BEAN1遺伝子リピート伸長検査(脊髄小脳失調症31型)|ミネルバクリニック
脊髄小脳失調症31型(SCA31)とは
脊髄小脳失調症31型(Spinocerebellar Ataxia Type 31: SCA31)は、日本特有の常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症です。わが国の遺伝性脊髄小脳失調症の中では、SCA3(マシャド・ジョセフ病)、SCA6に次いで3~4番目に多い疾患で、特に長野県に集中して認められます。
SCA31は2009年に東京医科歯科大学の研究グループによって原因遺伝子が特定されました。BEAN1(brain expressed associated with NEDD4)遺伝子とTK2(thymidine kinase 2)遺伝子が共有するイントロン領域に存在する5塩基の繰り返し配列(TGGAA)の異常伸長が原因となります。
SCA31は高齢発症でほぼ純粋な小脳性失調を特徴とし、50~70歳代での発症が多いため、家族歴がマスクされやすく、孤発性の皮質性小脳萎縮症と間違われやすい特徴があります。日本のSCA31には強い創始者効果があり、共通祖先の存在が示唆されています。脊髄小脳変性症は指定難病(難病指定18)に認定されており、適切な遺伝学的検査により診断を確定することが重要です。
症状と病態
SCA31の最大の特徴は、ほぼ純粋な小脳性失調を呈する点です。小脳以外の神経症状が少なく、他の脊髄小脳失調症と比較してもその純粋性が際立っています。
主要症状
- 歩行障害(ふらつき、転びやすい)
- 構音障害(ろれつが回らない、言葉が不明瞭)
- 小脳性運動失調(動作時の震え、測定障害)
- 体幹失調(体のバランスが取りにくい)
- 眼球運動障害(注視時の眼振)
- 協調運動障害(細かい動作が困難)
- 筋トーヌス低下
発症年齢と進行
SCA31は50~70歳代での高齢発症が特徴的です。初発症状は歩行障害や構音障害が多く、緩徐に進行します。SCA6と比較してもさらに小脳以外の症状が少ないことが報告されています。
小脳外症状
数少ない小脳外症状として、両側の感音性難聴をきたす例が報告されていますが、加齢性の変化である可能性も指摘されています。他の多くの脊髄小脳失調症で認められる錐体路徴候、錐体外路徴候、認知機能障害などは通常認められません。
画像所見
MRI検査では、小脳上面優位の萎縮が認められ、特に虫部で顕著です。脳幹は保たれることが特徴的で、通常異常信号はきたしません。
病態メカニズム
BEAN1遺伝子のDNAに(TGGAA)配列が挿入されることにより、RNAでは(UGGAA)配列が挿入されます。このRNA異常が細胞内のタンパク質と凝集体(RNA foci)を形成し、プルキンエ細胞に対して細胞毒性を示すことで、核内封入体の形成とプルキンエ細胞変性を起こします。これはノンコーディングリピート病またはRNA介在性神経筋疾患に分類されます。
ミネルバクリニックのBEAN1遺伝子リピート伸長検査の特徴
「BEAN1遺伝子リピート伸長検査」とは、脊髄小脳失調症31型(SCA31)の原因となるBEAN1遺伝子における5塩基繰り返し配列(TGGAA)の異常伸長を調べる検査方法です。
この検査は、リピートプライムPCR(repeat-primed PCR: rpPCR)とアンプリコン長解析により実施されます。日本特有の遺伝性脊髄小脳変性症であるSCA31の確定診断に必須の検査です。
高齢発症の純粋小脳失調の場合、家族歴が明らかでないことも多く、孤発性の皮質性小脳萎縮症と臨床的に鑑別が困難な場合があります。遺伝子検査により診断を確定することで、適切な治療・管理方針の決定、家族への遺伝カウンセリング、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関でリピート伸長検査を行う場合、数万円から十万円以上の費用がかかることがあります。
当院では、BEAN1遺伝子のリピート伸長検査をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行えるリピート伸長検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。
当院で行う「BEAN1遺伝子リピート伸長検査」の場合、2週間程度で結果を得ることが可能です。
オプション
リピート伸長解析(料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
検査内容
「BEAN1遺伝子リピート伸長検査」では、BEAN1遺伝子のイントロン領域における5塩基繰り返し配列(TGGAA)の異常伸長を検出します。
健常な日本人の99%以上では、この領域に8~20回程度のごく短い5塩基繰り返し(TAAAA)を有するだけですが、SCA31患者では(TGGAA)、(TAGAA)、(TAAAA)などの複数の構成成分からなる複雑なリピート構造を示します。このうち(TGGAA)配列はSCA31患者にのみ認められる病的な繰り返し配列です。
検査はリピートプライムPCR(rpPCR)とアンプリコン長解析により実施され、リピート伸長の有無を評価します。
どんな人が受けたらいいの?
【脊髄小脳失調症31型の個人歴または家族歴のある方】に
「BEAN1遺伝子リピート伸長検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・50歳以降に発症した小脳性運動失調がある方
・歩行障害(ふらつき、転びやすさ)がある方
・構音障害(ろれつが回らない)がある方
・小脳萎縮がMRI検査で認められる方
・家族に同様の症状を持つ方がいる場合
・皮質性小脳萎縮症と診断されているが遺伝性が疑われる方
・長野県にルーツを持ち、小脳失調症状がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
この検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、SCA31の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・SCA31の診断の確立または確認
・皮質性小脳萎縮症など他の疾患との鑑別
・短期集中リハビリテーションなど適切な治療法の選択
・症状進行の予測
・合併症の予防とモニタリング
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
SCA31は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんのお子さんが同じ疾患を発症するリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
- 詳しくはこちら
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BEAN1 ( 1遺伝子 )
・BEAN1遺伝子(Brain Expressed Associated with NEDD4):
BEAN1遺伝子は脳でのみ発現している遺伝子です。この遺伝子とTK2遺伝子が共有するイントロン領域に存在する5塩基繰り返し配列(TGGAA)の異常伸長がSCA31の原因となります。正常な日本人では8~20回程度の短いリピートを有するだけですが、SCA31患者では複雑なリピート構造を示し、特に(TGGAA)配列の存在が病的意義を持ちます。このDNAから転写されるRNA(UGGAA)が神経細胞核内にRNA fociと呼ばれる異常な凝集体を形成し、プルキンエ細胞に対して毒性を示すことで小脳変性を引き起こします。リピート長と発症年齢には弱い負の相関関係が認められています。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
- 詳しくはこちら
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すべてのリピート伸長検査には限界があります。この解析はリピートプライムPCR(rpPCR)とアンプリコン長解析により実施されます。この検査の範囲は、BEAN1遺伝子のリピート伸長解析に限定されます。このリピート伸長解析では、大きな伸長における正確なリピート数を検出できない場合があります。
遺伝子の塩基配列解析(シーケンシング)や欠失・重複解析は本検査には含まれていませんが、必要に応じて別途注文できます。また、本解析にはメチル化研究は含まれていません。
この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
※SCA31以外の脊髄小脳失調症(SCA3、SCA6、DRPLAなど)の検査が必要な場合は、別途ご相談ください。
結果が出るまでの期間
2週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み220,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 50歳以降に発症した歩行障害(ふらつき、転びやすさ)、構音障害(ろれつが回らない)、小脳性運動失調などの症状がある方におすすめします。特に家族に同様の症状を持つ方がいる場合や、MRI検査で小脳萎縮が認められる場合は検査をご検討ください。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- SCA31は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんのお子さんが同じ疾患を発症するリスクは50%です。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。特に発症前診断を希望される場合は、慎重な遺伝カウンセリングが必要です。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- この検査ではSCA31のみを対象としています。検査で病原性変異が検出されなくても、SCA3、SCA6、DRPLAなど他の脊髄小脳失調症の可能性があります。主治医と相談して、必要に応じて他の遺伝子検査を受けることが重要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み220,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。ただし、診断確定後は指定難病制度により医療費助成を受けられる可能性があります。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- SCA31は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんのお子さんが疾患を発症する確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- SCA31の治療はどのように行われますか?
- 現在のところ根本的な治療法はありませんが、症状の改善を目的としたリハビリテーションが有効です。特に短期集中リハビリテーション(1日1~2時間、週3~7回、4週間のバランスや歩行訓練)により、運動失調や歩行の改善が認められ、その効果が半年~1年継続することが示されています。また、TRH製剤などの薬物療法も行われています。
- 予後はどうですか?
- SCA31は緩徐に進行する疾患ですが、他の脊髄小脳失調症と比較して純粋な小脳症状が主体であり、認知機能障害などの合併が少ないことが特徴です。適切なリハビリテーションと症状管理により、生活の質を維持することが可能です。
- なぜ日本に多いのですか?
- SCA31は日本特有の疾患で、特に長野県に集中して認められます。日本のSCA31には強い創始者効果があり、共通祖先の存在が示唆されています。同じアジア人でも近隣諸国にはほとんど見られず、欧米では1例も報告されていません。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院ではリピート伸長検査を専門的に実施しており、2週間という短期間で結果を得ることができます。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも検査を受けることが可能です。また、経験豊富な臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングを提供しています。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら