慢性膵炎NGSパネル検査|ミネルバクリニック
慢性膵炎とは
慢性膵炎は、膵臓の進行性の損傷を特徴とする疾患です。この損傷は不可逆的であり、治療は疾患の進行を遅らせ、症状を管理することに焦点を当てます。膵炎の症状には、悪心、頻脈、発熱、嘔吐、上腹部痛などがあります。
慢性膵炎では、膵臓から消化酵素が十分に分泌されなくなり、三大栄養素の消化吸収障害による脂肪便や下痢、体重減少をきたす膵外分泌機能不全や、インスリンの分泌が低下することによる糖尿病を高率に合併します。
慢性膵炎は多分に生活習慣病的な側面がありますが、遺伝性膵炎の場合は遺伝子変異が原因となります。遺伝性膵炎は指定難病(難病指定298)および小児慢性特定疾病に認定されており、適切な遺伝学的検査により原因を特定することで、患者さんとご家族にとって重要な医学的情報を提供できます。
遺伝性慢性膵炎とは
遺伝性膵炎は、家系内に2人以上の膵炎患者がみられる膵炎(家族性膵炎)で、少なくとも1人に既知の成因を認めない家系内集積性を示す再発性膵炎や慢性膵炎をいいます。
近年、遺伝学的診断手法の進歩により、これらの患者ではPRSS1やSPINK1遺伝子などの遺伝子変異を有することが明らかになってきました。PRSS1遺伝子変異は常染色体優性遺伝形式をとりますが孤発例も存在し、SPINK1遺伝子変異は常染色体劣性遺伝形式を示すことから、膵炎の家族歴は必須ではありません。
このパネル検査には、孤発性(単独発症)の慢性膵炎と症候群性の慢性膵炎が含まれます。症候群性の形態には、シュワッハマン・ダイアモンド症候群、高リポタンパク血症1D型、ジョンソン・ブリザード症候群が含まれます。
症候群性慢性膵炎について
シュワッハマン・ダイアモンド症候群(Shwachman-Diamond Syndrome)
シュワッハマン・ダイアモンド症候群は、骨髄、膵臓、骨格系に影響を及ぼす常染色体劣性遺伝疾患です。主な特徴として、膵外分泌機能不全、好中球減少症による易感染性、骨格異常(低身長など)があります。約90%の患者でSBDS遺伝子またはEFL1遺伝子に変異が認められます。
膵外分泌機能不全により、乳児期から消化酵素が十分に作られず、栄養失調、成長の遅れ、脂肪便が特徴的に見られます。また、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病を発症するリスクが高いことが知られています。
ジョンソン・ブリザード症候群(Johanson-Blizzard Syndrome)
ジョンソン・ブリザード症候群は、UBR1遺伝子変異による極めて稀な常染色体劣性遺伝疾患です。主な特徴として、膵外分泌機能不全、鼻翼の形成不全または欠損、頭皮の先天性欠損、感音性難聴、成長障害、知的発達遅滞があります。
膵臓の機能不全により、生後まもなくから消化吸収障害が現れ、脂肪便、発育不全、栄養失調を引き起こします。また、甲状腺機能低下症、歯牙異常、肛門閉鎖、泌尿生殖器異常などを合併することもあります。
高リポタンパク血症1D型(Hyperlipoproteinemia Type 1D)
高リポタンパク血症1D型は、GPIHBP1遺伝子変異による稀な常染色体劣性疾患で、血漿中のトリグリセリド(中性脂肪)が豊富なリポタンパク質の代謝障害により、重度の高トリグリセリド血症(カイロミクロン血症)を引き起こします。
臨床症状として、発疹性黄色腫、脂血症性網膜症、肝脾腫、腹痛のエピソード、膵炎があります。通常、成人期に発症しますが、小児期に症状が現れることもあります。膵炎の繰り返しにより慢性膵炎に進行する可能性があります。
症状と病態
遺伝性膵炎では、幼少期より腹痛、悪心、嘔吐、下痢などの急性膵炎様発作を繰り返し、多くは慢性膵炎へと進行します。発症は幼少期であることが多いですが、診断は思春期や成人期まで遅れることも少なくありません。
慢性膵炎の主な症状と合併症には以下があります:
- 上腹部痛(持続性または間欠性)
- 背部への放散痛
- 食欲不振
- 体重減少
- 脂肪便(消化不良による)
- 下痢
- 悪心・嘔吐
- 膵外分泌機能不全
- 膵内分泌機能不全(糖尿病)
- 膵石の形成
- 膵癌のリスク上昇(50歳以降)
慢性膵炎になると、長期にわたる炎症により膵臓から消化酵素が十分に出なくなり、脂肪便や下痢、体重減少を起こす膵外分泌機能不全や、インスリンの分泌が減少することによる糖尿病を高率に合併します。遺伝性膵炎患者の最大48%は1型糖尿病を発症するとされています。
また、頻回な膵炎発作や疼痛コントロールのために頻回の入院や内視鏡治療、外科手術が必要となる症例も少なくありません。飲酒や喫煙は膵炎の進行のみならず膵癌のリスクを上昇させますので、厳に控えるべきです。
ミネルバクリニックの慢性膵炎遺伝子パネル検査の特徴
「慢性膵炎NGSパネル検査」とは、現在遺伝性慢性膵炎に関係があると報告されている15の遺伝子に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、遺伝性慢性膵炎に関連する遺伝子を一度に調べられる「慢性膵炎NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で遺伝性慢性膵炎の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、遺伝性慢性膵炎に関係するとされる15の遺伝子を一度に調べられる「慢性膵炎NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える遺伝性慢性膵炎の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「慢性膵炎NGSパネル検査」の場合、遺伝性慢性膵炎に関係する15の遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
家族歴や症状から特定の遺伝性膵炎を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「慢性膵炎NGSパネル検査」ならば、現在遺伝性慢性膵炎に関係すると報告されている15の遺伝子を網羅的に検査できるという利点があります。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「慢性膵炎NGSパネル検査」では、遺伝性慢性膵炎に関係するとされる15種類の遺伝子をまとめて検査します。このパネルには、PRSS1、SPINK1などの主要な遺伝子を含め、症候群性の慢性膵炎に関連する遺伝子も含まれています。
「慢性膵炎NGSパネル検査」は、遺伝性慢性膵炎の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を最大限に高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【遺伝性慢性膵炎の個人歴または家族歴のある方】に
「慢性膵炎NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・頻回に急性膵炎の症状(上腹部痛、食欲不振、背部への放散痛、原因不明の体重減少など)を経験している方
・慢性膵炎と診断された方、またはその疑いがある方
・小児期または若年期から膵炎症状がある方
・原因不明の膵炎を繰り返している方
・慢性膵炎や膵炎の家族歴がある方
・シュワッハマン・ダイアモンド症候群、ジョンソン・ブリザード症候群、高リポタンパク血症の診断を受けた方、またはその疑いがある方
・将来子どもを持つことを考えている方で、リスク評価を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、慢性膵炎の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、予防的治療や生活習慣の改善、定期的なモニタリングを行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・生活習慣の改善指導(断酒、禁煙など)
・膵酵素補充療法の適応判断
・内視鏡治療や外科手術の適応判断
・糖尿病管理の最適化
・膵癌スクリーニングの計画
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体優性遺伝形式の場合は近親者(両親・兄弟姉妹・子ども)のリスクも50%と高くなります。また、常染色体劣性遺伝形式の場合は兄弟姉妹のリスクが25%になります。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
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APOC2, CASR, CEL, CFTR, CLDN2, CPA1, CTRC, EFL1, GPIHBP1, LPL, PRSS1, SBDS, SPINK1, TRPV6, UBR1 ( 15遺伝子 )
主要遺伝子:
・PRSS1:カチオニックトリプシノーゲンをコードし、最も一般的な遺伝性膵炎の原因遺伝子
・SPINK1:膵分泌性トリプシンインヒビターをコードし、日本における遺伝性膵炎家系の約3割に変異が認められる
・CFTR:嚢胞性線維症の原因遺伝子だが、膵炎との関連も報告されている
・SBDS、EFL1:シュワッハマン・ダイアモンド症候群に関連
・UBR1:ジョンソン・ブリザード症候群の原因遺伝子
・GPIHBP1:高リポタンパク血症1D型の原因遺伝子
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検査の限界
- 詳しくはこちら
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すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 上腹部痛、食欲不振、背部への放散痛、原因不明の体重減少などの急性膵炎症状を繰り返している方におすすめします。症状がなくても慢性膵炎や膵炎の家族歴がある場合は検査をご検討ください。特に小児期から膵炎症状がある方は早期の検査が重要です。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- 患者さんで病原性変異が見つかった場合、遺伝形式によって近親者のリスクが異なります。PRSS1遺伝子変異(常染色体優性遺伝)の場合は50%、SPINK1遺伝子変異(常染色体劣性遺伝)の場合は兄弟姉妹で25%のリスクがあります。ご家族の検査により、そのリスクを明らかにすることが重要です。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- 検査で病原性変異が検出されなくても、症状がある場合は他の原因や未知の遺伝子が関与している可能性があります。主治医と相談して、引き続き適切な経過観察や治療を受けることが重要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、予防策、治療選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- 遺伝性慢性膵炎は遺伝形式によって異なりますが、親から子に受け継がれる可能性があります。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- 慢性膵炎の治療はどのように行われますか?
- 慢性膵炎の治療は、①断酒、禁煙といった生活指導、②病期に応じた食事指導・栄養管理、③薬物療法、④内視鏡による膵石や膵管狭窄の治療、⑤外科手術が治療の柱となります。遺伝性膵炎でも通常の慢性膵炎と基本的に同じ治療を行いますが、遺伝的背景を踏まえた個別化治療が可能になります。
- 膵癌のリスクはありますか?
- 遺伝性膵炎では50歳以降に膵癌のリスクが劇的に増加します。特に飲酒、喫煙、糖尿病の合併がある場合はリスクがさらに高まります。定期的なスクリーニングと生活習慣の改善が重要です。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では15遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を大幅に短縮できます。PRSS1、SPINK1などの主要遺伝子に加え、症候群性慢性膵炎に関連する遺伝子も含む包括的な検査により、遺伝性慢性膵炎の原因を見つける可能性を最大限に高めます。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら