ATXN8OS遺伝子リピート伸長検査(脊髄小脳失調症8型)|ミネルバクリニック
脊髄小脳失調症8型(SCA8)とは
脊髄小脳失調症8型(Spinocerebellar Ataxia Type 8: SCA8)は、主に小脳の神経細胞の変性により運動失調を引き起こす遺伝性神経変性疾患です。13番染色体13q21領域に位置するATXN8OS遺伝子のCTG/CAG三塩基リピートの異常伸長が原因で発症します。
本疾患は常染色体優性遺伝形式をとりますが、浸透率の低下(reduced penetrance)が特徴的です。つまり、リピート伸長を持っていても必ずしも症状が現れるわけではなく、同じ家系内でも症状の現れ方に個人差があります。発症年齢は通常30~50歳代ですが、1歳未満から60歳以降まで幅広い年齢層で発症が報告されています。
SCA8の特徴として、緩徐に進行する運動失調症状があり、生涯は通常短縮されません。また、他の多くの脊髄小脳失調症(SCA)と比べて進行が遅く、発症年齢に関わらず数十年にわたって進行することが知られています。適切な遺伝学的検査により原因を特定することで、患者さんとご家族にとって重要な医学的情報を提供できます。
症状と病態
脊髄小脳失調症8型(SCA8)は、主に小脳と脳幹の神経細胞の変性により多様な症状を引き起こします。ATXN8OS遺伝子とATXN8遺伝子が重複して存在し、両方向に転写されることで、CUG伸長RNAとポリグルタミン蛋白質の両方が産生され、RNA毒性と蛋白質毒性の両方のメカニズムで病態が形成されると考えられています。
主要症状
初発症状として最も多いのは、歩行時のふらつき(歩行失調)と構音障害(呂律がまわらない)です。約90%の患者さんが歩行の不安定性、つまずき、平衡異常で発症し、残りの約10%が構音障害で発症します。
- 歩行失調:歩行時にふらつき、転倒しやすくなる。幅広い歩き方(開脚歩行)が特徴的
- 四肢失調:手足の協調運動障害、企図時振戦(目的物に手を伸ばすときに震える)
- 構音障害:特徴的な引き伸ばされたゆっくりとした話し方、呂律が回らない
- 眼球運動異常:眼振(眼球が細かく揺れる)、異常な追跡眼球運動、サッケード(急速眼球運動)の異常
- 嚥下障害:飲み込みの困難、むせやすさ
- 咳反射の低下
その他の症状
小脳症状に加えて、以下のような症状が認められることがあります:
- 上位運動ニューロン徴候:腱反射亢進、病的反射陽性、痙性
- 錐体外路症状:パーキンソニズム、ジストニア
- 感覚性ニューロパチー:感覚障害
- 認知機能障害:実行機能障害など
- 稀に:眼球運動麻痺
画像所見
頭部MRI検査では、小脳虫部および小脳半球の萎縮が特徴的に認められます。特にプルキンエ細胞の顕著な消失、分子層の萎縮、ベルグマングリアの増殖が病理学的特徴です。また、黒質の神経細胞脱落も共通して認められます。
遺伝学的特徴
SCA8では、リピート長と症状の重症度や進行速度の相関が、他の非翻訳領域リピート病と比べて弱いことが特徴です。正常者では15~34リピートですが、SCA8患者では89~155リピート程度の伸長が報告されています。
親から子への伝達時にリピート数が変化することがあり、母系伝達ではリピートが伸長しやすく、父系伝達では短縮する傾向があります。表現促進現象(世代を経るごとに発症年齢が若年化し症状が重症化する現象)も報告されており、特に父親からの遺伝で顕著な場合があります。
ミネルバクリニックのATXN8OS遺伝子リピート伸長検査の特徴
「ATXN8OS遺伝子リピート伸長検査」は、脊髄小脳失調症8型(SCA8)の原因となるATXN8OS遺伝子のCTG三塩基リピートの異常伸長を検出する検査です。
この検査は、リピートプライムドPCR(rpPCR)とアンプリコン長解析により実施されます。正常者では通常15~34リピートですが、SCA8では80リピート以上の伸長が認められます。
運動失調症状があり、家族歴がある方、または孤発性でも脊髄小脳失調症が疑われる方にとって、原因遺伝子を特定することは診断確定だけでなく、適切な管理方針の決定や家族計画において重要な情報となります。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で脊髄小脳失調症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の候補遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、脊髄小脳失調症8型の原因となるATXN8OS遺伝子のリピート伸長検査をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える脊髄小脳失調症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。
当院で行う「ATXN8OS遺伝子リピート伸長検査」の場合、約2週間で結果が得られます。
オプション
リピート伸長解析 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
検査内容
「ATXN8OS遺伝子リピート伸長検査」では、脊髄小脳失調症8型の原因となるATXN8OS遺伝子のCTG三塩基リピートの異常伸長を検出します。
この検査は、SCA8の遺伝的原因を持つ方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【脊髄小脳失調症の個人歴または家族歴のある方】に
「ATXN8OS遺伝子リピート伸長検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・歩行時のふらつき、つまずきが増えてきた方
・呂律が回らない、話し方がゆっくりになった方
・手足の協調運動に障害がある方
・眼球が揺れる、物を追うのが困難な方
・飲み込みが困難、むせやすい方
・家族に脊髄小脳失調症の方がいる方
・頭部MRIで小脳萎縮が指摘された方
・他のSCA検査で原因が特定できなかった方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
この検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、脊髄小脳失調症8型の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、予防的な対応や生活習慣の改善、定期的なモニタリングを行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・他のSCA型との鑑別
・転倒予防のための環境整備
・構音障害に対する言語療法の導入
・嚥下障害の早期発見と対応
・リハビリテーションの最適化
・症状の進行予測と管理計画の立案
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
SCA8は常染色体優性遺伝形式をとりますが、浸透率が低いため、リピート伸長を持っていても症状が現れない場合があります。患者さんでリピート伸長が同定された場合、各同胞がリピート伸長を受け継ぐリスクは50%ですが、必ずしも発症するわけではありません。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
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ATXN8OS ( 1遺伝子 )
遺伝子の詳細:
・ATXN8OS遺伝子(Ataxin 8 Opposite Strand):
13番染色体13q21領域に位置する遺伝子。CTG三塩基リピートの異常伸長により、転写されたmRNAに伸長したCUGリピートが含まれます。この伸長CUG RNAは核内でRNA凝集体(RNA foci)を形成し、RNA結合蛋白質MBNL1を隔離することで、下流のスプライシング制御異常を引き起こします。これは筋強直性ジストロフィー1型と類似したメカニズムです。
また、相補鎖上のATXN8遺伝子からは、CAGリピート伸長を含むポリグルタミン蛋白質も産生されます。つまり、SCA8では双方向転写により、RNA毒性と蛋白質毒性の両方が病態に関与すると考えられています。
正常者のリピート数は15~34リピートですが、SCA8患者では80リピート以上、多くは89~155リピート程度の伸長が認められます。ただし、リピート伸長を持っていても未発症の方もおり、浸透率の低下が特徴です。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
- 詳しくはこちら
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すべてのリピート伸長検査には限界があります。本検査はリピートプライムドPCR(rpPCR)とアンプリコン長解析により実施されます。この検査の範囲はATXN8OS遺伝子のリピート伸長解析に限定されています。
このリピート伸長解析では、大きな伸長が存在する場合、正確なリピート数を特定できない場合があります。遺伝子の塩基配列決定や欠失・重複解析は本検査には含まれていませんが、必要に応じて別途ご注文いただけます。また、本検査にはメチル化解析は含まれません。
重要な注意点として、SCA8ではリピート伸長を持っていても未発症の場合があります(浸透率の低下)。そのため、リピート伸長が検出された場合でも、必ずしも症状が現れるとは限りません。また、リピート伸長が検出されても、他の原因疾患の可能性を完全には除外できないため、臨床症状と総合的に判断する必要があります。
本検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。
結果が出るまでの期間
2週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。
料金
税込み220,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
- どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
- 歩行時のふらつき、つまずきが増えた方、呂律が回らない・話し方がゆっくりになった方、手足の協調運動に障害がある方、眼球が揺れる方、飲み込みが困難な方におすすめします。また、家族に脊髄小脳失調症の方がいる場合や、頭部MRIで小脳萎縮が指摘された場合も検査をご検討ください。
- 検査はどのように行いますか?
- 血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
- 家族も検査を受ける必要がありますか?
- SCA8は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんの各同胞がリピート伸長を受け継ぐリスクは50%です。ただし、浸透率が低いため、リピート伸長を持っていても必ずしも症状が現れるわけではありません。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
- 検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
- この検査ではATXN8OS遺伝子のリピート伸長のみを対象としています。検査でリピート伸長が検出されなくても、他の型の脊髄小脳失調症(SCA1、2、3、6、7、31など)の可能性があります。主治医と相談して、必要に応じて他の遺伝子の検査を受けることが重要です。
- 保険は適用されますか?
- 当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み220,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。ただし、診断確定後は指定難病制度により医療費助成を受けられる可能性があります。
- 結果はどのように説明されますか?
- 検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。特にSCA8では浸透率の低下があるため、リピート伸長が検出された場合の解釈について丁寧にご説明します。
- 子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
- SCA8は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんからお子さんへリピート伸長が伝達される確率は50%です。ただし、浸透率が低いため、リピート伸長を受け継いでも必ずしも発症するわけではありません。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
- 脊髄小脳失調症8型の治療はどのように行われますか?
- 現時点では根本的な治療法はありませんが、対症療法が重要です。転倒予防のための杖や歩行器の使用、住宅改修(手すりの設置、段差の解消)、理学療法によるバランス訓練、言語療法、嚥下機能評価と栄養管理などを総合的に行います。症状の進行は緩徐で、発症年齢に関わらず数十年かけて進行するため、適切な管理により生活の質を維持できます。
- 予後はどうですか?
- SCA8は他の多くの脊髄小脳失調症と比べて進行が緩徐で、生涯は通常短縮されません。発症年齢に関わらず、症状は数十年にわたってゆっくりと進行します。適切なリハビリテーションと環境整備により、長期にわたって生活の質を維持することが可能です。
- 他の医療機関での検査との違いは何ですか?
- 当院ではATXN8OS遺伝子のリピート伸長検査を専門的に実施しており、従来の検査と比べて費用・時間を短縮できます。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも検査を受けることが可能です。また、遺伝カウンセリングにより、浸透率の低下など複雑な遺伝学的特徴についても丁寧にご説明します。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら