InstagramInstagram

ADULT症候群(先端皮膚爪涙腺歯症候群)遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック

ADULT症候群(先端皮膚爪涙腺歯症候群)遺伝子パネル検査|ミネルバクリニック

ADULT症候群とは

ADULT症候群(Acro-Dermato-Ungual-Lacrimal-Tooth syndrome:先端皮膚爪涙腺歯症候群)は、外胚葉異形成症の一種である稀な遺伝性疾患です。「ADULT」は、本症候群の主要な症状の頭文字をとった略語で、Acro(先端部)、Dermato(皮膚)、Ungual(爪)、Lacrimal(涙腺)、Tooth(歯)を表しています。

本疾患は常染色体優性(顕性)遺伝形式をとり、TP63遺伝子の変異により発症します。TP63遺伝子は外胚葉組織の発達に重要な役割を果たす転写因子をコードしており、この遺伝子の変異は外胚葉由来の組織(皮膚、毛髪、爪、歯、汗腺など)に広範な影響を及ぼします。

ADULT症候群は、EEC症候群(裂手裂足・外胚葉異形成・口唇口蓋裂症候群)、AEC症候群(眼瞼癒着・外胚葉異形成・口唇口蓋裂症候群)、四肢乳房症候群などとともに、TP63関連外胚葉異形成症群に分類されます。これらの疾患は臨床的にオーバーラップすることがありますが、ADULT症候群では口唇口蓋裂を伴わないことが重要な鑑別点です。ADULT症候群は非常に稀な疾患で、世界中でも報告例は限られています。

症状と病態

ADULT症候群の症状は多岐にわたり、患者さんによって症状の程度や組み合わせが異なります。主要な5つの特徴(手足の先端部異常、皮膚異常、爪の異常、涙管異常、歯の異常)に加えて、その他の外胚葉組織の異常も認められます。

主要症状

  • 手足の先端部異常(Acro):指趾の奇形、合指症、裂手裂足、短指症、第5指の内反変形などが認められます
  • 皮膚異常(Dermato):過度のそばかす(特に顔面)、皮膚の菲薄化、皮膚の治癒不良、色素沈着異常が特徴的です
  • 爪の異常(Ungual):爪の形成異常、爪の肥厚、爪の脆弱性、爪の欠損などが認められます
  • 涙管異常(Lacrimal):涙管閉塞または狭窄により、涙目、慢性的な流涙、涙嚢炎、結膜炎を繰り返すことがあります
  • 歯の異常(Tooth):歯の欠損(部分性無歯症)、歯の形成不全、小さな歯(矮小歯)が認められます

その他の特徴的症状

  • 乳房・乳頭の異常:乳房低形成、無乳頭症、乳頭の低形成が認められることがあります
  • 発汗異常:発汗減少により、体温調節が困難になることがあります
  • 毛髪の異常:頭髪や体毛が薄く、疎な状態になることがあります
  • 皮膚の脆弱性:皮膚が薄く、機械的に弱いため、外傷により治癒不良をきたしやすくなります

症状の多様性

ADULT症候群の臨床症状は、同じ遺伝子変異を持つ家族内でも異なることがあり、表現型の多様性が特徴です。軽度の症例では、そばかすや軽度の爪の異常のみが認められる場合もありますが、重度の症例では複数の臓器系に顕著な異常が認められます。

生活への影響

ADULT症候群の患者さんは、涙管閉塞による慢性的な流涙や眼の感染症、歯の欠損による咀嚼困難、手指の奇形による巧緻運動障害などにより、日常生活に支障をきたすことがあります。また、過度のそばかすや皮膚の異常は、日光に対する感受性を高めることがあり、皮膚保護が重要となります。

遺伝形式と原因遺伝子

ADULT症候群は常染色体優性(顕性)遺伝形式をとり、主にTP63遺伝子の変異により発症します。患者さんの親のいずれかが同じ変異を持っていることが多いですが、約半数の症例では新生突然変異により発症します。

TP63遺伝子

TP63遺伝子は染色体3q28に位置し、p63タンパク質をコードしています。p63は転写因子として機能し、皮膚、四肢、歯、涙腺、乳腺など、多くの臓器の外胚葉組織の発達に重要な役割を果たしています。

  • ADULT症候群の原因となるTP63遺伝子変異は、主にSAMドメイン(sterile alpha motif domain)に集中しています
  • 現在までに、ADULT症候群に関連する複数のTP63遺伝子変異が報告されています
  • 同じTP63遺伝子の異なる部位の変異は、EEC症候群、AEC症候群、四肢乳房症候群など、異なる表現型を引き起こします

CDH3遺伝子

近年の研究により、CDH3遺伝子の変異もADULT症候群様の表現型を引き起こすことが報告されています。CDH3遺伝子はP-カドヘリンをコードし、細胞接着に関与するタンパク質を産生します。

遺伝カウンセリングの重要性

常染色体優性遺伝形式のため、患者さんのお子さんが変異を受け継ぐ確率は50%です。ただし、表現型の多様性により、同じ遺伝子変異を持っていても症状の程度は異なることがあります。家族計画を考える際には、遺伝カウンセリングが重要です。出生前診断や着床前診断などの選択肢についてもご相談いただけます。

ミネルバクリニックのADULT症候群遺伝子パネル検査の特徴

「ADULT症候群 NGSパネル検査」とは、現在ADULT症候群の原因として報告されている2つの遺伝子(TP63、CDH3)に異常があるかどうかを、一度に調べられる検査方法です。

従来の検査方法の場合、複数の関連遺伝子を調べるために、A遺伝子の検査をして異常がなければ次にB遺伝子を検査する、というように何度も検査する必要がありました。もちろん、検査のたびに高額な料金がかかります。

何度も検査することでかかる費用や手間は、患者さんにとって大きな負担になります。ミネルバクリニックではそうした不便を解消するために、ADULT症候群に関連する2遺伝子を一度に調べられる「ADULT症候群 NGSパネル検査」を採用しています。

一般的な遺伝子検査のメリットとデメリットについてはこちらのページをご覧ください。

1.費用がリーズナブル

一般的な医療機関でADULT症候群の遺伝子検査を行う場合、単一遺伝子ごとに数万円から数十万円の費用がかかることが多く、複数の遺伝子を調べる場合は非常に高額になります。

当院では、ADULT症候群に関係するとされる2つの遺伝子を一度に調べられる「ADULT症候群 NGSパネル検査」をリーズナブルに受けられます。(費用はページの一番下をご確認ください。)

2.結果が出るまでがはやい

一般的な医療機関で行えるADULT症候群の遺伝子検査の場合、結果が出るまでには通常数週間から数ヶ月かかることがあります。また、単一遺伝子の検査で異常が見つからなかった場合、追加の遺伝子検査が必要になることもあります。

当院で行う「ADULT症候群 NGSパネル検査」の場合、2つの遺伝子を、2~3週間程度で一度に調べることが可能です。

3.一気にまとめてできる

臨床症状からADULT症候群を疑って単一遺伝子検査を行っても、病的変異が見つからないことがあります。また、他の遺伝子に変異があるかどうかまでは分かりません。

当院で行う「ADULT症候群 NGSパネル検査」ならば、臨床的に重要な2つの原因遺伝子を同時に検査できるという利点があります。

オプション

塩基配列 (料金に含まれる)
欠失・挿入 (料金に含まれる)
至急:結果が出るまでの期間が約7日短くなります。 33,000円
VUS除外 *VUS(variant of unknown significance)とは病的意義がよく分かっていない変異の事を指します。(無料)

検査内容

「ADULT症候群 NGSパネル検査」では、ADULT症候群に関係するとされる2種類の遺伝子(TP63、CDH3)をまとめて検査します。

「ADULT症候群 NGSパネル検査」は、ADULT症候群の遺伝的原因をお持ちの方を見つける可能性を高められると同時に、現在および将来的に活用できる情報を提供します。

どんな人が受けたらいいの?

【ADULT症候群の個人歴または家族歴のある方】に
「ADULT症候群 NGSパネル検査」を受けることをおすすめします。

この検査は以下のような方に適しています:
・手足の指に奇形(合指症、裂手裂足、短指症など)がある方
・過度のそばかすや皮膚の色素沈着異常がある方
・爪の形成異常(肥厚、脆弱性、欠損など)がある方
・涙管閉塞により慢性的な流涙や眼の感染症を繰り返す方
・歯の欠損や歯の形成不全がある方
・乳房や乳頭の低形成・欠損がある方
・発汗減少がある方
・薄い毛髪や疎な体毛がある方
・ADULT症候群または類似のTP63関連外胚葉異形成症の家族歴がある方
・将来子どもを持つことを考えている保因者の方で、リスク評価を希望される方

このパネル検査は、血液、抽出DNA、頬粘膜スワブ、または唾液検体で実施可能です。モザイク現象の検出は目的としておらず、腫瘍組織での検査は適応外です。

検査で得られる患者さんの潜在的利益は?

遺伝子検査により原因が判明すると、ADULT症候群の診断確定や、適切な治療・管理方針の決定に役立ちます。また、リスクが判明した場合には、適切な症状管理、定期的なモニタリング、合併症の予防を行うことができます。

遺伝子検査により以下の利益が期待できます:
・適切な診断の確立または確認
・他のTP63関連外胚葉異形成症との鑑別
・涙管閉塞に対する適切な治療計画の立案
・歯科的介入(補綴、インプラント、歯科矯正)の計画
・皮膚保護と日光暴露管理の指導
・発汗減少による体温調節障害への対策
・手指奇形に対する整形外科的治療の適応判断
・追加の関連症状のリスクの特定
・関連リソースやサポートへの患者の接続
・より個別化された治療と症状管理
・家族の危険因子に関する情報提供
・家族計画のためのオプション提供
・出生前・着床前診断の選択肢提供

患者さんで病原性変異が同定された場合、常染色体優性遺伝のため、お子さんが変異を受け継ぐリスクは50%です。家族を検査することでそのリスクを明らかにすることが重要です。

対象遺伝子

詳しくはこちら

CDH3, TP63 ( 2遺伝子 )

各遺伝子の詳細:
・TP63遺伝子:
染色体3q28に位置し、p63タンパク質をコードする遺伝子。p63は転写因子として機能し、外胚葉組織の発達に重要な役割を果たします。皮膚、四肢、歯、涙腺、乳腺などの器官形成に関与しています。ADULT症候群では、主にSAMドメイン(sterile alpha motif domain)の変異が報告されています。TP63遺伝子の変異は、変異部位により、EEC症候群、AEC症候群、四肢乳房症候群、ラップ・ホジキン症候群など、異なる外胚葉異形成症を引き起こします。ADULT症候群の最も頻度の高い原因遺伝子です。

・CDH3遺伝子:
P-カドヘリン(Placental cadherin)をコードする遺伝子。カドヘリンは細胞間接着分子のファミリーで、細胞同士の接着や組織の形成に重要な役割を果たします。P-カドヘリンは特に皮膚、毛包、歯の発達に関与しています。近年の研究により、CDH3遺伝子の変異もADULT症候群様の表現型を引き起こすことが報告されており、低汗性外胚葉異形成症や爪の形成異常を伴う症例が知られています。

カバレッジ

カバレッジとは、遺伝子検査においてDNA配列がどの程度正確に読み取られたかを示す指標です。「20x」は同じ部位を20回読み取ることを意味し、読み取り回数が多いほど検査の精度が高くなります。

≥99% at 20x(読み取り深度20回以上)
これは、検査対象遺伝子の99%以上の領域を、20回以上の高い精度で読み取ることができることを示しています。

検体

血液(EDTAチューブ4ml×2本、紫色キャップ)、抽出DNA(EBバッファー中3μg)、頬粘膜スワブ、唾液(要請により採取キット提供)

※唾液・口腔粘膜擦過組織・血液いずれもオンライン診療が可能です。
 ほとんどの検査は唾液・口腔粘膜擦過組織で実施できます。
 血液検体の場合は、全国の提携医療機関で採血をお願いします。
 オンライン診療(ビデオ通話での診療)で遺伝カウンセリングを行った後、検体を当院にお送りいただく流れとなります。
 検体採取キットは検査料金をお支払いいただいた後にお送りいたします。ご自身で勝手に検体を採取しないでください。

検査の限界

詳しくはこちら

すべての配列決定技術には限界があります。この分析は次世代シーケンシング(NGS)により実施され、コード領域とスプライス接合部の検査を目的として設計されています。次世代シーケンシング技術と当院のバイオインフォマティクス分析により、偽遺伝子配列やその他の高度に相同な配列の寄与は大幅に減少しますが、これらは配列決定および欠失/重複分析の両方において病原性変異体対立遺伝子を同定するアッセイの技術的能力を時に妨げる可能性があります。

低品質スコアの変異確認および被覆標準を満たすためにサンガー配列決定が使用されます。注文された場合、欠失/重複分析は、1つの完全な遺伝子(頬粘膜スワブ検体および全血検体)および2つ以上の連続するエキソンサイズ(全血検体のみ)のゲノム領域の変化を同定できます。単一エキソンの欠失または重複が時に同定される場合がありますが、この検査では日常的に検出されません。同定された推定欠失または重複は、直交法(qPCRまたはMLPA)により確認されます。

この検査では、疾患を引き起こす可能性がある特定のタイプのゲノム変化は検出されません。これには、転座や逆位、反復伸長(例:三塩基またはヘキサ塩基)、ほとんどの調節領域(プロモーター領域)または深部イントロン領域(エキソンから20bp以上)の変化が含まれますが、これらに限定されません。この検査は体細胞モザイクまたは体細胞変異の検出を目的として設計または検証されていません。

※この検査パネルでは、2つの原因遺伝子のみを対象としています。検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。また、他の未知の遺伝子変異や、検出されないタイプの変異が存在する可能性があります。

結果が出るまでの期間

2~3週間
※至急オプションを利用すると、結果が出るまでの期間が約7日短くなります。

料金

税込み275,000円
遺伝カウンセリング料金は別途30分16,500円(税込)

よくあるご質問

どのような症状があれば検査を受けるべきですか?
ADULT症候群の主要な5つの特徴(手足の先端部異常、過度のそばかす、爪の形成異常、涙管閉塞、歯の欠損)のうち、複数の症状がある方におすすめします。特に、家族に同様の症状がある場合や、他のTP63関連外胚葉異形成症(EEC症候群、AEC症候群など)との鑑別が必要な場合に有用です。
検査はどのように行いますか?
血液採取(4ml×2本)または唾液・頬粘膜スワブで検査可能です。唾液や頬粘膜の場合はオンライン診療も可能で、遠方の方でもクリニックにお越しいただかずに検査を受けられます。
他のTP63関連外胚葉異形成症との違いは何ですか?
ADULT症候群は、EEC症候群やAEC症候群と同じTP63遺伝子の変異により発症しますが、口唇口蓋裂を伴わないことが重要な鑑別点です。また、EEC症候群では裂手裂足がより顕著で、AEC症候群では眼瞼癒着が特徴的です。遺伝子検査により変異部位を特定することで、より正確な診断が可能になります。
家族も検査を受ける必要がありますか?
常染色体優性遺伝のため、患者さんのお子さんが変異を受け継ぐリスクは50%です。ただし、表現型の多様性により、同じ遺伝子変異を持っていても症状の程度は異なることがあります。ご家族の検査により、将来の家族計画に重要な情報を提供できます。
検査で異常が見つからなかった場合はどうなりますか?
検査で病原性変異が検出されなくても、疾患を完全に否定することはできません。他の未知の遺伝子変異や、この検査では検出されないタイプの変異が存在する可能性があります。臨床症状に基づいた診断と管理が引き続き重要です。
保険は適用されますか?
当検査は自費診療となり、保険適用外です。費用は税込み275,000円、別途遺伝カウンセリング料金(30分16,500円)が必要です。
結果はどのように説明されますか?
検査結果は遺伝カウンセリングにて詳しくご説明いたします。結果の意味、今後の対応、ご家族への影響、治療・管理選択肢などについて、専門的な観点から分かりやすくお伝えします。
子どもや将来の妊娠への影響はありますか?
常染色体優性遺伝のため、患者さんのお子さんが変異を受け継ぐ確率は50%です。検査結果により、出生前診断や着床前診断など、将来の家族計画についてもご相談いただけます。
ADULT症候群の治療はどのように行われますか?
現在のところ根本的な治療法はありませんが、症状に応じた対症療法が行われます。涙管閉塞に対する涙管形成術、歯科補綴やインプラント、手指奇形に対する整形外科的治療、皮膚保護のための日光暴露管理、発汗減少に対する体温調節の工夫などが含まれます。
予後はどうですか?
ADULT症候群は生命予後に大きく影響することは通常ありません。適切な症状管理により、多くの患者さんは通常の生活を送ることができます。ただし、慢性的な流涙、歯の問題、手指の奇形などにより、生活の質に影響が出ることがあります。
他の医療機関での検査との違いは何ですか?
当院では臨床的に重要な2つの原因遺伝子を一度に検査でき、従来の単一遺伝子検査と比べて費用・時間を短縮できます。また、臨床遺伝専門医が常駐しており、すべての患者さんに対して専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行います。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでも専門的な診療を受けることが可能です。


プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、1995年に医師免許を取得して以来、のべ10万人以上のご家族を支え、「科学的根拠と温かなケア」を両立させる診療で信頼を得てきました。『医療は科学であると同時に、深い人間理解のアートである』という信念のもと、日本内科学会認定総合内科専門医、日本臨床腫瘍学会認定がん薬物療法専門医、日本人類遺伝学会認定臨床遺伝専門医としての専門性を活かし、科学的エビデンスを重視したうえで、患者様の不安に寄り添い、希望の灯をともす医療を目指しています。

仲田洋美のプロフィールはこちら