(更新日:2025/09/30)
ATXN1リピート伸長解析遺伝子検査(脊髄小脳失調症1型)|ミネルバクリニック
脊髄小脳失調症1型(SCA1)とは
脊髄小脳失調症1型(Spinocerebellar Ataxia type 1: SCA1)は、第6染色体短腕に位置するATXN1遺伝子内のCAGリピートが異常伸長することにより発症する常染色体優性遺伝の神経変性疾患です。
SCA1は常染色体優性遺伝形式をとる小脳性運動失調症の中で最初に原因遺伝子座・遺伝子異常が同定された疾患であり、遺伝性脊髄小脳変性症の発症機序・病因遺伝子探究のあゆみはSCA1からはじまったといえます。1993年にミネソタ大学のHarry T. Orrとベイラー大学のフーダ・ゾービらにより原因遺伝子ATXN1が発見され、ATXN1遺伝子内のCAGリピートの異常伸長が原因と判明しました。
本疾患はポリグルタミン病の一つであり、ハンチントン病や球脊髄性筋萎縮症と同様のメカニズムで神経細胞が障害されます。CAGリピートの異常伸長により合成される異常に長いポリグルタミン鎖が神経細胞に毒性を示し、小脳をはじめとする神経系統の変性を引き起こします。
症状と病態
SCA1は30~40歳代に発症することが多く、発症年齢は4歳から74歳と大きなばらつきがあります。多くのポリグルタミン病と同様に、CAGリピートの伸長と発症年齢には負の相関があり、リピート数が多いほど若年で発症し、症状の進行も早い傾向があります。
主要症状
歩行障害などの小脳性運動失調(初発症状として最も多い)
失調性歩行(ふらふら歩行)
構音障害(呂律が回らない、とぎれとぎれで不明瞭な会話)
協調運動障害(測定障害、運動分解、企図振戦)
緩徐眼球運動(眼の動きが遅くなる)
眼振(眼球の振るえ)
嚥下障害
腱反射亢進
痙性(筋肉のつっぱり)
多系統障害
SCA1は小脳症状だけでなく、小脳以外の神経系統も障害される多系統障害型の特徴を示します:
錐体路徴候(腱反射亢進、痙性)が目立つ(SCA2やSCA3に比べて特徴的)
錐体外路障害(パーキンソニズム、固縮、寡動など)
認知機能障害
自律神経障害(排尿障害、起立性低血圧など)
末梢神経障害
若年発症例の特徴
CAGリピート伸長が高度な若年発症例では、以下の特徴がみられます:
基底核症状が目立つ
脳幹症状が顕著
筋萎縮の進行
急速な症状の進行(4~8年の短い罹患期間)
臨床経過
過去の分類法では遺伝性オリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)、Menzel型遺伝性脊髄小脳変性症に該当します。頭部MRIやCTでは小脳や脳幹の萎縮が認められ、多系統障害では大脳にも病変を認めることがあります。症状は緩徐に進行し、発症後平均15年程度で車椅子が必要になることが多いとされています。
ミネルバクリニックのATXN1リピート伸長解析遺伝子検査の特徴
「ATXN1リピート伸長解析遺伝子検査」とは、脊髄小脳失調症1型(SCA1)の原因であるATXN1遺伝子内のCAGリピートの異常伸長を検出する検査です。
本検査では、repeat-primed PCR(rpPCR)とアンプリコン長解析という高精度の技術を用いて、CAGリピートの数を測定します。正常なCAGリピート数の上限は39回程度とされており、これを超えた場合に疾患の可能性を示唆します。
遺伝性脊髄小脳変性症の確定診断には遺伝子検査が不可欠であり、早期の診断により適切な治療・管理方針の決定、家族計画への情報提供、症状の進行予測が可能になります。
一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページ をご覧ください。
1.費用がリーズナブル
一般的な医療機関で脊髄小脳失調症の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに高額な費用がかかることがあります。
当院では、ATXN1遺伝子のリピート伸長解析をリーズナブルな料金で受けることができます。(費用はページの一番下をご確認ください。)
2.結果が出るまでがはやい
一般的な医療機関で行える脊髄小脳失調症の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。
当院で行う「ATXN1リピート伸長解析遺伝子検査」の場合、約2週間で結果を得ることが可能です。
3.高精度な検査技術
本検査では、repeat-primed PCR(rpPCR)とアンプリコン長解析を用いて、CAGリピートの異常伸長を高精度に検出します。この技術により、診断に必要な情報を正確に提供できます。
オプション
検査内容
「ATXN1リピート伸長解析遺伝子検査」では、ATXN1遺伝子内のCAGリピートの異常伸長を検出します。
この検査は脊髄小脳失調症1型(SCA1)の遺伝的原因を特定し、診断の確定、適切な治療・管理方針の決定、将来的なリスク評価に重要な情報を提供します。
どんな人が受けたらいいの?
【脊髄小脳失調症の個人歴または家族歴のある方】に
「ATXN1リピート伸長解析遺伝子検査」を受けることをおすすめします。
この検査は以下のような方に適しています:
・歩行時のふらつきや小脳性運動失調症状がある方
・構音障害(呂律が回らない)がある方
・協調運動障害(手足の動きがぎこちない)がある方
・腱反射亢進や痙性(筋肉のつっぱり)がある方
・緩徐眼球運動や眼振がある方
・嚥下障害がある方
・家族に脊髄小脳失調症の方がいる方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方
このリピート伸長解析検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。
検査で得られる患者さんの潜在的利益は?
遺伝子検査により原因が判明すると、脊髄小脳失調症1型の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、予防的な対応や定期的なモニタリングを行うことができます。
遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・症状の進行予測
・リハビリテーション計画の最適化
・嚥下障害や呼吸障害への早期対応
・薬物療法の選択(症状緩和のため)
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供
患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体優性遺伝形式のため、お子さんが同じ疾患を発症するリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。
対象遺伝子
詳しくはこちら
ATXN1 ( 1遺伝子 )
遺伝子の詳細:
・ATXN1遺伝子:
第6染色体短腕に位置し、アタキシン1というタンパク質をコードする遺伝子。この遺伝子内のCAGリピートが正常では6~44回であるのに対し、39回を超えると病的意義を持つとされます。CAGリピートの異常伸長により合成される異常に長いポリグルタミン鎖が神経細胞に毒性を示し、小脳をはじめとする神経系統の変性を引き起こします。リピート数が多いほど若年で発症し、症状の進行も早い傾向があります。
検体
血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)
※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能 です。
ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。
検査の限界
詳しくはこちら
すべてのリピート伸長解析には限界があります。この分析はrepeat-primed PCR(rpPCR)とアンプリコン長解析により実施されます。
本検査の範囲はATXN1遺伝子のリピート伸長解析に限定されています。このリピート伸長解析では、大規模な伸長がある場合、正確なリピート数を確定できない場合があります。
遺伝子の塩基配列決定(シーケンシング)や欠失・重複解析は本検査には含まれていませんが、別途注文することが可能です。また、本解析にはメチル化研究は含まれていません。
※この検査では、ATXN1遺伝子のリピート伸長のみを対象としています。他の型の脊髄小脳失調症(SCA2、SCA3、SCA6など)の検査が必要な場合は、別途ご相談ください。
結果が出るまでの期間
料金
税込み220,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)
よくあるご質問
どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
歩行時のふらつきや小脳性運動失調症状、構音障害(呂律が回らない)、協調運動障害(手足の動きがぎこちない)、腱反射亢進や痙性(筋肉のつっぱり)、緩徐眼球運動、嚥下障害などがある方におすすめします。また、家族に脊髄小脳失調症の方がいる場合も検査をご検討ください。
検査はどのように行いますか?
血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
家族も検査を受ける必要がありますか?
脊髄小脳失調症1型は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんのお子さんが同じ疾患を発症するリスクは50%です。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
この検査ではSCA1のみを対象としています。検査で病原性変異が検出されなくても、他の型の脊髄小脳失調症(SCA2、SCA3、SCA6など)の可能性があります。主治医と相談して、必要に応じて追加の遺伝子検査を受けることが重要です。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み220,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。ただし、診断確定後は指定難病制度により医療費助成を受けられる可能性があります。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。CAGリピート数の意味、診断の確定性、今後の症状の進行予測、ご家族への影響、治療選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
脊髄小脳失調症1型は常染色体優性遺伝形式をとるため、患者さんのお子さんが疾患を発症する確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
脊髄小脳失調症1型の治療はどのように行われますか?
現在、根本的な治療法はありませんが、症状に応じた対症療法が行われます。リハビリテーション(理学療法、作業療法、言語療法)が症状の進行を緩やかにする効果があります。また、薬物療法により小脳失調症状を軽減できる場合があります。嚥下障害や呼吸障害に対する適切な管理も重要です。
予後はどうですか?
発症後平均15年程度で車椅子が必要になることが多いとされています。CAGリピート数が多いほど若年で発症し、症状の進行も早い傾向があります。適切なリハビリテーションと症状管理により、生活の質を維持することが重要です。
他の医療機関での検査との違いは何ですか?
当院ではrepeat-primed PCR(rpPCR)とアンプリコン長解析という高精度の技術を用いて、約2週間という短期間で結果を提供できます。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも検査を受けることが可能です。また、専門的な遺伝カウンセリングにより、検査結果の意味や今後の対応について丁寧にご説明いたします。
プロフィール
この記事の筆者:仲田洋美(医師)
ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得 して以来、のべ10万人以上 のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。
仲田洋美のプロフィールはこちら