家族性高トリグリセリド血症 NGS遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック
家族性高トリグリセリド血症とは
家族性高トリグリセリド血症(Familial Hypertriglyceridemia)は、血液中のトリグリセリド(中性脂肪)が異常に高値を示す遺伝性の脂質異常症です。通常、空腹時のトリグリセリド値が150mg/dL以上(日本動脈硬化学会の診断基準)を示し、約1%の頻度で発生します。
本疾患は臨床的にも遺伝学的にも多様性が高く、軽症から重症まで幅広い症状を呈します。軽度の高トリグリセリド血症から、重度の場合には1000mg/dLを超える極めて高い値を示し、急性膵炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。
家族性高トリグリセリド血症は、主にリポタンパクリパーゼ(LPL)の活性低下やVLDL(超低比重リポタンパク質)の産生増加が原因で発症します。トリグリセリドの代謝に関わる複数の遺伝子の変異が関与しており、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、多因子遺伝のいずれの形式でも発症します。
症状と病態
家族性高トリグリセリド血症の症状は、トリグリセリド値の程度によって大きく異なります。軽度から中等度の高トリグリセリド血症では無症状のことが多いですが、重度になると特徴的な症状が出現します。
主要症状
- 無症状(軽症例)
- 腹痛(特に食後)
- 急性膵炎(トリグリセリド値が1000mg/dL以上で高リスク)
- 発疹性黄色腫(脚の前面や腕の後面、臀部などに出現する黄色の丘疹)
- 肝腫大
- 脾腫大
- 網膜脂血症(眼底検査で網膜血管が乳白色に見える)
- 記憶障害や神経症状(重症例)
急性膵炎について
家族性高トリグリセリド血症の最も重篤な合併症は急性膵炎です。トリグリセリド値が1000mg/dL(約11mmol/L)を超えると急性膵炎のリスクが著しく上昇します。トリグリセリド値が極度に高い状態では、膵臓でトリグリセリドが分解されて生じる遊離脂肪酸が膵組織を傷害し、炎症を引き起こします。急性膵炎は激しい腹痛を伴い、時に生命を脅かす重篤な状態となります。
動脈硬化性疾患のリスク
家族性高トリグリセリド血症がみられる家系では、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳梗塞など)が若年で発症する家系と、そうでない家系があります。トリグリセリド高値は動脈硬化のリスク因子であり、特にHDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下や小型高密度LDLコレステロール(small dense LDL)の増加を伴う場合、心血管疾患のリスクが高まります。
代謝異常との関連
家族性高トリグリセリド血症の患者さんは、以下の病態を合併しやすい傾向があります:
- 2型糖尿病:インスリン抵抗性やインスリン分泌低下により、トリグリセリド値がさらに上昇することがあります
- 肥満:内臓脂肪蓄積により、肝臓でのVLDL産生が増加します
- メタボリックシンドローム:腹部肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症が併存します
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD):肝臓に脂肪が蓄積します
- 慢性腎臓病:腎機能低下により、トリグリセリド代謝が悪化します
増悪因子
以下の要因により、トリグリセリド値がさらに上昇することがあります:
- 過度の炭水化物摂取(特に単純糖質)
- 多量のアルコール摂取
- 肥満
- 運動不足
- 糖尿病の不良なコントロール
- 特定の薬剤(経口エストロゲン、ステロイド、利尿薬、βブロッカー、レチノイドなど)
- 妊娠
- 甲状腺機能低下症
遺伝形式と原因遺伝子
家族性高トリグリセリド血症は遺伝学的に非常に多様性が高く、単一遺伝子変異による単因子遺伝(モノジェニック)と、複数の遺伝子変異と環境因子が関与する多因子遺伝(ポリジェニック)の両方の形式で発症します。
単因子遺伝形式(モノジェニック)
特定の遺伝子の変異により発症する重症型の高トリグリセリド血症で、常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝の形式をとります:
常染色体劣性遺伝形式
- LPL遺伝子:リポタンパクリパーゼをコードする遺伝子。LPL欠損症は家族性カイロミクロン血症症候群(I型高脂血症)の主要原因で、ホモ接合体またはコンパウンドヘテロ接合体で発症します。トリグリセリド値は通常1000~10000mg/dLと極めて高値を示し、急性膵炎のリスクが非常に高くなります。
- APOC2遺伝子:アポリポタンパクC-IIをコードする遺伝子。アポC-IIはLPLの活性化に必須の補因子であり、この欠損により重度の高トリグリセリド血症を呈します。
- GPIHBP1遺伝子:GPI結合型高比重リポタンパク質結合タンパク質1をコードする遺伝子。LPLを血管内皮細胞表面に固定する役割を持ち、この欠損により重度の高トリグリセリド血症を呈します。
- LMF1遺伝子:リパーゼ成熟因子1をコードする遺伝子。LPLの成熟と活性化に必要で、この欠損により高トリグリセリド血症を呈します。
常染色体優性遺伝形式
- APOA5遺伝子:アポリポタンパクA-Vをコードする遺伝子。apoA-VはLPL活性を促進し、VLDL産生を抑制します。ヘテロ接合体変異でも高トリグリセリド血症を呈し、ホモ接合体では重症化します。日本人を含むアジア人では比較的高頻度にみられる遺伝子多型(p.Ser19Trp、p.Gly185Cys)が存在します。
- APOC3遺伝子:アポリポタンパクC-IIIをコードする遺伝子。apoC-IIIはLPL活性を抑制するため、APOC3の機能獲得型変異により高トリグリセリド血症を呈します。
多因子遺伝形式(ポリジェニック)
最も頻度の高い形式で、複数の遺伝子の小さな影響と環境因子が組み合わさって発症します。以下の遺伝子が関与することが知られています:
- GCKR遺伝子:グルコキナーゼ調節タンパク質をコードし、肝臓での糖・脂質代謝に関与します。
- TRIB1遺伝子:トリビュレス様タンパク質1をコードし、肝臓でのVLDL産生に関与します。
- APOE遺伝子:アポリポタンパクEをコードし、トリグリセリド豊富なリポタンパク質の代謝に重要な役割を果たします。APOE2/E2遺伝型はIII型高脂血症のリスク因子です。
- GPD1遺伝子:グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ1をコードし、トリグリセリド合成に関与します。
- CREB3L3遺伝子:cAMP応答配列結合タンパク質3様3をコードし、肝臓でのトリグリセリド代謝調節に関与します。
その他の関連遺伝子
- SLC25A40遺伝子:ミトコンドリア輸送体をコードし、脂質代謝に関与します。
- PNPLA2遺伝子:脂肪トリグリセリドリパーゼ(ATGL)をコードし、トリグリセリド分解に関与します。
- PCDH15遺伝子:プロトカドヘリン15をコードし、一部の高トリグリセリド血症と関連が報告されています。
当検査パネルでは、これらの原因遺伝子のうち、臨床的に重要な14遺伝子を対象としています。これにより、家族性高トリグリセリド血症の遺伝的原因を効率的にスクリーニングすることが可能です。
ミネルバクリニックの家族性高トリグリセリド血症遺伝子パネル検査の特徴
「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」とは、現在家族性高トリグリセリド血症の原因として報告されている14の遺伝子に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、家族性高トリグリセリド血症に関連する14遺伝子を一度に調べられる「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で家族性高トリグリセリド血症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、家族性高トリグリセリド血症に関係するとされる14の遺伝子を一度に調べられる「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える家族性高トリグリセリド血症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」の場合、14の遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
臨床症状から家族性高トリグリセリド血症を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」ならば、臨床的に重要な14の原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」では、家族性高トリグリセリド血症に関係するとされる14種類の遺伝子(APOA5、APOC2、APOC3、APOE、CREB3L3、GCKR、GPD1、GPIHBP1、LMF1、LPL、PCDH15、PNPLA2、SLC25A40、TRIB1)をまとめて検査します。
「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」は、家族性高トリグリセリド血症の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【家族性高トリグリセリド血症の個人歴または家族歴のある方】に
「家族性高トリグリセリド血症 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・空腹時トリグリセリド値が150mg/dL以上の方
・繰り返す腹痛や急性膵炎の既往がある方
・トリグリセリド値が1000mg/dL以上と極めて高い方
・発疹性黄色腫がある方
・網膜脂血症を指摘された方
・肝腫大または脾腫大がある方
・家族に高トリグリセリド血症や急性膵炎の方がいる方
・若年で動脈硬化性疾患を発症した方、またはその家族歴がある方
・2型糖尿病やメタボリックシンドロームを合併している方
・生活習慣改善や薬物療法でトリグリセリド値が十分に下がらない方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、家族性高トリグリセリド血症の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、適切な食事療法、運動療法、薬物療法、定期的なモニタリングを行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・他の脂質異常症や二次性高トリグリセリド血症との鑑別
・急性膵炎のリスク評価と予防戦略の立案
・動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳梗塞)のリスク評価
・適切な食事療法の指導(低脂肪食、炭水化物制限、アルコール制限)
・最適な薬物療法の選択(フィブラート系薬剤、ω-3脂肪酸製剤など)
・合併する代謝異常(糖尿病、肥満、脂肪肝)の管理
・妊娠時のリスク評価と管理
・増悪因子(薬剤、アルコール、糖尿病など)の同定と回避
・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供(重症型の場合)
患者さんで病原性変異が同定された場合、遺伝形式に応じて家族の発症リスクが異なります。常染色体優性遺伝の場合は子どもが発症するリスクは50%、常染色体劣性遺伝の場合は兄弟姉妹が発症するリスクは25%、保因者となるリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
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APOA5, APOC2, APOC3, APOE, CREB3L3, GCKR, GPD1, GPIHBP1, LMF1, LPL, PCDH15, PNPLA2, SLC25A40, TRIB1 ( 14遺伝子 )
各遺伝子の詳細:
・APOA5遺伝子:
アポリポタンパクA-Vをコードする遺伝子。apoA-VはLPL活性を促進し、VLDL産生を抑制します。APOA5遺伝子変異は家族性高トリグリセリド血症の比較的頻度の高い原因です。特にアジア人で高頻度にみられる遺伝子多型(p.Ser19Trp、p.Gly185Cys)が存在し、これらの多型保有者は高トリグリセリド血症のリスクが2~3倍高くなります。ヘテロ接合体変異でも高トリグリセリド血症を呈し、ホモ接合体では重症化します。
・APOC2遺伝子:
アポリポタンパクC-IIをコードする遺伝子。apoC-IIはLPLの活性化に必須の補因子です。APOC2遺伝子の両アレル変異(常染色体劣性遺伝)によりapoC-II欠損症を呈し、重度の高カイロミクロン血症(トリグリセリド値1000~10000mg/dL)を引き起こします。急性膵炎のリスクが非常に高く、発疹性黄色腫、肝脾腫を呈します。
・APOC3遺伝子:
アポリポタンパクC-IIIをコードする遺伝子。apoC-IIIはLPL活性を抑制し、肝臓でのVLDL産生を促進します。APOC3遺伝子の機能獲得型変異により高トリグリセリド血症を呈します。逆に、機能喪失型変異を持つ人はトリグリセリド値が低く、心血管疾患のリスクが低いことが報告されています。
・APOE遺伝子:
アポリポタンパクEをコードする遺伝子。apoEはトリグリセリド豊富なリポタンパク質(カイロミクロン残渣、VLDL、IDL)の肝臓での取り込みに重要な役割を果たします。APOE遺伝子には3つの主要なアレル(ε2、ε3、ε4)があり、APOE2/E2遺伝型はIII型高脂血症(家族性異常βリポタンパク血症)のリスク因子です。III型高脂血症では、トリグリセリドとコレステロールの両方が上昇します。
・CREB3L3遺伝子:
cAMP応答配列結合タンパク質3様3をコードする遺伝子。肝臓でのトリグリセリド代謝調節に関与する転写因子です。CREB3L3遺伝子変異により、肝臓でのVLDL産生やトリグリセリド合成が影響を受け、高トリグリセリド血症を呈することがあります。
・GCKR遺伝子:
グルコキナーゼ調節タンパク質をコードする遺伝子。肝臓でのグルコース代謝を調節し、間接的にトリグリセリド合成に影響を与えます。GCKR遺伝子の一般的な遺伝子多型(rs1260326、rs780094など)は、トリグリセリド値の上昇と関連しています。多因子遺伝型の高トリグリセリド血症に関与します。
・GPD1遺伝子:
グリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ1をコードする遺伝子。トリグリセリド合成の初期段階に関与する酵素です。GPD1遺伝子変異により、トリグリセリド合成が亢進し、高トリグリセリド血症を呈することがあります。
・GPIHBP1遺伝子:
GPI結合型高比重リポタンパク質結合タンパク質1をコードする遺伝子。血管内皮細胞表面でLPLを固定し、血中のカイロミクロンやVLDLのトリグリセリドを分解する場を提供します。GPIHBP1遺伝子の両アレル変異(常染色体劣性遺伝)により、LPLが血管内皮に結合できなくなり、重度の高カイロミクロン血症(I型高脂血症)を呈します。急性膵炎のリスクが非常に高くなります。
・LMF1遺伝子:
リパーゼ成熟因子1をコードする遺伝子。小胞体でLPLの正しい折りたたみと成熟に必要なシャペロンタンパク質です。LMF1遺伝子の両アレル変異(常染色体劣性遺伝)により、LPLが正しく機能しなくなり、重度の高トリグリセリド血症を呈します。ヘテロ接合体変異でも、他の遺伝的・環境的要因と組み合わさって高トリグリセリド血症のリスクが上昇することがあります。
・LPL遺伝子:
リポタンパクリパーゼをコードする遺伝子。血中のカイロミクロンやVLDLのトリグリセリドを分解する最も重要な酵素です。LPL遺伝子の両アレル変異(常染色体劣性遺伝)により、LPL欠損症を呈し、家族性カイロミクロン血症症候群(I型高脂血症)の最も頻度の高い原因となります。トリグリセリド値は通常1000~10000mg/dLと極めて高値を示し、急性膵炎のリスクが非常に高くなります。発疹性黄色腫、肝脾腫、網膜脂血症を呈します。LPL遺伝子のヘテロ接合体変異や一般的な遺伝子多型(p.Asp36Asn、p.Asn318Ser、p.Ser474Terなど)も、他の要因と組み合わさって高トリグリセリド血症のリスクを上昇させます。
・PCDH15遺伝子:
プロトカドヘリン15をコードする遺伝子。細胞接着分子の一種で、主に聴覚や視覚に関与することが知られていますが、一部の高トリグリセリド血症との関連が報告されています。
・PNPLA2遺伝子:
脂肪トリグリセリドリパーゼ(ATGL)をコードする遺伝子。脂肪組織や心筋でのトリグリセリド分解の最初のステップを触媒する酵素です。PNPLA2遺伝子の両アレル変異(常染色体劣性遺伝)により、中性脂肪蓄積性心筋血管症(NLSD)を呈します。脂肪組織、心筋、骨格筋にトリグリセリドが蓄積し、心筋症や筋力低下を引き起こします。血中トリグリセリド値も上昇することがあります。
・SLC25A40遺伝子:
ミトコンドリア輸送体をコードする遺伝子。ミトコンドリアでの脂質代謝に関与します。SLC25A40遺伝子変異により、脂質代謝異常を呈することが報告されています。
・TRIB1遺伝子:
トリビュレス様タンパク質1をコードする遺伝子。肝臓でのVLDL産生やトリグリセリド代謝に関与する調節タンパク質です。TRIB1遺伝子の遺伝子多型は、トリグリセリド値やコレステロール値と関連しており、多因子遺伝型の高トリグリセリド血症に関与します。
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度平均20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
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すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
※この検査パネルでは、14の原因遺伝子のみを対象としています。家族性高トリグリセリド血症は多因子遺伝の影響が大きく、多くの症例では複数の遺伝子多型と環境因子の組み合わせにより発症します。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。また、生活習慣(食事、運動、アルコール摂取など)や二次性要因(糖尿病、肥満、薬剤など)の影響も重要です。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 空腹時トリグリセリド値が150mg/dL以上の方、特に1000mg/dL以上と極めて高い方におすすめします。繰り返す腹痛や急性膵炎の既往がある方、発疹性黄色腫や網膜脂血症を指摘された方も検査の対象となります。また、家族に高トリグリセリド血症や急性膵炎の方がいる場合も検査をご検討ください。生活習慣改善や薬物療法でトリグリセリド値が十分に下がらない方も、遺伝的原因を調べることが有用です。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- 他の脂質異常症との違いは何ですか?
- 家族性高トリグリセリド血症は主にトリグリセリド(中性脂肪)が高値を示す疾患です。家族性高コレステロール血症が主にLDLコレステロールの上昇を特徴とするのに対し、本疾患ではトリグリセリドの上昇が主体です。家族性複合型高脂血症ではトリグリセリドとコレステロールの両方が上昇します。当検査により原因遺伝子を特定することで、より正確な診断と適切な治療選択が可能になります。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- 遺伝形式によって家族の発症リスクが異なります。常染色体優性遺伝の場合、患者さんのお子さんが発症するリスクは50%です。常染色体劣性遺伝の場合、兄弟姉妹が発症するリスクは25%、保因者となるリスクは50%です。ご家族の検査により、将来の家族計画や早期からの予防的介入に重要な情報を提供できます。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- 家族性高トリグリセリド血症の多くは多因子遺伝であり、複数の遺伝子多型と環境因子の組み合わせにより発症します。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。生活習慣の改善(食事療法、運動療法、アルコール制限など)と、必要に応じた薬物療法が引き続き重要です。また、糖尿病や肥満などの二次性要因の管理も大切です。
- 急性膵炎のリスクはどの程度ですか?
- トリグリセリド値が1000mg/dL(約11mmol/L)を超えると急性膵炎のリスクが著しく上昇します。特にLPL、APOC2、GPIHBP1、LMF1などの遺伝子に両アレル変異がある重症型では、トリグリセリド値が極めて高値(数千~数万mg/dL)となり、急性膵炎を繰り返すリスクが非常に高くなります。適切な食事療法と薬物療法によりトリグリセリド値を500mg/dL未満に維持することが、急性膵炎予防のために重要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- 遺伝形式によって子どもへの影響が異なります。常染色体優性遺伝の場合は子どもが発症する確率は50%、常染色体劣性遺伝の場合は保因者同士のカップルで子どもが発症する確率は25%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。重症型の家族性カイロミクロン血症症候群では、早期診断と適切な管理が生命予後の改善に重要です。
- 家族性高トリグリセリド血症の治療はどのように行われますか?
- 治療の基本は生活習慣の改善です。低脂肪食(総脂肪摂取量を総カロリーの15~20%以下に制限)、炭水化物の制限(特に単純糖質)、アルコールの制限または禁酒、体重管理、定期的な運動が重要です。薬物療法としては、フィブラート系薬剤(ベザフィブラート、フェノフィブラートなど)やω-3脂肪酸製剤(EPA、DHA)が使用されます。重症型ではニコチン酸誘導体や、最近承認された新しい治療薬(ANGPTL3阻害薬、ASO療法など)が検討されることもあります。糖尿病がある場合は、血糖コントロールが非常に重要です。
- 予後はどうですか?
- 適切な治療と管理により、多くの患者さんは良好な経過をたどります。トリグリセリド値を適切にコントロールすることで、急性膵炎のリスクを大幅に低減できます。ただし、重症型(家族性カイロミクロン血症症候群)では、厳格な食事療法と薬物療法が生涯にわたって必要です。動脈硬化性疾患のリスクについては、家系によって異なります。HDLコレステロールの低下やsmall dense LDLの増加を伴う場合は、冠動脈疾患のリスクが高まるため、包括的な心血管リスク管理が重要です。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では臨床的に重要な14の原因遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。また、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら