目次
TORCH感染症
子宮内または出産時に罹患した感染症は、胎児および新生児死亡や重篤な奇形や恒久的な障害の重大な原因であり、幼児期およびそれ以降の病的状態を引き起こします。感染した新生児は、成長異常、発育異常などを示すことがあります。新生児・周産期医療の分野で問題となる病原体は、TORCHという頭字語でよくあらわされており、これらによる感染症をTORCH症候群といいます。
内容は以下の通りです。
- T:Toxoplasma gondii(トキソプラズマ原虫)
- O:Others(その他);Treponema pallidum(梅毒トレポネーマ)、ジカウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、エンテロウイルス、パルボウイルスB19、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルスなど
- R:Rubella virus(風疹ウイルス)
- C:Cytomegalovirus(CMV,サイトメガロウイルス)
- H:Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス)
妊婦のスクリーニング
日本では妊婦のスクリーニングするために妊婦健診に項目が取り入れられています。
妊婦健康診査の実施内容
(平成21年2月27日、雇児母発第0227001号、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)において内容が発出されています。
1.血液検査
- 妊娠初期
- ・妊娠初期に1回、血液型(ABO血液型・Rh血液型、不規則抗体)、血算、血糖、B型肝炎抗原、C型肝炎抗体、HIV抗体、梅毒血清反応、風疹ウイルス抗体の検査を実施。
- 妊娠24週から35週
- ・妊娠24週から35週までの間に1回、血算、血糖の検査を実施。
- 妊娠36週以降
- ・妊娠36週以降に1回、血算の検査を実施。
2.子宮頸がん検診(細胞診)
妊娠初期に1回実施。
3.超音波検査
妊娠23週までの間に2回、妊娠24週から35週までの間に1回、36週以降に1回実施。
4.B群溶血性レンサ球菌(GBS)
妊娠24週から35週までの間に1回実施。
TORCH感染症のスクリーニング
妊婦のTORCH感染症のスクリーニングの実施内容は国によって異なります。米国では、米国産科婦人科学会(ACOG)が、妊婦が最初の出生前診断で風疹と梅毒のスクリーニングを受けることを推奨していますが、日本では妊婦にトキソプラズマ症やサイトメガロウイルス感染症のスクリーニングなどをしているところもあります。
トーチ感染症の臨床的特徴
先天性トキソプラズマ症
トキソプラズマ症は、原虫であるToxoplasma gondiiトキソプラズマ・ゴンジーが原因です。妊娠中に感染することにより、先天性疾患を発症することがあります。
先天性トキソプラズマ症のほとんどの赤ちゃんは、出生時に明らかな異常がない不顕性感染の状態です。
出生時に認められる症状としては、発熱、斑点状皮疹、肝脾腫、小頭症、発作、黄疸、血小板減少、まれに全身リンパ節腫脹などがあります。古典的三徴候は、脈絡網膜炎、水頭症、頭蓋内石灰化です。
不顕性先天性トキソプラズマ症の乳児その時点で症状がなくても、長期的な後遺症のリスクが高くなります。最も一般的な晩期所見は脈絡網膜炎であり、視力低下の原因となります。また、少数ですが未治療だと知的障害、難聴、発作、痙攣などが見られることがあります。
先天性梅毒
先天性梅毒はスピロヘータであるTreponema pallidumトレポネーマ・パリダムが妊婦から胎児に感染する(垂直感染)ことで起こります。感染すると、死産、胎児水腫、未熟児となる可能性があります。このため、すべての妊婦に対する梅毒の定期的なスクリーニングが非常に重視されています。
先天性梅毒の発生率は、妊娠可能な年齢の女性における梅毒の発生率の低下を反映して減少しています。
先天性梅毒の新生児のほとんどは、出生時には無症状です。梅毒の症状は胎児、新生児、または小児期以降にみられることがあります。
先天性水痘症候群
先天性水痘症候群のほとんどの症例は、母親が妊娠8週から20週の間に感染した乳児に起こります。
新生児に特徴的な所見は以下の通りです。
- 皮膚の瘢痕、色素沈着
- 白内障、脈絡網膜炎、小眼球、眼振など
- 四肢の低形成
- 皮質萎縮とけいれん発作
先天性ジカウイルス症候群
先天性ジカウイルス感染症は、重度の先天性異常を伴います。日本ではジカウイルス感染症は殆どありません。主に海外の流行地域で蚊に刺されて感染します。
重篤な胎児後遺症の最大のリスクは、妊娠第1三半期の感染です。先天性ジカ症候群(CZS)の主な臨床的特徴は以下の通りです。
- 小頭症
- 顔面の不同形成
- 過緊張・痙性・反射亢進
- 神経過敏
- アルトログリポーシス (先天性多発性関節拘縮症)
- 眼球の異常
- 感音性難聴
- 頭蓋内石灰化、脳室肥大など
先天性風疹症候群
先天性風疹症候群は、風疹の予防接種プログラムが確立されている先進国では稀です。
先天性風疹症候群の臨床症状には以下の症状があります。
- 感音性難聴
- 白内障
- 心奇形
- 神経系や内分泌系の異常
- 成長遅延
先天性サイトメガロウイルス感染症
先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染は、遺伝性ではない感音性難聴の主要な原因であり、脳性麻痺、知的障害、視覚障害など他の長期神経発達障害を引き起こす可能性があります。
CMVは最も一般的な先天性ウイルス感染症であり、妊娠中の母親のサイトメガロウイルス感染は、幼児、特に保育園に通う子供たちとの接触によって生じることがほとんどです。
出生時、ほとんどの先天性CMV感染児は無症状ですが、約10%のお子さんでは以下のような症状が見られます。
- 点状出血
- 黄疸
- 肝脾腫
- 血小板減少
- 子宮内発育遅延
- 小頭症
- 頭蓋内石灰化
- 感音難聴
- 脈絡網膜炎
- けいれん
先天性CMVの最も一般的な症状は感音性難聴であり、症状があるお子さんの約3分の1に認められ、出生時に見つかります。先天性サイトメガロウイルス感染者の多くは、新生児聴覚スクリーニング検査で異常が見つかります。遅発性難聴も発生しますが、乳児期に抗ウイルス治療を行えば、そのリスクは低くなります。
関連記事:先天性サイトメガロウイルス感染症
単純ヘルペスウイルス
妊娠中の単純ヘルペスウイルス(HSV)性器感染は、胎児および新生児に重大な問題を惹起します。
周産期感染
新生児単純ヘルペスウイルス感染症の多くは周産期感染です。単純ヘルペスウイルスは出生時に、主に母体の性器に感染することで新生児に感染します。妊娠中に母体が単純ヘルペスウイルス初感染すると、以前に感染したウイルスが再活性化したものと比較して胎児に感染する危険性が高くなります。初感染者である母親のなかでも、分娩間際の感染だと新生児への感染の危険は高まります。
周産期にHSVに感染した新生児の多くは出生時に正常ですが、多くは早産となります。症状から3つに分けられます。
- 皮膚、眼および口腔だけに病変がある
- 中枢神経系(CNS)に限局している
- 多臓器に及ぶ播種性疾患
中枢神経系疾患の初期症状は非特異的(この疾患に特徴的なものではない)であることが多く、体温が不安定、呼吸困難、摂食障害、傾眠などが見られます。これらは低血圧、黄疸、播種性血管内凝固、無呼吸、ショックへと極めて急速に進行することもある。皮膚病変がないと、感染が認識されるのが難しくなります。
子宮内感染
単純ヘルペスウイルスの子宮内感染はまれであり、子宮内で感染する場合は、通常は妊娠中の初感染に伴う母体のウイルス血症が原因となります。先天性単純ヘルペスウイルス感染症は、皮膚の小胞、潰瘍や瘢痕、眼球障害、小頭症や水頭症などの重度の中枢神経系症状が特徴です。
子宮内感染が疑われる乳児へのアプローチ
先天性感染症が強く疑われるお子さんたちの最も一般的な先天性感染症の顕著な特徴を認識することで、早期診断が容易になり、適切な診断評価が可能となります。上述の感染症たちでは、適切な治療を開始するために適時の診断が重要となり、また、予後について家族のカウンセリングを行い、適切なケアプランを立てるという意味でも早期診断は非常に重要です。
先天性感染症が疑われる乳児に対して、特定の臨床所見に基づいて選択した病原体のみを検査するアプローチが推奨されています。
疾患 | 所見 |
---|---|
先天性トキソプラズマ症 | 頭蓋内石灰化(びまん性) 水頭症 脈絡網膜炎 単核球増加症 髄液蛋白増加症 |
先天性梅毒症 | 骨格の異常(骨軟骨炎、骨膜炎など) 仮性麻痺 持続的な鼻炎 斑点状皮疹(特に手のひら、足の裏、おむつ部) |
先天性風疹症候群 | 白内障、先天性緑内障、色素性網膜症 先天性心疾患(動脈管開存症、末梢性肺動脈狭窄症が最も多い) 放射線透過性(溶骨性)骨疾患 感音性難聴 |
先天性サイトメガロウイルス | 血小板減少症 頭蓋内石灰化(脳室周囲) 小頭症 肝脾臓の腫大 感音性難聴 |
単純ヘルペスウイルス | 母体の周産期HSV感染症 粘膜皮膚小胞 髄液の好中球増加 血小板減少症 肝トランスアミナーゼの上昇 結膜炎・角結膜炎 先天性(子宮内)HSV感染(まれ) 皮膚の小水疱、潰瘍、瘢痕化 目の異常(例:小眼球症) 脳の異常(水頭症、小頭症など) |
先天性水痘 | 瘢痕性または小水疱性皮膚病変 小頭症 |
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