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18番染色体異常の完全ガイド:18トリソミー・欠失症候群の症状・予後と最新治療

18番染色体異常の完全ガイド:18トリソミー・欠失症候群の症状・予後と最新治療

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

ヒトのゲノムの中で、18番染色体は全DNAの約2.5%を占め、300〜500の重要な遺伝子を含んでいます。この18番染色体に「数の異常(トリソミー)」や「構造の異常(欠失や環状)」が起こると、胎児期からの発育や出生後の発達、心臓などの重要臓器に広範かつ重大な影響を及ぼします。

歴史的に、18番染色体の異常(特に18トリソミー)は一貫して「致死的な疾患」と見なされ、積極的な医療介入の対象外とされることが多くありました。しかし近年、新生児集中治療の進歩や、マイクロアレイ検査(CMA)による精緻な遺伝子解析の普及により、そのパラダイム(常識)は根本から覆されつつあります。

本記事では、発生頻度が最も高い18トリソミー(エドワーズ症候群)の病態や最新のガイドラインに基づく予後から、微小欠失である18p欠失症候群・18q欠失症候群の責任遺伝子と症状の深い相関、そして非常に希少な環状18番染色体のモザイクメカニズムまで、臨床遺伝専門医の視点で徹底的に解説します。ご家族が正しい知識を持ち、後悔のない選択をするための一助となれば幸いです。

1. 18番染色体異常の全体像と発生頻度

18番染色体の異常は、過剰な遺伝物質が存在する「トリソミー」と、遺伝物質が欠落する「モノソミー(欠失)」に大別されます。ひとくちに18番染色体の異常といっても、どの領域が、どのくらい過不足しているかによって、重症度や生命予後は全く異なります

以下の表は、主要な18番染色体異常における「推定出生頻度」と「臨床的予後・特徴」をまとめたものです。18トリソミーは発生頻度が高い一方で生存の壁が厚く、逆に欠失症候群は非常に稀ですが長期生存が可能なケースが多いという対照的な特徴を持っています。

症候群名 推定出生頻度 予後リスク・主な特徴
18トリソミー
(エドワーズ症候群)
1/6,000人 新生児・乳児期の死亡リスクが非常に高い。約50%が1週間以上生存、1年以上生存は5〜10%に留まる。主な死因は中枢性無呼吸や心不全。
18q欠失症候群 1/40,000人 先天異常、発達遅滞、学習障害のリスクが上昇。欠失する遺伝子領域により症状は異なるが、致死的な器官奇形がなければ長期生存が可能。
18p欠失症候群 1/50,000人 中等度から重度の精神発達遅滞を伴う。心臓や脳の奇形が重度な場合は発育不全となるが、成人期まで生存し自立した生活を送るケースも多い。
環状18番染色体
(Ring 18)
1/300,000人 18pと18qの欠失が組み合わさる超希少疾患。モザイク型も含め患者の遺伝的背景が異なるため、症状や重症度は非常に多様(ヘテロジニアス)。

2. 18トリソミー(エドワーズ症候群)の病態生理と臨床像

18トリソミー(エドワーズ症候群)は、ダウン症候群(トリソミー21)に次いで2番目に頻度の高い常染色体トリソミーです。生着出生率は約5,000人〜8,000人に1人と推定されていますが、胎内死亡や流産に至る頻度が極めて高いため、受胎時の全体的な有病率は約2,500人に1人と有意に高くなります。

遺伝学的メカニズム:完全型とモザイク型

この疾患の主な原因は、主に母親の卵子形成過程(減数分裂時)における染色体の不分離(nondisjunction)です。その結果、受精後の胎児は通常2本であるはずの18番染色体を3本(計47本)持って出生します。これが「フル・トリソミー18(完全型)」であり、全症例の約95%を占めます。

💡 遺伝・染色体の専門用語解説

● モザイク型トリソミー18(全症例の約5%)
受精後の初期胚発生時(体細胞分裂)に不分離が起こることで生じます。正常な2コピーの細胞株と、3コピーのトリソミー細胞株が個体内に混在している状態です。異常細胞の割合や分布する組織(中枢神経系に多いか、皮膚に多いか等)に応じて、表現型はフル・トリソミーと同様の重症例から、ほぼ正常な状態に至るまで極めて広範なバリエーションを示します。

● 再発リスク(反復リスク)
フル・トリソミー18が親からの遺伝ではなく孤発性(de novo)に発生した場合、次のお子さんで再発する確率は通常0.5%〜1%と低く、過度に心配する必要はありません(母体年齢の基礎リスクよりはわずかに高いとされます)。

多臓器にわたる臨床的特徴と重症度

トリソミー18は、ほぼ全ての臓器系に影響を及ぼす多系統疾患です。胎児期からの重度な発育遅延(胎児発育不全:IUGR)が特徴であり、出生後も身体の発育阻害が顕著で、重度の精神運動発達遅滞および知的障害が例外なく認められます。

器官系 主要な臨床所見・奇形 頻度・臨床的意義
頭蓋顔面 小頭症、特徴的な後頭部突出、両眼開離、眼瞼下垂、小顎症、低位に付着した変形耳介、口蓋裂・口唇裂 口蓋裂・口唇裂は5〜10%に見られ哺乳困難を増悪させる。顔貌の特徴は診断の重要な手がかりとなる。
骨格・四肢 握りこぶし(人差し指が中指に、小指が薬指に重なる)、揺り椅子状の足底(rocker-bottom feet)、内反尖足、関節拘縮 特徴的な手指の重なりは胎児超音波検査でも確認されやすい。関節・骨の異常は約10%に見られる。
心血管系 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)、多弁膜疾患、左心低形成症候群 90%以上に先天性心疾患が認められる。約10%では左心低形成など極めて重篤な奇形が存在し、主要な死因となる。
呼吸器・消化器 肺の低形成、上気道閉塞、重度の嚥下困難・摂食障害、腹壁異常(臍帯ヘルニア等)、消化管奇形 呼吸不全や誤嚥による呼吸器合併症が極めて多い。多くの場合、経腸栄養(経管栄養)を必要とする。
中枢神経系 中枢性無呼吸、重度の筋緊張低下およびその後の亢進、痙攣発作、重度の知的障害 脳が呼吸の指令を出さない「中枢性無呼吸」は致命的となり得る。
泌尿生殖器・他 腎奇形(馬蹄腎など)、難聴(約50%)、視覚異常、ウィルムス腫瘍・肝芽腫の発症リスク上昇 小児がん(腫瘍)のリスクが高いため、腹部超音波等による定期的なスクリーニングが必須となる。

3. トリソミー18の生命予後と倫理的パラダイムシフト

トリソミー18の主な死因は、心奇形に伴う心不全、中枢性無呼吸、誤嚥・上気道閉塞による呼吸不全、またはそれらの複合要因です。過去の文献において、この疾患が一貫して「致死的」と記述されてきた背景には、こうした重篤な臓器不全が存在します。

しかし、綿密なデータ分析によれば、生後1週間を生存する割合は約50%に達し、5%から10%の患児は1歳を超えて生存することが明らかになっています。さらに近年の後方視的コホート研究では、新生児集中治療室(NICU)での積極的な呼吸管理や、適応のある患児に対する心臓修復術・姑息術の実施によって、生存期間の中央値および1年生存率が有意に向上していることが示されています(※重度ではない心奇形に対して根治的アプローチを行った場合、生存確率が統計的に有意に上昇するというデータもあります)。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「無益な治療」からの脱却と、共有意思決定】

ここ数十年で最も劇的な変化を遂げたのは、医学的介入の「倫理的妥当性」に関するコンセンサスです。かつては、「致死的疾患」という診断ラベルに基づき、一律に緩和ケアのみが適応とされ、心臓手術や人工呼吸器の装着といった積極的治療は「無益な治療(medical futility)」として差し控えられてきました。

しかし、2024年から2025年にかけて、米国小児科学会(AAP)および米国胸部外科学会(AATS)は画期的なガイドラインを発表しました。トリソミー13および18を「生命に適合しない(incompatible with life)」と分類することを明確に否定したのです。遺伝学的診断のみを理由にして、生命維持治療や外科的介入を一律に拒否する倫理的根拠は存在しません。「適切な医療ケアが提供された場合、生存退院率が90%に達し、5年生存率が77%に上る」という近年のデータがその根底にあります。

とはいえ、過酷な延命治療を避ける「ペリネイタル・ホスピス(周産期緩和ケア)」も、依然としてご家族にとって重要な選択肢です。大切なのは、医療者側の先入観で方針を決めるのではなく、個々の患者様の病態とご家族の価値観に基づき、共に最善の道を探る「共有意思決定(Shared Decision-Making)」を実践することです。

4. 18番染色体部分トリソミーと「均衡型転座」の再発リスク

「部分トリソミー18」は、18番染色体全体ではなく、特定の染色体分節(通常はq腕またはp腕の一部)のみが3コピー存在する状態で、全トリソミー18の約2%未満を占めます。

長腕(18q)が広範囲に重複するとフル・トリソミーと区別がつかないほど重篤になりますが、短腕のみの重複(Trisomy 18p)は極めて稀であり、致死的な先天奇形も少なく、精神運動発達遅滞も軽度にとどまることが多いのが特徴です(生命予後も健常者に近いと考えられています)。

親の「均衡型転座」と高い再発率

部分トリソミーの発生メカニズムの多くは、親が保有する「均衡型転座(balanced translocation)」に起因します。

親の一方が、18番染色体の一部と他の染色体(例えば13, 14, 15, 21番など)との間で、遺伝物質の過不足なく位置を交換している場合(均衡型)、その親自身には全く症状が現れません。しかし、減数分裂時の不均等な分配により、胎児は余分な18番染色体分節を受け取る(不均衡型転座)ことになります。

⚠️ 次の妊娠における重大なリスク

フル・トリソミー18(突然変異)の再発リスクが1%未満であるのに対し、親が均衡型転座のキャリアである場合、不均衡型転座を持つ胎児が生じる再発リスクは最大20%に達します。また、流産を繰り返すリスク(23.26%〜47.18%と試算するモデルもあります)も極めて高くなります。部分トリソミーと診断された場合、ご両親の染色体検査(核型検査)を実施し、正確な遺伝カウンセリングを行うことが強く推奨されます。

5. 18p欠失症候群・18q欠失症候群(部分モノソミー)の深層

染色体の一部が欠落する微小欠失症候群は、過剰なトリソミーとは全く異なる臨床像を示します。最も重要な点は、「どの遺伝子が欠失したかによって症状がピンポイントで変わる(Genotype-Phenotype Correlation)」ということです。重篤な全前脳胞症や心奇形を伴わない限り、生命予後はほぼ正常であり、成人期に達して自立した生活を送る患者様も報告されています。

💡 遺伝・染色体の専門用語解説

● 常染色体優性・劣性(顕性・潜性)
遺伝子の変異が親から引き継がれる際、対になる遺伝子の片方の異常だけで症状が出るものを「常染色体優性(顕性)」、両親から異常な遺伝子をそれぞれ受け継いだ場合にのみ発症するものを「常染色体劣性(潜性)」と呼びます。

● ヘテロ接合性喪失(ハプロ不全 / haploinsufficiency)
遺伝子は通常ペア(2コピー)で機能しますが、欠失により1コピー失われ、残った1コピーだけでは十分なタンパク質を作り出せず、正常な機能を維持できなくなって疾患が引き起こされる状態を指します。微小欠失症候群の病態の核心です。

18p欠失症候群(de Grouchy症候群1型)

短腕(p腕)の欠失で、出生約5万人に1人の割合で発生します(全症例の約2/3は新規突然変異)。

  • 内分泌および成長障害: 成長ホルモン(GH)分泌不全が高頻度で認められ、低身長の主要因となります。
  • 神経認知機能: 軽度から中等度の知的障害を伴います。特に言語表出能力の遅延が顕著で、言葉の発達が運動機能の発達に比べて大きく遅れる「言語と手の動きの解離」が多く見られます。
  • 全前脳胞症(HPE)スペクトラム: 最も警戒すべき合併症です。約10〜15%で大脳半球の分離不全を特徴とする重篤な脳・顔面奇形が認められます。これは18p11.3領域のTGIF遺伝子のハプロ不全が関与しています。
  • 免疫・その他: IgAの低下による免疫異常、重度のう蝕(虫歯)、筋緊張低下。青年期以降のジストニア(DYT7遺伝子が関与)の報告もあります。

🔍 関連記事:より詳細な症状や管理方法については、18p欠失症候群の専門ページも併せてご覧ください。

18q欠失症候群と「TCF4遺伝子」の恐怖

長腕(q腕)の欠失は、約4万人に1人の出生頻度であり、大部分(約94%)がde novo(突然変異)です。欠失の切断点に応じて「遠位」と「近位」に大別されます。

  • 遠位18q欠失(Distal 18q-): 髄鞘(ミエリン)の主要構成タンパク質をコードするMBP遺伝子のハプロ不全により、髄鞘形成の遅延(dysmyelination)が生じ、筋緊張低下や不器用さが現れます。また、TSHZ1遺伝子の欠失による外耳道狭窄(伝音性難聴)が高確率で発生します。影響を受ける者の約75%が不安障害を、44%が外在化行動障害を呈し、自閉スペクトラム症(ASD)のリスクも高くなります。
  • 近位18q欠失(Proximal 18q-): より稀で、中等度〜重度の発達遅滞、円錐動脈幹心奇形などが特徴です。

TCF4遺伝子とPitt-Hopkins症候群スペクトラムへの移行
18q欠失において、最も生命予後と神経発達に劇的な悪影響を与えるのが、18q21.2に位置する「TCF4遺伝子」の有無です。TCF4遺伝子が欠失領域に含まれる場合、歩行や言語獲得が絶望的に遅れ(生後12ヶ月以上のマイルストーンに到達しないことが多い)、特有の顔貌、過呼吸と無呼吸の反復を示します。誤嚥性肺炎などによる早期死亡リスクが有意に高くなり、他の18q欠失患者とは全く異なる厳しい予後をたどります。

🔍 関連記事:特定の領域に関する詳細な解説は、18q22-q23微小欠失症候群の専門ページをご参照ください。

6. 超希少疾患:環状18番染色体(Ring 18)

環状染色体は、染色体の両端(p腕とq腕のテロメア領域)が欠失し、残された末端同士が結合してリング状の構造を形成することで生じます。発生頻度は約30万人に1人という超希少疾患です。

臨床症状は、基本的に18p欠失と18q欠失の症状がモザイク状に組み合わさったものとなり、小頭症、知的障害、低身長、耳道狭窄、口蓋裂、免疫機能障害、さらには18p特有のHPEスペクトラムなどが混在して現れます。

環状染色体の最大の特徴は、細胞分裂時の構造的不安定性から、高い確率(約半数の患者)で「体細胞モザイク」を引き起こすことです。すなわち、患者の体内には「完全に正常な細胞」「環状染色体を持つ細胞」「18番染色体が1本しかないモノソミー細胞」が混在しています。そのため表現型の重症度は患者ごとに極めて不均一(ヘテロジニアス)であり、完全に正常に近い細胞が多くを占める患者様の場合、極端に大きな重複変異を併発しない限り、生命予後は正常に近いと考えられています。

7. 出生前診断の最前線(NIPTからマイクロアレイまで)

遺伝子解析技術と超音波診断技術の飛躍的な進歩により、18番染色体異常の胎児期における検出率は劇的に向上し、ご両親に十分な情報提供と意思決定の猶予を与えています。

NIPT(非侵襲的出生前スクリーニング)

母体血中に混入した胎盤由来の微量なDNA断片(cfDNA)を解析するNIPTは、トリソミー13、18、21のスクリーニングにおいて極めて高い感度と特異度を誇ります。妊娠10週から実施可能ですが、あくまで「スクリーニングテスト」であり、胎盤性モザイクなどに起因する偽陽性の可能性も存在するため、米国産科婦人科学会(ACOG)が強調するように、NIPT陽性のみで不可逆的な決定を下してはならず、確定診断による確認が必須です。

確定診断のシフト:Gバンド法からCMAへ

確定診断には、絨毛検査や羊水穿刺による侵襲的検査によって胎児細胞を採取します。従来のGバンド分染法(標準核型分析)は、フル・トリソミーの特定には有効ですが、数メガベース単位以下の微小欠失(18p-や18q-)は顕微鏡レベルの解像度では見逃されるリスクが高いという弱点がありました。

これに代わり、現在のACOG等の最新ガイドラインで第一選択として強く推奨されているのがマイクロアレイ染色体検査(CMA)です。ゲノム全体のコピー数変異(CNV)を高解像度で網羅的にスキャンでき、欠失の正確なブレイクポイントを特定します。例えば、「致命的な影響をもたらすTCF4遺伝子が欠失に含まれているか」を胎児期に知ることで、大雑把な診断を超えた、より正確な予後予測と個別化された遺伝カウンセリングが実現します。

🔍 関連記事:確定検査の安全性や流れについては、羊水検査・絨毛検査の専門解説ページをご覧ください。

8. 臨床管理の最前線:プロアクティブな集学的ケア

18番染色体異常を有する患者様の管理は、単一の専門科では完結せず、小児科医、循環器医、神経内科医、内分泌医、リハビリテーション専門職による包括的な集学的アプローチ(Multidisciplinary approach)が不可欠です。

テキサス大学のChromosome 18 Clinical Research Centerは、過去30年以上にわたる自然歴データに基づき、症状が現れてから対処する対症療法から、ゲノムデータに基づき合併症を未然に防ぐ「プロアクティブ(先制的)なケア」への転換を提唱しています。

  • 循環器科: 出生直後からの心エコー。特に心機能は予後に直結するため早期介入が必須です。
  • 神経科・発達評価: 筋緊張異常や痙攣発作のスクリーニングと、早期療育(PT/OT/ST)への迅速なリファーラル。
  • 腹部超音波検査: 腎奇形の確認に加え、ウィルムス腫瘍や肝芽腫といった小児がんの早期発見のため、思春期まで定期的に行います。
  • 内分泌・免疫機能: 成長ホルモン分泌不全(18p-、18q-ともに高頻度)やIgA欠損に伴う免疫不全の定期採血。
  • 耳鼻咽喉科: 18q-に高頻度で見られる外耳道狭窄による伝音性難聴の評価。
仲田洋美院長

🩺 院長コラム【絶望ではなく、備えるための遺伝情報】

「18番染色体異常」という診断結果は、ご家族に言葉では言い表せないほどの衝撃を与えます。しかし、過去数十年で一律に「絶望的な予後」とされてきた時代は終わりを告げました。

現在では、マイクロアレイ検査により欠失や重複の正確な原因遺伝子が特定でき、極めて精緻な予後予測が可能となっています。私たち臨床遺伝専門医の役割は、このゲノム情報を「命の選別のツール」として扱うのではなく、赤ちゃんの合併症を未然に防ぎ、ご家族が心理的適応を果たして自律的な選択を行えるよう、専門的かつ共感的にサポートすることです。

孤独を感じたときは、米国を拠点とする「The Chromosome 18 Registry & Research Society」のような患者支援組織(ピアサポート)も大きな支えになります。あなたは決して一人ではありません。高度に個別化された集学的ケアと共有意思決定のもと、最善の道を一緒に歩んでいきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 18トリソミー(エドワーズ症候群)は必ず死に至る病気ですか?

いいえ。歴史的には致死的な疾患とされてきましたが、近年の新生児集中治療や適応のある心臓手術の進歩により生存率は向上しています。米国小児科学会(AAP)の最新ガイドラインでも「生命に適合しない」という分類は明確に否定されており、5〜10%の患児は1歳を超えて生存することが分かっています。治療により退院率が飛躍的に高まるというデータもあります。

Q2. 18p欠失症候群の寿命はどのくらいですか?

18p欠失症候群の場合、全前脳胞症(HPE)や重度な心奇形などの致死的な合併症がなければ、生命予後はほぼ健常者と変わらないと考えられています。成長ホルモン分泌不全や軽度〜中等度の知的障害は伴いやすいですが、成人期に達して自立した生活を送られている患者様も多くいらっしゃいます。

Q3. 18q欠失症候群で特に注意すべき合併症は何ですか?

欠失する位置(遠位か近位か)により異なりますが、外耳道狭窄による伝音性難聴、ミエリン形成不全に伴う筋緊張低下、言語発達の遅れ、自閉スペクトラム症や不安障害などがあります。特に「TCF4遺伝子」が欠失領域に含まれる場合は、重度の発達遅滞(Pitt-Hopkins症候群に類似)や呼吸異常が生じ、誤嚥性肺炎による早期死亡リスクが上昇するため厳重な注意が必要です。

Q4. 環状18番染色体(Ring 18)とはどんな状態ですか?

18番染色体の両端(p腕とq腕のテロメア領域)が欠け、残った端同士がくっついて輪(リング)のようになった状態です。約30万人に1人の超希少疾患です。細胞分裂時に不安定なため「モザイク」になりやすく、正常な細胞と異常な細胞が体内に混在するため、患者様によって症状の重症度に非常に大きな個人差(不均一性)があります。

Q5. マイクロアレイ検査(CMA)と通常の染色体検査はどう違いますか?

通常の染色体検査(Gバンド法)は顕微鏡で染色体全体の形や大きな数の異常を見るのに対し、マイクロアレイ検査(CMA)はDNAレベルで微細な欠失や重複を高解像度でスキャンします。18p欠失や18q欠失など、顕微鏡では見逃されやすい微小な異常のブレイクポイント(どこからどこまで欠失しているか)を正確に特定し、予後予測を立てるために不可欠な第一選択の検査です。

Q6. 18番染色体異常は親からの遺伝ですか?(再発リスクについて)

フル・トリソミー18や欠失症候群の大部分は「突然変異(de novo)」であり、親からの遺伝ではありません。この場合の再発リスクは1%未満です。ただし、一部の「部分トリソミー」等に関しては、親が健康な「均衡型転座キャリア」である場合があり、その場合は次の妊娠で不均衡型転座を引き起こす再発リスクが最大20%に達する可能性があります。ご不安な場合は臨床遺伝専門医によるカウンセリングとご両親の染色体検査をご検討ください。

🏥 不安を、ひとりで抱えないために

出生前診断や染色体異常の告知は、ご家族にとって非常に重い決断を伴います。
私たちは「最新のゲノム医学による正確な情報」「ご家族の心に寄り添う支援」を両立し、最善の選択をサポートします。

🧬 その他の染色体異常(トリソミー・部分モノソミー)について

各染色体の異数性や微小欠失・重複による特徴的な疾患、および予後については以下のリンクから詳細をご確認いただけます。

関連記事

参考文献

  • American Academy of Pediatrics (AAP). “Guidance for Caring for Infants and Children With Trisomy 13 and 18.” [AAP Publications]
  • National Library of Medicine. “Edwards Syndrome – StatPearls” [NCBI Bookshelf]
  • Chromosome 18 Registry & Research Society. “Clinical Management Guides (18p-, 18q-, Ring 18)” [UT Health San Antonio]
  • NIH Genetic and Rare Diseases Information Center. “Ring chromosome 18” [GARD]
  • American College of Obstetricians and Gynecologists (ACOG). Practice Bulletin No. 226 “Screening for Fetal Chromosomal Abnormalities” [ACOG]


仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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