InstagramInstagram

ATXN8/ATXN8OS リピート伸長遺伝子検査(脊髄小脳失調症8型)|ミネルバクリニック

ATXN8/ATXN8OS リピート伸長遺伝子検査(脊髄小脳失調症8型)|ミネルバクリニック

脊髄小脳失調症8型とは

脊髄小脳失調症8型(Spinocerebellar Ataxia Type 8: SCA8)は、遺伝性脊髄小脳変性症の一つで、小脳を中心とした神経系の変性によって生じる運動失調を主体とする疾患です。

脊髄小脳変性症とは、小脳およびそれに関連する神経系統の変性を起こす疾患群の総称で、運動失調(歩行時のふらつき、手足の協調運動障害、構音障害など)を主症状とします。SCA8は遺伝性脊髄小脳変性症の中でも常染色体優性遺伝形式をとる疾患として分類されていますが、浸透率の低下(遺伝子変異があっても必ずしも発症しない特徴)という独特の遺伝パターンを示します。

SCA8は13番染色体長腕(13q21)に位置するATXN8OS遺伝子内のCTG三塩基リピートの異常伸長、および相補的なATXN8遺伝子のCAGリピート伸長によって引き起こされます。正常では15〜50リピートですが、病的アレルでは71〜1,300リピートまで伸長します。脊髄小脳変性症は指定難病(難病指定18)に認定されており、適切な遺伝学的検査により診断を確定することが、患者さんとご家族にとって重要な医学的情報を提供します。

症状と病態

SCA8は緩徐進行性の小脳性運動失調症を主体とする疾患で、発症年齢は幅広く、1歳以前から60歳以降まで報告されていますが、典型的には30〜50歳代での発症が多く見られます。平均発症年齢は約39歳です。

主要症状

  • 構音障害(ろれつが回らない、スキャニング性の言語障害、特徴的なゆっくりとした引き延ばされた話し方)
  • 歩行障害(ふらつき、不安定な歩行)
  • 四肢の運動失調(手足の協調運動障害)
  • 眼球運動異常(眼振、眼球運動の障害)
  • 嚥下障害(飲み込みにくさ、軽度の誤嚥)
  • 振動覚の低下
  • 痙性(四肢のつっぱり)

認知機能と精神症状

SCA8患者の約4分の3に認知機能障害が認められます。また、実行機能障害や精神症状を呈することもあります。

画像所見

MRI検査では小脳萎縮、特に著明な小脳萎縮が認められます。無症候性のリピート伸長保因者においても小脳萎縮が観察されることがあります。

疾患の進行と予後

SCA8は一般的に緩徐に進行します。重症例では発症後40〜50年で歩行不能になることもありますが、多くの場合、疾患は数十年にわたってゆっくりと進行し、生命予後は比較的良好です。寿命は著しく短縮しないことが多いとされています。

症状の重症度はリピート長と相関する傾向があり、リピート数が多いほど発症年齢が若く、症状が重い傾向にあります。罹患者のCTGリピート数の平均は約116ですが、無症候性保因者では平均約90と短い傾向があります。

遺伝形式の特徴

SCA8は常染色体優性遺伝形式をとりますが、浸透率の低下という独特の特徴があります。これは、遺伝子変異を持っていても必ずしも発症しない、あるいは発症時期が遅れることを意味します。

浸透率の低下がもたらす特徴

  • 家族内で遺伝子変異を持つ人がいても、症状を示さない人がいる
  • 一見、孤発例(散発性)や劣性遺伝のように見える家系がある
  • 遺伝カウンセリングや診断が複雑になる

リピート伸長の世代間変動

SCA8のリピート伸長は次世代への遺伝時に変動しやすく、以下の特徴があります:

  • 母親から遺伝する場合:リピート数が増加しやすい傾向
  • 父親から遺伝する場合:リピート数が減少しやすい傾向
  • リピート数の変化により、次世代での症状出現や重症度が変わる可能性

遺伝リスク

SCA8の変異を持つ親から子へ遺伝子変異が伝わる確率は50%です。ただし、変異を受け継いだ子が必ず発症するとは限りません。また、変異を受け継いだ場合でも、リピート数が世代間で変動するため、症状の出現や重症度は親世代と異なる可能性があります。

これまで診断されたSCA8患者では、分子遺伝学的検査を受けた両親のいずれかがATXN8OS/ATXN8のリピート伸長を持っていました。伝達する親は、SCA8の臨床症状がある場合もない場合もあります。

ミネルバクリニックの脊髄小脳失調症8型リピート伸長検査の特徴

「ATXN8/ATXN8OS リピート伸長遺伝子検査」とは、脊髄小脳失調症8型の原因となるATXN8OS遺伝子のCTGリピート伸長、およびATXN8遺伝子の相補的CAGリピート伸長を調べる検査です。

この検査は、リピートプライムドPCR法および増幅断片長解析により実施されます。病的なリピート伸長(71リピート以上)の有無を確認することで、SCA8の遺伝学的診断を確定できます。

遺伝性脊髄小脳変性症は複数の型があり、臨床症状だけでは型を特定することが困難です。遺伝子検査により確定診断を得ることで、適切な遺伝カウンセリング、家族への情報提供、将来的な治療法の適応判断が可能になります。

一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。

1.リピート伸長検査の特性を理解した検査設計

SCA8のリピート伸長検査には特有の技術的課題があります。大規模なリピート伸長の場合、正確なリピート数を決定することが困難なことがあります。

当院の検査では、リピートプライムドPCR法を用いることで、病的なリピート伸長の検出を高感度で行います。この方法により、診断に必要な情報を確実に提供します。

2.結果が出るまでがはやい

一般的な医療機関で行える脊髄小脳変性症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。

当院で行う「ATXN8/ATXN8OS リピート伸長遺伝子検査」の場合、約2週間で結果を提供することが可能です。

3.オンライン診療対応

遠方にお住まいの方でも、オンライン診療により遺伝カウンセリングを受けていただくことが可能です。検体(唾液、頬粘膜スワブ、または血液)をご自宅で採取し、当院に送付していただく形で検査を実施できます。

検査内容

「ATXN8/ATXN8OS リピート伸長遺伝子検査」では、13番染色体長腕(13q21)に位置するATXN8OS遺伝子のCTGリピート伸長、およびATXN8遺伝子の相補的CAGリピート伸長を検出します。

正常アレルは15〜50リピートですが、病的アレルは71〜1,300リピートの範囲で伸長しています。この検査により、SCA8の遺伝学的診断を確定できます。

どんな人が受けたらいいの?

【脊髄小脳失調症8型の個人歴または家族歴のある方】に
「ATXN8/ATXN8OS リピート伸長遺伝子検査」を受けることをおすすめします。

この検査は以下のような方に適しています:
・原因不明の運動失調症状がある方
・構音障害(ろれつが回らない、スキャニング性の言語障害)がある方
・歩行障害やふらつきがある方
・眼球運動異常(眼振など)がある方
・四肢の協調運動障害がある方
・MRI検査で小脳萎縮が認められる方
・脊髄小脳変性症の家族歴がある方
・認知機能障害を伴う小脳失調症の方
・緩徐進行性の神経症状がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方

この検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。

検査で得られる患者さんの潜在的利益は?

遺伝子検査により原因が判明すると、脊髄小脳失調症8型の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、症状管理、リハビリテーション、定期的なモニタリングを適切に行うことができます。

遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・確定診断の確立または確認
・疾患の予後予測
・症状管理とリハビリテーション計画の最適化
・現在進行中の臨床試験への参加機会
・理学療法、作業療法、言語療法などの適切な紹介
・補助具や住環境整備の適切なタイミングでの導入
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供

患者さんでリピート伸長が同定された場合、常染色体優性遺伝形式のため、お子さんが変異を受け継ぐリスクは50%です。ただし、浸透率の低下のため、変異を受け継いでも必ずしも発症するとは限りません。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。

対象遺伝子

詳しくはこちら

ATXN8, ATXN8OS ( 2遺伝子 )

各遺伝子の詳細:
・ATXN8OS遺伝子(Ataxin 8 Opposite Strand):
13番染色体長腕(13q21)に位置する遺伝子。CTG三塩基リピートの異常伸長により、拡大したCUGリピートを含むmRNAが転写されます。このRNA転写産物がRNA媒介性の神経毒性を引き起こすと考えられています。正常アレルは15〜50リピート、病的アレルは71〜1,300リピートです。

・ATXN8遺伝子(Ataxin 8):
ATXN8OS遺伝子と相補的な位置にあり、CAG三塩基リピートの伸長を持ちます。この遺伝子から翻訳されるポリグルタミン含有タンパク質が、プルキンエ細胞や他の神経細胞に封入体を形成し、タンパク質レベルでの毒性獲得機能を示すと考えられています。

・SCA8の病態機序:
SCA8は、ATXN8OSとATXN8の両方向性転写により、RNAレベル(CUG伸長RNA)とタンパク質レベル(ポリグルタミンタンパク質)の両方で毒性獲得機能が生じることが示唆されています。このため、他の単純なリピート伸長疾患とは異なる複雑な病態機序を持つと考えられています。

検体

血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)

※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
 ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
 血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
 オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
 検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。

検査の限界

詳しくはこちら

すべてのリピート伸長検査には限界があります。この分析はリピートプライムドPCR(rpPCR)および増幅断片長解析により実施されます。この検査の範囲は、遺伝子のリピート伸長分析に限定されています。

リピート伸長検査では、大規模な伸長が存在する場合、正確なリピート数を明らかにできないことがあります。しかし、診断目的においては、病的なリピート伸長(71リピート以上)の存在を確認することで十分な情報が得られます。

この検査では、遺伝子の塩基配列決定(シーケンス)や欠失・重複解析は含まれていませんが、別途注文することができます。また、この分析にはメチル化研究は含まれていません。

SCA8の遺伝的特徴として、浸透率の低下があることに注意が必要です。リピート伸長が検出されても、必ずしも症状が出現するとは限りません。また、リピート数の長さと症状の出現や重症度との関係は完全には理解されていません。

家系間でのリピート伸長の浸透率の違いも報告されており、同じリピート数でも家系によって浸透率が異なる可能性があります。これは、CTGリピートの前に存在する安定した(CTA)nリピートの長さの違いによる可能性が示唆されています。

遺伝カウンセリングにおいては、これらの複雑な遺伝的特性を十分に理解した上で、患者さんとご家族に適切な情報提供を行うことが重要です。

結果が出るまでの期間

2週間

料金

税込み220,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)

よくあるご質問

どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
原因不明の運動失調症状がある方、特に構音障害(ろれつが回らない、ゆっくりとした引き延ばされた話し方)、歩行障害やふらつき、眼球運動異常、四肢の協調運動障害がある方におすすめします。また、MRI検査で小脳萎縮が認められる方、脊髄小脳変性症の家族歴がある方も検査をご検討ください。
検査はどのように行いますか?
血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
家族も検査を受ける必要がありますか?
SCA8は常染色体優性遺伝形式をとりますが、浸透率の低下があるため、遺伝子変異があっても必ずしも発症するとは限りません。患者さんのお子さんが変異を受け継ぐリスクは50%ですが、発症するかどうかは個人差があります。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
この検査ではSCA8のリピート伸長のみを対象としています。検査で病原性変異が検出されなくても、他の型の脊髄小脳変性症(SCA1、SCA2、SCA3、SCA6など)の可能性があります。主治医と相談して、必要に応じて追加の遺伝子検査を受けることが重要です。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み220,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。ただし、診断確定後は指定難病制度により医療費助成を受けられる可能性があります。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、リピート伸長の浸透率の問題などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。SCA8特有の遺伝的特徴についても丁寧にご説明いたします。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
SCA8は常染色体優性遺伝形式をとるため、変異を持つ親のお子さんが変異を受け継ぐ確率は50%です。ただし、浸透率の低下により、変異を受け継いでも必ずしも発症するとは限りません。また、リピート数は世代間で変動するため(母親からの遺伝では増加しやすく、父親からでは減少しやすい)、症状の出現や重症度は世代によって異なる可能性があります。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
脊髄小脳失調症8型の治療はどのように行われますか?
現在、SCA8に対する特異的な治療法はありませんが、対症療法が中心となります。理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションが重要です。歩行補助具、住環境の整備、嚥下訓練なども必要に応じて行います。Troriluzole(トロリルゾール)などの治療薬の臨床試験も進行中です。早期診断により、適切なタイミングでこれらの支持療法を開始できます。
予後はどうですか?
SCA8は一般的に緩徐に進行する疾患で、数十年にわたってゆっくりと症状が進行します。生命予後は比較的良好で、寿命は著しく短縮しないことが多いとされています。ただし、重症例では発症後40〜50年で歩行不能になることもあります。症状の重症度はリピート数と相関する傾向がありますが、浸透率の低下や家系間の違いもあり、予後の予測は個人差が大きいです。
遺伝子変異があっても症状が出ないことがあるのはなぜですか?
SCA8は「浸透率の低下」という独特の遺伝的特徴を持ちます。これは、遺伝子変異があっても必ずしも発症しない、または発症時期が遅れることを意味します。リピート数が短い場合(例:90リピート程度)では、症状が出ない保因者が多く、リピート数が長い場合(例:116リピート以上)では症状が出やすい傾向がありますが、必ずしもすべての変異保因者が発症するわけではありません。この複雑な遺伝パターンにより、遺伝カウンセリングや診断が他のSCAよりも複雑になります。


プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら