先天性中枢性低換気症候群 遺伝子検査(NGSパネル)|ミネルバクリニック
先天性中枢性低換気症候群とは
先天性中枢性低換気症候群(Congenital Central Hypoventilation Syndrome: CCHS)は、呼吸中枢の先天的な異常により、主に睡眠時に無呼吸や低換気をきたす希少疾患です。重症の場合は覚醒時にも低換気を呈することがあります。別名「オンディーヌの呪い(Ondine’s curse)」とも呼ばれます。
本疾患は、延髄にある呼吸中枢の化学性調節の異常があり、高二酸化炭素血症や低酸素血症に対して適切な換気応答が生じないことが特徴です。通常、健康な人では血液中の二酸化炭素濃度が上昇すると自動的に呼吸が促進されますが、CCHS患者さんではこの自動調節機能が働かないため、人工呼吸管理が必須となります。
先天性中枢性低換気症候群は1970年に初めて報告された比較的新しい疾患で、2003年にPHOX2B遺伝子が病因遺伝子として特定されました。推定有病率は10万~20万出生に1人程度とされており、国内には約150人程度の患者さんが存在すると考えられています。診断には臨床症状に加えて遺伝学的検査が重要で、海外の一部の国ではPHOX2B遺伝子変異の確認が診断の必須条件となっています。
症状と病態
先天性中枢性低換気症候群の主な症状は、睡眠時の無呼吸や低換気です。多くの患者さんは覚醒時には比較的正常な呼吸をしていますが、睡眠中に呼吸が浅くなり、血液中の二酸化炭素濃度が上昇し、酸素濃度が低下します。重症例では覚醒時にも低換気を呈することがあります。
主要症状
- 睡眠時の無呼吸・低換気(浅く単調な呼吸パターン)
- 高二酸化炭素血症に対する換気応答の欠如または著明な低下
- 低酸素血症に対する換気応答の欠如または著明な低下
- 呼吸困難感の欠如(自覚症状がない)
- チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる)
- 新生児期からの呼吸障害
- 覚醒時も比較的正常呼吸を維持(軽症例)
自律神経系の異常
先天性中枢性低換気症候群は呼吸中枢の障害だけでなく、自律神経系の広範な異常を伴うことが特徴です。PHOX2B遺伝子は自律神経の分化や発達において重要な役割を担っているため、呼吸以外にも様々な自律神経症状が現れます:
- 心血管系異常:徐脈(心拍数の低下)、心拍変動の減少、洞不全症候群、不整脈
- 消化器系異常:ヒルシュスプルング病(巨大結腸症)、重度の便秘、嚥下障害、胃食道逆流症
- 体温調節異常:発汗障害、体温維持困難
- 眼科的異常:瞳孔の光反射の異常
- 神経芽細胞腫:神経堤由来の腫瘍(神経芽細胞腫、ガングリオニューロブラストーマ、ガングリオニューローマ)の発症リスク上昇
発症時期による分類
先天性中枢性低換気症候群は発症時期により以下のように分類されます:
- 新生児発症型(Neonatal-onset CCHS):生後30日以内に発症します。新生児期から睡眠時の著明な低換気を認め、人工呼吸管理が必要となります。最も頻度が高い型です。
- 遅発型(Later-onset CCHS:LO-CCHS):生後1ヶ月以降から成人期に発症します。軽症のPHOX2B遺伝子変異を持つ方に多く、呼吸器感染症や麻酔、鎮静剤使用などをきっかけに顕在化することがあります。成人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群と考えられていた症例が、実は軽症のCCHSであったという報告もあります。
ハダッド症候群
先天性中枢性低換気症候群とヒルシュスプルング病を合併した病態を特に「ハダッド症候群(Haddad syndrome)」と呼びます。約20%のCCHS患者さんにヒルシュスプルング病の合併が認められます。
進行と予後
呼吸中枢の障害に対する根本的な治療法は現時点では確立されていないため、生涯にわたる人工呼吸管理が必要となります。管理方法は症状の重症度により異なり、軽症例では夜間のみの非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)で管理可能な場合もありますが、重症例では気管切開による24時間の人工呼吸管理が必要です。近年では横隔膜ペーシング(横隔神経電気刺激装置)という新しい治療選択肢も導入されています。
適切な呼吸管理により低酸素血症や高二酸化炭素血症を防ぐことができれば、神経発達や成長も正常に近い経過をたどることが期待できます。ただし、自律神経障害や合併症の管理も重要で、定期的な総合的評価が必要です。
遺伝形式と原因遺伝子
先天性中枢性低換気症候群の主要な原因遺伝子はPHOX2B遺伝子で、約90%以上の症例でこの遺伝子の変異が見つかります。PHOX2B遺伝子は染色体4p12に位置し、神経堤細胞の遊走や自律神経系の分化・発達において重要な役割を担っています。
PHOX2B遺伝子変異の種類
PHOX2B遺伝子の変異は大きく2つのタイプに分類されます:
1. ポリアラニンリピート伸長変異(PARM:Polyalanine Repeat Expansion Mutation)
約90%の症例で認められる最も頻度の高い変異です。正常なPHOX2B遺伝子のエキソン3には20個のアラニンの連続配列(20ポリアラニン鎖)がありますが、CCHSではこれが4~13個増加します。
伸長変異の程度により以下のように分類されます:
・24PARM:正常の20アラニンに4個追加(20/24)
・25PARM:正常の20アラニンに5個追加(20/25)
・26PARM:正常の20アラニンに6個追加(20/26)
・27PARM:正常の20アラニンに7個追加(20/27)
・28PARM~33PARM:さらに多くのアラニンが追加
一般的に、アラニンの伸長数が多いほど臨床症状が重症になる傾向があります。最も頻度が高いのは25PARM、26PARM、27PARMです。
2. 非ポリアラニンリピート変異(Non-PARM:Non-Polyalanine Repeat Mutation)
約10%の症例で認められ、ミスセンス変異、ナンセンス変異、フレームシフト変異などが含まれます。Non-PARM変異を持つ患者さんは、神経芽細胞腫などの神経堤由来腫瘍を発症するリスクが高いことが報告されています。
遺伝形式
常染色体優性(顕性)遺伝
先天性中枢性低換気症候群は常染色体優性遺伝の形式をとります。ただし、ほとんどの症例(約90%以上)は新生突然変異(de novo mutation)であり、両親には変異が認められません。
一部の症例では、軽症型の親または親にモザイク変異がある場合に遺伝することがあります。PHOX2B遺伝子変異を持つ親から生まれる子どもが変異を受け継ぐ確率は50%です。
その他の関連遺伝子
PHOX2B遺伝子変異が認められない症例も約10%程度存在します。これらの症例では、以下のような遺伝子が関連している可能性があります:
- ASCL1遺伝子:神経発生に関与する転写因子をコードする遺伝子
- BDNF遺伝子:脳由来神経栄養因子をコードする遺伝子
- EDN3遺伝子:エンドセリン3をコードする遺伝子で、神経堤細胞の発達に関与
- GDNF遺伝子:グリア細胞株由来神経栄養因子をコードする遺伝子
- RET遺伝子:受容体型チロシンキナーゼをコードする遺伝子で、ヒルシュスプルング病の主要な原因遺伝子でもあります
遺伝子型と臨床症状の関連
PHOX2B遺伝子の変異タイプと臨床症状には相関関係があることが明らかになっています:
- ポリアラニンリピート伸長数が大きいほど、低換気が重症で24時間の人工呼吸管理が必要となる可能性が高い
- Non-PARM変異では神経芽細胞腫などの腫瘍合併率が高い(約50%)
- 短いアラニン伸長(24PARM、25PARM)では遅発型CCHSとなることが多い
- 長いアラニン伸長(27PARM以上)では新生児発症型が多く、ヒルシュスプルング病の合併率も高い
ミネルバクリニックの先天性中枢性低換気症候群遺伝子パネル検査の特徴
「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」とは、現在先天性中枢性低換気症候群の原因として報告されている6つの遺伝子(ASCL1、BDNF、EDN3、GDNF、PHOX2B、RET)に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、先天性中枢性低換気症候群に関連する6遺伝子を一度に調べられる「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で先天性中枢性低換気症候群の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、先天性中枢性低換気症候群に関係するとされる6つの遺伝子を一度に調べられる「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える先天性中枢性低換気症候群の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」の場合、6つの遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
臨床症状から先天性中枢性低換気症候群を疑ってPHOX2B遺伝子検査を行っても、約10%の症例では病的変異が見つかりません。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」ならば、臨床的に重要な6つの原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。特にPHOX2B遺伝子のポリアラニンリピート伸長変異も正確に検出できます。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」では、先天性中枢性低換気症候群に関係するとされる6種類の遺伝子(ASCL1、BDNF、EDN3、GDNF、PHOX2B、RET)をまとめて検査します。
「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」は、先天性中枢性低換気症候群の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【先天性中枢性低換気症候群の個人歴または家族歴のある方】に
「先天性中枢性低換気症候群 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・睡眠時に無呼吸や低換気がある方
・高二酸化炭素血症や低酸素血症に対する換気応答が低下している方
・新生児期から原因不明の呼吸障害がある方
・呼吸困難感を伴わない低換気がある方
・自律神経系の異常(徐脈、便秘、体温調節障害など)を伴う方
・ヒルシュスプルング病を合併している方
・神経芽細胞腫などの神経堤由来腫瘍がある方
・成人で原因不明の睡眠時低換気がある方(遅発型CCHSの可能性)
・先天性中枢性低換気症候群の家族歴がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、先天性中枢性低換気症候群の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、適切な呼吸管理、合併症のモニタリング、生活習慣の改善を行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・他の呼吸障害との鑑別
・適切な呼吸管理方法の選択(人工呼吸器、横隔膜ペーシングなど)
・合併症のリスク評価(ヒルシュスプルング病、神経芽細胞腫など)
・遺伝子型に基づいた予後予測
・自律神経系異常の早期発見と管理
・腫瘍スクリーニングの適応判断(Non-PARM変異の場合)
・疾患の進行予測と長期的な管理計画の立案
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体優性遺伝の遺伝形式をとるため、お子さんが変異を受け継ぐリスクは50%です。ただし、ほとんどの症例は新生突然変異であるため、両親や兄弟姉妹が同じ変異を持つ可能性は低いです。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
- 詳しくはこちら
-
ASCL1, BDNF, EDN3, GDNF, PHOX2B, RET ( 6遺伝子 )
各遺伝子の詳細:
・ASCL1遺伝子:
Achaete-scute homolog 1をコードする遺伝子。神経発生において重要な役割を果たす転写因子で、自律神経系の発達に関与します。
・BDNF遺伝子:
脳由来神経栄養因子(Brain-Derived Neurotrophic Factor)をコードする遺伝子。神経細胞の生存、成長、分化を促進し、呼吸中枢の発達にも関与すると考えられています。
・EDN3遺伝子:
エンドセリン3(Endothelin-3)をコードする遺伝子。神経堤細胞の遊走や分化に重要な役割を果たします。ヒルシュスプルング病との関連も報告されています。
・GDNF遺伝子:
グリア細胞株由来神経栄養因子(Glial cell line-Derived Neurotrophic Factor)をコードする遺伝子。運動ニューロンや自律神経細胞の生存と発達を促進します。
・PHOX2B遺伝子(最重要):
Paired-like homeobox 2Bをコードする遺伝子で、染色体4p12に位置します。先天性中枢性低換気症候群の主要な原因遺伝子で、約90%以上の症例で変異が見つかります。神経堤細胞の遊走や自律神経系の分化・発達において中心的な役割を担っています。中枢神経では呼吸の化学的調節に関与する脳幹部のニューロンに、末梢神経では自律神経節などに発現しています。
変異の種類:
①ポリアラニンリピート伸長変異(PARM):約90%の症例。エキソン3の20ポリアラニン鎖が4~13個増加(24PARM~33PARM)
②非ポリアラニンリピート変異(Non-PARM):約10%の症例。ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト変異など。神経芽細胞腫のリスクが高い。
・RET遺伝子:
受容体型チロシンキナーゼ(REarranged during Transfection)をコードする遺伝子。神経堤細胞の発達に関与し、ヒルシュスプルング病の主要な原因遺伝子としても知られています。CCHS患者さんの一部でRET遺伝子変異が報告されています。
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度平均20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。PHOX2B遺伝子のポリアラニンリピート伸長変異も正確に検出できます。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
- 詳しくはこちら
-
すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(PHOX2B遺伝子のポリアラニンリピート伸長は検出可能)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
※この検査パネルでは、6つの原因遺伝子のみを対象としています。約10%の先天性中枢性低換気症候群症例では、既知の遺伝子に変異が見つかりません。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。臨床症状と検査所見(睡眠ポリグラフ検査、炭酸ガス換気応答試験など)に基づいた診断が重要です。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 睡眠時の無呼吸や低換気がある方、特に新生児期から原因不明の呼吸障害がある場合におすすめします。高二酸化炭素血症や低酸素血症に対する換気応答が低下している場合、自律神経系の異常(徐脈、便秘、体温調節障害など)を伴う場合は、先天性中枢性低換気症候群の可能性が高くなります。また、ヒルシュスプルング病や神経芽細胞腫を合併している場合、家族に同様の症状がある場合も検査をご検討ください。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- PHOX2B遺伝子のポリアラニンリピート伸長変異も検出できますか?
- はい、当検査ではPHOX2B遺伝子のポリアラニンリピート伸長変異(PARM)も正確に検出できます。24PARM~33PARMまでの各タイプを識別し、非ポリアラニンリピート変異(Non-PARM)も同時に検出可能です。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- 先天性中枢性低換気症候群は常染色体優性遺伝の形式をとりますが、ほとんどの症例(約90%以上)は新生突然変異です。患者さんにPHOX2B遺伝子変異が見つかった場合、お子さんが変異を受け継ぐリスクは50%ですが、両親や兄弟姉妹が同じ変異を持つ可能性は低いです。ただし、親がモザイク変異を持つ場合や軽症型で未診断の場合もあるため、家族の検査が推奨されます。
- 遅発型(成人発症型)の先天性中枢性低換気症候群も診断できますか?
- はい、診断可能です。軽症のPHOX2B遺伝子変異(特に24PARM、25PARM)を持つ方は、成人期に初めて症状が顕在化することがあります。成人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群と考えられていた症例が、実は遅発型CCHSであったという報告もあります。原因不明の睡眠時低換気がある成人の方にも検査をおすすめします。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- 約10%の先天性中枢性低換気症候群症例では、既知の遺伝子に変異が見つかりません。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。臨床症状と検査所見(睡眠ポリグラフ検査、炭酸ガス換気応答試験など)に基づいた診断と管理が引き続き重要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。PHOX2B遺伝子変異のタイプ(PARMまたはNon-PARM)、重症度予測、合併症リスク、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- 常染色体優性遺伝のため、PHOX2B遺伝子変異を持つ親から生まれる子どもが変異を受け継ぐ確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。遺伝カウンセリングでは、遺伝形式、再発リスク、検査の選択肢について詳しくご説明します。
- 先天性中枢性低換気症候群の治療はどのように行われますか?
- 現在のところ呼吸中枢の障害に対する根本的な治療法はありませんが、生涯にわたる適切な呼吸管理により、正常に近い生活を送ることが可能です。治療法には、人工呼吸器管理(気管切開による陽圧換気療法)、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)、横隔膜ペーシング(横隔神経電気刺激装置)などがあります。重症度により管理方法が異なり、軽症例では夜間のみの管理で済む場合もあります。
- 合併症のリスクはどのように管理されますか?
- 先天性中枢性低換気症候群では様々な合併症のリスクがあります。ヒルシュスプルング病の有無の評価、心臓の自律神経機能評価(ホルター心電図など)、神経芽細胞腫のスクリーニング(特にNon-PARM変異の場合)、眼科検査、発達評価などの定期的なモニタリングが重要です。遺伝子型により合併症のリスクが異なるため、個別化された管理計画を立案します。
- 予後はどうですか?
- 適切な呼吸管理により低酸素血症や高二酸化炭素血症を防ぐことができれば、神経発達や成長も正常に近い経過をたどることが期待できます。PHOX2B遺伝子のポリアラニンリピート伸長数が多いほど重症度が高く、より集中的な管理が必要となります。合併症の早期発見と適切な管理も予後に影響します。長期的な呼吸管理と総合的なフォローアップが重要です。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では臨床的に重要な6つの原因遺伝子(PHOX2B遺伝子を含む)を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。特にPHOX2B遺伝子のポリアラニンリピート伸長変異も正確に検出できる点が特徴です。また、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら