脳海綿状血管腫(CCM)遺伝子検査|ミネルバクリニック
脳海綿状血管腫とは
脳海綿状血管腫(Cerebral Cavernous Malformation: CCM)は、海綿状血管奇形とも呼ばれる血管病変です。異常に拡張した毛細血管(洞様血管)が密に集合してスポンジ状の構造を形成し、脳や脊髄に発生する疾患です。
発生頻度は人口の約0.5~0.8%とされており、そのうち症状を呈するのは20~30%程度です。多くの場合は無症状ですが、出血を起こすことで、てんかん発作や脳の局所症状(麻痺、構語障害など)を引き起こすことがあります。診断されるのは30歳代に多く、20~40歳台で症状が出現することが多い疾患です。
脳海綿状血管腫の80%程度は孤発性(非遺伝性)で、通常1か所に発生します。一方、約20%は家族性・遺伝性であり、この場合は脳内に多発しやすいことが知られています。家族性の場合は常染色体優性遺伝の形式をとり、遺伝子変異を持つ親の子供は50%の確率でこの病気を受け継ぎます。
症状と病態
脳海綿状血管腫は、内部で出血を繰り返したり、ヘモジデリンの沈着をきたしながら徐々に大きくなる場合があります。一度出血して症状を呈した場合、再出血の頻度が格段に上昇します(無症候性では年間0.3~0.6%に対して、症候性では年間4.5~22.9%)。
主要症状
- てんかん発作(けいれん発作)
- 脳内出血による症状(片麻痺、構語障害、感覚障害など)
- 頭痛(難治性の頭痛を含む)
- 脳幹部病変の場合:めまい、吐き気、複視(物が2重に見える)、顔面麻痺、嚥下困難、ふらつき
- 水頭症による症状
発生部位
脳海綿状血管腫は中枢神経系のどこにでも発生しますが、特に以下の部位に多く認められます:
- 大脳(前頭葉、側頭葉に多い):全体の60~80%がテント上(大脳)に発生
- 小脳
- 脳幹部(延髄、橋など):小さな出血でも重篤な症状を引き起こす可能性
- 脊髄
出血のリスク
一般的に、1病変あたりの年間出血率は0.25~2%程度とされていますが、以下の因子により出血リスクが変動します:
- 出血の既往:一度出血すると再出血しやすくなる
- 多発性病変(家族性の場合)
- 病変の部位(脳幹部は出血しやすい)
- 性別(女性に出血が多い傾向)
家族性の海綿状血管腫では、年間出血率が16.5%/年、一病変あたり0.6%/年とされ、孤発性よりも高い出血リスクを示します。
遺伝性と家族性
脳海綿状血管腫の約20%は家族性・遺伝性であり、常染色体優性遺伝の形式をとります。同一家族内(3等親以内)に2人以上の患者がいる場合は家族性と診断されます。
遺伝形式
家族性脳海綿状血管腫は常染色体優性遺伝であり、以下の特徴があります:
- 遺伝子変異を持つ親から子供へ50%の確率で遺伝
- 男女差なく発症
- 遺伝子を持っていても必ずしも症状を呈するとは限らない(浸透率の問題)
家族性の特徴
- 脳内に海綿状血管腫が多発しやすい(両側大脳半球、小脳、脳幹部に広がることも)
- 脊髄にも多発性病変を認めることがある
- 若年で発症しやすい
- 孤発性と比べて症候性(出血や発作を起こす)になりやすい
- 経過が動的(新規病変の出現、既存病変の増大の可能性)
原因遺伝子
家族性脳海綿状血管腫には3種類の原因遺伝子が同定されています:
- CCM1遺伝子(KRIT1遺伝子):第7染色体(7q21.2)に位置し、家族性患者の約40~44%に認められる
- CCM2遺伝子(Malcavernin遺伝子):第7染色体(7p15-p13)に位置し、約33%に認められる
- CCM3遺伝子(PDCD10遺伝子):第3染色体(3q25.2-q27)に位置し、約6%に認められる
これらの遺伝子は血管内皮細胞の構造や機能に関与しており、変異が生じると血管が異常に形成されやすくなります。
皮膚所見との関連
家族性脳海綿状血管腫の約9%の患者で、皮膚に毛細血管奇形(毛細血管拡張)や静脈性血管奇形などの病変が認められることが知られています。特にCCM1変異を持つ患者に多く見られます。
ミネルバクリニックの脳海綿状血管腫遺伝子パネル検査の特徴
「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」とは、現在脳海綿状血管腫の原因として報告されている3つの遺伝子(CCM2、KRIT1、PDCD10)に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。
従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。
何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、脳海綿状血管腫に関連する遺伝子を一度に調べられる「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」を採用しています。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で脳海綿状血管腫の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、脳海綿状血管腫に関係するとされる3つの遺伝子を一度に調べられる「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える脳海綿状血管腫の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。
当院で行う「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」の場合、3つの関連遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。
3.一気にまとめてできる
臨床症状や画像診断から脳海綿状血管腫を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。
当院で行う「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」ならば、家族性脳海綿状血管腫の原因として知られる3つの遺伝子(CCM1、CCM2、CCM3)を同時に検査できるという利点があります。
オプション
塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)
検査内容
「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」では、脳海綿状血管腫に関係するとされる3種類の遺伝子(CCM2、KRIT1、PDCD10)をまとめて検査します。これらは家族性脳海綿状血管腫の主要な原因遺伝子です。
「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」は、脳海綿状血管腫の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【脳海綿状血管腫の個人歴または家族歴のある方】に
「脳海綿状血管腫 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・脳や脊髄に海綿状血管腫が複数(多発性)認められる方
・家族(3等親以内)に脳海綿状血管腫の診断を受けた方がいる
・若年(20~40歳台)で脳海綿状血管腫を発症した方
・繰り返すてんかん発作があり、海綿状血管腫が原因と考えられる方
・脳出血を起こし、海綿状血管腫が発見された方
・脳幹部に海綿状血管腫がある方
・毛細血管奇形などの皮膚病変を伴う海綿状血管腫の方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、脳海綿状血管腫の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、定期的なMRI検査によるモニタリングや、必要に応じた手術的治療の検討が可能になります。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・家族性(遺伝性)か孤発性かの判別
・多発病変の理解と予後の予測
・定期的な画像検査(MRI)による経過観察計画の策定
・出血リスクの評価と管理
・てんかん発作の適切な治療
・手術適応の判断材料
・新規病変出現のリスク評価
・脊髄病変の有無の確認
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前診断・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体優性遺伝形式のため、子供が同じ遺伝子変異を受け継ぐリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
- 詳しくはこちら
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CCM2, KRIT1, PDCD10 ( 3遺伝子 )
各遺伝子の詳細:
・KRIT1遺伝子(CCM1):
Krev1 Interaction Trapped 1をコードする遺伝子で、第7染色体(7q21.2)に位置します。血管内皮細胞の接着や細胞間結合の維持に重要な役割を果たしています。家族性脳海綿状血管腫患者の約40~44%にこの遺伝子の変異が認められます。皮膚の毛細血管奇形を伴うことが多いのが特徴です。
・CCM2遺伝子(Malcavernin):
マルカバーニン(malcavernin)というタンパク質をコードする遺伝子で、第7染色体(7p15-p13)に位置します。血管の形成と維持に関与しており、この遺伝子の変異により異常な血管構造が形成されます。家族性患者の約33%に認められます。
・PDCD10遺伝子(CCM3):
Programmed Cell Death 10をコードする遺伝子で、第3染色体(3q25.2-q27)に位置します。細胞死の調節や血管新生に関与しています。家族性患者の約6%に認められます。
カバレッジ
カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。
≥99% at 20x(読み取り深度20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
- 詳しくはこちら
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すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。
低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
※この検査パネルでは、CCM1、CCM2、CCM3の3つの主要な原因遺伝子を対象としています。ただし、これらの遺伝子に変異が見つからない家族性症例も約17%存在することが報告されており、未知の遺伝子が関与している可能性があります。
結果が出るまでの期間
2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 脳や脊髄に海綿状血管腫が複数(多発性)認められる方、家族に脳海綿状血管腫の患者がいる方、若年で発症した方、繰り返すてんかん発作がある方、脳出血を起こした方などにおすすめします。特に家族歴がある場合は検査をご検討ください。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- 脳海綿状血管腫は常染色体優性遺伝形式をとるため、遺伝子変異を持つ親の子供は50%の確率で同じ遺伝子変異を受け継ぎます。ただし、遺伝子を持っていても必ずしも症状を呈するとは限りません。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- この検査では3つの主要な原因遺伝子(CCM1、CCM2、CCM3)を対象としています。検査で病原性変異が検出されなくても、未知の遺伝子が関与している可能性があります(約17%の家族性症例)。また、孤発性(非遺伝性)の可能性もあります。主治医と相談して、定期的な画像検査による経過観察が重要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応(定期的なMRI検査、手術適応の判断など)、ご家族への影響、出血リスクの評価などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- 脳海綿状血管腫は常染色体優性遺伝形式をとるため、遺伝子変異を持つ親の場合、お子さんが同じ遺伝子変異を受け継ぐ確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- 脳海綿状血管腫の治療はどのように行われますか?
- 治療は症状と病変の部位により異なります。無症状の場合は定期的なMRI検査による経過観察が基本です。症候性(出血やてんかん発作がある)の場合は、抗てんかん薬の投与や手術的摘出を検討します。特に脳幹部病変は、出血を繰り返す場合に慎重に手術適応を判断します。
- 予後はどうですか?
- 多くの場合、脳海綿状血管腫は良好な予後が期待できます。無症状の病変は生涯無症状のまま経過することも多くあります。一度出血すると再出血のリスクが上昇しますが、適切な管理と必要に応じた手術治療により、多くの患者さんが通常の社会生活を送っています。定期的なMRI検査によるモニタリングが重要です。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院では家族性脳海綿状血管腫の3つの主要な原因遺伝子(CCM1、CCM2、CCM3)を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも検査を受けることが可能です。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら