(更新日:2025/09/30)
ATXN10リピート伸長解析遺伝子検査(脊髄小脳失調症10型)|ミネルバクリニック
脊髄小脳失調症10型とは
脊髄小脳失調症10型(Spinocerebellar Ataxia Type 10: SCA10)は、ATXN10遺伝子のイントロン内におけるATTCTペンタヌクレオチドリピートの異常伸長により引き起こされる稀な遺伝性神経変性疾患です。本疾患は脊髄小脳失調症の一型であり、常染色体優性遺伝形式をとります。
SCA10は主に小脳性運動失調を呈しますが、他のSCAと異なる特徴として、てんかん発作を高頻度に合併することが知られています。日本では2012年時点で報告例がなく、極めて稀な疾患とされていますが、メキシコや南米の一部地域では比較的多く報告されています。
脊髄小脳失調症10型は指定難病(難病指定18)に認定されている脊髄小脳変性症の一型であり、適切な遺伝学的検査により原因を特定することで、患者さんとご家族にとって重要な医学的情報を提供できます。本疾患は緩徐進行性の小脳症候群であり、早期診断と適切な管理が重要です。
症状と病態
脊髄小脳失調症10型では、ATXN10遺伝子のイントロン9内におけるATTCTペンタヌクレオチドリピートが正常では10~22回程度であるのに対し、患者では800~4,500回以上に異常伸長しています。このリピート伸長がRNA レベルで細胞機能障害を引き起こし、小脳を中心とした神経系の変性をきたすと考えられています。
主要症状
小脳性運動失調(歩行時のふらつき、転倒しやすい)
構音障害(ろれつが回らない、言葉が不明瞭)
眼球運動障害(眼振など)
四肢失調(手足の動きがぎこちない、細かい動作が困難)
てんかん発作(SCA10に特徴的、高頻度で認められる)
認知機能障害(一部の症例で報告)
末梢神経障害(一部の症例で報告)
発症年齢と経過
発症年齢は比較的幅広く、10代後半から40代で発症することが多いとされていますが、より若年での発症例や高齢での発症例も報告されています。症状は緩徐進行性で、長い経過をたどります。
SCA10の特徴
SCA10の最も特徴的な点は、てんかん発作を高頻度に合併することです。他の多くのSCAでは、てんかんの合併は稀ですが、SCA10では約50~80%の患者にてんかん発作が認められると報告されています。このため、運動失調とてんかんの両方を呈する患者では、SCA10の可能性を考慮する必要があります。
遺伝形式
常染色体優性遺伝形式をとるため、患者の子どもが本疾患を発症する確率は50%です。また、世代を経るごとにリピート数が増加し、発症年齢が若年化したり症状が重症化したりする表現促進現象(anticipation)が認められることがあります。
ミネルバクリニックのATXN10リピート伸長解析遺伝子検査の特徴
「ATXN10リピート伸長解析遺伝子検査」とは、脊髄小脳失調症10型(SCA10)の原因として知られるATXN10遺伝子のATTCTペンタヌクレオチドリピートの異常伸長を調べる検査です。
SCA10は日本では極めて稀な疾患ですが、小脳性運動失調とてんかん発作を併発する場合には、本疾患の可能性を考慮する必要があります。ミネルバクリニックでは、リピートプライムドPCR法とアンプリコン長解析により、正確なリピート伸長の検出を行います。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページ をご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で脊髄小脳失調症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。
当院では、ATXN10遺伝子のリピート伸長解析をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える脊髄小脳失調症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。
当院で行う「ATXN10リピート伸長解析遺伝子検査」の場合、約2週間で結果を知ることが可能です。
検査内容
「ATXN10リピート伸長解析遺伝子検査」では、ATXN10遺伝子のイントロン9内に存在するATTCTペンタヌクレオチドリピートの異常伸長を検出します。正常では10~22回程度のリピートが、SCA10患者では800~4,500回以上に伸長していることが特徴です。
検査はリピートプライムドPCR(rpPCR)法とアンプリコン長解析により実施され、リピートの異常伸長を高感度に検出することができます。
どんな人が受けたらいいの?
【脊髄小脳失調症10型の個人歴または家族歴のある方】に
「ATXN10リピート伸長解析遺伝子検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・小脳性運動失調の症状がある方
・歩行時のふらつきや転倒が頻繁にある方
・構音障害(ろれつが回らない)がある方
・運動失調とてんかん発作の両方を呈する方
・眼球運動障害がある方
・手足の細かい動作が困難な方
・脊髄小脳失調症の家族歴がある方(特にSCA10)
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
この検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、脊髄小脳失調症10型の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。特に、てんかん発作を合併している場合には、適切な抗てんかん薬の選択や管理が可能になります。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・てんかん発作の適切な管理
・リハビリテーションの計画立案
・嚥下機能の評価と誤嚥予防
・転倒予防のための環境整備
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
常染色体優性遺伝形式のため、患者の子どもが本疾患を発症するリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
詳しくはこちら
ATXN10 ( 1遺伝子 )
遺伝子の詳細:
・ATXN10遺伝子:
第22番染色体長腕(22q13.31)に位置する遺伝子。アタキシン10というタンパク質をコードしており、細胞分裂における細胞質分裂に関与していると考えられています。イントロン9内のATTCTペンタヌクレオチドリピートが異常伸長することにより、脊髄小脳失調症10型(SCA10)を引き起こします。正常では10~22回のリピートですが、患者では800~4,500回以上に伸長しています。本リピート伸長はRNAレベルで細胞機能障害を引き起こすと考えられています(RNAリピート病)。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能 です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
詳しくはこちら
すべてのリピート伸長解析には限界があります。この分析はリピートプライムドPCR(rpPCR)法とアンプリコン長解析により実施されます。本検査の範囲は、ATXN10遺伝子のリピート伸長解析に限定されます。
このリピート伸長解析では、大規模な伸長が存在する場合、正確なリピート数を明らかにできない可能性があります。遺伝子の塩基配列決定および欠失・重複解析は本検査に含まれていませんが、別途ご注文いただけます。本解析にはメチル化研究は含まれていません。
リピートプライムドPCR法は、リピート伸長の検出に高い感度を示しますが、正確なリピート数の定量には限界があります。特に非常に大きな伸長(数千リピート以上)の場合、正確な数を決定することは技術的に困難な場合があります。
※この検査では、ATXN10遺伝子のリピート伸長のみを対象としています。他のタイプの脊髄小脳失調症(SCA1、SCA2、SCA3など)の検査が必要な場合は、別途ご相談ください。
結果が出るまでの期間
料金
税込み220,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
小脳性運動失調の症状(歩行時のふらつき、転倒、ろれつが回らない、手足の動きがぎこちないなど)がある方、特に運動失調とてんかん発作の両方を呈する方に検査をおすすめします。また、脊髄小脳失調症の家族歴がある場合も検査をご検討ください。
検査はどのように行いますか?
血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
家族も検査を受ける必要がありますか?
脊髄小脳失調症10型は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者の子どもが本疾患を発症するリスクは50%です。また、表現促進現象により、世代を経るごとに発症年齢が若年化したり症状が重症化したりする可能性があります。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
この検査ではATXN10遺伝子のリピート伸長のみを対象としています。検査で異常が検出されなくても、他のタイプの脊髄小脳失調症(SCA1、SCA2、SCA3、SCA6など)や、他の神経変性疾患の可能性があります。主治医と相談して、必要に応じて追加の遺伝子検査を受けることが重要です。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み220,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。ただし、診断確定後は指定難病制度により医療費助成を受けられる可能性があります。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
脊髄小脳失調症10型は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者のお子さんが疾患を発症する確率は50%です。また、表現促進現象により、次世代でより若年発症や重症化する可能性があります。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
脊髄小脳失調症10型の治療はどのように行われますか?
現時点では根本的な治療法は確立されていませんが、対症療法により症状の軽減を図ります。リハビリテーション(理学療法、作業療法、言語療法)、てんかん発作に対する抗てんかん薬、転倒予防のための環境整備、嚥下機能評価と誤嚥予防などを総合的に行います。早期診断により適切な管理計画を立てることが重要です。
SCA10は日本では稀と聞きましたが、検査は必要ですか?
確かに日本ではSCA10の報告例は極めて少ないですが、運動失調とてんかん発作の両方を呈する場合には、SCA10の可能性を考慮する必要があります。また、近年のグローバル化により、メキシコや南米にルーツを持つ方も増えており、これらの地域ではSCA10が比較的多く報告されています。症状や家族歴から疑われる場合には、検査をご検討ください。
他の医療機関での検査との違いは何ですか?
当院ではATXN10遺伝子のリピート伸長解析を、リピートプライムドPCR法とアンプリコン長解析により高精度に実施します。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも検査を受けることが可能です。結果は約2週間で得られ、専門的な遺伝カウンセリングにより詳しくご説明いたします。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得 して以来、のべ10万人以上 のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら