チームと相談することをおすすめします。

AXIN2遺伝子に関する最新研究

AXIN2遺伝子の機能と疾患との関連について、さまざまな研究が進行しています。最近の研究では、以下のような興味深い知見が報告されています。

  • AXIN2が表皮幹細胞のマーカーとなり、創傷治癒に重要な役割を果たすことが示されています。
  • 肝臓において、AXIN2は中心静脈周囲の増殖・自己複製能を持つ細胞を同定し、肝細胞の恒常的更新に関与していることが明らかになっています。
  • 胃の幹細胞においても、AXIN2はWntシグナル伝達の標的遺伝子として機能し、幹細胞の維持に関与していることが示唆されています。
  • 歯の欠損症患者のコホート研究では、AXIN2遺伝子の特定のSNP(一塩基多型)と切歯欠損との関連が報告されています。

これらの研究成果は、AXIN2遺伝子がさまざまな組織の発生と維持、そして疾患発症に関与していることを示しており、将来的な診断・治療法の開発に貢献する可能性があります。

まとめ

AXIN2遺伝子は、Wntシグナル伝達経路において重要な役割を果たし、細胞増殖の制御や組織の発生・維持に関与しています。この遺伝子の変異は、オリゴドンティア-大腸がん症候群や大腸がんなどの疾患リスクを高める可能性があります。

特に重要なポイントは以下の通りです。

  • AXIN2遺伝子の変異は、歯の先天性欠損症(オリゴドンティア)大腸がんリスクの増加の両方を引き起こす可能性があります。
  • 多数の永久歯欠損がある場合は、大腸がんリスクの指標となる可能性があるため、適切な遺伝子検査と医学的評価が推奨されます。
  • AXIN2遺伝子の病的バリアントが見つかった場合は、適切な遺伝カウンセリングを受け、個別化されたスクリーニング計画と予防策を立てることが重要です。
  • ミネルバクリニックでは、遺伝性がんパネル検査と臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを提供しています。

遺伝性疾患に関する情報は日々更新されています。ご不明な点や不安がある場合は、臨床遺伝専門医にご相談ください。ミネルバクリニックでは、あなたとご家族の健康を守るための包括的なサポートを提供いたします。

参考文献

  1. Lammi L, et al. (2004). Mutations in AXIN2 cause familial tooth agenesis and predispose to colorectal cancer. Am J Hum Genet, 74(5):1043-50.
  2. Liu W, et al. (2000). Mutations in AXIN2 cause colorectal cancer with defective mismatch repair by activating beta-catenin/TCF signalling. Nat Genet, 26(2):146-7.
  3. Marvin ML, et al. (2011). AXIN2-associated autosomal dominant ectodermal dysplasia and neoplastic syndrome. Am J Med Genet A, 155A(4):898-902.
  4. Callahan N, et al. (2009). AXIN2 polymorphisms, including the novel 956+16A>G, are associated with tooth agenesis in a Syrian case-control cohort. Eur J Oral Sci, 117(4):387-91.
  5. Lim X, et al. (2013). Interfollicular epidermal stem cells self-renew via autocrine Wnt signaling. Science, 342(6163):1226-30.
  6. Wang B, et al. (2015). Self-renewing diploid Axin2(+) cells fuel homeostatic renewal of the liver. Nature, 524(7564):180-5.
  7. Sigal M, et al. (2017). Stromal R-spondin orchestrates gastric epithelial stem cells and gland homeostasis. Nature, 548(7668):451-455.
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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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