先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGS遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック
先天性全身性脂肪萎縮症とは
先天性全身性脂肪萎縮症(Congenital Generalized Lipodystrophy: CGL)は、Berardinelli-Seip症候群とも呼ばれる極めて稀な遺伝性疾患です。栄養状態に関わらず、全身の脂肪組織が著しく減少または消失する疾患で、脂肪萎縮症の中でも最も重度の病態を示します。
本疾患は常染色体劣性遺伝形式をとり、両親は通常無症候性保因者です。男女差はなく、現在までに4つの原因遺伝子(AGPAT2、BSCL2、CAV1、PTRF)が同定されています。わが国ではBSCL2遺伝子の変異が最も多く報告されています。
先天性全身性脂肪萎縮症は指定難病(難病指定265)および小児慢性特定疾病に認定されており、適切な遺伝学的検査により原因を特定することで、患者さんとご家族にとって重要な医学的情報を提供できます。治療が行われない場合の平均寿命は30~40歳と言われ、早期診断と適切な管理が極めて重要です。
1型と2型の違い
先天性全身性脂肪萎縮症は原因遺伝子によって複数の型に分類されます。当検査では、最も頻度の高い1型と2型の原因遺伝子を対象としています。
1型(BSCL1):AGPAT2遺伝子変異
AGPAT2遺伝子は1-アシルグリセロール-3-リン酸O-アシルトランスフェラーゼ2をコードしています。この遺伝子の変異により、脂肪組織の形成と維持に必要な脂質代謝経路が障害されます。
1型の特徴として、生下時から全身性の脂肪組織消失が認められ、骨格筋の肥大が目立つアスリート様の体型を呈します。重度のインスリン抵抗性による糖尿病、高トリグリセリド血症、脂肪肝などの代謝異常が早期から出現します。
2型(BSCL2):BSCL2遺伝子変異
BSCL2遺伝子はセイピン(seipin)というタンパク質をコードしており、脂肪細胞の分化と脂肪滴の形成に重要な役割を果たしています。わが国では最も頻度の高い変異型です。
2型は1型と同様に生下時から全身性の脂肪組織消失が認められますが、軽度の精神発達遅滞を伴うことが特徴的です。また、代謝異常の程度は1型と同等かやや重度になることがあります。
このパネル検査では、日本で最も頻度の高いBSCL2遺伝子変異(2型)と、AGPAT2遺伝子変異(1型)の両方を同時に検査することで、効率的な診断が可能です。
症状と病態
先天性全身性脂肪萎縮症では、脂肪組織から分泌されるホルモンであるレプチンが絶対的に欠乏するため、糖や脂質の代謝が著しく悪化します。生下時より全身性の脂肪組織消失と肝腫大が認められ、10歳前後でインスリン抵抗性による糖尿病が顕在化します。
主要症状
- 全身性の脂肪組織消失(体幹、四肢、顔面に及ぶ)
- 骨格筋の肥大(アスリート様の体型)
- 肝腫大(脂肪肝による)
- 食欲亢進
- 成長速度の亢進
- 黒色表皮腫(皮膚の色素沈着)
- 先端巨大症様の特徴(過成長、筋肥大、骨年齢の進行)
- 上顎前突、著明な眼窩上隆起
- 手足の肥大
代謝異常と合併症
レプチン欠乏により、以下のような重篤な代謝異常が出現します:
- 高度のインスリン抵抗性
- 治療抵抗性の糖尿病
- 著明な高トリグリセリド血症(中性脂肪の上昇)
- 非アルコール性脂肪肝
- 肝硬変への進行
- 急性膵炎のリスク
- 心血管疾患のリスク上昇
女性特有の症状
女性症例では、以下の症状が高頻度に認められます:
- 多毛症
- 月経異常
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 陰核肥大
2型(BSCL2遺伝子異常)特有の症状
BSCL2遺伝子異常症では、代謝異常に加えて以下の神経学的症状が認められることがあります:
ミネルバクリニックの先天性全身性脂肪萎縮症遺伝子パネル検査の特徴
「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」とは、現在先天性全身性脂肪萎縮症の1型と2型の原因として報告されている2つの遺伝子(AGPAT2、BSCL2)に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、先天性全身性脂肪萎縮症1型と2型に関連する遺伝子を一度に調べられる「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で先天性全身性脂肪萎縮症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、先天性全身性脂肪萎縮症1型と2型に関係するとされる2つの遺伝子を一度に調べられる「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える先天性全身性脂肪萎縮症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」の場合、1型と2型に関係する2つの遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
臨床症状から先天性全身性脂肪萎縮症を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」ならば、日本で最も頻度の高い1型と2型の原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」では、先天性全身性脂肪萎縮症の1型と2型に関係するとされる2種類の遺伝子(AGPAT2、BSCL2)をまとめて検査します。これらは日本において最も頻度の高い原因遺伝子です。
「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」は、先天性全身性脂肪萎縮症の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【先天性全身性脂肪萎縮症の個人歴または家族歴のある方】に
「先天性全身性脂肪萎縮症1型/2型 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・全身性の脂肪組織消失が認められる方
・生下時から脂肪組織が著しく少なく、骨格筋が発達している方
・重度のインスリン抵抗性や治療抵抗性の糖尿病がある方
・著明な高トリグリセリド血症(中性脂肪の上昇)がある方
・非アルコール性脂肪肝や肝腫大がある方
・黒色表皮腫や先端巨大症様の特徴がある方
・多毛症、月経異常、多嚢胞性卵巣症候群のある女性
・脂肪萎縮症の家族歴がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、先天性全身性脂肪萎縮症の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、予防的治療や生活習慣の改善、定期的なモニタリングを行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・レプチン補充療法の適応判断
・糖尿病治療の最適化
・高トリグリセリド血症の管理
・脂肪肝・肝硬変の進行予防
・心血管疾患リスクの管理
・急性膵炎の予防
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体劣性遺伝形式のため、兄弟姉妹が同じ疾患を発症するリスクは25%、保因者となるリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
- 詳しくはこちら
-
AGPAT2, BSCL2 ( 2遺伝子 )
各遺伝子の詳細:
・AGPAT2遺伝子(1型):
1-アシルグリセロール-3-リン酸O-アシルトランスフェラーゼ2をコードする遺伝子。脂質代謝に必須の酵素で、この遺伝子の変異により脂肪組織の形成と維持が障害される。1型(BSCL1)の原因遺伝子。
・BSCL2遺伝子(2型):
セイピン(seipin)というタンパク質をコードする遺伝子。小胞体に局在し、脂肪細胞の分化と脂肪滴の形成に重要な役割を果たす。わが国で最も頻度の高い変異型で、2型(BSCL2)の原因遺伝子。軽度の精神発達遅滞を伴うことが特徴的。
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
- 詳しくはこちら
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すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
※この検査パネルでは、1型と2型の原因遺伝子のみを対象としています。3型(CAV1遺伝子)、4型(PTRF遺伝子)の検査が必要な場合は、別途ご相談ください。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 生下時から全身性の脂肪組織消失が認められる方、骨格筋が著しく発達している方、重度のインスリン抵抗性や治療抵抗性の糖尿病がある方、著明な高トリグリセリド血症(中性脂肪の上昇)がある方、非アルコール性脂肪肝や肝腫大がある方におすすめします。また、脂肪萎縮症の家族歴がある場合も検査をご検討ください。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- 先天性全身性脂肪萎縮症は常染色体劣性遺伝形式をとるため、患者さんの兄弟姉妹が同じ疾患を発症するリスクは25%、保因者となるリスクは50%です。ご両親は通常無症候性保因者です。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- この検査では1型(AGPAT2)と2型(BSCL2)のみを対象としています。検査で病原性変異が検出されなくても、3型(CAV1)や4型(PTRF)など他の型の可能性があります。主治医と相談して、必要に応じて追加の遺伝子検査を受けることが重要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。ただし、診断確定後は指定難病制度により医療費助成を受けられる可能性があります。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療選択肢(レプチン補充療法を含む)などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- 先天性全身性脂肪萎縮症は常染色体劣性遺伝形式をとるため、保因者同士のカップルの場合、お子さんが疾患を発症する確率は25%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- 先天性全身性脂肪萎縮症の治療はどのように行われますか?
- 治療は症状に応じて行われます。レプチン補充療法(メトレレプチン)は代謝異常を改善する効果があり、近年の治療により予後の改善が期待されています。その他、糖尿病の管理、高トリグリセリド血症の治療、脂肪肝の管理、心血管疾患の予防などを総合的に行います。
- 予後はどうですか?
- 従来は治療抵抗性で予後不良でしたが、レプチン補充療法の登場により予後の改善が期待できるようになりました。ただし、長期予後については不明な点も多く、早期診断と適切な管理が極めて重要です。定期的なモニタリングと多職種による包括的なケアが必要です。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では日本で最も頻度の高い1型(AGPAT2)と2型(BSCL2)の原因遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも検査を受けることが可能です。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら